ワシ――いや俺は、あの世界から帰ってきてしまった。
生涯愛し続けると、ずっと傍にいると、心から約束した寂しがりやの女の子を置いて。
置いてきてしまったのは、彼女だけじゃない。
王佐の才と呼ばれ、彼女を心から愛している女の子も。
妹と共に、寂しがりやの女の子の矛になり続けた女の子も。
姉と共に、寂しがりやの女の子を支え続ける女の子も。
俺を兄と慕ってくれた女の子達も。
俺を隊長と慕い、ずっと着いてきてくれた女の子達も。
心を開き、俺を支えてくれた女の子も。
その女の子の親友であり、寂しがりやの女の子を愛している女の子も。
戦が終わったら、一緒に旅をしようと約束した女の子も。
心から楽しい想いをさせてくれる女の子達も。
俺は――皆を置いてこの世界に帰ってきてしまった。
皆の処に帰る手段を探し続けたけど、その手段は遂に見付ける事が出来なかった。
じいちゃんの道場を継いで、時間に余裕も出来て、ずっと探し続けたんだけどな……。
何週間も、何ヶ月も道場を空けているのに、それでも残ってくれた門下生には感謝してる。
そのおかげで、俺は世界中を旅する事が出来たのだから。
だけど、今際の際が訪れた今まで、あの世界に戻ることが出来なかった。
彼女達に会えたのは、今生の中でも最高の出来事だった。
様々な人と会って、結婚をしないのかと聞かれたけど、俺にその選択肢は無かった。
どんな女性と知り合っても、どこかで彼女達と比べてしまっていたから。
それはその女性にも失礼な事だし、俺自身にそんな気が起きなかったから。
ああ、だけど。
こうして自分の周りに、沢山の人がいてくれた。
そのことだけは、こっち世界でも本当に嬉しい。
もう皆の声は聞こえない。それでも、まだ近くにいてくれることが分かるから。
少しでも彼女達に追いつきたいと思ってしていたことが、沢山の人と知り合わせてくれた。
だから……許してくれるよな? 華琳。
『――どうしようかしら?』
……とうとう、お迎えが来たようだ。
だけど、神様も酷いな。
ずっと聞きたかった声で、迎えを寄越すなんて。
『本当にあなたは、相変わらずね。まあ、少しは見直したわ。
私達を置いて帰ったのに、何もしてなかったなら、その頸を斬ってるわよ?』
そっか。俺も少しは華琳に認められたのかな。
俺が求めてる言葉だとしても、華琳がそう言ってくれたんだから。
『はぁ……。いい加減、目を開けなさい!
態々、私が来てあげてるのよ?』
おかしなことを言うなぁ。
もう、俺には目を開ける力なんて、少しも残ってないのに。
『だから、目を開けなさいって言ってるのよ!
それとも、私の言うことなんて聞けないのかしら?』
はいはい、分かりましたよ。
目を開ければいいんでしょ。あけれ、ば……。
『まったく……。やっと私を見たわね、一刀。
私をここまで待たせる男なんて、あなたくらいよ?』
本当に神様は残酷だ……。
死神を華琳にするなんて……。いや、似合ってるって言えば似合ってるけど。
『死神? また私の知らない言葉で、言い逃れる気?
仕方ないわね。きちんと、お仕置きしなければいけないみたいね』
ああ、本当に華琳みたいだ。
これで、春蘭や秋蘭達がいれば完璧だな。
『……どうして、ここで春蘭達の名前が出るのかしら?
そう。一刀は私よりも、春蘭達の方が会いたかったのね。
ごめんなさいね、気が利かないで』
そりゃあ、春蘭達にも会いたいさ。
でも、華琳。
例え幻だったとしても、俺は華琳を見れて、声が聞けた事が一番嬉しいよ。
『そ、そう。ならいいわ。
……それであなたは、天の国に戻ってから、どう過ごしていたの?』
こっちに戻ってからか?
恥ずかしい事に、最初は泣いたなぁ。
華琳と別れる時はさ。何とか泣かないでいられたんだ。
だけど、こっちに戻ってきて、もう華琳達に会えないって事を、
本当に理解した時に我慢できなくてね。
それで、少しでも皆といた時間を無駄にしたくなくて、自分に出来ることをしようと思ったんだ。
じいちゃんに一から鍛えなおしてもらったり、少しでも役立ちそうな物を覚えたりね。
……まあ、お世辞にも、そんなに強くなれなかったけど。
でも、学校を卒業すると同時に、旅をすることを許されてさ。
それから、皆の……華琳の処に帰る手段を探したんだ。
見付けることは出来なかったけど……。
その旅の時に、色々な人と知り合ったんだ。
劉備さんみたいに、戦争を話し合いで止めようとする人。
孫策さんみたいに、色々な人を嵐みたいな騒ぎの中心にいる人。
それに――華琳みたいに寂しがりやなのに、周りにそれを見せないで、頑張る人とかね。
本当に色々な人に会ったよ。
『そう……。あなたも、こっちに戻ってから、精進を忘れなかったのね。
なら、いいわ。本当に許してあげる。
それで、あなたは結婚したの?』
おいおい。華琳までそれを聞くのか?
まあ、してもいいかな? って思った人は一人いたけどさ。
やっぱり、出来なかったよ。
女々しいって言えばそれまでだけど、どうしても華琳達を忘れらなくてさ。
『本当に女々しいわ。
――でも、悪い気はしないわね』
そっか。じゃあ、そうししてよかったよ。
――それで、いつあの世に連れて行ってくれるんだ?
だけど、ありがとう。
例え偽者でも、もう一度だけ華琳に会わせてくれて……。
『ちょっと、一刀! 私が偽者ってどういうことよ!』
え? だって、華琳がこっちにいるわけないし、それに昔の姿のままだぞ?
それに、俺は死に掛けてるんだ。本物の華琳と話せる訳ないだろ?
『こ、このバカ……! いい? 私は正真正銘、曹孟徳!
あなたと、あの乱世を共にした者!
……私を愛してたなら、本物か偽者かくらい見分けなさいよ。
ここで、あなたが来るのを待ってた私が、バカみたいじゃない……』
ここで待ってた? じゃ、じゃあ本物の華琳なのか?
『そう言ったでしょ! ……本当にバカなんだから』
ご、ごめん、華琳。でも、だってさ。
あんなに会いたかった人と、今際の際に会えるなんて、思わないだろ普通。
『まあ、そうね。私も、本当に一刀と会えるなんて思いもしなかったもの。
……さてと。私だけ話してるのも不公平ね。そろそろ行くわよ』
行くって、どこにだよ。
『あなたね……。この先で、あの子達も一刀を待ってるのよ。
まあ、王の権限で、最初に一刀と会うのを認めさせて、待たせるんだけど』
華琳、それ職権乱用……。
『う、うるさいわね! こんなに長い間、私達を待たせたあなたがいけないのよ!
いいから、黙って着いて来なさい! ……少しは察しなさいよ、バカ』
ちょ、華琳! そんなに引っ張るなよ!
俺が華琳に腕を引かれて少し行くと、沢山の光が集まっていた。
『この馬鹿者! 何時まで華琳様や私達を待たせるんだ!
……ま、まあ。きちんと私達の処に帰ってきたからな。
仕方ないから許してやろう! まあ、なんだ……よく戻ったな!』
――春蘭。
『姉者はかわいいなぁ。
……遅刻したことは許してやる。だが、もういなくなるなよ?
私はもちろん、皆悲しかったんだからな? それと、お帰り』
――秋蘭。
『この屑! 華琳様を何時まで独り占めしてるのよ!
っていうか、こっちに来ないでよ! 孕むでしょ!
近付くなっていってるでしょ! この屑! 全身精液男!
ふんっ……まあ、よく戻ったわね』
――桂花。
『兄ちゃん、遅いよ! もう、待ちくたびれちゃったよ!
でも、帰ってきたから、許してあげるね! お帰りなさい!』
『兄様、遅いです! また、沢山のお料理を教えて下さいね?
お帰りなさい』
――季衣、流琉。
『隊長、遅いです。ですが、帰ってきてくれて、本当に嬉しいです。
お帰りなさい』
『隊長、遅いで! 皆、待ちくたびれてもうたわ!
しゃーないから、新しいカラクリで手を打つわ!
それから、お帰りや!』
『隊長、遅いの! 沙和、おばあちゃんになっちゃうと思ったの!
でも、帰ってきてくれたから、許してあげるの! お帰りなさいなの!』
――凪、真桜、沙和。
『一刀、遅いで! ウチをどんだけ待たせるんや!
まあ、遠乗り付き合ってや! それで許したる! それから、よー帰ったな!』
――霞。
『おにいさん、遅いです。風は、待たされて喜ぶ変態さんじゃないのですよ。
でも、風達の処に戻ってきたので、許してあげるのです。
おにいさん、お帰りなさい』
――風。
『一刀殿。皆をこれだけ待たせたのです。
戻ってから、たっぷりと仕事を手伝ってもらいますからね?
何はともあれ、お帰りなさい』
――稟。
『一刀~! 私達頑張って大陸制覇したんだからね!
その時に一刀はいなかったけど、帰ってきたから許してあげるね!
お帰り、一刀!』
『ちぃ達を置いていくなんて、バカ一刀くらいなんだからね!
で、でも、ちゃんと帰ってきたから、仕方ないから許してあげるわよ!
お帰り、バカ一刀!』
『一刀さん、また私達の歌を聴いてください。
それで、いなくなったことを許してあげます。
お帰りなさい、一刀さん』
――天和、地和、人和。
『ふふ。皆、一刀が来るのを待てなかったみないね。
さて、一刀。よく、私達の処に戻ってきてくれたわ。
これだけのいい女達が、皆あなたの帰りを待ってたのよ。
だから約束して。もう二度と、私達の前からいなくならないって』
ああ、約束するよ、華琳。
俺はもう二度と、皆と離れたりしない。
俺はずっと、皆の傍にいる――。
『約束したわよ? ――じゃあ、私達の家に帰るわよ!』
『応!』
俺は皆の処に帰ってこれた。
これは俺の願望が見せてくれた、最後の夢かもしれない。
それでも、皆が俺に言ってくれた言葉は、嘘でも幻でもない。
そう感じるんだ。
『ちょっと、一刀! 早くこっちに来なさい!』
華琳の言葉に皆が、俺を笑顔を浮かべて見ていてくれる。
ああ、本当に帰ってきたんだ。
だから俺は、皆にこう応えることが出来るんだ。
『皆、ただいま!』
俺の言葉と同時に、俺達はあの暖かい場所へと戻っていった。
苦しい時も、悲しい時も、嬉しい時も。
皆で感じることが出来ていた、あの場所に――。
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タイトルにあるように、試作品的な意味合いで書いてみました。
正史に戻り、天寿をまっとうしようとしている一刀が、最後に見るのはなんだろう?
と、彼方の面影を聞いてて思ってしまい、勢いで書いてしまった作品ですので、そんなにいい物ではないかもしれません。
元々、二次創作を書いていたのですが、最近は書いていなかったもので……。
なので、暖かい目で見てくれると嬉しいです。
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