なんとなく逆らい難い状況に流され、俺は三人と一緒に街に入った。
そこで見たものは___________。
「はい確定。ここは東京じゃねぇ。」
まぁ、さっきからそうは考えていたけど、こんな時代がかった家屋が街と言われたら、自分の置かれている状況は嫌でも分かるってもんだ。
「ホント・・・何がどうなってるんだか・・・」
やっぱりまだ夢の途中じゃないのか・・・?などと相変わらず思索に浸っていると、
「お兄ちゃん何やっているのだ?鈴々は腹ペコなんだから早く来るのだ!」
プンスカって効果音が聞こえてきそうなくらい、頬を膨らませた張飛が俺の手を引っ張った。
引っ張られるまま、店の中に入って__________。
で、たっぷりとご飯を食べて人心地を満喫。すると現金なもので、今の状況がそう悲観的な状況でも無いって思えてくる。
「ふぅ~・・・」
なんて満腹吐息を吐いている俺に、
「それでね。天城様。」
劉備が姿勢を正して話しかけてきた。
「さっき説明した通り、私達は弱い人が傷つき、無念を抱いて倒れるってことに我慢が出来なくて、少しでも力になれるのならって、そう思っていままで旅を続けてきたの。・・・でも、三人だけじゃ何もできない。そんな時代になってきてる・・・」
劉備はがっくりと肩を落としていた。
「官匪の横暴、太守の暴政・・・そして弱い人間が群れをなし、さらに弱い人間を叩く。そういった負の連鎖が強大なうねりを帯びて、この大陸を覆っている。」
「三人じゃもうなにもできなくなっているのだ・・・」
「でも、そんなことで挫けたくない。無力な私達にだって、何か出来ることがあるはず。・・・だから天城様!」
「は、はい!?」
「私達に力を貸してください!」
「・・・はぁ?」
「天の御遣いの一人であるあなたが力を貸してくだされば、きっともっともっと弱い人達を守れるって、そう思うんです!」
真っ直ぐな瞳。その瞳を興奮から少し潤ませながら、劉備は俺の手を強く握り締める。
そこから伝わってくるのは・・・真心というものだろうか。劉備の言葉やその表情と同じ、燃えさかる心の炎が、その掌を通して俺の心に染み入ってくる。
本気で。真心から誰かの力になりたいと考えている劉備の言葉は、逆らえないぐらいの迫力があり、魅力があった。
「だけど・・・俺は君達が考えている、天の御遣いなんていうすごい人間じゃない。普通の、どこにでもいる学生だ。・・・そんな人間が人を助けられると思うか・・・?」
人を助ける。言葉だけで言えば、それはとても簡単だが・・・でも、それはとても難しいことじゃないだろうか・・・?
「確かにあなたの言葉も正しい。しかし正直言うと・・・あなたが天の御遣いでなくても、それはそれで良いのです。」
「そうそう。天の御遣いかもしれないってことが大切なのだ。」
「どういうこと?」
「我ら三人、それなりに力はある。しかし我らに足りないものがある。・・・それは。」
「名声、風評、知名度・・・そういった、人を惹きつけるに足る実績がないの。」
「山賊を倒したり賞金首を捕まえたりしても、それは一部の地域での評判しか得ることができないのだ。」
「そう。本来ならば、その評判を積み重ねていかなければならない。・・・しかし大陸の状況は、すでにその時間を私達にくれそうにないのです。」
・・・なるほど。
「だから、天の御遣いという評判を利用し、大きく乱世に羽ばたく必要があるってワケか・・・」
確かに、もしこの世界が過去__________いわゆる三国志の舞台であった後漢時代ならば、そういった神懸りてき評判は、劉備達にとって大きな力になるだろう。
迷信や神様への畏怖ってものが、人の心に強く関係していた時代だ。
天の御遣いが劉備達のそばにいる・・・というだけで、人は劉備に畏敬の念を抱き、その行動を注視するようになるだろう。
そして注視するようになればこそ、劉備の行動に共感する人間や心服する人間が、飛躍的に増えていく。それが知名度であり、名声だ。
ただ__________。
「(・・・一体、俺はどうすりゃいいんだ?)」
俺はなぜこの世界にいるのか、そもそもなぜ俺なのか、それが分からない。
「(分からないなら、いくら考えたって分からんか・・・)」
もともと、こういう堂々巡りになりそうな考えに時間を割くより、行動するほうが得意だ。それに・・・。
今、俺がここにいる理由・・・それが何なのか分からないけれど、きっと何か意味があるからこそ、俺はこの世界にきたのだろう。
「(・・・よし。)」
ならその意味が分かるまでこの娘達についていこう。俺はそう心に決めた。
大きく深呼吸したあと、固唾を呑んで返事を待っている三人に向き直る。
「・・・分かった。俺で良ければ、その御輿の役目、引き受けるよ。」
「ホントですかっ!?」
「ああ、一宿一飯・・・正確には一飯か。その恩義だってあるしな。俺で良ければ。」
頬を紅潮させて喜んでくれた劉備の顔を、笑顔で見つめ返すと_________。
「一飯の恩?」
「一飯の恩・・・ですか。」
「一飯の恩・・・」
となんだか不思議そうに俺の方を見ている。
「ん?何だ?一飯って言葉、なんかまずかったか?」
「え、あの・・・んとですね、天に住んでいた人だからお金持ちかなーと思って、ですね。」
「天の御遣いのご相伴に預かろうかと・・・」
「つまり鈴々達、お金持っていないのだ♪」
・・・・・
「えーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
ほぉ・・・と後ろからおかみが黒いオーラをまといながら近づいてくる。
「あんたら全員・・・一文無しかい!」
「あ、あははっ、ち、違うんです、えっと、お金を持っていると思ったら実は持っていなくて_________。」
「食い逃げなどするつもりは__________。」
「言い訳無用!逃がしゃしないよ、お客さん、手伝って!」
「おお、おかみさん、食い逃げか?」
「このご時世にふてぇ野郎どもだ!」
「ギッタンギッタンにとっちめてやる!」
おかみの呼びかけにより、周りのお客さんが俺らを捕まえようと近づいてくる。
「ちょ!みなさん、止めてくださいってば!」
「ちが・・・話をきいてくださいさーーーーーーい!」
こうして、無銭飲食を許してもらう条件として、俺達はしこたま皿洗いをさせられたのだった。
「はぁ~~~・・・疲れたよぉ~~~~」
「まったくです。戦場で槍を持つならば疲れなどしないのですが・・・」
俺も家でけっこう皿洗いはしたりするが、あの量はさすがに・・・。
「はっはっはっ!厨房だって女の戦場なんだ。こんなことでへこたれてちゃ、これから先、人助けなんてできっこないよ~?」
「話きいてたんですか!?」
「ああ、厨房でしっかりとね。・・・応援してるよ、お嬢ちゃんたち。」
「ううー。応援してるのなら、皿洗いは勘弁してほしかったのだー・・・」
「それはそれさ。大きなことをやろうとしている人間が、小さなこと誤魔化しちゃなんねぇ。お天道様の下で胸張って歩くためにゃ、ケジメってやつが必要なのさ。」
そう言いながらニヤッと笑ったおかみが、
「ほら、こいつを持っていきな。」
と、陶器でできた瓶のようなものを差し出した。
「これは?」
「うちで造った酒さ。・・・大望を抱くあんたらへの門出の祝いにご進呈だ。」
「おかみ・・・」
「こんなご時世だ。うちらがいつまで生きてるか分からん。でもあんたらみたいな子がいりゃ、いつか世の中は良くなるさ。」
「ありがとう・・・!きっと、私達もっともっと力をつけて、みんなを守れるぐらい強くなってみせます!」
「頼もしいねぇ・・・それであんたら、この先、行くあてあるのかい?」
「そ、それは・・・まだ特に決まってないですぅ・・・」
確かに、天の御遣いがどうとかで、他は考えていなかった。
「まったく・・・それならこの街近辺を治めている、公孫賛様のところに行ってみな。最近、近隣を荒らしまわっている盗賊たちを懲らしめるために、義勇兵を募集しているらしいから。」
「公孫賛・・・あっ!そういえば白蓮(ぱいれん)ちゃんがこの辺りに赴任してくるって言ってた!」
「・・・桃香様、そういうことはもっと早く仰ってください。」
「あぅ、ごめ~ん・・・」
「まったくお姉ちゃんは天然すぎるのだ。・・・で、どうするのだ?お兄ちゃん。」
「ん?」
どうするってそんなこと俺に聞かれてもだな・・・。
「お兄ちゃんは鈴々達の主人になったのだから、行き先を決めるのはお兄ちゃんの仕事なのだ。」
「しゅ、主人?俺がか?」
「そう・・・だね。確かに、私達のご主人様になるんだものね。じゃあ、ご主人様。白蓮ちゃんのところに行ってもいいかな?」
「ああ、じゃあ行くか!」
まず一歩。その一歩が続けば、いつか為すべき『事』が見えてくるだろう。こうして、おかみ達の見送りを受けた俺達は、公孫賛の本拠地に向けて出発した。
その途中__________。
「この辺り、かなぁ~?」
「おかみから聞いた場所はこの辺りですが・・・」
おかみに貰った酒瓶を手に、一歩一歩、踏みしめるように丘を登る。
「おお・・・・」
眼下に広がる一面桃色の世界。
「これが桃園かー・・・すごいねぇ~♪」
「美しい・・・まさに桃園という名にふさわしい美しさです。」
「ホントだな・・・桜みたいだ・・・」
本当に桜みたいに綺麗に舞い散っている。
「ほお・・・ご主人様のいた天にも、やはりこれほど美しい場所があるのですか。」
「咲いていたのは桜だけどね。・・・すっごく綺麗だったよ。」
などと、三人でしばし風雅を楽しんでいると、
「さあ酒なのだー!」
ワクワクとした表情を浮かべた張飛が、俺の周囲をクルクル走り回る。
「・・・約一名、ものの雅を分からぬものがいますが。」
「あははっ、鈴々ちゃんらしいね♪」
「らしいのかねぇ・・・ま、いいや。みんな準備はいいか?」
手に持った杯にお酒を注ぎながら、
「それにしてもまぁ・・・自分があの有名なシーンに自分が同席できるなんて、思わなかった。」
しみじみとした呟きを漏らす。
「どうかしたの?ご主人様。」
「いや・・・色々とさ。感慨深いというか、これからどうすりゃいいのかな、とか。」
「前を向いて一歩一歩歩くしかないでしょうね。」
「立ち止まって考えても、物事は何も進展しやしないのだ。」
「張飛の言う通り、かもな。」
その方が楽だし、なにより俺らしい。
「そうそうなのだ!・・・それよりお兄ちゃん。」
「ん?」
「お兄ちゃんは鈴々のご主人様になったのだから、ちゃんと真名で呼んでほしいのだ!」
「ま、真名?・・・真名って何?」
「我らの持つ、本当の名前です。家族や親しき者にしか呼ぶ事を許さない、神聖なる名。」
「その名をもつ人の本質を包み込んだ言葉なの。だから親しい人意外は、例え知っていても口に出してはいけない本当の名前。」
「だけど、お兄ちゃんになら呼んでほしいのだ!」
誰でも呼べるワケじゃない、特別な名前。・・・それを俺に許してくれるってことは、それだけ俺が期待されてるってことなのかもしれない。
「・・・」
正直、天の御遣いなんて役どこまで出来るか・・・まったくもって自信は無い。
それでも。俺を信じてくれる人がいるのなら、精一杯その期待に応えたいと思う。
「分かった。じゃあ・・・えっと・・・」
「我が真名は愛紗。」
「鈴々は鈴々!」
「私は桃香!」
愛紗、鈴々、桃香、それぞれの真名を呼びながら、少女達を真っ直ぐ見つめる。
「何をすれば良いのか、何ができるのか。・・・今はまだ俺には分からない。分からないけど、俺は君達の力になれればと、強く思う。」
「だから・・・これから、よろしくな。」
「じゃあ、結盟だねっ!」
「ああっ!」
桃香の言葉に強く頷き返す。と、そんな俺を見ていた愛紗が、掌で包んでいた杯を、空に向かって高々と掲げた。
「我ら四人っ!」
「性は違えど、姉妹の結びを契りしからは!」
「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!」
「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」
「願わくば同年、同月、同日に死せんことを!」
「・・・乾杯!」
杯同士がぶつかりあう音は、これからの俺達を祝うように綺麗に響いた。
世にも有名な桃園の誓い_________それが目の前で繰り広げられている。
その『事』の意味を胸に刻みながら、俺は戦乱の歴史の中に一歩、足を踏み出した__________。
※お米でございます。二話目となりました今回は本物の桃園の誓いです。やっぱり本家は格好いいですね!さて次回は少し過去にもどって違う人視点でいきます。楽しみにしていてください。それでは失礼します~。
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第二話になります。天の御遣いになんてものになってしまった蒼介はこれからどうなってしまうのかっ・・・!
今度の恋姫のアニメも一刀出なくて残念です・・・
※追記、誤字訂正しました。