静まり返った廊下に響く足音は、少し怒っているかのような重い音。当人はそこまで怒っているつもりはないが、何分大きな体を支えるとあっては力も強くなるというもの。
長身でショートヘアと頭は小さく見えるのに、随分と横に大きい。今年この高等部に入学してきた立川理乃は、その体型のおかげで瞬く間に有名人となっていた。
「絶対にお兄ちゃんだけは見返してやる!」
おにいちゃんと呼ぶのは、幼なじみでありこの学校で養護教諭を務める相沢祐亮。健康診断の結果から言っても、痩せているどころか健康的とも言い難いその体型を彼女が気にしはじめたのは、ここ最近のことだ。
あれは、まだ残暑も厳しい夏の終わり。暑さに唸っていると、気を利かせたように現れるカフェ。理乃は迷うことなく中に入り、冷たいジュースとケーキを2つずつ、更にその店の売りである大きなパフェを頼んで涼んでいた。
「あー! センセー発見っ」
静かなBGMをかき消すような声は、店の外から聞こえてきた。驚いて顔を上げると見知った顔。
「なんだ、祐亮お兄ちゃんじゃない」
そんなに大騒ぎすることかな、と不思議に外を見れば、どうやら祐亮は女子高生向けと思しき洋服屋の前でマネキンを眺めていたようだ。
「えーっ! センセってば片思いなんだぁ? 意外ー」
お客が出て行ったと同時に舞い込んできた言葉に、水の入ったグラスを落としかけてしまった。
(別に、お兄ちゃんだっていい年なんだから恋人の1人や2人いたって……)
おかしくはない、のに。そう思おうとすればするほど、なぜか切なくなってくる。小さな頃からお世話になったお兄ちゃんだから、誰かにとられてしまうのが悔しいのかとも思うけど、兄離れとは違う気もする。
ガラスを隔てた向こうでは、からかわれているのか何なのか。まんざらではない祐亮がウィンドウを叩いていて、あの服が似合う人に片思いしているのかと推測出来た。
「…………っ!」
最後のオーダーであるパフェが運ばれて、理乃は決心した。何だかよくわからない人に祐亮をとられるくらいなら、あの服が似合うようになってやる! と気合いをこめてアイスを頬張る。
「よくわからないけど、暫くは私だけのお兄ちゃんでいてもらうんだからね」
ゆうに3人前はありそうなパフェを平らげ、ケーキも食べて。
それがダメだと言うことに気付かないまま、彼女は気合いを入れて食べ続けるのだった。
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某所用ノベルあらすじ抜粋