No.132083

『舞い踊る季節の中で』 第24話

うたまるさん

『真・恋姫無双』の二次創作のSSです。
明命√の作品となります。

三人を見守る雪蓮と冥琳、陰ながら三人を手助けする彼女達は何を思うのか・・・・

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2010-03-24 17:50:01 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:25494   閲覧ユーザー数:17813

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』

  第24話 ~ 仕事の山に舞う王は、優しき香りに擁かれながら眠る ~

 

 

(はじめに)

 

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

        :●●●●

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(ただし本人は無自覚)

         気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

         神の手のマッサージ(若い女性には危険です)

 最近の悩み:今回もお休みです

  (今後順序公開)

 

★オリキャラ紹介:

諸葛瑾:

  姓 :諸葛    名 :瑾    字 :子瑜    真名:翡翠

  武器:"双天" 対の双剣

  武力:52(平均的な将を60とした場合)

  智力:81

  政治:89

  家事:92

  魅力:想像にお任せします(w

  焦った時の口癖:『 あうあう 』又は 『 ぁぅぁぅ 』等の類語です

  性格:基本的に温厚で、外見に反して大人の女性

     だが、焦ると地が出てしまう。(朱里と違って、自分を律しています)

     警戒心が強い性格だが、一度心を許されると、親身になってくれる。

     妹がいるため、基本的には面倒見が良く、放っておくと、食事を取るのを忘れる明命を心配してよく

     食事を差し入れていた。

     やはり、妹がいるためなのか、時折人をからかって、その反応を楽しんだり、とんでもない悪戯を仕

     掛ける悪癖もある、だが性質の悪い事に普段が完璧なだけに、周りは怒るに怒れないでいる。

     家事全般は人並み以上に出来、そこらのお店以上と自負していたが、丹陽で知り合った男性の腕を見

     て自信を喪失。 以降こっそり腕を磨いているが、全然敵わないと嘆く毎日を送っている。

     武術は好きではないが、妹達を変態共から守るため、必要最低限身に付けたもの。

     姉妹揃っての発育の悪さをコンプレックスに思いつつも、それを武器にする強かさを持っている。

     自分を子供扱いしない男性が好みだが、言い寄ってくるのは変な趣味の持ち主ばかりで、17の時、現

     実の男(変態の多さ)に愛想が付いた時に『八百一』と出会う。 以降のめり込み、妹達を洗脳する

     も、基本的には周りには秘密にしている。 そのうち執筆も行うようになり、掲載されるようになる。

     数年たった現在では、定期的な愛読者もつき『八百一』の主要作家の一人となっている。

     黄巾の乱後、作品が益々洗練され、世に愛読者を急増させる要因となった。

孫策(雪蓮)視点:

 

 

部屋の至るところに積まれている、竹簡や木簡の山、山、山

内容など、見なくても分かる。

いや正確には、書いてある内容など分からないが、その存在の意味は分かる。

書類仕事と言う名の、私を繋ぐ鎖、

そしてその鎖は、この山を片付けなければ、解かれる事はない。

 

 

 

 

 

「よしっ、お~~わり」

 

さてと、こんなもので私が、何時までも縛れると思わないでよ。

手にした、筆を放り投げ、腰に愛用の剣を提げ、窓に手をかけ

 

「どこへ行くつもりか、聞かせてもらおうか」

 

窓の外の先に、怒りの表情で冷たい声を放つ鬼・・もとい親友が、此方を睨みつけていた。

 

「あははははっ・・・・・結構早かったわね」

 

ちっ、まだあと少しは掛かると思っていたのに、

 

「誰かあるっ!」

 

タッタッタッ

 

「はっ、周公謹様お呼びでしょうか」

「私が部屋に戻るまで、此処で伯符が逃げ出さないか見張っておけ」

 

 

 

 

 

「では孫伯符よ、仕事を抜け出してまで、どこへ行くつもりだったのか、納得いく答をお聞かせ願おうか」

 

冥琳は、部屋に戻ってくるなり、扉の前で仁王立ちで、問い詰めてくる・・・・・・しかもその手にはしっかりと"白虎九尾"を握って、・・・・・・夜中にばったりと出会ったら、100人中99人は逃げ出すわね・・・・

 

「もちろん一刀の所、理由は心配だから」

「お前には、今日中にこの山を片付けるように、言っておいたはずだが」

「片付けたわよ、本当に今日中に片付けなければ、いけないものはね」

 

私の言葉に、親友は眉をピクリと動かし、私の指差した山を手に取る

 

「上手い事ばらけさせたつもりでしょうけど、残念ね」

「また勘か・・・・・・伯符よ、それを才能の無駄遣いと言うのだっ!

 天は、何故このような者に、そのような厄介な才を与えたのか、私は時折天を恨めしく思う」

「酷い事言うわねー、

 まぁそう言うわけだから、ちょっとだけ抜け出してくるわ。

 残りは帰ってきてからやるから心配しないで」

「そう言って、やり終えた事など一度も無いと言うのに、それを信じろと言うのか?」

「何よー、冥琳は一刀が心配じゃないの? それに、明命達もなんか様子が変だし」

「つまり伯符よ、三人の為に仕方なく仕事を抜け出しているだけで、本位ではないとでも言うつもりか」

「分かってるじゃない。 こんな誰にでもできる仕事より、三人の事の方が心配よ。

 一刀もなんか日に日に弱ってるし、明命は暗いし、翡翠は表には出さないけど何か悩みこんでるし」

 

私の言葉に、親友は深く溜息を吐き、表情を和らげる。

おっ、お許しが出たかな。

言ってみるものね~、まぁ冥琳も三人の事を気にかけているから、今までそう文句言ってこなかったでしょうし

 

「雪蓮、貴女の気持ちは判らないまでもない。

 あの三人の事が心配なのは、私も同じだ。 だから、この7日間は黙認してきた。

 だが、今日は駄目だ。これは誰でもやってよい仕事ではない。 王がやらねばいけない仕事だ。

 でなければ、とっくに我々片付けている」

「そこは、冥琳全権を預けたという事で、ちょちょいと」

 

ぎろりっ

 

うっ・・・・・・そんな睨まなくても

 

「伯符よ、冗談にしてももう少し言葉を選んでくれ、それとあの三人の事を想うなら、今日の所は雪蓮には出

 て行って欲しくない」

「なにかあったの?」

 

冥琳の言葉に、私は自分の気が引き締まるのを感じた。

 

「翡翠に一通りの話を聞いて、少しばかり協力してきたのだが、後はあの三人しだいと言った所だ。

 そう言う事で、今日の所は雪蓮に出て行ってもらっては、翡翠の苦労が無に帰す可能性が出てくる。

 大人しく、此処で溜まった仕事を片付けていてほしいものだな」

 

そんな親友の言葉に、少し安心する。

冥琳がそう言うのなら、今日は本当に三人に任せるしかないのだろう。・・・・・・それにしても気になるわね。

 

「一体何があったの? 聞かせて頂戴」

「ふむ、気になるか?」

「当たり前よ。 一刀に何が起きているのか、気にならないわけないじゃない」

「北郷にか」

「そ・そう言う事言っているんじゃないわよ、今のは言葉のあやよ、へんな誤解しないでっ

 ・・・・・・もしかして焼いてくれてるの?」

「それこそ、まさかと言うものさ」

「ぶ~~~、冥琳のいけず。 で三人に何があったの?」

「今日はあの三人に任せた以上、急ぐ必要はあるまい。 雪蓮が仕事を全て片付けたら、話そうではないか」

「冥琳の意地悪っ!」

「個人的な問題ゆえ、別に話す必要性も無いのだが」

 

ぐっ、此処まで気を持たせといて、今更気にならないわけないじゃないっ!

 

「判ったわよ、やれば良いんでしょやれば、でも少しは手伝ってよね」

「うむ、了解した。

 と言いたい所だが、残念だが、私はあの二人の仕事も幾らかせねばならぬのでな、其方まで手は回らぬよ。

 なに、三人の為に仕方なく仕事を抜け出していたと言うのなら、三人の為に今まで溜まった仕事くらい、片

 付けるなど造作も無かろう」

「う゛っ」

 

先程妙に優しい笑顔を見せたのは、このための演技だったのね・・・・・・いえ、完全に演技と言えないから私の勘にも、引っかかったのかもしれないわね。

あの三人が気になるのは本当の事だし、冥琳にも無理言ってきたのは、多少なりとも自覚している。

なら、今回は仕方ないかな。

 

「よし、さっさと片付けちゃいますか」

 

そう、自分に活をいれ、書簡の山の一つに手を伸ばし、王としての勤めを果たす事にする。

 

 

 

 

 

ちゅんちゅん

 

窓の外から、そんな囀りが聞こえてくる。

 

「あーーー、もうそんな時間なのね」

 

すっかり、日が昇りきった頃、私はその鳥の声に集中力を掻き消される。

流石に疲れたわね。

そう思いながら、書簡の山を見比べると、やっと全体量の1/3が終わった所だ。

・・・・・・徹夜してやっても、まだこれだけ在るなんて、流石にサボり過ぎたわね。

どうせ、そのうち今日の分の仕事も持ってこられて、また山が増えると思うと、すぐに仕事を再開する気も、失せると言うもの・・・・・・・軽く睡眠くらいとろうかしら、

そう思っているところに

 

「雪蓮、まだやっていたのか」

 

人の執務室に来るなり驚いた顔で、そう言うのは止めてもらいたいものだわ

 

「やれと言ったのは冥琳でしょ。

 まぁ見ての通り、昨日中と言うのは無理だったけどね」

「徹夜でやるとは、流石に思わなかったさ。 そんなに北郷の事が気になるのか?」

「さ・三・人・の・事・が、気になるの、それに少しだけ冥琳にも悪いと思ったしね」

「ふふふっ」

 

私にそう言われ、面白そうに笑う。

まったく、昨日から妙に意地悪よね。

・・・・・・もしかして、本当にヤキモチ焼いてるのかしら、だとしたら少し以外かも

親友の知らなかった一面(もうそう決め付けた)を見れて、今度は此方がおかしくなって、笑みを浮かべる。

冥琳はそんな私の笑みを見て、また面白そうに笑みを浮かべる

・・・・・なによその此方の考えている事などお見通しなんて顔は、

なんか面白くないわね。

これ以上親友と見詰め合っていても、からかわれている気分になるだけなので、新しい書簡に手を伸ばす。

冥琳も、処理済の書簡に手を伸ばし、採点をするかのように、目を通し始める。

ふふん、今回は真面目にやったんだから、文句言われる筋合いなんか無いわよ。

そう思いながら、書簡に目を通していくと、

 

「あれ?」

「ん、どうした?」

「いや、妙な報告書が紛れ込んでいたわ。

 各地で、鼻血を噴出す女性が、後を絶立たない事件が起きているって報告がね」

「はやり病か? この時期にそれは厄介だぞ」

「どうやらそうでもないみたい、事情を聞こうとした警備の者達が近づくと、決まって皆顔を赤くして、何か

 の本を大事そうに抱えて逃げていくみたいなのよ。 それも同じ本らしいわ」

「そう言えば先月も、とある写本所の若い女性達が、次々出血多量で倒れると言う報告があったな。

 同様のものかもしれん」

 

冥琳の報告に、なんか何処かで、聞いた事があるような気がする、

なんだったかな、思い出そうとしたが、ふと

 

「この件に関わるのはよしましょ。 何か嫌な予感がするわ」

「そうだな」

 

私の勘に、冥琳も頷く。

どうやら、冥琳は何か心当たりがあるみたいだけど、どうも、これも聞かない方がいい予感がしたので、止めておく事にした。

 

「やっぱ、少し寝るわ。 二刻ほど経ったら起して頂戴」

「そうか、それまで此方で処理できるものは処理しておく」

 

やっぱ私でなくても良い物も混ざっていたかっ、

でもまぁ、それでも親友の心遣いは嬉しく、隣の仮眠室に足を向けながら、

 

「ん、よろしく」

 

 

 

 

 

 

「おわったーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 

バタッ

 

そんな声と開放感と共に、机に突っ伏す。

あ~~、机の冷たさが気持ち良い~

 

 

「四日か、雪蓮にしては、かなり早く片付けた方だな」

「う~~~~、疲れた」

「約束だ、三人の事情を話そうと言いたい所だが、先に一寝入りしたほうが良いか?」

「冗談はやめてよね。

 何のために頑張ったと思っているのよ」

「民のためではないのか」

「冥琳の意地悪・・・・・・」

「まぁ、これ以上無駄に雪蓮を疲れさせても仕方ないな」

 

 

 

 

 

冥琳からの説明を聞き終え、

 

まったく明命も馬鹿な事をしたわね。

任務の時と同じように心を保っていなければ、耐えられない程、人を好きになっておきながら、翡翠に遠慮して家を出るなんて、そんなの孫呉の女じゃないわよ、まったく

今度、祭辺りにでもお説教してもらおうかしら、

明命の行動には怒り半分呆れ半分の心境だが、やはり驚いたのは一刀の事だった。

 

「たしかに、見知らぬ土地に、しかも今までの常識が違う世界に放り出されては、不安にもなるわね」

 

冥琳の説明に、一刀を見ていて、時折不安になる理由に納得がいく。

私だって、父さんや母さんが死んだ時、足元が揺れる感覚に襲われる程、不安を感じた。

でも、それだって、守るべき妹達や民がいるから、

支えてくれる親友や仲間がいるから、

なにより、孫呉の民が笑って過ごせる国を作る、という目的が、私をすぐに立ち上がらせてくれた。

 

でも一刀には、異邦の地へ放り出された彼には、そういうものすら無かった。

明命や翡翠の存在が、彼女等への恩義が、一刀をぎりぎりの所で支えていたのだと思う。

私が一刀の立場だったら・・・・・・生きる希望を失っていないとは、言い切れないかもね。

全てを失った者の行動は大抵三つに分かれる。

絶望するか、

現実を受け入れないか、

受け入れた上で歩むか、

三つのうちどれが、幸せとは限らない。

死んでしまった方が幸せの時もあるし、

何も考えずに生きられたら、それはそれで本人は幸せの場合もあるだろう。

なにより、歩む事で、苦痛しか感じられない人生もある。

 

結局、人の幸せなど、選んだ道で決まるのではなく、

選んだ道を、どう歩むかで、決まると言っても良いだろう。

私の場合、選んだ道は険しく、苦痛の方が多いと言ってもいいだろう。

だが少なくとも私は、不幸とは思っていない。

不幸のままで居ようとは思わない。

今の屈辱的な立場から必ず、抜け出し、孫呉の宿願を果たしてみせる。

少なくともそう思い。 そのための行動を少しづつでもできるだけ、私は恵まれているし。

何より、守るべき家族も民もいる。

それだけでも、幸せと言える。

だが、一刀には・・・・・・

 

「北郷の事を思えば、雪蓮が毎日のように北郷を巻き込んでいた事は、最良の策だったのかもしれないな」

 

一刀の事を考えていると親友の口から、そんな言葉が紡がれる。

 

「そっか、そう言えばそうよね。

 一刀が心から呉の民になれば、良いだけじゃない。

 流石私、褒めてあげたいくらいだわ」

 

私の言葉に冥琳は、苦笑を浮かべ

 

「まったく、理を無視して、最良の一手を勘で思いつき、とっくに行動していた何て言うのを、こう何度も見

 せられると、軍師と言うのが馬鹿馬鹿しくなって来る」

「ちょっとーー、まさか軍師止めるなんて、冗談でも言わないわよね」

「当たり前だ。 私以外に、誰が雪蓮のお守りを出来るというのだ。

 それに、普通の人間には、雪蓮の行動は理解しがたい。

 そのためには、私のような存在も必要と言うものだ」

「ぶーーーーっ、まるで、冥琳がいるから、私が王で居れるみたいじゃないの」

「事実その通りだろう。

 それとも雪蓮、私が居なくても、毎日書類の山を片付けれる自信があると?」

「う゛っ」

 

何を好き好んで、あんな物を毎日やりたいものか、

それに、冥琳が居なければ色々困る事も多い所か、はっきり言って居なければ困る。

軍師としても、私人としても、大切な存在だ。

 

「・・・・・・大切か」

「どうした?」

「一刀にとって、あの娘達が、本当の意味で大切になるのかなと思って」

「心配は要るまい・・・・・・と言いたいが、こればかりはあの三人に任せるしかないな。 心配か?」

「当たり前よ」

「そうか、なら、これも一応教えておこう。

 今朝、翡翠から報告でな、北郷は回復に向かっているそうだ。

 そして、二人共互いに恋敵宣言をして、北郷が回復しきるまで、休戦協定を結んだとの事だ」

 

冥琳の報告は、嬉しい内容だったが、最初からこの報告もして欲しいものだ。

おかげで、私らしくも無く、考え込まされてしまった。

 

「正直、翡翠には驚かされている」

「そうね、まさかあの娘が表立って、明命に言うなんてね」

「詳細は聞かなかったが、そうせざるえなかったか」

「そうなるほど、一刀に惹かれたか、

 どちらにしろ二人にとって、良い変化だと思うわ」

 

本当にそう思う。

・・・・・・・・・・でも、なんか面白くないわね。

そう頭を捻りながら、身支度をする。

 

「少し休んでからにしたらどうだ」

「帰ってきたら、明日の昼まで寝て見せるわ」

「なら、今日の所は民の手伝いは禁止だ。 お前に倒れられては堪らん」

「あれ? 『今日の所は』なんだ」

「私とて北郷の事は心配はしている。

 仕事にさして支障の無い範囲では、雪蓮の行動には賛成している」

「うん、ありがとう」

 

そう、理解のある親友に、心からの笑みを向ける。

一刀ではないが、こうして人に心からの笑みを向けるのは、悪い気はしない。

さてと、確かめに行きましょうか。

おっとその前に

 

「冥琳、都での噂の件だけど、放っておいて構わないわ。

 こう言う時こそ、彼女の家に役に立ってもらわなくちゃね。

 それと、いつでも彼女の要請に応えれる様に、準備だけはしておいて頂戴」

「わかった。そのように手配しておこう」

 

 

 

 

 

あ~~~~~~、気持ち良いぃ~~。

仕事から解放されて、天気の良い午後に街を散策するのって、本当に気持ち良いわね。

・・・・・・これで、疲れた体と眠気さえなければ、最高なんだけど・・・・・・

そう思いながらも、足取りは軽く、やがて、目的の店にたどり着く。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

いつもの言葉、そして、

五日前とは、別物の笑顔が、

まだ、陰りはあるものの、

其処には、暖かな日差しのような、笑顔で、

一刀は、私を迎えてくれる。

 

うっ、久しぶりの一刀のまともな笑顔に、顔が熱くなるのが分かる。

最近慣れて来たと思って油断したわ・・・・・・

頭を冷やそうと、店内を見回すと、相変わらず繁盛しているようだ。

だが、幸い奥の机が空いたばかりらしく、店の子が、机上を片付けている。

一刀は、机上が片付くのを見計らい、私をその席に案内をする。

 

 

 

 

 

一刀の淹れてくれたお茶を口に含み、ゆっくり味わいながら、喉に流し込む。

相変わらず、信じられない程の腕前だ。

これだけの腕前である。引き抜きたいと思う者も後を絶たないだろうが、思春の話では、そう言った話は全て断っているらしい。

翡翠から、店の方針は聞いている。

確かに、そう言う意味では、そういう話は、一刀にとって意味をなさないものだろう。

まぁ、一刀らしいといえば一刀らしいと思う。

そう考えながら、一刀の姿を目で追い続ける。

店の雰囲気を壊さない様に、ゆっくりと動く中にも、無駄が無いためなのか、そう感じさせていないだけで、普通の人が急いで行っているのと大差の無い速度で、仕事を片付けていっている。

そんな中で、一刀は、客に笑顔を振りまき、短いながらも談笑を交わして、客の心を癒す手助けとしている。

そして、客の女性はと言えば、目を潤ませ、頬を軽く染めながら、一刀を目で追い続ける者が半数近くおり、後は、純粋に店の雰囲気を楽しむ者と、他の店員に目を向けている者に分かれていた。

これでは変な噂も立つというものね。

 

まぁ、それはともかくとして、一つだけ気がついた事があった。

一刀が客に見せる笑顔が、客で来た時の私に向ける物と少し違う事だ。

別に一刀がどちらかに手を抜いているわけではない、どちらも一刀なりの気持ちが篭っている。

 

ただ違うのは、他の客に見せるのは、客を一時の主として見せる笑顔

そして、私の時は、私を客として、見せる笑顔だ。

他の客には、店員としての笑顔であって、気持ちは籠もっていても、其処には一刀と言う意は存在していない。

そして、私に見せる笑顔は、一刀と言う意が確かに存在している。

そこに籠められた意が何であれ、一刀の意が存在する事は、そう悪い気はしない。

 

「ふふふふっ、そうね、確かに悪くない」

 

そう口に出して呟くと、なんか気が抜けるのが分かる。

 

 

 

 

 

 

温かいものに包まれながら、心地良い気持ちに身を任せる。

安心させる匂いが、覚えのある匂いが、私の心を穏やかにする。

なんだろう、こうなんか・・・・・・思いつかない。

しいて言えば、父さんに抱かれ、頭を優しく撫でられている感じに近いが、・・・・・・はっきりと違うと言い切れる。

ただ言えるのは、このままこうしていたいと思う反面、

こうした気持ちを与えてくれるものの、正体を知りたいという気持ちが、重い瞼を開けさせる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

一刀の店?

次第に意識がはっきりして来る。

目に映る店内は、夕日で朱色に染まり、すでに客も、そして店員も姿が見えない。

そして視線を落とすと、私の体には、なにやら布が被っている。・・・・・・服?

 

「目が醒められましたか」

 

そんな声が足元から聞こえる。

足元?

おかしい何で、そんな所から・・・・・・・・・・よく見ると、どうやら、長椅子に寝かされているようだ。

体を起すと、体に掛けられた服が落ち、声の主・・・・・・いや正体を見なくても分かる。

翡翠の顔が、目に映る。

頭を軽く左右に振ると、完全に目が醒める。

どうやら、一刀の店で寝入ってしまったようだ。

落ちた服を拾うと、何処かで見覚えが・・・・・・・・そっか、一刀の私服の上着か

 

まて、私は椅子に座っていたはず。

幾ら疲れていたとは言え、私に気がつかずに・・・・・・・・そうね、一刀ならありえる・・・・か、

となると、私は一刀に抱き上げられて、此処に寝かされたという事になる。

 

ことん

 

状況把握している時、店内にそんな音が響く、

どうやら、一刀が店の外に置いていた机を、店内に引き入れた音のようだ。

 

「おっ、孫策起きたか、 こんな時間だけど、おはよう」

 

そう言って私に、そんな挨拶と、店とは違う笑顔を、私に向けてくる。

口調や態度が乱雑なのは、もうお店が閉店しているという事で、私をお客扱いしないという事なのかもしれない。でも、そうだとしても、一刀の笑顔は、開店時の笑顔より、とても素敵に見えた。

おそらく、其処には客へと言う意が無く、純粋に私に向けられた笑顔だからなのかもしれない。

 

「悪いわね」

「構わないよ。

 それより、起さなくて悪かったな、仕事良かったのか?」

「今日はもう片付けてきたわよ。 冥琳のお墨付きよ

 ・・・・・・・・何よその不思議そうな顔は?」

 

私の言葉に、怪訝な顔をする一刀、

良いわよ言いたい事は分かってるから、

 

かちゃっ

 

何かを言うと思った一刀は、私の前に茶器を置き

 

「冷めてて悪いけど、眠気覚ましにどうぞ」

 

まぁ、ありがたいけど

私は一刀の入れてくれたお茶を口にすると、

 

すーーーっ

 

爽やかな香りが、体と意識を駆け巡る。

そして、ほのかな甘みが、体に染みると共に、寝起きの重い体を解していくのが分かる。

『冷めてて悪いけど』何て、とんでもない。

これは冷まして飲むお茶だ。

しかも、いつものようなお茶酔いは無い。

眠気覚ましと言う目的には、茶酔いは邪魔でしかないからだ。

かと言って手を抜いたわけではない。

これは、私が茶酔いをしないぎりぎりの所で、淹れられたお茶だ。

まったく、翡翠達は何時もこんなお茶を飲めるなんて、本気で羨ましいわね。

 

 

 

 

 

「そう言えば、一刀がこんな時間に・・・・・・あっそっか、私が居るから」

「それも含めて構わないと言ったんだよ。

 それに、翡翠もそのまま寝かせて欲しいと言ってたしね。 仕事忙しかったんだろ」

 

一刀の言葉に、苦笑する自分が分かる。

まぁ忙しかったのは確かだけど、半分以上は自業自得だから、そう心配されると流石にばつが悪いわ。

たしかに、寝ている私を、店の人間に任せて放っておくなんて事、出来ないわね。

 

「翡翠悪いわね。せっかくの時間を」

「ぁぅぁぅ、別にそう言うための時間では・・・・・・」

 

隣に居る翡翠だけに聞こえるように、小声で言うと、

翡翠は、顔を俯かせ頬を軽く染めながら、口ごもる。

どうやら、私の含めた言葉を必要以上に受け止めたようだ。

つまり、それは・・・・・・・・

 

「どっちかを応援するわけには行かないから、頑張りなさいとしか言えないわね」

「あぅぅぁぅ・・・・・・」

 

翡翠が、ますます顔を赤くしているのを横目に、席を立つと

 

「一刀の元気そうな顔も見れたし、今日はもう帰るわ。 悪かったわね。 長々と」

「客としてなら、何時でも歓迎するよ」

「ぶーーーーー、客じゃなければ歓迎しないって言うの」

「節度を守ってくれれば、歓迎はするさ」

「まるで、私に節度が無いみたいじゃない」

「あるつもりだったのか」

「あるわよ。 ただ、無視しているだけ」

「余計性質が悪いわっ」

「王なんて、それぐらいでなきゃ、やってられないわよ」

「孫策のは、どう見ても地だと思うけど」

「うーーん、そうかも」

「ほらな」

「それくらい、王で居る時間が長いって事よ。

 それに、こうやって、甘えさせてくれる相手にしかやらないわよ」

「甘えね・・・・・・周瑜じゃないし、俺には孫策の無茶振りを、何時も受け止めれる自信は無いよ」

「偶にならいいでしょ。 じゃあ、またね、城に戻って本気で寝なおすわ」

「今からか? どれだけ寝るつもりだよ。じゃあ、孫策またな」

 

そんな声が、背中から聞こえてくる。

 

『 いってらっしゃいませ、お嬢様 』

 

ではなく、呆れるような声と共に、

うん、いつものあれも悪くないけど、こっちの方が良いわね。

誰にでも向ける言葉ではない、私自身に向ける言葉、

なにより、一刀自身の言葉だもの。

 

 

 

 

 

心地よい気分と共に、夕日で赤く染まった街並みに目をやりながら、帰路につく。

一刀は元気を取り戻しつつある。

翡翠と明命は自分の気持ちに立ち向かう覚悟をした。

それが心から嬉しいと感じられる。

家族が、笑顔でいれると言うのは、喜ばしい事だ。

なら、私はそれを守らねばならない。

帝の崩御の噂、真偽の程はまだ定かではないけど、もし真実なら、動き出す諸侯が出てくるはず。

それに乗るかどうかは、まだ決められないが、巻き込まれる事は確かだ。

そのための準備は、しておかないと、必要ならば、

 

ふわっ

 

物騒な考えにいこうとした所を、不意に先程の匂いを感じる。

あれは一刀の服から感じたものだったわけだけど、匂いが移ったかな。

そう言えば、記憶には無いけど、一刀に抱き上げられてたのよね・・・・・・父さん以外で男に抱き上げられるなんて初めてじゃないかしら、

 

「ふふふっ、翡翠が毎日迎えに行くわけよね」

 

あんな事、普通の客にするとは思えないが、あれだけ優しくて気がつけば、客が勘違いしても仕方が無いわね。

翡翠が心配するのも分かる。・・・・・・何よ、あの娘とっくに、一刀にいかれているじゃない。

それを我慢できるなんて、あの娘は勘違いしていたのね。

明命もそうだけど、本当に馬鹿な娘・・・・・・

でも、そんな二人が、気がつき覚悟を決めた。

ふふふふっ、一刀が本当の笑顔を取り戻したら、面白い事になりそうね。

 

今夜は気持ちよく、ぐっすりと眠れそうだわ。

もっとも、其処には、何も邪魔が入らなければ、という前提が付くけど、

この際、生半可出ない事態が起きない限り、無視よ無視、

王だって、安眠する権利があるし、ここ数日は3人のために、王としての仕事を頑張ったと言っても良い。

なら、今夜ぐらいは、移り香に抱かれて寝るくらいは、かまやしないわよね。

 

 

 

 

 

某編集局兼写本所にて:

 

ばたっ

 

「・・・・・・も・もう駄目・・・・・・」

 

一人の若い女性が、疲労の残る顔で、恍惚とした表情のまま、血を机に濡らしながら倒れ臥す。

 

「編集長、また一人倒れましたっ!」

「またなのっ! これ以上増刷の納期を遅らせるわけには行かないと言うのにっ

 回復した娘はいないのっ!?」

 

所員の報告に声を挙げるが、

言われた(私と同じ、やや歳のいった妙齢の)女性は、首を横に振るばかりだった。

 

「仕方ないわね、なら、その辺に転がっている娘を、叩き起こしなさい」

「駄目ですっ!

 今これ以上彼女らを使えば、本気で死人が出かねません。

 そうなれば、叩き潰される口実を、やつらに与えるだけになります」

 

くっ、たしかに、彼女の言うとおりだ。

検閲には通っているとはいえ、死人を出したとなれば、やつらに発禁の口実を与えるだけにしかならない。

ただでさえ、今回は、写本の作業をしていた者の大半が、出血多量で倒れていて、目をつけられているというのに・・・・・・・・

かと言って、増刷をやめれば、各国の書店からの信用を失う事となるし、本を楽しみにしている読者の期待を裏切る事になる。

なにより、今回のような名作を、世に広げない等と、私の魂が許さない。

この作品は、『八百一』に留まるような物ではない。

この作品を目にした者に、多くの影響を与えてくれる作品となるはずだ。

今までに無い発想と演出、そして、何より其処に籠められた想いが伝わってくる。

だからこそ、少しでも世に広げたいと、私の魂が叫んでいる。

ここにいる人間、そして夢半ばで力尽き、倒れていった者達も、想いは同じはず。

 

ん? 倒れて・・・・・・・・・・まて、今残っているのは、いずれも私に近い年齢の者達ばかりだ。

そして倒れた者達のほとんどは・・・・・・そうかっ!

 

「例の作者の部分は、今残っているもので当たれ!

 それ以外の所は、今倒れている者達でも問題ないはずだ」

「えっ、それはどういう・・・・・あっ!」

 

どうやら彼女も気が付いたようだ。

そう、色々な意味で経験豊かな私達には、あの作品の有り余る衝撃にも、何とか耐えられる。

だが、若い子達には、

 

「編集長達は枯れているから・」

 

ぼかっ!

どがっ!

ばきっ!

ぼこっ!

どすっ!

 

 

不用意な発言をした彼女に、周りから一斉に、物が飛来する。

あらゆる方面から、物を投げつけられた彼女は、其のまま勢いに任せるまま床に倒れ臥し、気絶する。

まぁ、私の膝が止めを差したとも言うが、この際それは棚に上げて、

 

「人の事言えないでしょうに、おかげで貴重な戦力が一人減ってしまったわ」

「大丈夫です」

 

ざばっ

 

私の言葉に、一人が反応し、気絶した彼女に、窓際の花瓶の水を掛ける。

掛けられた方は、情けない声を挙げながら体を起こし、私達の冷たい視線から逃げるように、

 

「き・き・き・着替えてきます」

 

と部屋を出て行く

 

「・・・・・・・・容赦ないわね」

「編集長に言われたくありません」

「そう、じゃあ、彼女の代わりに手配はお願い」

「はぁ、かまいませんが、編集長はさっきからなにやっているんです」

「次回号の編集よ。

 例の作者も続きの作品を送ってきたわ。 今回は更に凄いわよ あっ!」

 

気が付いた時には既に遅く、私は周りを所員達に囲まれる。

その中には、倒れていたはずの娘達も混ざり、

全員が、私と、私の手に持つ本を睨み付け、その目が、彼女達から発する気魄が、一つの事を語っていた。

 

『 いいから、読ませなさいっ! 』

 

と、だが私も編集長の端くれ、幾ら追い詰められたからと言って、たとえ所員であろうと、おいそれと編集の終わっていない作品を、見せるわけにはいかない。

私は、心のどこかで無駄と思いつつも、それを背中に隠し

 

「だ・駄目よ、まだ見せる段階ではないわ」

 

自分でも分かるくらい、震える声で、目一杯の拒絶をする。

そして、私の思ったとおり、そんなものは聞こえないとばかりに、

・・・・・・あの、目が本気で怖いんですが(涙

 

「き・きゃーーーーーーーっ」

 

彼女達の発する尋常でない雰囲気に、悲鳴を上げる私の体を、

全員で押さえつけ、手にした編集用の写本を奪いに掛かる。

それでも必死に抵抗する私を、押さえつけながら、奪った写本に目に通していく

 

 

 

 

「ううっ、酷い目にあったわ」

 

他人の血に汚れた服と体に、深い溜息をつきながら、周りを見渡すと、

幸せそうに、恍惚とした表情で気絶している彼女達の姿があった。

むろん、私を血で汚した原因である鼻血を、未だに垂らしながら・・・・

どうやら幸いな事に、命に別状のある人間はいないようだ。

 

「こうなると思ったから、見せたくなかったのに、

 ・・・・・・これで、最低でも二日は仕事どころじゃなくなるわね」

 

そうぼやくが、起こってしまった事は仕方が無い。

まぁ、対策も思いついたし、なんとかなるでしょう・・・・・・

今は、そう気楽に考える事にして、彼女達を介抱しながら、

今、此処に役人が雪崩れ込んできたら、絶対こっちの言い分なんて聞いてくれないわよね。

と、そんな事態が起こらないよう祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

  第24話 ~仕事の山に舞う王は、優しき香りに擁かれながら眠る~ を此処に、おおくりしました。

 

なんか、此方も久々の投稿になってしまいました。

今回は、雪蓮視点のお話となりました。

『舞い踊る・・・・』では汚れ役を受けることが多い彼女ですが、私的には呉の中で一番気に入っているヒロイン(?)で、3人の王の中でも一番人間らしい苦しみを抱えている人物ではないかと思っています。

魏王様は、高スペック過ぎて魏√以外では人間やめてるし(ぉ

蜀王様は、なんかイッちゃってる感じですし(w

本編では、途中退場してしまった故に、よけい色々な想像が膨らみます。

さて、今作品では、彼女は大切なキーパーソンとなっています。

(あくまで、あの二人がメインヒロインですので♪・・・・・・ここまで書いといて、哀れな(w )

今後も3人を取り巻く状況を、彼女が引っ掻き回したり、助けたりします(たぶん・・・・)

 

では頑張って書きますので、どうか最後までお付き合いの程お願いいたします。

 

 

PS:今回書くのが久しぶりすぎて、ヒロインの名前を、素で間違えて書いていました(汗

    後半になって、違和感を感じ気がつくという、惚け振りをかましてしまいました。


 
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