No.131777

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #23-4 一刀の見る夢|初めての… ~冬~

四方多撲さん

第23話(4/4)を投稿です。
今回のあとがき演義のゲストですが、予告無く変更させて頂いております。(袁胤【美羽】が居らず、それ自体がネタとなってます)
前言を翻す形となってしまった旨、袁胤【美羽】登場のアイディアを頂いた方へは謝罪メールを送らせて頂いております。
さて、本筋で語るのは剣を握る者ならば心に留めておかねばならない事。表現は千差万別なれど、根本は同じだと思うのです。
さてどん尻に控えしは、稲妻の白刃で脅す人殺し。蜀END分岐アフター、二十三が『冬』!

2010-03-23 01:03:39 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:34500   閲覧ユーザー数:23966

「本当に本気だな、一刀。これ程の早さで上達した弟子はオメエが初めてだぜ」

「…………」

 

師匠にして祖父たる北郷孫十郎から、至言とも言える褒め言葉を貰った一刀だが。

彼は道場内の地面に倒れたままだった。

 

鎖帷子(かたびら)を着込んでいるとは言え、日本刀――勿論刃は潰されているが――で散々叩かれ、突かれ。場合によっては急所(主に喉)を殴られ、蹴り飛ばされ、足払いですっ転ばされる。

そもそも怪我防止の為の鎖帷子自体が文字通り、重い枷となり、更に疲労を加速させるのだ。

 

しかし、孫十郎から見れば一刀は素晴らしい上達を見せているらしい。

 

「北郷流の真髄たる『虎歩』を、これだけ短期間でここまでのレベルに出来るたぁ、オレはオメエが孫なのが誇らしいくらいだぜ」

 

孫十郎はそこで一旦言葉を切った。

そして、目を瞑り。打って変わって低い声で語り出した。

 

「だが、お前が明確に自覚していないこと。そしてオレがまだオメエに教えていないものがある」

「……どう言うこと?」

 

ようやく体力が回復したか、胡坐を掻いて鸚鵡(おうむ)返しに聞く一刀へ、孫十郎は目を開き、腕を組み、言葉を続ける。

 

「最初にオメエから大まかな状況を聞いたが……そんときのオメエの目を見てすぐに分かった。……オメエが“人を殺すこと”、“人が無慈悲に殺されること”を受け入れる覚悟をしたってことぐらいはな」

「!!」

「そして逆に、稽古を通じて分かったこともある。それはな……オメエの剣にゃあ“殺意”がねえってことよ」

「…………。そう、かもしれない。俺自身は手を汚したことがないから……」

「オメエには北郷流の剣術の基礎は全て伝えた。時間が許す限りはその発展の手伝いも出来るだろう。だが、その前にオメエに教えにゃならんことがある……それは」

 

孫十郎はそこで一拍、間を置く。

 

「――“人斬り”の精神だ」

 

孫十郎が、真剣の如き鋭い気迫を発しながら語ったその言葉に、一刀は改めて自身が修めんとする技術の目的を意識した。

 

「人斬りの、精神……。自分の手で他人(ひと)を殺す覚悟ってことか?」

「そうだ。オメエは基本、護身として『北郷流』を修めてるんだろう。だがな、本当に“殺す”気で襲ってくる人間を、殺さずに押さえ込むなんてのは、相手との力量差が素人と黒帯クラスの武道家程もなきゃ難しいのよ。そして“殺意”のない剣は、殺しに慣れた人間には欠片も怖くねえ」

「たとえ目的が護身でも、殺す気で剣を持てってことなのか?」

「間違ってはいねえな。テメエが貫こうと決めたモン……理想、信念、正義、色々あらぁな。そいつらを守る“手段”として剣を握るなら、いつ人を殺してもいいっつう覚悟は必須。そして、殺す覚悟をした以上、殺される覚悟もまた必要。こんなモンは当然の話だ。……だがよォ、この覚悟って奴が曲者なのよ」

「覚悟が……曲者?」

 

一刀は戦乱を収めるという目的・理想の為に、一勢力のリーダーとして配下の兵士へ戦うことを命令することになった。

それは彼等に道の違う者達……“敵”を殺せと命ずることであり、目指すものの為に命を懸けろと言うことでもある。

黄巾党との戦で目の当たりにした、戦場という阿鼻叫喚の地獄。それを見たとき、彼はその事実を、その現実を真正面から受け止め、殺し、殺されることを覚悟した。

 

しかし孫十郎はその覚悟こそが曲者だと言った。

 

「戦場で殺し殺される覚悟は必要だ。それは確かだろうよ。だがよ、覚悟したなら人を傷つけ、殺していいのか?」

「それは……でも、だからって“死んでやる”ことは出来ないよ……」

「そうだ。戦場ってのはそういうもんだ。だからこそ……覚悟の裏にある“罪”から目を逸らしちゃならねえ。一刀、オメエはオレが前科持ちなのは知ってんな?」

「あ、ああ。婆ちゃんを助けるのに、暴漢を斬ったんだろう?」

「もう半世紀近くも前の話だがな。相手は素人だったが、武装の性能差って奴はでけえ。だからこそオレは自分自身を守る為に、弱者を守るという俺の正義の為に、淑子を守る為に……拳銃を持った野郎の手首を切り落とすしかなかったのさ」

「……それが罪になると知っていても、か……」

「そうだ。平和な世となりゃあ、罪人を傷つけても罪だ。だが、戦争やら闘争やらでは……殺(や)らなきゃ殺られちまうのが現実。そして大概そういう戦場じゃあ、人を害しても罪に問われること自体がねえ。それどころか英雄扱いだ」

 

かつては戦争で人を殺し。祖国復興の為に私財を擲(なげう)ち。平和な世にあって、暴漢から弱者を守る為に剣を抜き、自らが咎人となった男。

北郷孫十郎という男が放つその言葉には、人生の重みが籠められていた。

 

「確かに人を殺しても罪に問われねえ世界はある。だがな、一刀。たとえどんな世界だろうと。人を斬り殺せば、罪科は確かにあるんだ。――自身の胸の内に」

 

「…………」

 

「意義も信念も無く人を殺す奴ぁ単なる外道だ。だが、信念を以って、誰かの、何かの為に人を殺せば。

 そいつは生涯、同じく信念を以って、自分自身を処罰することを覚悟しなくちゃあならねえ。

 悪夢を見ることもあるだろう。縁者に罵られることもあるだろう。復讐として命を狙われることもあるだろう。

 それでも、必死こいて生きて。テメエを処罰し続けなけりゃあ、殺された奴ぁ浮かばれねえ。

 奴さんが成さんとした未来を奪い、正義を挫いた責任を。テメエの生涯を以って果たさにゃあならん」

 

「たとえ……戦乱の世でも?」

 

「そうだ。結局のところ、全てはテメエの胸の内よ。覚悟は必要だ。だが、それを免罪符にしちゃあならねえ。

 逆転無用にして必罰。責任を持つから殺していいんじゃねえ。殺したから責任を持つんだ。

 忘れるな。決して忘れるな。オメエが殺したモノ……命を、信念を、正義を、未来を。

 これこそが“人斬り”の精神。こいつを忘れた瞬間、そいつぁ外道――徒(ただ)の“人殺し”と成り果てる」

 

(……逆になってはならない覚悟と責任……)

 

「ただ、勘違いはするなよ。こいつぁ、“人斬り”が幸せを掴むことを否定するモンじゃねえ。

 生きて、子を成し、孫を育て、人々を守る。テメエ等の礎にあるモンを忘れぬこと。

 それを子々孫々へと伝えること。責任を果たすってのはそういうこった。

 ――オメエは外道に堕ちるなよ、一刀。北郷の姓を名乗るなら。オメエを頼り、慕い、愛する者がいる限りな」

 

祖父であり、一世紀近くに及ぶ戦いの人生を送ってきた先達の言葉。

一刀は自身を慕ってくれた乙女達を。生かし頼ってくれた民を。愛すべき子供達を思い浮かべた。

 

「……この胸に、確かに刻み込んだよ。爺ちゃん」

「……そうかい」

 

一刀は尊敬すべき祖父・孫十郎の言葉を、瞳を真正面から受け止め、立ち上がった。

その孫の姿を、目を見て、孫十郎は満足気に目を細めた。

 

「説教くせえ話はここまでだ。稽古の続きと行くぜ!」

「オス!」

 

黄平二年も年末を迎えていた。

昨年、各儀式などの準備を一通り経験したからか、今年の準備は予定よりも早く進められている。

また、桃香や愛紗、雪蓮に華琳といった最上位の官僚が産休から復帰し、政務に戻ったことも大きいだろう。

 

そんな行事スケジュールの合間を縫って、一刀は義理の愛娘・璃々と、親衛の護衛役として思春を連れ立ち、洛陽の街を歩いていた。

 

「ふぃ~、陽が当たってても寒いなぁ。璃々は大丈夫かい?」

「うん! 大丈夫だよ~。お父さんの手、あったかいし♪」

「そうかそうか」

「……だらしない顔をするな。見ていて苛々する」

「ひどっ! いいだろ、璃々は俺の娘なんだし……」

「……もしかして、思春お姉ちゃんもお父さんとお手手繋ぎたいの?」

「なっ!?」

「なんだ、そうだったのか。じゃあ……」

 

と璃々と繋いでいる手と逆、右手を差し出した一刀だが。

 

(――殺気!?)

 

自身の直感――実際は思春の初動や目の動き、発せられる気配を察知した結果――に従い、咄嗟に手を引っ込めると、直前まで手首があった辺りを銀色の光が閃いた。

音にするなら『しゅぱっ!』と言った感である。

 

「チッ……随分反応が良くなったものだ。忌々しい……」

 

常人には目にも止まらぬ居合いの一閃。今の一瞬に、思春は抜刀から斬り上げ、すぐさま納刀していた。

 

「ほっ、ホントに斬る気か!? 怖っ! 怖~~っ!!」

「ふん! 余計なことをしようとするからだ……#」

「で、でもさぁ。帰りは荷物で手が塞がっちゃうし、行きだけでも……」

「(ぎろり)」

「……はいはい、わかりました。諦めます」

「あははっ! 残念だったね、お父さん♪」

「はぁ。全くだ……」

 

からからと笑う璃々に、溜息混じりで同意する一刀。

 

「でも、今の思春お姉ちゃんの刀、峰打ちだったよ?」

「!!」

「うえ!? ま、マジで?」

「……ああ。璃々の言う通りだ」

「……。……数年もしない内に、俺より強くなるんだろうなぁ……。嬉しいような、悔しいような……」

(今の一閃を見切るとは……)

 

璃々の言った通り、先の思春の居合いは実は峰打ちだった。

一刀への脅しであった為、見切られぬよう比較的手加減少なめの一閃。殺気――というか、居合いの挙動を察知し、手を引いた一刀の観察眼も相当なものだったが、峰打ちであることまでは判断出来なかった。

しかし、その一撃を璃々は見切っていたらしい。

 

「璃々は貴様などより余程良い武官になれそうだな。まだ将来を決めるような歳でもないが……」

「お母さんは武術も勉強もやるなら徹底的にって言ってるよ? どっちも楽しそうだよね♪」

「「…………」」

 

一刀への嫌味を含んだ思春の一言に、璃々はそう返し、文武どちらにも強い意欲を示した。

実際、この歳で一刀よりも精度の高い見切りの目を持つのは天稟か、紫苑の英才教育の賜物か……或いはその両方か。

璃々のポテンシャルの高さに、一刀も思春も愕然とする他なかった。

 

 

 

さて、一刀が二人と仲良くじゃれつつ(?)街へ繰り出しているのは、今月の璃々の誕生日に贈るプレゼントをこっそりと入手しつつ、デートと洒落込む為であった。

少なくとも形式上は妻である思春はともかく、娘である璃々と街をぶらつくのをデートと呼ぶかが微妙な上、出かけると聞きつけた他の妻たちに大量のお使いを頼まれていた為、尚更にデートっぽくないのだが。

それでも一刀としてはデートと認識していた為、今日は警備隊隊員の武装ではなく、聖フランチェスカの制服に刀を佩く(制服のベルトに刀を差す訳にもいかず、腰に細い紐を巻いて刀を吊るすしかなかった)という風変わりな姿だった。

 

「しかし、何故私が貴様の護衛など……」

「まだ言ってるし。季衣も流琉も明命も手が空いてなかったし、手隙の武官もいなかったんだから仕方ないだろう?」

「そもそも、それが陰謀なのではないかと疑っているのだ」

「……そんなことはありませんとも」

「あ~あ、お父さんってホントに嘘ヘタだよね~」

「璃々に裏切られた!?」

 

実際、一刀は思春と出掛ける為に彼方此方に手回ししていた訳で、結局バレバレだったと言うことだ。

 

「……とうとう私まで籠絡しようという訳か」

「あのね……それは穿ち過ぎだよ。単純に、ここのところ思春と話す機会が少なかったからさ。偶には一緒にゆっくり過ごしたかっただけ」

 

一刀の真の狙いは、ここ最近妙に風当たりの強い思春と会話したいということだったのだが。

 

「お父さん。それって十分“狙ってる”宣言だよ?」

「そ、そんな馬鹿な……!?」

「そういう台詞をさらっと言っちゃうから、風お姉ちゃんとかに女ったらしって言われるんだよ?」

「マジですか……。と、とにかく。表面上は置いておいて、俺に下心がないということだけは分かってくれ、思春」

「信用出来ん」

「即答っすかー……」

 

がくりと肩を落とす一刀に、璃々が耳を貸せとちょいちょい手招き。

何かと一刀が身を屈めると、璃々はこそこそと耳打ちしてきた。

 

「(もう、お父さんったら。当たり前だよ、思春お姉ちゃんが言葉だけで素直に納得してくれる訳ないでしょ。行動で示さなきゃ)」

「(……言われてみるとその通りだな。本当に璃々は頼もしくなったなぁ)」

「(もっちろん! お母さんから色んなことをいっぱい教えて貰ってるもん♪)」

「(……紫苑の英才教育かぁ……方向性に微妙な不安があるんだよな……)」

「(むー。そんなこと言うなら、もう助けてあげない)」

「(ええっ!? ゴメン! 怒らないで~)」

 

思春の鍛えられた鋭敏な聴覚は、そんな父娘の会話を雑踏の中でもしっかりと捉えていたのだが。

 

(……まだ十にも満たぬというのに……。流石は“あの”紫苑の娘ということか。末恐ろしい……)

 

このようなところにまで及ぶ紫苑の英才教育。璃々の洞察力や言い回しに、内心恐々としてしまった思春であった。

 

そんな調子でなんやかんやと賑々しく大通りを歩いていた三人は、気付けば一刀にとっての目的地まで来ていた。

 

「おっと。俺、この店で買うものがあるんだ」

「そうなの?」

「ああ。先月、焔耶に赤ちゃんが出来ただろう? あいつは根っからの武人だから、大人しくしてるのが駄目らしくてさ。暇つぶしの道具をね。二人はちょっと待っててくれるかい?」

「一緒に行ったら駄目なの?」

「今日は注文するだけだからね。ちょっと待ってて」

 

一刀はそう言って、返事を待たず店舗へと入って行った。

思春は事前にここで璃々への誕生日プレゼントを入手する旨を一刀から聞いていた。

何故自分がフォローしなくてはならないのかと内心で憤りつつ、璃々を引き止めることにする。

 

「……璃々。取り敢えず奴が出てくるのを待つとしよう。奴の用事にわざわざ店内まで付き合う義理もあるまい」

「む~、怪しいなー。でも、男が隠し事をしたがった時は、見て見ない振りして、いざという時まで黙っておくのが基本ってお母さんも言ってたし……。まあいっか」

 

(……本当に、紫苑はどこまで教育する積もりなのだ……)

 

「ねぇねぇ、思春お姉ちゃん」

「なんだ、璃々?」

「前から訊いてみたかったの。――どうしてお父さんにきつく当たるの?」

「っ! ……璃々の手前、余り言いたくはないが……。女にだらしない、肝心なところで鈍い、すぐにへらへらと笑う、弱い癖にすぐに市井に出たがる……言い出したら切りが無い」

「ふぅ~ん。でも好きなんでしょ?」

「なっ、何を言うか!? そんな事実はない!」

「え~、そうとしか見えないよ?」

「一体私のどこがそう見えるというのだ! 奴には常日頃から文句しか言っていないだろう!?」

「んっとね~。思春お姉ちゃんのその文句が、“好きな人にはこうあって欲しい”って感じに見えるから、かな?」

「!?」

「詠お姉ちゃんや、ねねお姉ちゃん、焔耶お姉ちゃんみたいに、文句を言ってもいいから甘えればいいのにって。お母さんや桃香さまも良く言ってるし」

「なっ、そっ、ばっ!?////」

 

反論しようとした思春だが、咄嗟に言葉が出て来ない。自分の顔が熱を持っている……赤面していることを自覚すると、尚更に言葉に詰まってしまう。

……それは璃々の言葉が図星だったからだろうか。

 

と、折り悪くそこへ帰ってくる一刀。

 

「ただいま~。……あれ、思春。顔赤くない? もしかして寒い?」

「――煩いッ!」

「だあぁっ! 街中で抜くな!?」

 

半錯乱状態で抜刀しようとした思春の右腕を一刀が押さえ込んだ。

 

「ぐうぅぅっ……貴様にっ、貴様なんぞにっ!////」

「何!? 俺が何なの!?」

「もー。お父さんってこう言う時に限って間が悪いんだから!」

「璃々ーーーー!」

「一体何が何やら!? とにかく落ち着いてくれ、思春!」

「うぅぅぅ~……!」

「あはははは♪」

「と、取り敢えず茶屋にでも入ろう。お茶でも飲んでゆっくり温まれば気も治まるよ、きっと! な!?」

「うん! 璃々もあったかいお茶が飲みたい!」

「そうかそうか! よぉーし、じゃあ行こう!」

「くっ……ふん!」

 

 

 

という訳で、暫く茶屋でのんびりした三人。

一刀は既に主な目的を果たし、残る時間を璃々と過ごしつつ、思春ともコミュニケーションを取れればと考えていたのだが。

どう言う訳か、思春の態度が普段よりも固い……というか精神的防壁が見えるというか。

結局、思春とは碌に会話にならないまま。

 

「ごちそーさま~。さて、次は月と詠のお使いだね」

「はーい!」

「…………」

 

(あ~あ、思春ともっと打ち解けたかったんだけどなぁ……。もう休憩取ってる時間はないし、今回は失敗かなぁ)

 

内心しょげつつ、一刀は二人を連れて店を出た。

 

「――御遣い様」

 

すると一刀に町人と思しき女性が話しかけて来た。

一刀が街を散策や警邏しているときには珍しくもない。いつも通り一刀は笑顔で答える。

 

「あ、はい。何でしょう」

「御遣い様のご慈悲で、今年も無事冬を乗り越えることが出来そうです。御礼にもなりませんが、どうかお受け取り下さい」

「え? いや、そんなこと気にしないで……!?」

 

遠慮する一刀を無視し、女性が懐から何かを取り出そうとした。その瞬間――

 

「曲者がッ!」

「ごぁっ!?」

 

思春の痛烈な蹴りが女性を吹き飛ばす。

女性の身体は建物の隣に置かれた荷台に突っ込み、大きな音と共にもうもうとした煙が立った。

 

「思春、今の!?」

「そうだ! 今、奴が懐から出そうとしたのは武器――暗器だ!」

「やっぱりか! こんな街中で堂々とかよ!?」

 

思春に曲者と呼ばれた女性が、崩れた荷台から立ち上がった。

その姿は、もう市井にありふれた衣装ではなく、頭の先から全身を覆う白い装束に包まれていた。

 

「――北郷一刀、死すべし!」

『北郷一刀、死すべし!』

 

白装束を纏った女性が宣言するように声高に叫ぶと、周囲からそれに唱和する数多くの声。

 

「「なっ!?」」

 

いつの間にか、大通りにいた全ての人間が白装束を身に纏い、各々の手には様々な得物が握られていた。

 

「お、お父さん……」

「心配するな、璃々。俺から離れないように」

「うん」

 

一刀は璃々に注意しながら、腰の似非日本刀を抜く。

思春は既に抜刀し、臨戦態勢を整えていた。

 

「……ざっと見て、三、四十人くらいか? この調子だともっと増えそうだけど……」

「北郷、宮殿へと走れ。道は私が切り開く。その後の殿(しんがり)も任せておけ。貴様は璃々を抱えて逃げきることだけ考えろ」

 

じりじりと迫る白い包囲網に、思春が一刀へそう指示した。

此処は帝都洛陽。如何なる組織であろうと、その街に大規模な兵隊を送り込めはしない。

ならば、この包囲網を抜けさえすれば、今の一刀なら宮殿まで逃げ切るのは難しくない筈だった。

 

「……思春一人なら、なんとでもなる、か」

「そうだ」

「……分かった」

「ならば――往くぞ!」

 

まずは思春が突撃。城の方向の敵兵……白装束らを次々に斬り捨てていく。

一刀は左腕で璃々を抱え、思春の後ろに付いて駆け出す。

 

「よし、往け!」

「狙いは俺みたいだし、隙を見て思春も逃げるんだぞ! ……行くよ、璃々!」

「うん! 思春お姉ちゃん、頑張って!」

 

包囲網を抜いたことを確認し、思春は一刀と璃々を送り出す。

一刀と璃々も思春に声を掛けながら、そのまま走り抜けて行った。

二人が包囲網から脱したことを見て、思春は数十人もの白装束の兵らへ向き直る。

 

「……ふん。これしきの練度の兵で、この甘興覇を抜けると思うな!」

 

一刀は発氣して体力を増幅しつつ、走り続けた。

先程まで人で溢れていた筈の大通りは閑散として、人っ子一人いない。

 

(あの白装束たち……登場からして妙だった。五胡戦争でも消えた兵がいたって報告があったし……また妖術の類か? 出来れば城の手前で増援を送りたいんだが……)

 

そんなことを考えていた一刀だったが、遠く、道の先に白い衣装がちらと視界に入った。

 

(先回り!? 一体どれだけの兵を送り込まれてるのか……そもそも妖術相手じゃ、常識は通じないと考えるべきだったか。思春と分かれたのは判断ミスだったかも……。いや、このコースなら……ふたつ隣の通りに、二番隊の支所がある!)

 

頭の中に洛陽の市街の地図を浮かべ、迂回コースを見つけようとした一刀はそのことに思い至る。

 

(組長の焔耶は休職中だけど、支所なら最低でも数人は詰めている筈。そこから各所へ伝令を出せれば……!)

 

すぐさま一刀は走るコースを変更。横道に入り、隣の通りへ出る。

やはり人は見当たらなかったが、一刀は周囲への警戒を怠らず、支所を目指し駆け続けた。

 

 

 

幾度か道を塞ぐ白装束の一団を遠目に確認し、それを避けるようにして走り、一刀はどうにか支所まで辿り着くことに成功した。

しかし、市井の民は結局一人とて見当たらなかった。

 

(本当に異常っつか非常識としか言い様がないな……ここまで誰もいないとなると、支所も無人ってことも有り得るかも……)

 

そう覚悟しつつも、一刀は支所の入り口の前に立つ。

 

「お父さん、どうしたの?」

「ああ、ここは警備隊の支所のひとつなんだ。誰かがいれば、応援や伝言を頼もうかと思って。璃々、一回降ろすよ」

「うん」

 

璃々を降ろした一刀はそのまま左手で警備隊支所の扉を開く。

 

「誰かいないか――」

 

どんっ!

 

「っ!?」

 

扉を開けると同時。室内から体当たりするように男が一刀へとぶつかった。

一刀は腹部に焼けるような痛みを感じたことで、自身が鋭利な何かで刺されたことを悟る。

 

「こ……のぉ!」

「っ!」

 

一刀は体勢を低くしていた男に肘を打ち下ろし、怯んだ隙に前蹴りを加え、無理矢理突き放した。

しかし大したダメージは与えられていない。相手はすぐに体勢を整え、油断無く構え直した。

刺客だろう男は白装束を纏ってはいなかった。代わりに顔を布で隠しており、右手には血塗られた剣。

 

一刀は腹部の傷口だけでなく、全身を激痛に苛まれ、片膝を付いた。

 

「ぐぅぅ……!」

「お、お父さぁん!」

「……貴様の命運は尽きた。すぐにでも毒と出血で意識を失うだろう。抵抗しなければ、苦しまぬように殺してやる。娘は……後追いさせることになるが」

 

瀕死であろう標的を前にしても油断無い男。彼から怒りなどの激しい感情は感じられない。

その振る舞いからこの男がプロ……職業的暗殺者なのだと一刀は判断した。

白装束の兵による市内の封鎖は、一刀をここへと誘き寄せる方策だったと言う訳だ。

 

だが、確実性を求めるが故に、拙速よりも巧遅を選択したことが男の判断ミスだった。

 

「ふぅぅーー……はぁっ!」

「なっ、何だと!?」

 

近付いてきた刺客に、一刀が片膝を付いた状態から居合いによる逆袈裟切りを見舞ったのだ。

刺客の男は咄嗟に後退して距離を取った。

 

「馬鹿な……傷は浅くは無い筈だ! まして、致死性の毒も塗布されていたのだぞ……!?」

 

プロにあるまじき声を上げる男。逆に言えば、状況がそれだけ驚愕するものであったと言える。

一刀の身体、特に内臓機能は『錬功』によって強靭に鍛えられており、加えて『氣』を巡らせることで更にその機能を大幅に増強出来る。

一刀は刺されたことを自覚した瞬間から発氣し、既に治癒を始めていたのだ。

 

「……悪いな。娘にまで手を出そうってんじゃ、俺もおちおち死んでる訳にゃいかないんでな……!」

「ば、化け物め……!」

「ははっ、まさか俺がその言葉を言われるときが来るとはね。さて……依頼主については教えては貰えないだろうけど。あの白装束の兵隊は君の配下かい?」

「…………」

 

軽い口調で交渉しつつも、一刀は周囲の気配を探る。

周囲に誰もいないことを確認し、目の前の刺客から璃々を背に隠すように立つ。

 

一刀は余裕を装っているが、如何な彼の膨大な『氣』を以ってしても、これだけの深手を一瞬で治癒出来る筈もない。おまけに毒の影響か、全身を異常な熱が苛んでもいた。

 

(刺客と渡り合うだけ余力を得る程度に時間を稼ぎ、かつ増援が来る前に決着を付けなきゃ……!)

 

「だんまり、か。まあ当然だな。……で、交渉の余地はない? 出来れば見逃して欲しいな」

「…………」

 

刺客の男はやや左半身で、左手を前に。そして右手の剣を腰に構えた。

 

(よし、奴は個人でも俺に勝てると踏んだな……なら増援はすぐには来ないはずだ。構えからして向こうのメインは刺突、ゆったりした衣服だし下に薄い鎖帷子くらいは着込んでるか。総じて俺の戦法との相性は悪くない。となれば……後は俺の“覚悟”だけ――)

 

一刀は意識を集中する。

更なる『氣』が身体を駆け巡り、その闘気(科学的に言えば、命を懸けんとする緊張によって分泌されたアドレナリン)が一時的に傷や毒による痛みを無視させる。

刀を握る右手に一瞬、大きな力が籠もり。

いつでも初動に入ることが出来るよう、ゆっくりと脱力する。

 

脳裏に浮かぶのは、祖父の教え。

 

『たとえどんな世界だろうと。人を斬り殺せば、罪科は確かにある。――自身の胸の内に』

 

その覚悟に激しく動悸する心を静め。

 

『信念を以って人を殺せば。生涯同じ信念を以って、自分自身を処罰することを覚悟しなくちゃあならねえ』

 

左足を前に、左半身(はんみ)に構え。

 

『逆転無用にして必罰。責任を持つから殺していいんじゃねえ。殺したから責任を持つんだ』

 

ゆっくりと刀を持つ右手を右耳の横まで持ち上げ、左手を添える。

 

『忘れるな。決して忘れるな。オメエが殺したモノ……命を、信念を、正義を、未来を』

 

一刀が構えるのは、示現流の流れを汲む『北郷流』の基本構え、『蜻蛉』。

 

『それを忘れた瞬間、そいつは外道――徒(ただ)の『人殺し』と成り果てる』

 

(……璃々を。俺自身を。延(ひ)いてはこの国を守るという、俺の“正義”の為に……)

 

「…………」

「…………」

 

対峙する二人の男。

空気がぴんと張り詰め、冬の低い気温が更に下がったような錯覚。

 

「……ハァッ!」

 

先手を取ったのは刺客の男。

右手の剣で突く――と見せて、左手の袖から飛刀を放つ。それに続くように本命の突きを見舞わんと、更に一刀へと肉薄した。

 

「!?」

 

だが、フェイントの飛刀も、本命である剣の刺突も、標的を捉えることは出来なかった。

彼には一刀の姿が、まるで消えたかのように感じられた。

一刀は、気配・力感を感じさせない北郷流の歩法『伏虎』を用い、飛刀と刺突を左に躱し、男の視界から逃れたのだ。

そして……一刀の目の前には、剣を持った右手を突き出した体勢の無防備な男。

 

 

(お前を――殺す!)

 

 

「ィィィィィエェェェェェィッ!!」

 

振り下ろされた一刀の日本刀は、刺客の身体を鎖帷子ごと袈裟に切り裂き。

 

その命を奪った。

 

「北郷っ、璃々! 無事か!?」

 

支所に思春が飛び込んで来た。

突如消えた白装束の兵どもに唖然としつつも、二人を探していた彼女へ、警備隊員が此処に二人がいる旨を伝えてくれたのだ。

 

一刀が刺客を斃(たお)してすぐ、急に外……街には喧騒が戻ったようだった。

どこからか、警備隊員も支所に戻って来た。

どうしていたのか訊くと、何故かここにいてはいけないと強迫観念に駆られ、外へと出ていたらしい。

 

また、彼らに刺客の死体を調べて貰うと、懐から砕けた拳大の珠と、解読出来ない文字の描かれた符が出てきた。

やはり霊妙な力で、人払いをしていたのだろうと一刀は考えたが、確証がある訳ではない。取り敢えずは城へと持ち帰り、麗羽なり彼女の資料作成担当の文官に調べて貰うことにした。

 

「ああ、思春。君も無事で良かった」

「当然だ。……これは、貴様が?」

「……まあね……」

 

刺客の死体を指し尋ねた思春に、一刀は力無く答えた。

 

「……怪我はないのか?」

「璃々は大丈夫。俺はちょっと刺されたり、毒にやられたけど……もう問題ないよ」

「刺さっ!? 毒!? 本当に平気なのか!?」

「平気平気。これでも祭に褒められるくらい頑丈になったからね。心配してくれて、ありがと」

「う……いや、心配というか、だな……」

「…………」

「本当に平気、なのか? どうにも精彩に欠けるというか……」

「んー……まぁね。……初めて、だったからさ」

「……それでか」

 

無論、人を殺したのが“初めて”だったということだ。

それを察した思春が眦(まなじり)を吊り上げる。

 

「だが、お前は――」

「ああ、分かってる。俺がこの世界に来てから。俺の指示で死んでいった人達は……敵味方合わせれば百万人を下らない。悩んでる訳じゃないんだ。ただ……やっぱ“重い”なって」

「……!」

 

一刀は自分の手を見つめ、そう語った。

淡々と。しかし悲しげに語る一刀の言葉に、彼の覚悟の程がひしひしと感じられる。

そして、一刀がその覚悟を持っていることなど当然のことだと今更に思い至ったことで、思春もまた口籠ってしまった。

 

沈黙が支配した支所、そして一刀と思春。

 

「――お父さん」

 

そこへ言葉を掛けたのは、他ならぬ璃々だった。

 

「っと、璃々。ここは……」

 

璃々の視界に死体が入らないよう、一刀が立ち位置を変える。

 

「いいの。璃々だって、お母さんと一緒に生きてきたんだもん。怖いのは怖いけど……大丈夫だよ」

「そ、そうか」

「そんなことより……」

 

璃々は支所の奥に置かれた、備品の椅子に座った。

 

「……お父さん。璃々がお父さんの“痛い”を和らげてあげる」

「「え?」」

 

璃々の言葉に、一刀と思春がぴたりと重なって疑問を返した。

璃々は椅子に座ったまま両手を広げる。

 

「お母さんが言ってたの。いい女は男が傷ついたとき、包み込んでやるものだって。だから、今日はいつもと逆に、璃々がお父さんを抱き締めてあげる!」

「あ……」

「ほらほら。こっち来てよ、お父さん」

「う、うん……」

 

一刀は椅子に座る璃々の目の前に跪き、その腿と腹に顔を埋めた。

璃々も、一刀の頭を包むように掻き抱く。

 

「……今日は格好良かったよ、お父さん。守ってくれて、ありがとう――」

「うん……。此方こそ、ありがとう。璃々……」

 

一刀の姿はまるで懺悔する咎人のようで。

璃々の姿は愛しき子を守る母のようで。

 

涙こそ流さなかったが、確かに感じていた負の感情。

一刀は、それが璃々の抱擁によって癒されていくのを感じていた。

 

「…………」

 

そして、思春はそんな父娘の姿を呆然と見つめていた……

 

その夜。

一刀は中常侍筆頭である小蓮に事情を説明して今晩の伽の予定を後日に繰り下げて貰い、一人私室の寝台に寝そべって天井を見つめていた。

 

(……人斬りの精神、か。こっちに来て間もない頃、戦争で“殺す”ことを覚悟したけど……。手や腕に感触が残ってるってのは大きいなぁ……頭から離れないや……)

 

しかし、それでも一刀は罪に打ちのめされることもなく、弱気にもなっていなかった。

戦場での経験と覚悟、祖父の教え、そして……璃々の優しさ、心配してくれる『仲間』たち。

その全てが彼を支えていた。

 

(流石に今晩は眠れないだろうけど……心に刻むには丁度いいかもな)

 

掌を開いたり閉じたりを繰り返し。改めて、奪ったモノを、自身の正義を、掲げる理想を心に刻み込む。

 

どれ程そうしていたのかは分からなかったが、瞑想状態だった一刀の意識は、自室の扉をノックする音で呼び戻された。

 

「……起きてるよ。どうぞ」

 

一刀がそう声を掛けると、扉が開き、そっと女性が部屋へと入って来た。

 

「思春?」

「…………」

 

入室して来たのは思春だった。

月明かりは逆光で、しかも彼女が俯き加減だった為、その表情はよく見えなかった。だが、一刀は彼女にどこか翳(かげ)を感じた。

 

「立ちっぱなしも何だし。こっち座らない?」

「……(こくり)」

 

一刀は身体を起こして寝台に腰掛け直し、思春にも座るように促す。

すると、思春はいつにない素直さで従った。

 

暫くはどちらも口を開かなかった。

一刀も、無理に聞き出すような真似は必要ないと分かっていた。こんな時間に思春がこの部屋を訪れたことなどこれまで一度とて無い。此処を訪れたというだけで、彼女が自分に何かを言いたいのは確かなのだから。

 

「……北郷」

「うん?」

 

かなりあってから、思春はおもむろに切り出した。

 

「貴様は……先だっての五胡との戦争の折、戦勝の宴で私に言ったな。『自身の“弱さ”を認められない王は、民に善政を敷くことは出来ない』と」

「ああ、言ったな」

「私は今日。人を殺したことに多少なりとも気落ちした貴様を見て。『何と惰弱な』と、そう思った」

「…………」

「だが……それで正しいのだ。信念もなく、人を殺すことになんの躊躇もない人間など、最早只の狂人だ。貴様が、己の正義を背負い、信念を持って殺したことなど明白だったのに。……私は、私は!」

「思春……」

「私は……璃々が貴様を慰める姿を見るまで……。かつて諭されたことすら忘れてっ!」

「――ありがとう、思春」

 

いつしか涙を零していた思春の頭を、一刀は優しく抱き寄せた。

 

「礼など言うな……!」

「いいんだよ。思春が俺のことを理解してくれていて、いっぱい心配してくれたことが分かったんだから。お礼で合ってるの」

「馬鹿を、言え……っ」

「もう、意地っ張りだなぁ……ふふっ」

 

思春の涙は自責の涙。一刀を理解しきれていなかった自分への怒りと悲しみの表れだった。

 

「今晩は眠れないだろうと思ってたけど……思春のお陰で眠れそうだ。――なあ、思春」

「…………なんだ?」

 

涙を拭きながら、一刀の腕を振り払い、距離を取る思春。

 

「そ、そんな警戒しなくても……折角だし、一緒に寝ないかって言いたかったんだけど」

「こっ、この好色男め……これでは蓮華様の仰る通りではないか!」

「別に下心があって言ってる訳じゃ……って、蓮華?」

「い、いや、何でもない! 貴様には関係ないことだ!」

 

(何かあったって言ってるようなものだぞ、その態度……。なんだか今晩の思春は随分可愛いらしい……)

 

実のところ、謝罪をしようとは思いつつも、一刀の部屋へ赴くことに躊躇していた思春を、蓮華が後押ししたのだ。

 

深夜、後宮の廊下をうろうろとしている挙動不審な思春。

そんな彼女を見つけた蓮華が声を掛けた。

 

「思春。こんな夜更けに一体どうしたの?」

「蓮華様……いえ、蓮華様のお手を煩わせるようなことでは」

「私が今日の事件を知らない訳がないでしょう。……一刀に用なのね?」

「…………はい」

「なら、何を迷っているの?」

「こ、このような時間に奴めの部屋を訪れるのは……」

「あなたは一刀の正室の一人。何も問題などないじゃない」

「私はっ! 蓮華様に侍る為に、形式のみ後宮へと入ったのです! 自身を正室だなどとは一度も……!」

 

視線を合わせようとしない思春に、蓮華はゆっくりと語り出した。

 

「あなたが一刀の正室となった理由……最初は思春が言っていた通り、私の為だけなのかとも思ったけれど。少なくとも今はもう――違うのでしょう?」

「それはっ……!」

「私が登(とう)を産んで以来、あなたが一刀へ辛く当たることが増えたわ。いいえ、それ以前から思春が苛立つことが増えていたわよね。その苛立ちの原因は……思春自身が一刀にどう接したらいいのか決めあぐねているから。でしょう?」

「…………」

 

無言のまま俯く思春。その沈黙こそが蓮華の言葉をはっきりと肯定していた。

 

「ねえ、思春」

「…………はっ」

「今日の事件であなたが何を感じたのかは分からないけれど……今までの苛立ちも、戸惑いも、今日のことも。全部まとめて一刀にぶつけてみたらどうかしら?」

「そ、それは……」

「大丈夫よ。一刀なら必ず思春の全てを受け止めてくれる。禅譲の折、劉協――睡蓮が言っていた通り。雪蓮姉様の激しさも、桃香の優しさも、華琳の厳しさも……私の全ても受け止めてくれた一刀だもの。何も心配は要らないわ」

「私の、全てを……? しかし、私は彼奴を理解することすら……」

「ふふっ、やっぱり。思春は一刀を“理解”したいのね?」

「っ! ……意地のお悪いことです……」

「ごめんなさい、ふふふ……。でも理解したいならば尚更だし、理解したいと思うということは、きっとあなたも一刀を……」

「そ、それ以上はご勘弁下さい!////」

「うふふっ、そうね。今までだって、一刀はずっと思春を見てくれていたわ……きっとあなたへの心も決まっている。あとはあなた次第。ある程度は近寄ってくれるだろうけれど、最後の一歩はあなたが踏み出さなくては駄目よ?」

「あ、う……」

「頑張って、思春。これは宙に浮いたままの、あなたの心に決着をつける、又と無い機会だわ――」

 

 

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「貴様という存在は……大き過ぎる。私の心は蓮華様が中心、いや全てと言ってもいい。蓮華様の幸せこそ我が幸せだった。だから……蓮華様が思い人たる貴様と結ばれることは祝福すべきことだったし、貴様が蓮華様以外の女に目を向けることを許せなかった」

「……」

「だが、蓮華様と貴様が笑い合う姿を見ても、私の苛立ちは募る……。貴様が私を信頼し官職を任じることに戸惑う……」

「…………」

「そして今日。璃々が貴様の心を慮り、慰める姿を見て……私は、愕然とした。何故私は貴様の悩みに、心の傷に思い至ることが出来なかったのかと……璃々に嫉妬に近い感情すら抱いた!」

「……思春」

「私は……もう私自身が分からない。だから……北郷」

「……うん」

「私を、抱け!」

「…………うん? は!? ど、どうしてそうなる!?」

 

突如飛躍した思春の理論に、一刀は動揺して思わず叫んでいた。

 

「蓮華様にも言われたが……こんなにも私が不安定なのは、私の心が宙に浮いているからだ。貴様という男の存在に、どう接するべきか……心を決める拠り所がないからだ」

「それを定める為に、俺に抱かれようっての!?」

「そうだ!」

「あのな、そんな理由あるか! つーか逆だろ!? 俺に抱かれてもいい……いや、抱かれたいと心が定まってから、そういう関係になるもんでしょ!」

「ぐだぐだ抜かすな!」

「理屈すら無くなったよ!?」

「……こんな機会でもなければ……!」

「…………機会?」

 

一刀の疑問の言葉に、はっとなり口を押さえる思春。

 

「今、“機会”って言った?」

「言っていない」

「いや、確かに聞いた。“機会”って……」

「言っていない!」

 

(……俺と、そういう関係になる“機会”――チャンスってこと、だよな……?)

 

「え、えっと……うん。嬉しいよ、思春////」

「違うと……! 顔を赤らめるな!」

「そこで否定されると、すっごいやり辛いんだけど……俺はどうしたらいいの?」

「むぐ……! もう、好きにしろ!」

「――分かった。じゃあ……思春。目を、閉じて……」

「……好色男め……」

「余計な言葉は要らない。俺は、俺の意思で、思春を抱くと決めたんだから」

「っ……好きに……しろ……////」

 

もう一度同じ台詞を口にし、ようやく目を閉じた思春。

一刀は隣から優しく彼女の肩を抱き、ゆっくりと口付けた。

 

 

 

続。

 

諸葛瞻「しょかっちょ!」

曹丕「そうっぺ!」

周循「しゅうっちの!」

 

三人「「「真・恋姫†無双『乙女繚乱☆あとがき演義』~~~☆彡」」」

 

諸葛瞻「お読み戴き多謝でしゅ。諸葛亮こと朱里の娘にして北郷一刀の第23子、しょかっちょでしゅ!」

曹丕「乱文乱筆なれど楽しんで戴けたかしら。曹操こと華琳の娘にして北郷一刀の第9子、そうっぺよ♪」

周循「少しでも面白いと思って下されば重畳。周瑜こと冥琳の娘にして北郷一刀の第25子、しゅうっちで~す☆」

 

 

曹丕「皆様。お久し振りとなってしまいましたが、ようやくお目見え出来ました……。というか何よ、四分割って。過去最大分割数じゃないの」

 

諸葛瞻「はわ~、ついでに二月には一作も投稿してないんでしゅねぇ。まあ理由につきましては『春』のナカガキにある通りでしゅ」

 

周循「えー、第23話は父さんの剣術修行を軸に、母さん達の懐妊や出産に絡んだエピソードを散りばめた形ですね。最後は、父さんの覚悟と思春様のデレ(?)で締め、と相成りました。また、璃々義姉さんが才能の一端を見せていますね」

 

曹丕「ある意味、今回は思春様がメインヒロインって感じね。これでようやく思春様も本当の意味で正室の仲間入りと言う訳ね。ただ、果たして皆様に納得のいく内容になっているかしら……筆者も相当不安みたいね」

 

諸葛瞻「一月待たされた挙句駄作だったりしたら最悪でしゅね~」

 

周循「言うな、しょかっちょ……」

 

曹丕「それから、今回のお話では武術の理論が大量に出てきたわね。この根拠はどこにあるのかしら?」

 

周循「あ、はい。メインで参考にしたのは少年画報社より発売されております漫画『ツマヌダ格●街』です。それにネット上で漁った剣術・武術の理論と、筆者の柔道・空手(ちょっとだけチャンバラ剣道)の経験から理屈を捏ねているそうですよ」

 

諸葛瞻「参考にした漫画は、格闘理論もメイドも好きという雑食な方にはお勧めの一品だそうでしゅ」

 

 

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○議題:璃々の誕生日について

 

曹丕「23話~春~の最初のエピソードで、璃々お義姉様の誕生月が12月であると明記しているわね」

 

諸葛瞻「そうでしゅね。これはこの“外史”における完全な二次設定になりましゅ」

 

周循「お気付きの方も多いのではないかと思われますが、12月を誕生月とした根拠は単純に“瑠璃(ラピスラズリ)が12月の誕生石だから”だそうです」

 

曹丕「お義姉様の『璃』の字は玻璃(はり)、つまりガラス或いは水晶の異称にも使われているし、どうにも弱い根拠ねぇ……」

 

周循「『璃』という字は、元々サンスクリット語(古代インドの言葉)で書かれた仏典を音訳表記するために作られた字だそうで。単独では日本語的には意味を持たないのだそうです」

 

諸葛瞻「ご母堂である紫苑しゃまは、淡紫色の花が真名でらっしゃいましゅし、紫色の宝石である『瑠璃』のイメージの方を採用した、ということで」

 

 

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○議題:『北郷流』の技法の名称など

 

周循「続いては、“現代の夢”で父さんが習得すべく頑張っている剣術、『北郷流』についてですね」

 

曹丕「前回のあとがき演義では北郷孫十郎について注釈を付けたけれど、今回はその流派の方ということね」

 

諸葛瞻「はいでしゅ。作中でも表現していましゅが、『北郷流』は示現流およびタイ捨流の剣士であった孫十郎が、長い修行の果てに、数々の剣術・武術の理論を取り入れて開いた流派、という設定でしゅ」

 

周循「ここで取り上げたのは、その技術の名称において既存と創作が入り混じっている為、誤解のないよう、念の為に説明しておこう、という趣旨です」

 

曹丕「まず、既存……史実として現実に存在する名称は?」

 

諸葛瞻「えー、示現流から『蜻蛉』、『雲耀(うんよう)』。新陰流から『転(まろばし)』辺りでしゅね」

 

曹丕「少ないわね。では、創作なのは?」

 

周循「現時点で出ているのは『伏虎』、『跳虎』、『虎歩』、『陰足』と、歩法関連の名称ですね。今後、たまーに創作の北郷流の技法が出てくると思われますが、必ず手前に“北郷流”と明記するそうです。逆に、現実の流派の技法を取り入れたものに関しては、“●●流より受け継ぎし”とか、基となった流派を書くとのことで」

 

曹丕「つまり、“北郷流『○○』”とあったら創作と思えばいいのね?」

 

諸葛瞻「そういうことでしゅね」

 

 

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○議題:桃香の他ヒロインへの敬称の区別について

 

周循「気にならない方は気にならないかと思われますが。書いていて筆者自身も“?”と首を捻った部分だそうで」

 

諸葛瞻「具体的には、“穏さん”と“春蘭さん”の呼称に自分で設定しておいて少々違和感を覚えたそうでしゅが」

 

曹丕「本作では単純な法則で区別しているのよ。桃香様自身から見て年上は“さん付け”、同輩以下は“ちゃん付け”としているわ」

 

諸葛瞻「この法則を採用している以上、実はしょかっちょ達、皇女たちだけでなく、ヒロインであるお母しゃま達にも年齢を設定してあるのでしゅ」

 

周循「つまり穏様や春蘭様は桃香様より年上の設定なのです。列挙してみましょう。上→下で年齢の降順です」

 

 

紫苑・桔梗

葉雄(華雄)

雪蓮・冥琳

麗羽・華琳・春蘭・秋蘭・霞・穏・思春

桃香 (上下に挙げられてないヒロインと北郷一刀)

地和・亞莎・明命

詠・蒲公英・桂花・人和

朱里・雛里・月・季衣・流琉・風・小蓮・美羽(・睡蓮)

鈴々・音々音・美以(南蛮兵)

 

 

曹丕「原作中での呼び方と見た目(体型)を根拠とした、筆者の独断と偏見による設定です。悪しからずご了承下さい」

 

諸葛瞻「異論も多そうでしゅね。設定上では桃香様の二段上まではプラス2歳、下はマイナス1歳ずつだそうでしゅ。マイナス方向が細かいのは、雛里しゃまが詠しゃまを“さん付け”、月しゃまを“ちゃん付け”で呼称していたり、張三姉妹の方々の年齢差を考えてとのことでしゅ」

 

周循「ともあれ、この設定を基準とし、穏様と春蘭様が年上であることから、桃香様のお二方への呼称が“さん付け”となっている、という訳なのでした」

 

曹丕「ほぼイメージなので、深く考える必要性は全くないわね……雛里様の例を見ても、たんぽぽ様は“ちゃん付け”だし。風様に至っては、ある程度仲が良くなると全員“ちゃん付け”のようですものね」

 

 

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周循「それではゲストコーナーへと参りま――」

 

 

謎の声「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

袁燿「今日は私のコンサートに来てくれてありがとーーーー☆」

 

謎の声「閣下! 閣下! 閣下! 閣下! 閣下!(以下エンドレス)」

 

袁燿「でも、ちょぉ~っと応援が足らないかなぁ?」

 

謎の声「かっかっかっかっかっかっかっかっかっかっかっか(以下エンドレス)」

 

袁燿「残念だけど今日はここまでなの。でも……次回も、来てくれるよね?(ぎろり)」

 

謎の声「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

三人「「「…………(微妙に既視感が……)」」」

 

 

張猗「燿おねえさま、サイコーでぇす! どぉ~ぞ、タオルでぇす」

 

袁燿「ふぅ~。ありがとう、猗(い)♪ さ、自己紹介しましょう。袁術こと美羽と張勲こと七乃の第1子、袁燿(よう)です。諱は史実の袁術の実子から。皇帝・北郷一刀様におかれては二人目の義理の娘となります。以後お見知りおき下さいませ♪」

 

張猗「みなさぁん、ジューシーでぇすか? ポーリーしてまぁすか? 張勲こと七乃の第2子にして北郷一刀の第34子、張猗(い)でぇす。史実の張勲は系譜が不明でぇすのでぇ、諱は袁燿の姉妹の夫で義兄弟の黄猗なる人物から拝借したそうでぇす」

 

 

三人「「「…………」」」

 

袁燿「三人とも、固まっちゃってらっしゃるわね」

 

張猗「うーん、燿おねえさまの迫力に押されちゃったんじゃないでぇすか?」

 

曹丕「はっ!? お、思わず呆然としてしまったわ……。ゴホン、袁燿お義姉様は皇太子・董白様【月】と同じ学年で、既に小学部を卒業されています。張猗は年少下級(小3クラス)、しょかっちょ・しゅうっちのひとつ下の学年ね」

 

諸葛瞻「はわ? 今回は袁胤(いん)ちゃん【美羽】も一緒のはずでは?」

 

袁燿「そのはずだったのですけど。逃げられてしまいまして」

 

曹丕「逃げられた?」

 

張猗「胤おねえさま【美羽】ったら、次回が郭奕(えき)おねえさま【稟】のご出演だと知ったら、『わらわも郭奕【稟】と共に次回で出るから、今回はパスするのじゃ! 燿ねえさまと猗がいればいいじゃない!』と。いつもなら首に“罠を掛けて”でも連れてくるんでぇすけどぉね(にやにや)」

 

周循「……首に“縄を付けて”、の間違いだが……寧ろ正しいのだろうか……」

 

諸葛瞻「あ、注釈をば。袁胤ちゃん【美羽】は、郭奕お姉しゃま【稟】を“呼び捨て”で呼称しゅるのでしゅ。詳しくは次回のあとがき演義で」

 

袁燿「私や猗より、郭奕様【稟】を選んだってことなのかしら。ふふふ……」

 

張猗「そうでぇすね~。ワタシは寂しいでぇす。この想い、どう伝えて差し上げましょうか。ああ、想像すると……うふ、うふふふ……♪」

 

三人「「「…………」」」

 

 

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○質問:特技・特徴は何ですか?

 

袁燿「冒頭でもそれっぽいことをしましたけれど。私の特技は『歌唱』と『舞踊』です。ええっと、あのネタはもう解禁していいのでしょうか?」

 

諸葛瞻「あー、本編で張三姉妹のお母しゃま方も正室に迎えられましたし、いいんじゃないでしゅか?」

 

袁燿「分かりました。私は現在(黄平12年)、人和様が設立された演人介紹公司(芸能プロダクション)『天衣☆無縫』に所属しておりまして。洛陽学園に通いながらアイドル活動をしています。これでも一応、売れっ子なんですよ♪」

 

諸葛瞻「美羽しゃま譲りの蜂蜜色の金髪と歌唱力、七乃しゃま譲りの知性とプロポーション、しょして……こう言ってはアレでしゅが、ご母堂お二人への反面教師の賜物であるお嬢様然とした雰囲気から、しょのアイドルとしての素質を見出した人和様がスカウトしたんでしゅよね」

 

袁燿「はい。目指せ、アイドル界の覇王! なぁ~んて♪」

 

周循「……一説によると、お嬢様然とした雰囲気は“猫かぶり”という噂……」

 

袁燿「まあ。それはどういう意味なのでしょう、周循様?(ぎろり)」

 

周循「いえいえ! 飽く迄も噂ですよ、噂! はっはっはっは!(目線を合わせない)」

 

曹丕「(仕方ないわね、助け舟を出してあげますか) 袁燿お義姉様、ここでは“しゅうっち”でお願いします」

 

袁燿「あっ、そうでした。申し訳ありません……プロ失格です……不覚っ……」

 

曹丕「お気になさらないで下さい。舞台の上、という訳でもありませんから」

 

周循「(た、助かりました、そうっぺ) あっと丁度良いので説明を。袁燿義姉さんは璃々お義姉様と同様、姉妹全員の義理の姉にあたります。しかし、ご自身が帝位継承権をお持ちでないこと。ご母堂が正室ではあっても要職には就かれていないことを理由に、妹達全員を“様付け”で呼ばれています。例外は血族である袁胤【美羽】と張猗の二人のみですね」

 

袁燿「義姉妹とは言え、そのあたりの線引きはしっかりしておきませんとね。私の立場は一応『外戚』にあたりますが、所詮は一芸人です。皇帝の血を引く方々とは明確に立場が違いますから」

 

曹丕「お父様は気にするなと仰ってるのだけれど……」

 

袁燿「私程度の学力では国の運営などでお義父様のお役に立つことは難しいでしょう。ですから、私は私の最大の長所である『歌』で国家に貢献する所存です。その為に洛陽学園でも芸能科に所属しておりますし、となれば尚更、私個人は一芸人でしかありません。故に義姉ではありますが、戒めの意味も含めて、義妹達へ尊称を用いることにしています」

 

諸葛瞻「はぁ~……とても美羽しゃまのご息女とは思えましぇんねぇ……などと言っては怒られちゃいましゅけど」

 

袁燿「ふふっ、いいのですよ。母は……美羽お母様はいつまで経っても子供っぽくて困ります。お義父様や雪蓮様によると随分マシになったそうですが。七乃お母様は逆にそれを『つまらない』などと零す有様で。こちらはこちらで困ってしまうのですけれど」

 

諸葛瞻「苦労されてるのでしゅね、袁燿お姉しゃま……。しょれでは続いて張猗ちゃん、どうじょ~」

 

張猗「オーゥラァーイット! という訳でぇ、ワタシと言えば胤おねえさま【美羽】、胤おねえさま【美羽】と言えばワタシ張猗でぇす! 何が“という訳”なのかは聞いちゃ駄ぁ目でぇすよ~!」

 

曹丕「……妙にテンション高いのもあなたの特徴よねぇ。まぁそれは置いておくとして……あなたは袁燿お義姉様の同母妹であると同時に、袁胤【美羽】の側近扱いなのよね?」

 

張猗「ザァーッツライト! ワタシこと張猗は馬鹿で愚鈍で考えなしで低能というよりは無能と言った方が正しい胤おねえさま【美羽】に侍り、仕え、ご奉仕する為に生まれてきたのでぇす!」

 

周循「そ、そこまで言うか……これも愛ゆえなのだろうか……?」

 

諸葛瞻「でも袁胤ちゃん【美羽】も張猗ちゃんを信頼してましゅし……。実際、年少下級では程姫ちゃん【風】、葉貴ちゃん【葉雄】と並んでこの三人が断トツの成績を誇るのも確かでしゅよ」

 

張猗「ワタシの全ては胤おねえさま【美羽】の笑顔と泣き顔の為にあるのでぇすよ!」

 

曹丕「七乃様も十分アレだけど、張猗の愛も随分歪んでるわね~……」

 

周循「特徴としては、やはりその口調ですね。姉妹でも屈指の天界語(横文字、くらいの意味)好きで、“です・ます”や“だ行”が微妙に間延びする点でしょう」

 

諸葛瞻「ここまでで十分に分かって頂けてると思いましゅけどね……」

 

 

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○質問:特に仲の良い姉妹は?

 

袁燿「胤【美羽】と猗は別格としまして……。郭奕様【稟】とは仲が良いですね。畏れ多いですが、ファンと言って下さってます。偶に歌の指導をしたりもしますね。まあ郭奕様【稟】がアイドルの道を進むのかどうかは分かりませんが」

 

諸葛瞻「確かに郭奕お姉しゃま【稟】もお歌がお上手でしゅね。袁燿お義姉しゃまの指導を受けていたというなら納得でしゅ」

 

袁燿「私自身、まだまだ未熟者。本当なら教えるような立場ではないのですけれど。それ以外ですと、魏熾(し)様【焔耶】にもよくして頂いていますね」

 

曹丕「あら、意外な関係ね。あの子は武官寄りだし、袁燿お義姉様とは縁が薄そうだけれど」

 

袁燿「うふふ♪ ああ見えて魏熾様【焔耶】は歌がお好きなんですよ。人前で歌うのは恥ずかしいようですけれど」

 

曹丕「成る程ね」

 

袁燿「また、音楽関係で陳律様【音々音】や孟祝融様【美以】と話す機会も多いです。どう言う訳か、ちょっと怖がられてる感じがするのですが……」

 

三人「「「…………」」」

 

袁燿「……何か?(ぎろり)」

 

三人「「「いいえ、何でも」」」

 

袁燿「後は、人和様にお世話になってますので、その関係で張刻(こー)様【天和】、張槓(かん)様【地和】、張順(しゅん)様【人和】と食事などをご一緒することもよくありますね」

 

周循「成る程、それは納得ですね。騒がしい食事風景が目に浮かぶようです。……さて、張猗はどうだ?」

 

張猗「モチのロぉ~ンで、最愛なる姉君であるのは胤おねえさま【美羽】でぇすよ!」

 

周循「……うん、それはもういい。他には?」

 

張猗「…………他?」

 

四人「「「「…………」」」」

 

袁燿「うふふっ、猗ったら面白いわぁ……。胤【美羽】が一番なのは分かっているけれど。二番目が出てこないのは――何故かしら?(ぎろり)」

 

張猗「はっ、は、ハーッハッハッ! モチロン忘れている訳などぉありませんよ~(汗) 当然、次は燿おねえさまでぇすとも!」

 

三人「「「…………」」」

 

張猗「え、え~、よくお世話になるのは荀惲(うん)おねえさま【桂花】でぇす。どぉうやったら効率的に胤おねえさま【美羽】を泣かせ――もとい、笑顔に出来るのか、相談に乗って貰ってまぁす」

 

曹丕「別に言い直さなくてもいいんじゃない? ……それにしても、なんだかんだ言って荀惲【桂花】も彼方此方と繋がってるわね」

 

周循「まあ彼奴の智謀は、ある意味で引っ張りだこなのではないでしょうか。姦計陰謀お手のモノですし、冷静な判断力もありますから相談役としても十分です。何より、常に“中立”ですからね」

 

曹丕「まあ、だからこそ私も参謀として頼んでいるのだけれどね……」

 

張猗「それから、呂琮おねえさま【亞莎】にもよく相談に乗って貰ってるでぇすよ。いやいや、呂琮おねえさま【亞莎】の術数も荀惲おねえさま【桂花】に負けず劣らず、悪戯心に富んでいてヴェリーグゥッッドでぇす!」

 

周循「呂琮【亞莎】も協力してるのか……」

 

張猗「協力、ということなら鳳宏おねえさま【雛里】もお手伝いしてくれまぁすねー。う~ん、流石は胤おねえさま【美羽】。おねえさま達にも大人気でぇすねー!」

 

諸葛瞻「ほ、鳳宏ちゃん【雛里】まで……(がっくり)」

 

張猗「それと。万一、胤おねえさま【美羽】の玉の肌に傷でも付いたら大変でぇすからね。魏熾おねえさま【焔耶】とも常に連絡を取っていまぁすよ~」

 

曹丕「意外に万全を期してるのね……」

 

張猗「オゥッフコォーース! 全ては胤おねえさま【美羽】の為でぇす!」

 

袁燿「うんうん。それでこそ猗だわ♪ これからも胤【美羽】を助けてやってね」

 

三人「「「…………」」」

 

 

 

諸葛瞻「……何だか妙に疲れたでしゅ……え~、プロットの変更に伴い、以後のあとがき演義の出演者も変更と相成りました」

 

第24話 : 稟と美羽の娘達(らぶらぶ姉妹)

第25話 : 桃香・愛紗・鈴々の娘達『桃園結義の三公主』

第26話 : 『真』で消えたあの子ら

第27話 : 司会三人組

 

諸葛瞻「次回のあとがき演義には今回たくさん名前の出た袁胤ちゃん【美羽】と、郭奕お姉しゃま【稟】に来て頂く予定でしゅ。26話のゲストは……ここまで来たら、『娘編を含めればオールキャラになるようにしよう!』ということらしいでしゅ」

 

曹丕「本編では、続いて黄平3年の出来事を描いていくそうよ。“ナカガキ”にあった通り、ここからはまた不定期になってしまいそうなのよね……その分、多くのヒロインにスポットを当てられるようにするそうだけれど」

 

周循「お待ち下さっている読者様には本当に申し訳ありません。筆者もスケジュールの合間を縫ってこつこつと書いていくそうなので、どうかのんびりと構えて頂けますよう……それではまた次回! せーのっ」

 

 

五人「「「「「バイバイ真(ま)~~~☆彡」」」」」

 


 
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