No.131326

種の救世主さま、お願いします 第1章

スーサンさん

オリジナルファンタジー小説です。セリフが少ないのが悩みどころです。

2010-03-21 06:53:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:671   閲覧ユーザー数:658

 人の混雑するセンター街で、隆人は男友達の竜太と一緒に談笑しながら、先ほど観ていた映画の内容を語り合っていた。

 観ていた映画はアクション巨編の『世界は俺のもの』という、主人公が世界征服をしながら、世直しをするという、いいのか悪いのか、よくわからない微妙な内容の映画であった。

 もっとも、竜太はこの中途半端な内容の映画が偉く気に入ったらしく、映画からの帰り道、始終、映画の感想を述べていた。

「やっぱり、世界をのっとろうとして、逆に女の尻に敷かれるエンディングは泣けたな?」

「泣けたというよりも、違う意味で泣けてきたぞ、あの映画は?」

 世界征服一歩手前で、主人公の奥さんが、買い物帰りが遅いといって、主人公をメッタメタに折檻し、家に帰るという、なんともシュールな終わり方……

 世界広しといえど、きっと、この映画を気に入るのは、この男しかいまい。

「さて……じゃあ、俺は買い物をして帰るから、ここでお別れな?」

 商店街に続く道を指差し、隆人は竜太と別れると一回、伸びをし、嬉しそうにニコニコと笑った。

「今日の晩御飯なんだろうな……姉さん、俺の好きなもの入れてくるかな?」

 家で家事をしてるであろう、姉のエプロン姿を想像し、隆人は顔を赤らめた。周りの視線が冷たくなるのを感じ、慌てて走り出した。本人も気付くほどの、変人ぶりだったんだろう。

 十分もしないうちに、商店街の入り口前の横断歩道に立つと、隆人は頭をボリボリと掻き、イライラした。

「この信号の待ち時間が嫌いなんだよな……?」

 信号を待ってる間にどれだけ、時間を短縮できるか。隆人は慣れもしない計算を頭の中で演算し、次第に頭が痛くなってきたので、考えるのをやめることにした。

 もっとも、その無駄な考えが良かったのか、信号はとっくに青になっており、隆人は自分の妄想癖に自嘲して、横断歩道の白線をまたぐように歩き出そうとした。

 丁度、その時に隆人はなにかに足を取られ、ズッコケ、鼻を打った。

「いって~~……」

 涙目で起き上がると、隆人は足元にある石を見つけ、持ち上げた。

「誰だ。こんなところに石なんて、置いた奴は?」

 石を見つめなおし、隆人は、感嘆したように声を上げた。

「……綺麗に光る石だな?」

 宝石でないのに、キラキラと太陽の光を反射し、七色に光る不思議な石に、隆人は子供のように目を輝かせた。

「まぁ、ここにあると邪魔だし、信号の柱の横にでも置いてってやるか?」

 ゆっくり、腰を上げると隆人の視界が歪んだ。

 拾った石を中心に自分を包んでいた世界が光だし、隆人の意識をだんだんと消していった。いったい、なにが起こっているのか……

 隆人はわからないまま、気を失ってしまった。

 

 

 気付くと、隆人は木造立てのコテージを髣髴させる綺麗な部屋の隅のベッドに寝かされていた。

「ここは……?」

 見たこともないコテージの中で隆人は自分の置かれている状況が理解できず、夢かと思い、寝直すことにした。だが、たっぷり寝たせいか、頭が妙にさえ、二度寝する気にはなれず、仕方なく、ベッドから起き上がった。

「あれ、俺……下着だけ?」

 隆人は自分の着ている服が下着だけなのに気付き、顔を真っ赤にして、自分の服を探した。服は見つからず、誘拐されたのかと、嫌な想像を浮かべ、いったん、外に出ることにし、ドアノブに手をかけようとした。

「あれ、もぅ、目が覚めた?」

 ゴチンッとドアのカドに鼻を打ちつけ、隆人は本気で泣いてしまいそうな顔で膝を曲げ、鼻を押さえた。

 本日、二度目の鼻打ちであった。

「俺の鼻がなにか悪いことしたか?」

「大丈夫……?」

 心配そうに自分を見下ろす少女に隆人は涙を拭い、彼女の素性を聞いた。

「私……私の名前はミリー。ミリー・チェスター。モンスターハンターを生業にした、C級ハンターよ?」

「モンスターハンター?」

 ピコピコとボタンを連打する少年の顔を思い浮かべ、隆人は涙声で、いった。

「冗談はよしてくれ。それに、そのコスプレ。ちゃんとした服着たほうがいいよ?」

 今度はミリーが呆れた。

「コスプレってなによ。あんただって、変わった服着てたじゃない?」

 窓の外をアゴで指し、物干しにかけらた服を見せるとミリーは両腰に手を置いた。

「あんた、いったい、どこの出身。あんな、心もとない服着て、川で倒れて?」

「心もとないって……普通の服だろう。それに川に流されていた?」

「覚えてないの? あんた、今朝、川で倒れているところを私が運んで、看病してあげたのよ?」

「看病って……ハクション」

 途端、寒気を覚え、くしゃみをすると、隆人は鼻を摩った。ミリーの手が隆人の身体を優しく支えた。

「ほら、あんた、まだ、身体が冷えてるんだから。ベッドで寝なきゃダメよ?」

「あ、いや……でも、他人の部屋のベッドを使うのは?」

 顔を真っ赤にする隆人にミリーは声を荒げた。

「黙りなさい! 体調を崩しかけてる男は、黙って、女のいうことを聞くのよ!」

「……」

「なによ?」

 ミリーの顔まで真っ赤になり、隆人は照れたように尋ねた。

「君、年は?」

「ん……十六よ?」

「そっか……」

 ガッカリしたようにため息を吐く隆人にミリーは不愉快そうに眉をひそめた。

「なによ、そのガッカリした顔は?」

「いや、別に?」

 慌ててごまかし、隆人は首を左右に振った。よくみれば、身長は自分よりも頭一個分小さい。顔もどちらかというと幼顔だし、髪の色に限っては……

「真っ赤!?」

 ミリーの髪の色に気付き、隆人は目を仰天させた。どぅ贔屓目で見ても、今、目の前にいる少女の髪は血の色をきれいにしたような真っ赤な色をしていた。

 なんとも自然に色づいた真っ赤な髪に隆人は目をゴシゴシ擦り、アメリカンホームコメディーの父親役のように大げさな朗らかな笑顔を浮かべた。

「なんだか、ファンタジーの世界に来た気分だ?」

「ファンタジー……なにそれ?」

「おいおい、ファンタジーも知らないなんって、現代っ子の文字離れが、深刻だな?」

 まだ、役になりきってるのか、声色までホームコメディーっぽく変え、笑う、隆人にミリーは苛立たしげに隆人の頭を小突いた。

「なにいってるの、変なこといってるのは、あんたでしょう。第一から、どこから来たの?」

「どこからって、俺は陽燐町っていう、町から……?」

 さらに気付いた、自分は商店街の入り口にいたはずなのに、なぜ、ここにいる。

 彼女の話だと、自分は川で倒れているところを助けられ、ここで眠っていたらしい。

 だが、陽燐町に川なんかない。比較的都会だから、こんな田舎町のような、コテージだって、あるわけがない。

 じゃあ、ここはどこだ。嫌な予感を全身に感じ、隆人は彼女を跳ね除け、外に出た。絶句した。

「見たこともない、でっかい鳥が、空を飛んでる?」

 鳥というよりも、モンスターと総称したい、でかい鳥の姿に隆人は顔を真っ青にして、ミリーの両肩を握った。

「あの、ここどこ……もしかして、ここって、俺の知ってる世界じゃないの?」

「なにいって……?」

 隆人の両肩を外そうとしたが、ミリーの目が鋭くなった。真摯すぎるほど、はっきりした目。恐らく、本当にここがどこだかわからないらしく、ミリーはため息を吐いた。

「ここは救世主の作った国『リーニス』よ?」

「リーニス……救世主の作った国?」

 ミリーの説明に、隆人は意味がわからず、目を白黒させた。

「あんた、本当になにもの……見たこともない服に言ってる言葉も理解できないし。もしかして、本当に違うところから来たの?」

「……もしかして、ここって、本当にファンタジーの世界?」

「質問してるのは私。返事はそっちが先!」

「あ、は、はい!」

 喝を入れられ、直立すると隆人はなぜか、敬礼までして、答えた。

「じ、自分は林田隆人っていいます。陽燐町っていう、街から来ました!」

「陽燐町……林田隆人? 聞いたこともない国に名前も変な名前ね?」

「いや、一応、投げれば当たるような名前なんだけど……」

 沈黙が生まれ、どぅ切り返せばいいのか、隆人は困った。ミリーの顔がふとはにかみ、彼の胸を小突いた。

「なんとなくだけど、あんたの正体がわかったわ」

「正体?」

「そぅ、あんたの話と私の知ってる知識の相違を見る限り、あんたは別のところから来たのは間違いなさそうね。しかも、かなり文化が違うのも伺える。服一つでも、文化の違いがハッキリ出てる」

「そ、そぅなるね……ってことは、ここは?」

「あんたの言葉を借りれば、ここはファンタジーの世界。どこから、どこまで違うのか、わからないけど、あんたの言う、ファンタジーっていうのを教えて?」

「う、うん……ファンタジーっていうのは」

 そこから先、隆人は自分の知っているファンタジーの世界について、こと細かく説明した。

 最初は半信半疑で話していた隆人だが、ミリーの真剣に耳を傾ける姿勢に自身も、ここが自分の住んでいた世界と違うことを実感させられ、胸を縮ませた。

「……信じたくないけど、俺は違う世界の人間なのか?」

「あんたのいう、ファンタジーの世界だと思えば、気が楽でしょう。だいたい、この世界の常識と重なる部分は多いし?」

「うん……でも、そぅなると、俺、どぅやって、帰ればいいんだろう?」

 シュンッと子犬のように落ち込む隆人にミリーは慌てて、慰めた。

「ああ、そんな気に病むことないわよ。ほら、服が乾いたら、ギルドに行こう。そこ、色々な人間がいるから、もしかしたら、別世界から来た人間の情報も知ってるかも?」

 私も付き合うと胸をトンッと叩くミリーに隆人はかわいそうなものを見る目で顔を背けてしまった。殴られてしまった。どぅやら、ウィークポイントだったらしい。

「あ、そぅだ……あんたが、流されてるときにも、肌身離さず持っていた石なんだけど……?」

「石?」

 そんな物、持っていたかと思い、部屋の真ん中に置かれた丸テーブルを見て、隆人は首をかしげた。丸テーブルの上の腕輪を取ると、ミリーはニコッと笑った。

「なんだか、大切そうに持ってたから、なくさないように腕輪として加工しておいたから。ちょっと、お節介だったかな?」

「あ、いや、そんな事?」

 照れ笑いを浮かべるミリーに隆人はどぅしたものかと腕輪につけられた石を見て、仰天した。

「これだ。これを触れた瞬間から、記憶が抜け落ちてるんだ!?」

「へぇ~~……この石を触れたときに? 綺麗な以外、これといって、特徴があるとは思えないけど?」

「だよね~~……気のせいかな。というよりも、一つ、ツッコミたいところがあるんだけど、いいかな?」

「答えは?」

「聞いてない」

 コホンッと咳払いし、隆人は腕輪に付けられた鉱石の周りにはめ込まれたようなダイヤルのような輪を指差した。

「なんで、電話や金庫みたいなダイヤルがついてるわけ?」

「電話は知らないけど、金庫って意味はわかったわ。簡潔にいうと……」

「いうと?」

「好きなのよ、くるくるカチカチいうものが」

 二人の間に妙に気まずい空気が生まれた。数秒と気まずい空気が流れた。隆人は気まずい空気に耐えられなくなったのか、途端におかしそうに腹を押さえ、笑い出した。

「ストレス抱えた現代人ですか……」

「いやなら、返してよ! せっかく、加工してやったのに!?」

 拗ねたように腕輪を奪おうとするミリーに隆人も慌てて謝り、腕輪を自分の左腕につけた。腕輪を付けられ、ミリーも機嫌が直ったのか、得意な笑顔でうんうんと頷いた。

「似合ってるじゃない……結構大きめな石だけど、あんた、タッパもあるから、返って、バランスがいいみたい?」

「よく独活の大木っていわれるよ?」

「ひがみ言葉ひがみ言葉……むしろ、背が高いと格好いいわよ? まぁ、私は同年代の女の子と比べると背が高すぎるのが難点だけど?」

「いくつ?」

「ひゃ、百六十七……」

「気にする程度じゃないよ?」

 ニコッと微笑まれ、ミリーは額に青筋を立てて、隆人の両方の頬を引っ張った。

「偉そうに……笑みを浮かべるけど、今、あんたの身元を預かってくれるのはうちだけって、ことを忘れないでね……」

 ぎゅ~~ぎゅ~~と遠慮無しに両方の頬を餅のように引っ張られ、隆人は涙を流しながら、許しをこいた。

「イタイイタイ、わかってるから、頬を引っ張らないで?」

「まったく……」

 パッと頬が開放され、隆人は痛む頬をさすりながら、ミリーを見た。ミリーも、これからどぅするかを考え、綺麗な赤い髪を掻いた。

「とりあえず、ギルドってところに行きたいんだけど?」

「そぅね……まずは情報からね? ただし!」

 ムギュッと鼻の頭を押すようにミリーの指が隆人の鼻を豚のように突いた。

「ギルドは荒くれ者が多いから、絶対に私とはぐれたり、勝手な行動を取らない! 約束してくれる?」

「う、うん……」

「よろしい!」

 鼻を開放し、晴れやかな笑顔を向けるミリーに隆人はまたくしゃみをした。

「あ、服が乾くまで時間があるから、部屋で大人しくしてなさい。その間に、ここの常識を教えるから?」

「わかった……ありがとう。ミリーさん?」

「呼び捨てで構わないわよ。私も、あんたのこと隆人と呼ばせてもらうから?」

 かわいくウィンクをされ、隆人は顔を真っ赤にし、家に戻っていった。

 

 

 一時間し、服がだいぶかわいたころに、隆人とミリーはリーニスの街中を探索しながら、ギルドに続く道を歩いていた。

 外国の街並みのように情緒あふれる建物の造りに、隆人は珍しいものを見るように首を左右にふった。

 ファンタジーの世界というから、もっと、神聖的なイメージと思い描いていたが、実際のところは自分の住んでいる世界とそんなに変わらず、のんびりしたイメージをかもし出していた。

 もちろん、ゲームセンターや、ジャンクフードが売ってるわけでないが、間近でみる、リーニスの街並みはテレビでよく映される、文化的な匂いを出すだけで、強い違和感を感じることはなかった。

「どぅ、やっぱり、自分のいた世界と違う?」

「うん……いや、テレビで見た世界と似てるなと思って?」

「テレビ……なにそれ?」

「あ、そっか、この世界にはテレビがないのか。なんって言ったらいいかな?」

 テレビのうまい説明を考えると、ミリーも呆れたように制止した。

「いいよ、ムリして語れるようなものじゃないなら」

「ごめん……」

 素直に頭を下げる隆人にミリーは苦笑した。いきなり、苦笑され、ムッと来るものもあったが、ここで、機嫌を損ねられるとそれこそ、自分はただの根無し草になってしまう。隆人は出来る限りの自制心で怒りを抑え、少し、ぶっきら棒に言い放った。

「で、ギルドはまだ?」

「もぅちょっと……大丈夫、私がいれば、たいていは大丈夫だから?」

「頼りにしてるよ。実際、俺、君に見捨てられると、行き場がないんだから?」

「私があんたを捨てる……」

 意味深に間をおき、次第にミリーの顔がクスクスと歪んだ。

「男の子の運命を握る女。一度やってみたかったシチュエーションなのよね?」

「悪女に憧れてどぅするんだよ。まったく……」

 隆人すら呆れる妄想に、ミリーは照れたように笑い、指を突き刺した。

「でも、実際、あんたの未来は私が握ってるも同然なのよね?」

「……勝手にしてくれ」

 拗ねたように顔を背ける隆人にミリーはおかしそうに笑い、笑顔を浮かべた。

「膨れない膨れない……ギルドにいったあと、どこか、食べに行きましょう。おいしい食事を作ってくれる場所があるから?」

「……まぁ、いいけど?」

「そぅそぅ……いい子にしてたら、ちゃんと置いてあげるから、いいわね?」

 犬猫のように扱い、ミリーは隆人を見ようとした。だが、見た瞬間、ギョッとした。

「子供相手に、なにを癇癪上げてるんですか……大人として恥ずかしい」

 憮然とした態度で大の男二人を睨み付ける隆人にミリーは頭痛を覚えた。

「あいつ、なにやってるの……」

 よくみれば、隆人の後ろには怯えた顔で足に抱きつく、子供がいた。地面には散乱し、踏み潰されたリンゴ。どぅやら、子供を庇って、男達と対峙していることは理解したが、どぅ考えても、勝ち目があるように見えない。ミリーはため息を吐き、背中の弓筒に手を入れた。

「とにかく、謝ってください。子供が買った、リンゴまで踏み潰して、大人の取る行動ですか?」

「お前には関係ないだろう?」

 ジャキンッと背中の大剣を抜き、アゴ先に突きつける男に隆人は態度を変えず、言い切った。

「剣で相手を脅す前に、大人としての情緒を持ったらどぅだ!?」

「言ってくれるじぇねーか? 面白い……」

 もぅ一人の男が隆人の胸倉を掴み、持ち上げると怒張を上げ、叫んだ。

「そのガキが俺たちに無断でぶつかったんだぜ? むしろ、被害者は俺達だろう? それをこっちが悪いというのか?」

 男の一方的な被害者主張に、隆人は胸倉を掴まれながらも、苦しい顔一つ見せず、冷たい目で言い放った。

「結局、目的は金だろう……しかも、こんな小さな子にしか喝上げもできないなんって、どこまでも狭量な?」

「テメェ……」

 叩きつけるように手を離され、尻餅をつくと、隆人は、ことごとく、今日は厄日だと、腰を摩った。

「いいか、俺たちは泣く子も黙る、B級モンスターハンターチームの『ゴッデス』だぜ?」

 スッと剣を振り上げ、

「人の一人や二人、斬ることなんか、慣れてるんだぜ?」

 風を切るように剣が振り下ろされ、隆人はにビクンッとなったように目を瞑った。だが、男が振り上げた剣は隆人の身体を切り裂くことはなかった。逆にカキンッと鉄の弾かれる音が響く。

 普通、肉を切る音が、こんな小気味いいはずない。そっと目を開けると男の一人が痺れたように右腕を抑え、唸っていた。

「これって……?」

 自分の目の前に落ちてきた弓矢の矢を見て、隆人は顔を上げた。

「ミリー?」

 男の一人に弓矢を向け、ミリーは冷たくいった。

「聞いたことあるわ。『手柄泥棒のゴッデス』って、上級クエストをクリアし、疲れきったハンターの手柄をムリヤリ奪い、B級にまでのし上がった、最低なチームね?」

 クスッと笑った。

「でも、噂が噂を呼んで、次第にギルドからも、相手にされなくなって、クエストの仕事をもらえなく、今じゃ、チンピラ同然のC級以下の実力の元・B級ハンターね?」

「て、てめぇ……女の癖に俺たちをナメてる!?」

 大声を上げて、殴りかかろうとする男の顔面を蹴り飛ばし、ミリーはもぅ一人の男に矢を向けた。

「確か、人の一人や二人、殺すのは怖くないんでしょう。他人の手柄を横取りするしか、能が無い落ちこぼれが、未来ある子供に喝上げとは……」

 男の顔の横に弓矢が飛び、背中越しの壁に突き刺さると、男は失禁したように腰を抜かした。

「同じモンスターハンターを名乗ってほしくないわ。今回は見逃してあげるけど、もし、また同じことをしたら、今度は!」

 ギュッと弓矢を構えるミリーに男の一人は仲間を見捨て、一人逃げ出してしまった。置き去りにされてしまった、男をゴミを扱うように道の隅に捨てるとミリーは隆人を見て、怒鳴った。

「まったく、なに無茶なことしているの!?」

「ご、ごめん……それよりも」

 剣を振り上げられたのが、よっぽど怖かったのか、若干、腰を抜かし気味に、転がっているリンゴを拾い上げると隆人は涙を流して泣いている子供にリンゴを渡した。

「はい、これ……これからは、ああいうのに気をつけてね?」

「う、うん……ありがとう。お兄ちゃん、それにお姉ちゃんも?」

 ミリーもニッコリ笑い、どぅいたしましてといった。子供は安心したように、リンゴをカゴの中に戻し、走り去ってしまった。

 残された隆人はミリーの顔色を窺うように顔を上げた。当然、ミリーの顔は目に見て怒っており、隆人は反省したように頭を下げた。自分でも、バカなことをしたと理解していた。でも、止められなかった。止めちゃいけない気がした。もし、ここであの子供を見捨てたら、自分の中の大切なものを捨てるような気がして、止めることができなかった。なんとか、自分の気持ちを、ミリーに伝えられないかどぅか、考えると両肩をガシリと掴まれ、ビクッとした。

「まぁ、あそこで助けない、男は最低よね?」

「……怒ってないの?」

 肝を抜かれたように目をパチパチさせる隆人に、ミリーは優しくいった。

「怒ってるよ」

 隆人の血液の温度が軽く二、三度下がったのがわかった。

「でも、それ以上に見直した。ひょろひょろとした印象だったけど、以外に……」

 コツンッと額を小突き、

「度胸あるじゃない……」

「い、いや……そんな褒められると照れるな?」

 顔を真っ赤にし照れ笑いを浮かべる隆人にミリーは笑顔のまま、いった。

「今度、同じことしたら、グリグリだからね?」

「わ、わかりました……」

 笑顔の奥でしっかり怒っていることを理解し、隆人は怯えながら返事を返した。

 震える腰をムリヤリ起こし、足に喝を入れる隆人にミリーは、呆れたようにため息を吐いた。

「立ち上がるのも困難なほど、怖かったなら、なんで、勝算の無い助けをしたの?」

「え……だって」

 今度は隆人が不思議そうに言い返した。

「困った人がいたら助けるのが普通だろう?」

「……」

 ミリーは呆れてものが言えなくなった。

 今更、子供の学級目標ですら、笑われてしまうような、名言を平然と言いのける、この少年にミリーは笑いだした。

「見た目がバカっぽいと思ったけど、あんたは正真正銘のバカだわ?」

「な、なんだよ。人のことをバカって……俺のどこがバカだ?」

「考え無しに突っ込む辺りがバカだって言ってるの。でも……」

 笑いを止め、ミリーは雲のかかった綺麗な青空を見た。

「なんだか、種の救世主も同じことを言ってたな?」

「種の救世主……そぅ言えば、ここは救世主の作った国だっていってたけど、どぅいう意味だい?」

 不思議がる隆人にミリーは北にそびえたつ街全体を見ることができそうな巨大な樹木を指差し、いった。

「あそこに巨大な巨木があるでしょう。あれはかつて、この国を建国した初代国王。今でいう種の救世主が植えた木が大木になったものだっていわれてるの?」

「種の救世主が植えた木?」

 だから、種の救世主。なんだか、安直だなと隆人は思い、次の言葉を待った。

「千年とちょっと前、この世界は大国同士の戦争が繰り広げられていたの」

「それを救った英雄が種の救世主だ!?」

 両腕でバツの字にクロスし、ミリーは話を続けた。

「種の救世主も元は、戦争から逃げてきた一般兵の一人だったの。その当時は戦争真っ只中で、人々の心はすさみ、みんな、他人を思いやる余裕が無かったといわれていたの。誰もが絶望に打ちひしがれ、他人の食料を奪って、今日を生きていたとき、種の救世主は、一人、奪うことをせず、畑を耕したの。それは苦労の多い日だった。すさみきった人の心には、種の救世主の行動は目障りでしょうがなく、なんども悪質な嫌がらせを始めたの、だけど、種の救世主はめげることなく、なんども、ダメになった畑を作り直した。次第に、その姿勢が奪うことしか知らなかった人たちに変化を遂げ、一人、また一人と、自分で畑を作ろうとする人が増え、三年もするころに、畑は戦争の真っ只中とは思えないほどの量の収穫を見せ、皆、種の救世主をリーダーとして認め、ここに村を作ったの。だけど、すぐに村の裕福さに目をつけた大国が納税や、一般兵を出すよう、命令してきた。でも、種の救世主は、それを断固として拒否し、大国からの兵士からも、嫌がらせを受けた。だけど、ある日、大国の兵士の一人が重傷のケガを負って、村に現れた。誰もが兵士を見捨てようとするが、種の救世主は兵士を匿い、治療し、そして、生きるための食料を渡した。誰もが、種の救世主を責めたが、その翌年、その兵士は、王国から脱国し、種の救世主のいる村へと逃げ、村を守る兵士となった。同じように戦争に嫌気を刺し、逃げてきた兵士を匿っていくうちに、村は村で無くなり、一つの国と呼べるまでに力をつけてきた。さらに翌年、戦争が終わりを告げたころ、どこの国も戦争のツケが回り、重大な人民不足と食糧不足で崩落寸前になったが、種の救世主は、その国にも食料を渡し、自分たちが培ってきた、農作業のノウハウを提供した。数年としないうちに戦争で焼き払われた近隣の国々は種の救世主のおかげで、崩落を免れ、他国の王達がそれぞれに、種の救世主の寛大さを称え、そして、村を国として発展させることを提案した。そして、その初代王として、選ばれたのが種の救世主、ようするに初代国王なわけ。種の救世主は、この国がいつまでも武力で支配されない、皆を思いやれるいい国であるよう、皆を見守ってくれる大きな木の種を植えた。それが種の救世主の物語の始まりといわれている……ちょっと長かったかな?」

「ぐぅ~~……」

「隆人!?」

 大声で怒鳴られ、隆人は鼻にできた汚いチョウチンをパンクさせ、起き上がった。

「じょ、冗談だよ、聞いてた、聞いてた! 非暴力で人々を動かした、英雄の話ね?」

 隆人は少し考えるように頷き、嬉しそうに笑った。

「そんな、救世主もいるんだね。俺のいた世界じゃ、なんでもかんでも、暴力で解決して、それが正しいことなら、英雄として称えられた。でも、その救世主は、力で訴えず、献身的に作ることに専念し、人の心を動かした」

 間を置き、隆人は声を輝かせた。

「素晴らしいよ。そんな英雄が俺の世界にもいれば、戦争なんって、無くなるかもね?」

「……あんたの世界にも戦争なんて、あるんだ?」

「まぁね……ん?」

 背後から聞こえる軽快な太鼓の音とトランペットのメロディーに隆人は音のするほうを向いた。そして、絶句した。

 長くきらめく輝くような金色の髪に、意志の強そうな瞳。長身でないが、決して、飲み込まれることのない強い迫力。言葉を失い、見惚れている隆人にダミがかった男の怒声が響いた。なにか言ってるように感じたが、それでも、目の前の少女のほうが気になり、うまく、耳に入らなかった。

「貴様、姫様に向かって、なぜ、頭を下げない!」

「……」

 うまく、答えられない隆人に、槍を持った男は、さらに怒気を挙げ、怒鳴った。

「これ以上の狼藉は許せん。斬り捨ててくれる!」

「待て!」

 振り上げられた槍を片腕で押さえられ、男は萎縮したように少女に頭を下げた。

「で、ですが、この男は……」

「よい……」

 ムリヤリ、男を下げると少女は打てば響くような透き通る声でいった。

「お前、周りが見えているか?」

「え……ああ!?」

 いつの間にか、自分を抜かす全ての人間が目の前の少女に頭を下げていることに気付き、隆人は慌てて、自分の横でひざまずくミリーに小声で怒鳴った。

「なんで、声をかけてくれなかったの!?」

「かけたわよ。でも、全然、聞いてなかったから、仕方なく、頭を下げたのよ!」

「槍、突きつけられてたぞ!?」

「王族相手にケンカなんか、できっこないでしょう?」

「王族……?」

 目を数回、パチパチ開き、隆人は少女を見た。

「あの、失礼ですが、あなたはなにもので?」

 また男が癇癪を上げ、槍を構えようとするが少女は手で押さえ、ニコッと笑った。

「お前、よその国から来たのか?」

「え……まぁ、そんな感じです」

 本当は別の世界から来たのだが……

「なら、仕方ないだろう? 私はルビー・リーニス。この国の姫をやっている」

「ひ、姫様!?」

 慌てて頭を下げ、隆人は誠心誠意、謝った。

「し、失礼しました。別に他意があって、見つめていたいわけじゃないんです!」

「ほぅ……」

 ルビーの目が少し、意地悪く細まった。

「なら、なぜ、見つめていた?」

「そ、それは……」

 言葉をつまらせ、隆人は、そっといった。

「あまりにも綺麗だったから、見惚れてしまい……」

 隆人を抜かす全ての空気が凍るのがわかった。隆人は不思議そうにルビーを見た。

「な、なにか、変なこといったかな?」

「も、もももももももも」

「桃?」

 もを連発する兵士に隆人は不思議そうに首をかしげた。

「もぅ許せん! たとえ、姫様が止めても、私がこの痴れ者をたたっ切る!」

「黙れ!」

 ルビーの一喝に兵士は怯えたように動けなくなった。

「お前、なかなか、面白いな?」

「なにか、悪いことを言った?」

 首を横に振り、ルビーは不敵な笑みを浮かべた。

「お前、名前は……?」

「え……名前?」

 いきなり、名前を聞かれ、隆人は戸惑いながらも、名乗った。

「林田隆人です」

「林田か……覚えておこう」

 かわいくウィンクされ、隆人は顔を真っ赤にした。

「私は面白い奴や、バカが大好きだ」

「また、バカっていわれた」

 マジ泣き寸前の隆人にルビーは手に持った錫杖を突きつけ、ニヤリと笑った。

「お前を千年祭のときに開かれる、社交パーティに招待しよう。いい服を用意しておけ?」

「せ、千年祭?」

 なんだか、RPGで聞いたことのあるような言葉に隆人は首をかしげた。

「千年祭を知らないとは、これはますます、気に入ったぞ。詳しいことは、その近くにいる保護者にでも聞いてみろ、案外、面白い話が聞けるかもしれないぞ?」

「……はぁ?」

 錫杖をくるくる回しながら、背を向け、ルビーは一言つぶやいた。

「楽しみにしてるぞ……」

 兵士を連れ、去っていくルビーを見つめ、隆人はいまだに跪くミリーを見ようとした。だが……

「このバカ!」

「ぶべ!?」

 しこたま、脳天を殴られ、隆人はついに泣き出した。

「いきなり、なにするの!?」

「いい、千年祭というのは、この国の開国千年目を迎える祭りのこと! その際に行われる、城内の社交パーティはルビー様の花婿候補を決める、大事な日でもあるの! この意味、わかる!?」

「どぅいう意味?」

「粗相があれば、即刻、打ち首にされかねないってことよ!」

「打ち首ね……?」

 どこかパッとしないのか、両腕を汲んで、隆人は考え出した。ミリーは苛立った顔で綺麗な赤い髪をかきむしり、怒鳴った。

「ああ、このマイペースバカ! 自分の状況が全然わかってない! いい!?」

「ああ、わかったから……ようするにあれだろう?」

 息を切らせるミリーに隆人は出来るだけ、神経に触らないようにいった。

「服の用意と踊りが出来るようならなきゃダメってことだろう?」

 隆人の顔面にミリーのコブシがめり込んだ。

 千年祭が始まるまで、後、七日後。


 
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