私達三姉妹は自分達の生まれた村から出て、旅芸人として各国を回っていた。日に日に漢王朝の悪政によって人々の生活が苦しくなる。すると、旅芸人である私達の稼ぎもなくなってしまった。それはそうだろう。生活するのに精一杯で他にお金を払う余裕なんてないのだから。稼ぎのなくなった私達は当然食べ物を買うことも出来ず、何日も小川の水だけで過ごしていた。山菜や魚を取って食べればいいと思うけど、釣竿もないし、山菜は姉さんが取ってきた茸を食べたら体調を崩してしまった経験があって無理。どれが食べられるのかを見極める知識がなくて怖くて手が出せなかった。結局、私達は断食という状況になってしまっている。そんな状態が長く続いて、とうとう限界を迎えてしまった。
「ちーほうちゃん、れんほーちゃん。私・・・もう駄目だよ」
「姉さん!頑張って。もう少しで街につくから」
「れんほー。ごめん・・・私も限界」
「地和姉さんまで!?」
私の姉二人が座り込んでしまった。正確には足に力が入らず立てなくなってしまったのだ。
「私達のことはいいから。れんほーちゃんだけでも先に進んで」
「夢半ばで倒れるのは悔しいけど・・・私達はもう駄目みたいだから。あんたに後は任せるわ」
「天和姉さん、地和姉さん。しっかりして。私を一人にしないで!」
「ごめんね・・・私達の分まで・・・」
「しっかりと生きな・・・さいよね」
「姉さん!姉さんってば!」
大陸一の歌い手になるという夢。それが私達三姉妹の共通の夢であり、想いだった。姉達は私に夢を託すと言っているが、私も余裕がない。恐らく、姉達のすぐ後を追うことになる。だったら、最後まで姉妹一緒にいたい。一人になるなんて絶対嫌。姉さん達とずっと一緒にいたいから。でも、そこに希望の光が差し込むなんて夢にも思わなかったわ。
「どうしたの?具合が悪いのか?」
そこに現れたのは私達の命の恩人にして、一生涯の付き合いになる『おせっかい』だった。
村人達に事情を話し、自分の家へと連れて行く途中。カランカランと鳴子の音が聞こえた。それは劉備が関羽のことをからかっているときであり、関羽が恥ずかしがっているときと同じ時である。その為、普段なら気づいたはずの関羽や張飛には気づかれず、外にいた一刀達だけが気づいた異変だった。
「な、なんの音だ?」
「これは俺が設置した侵入者を知らせる道具だよ」
「し、侵入者?まさか・・・賊!?」
「わからない・・・とにかく、君達はここで待っててくれないか?俺が様子を見てくる」
恐怖で動けなくなった村人達に動かないでというと、一刀は音の震源地へと向かった。一刀はこの鳴子を工夫し、数種類の音を作り出した。その音によって設置場所を特定出来るように。その音から場所を判断し、一刀が向かった先には倒れた少女二人を起こそうとする、こちらも少女がいたのだ。
少女の慌てようから危険な状態だと判断した一刀は何者かと判断する前に急いで駆け寄る。関羽が聞いたら間違いなく雷を落とすだろう行動をしてしまった。
「どうしたの?具合が悪いのか?」
「え?」
いきなり話しかけてきた男に戸惑ったのだろう、少女が一刀を見て驚き固まる。そんな少女に一刀ははっとなり、一回深呼吸をすると冷静な声で再び少女に語りかけた。
「すぅ~、はぁ~・・・いきなり、ごめんね。でも、彼女らはどうして倒れてるのか気になって」
その一刀の冷静な声のおかげで正気を取り戻すことが出来た少女は、ようやく状況を説明することが出来た。
「私達は旅芸人をしながら大陸を回っていたのですが、最近稼ぎが悪くて食べ物を買う余裕もなく、何日も食べていない状況が続いたんです。それで、限界になってしまって」
「・・・わかった。家においで。ご飯を食べさせてあげるよ」
少女の話を聞いた一刀は即答でそう答えた。目の前にいる少女達が空腹で倒れている、その理由だけで一刀には十分だった。だが、少女は違う。いきなり、ご飯を食べさせてあげるといわれて「はい、いきます」なんて答えられるわけがない。ご飯にかこつけて自分達に如何わしいことをされるのではないかと疑念さえ抱く。
「何が目的ですか?私達に何をするつもり?お金なんてないし、体を売れなんていわれたら舌を噛み切って死んでやる!」
後半になるにつれて怒気を込めて声を荒げる。そんな少女に困ったような顔で一刀は答える。
「何もしないよ。君達が空腹で大変そうだからね。助けてあげたいって思ったんだ」
「信じられません」
必死に説得しようとするも頑なに拒む少女。一刀は卑怯とは思いながらも倒れている少女達を使って説得をし始めた。
「後ろで倒れている彼女達は君の大切な人なんだろ?このまま見殺しにするのかい?」
「う・・・でも、見ず知らずの男に慰み者になるくらいなら」
「だから、そんなことしないって・・・でも、君達は動けないでしょ?ここに食べ物を持ってきて無理やり食べさせるってことも出来るんだよ?」
「だったら、舌を噛み切って・・・」
「そんな力、彼女達に残っているの?それに、噛み切れないように口に詰め物をすれば抵抗できないよね?」
「・・・」
「だったら、素直についてきて。食べて体力を戻したほうが逃げるにしてもいいんじゃないか?」
一刀の言葉に無言になりうつむく。しかし、その目はまだ諦めていない。絶対に逃げてやるという意思が残っていた。「別に逃げる必要ないのにな。何もする気はないんだし」と思う一刀。彼の中ではまだこの時代のことを理解しきれていない部分が残っているようである。やがて、少女は口を開き。
「わかりました。あなたについていきます」
と短く言い放つ。ようやく、承諾をもらえた一刀は安堵のため息をはき、倒れている少女達に近寄った。
「何をするつもりです!」
「動けないだろ?運ぶよ。君もきつかったら、俺に掴まっていいからついてきて」
悔しいが一刀の言う通りだった少女は、しぶしぶ彼の腕にしがみ付いて彼の家へとついていくのだった。
「さぁ、たくさんあるから食べて食べて!」
「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」
鍋から具をよそい、みんなに配ると早速食べ始めた。劉備と関羽、それと助けた少女の一刀の腕にしがみついていた少女は落ち着いた様子で食べているのに対し、残り全員は物凄い勢いで食べている。
「おかわりなのだ!」
「俺も!俺も!」
「ちぃも!」
「私も~」
「はいはい。慌てないで。ご飯は逃げたりしないから」
差し出された茶碗に鍋の具を入れているのは一刀の役目であった。一刀はさきほどから食べないでおかわりを配っている。食べている人の勢いが強すぎて食べられないだけなのだが、おいしそうに食べている様子に満たされる気分であったりする。そんな一刀をじっと見つめる目があった。
「本人は全く食べてないのね。人が良いのか、ただのバカなのか」
「その両方だと思うがな」
一刀の腕にしがみついていた少女の呟きに対して関羽が乗る。自分の呟きに返事が帰ってくるなんて考えていなかった少女は驚くものの、すぐに冷静を取り戻して会話を続けた。
「でも、なんの目的があって私達を助けたの?」
「あやつのことだ。大方困っていたからという理由だけなのかもしれんな」
「そんな人今の時代にいるわけないです」
「いや、いるぞ。私達の視線の先にな。ま、信じる信じないはそなたの勝手だがな。これだけはいっておくぞ。あやつは底抜けにお人好しだ。自分を殺そうとした者にも手を差し出すほどのな」
それだけ言うと関羽は劉備のところへと戻っていった。残された少女は視線ははずさないまま、じっと関羽の言葉を考えているのであった。
「あっ・・・無くなっちゃった」
「えぇ~!まだ足りないよ~」
「う~・・・なくなっちゃったのだ」
さすがに10人以上の人数で一つの鍋を食べてしまうのは、量的に足りないのは当然で皆の腹は満たされなかったようだ。苦笑しながら一刀は立ち上がると追加の山菜を取りに向かう。
「慌てないで。まだ、あるから。でも、肉は終了だよ」
「「「「「えぇ~!!」」」」」
さすがに肉はもうなくなってしまっていたが、野菜はまだ余裕がある。包丁で野菜を切ると鍋に投入して火を通す。それと、汁も減ってしまっていた為に水と味噌を追加することも忘れない。
「はい、食べていいよ」
「ありがと~!」
第二次食事大戦の開戦であった。空腹を脱した故さきほどよりは勢いがなくなったものの、おかわりといって差し出される手は減ることはなかった。落ち着いて食べていた三人の内、二人は身内の恥ずかしさに我がことのように顔をうつむかせて恥ずかしがっており、残る一人は微笑ましいとばかりに笑みを浮かべて見守っていた。やがて、鍋の中身が汁だけとなったとき。一刀は何かを包丁で切っていた。
「まだ何かあるの?一刀さん」
「ああ、最後の締めを入れようと思ってね」
「締めですか?」
「うん。これさ」
最後に一刀が投入したのはうどんである。鍋の残り汁であったかいうどんを作り、最後の締めにするつもりのようだ。
「これも初めて食べます」
「太い麺だね~」
「でも、もっちりしておいしい~♪」
うどんも好評のようで一刀は嬉しい限りだった。やがて、食事も終わり村人達を帰した後。助けた少女達の話になり、関羽の怒りが爆発する。それは一刀の説明が悪いのが原因なのだが、相手の身柄の真偽も確認しないまま連れてきてしまった為にどっちにしろ怒られていたに違いない。
「さきほどはすいませんでした。助けて頂こうとしているのに信じることが出来ずに・・・」
「いや、いいんだよ。君達の反応は当然のことだ。気にしないでくれ」
「そういってもらえると助かります。では、自己紹介をさせて頂きます」
食事をしている最中の関羽との会話とじっと観察していた結果から、一刀が裏もなくただの善意で自分達を助けようとしていることに気がつき、少女達の目から敵意は消えていた。食事も終わって落ち着いたことと、知らない少女達の姿もあったことから、自己紹介と自分達の状況を説明することにしたのだ。三人の少女達は目配せをして頷くと自己紹介を始めた。
「私は長女の姓は張、名は角、真名は天和だよ」
「私は次女の姓は張、名は宝、真名は地和よ」
「私は三女。姓は張、名は梁、真名は人和と言います」
一刀達は驚いた。目の前にいる少女達が後に黄巾の乱と呼ばれる大事件の首謀者となる人物であることもそうだが、あって間もない自分に真名を教えたことに。
「いいの?会って間もない俺達に真名を教えるって?」
「何者かも知らない私達を助けてくれたあなただからです」
「そうだよ~。あなたがいなかったら私達は無事にはいられなかったもんね~」
「そうよ。あんただから私達は真名を言ったの!」
「「「私達を助けてくれてありがとう」」」
精一杯の感謝の気持ちを言葉に乗せて、三姉妹は一刀に感謝の意を示した。一刀は助けた当初は疑われていた彼女達に信用されたのだと理解し、嬉しく思った。
「真名まで教えてくれるなんて。俺をそこまで信用してくれて嬉しく思うよ。俺の名は姓は北郷、名は一刀。俺の故郷には字と真名って風習がなくてね。今、ここの風習にあわせてどういう名前にしようか考えてるんだ。風習に当てはめると一刀って名前が真名になるかな。君達の好きなように呼んでくれていいよ」
劉備達の紹介も無事終わり(さすがにお互いに真名の交換はしなかった)、少女達は一刀に字と真名がないということに驚くよりも興味を示した。後、劉備達との関係も。
「え?真名がないってどこからきたの?」
「どうしてここに住んでいるの?」
「あの三人とはどういう関係?恋人?知り合い?私達と同じ?」
「私達のことはどう思ってる?」
「ね、姉さん!いきなり、そんなこと聞くのは失礼よ」
姉二人の遠慮のない質問攻撃に顔を抑えながら注意するが、そんなことでとまることはなくさらに勢いついて質問していく。本音を言うと自分も聞いてみたいという想いもあって本気で止める気がないだけであり、姉はそのことを理解しているので質問をやめないだけである。一刀は苦笑するだけであったが、慌てたのは劉備達だった。
「こ、恋人!?」
「我らと一刀殿との関係と言われても、会ったばかりだぞ!?」
「にゃはは、お姉ちゃん達慌てすぎなのだ」
末っ子に笑われて姉の面目丸つぶれである。まぁ、義姉妹ではあるが。
「こんな美女と恋人なら役得なんだけど、残念ながら違うよ。この子達は命の恩人なんだ」
「美女って・・・」
「一刀殿!?」
やんわりと恋人を否定して、自分のことを話し始める。劉備と関羽は一刀の美女という言葉に反応していたが、さらっと流されている。
「ふ~ん。野盗に襲われたところを助けてもらったのね」
「でも、どうしてここにいるの?護衛?野盗って追い払ったんでしょ?えっ!?嘘~!!」
「関羽さん・・・さっきのあなたの言葉、全面的に肯定するわ」
姉妹の質問に一つ一つ答えていると、さきほどの関羽の言葉に激しく同意してしまう人和だった。その後、一刀はある準備をする為に外へと向かい、劉備達は姉妹と早速打ち解けて雑談を始める。
「襲われたりして準備できなかったからな~」
一刀は家のすぐ横に、なにやら作り始めた。まず、大きい石をコの字型に設置し、石に土をかけて水平になるように高さを調整する。コの字型の凹みの中には薪を入れて、最後に上に街で注文しておいた円筒形の容器を置く。おそらく樹齢千年を超えるだろう巨木の丸太をドーナツ状にくりぬき、中に丸い鉄板を入れたものである。左右の入り口部分の直径を変えている為、鉄板は小さい穴には通らずに便の底の役割を果たしていた。これは何に使うのはもうお分かりだろう。
「さてと水を汲んでこないとな」
一刀は荷台に大量に水を汲む容器を乗せると近くの小川に水を汲みに行く。その汲んできた水はさきほどの大きな容器の八割満たす程入れる。さきほど設置した薪に火をつけ、容器の水を温めていく。つまり、お風呂を沸かしているのである。
日本人である一刀は当然、農作業で汚れた体を洗って風呂につかることで疲れを抜きたいと考えていたが、この時代にお風呂があるはずもなく、今までは小川での水浴びで我慢していた。しかし、収入が出来たことでお風呂を作ろうと決意した。が、この時代には風呂桶を作る技術などないだろうと考え、試行錯誤した結果。このような形になったのだった。
これは、劉備達女性人も喜ぶだろうな~と考えながら風呂を沸かす一刀。
「っとと、このままじゃ周りからまる見えになっちゃうからな」
次に容器を四角に囲むように四つの杭を打ち、大きな布を張ることで一種の個室空間を作り出したのだ。さすがに布なので明かりで影は透けて見えてしまうが、今は我慢してもらおう。後日、ちゃんとした個室としてちゃんと小屋を作るつもりである。
「お風呂沸かすのにも大変だよな~」
薪をくべて火を起こしながら一刀は自分がどれだけ便利な時代にいたのかを改めて実感するのだった。
「あっ、一刀さんどこいってたの~?」
「そうだよ~!ちぃ達を放ってどこいってたのよ~!!」
「そうだよ!ぷんぷんっ!」
風呂がある程度暖まってきたので呼びに戻ってきた一刀に、劉備達のブーイングが降りかかる。だが、それは可愛いものであった。目の前の鬼を目にすれば・・・。
「あれほど危険だと注意したはずなのですが・・・どこをほっつき歩いておられたのですかな?一刀殿・・・」
「ひぃいいいいい!!」
般若のような顔で一刀の前に立ちはだかるのは関羽である。反抗する気も起こらず一刀は無条件降伏をするのだった。
「お風呂?って何?」
「ん~、暖かい湯に浸かれるものだよ」
「暖かい湯に!?」
「ああ、百聞は一見にしかずって言うし、実際に見てもらったほうがいいね」
一刀は劉備達を伴って外の風呂へと向かう。劉備達は最初、布に覆われた空間を見て不思議に思っていたようだが、中に一旦入ると感嘆の声が上がる。
「うわ~、湯気がたってるよ~」
「本当にお湯につかるんだ・・・」
「これがお風呂・・・」
「ほえ~白い煙がたってるのだ」
「すごい・・・」
「・・・・」
上から天和、劉備、地和、張飛、人和、関羽である。六人の反応に一刀は風呂を作ってよかったと思う。改良の余地がたくさんあって問題だらけのお風呂だが、それでもお風呂に入りたいという欲求が強かったのだ。まさに想いの勝る結果となった。
「ここで火を起こして暖めてるんだ」
「うん。これは放っておいてもしばらくは燃えてるだろうから、最初に俺がある程度燃やして、俺と入れ替わりで二人づつお風呂に入るってことで」
「わかりました。じゃ、組み合わせはどうしますか?」
「三人づついるし、この際私達姉妹とそっちの姉妹の一人づつで三組作らない?」
「そうだね。交流を深めるってことで私は賛成だよ」
「鈴々も賛成なのだ!」
「私もいいぞ。それで肝心の組み合わせなのだが・・・」
一刀が火を見ている間、六人はお風呂の順番を決めていた。そこで問題になったのが、二人一組に入るということで誰と誰がペアになるかということである。出来れば、身内と一緒がいいのだが、三人組み同士である為、どうしても一人は身内とは入れなくなってしまう。それならばいっそ、全員身内では入らなければいい。交流を深める意味もあり、全員一致で決まった。全員の賛成が得られたことでいよいよ組み合わせを決めようというときに名乗りを上げたのは人和だった。
「それは私に考えがあります」
「そうなのか?」
「ええ、お風呂の広さも考慮して、天和姉さんと張飛さん、地和姉さんと劉備さん、私と関羽さんという組み合わせを提案します」
人和が言った組み合わせは確かに姉妹一人づつの組になっていて問題はなかったが、どうしてこの組み合わせにしたのか疑問に思った面々。
「人和・・・どういう考えでその組み合わせにしたの?」
それを地和が代弁してくれた。すると人和はじと目になり、天和、劉備、関羽と眺めると地和に向き直り、ため息まじりに答える。
「簡単だよ。お風呂の広さを考えたらね。私、地和姉さん、張飛さんという小柄な私達をそれぞれ天和姉さん達との組にしたほうが窮屈にならなくていいってだけ」
「ぶーぶー!それじゃ、私達が太ってるみたいだよ、人和ちゃん!」
「そんなことは言ってません。単純に姉さん達は私達にないものを持っていると言ってるんです」
「つまり、おっぱいが大きいのとちっちゃいのの組にしたのかにゃ?」
反論してきた天和に、人和はじと目で答える。地和は人和がいいたいことをはっきりと理解し、悔しげに自分の胸元を見て泣きたくなるのだった。最後に鈴々のはっきりとした言葉にとどめを刺されて。
「準備できたよ~。ってどうしたの?」
「な、なんでもないですよ。じゃ、交代ですね」
「私が一番~♪」
「鈴々達が一番なのだ~♪」
変な雰囲気になってしまったとき、ちょうど一刀が現れた為空気が変わった。まだ、組を決めただけで風呂に入る順番は決めてなかったのだが、天和と張飛の勢いで強引に一番が決まってしまった。まぁ、決めるのに時間がかかって風呂が冷めたりしたら本末転倒なのでこれでよかったのかもしれない。各組のお風呂の様子は以下の通り。張飛と天和は。
「鈴々は強いのだ!他の人なんかに負けないのだ」
「すごいんだね~。鈴々ちゃんは」
「鈴々はすごいのだ!エッヘン!」
鈴々の主張を天和が褒める。天然な天和は素直に褒め、惚れられて嬉しい張飛。結構いいコンビかもしれない二人だった。次は、地和&劉備ペア。
「私の夢は大陸一の歌手になることよ!」
「地和ちゃん達ならきっとなれるよ!私達も応援するね」
「ありがとう!頑張るわ」
こっちは逆に地和が夢を語り、劉備が賛同するといった内容である。こっちもある意味いいコンビかもしれない。最後に、人和&関羽ペア。
「まったく姉さんときたら・・・」
「人和もそうなのか。桃香様や鈴々も・・・」
「お互い苦労しますね」
「そうだな・・・」
姉妹の苦労役である二人。常日頃感じている苦労話で持ちきりである。最後はそろってため息をつく。よほど苦労しているのだろう。こんな感じでお風呂に入った彼女達。共通しているのはお互いに真名で呼び合う仲になっていたことであった。
「布団なんだけど・・・ごめんね。四枚しかないんだ。だから劉備さん達で二枚、張姉妹で二枚使って」
風呂に入り、三姉妹同士より仲良くなった。今日知り合ったとは思えないほどに。お風呂効果であろうか?風呂に入り後は寝るだけとなった時、問題が起こった。この家には一刀一人しか住んでいない為、布団の数が足りないのだ。4枚の布団があったのも、自分用、貂蝉の友人用、一応貂蝉用、客人用と考えてのこと。まさか、こんな大所帯になるとは夢にも思ってなかったのだ。まさか、女の子を床に寝かせるわけにもいかない為、自分はいいから女の子に布団を使ってもらうことを提案した一刀だったが、当然劉備達からは遠慮の言葉が出る。
「そんな悪いですよ」
「そうです。私達は床で十分ですから」
「助けてもらえた上にそんなことまでさせることできないです」
と常識派の三人。劉備、関羽、人和。それに対して残りの三人は一刀の提案を素直に受け入れていた。
「わ~い。お布団で寝るのなんて久しぶりだね。地和ちゃん。鈴々ちゃんはどうなの?」
「鈴々も久しぶりなのだ。お金がないから宿にもあまり泊まれなかったのだ」
「そっか。今のご時勢じゃねぇ・・・」
いつの間に真名まで許しあう仲にまでなって天和、地和、張飛が布団にダイブしている。
その様子を笑顔で見た一刀は、劉備達に振り返る。こちらは姉や妹の行動を恥ずかしがっている為、顔が少し赤かった。
「ほらほら、遠慮しないで。俺が好きでやってることなんだし。特に人和達は疲れてるだろ?硬い床に寝てたら疲れもとれないよ?俺はおせっかいを焼いただけなんだ。そんな畏まらないで」
前半は劉備達に向かって、後半は人和に向かって話しかける。そのとき、一刀の手は自然に人和の頭を撫で始める。
「髪がボサボサになっちゃいます」
「あはは。それが嫌なら素直に布団で寝てね?」
「わ、わかりましたから。手をどけてください(なんだか落ち着くな・・・)」
言葉とは裏腹に頭を撫でられた人和の心はその心地よい感触に安心感を抱いていた。久しく感じていなかった、親の温もりのことを思い出しながら。
「明かりを消すよ」
各自布団に入ったのを確認すると一刀は灯りを消すが、囲炉裏の火はそのままだったので真っ暗にはならず、ぼんやりと赤く光が浮かんでいる。布団に入ってすぐに張姉妹は空腹での旅に疲れていたのだろう、寝息が聞こえてくる。さらに、まだ幼い鈴々もすぐに寝息を立てた。
「一刀さん」
「ん?寝なくていいの?」
「ちょっと、寝れなくて・・・お話しませんか?」
「いいよ。あっ、ちょっと待ってね。お茶でも入れよう」
火の様子を眺め、そろそろ寝るかと思った一刀に肩に毛布をかけた劉備と関羽が話しかけてきた。一刀は一言断りを入れると湯飲みと茶葉を入れた急須をとってきて、囲炉裏にかけてあったやかんから湯を注ぐ。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
「「ありがとうございます」」
一刀は二人にお茶を渡すと再び元の位置に座る。劉備と関羽はその両脇へと腰を下ろし、お茶を啜る。しばらくは互いに無言で過ごした。
「劉備さん」
「なんですか?」
「劉備さん達が旅している理由って聞いていいかな?」
唐突に一刀は話を切り出す。昼間は自分のことを話したから今度は劉備達の・・・と思ったわけではなく、純粋に聞いてみたいと思ったからである。野盗から助けてもらって、護衛として今、ここにいる。彼女達の話や貂蝉の話では、助けても下心があったり、面倒ごとはごめんとすぐに去っていくはずなのだ。
一刀のことを底抜けのお人好しと言っている彼女達も十分にお人好しだと思っていた。
「私達が旅をしている理由は・・・この国のみんなが争うことなく笑顔で過ごせる国を作る為です。一刀さんも今、この国がどんどん荒れていっているというのは知ってますよね?」
「うん」
「私達はそれをとめて、みんなが笑顔で過ごせるような国にする為に旅に出たんです」
みんなが笑顔で過ごせる国を作る。彼女の目には冗談などはなく、真剣に考えているということが伝わってくるような強い意志が見えた。と同時に何故かその夢は儚く脆い物だとも感じたのだ。その理由はまだわからなかったが。
「みんなが笑顔で過ごせる国か・・・」
「はい。この国は例えると闇に覆われていっています。このままでは完全に闇に覆われてしまう、だから誰かが光を差し込まなければならない。けれど、それをやらなければならない官達自身が闇を出しているのです。頼りになる人がいない現状。それなら、私達の手で希望という名の光を差し込もうと立ち上がったのです」
「ですけど、私達だけじゃ力が圧倒的に足りません。だから、各地を旅して私達と志を同じくする同士を探しているんです」
さすが劉備と関羽だ。一刀はそう思った。三国志の英雄、例えこの世界では女の子になっていようとも、彼女らの志は変わっていない。
「夢が叶うといいね」
素直にそう思った一刀だった。それから三人はたわいのない話に花を咲かせて盛り上がる。気づくと一刀にもたれるように二人は眠ってしまい、一刀も二人に支えられるように眠っていた。
翌朝
「ん?ふぁあ・・・」
朝日を感じ取り目が覚めた一刀。動こうと体に力を入れた瞬間、痛みが走る。しかも、体を動かそうにも動かない。どういうことかと自分の状態を確認し、劉備と関羽が自分の体にもたれかかっていると理解すると、昨日の記憶がよみがえってきた。
「あのまま寝ちゃったのか。ってことは、この体の痛みは座った体勢で寝てたから筋肉が固まっちゃったのか」
そのとき、一刀が起きたときの振動に反応したのか、関羽の目が覚めた。
「ん・・・いたた、筋肉が固まってる。どうしたという・・・か、一刀殿!?」
「おはよう関羽さん」
「おはようございます。って、なんで私はこんなとこで寝て!?」
「落ち着いて。昨日のこと覚えてない?」
「え?あっ!あのまま、寝てしまったのですね・・・」
起きた瞬間に一刀の顔がドアップで目に入り、自分の体は一刀にもたれかかった状態だったことに驚愕して完全に覚醒する関羽。が、一刀の言葉に昨日のことを思い出し冷静さを取り戻すと慌てた姿を見せたことが恥ずかしかったのか顔を赤くして俯いてしまった。
「す、すいません。みっともない姿を見せてしまいました」
「起きた直後に男の顔があったんだから。驚くのは無理ないよ。さて、そろそろ朝食の用意をしないと・・・関羽さん。劉備さんのこと頼んでいい?」
「あっ、はい。わかりました」
劉備を起こさないようにそうっと関羽に預けると一刀は朝食の準備をすべく材料を取りに行く。関羽は劉備を布団に静かに寝かせると小さく深呼吸をして、落ち着きを取り戻すのであった。
「「「「「「いただきます」」」」」」
あの後、ほどなくして人和が起きて各人達を起こした。全員が目を覚ましたところで、一刀もちょうど朝食の用意が出来たので早速食べることに。村人達の家には食料を置いてきたので、もう自分の分は自分で準備してもらうことにしたので劉備姉妹と張姉妹、一刀の七人が朝食を囲っている。
昨日同様、元気いっぱいな「おかわり」の声が響き、少女達はご飯を食べる。昨日、仲が深まったことで食卓にはご飯を食べる音だけではなく、楽しげな会話も聞こえていた。そんな中、人和は一刀にある願い事を頼む。
「一刀さん」
「ん?何かな?人和ちゃん」
「一刀さんは私達を助けてくれました。その恩返しがしたいんです。私達に手伝えることはありませんか?」
「俺は恩返しがして欲しいから助けたわけじゃないんだけど」
「それでは私達の気がすみません」
「そうね。このまま借りを作ったままなんて、私の気がすまないわ!」
「そうだね~。お返ししなきゃね~」
人和の提案に劉備達と会話を楽しんでいた天和、地和も賛同してきた。一刀としては恩返しがして欲しくて助けたわけではなかったが、こうもお願いされると無碍には出来ず、それに手伝ってくれること自体は助かるので断る理由はない為最終的に了承するのだった。が、話はまだ終わらなかった。
「ねぇ、一刀さん。私達もお手伝いできることあるかな?」
「劉備さん?別に劉備さん達はお客さんなんだし。手伝うことないんだよ?」
天和達の話を了承した後、今度は劉備達が手伝いを名乗り出てきたのだ。一刀は慌てた。彼女達は命の恩人であり、まだ何も返していない現状でさらに手伝いをさせるなんて恐れ多いと思っていたからだ。
「いいの。私達が手伝いたいから手伝うだけだし。ね?愛沙ちゃん」
「そうですね。我々も何もしないでいるというのは少々居心地が悪いのですよ」
「それにやることがないとつまらないのだ!」
「だから、ね?お願い」
最後に劉備にかわいらしくお願いされてしまった。確かに何もしないでいるのは居心地が悪いものがあるだろう、しかし、命の恩人である彼女達に新たな借りを作るのは自分の気がすまない。などと心の葛藤が起こっていたものの、何気に頑固な劉備に一刀は折れるしかなかった。
「んじゃ、それぞれの担当を発表します」
朝食の間ずっと考えていた天和達に何を頼むかを、食べ終わった後にみんなに発表する一刀。主に手伝ってもらうことは三つ。畑仕事、罠設置・確認、家事である。三つ目の家事に関しては予め確認を取り、割り振る人は決めたが、他に二つに関しては一刀の独断である。
「まずは家事。これは劉備さんと人和ちゃんにやってもらうね」
「はい」
「わかりました」
家事については掃除、洗濯はもちろん、料理や買い物も含まれる。最初、一刀は旅をしていた彼女達なら家事を任せても大丈夫だろうと思っていたが、意外なことに出来ない人が多くて驚いてた。なので、必然的に姉妹の財政を任され、旅のほとんどの方針を決めていた人和と旅に出る前に家事を手伝っていた劉備に決まった。愛沙も人和と同じく姉妹の纏め役だったのだが、料理が苦手というかやったことがない為、却下されている。
「畑仕事に天和さんに地和ちゃんね」
「わかった~」
「任せなさい!」
こちらも旅に出る前に村で畑仕事を手伝っていた経験があるということで二人に決定。二人も経験があることが割り当てられた為に特に反対することもなく受け入れている。最後に罠の設置・確認は残った関羽と張飛になった。
「最後に関羽さんと張飛ちゃんには罠の設置や確認をお願いするよ」
「了解なのだ!」
「わかりました・・・が、その仕事は何をすればいいのですか?他の二つは想像がつくのですが」
「あっ、そうだね。二人に頼みたい仕事って言うのは」
罠の設置・確認というのは文字通り、罠を設置するのと設置した罠が壊れていないかの確認をする仕事だ。落とし穴や鳴子など一度発動してしまえばそれまでである為、どうしても確認が必要なのだ。さらに、これは食料が調達できる可能性もある。畑の作物を狙って現れる猪や鹿などは貴重な肉系食物である。それが無料で手に入るのだから、逃す手はないだろう。逆に、まれに虎や熊などもかかってしまうこともある為、武術に優れた者を選ぶ必要があり、関羽と張飛にお願いしたのだった。
「俺は総指揮として全体を見るけど、罠設置・確認班を重点的に見るから」
「ずるい!」
「あ~!ひいきだ、ひいき!」
「ね、姉さん!」
「ひいきはよくないと思います」
「鈴々達だけで十分なのだ!」
「むっ・・・我らだけでは心配ですか?」
ひいきと言われて自分達が信用されていないと思った関羽達が不満を口にするが、一刀は呆れたように返した。
「あのね・・・罠はすでに設置してあるのもあるんだよ?その場所を知らなかったら関羽さん達がひっかかるでしょ。それに罠の作り方知ってる?」
「「「「「あっ・・・」」」」」
「はぁ・・・」
一刀に言われて気づいた少女達は固まってしまった。ただ、一人。一刀の意図に気づいていた人和がそんな彼女達に深いため息をはいたことは仕方ないことなのかもしれない。
「さて、役割も決めたし。よろしく頼むね?」
「「「「「「はい!」」」」」」
こうして、一刀のにぎやかな新生活が始まったのだった。
お久しぶりです。
前回のあとがきで宣言していた2週間という期日、ギリギリでの投稿となりました。
今回は前回よりも長く書こうと頑張り・・・筆が進む日とそうでない日があって執筆速度にムラがあったりといろいろと大変でしたが、なんとか宣言通りにできてホッとしています。
さて、今回は前回に登場したキャラの名前を出すことが出来ました。
まぁ、皆様にはバレバレだったでしょうけどね。
話の展開的には全然進んでいません。
さらに予告しますと、これからもしばらくは拠点パートが続きます。
戦に行くにはかなりの話数がかかりそうです。どの勢力につくかも、もしかしたら第4勢力になるかもしれませんけどね。
ただし、一刀君の名前はすでに決めています。
さらに次回に出す予定です。
これは、あまり重要ではないんで気にしなくてもいいのですが・・・
拠点パートが続くことによって読者様方に飽きられないかが心配です。
でも、この拠点パートは後の展開のフラグになる為にはずせないので・・・。
覚悟して書くつもりです。
さて、本当ならアンケートや作者の考えている展開は?とか問題を出したりして楽しみたいんですが、話がまだ序盤から抜け出せていないのでやりません。
それでは、おせっかいの物語をこれからもよろしくお願いします。
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ギリギリ2週間・・・。
今回は執筆にあたり体調不良というか睡眠不足の為に二回ほど書かない日があったんで・・・その分頑張った日があったりとムラがありました。
文章も前回に比べると1.5倍のデータ量になっています。
では、どうぞ。