※グロ注意です。
月夜の下で一刀は話し始めた。
自らの境遇と、自分が人ではない・・・化け物であるという逸話を。
第二十五話 北郷一刀 ~Gene~
世界を延命するために戦い続けた男は、新たな世界の一を生み出した。
しかし超大国を操っていた組織が消え去り、西部開拓期以来の混乱により戦場は混沌を極めていた。
民間軍事請負企業、通称PMCは連合体を組み自らの利益を守ろうとした。
生物兵器、サイボーグ技術、強化外骨格、そして遺伝子操作による人間兵器の創造。
そうした自己満足の塊から生まれた一人の蛇は、物心つく前から既に戦場で人を殺していた。データ採取かなんだか知らない。しかし戦場はそんな小さな少年に容赦がなかった。
人を殺す銃器、血が塗りたくられた刃物、人の死体。
銃声、爆音、断末魔の叫び。
踏みしめる地雷原、銃の反動、ナイフで肉を刺す感覚。
味気ないレーション、口に入る汗の味、そして血の味。
硝煙の臭い、血の臭い、肉が焼ける臭い。
遺伝子操作により五感は常人より遙かに高いものだった。しかしその鋭さは劣悪な環境を確固たるものとさせた。
その環境に置かれた彼は、生き残るために第六感までも磨かれていった。
* *
PMCは非常に合理的だ。自分の利益に執着し、反面感情やモラルは欠如していた。
私にとって忌まわしい・・・しかし私を解放した作戦は、そのPMCとは思えない作戦だった。とある紛争地域の都市の防衛だ。
私は戦場に出て五年、十歳になっていた。
その都市で一人の女の子に出会った。どこにでもいる普通の女の子だった。
私にとって自分に近づいてくる同世代は非常に珍しいものだった。だいたいは銃を畏れ、回りにいる傭兵を恐れて近づいてこない。
政権交代ごとに紛争が起きるその地域では、銃は見慣れた物なのかもしれない。
私は少女に興味を示し、彼女は私に興味を示した。
私は感情を持った。初めて外の世界を見た。
今思えば私はあのときに初めて生まれたのかも知れない。
戦場という名の子宮に閉じこめられ、自分で息をするわけでもなく、ただ戦場つながって生きていた。
私は少女に様々な事を教えた。
訓練で学があった私は、少女に文字を教え、経済を教えた。様々な知恵を教え、世界の事を教えた。
しかし少女は、私より広い世界で生きているように感じた。戦場という世界はあまりにも狭く、あまりにも無垢だった。
私は少女にそれ以上の事を教わった。
・・・だが別れは早く訪れた。
一ヶ月後、敵が駐屯している都市付近に迫っているとの情報が入った。
無能なPMC司令官は敵の陽動に引っかかり、あげく地の利を活かしたゲリラ戦術で一気に壊滅に追い込まれた。
敵は駐屯していた都市を襲撃し制圧し始めたのだ。
私は少女を捜した。
必死に探した。
彼女の家、彼女の仕事場、彼女の休憩場、彼女と初めてあった場所。
思いつく全ての場所を探した。
彼女を見つけたのは、敵のストライカー装甲車の中だった。
彼女は強姦されていたのだ。
私は敵兵を撃ち殺し、彼女に近づいた。
しかし彼女は壊れた笑みで呟いた。
―――コロシテ・・・
自分に与えられた力を知らず、全てを解き放った。
叩きつける雨の中、目の前には何も残っていなかった。
濁った空の下、死体はおろか、建物に至るまで、解き放った力になぎ払われていた。
・・・
・・
・
自分にそんな力がある。それを知らせてくれたのは自分を保護してくれた米国の人だった。
自分の体にナノマシンが入ってる。そんなことも知らなかった。そのナノマシンは自分を人ならざるものとしていたことも。
ナノマシンにより血流を加速させても耐えうる体。それによるドーピング効果を得る狂人化能力。通称バーサーカー。
千万ボルトの電圧にも耐え、肉体そのものをコンデンサーとして応用できる体質。ナノマシンによってその電気を行使できる操電能力。通称サンダーボルト。
そう。結局自分が知っていたのは人の殺し方だけだった。
―――そして私は野獣になった。
* *
命の恩人はいつか私の片割れ・・・アシッドも探し出そうとした。
しかし命の恩人は、日本にいた友人に私を預けた。
別に離れて過ごそうと思ったわけでも、私の力に怯えた訳でもない。
彼は軍属で、アメリカにいれば何かと戦場での記憶がフラッシュバックすると考えたのだ。
そこで私は初めて家族ができた。
差し伸べられた手は暖かく、少女の手に似ていた。
「どうした、一刀!?腕が下がってきているぞ!」
一刀は手に持っていた竹刀で正面にいたケインに斬りかかった。
しかし手に持っていた竹刀は、弾かれ宙を舞った。
同時に大きく体勢を崩した一刀は、庭に生い茂った芝生に身体を沈めた。
「お前、この家に来てどのくらいになる?」
青空を眺めていると横でケインが同じように大の字になる。
「そろそろ一年」
「慣れたか?」
「ここには邪気がない」
「邪気?」
一刀がつむぎだした言葉に、ケインは思わず上半身を起こした。
「敵意・・・悪意・・・いや、ストレス」
「ストレス?」
「負の感情・・・邪気」
片言で言葉を紡ぎ出す一刀に、ケインは時折相づちを打つ。
「戦場はそれに満ちてる。ここはそれがない」
「居づらいか?」
「自分がここにいる実感がない。実は夢の中で、起きたら戦場のど真ん中・・・そんな気もする」
そういった一刀の頬に雨が降ってくる。彼が見る空はどんどんと既に真っ黒になっていた。
「ん?明日から降ると聞いていたんだがな・・・」
上半身を起こしていたケインは立ち上がる。その間にも雨足はどんどんと強くなってきた。
一刀は起き上がらずに、その雨に全身を貫かせていた。
「僕はもう立ち上がれないかもしれない」
「雨が降ったら傘をさせ。転んだら立ち上がれ」
ケインは一刀に手を差し伸べた。
「立ち上がれなかったら?」
「もがけ、生きることに執着しろ」
差し伸べられた手は暖かく、少女の手に似ていた。
一刀の身の上話を聞いた桃香は、彼のお気に入りの場所で星を眺めていた。
「はぁ」
話のほとんどは理解できなかった。あの場にいた全員が全てを理解できたとは思えない。ただ彼が稀有な出自で過酷な半生を歩んできたのは、今まで自分たちを支えてくれた助言の重さからも感じ取れた。
「ずるいな・・・ご主人様」
水臭い。そんな感じがした。
自分たちとは違うところがある。彼には単にそんな印象しか持たなかった。他の恋姫達もきっとそう思っているだろう。彼がいた正史では化け物扱いなのだろうか。
もっとも彼にとっては、自分が異形の存在であるのと、その力で大切なものを失ったのは心の傷かもしれない。
「今は・・・もっと貴方をよく・・・知りたい」
星が煌き明るく、桃香を照らしていた。
* *
自らの出自と忌まわしい能力を語ったあと、部屋に一人残される形になった。
皆、そんなことで見方が変わるわけではないと言っていた。今思えばケインや玲二も、自分のそんな能力を怖がりはしなかった。
「まるで悲劇のヒーローだ。いや・・・なりたくはないな、そんなものには」
そう、ただ自分が勝手に自分の力に恐れ、それを拒んでいる。
心的外傷は他人の目より自分の力を気にしていたのだ。
「私は・・・英雄なんかじゃない、これまで・・・これからも」
月が儚く寂しく、一刀を照らしていた。
おまけ:設定資料
バーサーカー:恐るべき子供達計画とは別の計画で生み出されたアトモス・アシッド両名に施された遺伝子的処置の一つ。
全身の血管が非常に柔軟かつ丈夫であり、ナノマシンによる血流加速操作を受けても無事な体となっている。
この血流加速によって一時的にドーピングに似た効力を得られる。同士に脳内物質の分泌が過剰になり、通常時よりも状況判断能力が上昇する。
血流操作によって白目の部位が紅く染まるが、これは眼球内の毛細管が血流加速によって太くなっているからである。
弱点は三つあげられる。
脳内物質の異常分泌によって感情を処理できなくなり暴走の危険をはらんでいること。
血流を加速しているため出血するとそれが大惨事になり得る可能性があること。
酸素供給が充分に行われない可能性があり、個体差や経験によって性能に差が出る。
* *
サンダーボルト:アトモス・スネークに施された遺伝子的処置の一つ。
千万ボルトの電圧に耐え自身をコンデンサーとして利用できる体と、ナノマシンの仲介によってその電流を操作できる能力。しかし電撃操作は人体のみでは不完全でしかなく能力事態は欠陥であった。
千万ボルトに耐える体だが、むろんその電圧が生み出す熱に体が焼き切れてしまうため、彼のスニーキングスーツは絶縁体であるゴムを使用している。
アトモスはこの能力をナノマシンやツールを仲介し応用することによって、戦術を拡大している。
* *
アンデット:アシッド・スネークに施された遺伝子的処置の一つ。
細胞のほとんどが癌細胞を利用した再生能力を持っており、ビッグ・シェル占拠事件とリキッド・オセロット蹶起事件の際に暗躍したヴァンプのナノマシンを使用し、異常な再生能力を誇る。
アシッドを倒す方法として、首を叩き斬る。棒状のもので脳を貫通する。再生能力が追いつけないほどに破壊する。などの方法がある。
なおこの能力は異常にカロリーを要求するため、アシッドは非常に大食いであり悪食である。
* *
計画:PMC(民間軍事請負企業)連合体が行った遺伝子操作およびナノマシンの制御による生体兵器の開発計画である。秘匿計画のため名はない。
優秀な兵士の遺伝子のクローンを生み出す「恐るべき子供達」計画とは違い、優秀な兵士の遺伝子配列を操作し極限まで肉体と頭脳を高めるのがこの計画であった。しかし失敗が非常に多く満足のいく個体を作り出せずにいた。そのため人工子宮を用い、不確定要素を極限に排除した結果、突然変異としかいいようのない体質を備えた個体が制作可能になった。その末に完成したのがアトモスとアシッドである。
二人が誕生した後もこの計画は十年近く続けられたが、アトモスによる中東都市消滅事件により事が発覚、その悪魔のような所業と倫理観から公にされることなく闇の中に葬られることになる。
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・真・恋姫†無双をベースにとある作品の設定を使用しています。クロスオーバーが苦手な方には本当におすすめできない。
・俺の◯GSを汚すんじゃねぇって方もリアルにお勧めできない。
・ちなみにその設定は知っていれば、にやりとできる程度のものです。
・この作品は随分と厨作品です
・過度な期待どころか、普通の期待もしないでください。
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