No.130810

~真・恋姫✝無双 孫呉の外史2-1

kanadeさん

反董卓連合編・・・孫呉の外史2-1をお送りします。
第二弾となるこの話をよろしくお願いします。
それではどうぞ。
感想、誤字脱字等の報告もよろしくお願いします

2010-03-18 19:58:19 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:12901   閲覧ユーザー数:9403

孫呉の外史2-1

 

 

 

 黄巾党の壊滅から一月が経ち、雪蓮は〝江東の麒麟児〟として名を馳せ、大陸にその名を轟かせた。

 その甲斐あってか、彼女の下に集う者たちはその数を増やし、有力者たちからの援助も入るようになり、その力を一気に拡大していった。

 しかし、力の拡大に比例するように袁術に対する警戒もより一層強くなっていったのは、ある種の必然だった。

 「う~・・・ピリピリしてるなぁ・・・空気」

 「仕方ないですよ。上に立つ者が下に立つ者に劣っているとなればどんな圧力がかけられるかわかりません。ましてや、袁術の所には尚香様がおられるわけですから」

 街の警羅をしながら、一刀と氷花は世間話をしていた。

 一刀の左隣には、燕もいるのだが。

 「・・・気にしたら疲れる。だからつばめは気にしない」

 何事にも自分のペースを崩さない燕であった。

 いつもの巡回コースをあらかた回り、いざ昼餉にしようかというところで聞きなれた力のある声が三人を呼びとめた。

 

 ――「三人とも館に戻れ。軍議だ」

 

 真剣な表情と声の香蓮が立っていた。

 

 館の中で一番広い部屋に孫呉の主要な将たちが集まっている。

 その全てが、何故か一刀の事を凝視していた。

 (・・・うわぁ・・・理由に心当たりがあるなぁ。明命、いないし)

 そう、全員が揃っているかと思えば周泰――明命の席だけが空いており彼女の姿がどこにもなかった。

 「一刀、呉の将はお前の私物ではない」

 「承知してるよ。話すのは当然だけど、明命にはお咎め無しでお願いできないかな?」

 訪ねる一刀に、香蓮は雪蓮を見て、雪蓮は冥琳を見て、彼女は頷いた。

 そして、視線だけで〝話せ〟と一刀に促した。

 すぅっと息を吸い深呼吸をし。

 

 ――「明命なら、洛陽に偵察に行ってもらった。そろそろ戻ってくると思う」

 

 簡潔にそう答えた。

 

 

 ――数日前。

 明命は一刀の密命を向け洛陽の街に潜入していた。

 本来、主君である雪蓮達を介さずにこのような事をするのは許されざる行為ではあるが、一刀がどうしてもと再三にわたって交渉し、最終的に明命が折れたのである。

 「全てが手遅れになる前に。と一刀様は仰いましたが・・・」

 正直なところ、来て正解だったのではないかとさえ思っていた。

 (噂では董卓の圧政により民は飢餓や貧困にあえいでいるという事でしたが・・・)

 明命が見ている光景は、最近になって聞く洛陽の噂話とはまるで違っていた。

 確かに、いささか荒れていた名残等があちらこちらに見受けられはするものの、都には人々の活気が確かにある。

 荒れているというよりはむしろそこから復興しているようにしか、明命には見えなかった。

 (可能であれば城への潜入とこの書状を董卓に渡して欲しいとのことでしたが・・・)

 他勢力の懐に単独で潜入するのは大きなリスクを伴う。

 見つかればまず命はない。ましてや、今回の件は主君の命ではなく一刀の個人的な頼みでしかないのだから、そこまでする必要などは全くないのだ。

 「・・・・・・いきましょう」

 一先ず、明命は夜を待つ事にした。

 そして夜になり、都が寝静まった頃に明命は行動を開始した。

 

 「・・・ごめん。皆寝かせてあげられなくて」

 「ええって、詠っち。月もや。・・・ウチらは気にしてへん。やろ?華雄」

 「当たり前のことを一々聞くな張遼。それで緊急の召集との事だが一体何事なのだ?」

 「・・・眠い」

 「恋殿、もう少しの辛抱なのです」

 気づかいに感謝を述べ、賈駆は董卓と呼ばれた少女を一度見て話を始めた。

 

 「・・・」

 「・・・・・・笑えへん話や。月が圧政か・・・袁紹もやってくれるやないか」

 「?」

 「恋殿にはねねが後でお話しますからご安心を」

 董卓は賈駆の話を沈痛な面持ちで聞いていた。そして、賈駆の話が終わった時、一人を除いて苦虫を噛んだような顔をしていた。

 「・・・多分。ううん・・・間違いなく大陸が大きく動く事になると思う。あんた達を集めたのは夜明けからでも準備に入って欲しいからなの・・・霞?」

 本題を話し始めた賈駆を、張遼が片手で制した。

 「ウチらは一切手は出さへんって約束したる。せやから、ええ加減に姿見せや」

 

 暫く場が静まりかえったが、覚悟を決めたのかそれは姿を見せた。

 

 ――「このような形での謁見となり誠に申し訳ございません。お初にお目にかかります。我が名は周泰・・・孫呉の将でございます。董卓様、あるお方たっての願いにより貴女様に書状を御持ちに上がりました」

 

 現れた影は、明命だった。

 

 

 「・・・・・・」

 「鼻息がやかましいから黙っとかんかい。・・・詠っち、なんて書いてあるんや?」

 ガン、とどこから取り出したかわからない偃月刀の柄で、張遼は華雄の頭をはたいた。

 「――周泰だったわよね?・・・この内容はボク達を馬鹿にしてるの!!」

 読み終わった賈駆は声を張り上げた。

 隣にいた董卓はビクッと体を強張らせて他の四人は何事かと賈駆を見る。

 「こんなものが書状?悪戯にしたってふざけているわ!」

 力いっぱい握りグシャグシャになった書状を力いっぱい床に叩きつけた。

 だが、明命は何も言わずただ真摯に賈駆を見つめている。

 

 そんな二人の張りつめた空気の間に、張遼は何食わぬ顔で間に入り、叩きつけられた書状を拾い上げ広げた。

 「?なんやこれ・・・たったこれだけの事を伝えるために紙を使うたんか?」

 ほれ、と華雄たちにも読めるようにひっくり返すと。華雄たちも目を点にした。

 

 ――手紙にはこう書かれていた。

 

 〝あなた達を救いたい。どうかこの言葉を信じてほしい。~北郷一刀~〟

 

 ただその一文だけが手紙には書きつづられていた。

 

 「董卓様・・・あの者をみすみす帰してよかったのですか?」

その後、明命は何事もなくその場を去っていた。これは、書状を読んだ董卓がそう指示したためである。

 「はい・・・。詠ちゃんはああ言っていましたが、私は信じてみようと思います。だから、あれでいいんです」

 「僭越ながら、孫策らが董卓様に隙を与えるための策であるとも限らないのではないのでしょうか?」

 「・・・そんな事ない。あの手紙・・・書いた人の〝氣〟が残ってた。すごく綺麗だった」

 「恋がそう言うんやったら間違いないやろ。恋の人を見る目はピカイチやからな」

 「霞は良い事を言いましたぞ。恋殿の目に狂いはないのです」

 小柄で快活さを感じさせる少女――陳宮は、自分の事のように真っ平らな胸を張ってそう言うのだが、華雄の方はというと未だに納得しきれていない様子だった。

 それは賈駆も同じようで、董卓の横顔を心配そうに見つめている。董卓は、彼女の視線に気づき優しく微笑む。

 「へう・・・詠ちゃん、そんなに心配そうな顔をしないで・・・きっと大丈夫だから」

 「月・・・」

 そこまで言われては仕方がないと、賈駆はとうとう折れた。華雄の方も渋々ではあったが引き下がった。

 

 この董卓の選択が、彼女たちの未来に大きな影響を与えることになるとは、彼女自身はおろか誰一人として思っていなかった。

 

 

 時は再び現在に戻る。

 一刀の発言は、その場にいた全員を驚かすに十分なものであり、誰もが言葉を失っていた。そんな中で一人が一刀に向け刃を振るう。

 「貴方にそこまでの勝手は許していないわよ」

 雪蓮だ。彼女は腰に提げてある〝南海覇王〟を抜き放ち一刀の頸に刃を走らせるのだが、それは鞘から抜かれた〝徒桜〟によって塞がれる。

 キィンッという高い音が鳴った後、雪蓮は感心したように「へぇ」とだけ言い、刃を収めた。

 一刀の方もそれに倣い〝徒桜〟を収める。

 「どうしてそんなことしたのか事情は聞かせてもらうわよ。いいわよね?」

 その問いに拒否権など存在しない事を当然だが一刀は分かっていた。

 なので一切の逡巡もなく一刀は雪蓮に頷く。

 「俺は警羅で街を歩き回ってるわけだけど・・・そうすると色んな人との繋がりができるんだ。少し前に、〝洛陽〟からの行商に出逢って都の話を聞いた。そうして知ったのは、噂との違い・・・董卓の圧政が嘘だってことだった。そのときにさ、不意に思ったんだ・・・〝董卓たちを救いたい〟って・・・!がっ!!」

 一刀は、無言で近づいてくる香蓮に気付いていなかった。当然彼女の表情が修羅のソレになっている事にさえ。

 言い終わった瞬間に、一刀は部屋の端の壁にまで吹き飛ばされた。

 一刀のいた位置には香蓮が立っている。どうやら彼女が一刀を蹴り飛ばしたようだ。

 「ガキが調子に乗るな・・・お前一人が頑張ったところで何も変わらん。この流れに乗り遅れればどうなるかなど、そのカビの生えた頭でもわかりそうなものだがな」

 厳しく一刀を叱咤する香蓮の声には、有無を言わさない圧倒的な迫力が籠っていた。

 だが、一刀は香蓮の目から逃げずにまっすぐに見つめ返す。

 「その流れの中でそうしようって言ってるんだ!・・・がっ・・は・・・」

 「ほざくな・・・そのまま寝ていろ。なに、今日までの働きに免じて殺しはせん」

 鳩尾に力いっぱい拳を叩きこむ香蓮。氷花と燕が身を乗り出そうとしたが祭が一にらみでそれを止めた。その視線には戦慄するほどの殺気が込められており、〝手を出せば容赦はしない〟と語っていた。雪蓮と冥琳は真剣な表情で二人のやり取りを見守っており、穏は少々戸惑った素振りを見せ、蓮華はどうしたらよいのか分からずにおろおろとし、思春は冷たい眼で一刀を見ていた。

 香蓮が一刀に背を向けると、一刀はよろめきながらも立ち上がった。

 殴られた鳩尾には手を宛がい、表情は痛みで苦悶に歪んでいる。口の端からは血が流れており、先程の一発の威力がいかに凄いものであったかが窺えた。

 「まだ立つか・・・」

 「立つさ・・・痛っ・・・香蓮、董卓を討つ・・この流れはどうしようもない。・・・はぁ、はぁ・・・だけど、その流れにそのまま乗るんじゃ・・・俺たちだって袁紹たちと何も変わらなっ・・・が、ぐ!!!」

 「言うに事欠いて袁紹達と同じだと?殺さんと言っているというのに・・・そんなに死にたいか」

 顎に見事に入った拳はそのまま一刀の意識を奪うには充分すぎる威力だったにもかかわらず、一刀は再び立ち上がった。

 「皆が力を貸してくれたらきっと出来る筈なんだ・・・全ては救えない・・・けど、救える可能性がほんの少しでもあるのなら・・・その可能性に欠ける価値は・・・きっとある!!・・・その先にはたくさんの笑顔があると・・・信じているから・・・だから!」

 そのまま、一刀の意識は暗転した。

 力を失くした一刀は倒れこみそうになったのだが、一刀は地には伏せなかった。

 「儒子が・・・言いたい事だけ言って気絶したか・・・」

 一刀は香蓮に支えられていた。そして、軽く嘆息する。

 そこには先程までの修羅の顔はなく、いつもの香蓮の優しい表情があった。

 「氷花、燕・・・この阿呆を部屋に寝かせて来い・・・蓮華、お前も一緒に行け。ああ、お前は残れよ思春」

 そのまま、三人は一刀を連れその場を後にした。

 

 

 「くくくくっ・・・あっはははははははははは――」

 声を張り香蓮は笑った。

 

 ――可笑しい。

 心の底から可笑しくてたまらないとただ声を上げて笑った。

 「ああ、見たか祭?・・・一刀のあの眼を」

 「無論。・・・いやはや、なかなかに〝男〟であった」

 うむうむと感心しながら、祭は何度も頷いた。その顔には笑みを湛えている。

 雪蓮も母と同じように声をあげて笑っていた。冥琳も、声こそは出していないが笑って、穏も笑っている。

 その中で思春だけが普段と変わらない態度だった。

 「北郷を処分しないのですか?」

 「当然、しないわよ。さて、どうしたものかしらねー」

 「・・・董卓軍には華雄、張遼・・・そして飛将軍として名高い呂布がいる。それらを呉に取り込むのは中々骨が折れる・・・ましてや、今の私たちの立場ではな・・・不可能ではないが、可能だと断じる事は出来ん」

 「それが可能な流れになった場合だけど・・・華雄には一刀を充てるわ。張遼には氷花と燕を。呂布には・・・母様が。祭・・・貴女は一刀の補佐に廻って。張遼や呂布はともかく・・・華雄には呉の将では不可能だもの。昔母様がボコボコにしちゃったから」

 トントン拍子に話が決まっていく中、雪蓮達の表情から笑みが失せ、雪蓮が電光石火の速さで  〝南海覇王〟を振るった。

 「おっと・・・さすがに闇討ちは無理か。〝江東の麒麟児〟・・・いやはや、見事なものだね」

 そこには一人男が立っている。全身を覆う黒いい外套、顔を隠す仮面。

 素顔こそ見えないが、禍々しい殺気が男からは放たれていた。

 「・・・何者かしら。袁術の使い?」

 「まさか。ありえないな・・・俺の目的は別にあってね。君達の誰か一人でも殺せたら・・・と思っていたんだけど・・・やれやれ、枷がある内は不可能みたいだ。今ここで外してもいいんだけど・・・そうすると面倒なのに見つかる」

 「――――お前、何者だ」

 男は答えない。男は香蓮を見ると固まった。

 

 

 男は立ち尽くす。顔は見えないがどうやら驚いているようだ。自分の知らないものを見つけたという感じだ。

 「貴女は・・・知らないな。初めまして・・・貴女は誰かな?」

 「孫文台・・・」

 「貴女が〝江東の虎〟・・・と、流石は〝鈴の甘寧〟・・・気付かなかった」

 「・・・」

 鈴音が男の背後から首に宛がわれている。いつでも殺せるという意思表示が鈴の音に籠められていた。

 「だけど俺は殺せない。残念だったね」

 そう言うと男はその場から姿を消した。そして、思春を押し倒し腕を捻り上げていた。

 「馬鹿な・・・貴様、妖術使いか」

 「おや、喋る余裕があるんだ・・・ならもっときつめに捻るか」

 「が、ぁ・・・くっ」

 「なんてね・・・俺は帰るから、〝天の御使い〟によろしくと伝えておいてくれ」

 そう言うと男はそのまま消えた。今度は気配さえ残さずに。

 

 しかし、雪蓮達の緊張は暫く解けなかった。

 男が去った後。

 「・・・さっきの・・・一体何者かしら。凄い殺気だったわ」

 「わからん。北郷を知っているようだったが」

 「やはりあの男の存在は危険ではないでしょうか?」

 「興覇、お主は北郷の何が気に入らんというのじゃ?何かというとあやつにはきつく当たっておるようじゃが」

 「・・・そのようなことは」

 「はっ、お前は単に蓮華を取られたと思って嫉妬しているだけだ。アホらしい」

 「な!?」

 「あら~?思春ちゃん、顔が真っ赤ですよ♪」

 「思春は本当に蓮華が大好きよね~♪一刀も大変ね、冥琳」

 「先程までの緊張は一体どこへ行ったのやら・・・まったく」

 呆れながらも冥琳は楽しそうだ。それから暫く全員で思春をからかった。

 

 ――明命が戻ったのはそれから間も無くだった。

 

 

 それから数日が経って一刀は香蓮からの驚きの内容を聞かされた。

 「え?本当に・・・」

 「ああ。お前の意地の勝ちだ・・・ただし、最初に言った通りそういう流れに運べた場合だけだ。不可能であれば・・・それはいいな?」

 「大丈夫、きっとなんとかなる」

 「あはははは・・・言うじゃないか・・・」

 「ん・・・これは何のキス?」

 「なに、大した理由はないさ・・・一刀、華雄は手強いぞ」

 抱き寄せて一刀と唇を重ねた後、そっと身を放しそう告げる。一刀もそれは承知していると力強く頷いた。

 香蓮は満足そうにほほ笑むと、そっと一振りの刀を一刀に差し出す。

 それは、一刀の知らない刀だった。

 「邪魔になるかもしれん・・・だが、持っていてくれないか?」

 「これ、香蓮が?」

 「ああ、銘はお前が決めてくれ・・・」

 言われて一刀は、一度鞘から刀を抜き、再び納める。そういて暫く考えた後、うんと頷いて香蓮にこの無銘の刀の名を告げた。

 

 ――「〝山茶花〟・・・かな」

 

 宙に字を書いてみせると香蓮は首を傾げた。

 「椿とは・・・違うのだな。何故、その名を?」

 「この薄紅色の刀身を見た時、なんでか思い出したんだ。山茶花には《困難に打ち勝つ》っていう花言葉があるんだ・・・だから、それにあやかってなんだけど・・・どうかな?」

 「いいんじゃないか?お前、〝天の御使い〟なんていう困難を背負っているからな。あたしの打った刀で打ち勝ってくれるなら・・・それこそ打った甲斐があったというもの・・・しかし、花にそんな意味が込められているとはな」

 面白いなと香蓮は笑う。その笑った顔があまりにも綺麗で、一刀は自然に香蓮を抱きしめていた。

 「か、一刀?」

 「ありがとう。でも、《その時》が来るまでは徒桜と頑張りたいんだ。ごめんね」

 「阿呆。簡単に乗り換えるようだったら、遠慮なく殴打していた。第一、最初に言っただろう。邪魔になるかもしれん・・・だが、持っていてくれないかと。だから、それでいい・・・持ってくれるだけでもあたしは充分だ」

 改めて香蓮は一刀を抱きしめた。

 

 非常に熱い。気温が二、三度上昇した感がある一刀の部屋の外では。

 「冥琳・・・どうしたらいいのアレ」

 「雪蓮、私にその手の意見を求めるな・・・」

 「むう、このままでは北郷が堅殿に染め上げられてしまう恐れがあるのう」

 「香蓮様、一刀さんにぞっこんですね~♪」

 「お母様・・・いいなぁ」

 「蓮華様、今何と?」

 「一刀様・・・私にもしてくれないでしょうか」

 「かずと、ずるい・・・つばめもぎゅってして欲しい・・・」

 「燕ちゃん、抑えて・・・でも、いつかはボクも一様・・・ん♪」

 皆が皆で好き放題にものを言っているわけではあるが。その賑やかさもすぐに圧倒的怒気によって掻き消される。

 

 ――「貴様ら・・・何をしている」

 『!!!!』

 全員が戦慄した。気付けば戸は開いており、そこには〝江東の虎〟が立っている。

 言い訳を必死に考えようとしているが、あの冥琳でさえ言葉が出てこないあたり、余程虚を突かれたのか、それとも雪蓮達の様に意外と楽しんでいたせいか、真偽は定かではないが、ともあれ拙い状況と言える。

 「さて、出陣の準備で忙しい筈と思っていたが・・・そんなに暇になっていたとは知らなかったな。丁度いい、少し体を動かしたいと思っていたところだ。付き合え」

 『・・・・・・』

 頷く者などいる筈がない。これはある種の死刑宣告だ。誰か一人でも頷いた瞬間に全てが終わるに違いない。

 「――皆・・・・解散!!」

 雪蓮が一言叫んだ瞬間、全員が脱兎の如くその場から散っていった。

 

 「ったく馬鹿共が・・・一刀、また後でな」

 「香蓮」

 「ん?」

 去ろうとする香蓮を一刀は呼びとめた。当然彼女は振り返り、一刀に問いかける。

 「ありがとう・・・大事にするよ」

 「ああ、そうしてくれ」

 一刀に手を振って、一刀も香蓮に手を振って、香蓮はにこりと笑って一刀の部屋から去っていった。

 

 

 「〝山茶花〟・・・か」

 改めて山茶花の薄紅色の刀身を見つめながらそんな事を呟く一刀。

 氣を籠めると、刀身は香蓮の赤帝のように赤い輝きを纏う。彼女のような焔のごとき赤ではない、どちらかといえば紅・・・銘の通り、山茶花の色に近い。

 「そういえば氷花が言ってたっけ・・・氣は使い手によって色や性質が異なるって・・・これが俺の色ってことか・・・でも、徒桜の時は色なんてなかったよな」

 刀を収め、何故だろうと頭を捻っていると、いつの今にか自分の寝台に腰かけている女性の姿が視界に入り、一刀は徒桜の柄に手を掛ける

 「おやめなさいな・・・天の御使い。今日は貴方に一言忠告をしておこうと思いまして」

 「忠告?」

 「〝彼〟に気をつけなさい」

 「〝彼〟?一体誰の・・・いない」

 そこにいた筈の女性は、一刀の問いかけに答える事もなくそこから姿を消していた。

 一体なんだったのかと一刀は暫く考えたが、結論は出ることなかった。

 

 彼女こそが管路であるという事を一刀が知る事になるのは、それからずっと後になっての事。間も無く一刀は反董卓連合に呉の一員として参加する。

 

 ――董卓たちを救う。

 

 そのために、天の御使いは一歩を踏み出した。

 

 

~あとがき~

 

 

 

 今回は早め(?)の投稿となりました。

 ストーリー・・・ほとんど進行してないですね。すいません・・・でも、次の話では進みますのでご勘弁を。

 外套の男は香蓮達と接触しました。そして一刀は管路と。意味があるかないかで言うと微妙です。

 香蓮の打った刀の銘〝山茶花〟ですが、私が調べた限りでは花言葉は本当ですのでご安心を。ちなみに、《ひたむきさ》という意味もあります。色によっては他の意味もありますので興味が湧いた方は調べてみるのも面白いかもしれませんね。

 

それでは次回の話でまた――。

Kanadeでした

 


 
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