No.130611

真・恋姫✝無双~魏・外史伝~再編集完全版9

 こんばんわ、アンドレカンドレです。

 再編集と言う事で、既存の作品を元に修正を加えています。すぐに済むのかと思っていたのですが、最初から読みなおしたり、表現を変えたり、絵を描き直したり・・・これが意外と大変なんですねぇ~(誰得な情報と言うわけではないwww)。

 ※主に、挿絵の修正・加筆+新たなに描き下ろし。さらに一部のシーンを改変しました(例、愛紗と鈴々の口論の挿絵→二人の部分修正、背後に翠と紫苑を加えました)。

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2010-03-17 20:34:38 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:3207   閲覧ユーザー数:2965

第九章~その心のままに~

 

 

 

  「桃香様に逆らうというのならば徹底的に叩き潰すのみ!いざ開戦だっ!!」

  宮殿の中央に設置された軍議用の机を叩く武将・魏延こと、焔耶・・・。

  「待たんか、焔耶!何でも戦いで解決しようとするでない!」

  鼻息を荒くし、興奮する焔耶をなだめる様、叱って言い聞かせる桔梗。

 場所は成都の城の宮殿。ここでは現在愛紗達が巴郡の火災についての事後報告をしていた。その報告の中にある

 正和党にかかった疑惑に桃香は動揺を隠しつつ、何も言わずただ黙って軍議を見守っていた・・・。

  肝心の軍議の方は主に正和党に対する対処について話し合われていたが、未だまとまった意見が出ていない。

  「そうなのだ!おっちゃん達がそんなひどいことをするはずがないのだ!きっと街が燃えているのを見て、

  それで街の人達を助けていたのだ、きっと!」

  「でも、あいつら街の人達と兵達を殺していたよ!」

  「それは・・・、たんぽぽの勘違いなのだ!お前が勝手にそう思い込んでいるだけなのだ!」

  「何ですってぇ!!」

  「二人とも、こんな所で言い争っては駄目よ」

  口喧嘩で互いにいがみ合う二人の間に武将・黄忠こと、紫苑が割って入った。

  「ですが桃香様、廖化殿はそういう人物であったと言う事です。あの男も元は黄巾党の人間。

  このような蛮行を犯す事はある意味では、当然のことだと・・・」

  「愛紗!しょーこも何もないくせして、どうして廖化のおっちゃん達をそんな悪く言うのだ!?

  おっちゃんはいい人なのだ!」

  「私は現状から客観的な意見を述べただけだ!」

  「それのどこがきゃっかんてきなのだ!!鈴々には悪口にしか聞こえないのだ!」

  「何だと!?」

  「何を~!?」

 

 

  「止めんか、二人共!今ここでお前達がいがみ合った所で仕様の無い事ではないか!」

  口喧嘩で互いにいがみ合っていた二人の間に今度は桔梗が割って入った。

  「うにゃっ!けど、桔梗・・・!」

  「・・・・・・」

  「おい、桃香。さっきから黙っているようだが、いい加減お前の意見を聞きかしてくれないか」

  先程から話に入って来ない桃香を見兼ね、武将・公孫讃こと、白蓮は敢えて彼女に話を振る。

  白蓮によって急に振られ、我に返り戸惑う桃香であったが少し考えた後、何かを決めた様に立ち上がる。

  「・・・私は、廖化さんともう一度話し合うべきだと思うんだ」

  それは飽くまで交戦反対の意向を表示する発言。

  「まずは向こうの言い分を聞いてからの方がいいと思うんだけど・・・朱里ちゃん、雛里ちゃんどうかな?」

  二人の軍師の意見を仰ごうと、桃香は朱里、雛里に話を振る。

  「はい・・・、不確定な情報が錯綜する現状況でこちらの元にある情報だけで全てを判断するのはやはり早計だと思います」

  「・・・ですので、ここは当事者である正和党の皆さんと改めて接触し、情報の交換をなさるのも良いか

  と思います・・・」

  と雛里、朱里の順に二人の考えを提示した。

  「ふむ、確かに下らない姉妹喧嘩を眺めているよりかは無駄に時間を浪費せずに済むだろうな」

  その皮肉を込めた星の言葉に、愛紗と鈴々は返す言葉もなかった。

  「まぁまぁ・・・星ちゃん。姉妹喧嘩は仲の良い事の証なんですから」

  と、そこに助け船を出す紫苑。

  「仲が良すぎるのも如何なものかと思うのだがな、紫苑よ?」

  対して紫苑が出した船を沈める星であった。

  「まぁ、桃香様がそうしたいっていうんなら、あたしは別にいいぜ」

  「桃香様がそう仰るのなら、私は一向に構いません」

  「さっきまで戦だとか馬鹿の一つ覚えの様に言ってたくせに・・・」

  「何か言ったか?」

  「べっつに~」

  「まぁ、何だ・・・。とりあえず桃香の考えに反対する奴はいないようだな」

  「ありがとう、皆・・・。じゃあ、朱里ちゃん、雛里ちゃん。廖化さん宛に書状を書く準備をしてくれるかな?」

  「はい!じゃあ雛里ちゃん、行こう」

  「う、うん・・・」

  そして三人は書状を書くべく、桃香の執務室へと向かっていく。

  「まだ・・・間に合うよね」

  その時、桃香誰にも聞こえないように呟いた、既に手遅れであるという事も知らず。

  それから二日後、正和党は蜀に宣戦布告した。

  彼女の思いは彼等に届く事はなかったのである。

 

  

  「正和党が蜀に反乱を起こしたらしいぞ」

  「あの正和党が?!どうしてそんな事に・・・」

  「何でも、巴郡の街を放火して、住民を殺したとか」

  「劉備様が正和党と話し合いを設けようとしたんだが、それを向こうが拒んだらしいな」

  「でも・・・、あの正義の正和党だろ?どうしてそんなひでぇ事を?」

  「当の正和党は自分達の仕業では無く、蜀側の仕業だと言っているようだな」

  「ええ?どうして劉備様の仕業なのよ・・・?」

  「まったく、色々と情報がごったがえしたいるからどっちが本当なのか・・・」

 

  「なあ、今蜀内は戦状態ってことじゃねぇか?」

  「ああ、正和党が南から蜀軍の防衛拠点を落としているらしいな」

 「確か昨日は建寧の拠点が正和党の奇襲で落ちたようだし・・・」

  「でもさ、ここ最近急成長したからって戦力的に見れば、蜀軍の方が圧倒的なんだろ?

  なのにどうして正和党の反乱を抑えられないんだろう?」

  「民達を敵に回したくないんだろう?」

  「どういう事よ?」

 

  「話によると、地元住民達の多くが正和党の支援をしているようでな。

  正和党の人達がそんなひどい事をするはずが無いって具合に。

  蜀の主張よりも、正和党の主張の方が住民には信憑性が高いのかもな」

  「下手に正和党を攻撃したら民達から非難の嵐が来るから、それを恐れているって事か・・・」

  「軍も正和党は敵にしても、民達まで敵に回したくないってことか」

  「あまり蜀に近づかない方が良さそうねぇ・・・」

  「そうね・・・」

 

  陳留に向かう道中の町村で正和党という武装集団が蜀に反乱を起こしたという話を耳にした。

  現代風に言えば内戦みたいなものだろう。

  それ以前にも常山の辺りで五胡と魏軍が衝突しており、国境付近の警戒は厳重になったそうだ。

  おまけにあの呉の建業で起きた謎の大男の暴動。

  俺がこの世界に戻って来てから、まだひと月も経っていないだろう。

  なのに、この世界では立て続けに戦いが起こっている。

  乱世終結から2年しか経っていないというのに、一体これからこの世界はどうなってしまうのだろう。

  「・・・・・・」

  ・・・待てよ。俺がこの世界に来てからそういう争い立て続けに起きている?

 俺が来るまでは平和だったはずなのに。これじゃまるで俺がこの世界に戦いをもたらす厄病神みたいじゃないか。

  ・・・いや、俺が初めてこの世界に来た時もそうだ。

  俺がこの世界にやって来てから黄巾の乱、反董卓連合、そして乱世という長い戦が始まった。

  そしてそこから長い戦いが終わると同時に俺はこの世界から消滅した。

  そして今回もそうだ。

  ・・・じゃあ俺がいなければ、この世界は平和なままだったのか?

  いや、そんなはずは無い。この世界は元々三国志のそれとよく似た、一種のパラレルワールド。

  俺が居なくても戦いは起こっていたはずだ。

  ・・・でも、それは前の話であって今回は違う。

  この世界はすでに俺達が知っているような三国志のそれと全く違う歴史を歩んでいるんだ。

  じゃあ、やっぱり俺は厄病神なのか?

  俺はただこの世界に戻りたかった。

  そして、俺の願が叶い、最初は喜んだが・・・それは自己満足に過ぎず。

  この世界の人達にとって俺という存在はどうなのだろう?

  何より、このよく分からない力だ。どうして俺にこんな力が?

  こんな・・・誰かを不幸にするかもしれないこの力が、どうして?

  分からない、もう何が何だか俺にはもう訳が分からない。

  俺はただ皆にもう一度会いたかっただけなんだぞ?

  ・・・なのにどうしてこんな事になるんだよ。

 

―――俺は、一体どうしたら良かったんだ?

 

 

  「・・・ごう、・・・小僧っ!!」

  「・・・ッ!?」

  爺さんの呼びかけにはっと我に返る。

  ここは陳留へと続く獣道。深い森で人の姿は当然ない。

  どうやら、またしても道に迷ってしまったようだ。

  ここには俺とふさふさの毛に覆われた眉をつり上げている謎の老人・露仁しかいなかった。

  「あ、あぁ・・・何だ?」

  「何だ、ではなかろう?!さっきから呼んでおるというに・・・一体どうしたんじゃ?」

  止めていた足を再び動かし、露仁の右横に並ぶ。

  「いや、何でもない」

  「何でもないわけ無かろうに・・・、わしにも話せんようなことか?」

  「・・・・・・」

  「まぁ、お前さんのことじゃから、どうせ碌でもない事を考えておったんじゃろう?」

  「ろくな事って・・・そんな言い方するなよ」

  「ふん、やはりな。まぁ、お前さんが何を考えていようがわしには関係の無い事かのぅ」

  露仁はそれ以上の追求を控え、俺の方を向けていた顔を正面に戻す。

  しかし何でもお見通しのようだな、この爺さんは。

  まるで風のようだ。俺の心を見透かしているようだが、これも年の功ってやつなのか?

  「だが、北郷・・・あまり自分を追い詰めんじゃないぞ?」

  「え?」

  話を終えたかと思った露仁がまた話し出す。

  「山陽の村の時と言い、その優しい性格のせいで色々と悩み過ぎる所がある。

  優しいのは悪い事じゃないが、時としてそれがお前さん自身を追い詰めておる。

  優しさは時として自分を殺す。精々気を付けるようにせい」

  「・・・・・・」 

  俺は露仁の方を見ながら黙って話を聞く。

  言葉一つ一つが俺の体に染み込み、そして俺の心にまで染み渡っていくようだ。

  「と言っても、どうせ手遅れじゃろうがな!」

  「おい、最後に言うことがそれかよ!」

  露仁の投げやりな最後の発言に思わずツッコミを入れる。

 

  ガサガサッ・・・

 

  「ん?」

  俺は足を止め、林の方を見る。

  「どうした、北郷?」

  いきなり立ち止まった俺に気が付き、何事かと露仁が尋ねて来る。

  「今、林の方から音が聞こえたんだけど・・・」

  「音?動物か何かじゃないのか?」

  「それは分からないけど、もしかしてまた熊か・・・?」

  「な、何じゃと!また熊に襲われるのか!?」

  露仁は慌てふためきながら俺の後ろにしがみつく様に身を隠す。

  「お、おい!そんな風にしがみつかれたら俺が動けないだろうが!?」

  「馬鹿もん、わしの護衛をしとるんだろ!だったらせめてこういう時ぐらいわしの壁にならんか!?」

  やれやれと首を傾ける。

  忘れがちになってしまうけど、俺が露仁と一緒に洛陽に向かっているのは付き人兼護衛という条件で付いて来ている。

  爺さんのいう通りだが、もし本当に熊や虎だったらさっさと逃げた方がいいかもしれない。

  そう思っていた瞬間。 

 

  ガサガサッ!!

 

  「ひぇえ!!??」

  「うげッ!?」

  突然の音に露仁が驚き、俺のを首にしがみつく。

  もろに腕が首筋に入りチョークスリーパーが完全に決まる。

  俺は思わず、潰れた蛙のような声を出す。

  「な、何じゃ何じゃ今の!?北郷何とかせい!」

  「そ、その前に・・・!この首に完全に・・・決まっている腕を・・・緩めてくれ!」

  どんどん首を絞めていくその腕に、タップしながら声を喉から出す俺。

 

  ガサッ!

 

  そして、草影の合間からぬっと影が出てきた。

  「お?」

  「ぐえ・・・!?」

  草影から出てきた影の正体、それはボロボロになった寝巻姿の若い女性であった。

  俺の首を締めながら露仁は目を大きく見開く。

  あの露仁・・・もういい加減緩めてくれないと俺、そろそろ限界なんですけど。

  「た・・・、助けて・・・下さい」

  林から道へと出てきた女性は、力尽きるかのようにその道端で倒れる。

  「だ、大丈夫かお嬢さん!?」

  「ぐおぁッ!?」

  ようやく首食い込んだ腕が緩んだかと思ったら、爺さんは乱暴に俺を押しのける。

  この糞爺が、後で覚えていろよ!

  「お嬢さん、しっかりなさい!」

  女性の側に駆け寄った露仁は倒れている彼女の肩を揺する。

  長い髪のせいで女性の顔が見えなかったけど、ひどく疲弊しているのが遠目に見ても分かる。

  一体、彼女の身に何があったのだろう。

  この近くにある村が盗賊にでも襲われて、一人命からがら逃げ出して来た、といった感じだろうか。

  「あ・・・、お、お助けください!」

  「ぬほっ!」

  その女性は起き上がるといきなり露仁に抱きついた。

  露仁は女性に抱きしめられて、至福の顔をする。

  「お、落ち着きんさい、お嬢さん。一体何があったか、この老体に聞、いて・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・露仁?」

  露仁の様子が急におかしくなった。

  女性に抱きつかれ、その嬉しさのあまり昇天したのだろうか?

 

  ザシュッ!!!

 

  「え・・・?」

  正直、何が起きたのか理解できなかった。

  突然後ろから何か衝撃を受け、血液が体全身を駆け巡る感覚に襲われた。

  視線を下に下ろすと腹から包丁?・・・小刀の様な鋭利な刃先が突き出ていた。

  「な・・・ぁ・・・」

  本当に訳が分からない。分からないけど、俺は後ろから刺されたようだ。

  刃先が引き抜かれると、傷口から大量の血がドプッと溢れ出る。

  血と共に体から力が抜けていく。俺は足元から崩れさるように・・・倒れた。

  「う・・・ぐぅ・・・、ごほっ!?」

  一体、何が起きた。

  ふと露仁の方を見るが、露仁はうつ伏せに倒れていた。

  腹の辺りには血溜まりができていたけど、あの女の人の姿がそこになかった。

  どこに行ったのだろうと探すも、俺の前にその女の人が姿を現した。

  そして、手には女性に似つかわしくない鉈があり、その切っ先からは血が滴り落ちていた。

  ようやく理解出来た、この女だ。

  どんな理由かは知らないが、この女がその鉈で俺達を刺したんだ。

  「へ・・・、意外とあっけなかったな。ええ?北郷よ」

  女の口から外見に似つかわしくない野太い男の声が出る。

  しかし俺が驚いたのはそれだけでは無かった。

  小柄な体格がみるみると筋肉質の男の体へ、細い腕と足はみるみると太く長いものへと変貌する。

  その長い黒髪は全て抜け落ち、白色の短髪のものへと生え変わる。

  ついには女性の面影は完全になくなり、完全な別人・・・男へと変身した。

  「な・・・、ぁぁあ・・・」

  腹の大きな傷よりも、そのあまりに常識外れの現象に俺はただ驚くばかりであった。

  そんな俺をよそに、男は体にまとわりつく布切れとなった寝巻きを乱暴に剥ぎ取っていく。

  「どうしたよ。まさか、いたいけな小娘がいきなりごつい男に変わっちまったことに言葉もねぇか?」

  倒れている俺を見下ろしながら不敵な笑みをこぼす男。

  「まぁ・・・、そんな事はどうでもいいな」

  「ぐ・・・」

  男は身をかがめると、俺の顎を乱暴に掴んで自分の方に近づける。

  「北郷、悪いがここで俺に殺されてくれや。

  俺達が先に見つけていれば、曹操に会わせてやってからでも良かったんだが、あの屑が余計な事をしたせいでそれも無理な話になっちまった」

  男は手に持っていた鉈を振り上げ、その切っ先を俺の頭に向ける。

  「ま、そういう事なんで・・・死ねよ」

  振り下ろそうしたその時だった。

  「!!」

  何かに気づいたように、男は俺の前から一瞬にして消える。そこで俺の意識はなくなった。

 

 

  カンッ!カンッ!

  

  一本の木に二本の手裏剣に似た鋭利な刃が突き刺さる。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

  倒れていたはずの露仁。

  自身の首を左手で押さえ、息を荒げながら立っていた。

  そんな老人の前に再び男が姿を現れ、同時に逆手に持った鉈で殴りかかるような横薙ぎを放つ。

 

  ガギィイッ!!!  

 

  男が放った斬撃を、露仁はいつの間にか右手に持っていた剣で凌ぐとすかさず反撃に転じる。

  男は露仁の攻撃を避けると、一度距離をとった。

  「何だぁ、まだ動けるのか?

  そのまま死んだ振りでもしていた方が良かったんじゃないか、この屑が!」

  「・・・黙れ、伏羲!わしは・・・俺はまだ死ぬわけにはいかない!!」

  「お、何だ?さっきのスケベ爺キャラは何処にいっちまったんだ?

  ・・・まぁ、それも自分の正体がばれねぇようにするための演技だったんだろうけどよ」

  「・・・・・・」

  「だが、それもこれまで。お前はここで北郷と一緒に仲良く殺してやるぜ!」

  伏義と呼ばれた男は手に持っていた鉈を持ち直し攻撃の姿勢を取る。

  「そうは・・・させない!!」

  左手を離すと、男に負わされた首の傷はいつの間にか塞がっていた。

  そして、露仁は空間から突如出現した剣を左手に取ると、二刀流の構えをとった。

  「マジでやる気かよ。でもよ、傷を塞いだからって俺に勝てると思ってんのかぁ、なぁあああ!!!」

  目に止まらない速さで動く伏羲。あっと言う間に距離を詰め、露仁に斬りかかる。

  「くっ・・・!」

  露仁はその華奢な体から想像もつかないような動きで伏義の攻撃を凌ぐ。

 

  ガギィイッ!!

 

  露仁が繰り出した一撃を伏義は鉈の刃先で受け止める。

  「はッ!こんな一撃じゃあ!」

  伏義は露仁の腹部に蹴りを叩きこむ。だが、露仁が体を捻らせる事でその蹴りを受け流した。

  「はぁあああッ!!!」

  捻らせた勢いで回転斬りを繰り出す。

  伏羲は防御をせず、左腕で剣を受け止める。

  伏羲の腕は鋼に変貌したのか、剣による一撃を容易に受け止め皮膚に傷一つつかない。

  鋼と化した腕で剣を弾き返すと、伏羲は左手で露仁の首を狙う。

  「ぐ、がぁ・・・!」

  伏羲の指が露仁の首筋に刺さり、塞がっていた傷口が再び開き血が流れる。

  苦痛で露仁の顔が歪む。

  伏羲はそのまま露仁の喉を握り潰そうと力を込める。

  だがそうはせまいと、露仁が左手の剣で伏羲の左腕を斬り下ろさんと振り下ろす。

  対して伏羲は逆手に持った鉈で受け止める。近接状態にあるため、刀身が短い鉈の方が有利である。

  次に露仁は右足を曲げ、伏羲との間に挟みこむと一気に伸ばして直蹴りを放つ。

  伏羲は蹴りに動じず、筋肉質な胸筋で跳ね除けられ、露仁が後方へと吹き飛ばされる。

  「ちぃ!」

  だが、それが露仁の狙い。

  吹き飛ばされた事で首筋から伏羲の左手が離れ、喉潰しを回避した。

  後ろに吹き飛されるも露仁は受け身を取り、体勢を整えて地に足を着ける。 

  「逃がすかよぁッ!!!」

  伏羲が仕掛ける。

  伸びた間合いを一気に詰め、鉈による斬撃を繰り出した。

  全体重を乗せた高速の一撃。

  露仁は二本の剣で伏羲の攻撃を防御する。

  瞬間、伏羲は露仁の背後に一瞬で移動、そのまま斬撃を放つ。

  露仁は回転斬りを放つ事で同時に背後からの奇襲を防ぐ。

  そして、伏羲は自身の俊足を最大限に利用した四方八方から連続攻撃。

  自分の死角から襲って来る伏羲の猛攻を露仁は二本の剣で受け止め凌いでいく。

  防戦一方になる露仁だが反撃の機会を慎重に窺う。

  

  ガギィイッ!!!

 

  露仁は伏羲の攻撃に合わせて剣を振る。

  「ッ!?」

  弾かれた衝撃で伏羲の身体は少し浮き上がる。

  「もらった!!」

  無防備となった伏義の横腹へ右手の剣で横薙ぎを放った。

  しかし、その不意を突いた一撃は伏義の左手の親指と人差し指で止められる。

  「おい、何だよそれ?それで攻撃したつもりかぁ!!」

  伏羲の蹴りが腹部にめり込み、露仁は軽々と吹き飛ばされる。

  今度は受け身を取る事が出来ず、露仁の体は太い木の幹に叩きつけられる。

  「ぐはっ・・・!」

  叩きつけられた衝撃が肺に至り、露仁は一時的に呼吸が出来なくなった。

  一瞬、一刀を見る露仁。

  うつ伏せに倒れた彼の腹部から血が流れ続けている。これ以上の出血は命に関わるだろう。

  露仁は伏義に視線を戻す。そして、右人差し指を伏義に向ける。

  「『縛』!」

  「ぐぉ!?」

  露仁が放った言葉。瞬間、伏義の体は金縛りにあった様に微動だしなくなる。

  呼吸が可能になった露仁は伏羲の横をすり抜け、気を失っている一刀を抱き抱えると急ぎ森の中へ入って行った。

  無論、その全てを伏義は見ていた。その顔に焦りや怒りは無かった。

  見えない拘束から解放された伏羲は身体に異常がないか確認する。

  「へ・・・、逃がしはしねぇよ」

 

  

  俺は死んだのか?

 

  この世界で何度も死にかけたが、それでも何とか切り抜けてきた

 

  でも、今回ばかりは・・・無理そうだな

 

  くそ、華琳達に会えないまま・・・俺はこんな所で死ぬの?

 

  ・・・・・・・・・

 

  

―――まだだ・・・

 

  ・・・・・・・・・

  

―――まだ、お前は今ここで死んではいけない・・・

 

  ・・・・・・

 

―――お前が最後の可能性・・・

 

  ・・・

 

―――その力で、外史を守るんだ・・・!

 

 

 

  「・・・気が付いたな」

  「・・・露仁?」

  ようやく目を覚ます一刀。

  だが、意識はまどろみ、目の前の人物が誰か把握できていない。

  「傷の治療は終わった。少し休めば動けるようになる」

  「ろ、露仁・・・、何を言って・・・」

  一刀は何一つ理解できていない。そんな彼の状況を無視して露仁は話を続ける。

  「時間がない。よく聞け!お前は・・・」

 

  ザシュッ!!!

  

  「ぐふぅッ!?」

  「え・・・ろ、露仁」

  何処からともなく飛んできた鉈が露仁の背中を貫く。

  貫かれた傷口から血が零れ落ち、白装束は赤く染め上げていく。

  「何だぁ、鬼ごっこはもうお終いか?」

  「ふ、伏義・・・!」

  森の向こうから現れた伏羲。

  両手には露仁を貫いた鉈と同型のものが握られている。

  「まぁ・・・、今のお前には俺から逃げ切るだけの力は無いよな」

  「・・・・・・」

  露仁は背中に刺さる鉈を自分で抜く。ドプッと傷口から血が零れ落ちる。

  瞬く間に背中の傷が塞がると露仁は一刀に背を向けて伏羲と対峙する。

  「てめぇも馬鹿だよな。俺達に負けて権限を奪われたっていうのに。

  こそこそ隠れていれば、惨めに殺されずに済んだのにな」

  「あぁ、そうしたかったよ。逃げ出せるならば、逃げたいさ。だけど、もう俺には逃げる場所はないんだ!!」

  「だから、自分でけじめをつけるってか?

  はぁあああ~?・・・は、はぁーはっはっはっは!!!マジで笑えるぜ!!

  そう言って、結局他人任せじゃあ世話ないよな!?えぇッ、南華老仙よ!」

  「く・・・!」

  「でも、それもここで・・・全部終わりだ」

  伏義は顎が地面すれすれの所まで身を低くする。その体勢から一体どう動くのだろう。

  「さっさと死んで、楽になれや!!!」

 

  ブゥオンッッッ!!!

 

  風を斬り裂く音。伏羲が繰り出す高速の突進。

  「・・・!!」

  露仁は一刀を巻き込まないよう前へと駆け出す。

  先に仕掛けたのは露仁だった。

  先手必勝と言わんばかりに、いつの間にか持っていた二本の剣を横水平に構え、体を独楽のように回転させる。

  高速回転する露仁から放たれる斬撃の刃が伏羲に襲い掛かる。

  伏羲は複数の刃を巧みに躱しつつ露仁に接近していく。 

  伏羲の姿が消え、次に姿を現したのは露仁の頭上。

  「でりゃあ!!」

  伏羲は空中から飛び蹴りを放つ。

  露仁は回転を急停止、伏羲の蹴り技をすんでのところで回避する。

  躱されたその蹴りは地面を容易に砕かれ抉れる。

  露仁はすかさずその二本の剣で伏羲に仕掛けていく。

  伏羲も体勢を立て直し、二本の鉈で露仁に仕掛ける。

 

  ガンツ!!!ギンッ!!!ガンッ!!!

 

  剣と鉈が正面切って衝突し、高速に展開される二人の剣戟。

  金属がぶつかる鈍い音が響き、火花が散る最中。

  伏義は露仁の横薙ぎを飛び跳ねて避けると、宙で一回転、露仁の背後に着地する。

  露仁は振り返り様に二本の剣を振るう。

 

  ザシュッ!!!

 

  「ぐっ!?」

  二本の剣を躱し、伏義は露仁の軸となっていた右足を斬る。

  軸足を斬られ、露仁は体勢を崩す。

  その隙を逃すまいと、伏羲は露仁に仕掛ける。

  露仁も負けずと伏羲に反撃する。  

 

  ザシュッ!!!

 

  「ッ!?」

  交差する二人。

  結果、露仁は二本の腕を同時に失い、一方の伏羲は勢いづいて攻勢を強める。

  二本の鉈から放たれる斬撃に容赦なく切り刻まれる露仁。  

  「ろ、露仁・・・」

  一刀はふるふると腕を振るわせながら手を伸ばす。

  「・・・ぐ、がはぁ・・・!」

  その先には、自分の血で赤く染まった白装束を纏う露仁。

 

 

―――洛陽に向かって、二人で珍道中を繰り広げてきた・・・

 

―――寝像の悪さに、何度頭を抱えたか・・・

 

―――怪しい食材を食べて、その度に何度看病したか・・・

 

―――その気の短さに、わがままに何度困らされたか・・・

 

―――でも、それも決して悪くなかった・・・

 

―――皆に会えない、その寂しさを感じなかった・・・

 

―――皆に会いに行くんだって、そう前向きに考える事が出来た・・・

 

 

  「じゃあな」

  鉈を正手に持ちかえ、伏義は露仁にとどめを放った。 

  二本の鉈で縦に切り裂かれた露仁の胴体から天に向かっておびただしい鮮血が溢れ出た。

  露仁は力尽きたかのように、まるで全ての糸が切れた人形のように倒れた。

  「ぁ、あぁ・・・」

  一刀の頬を流れる一粒の涙。

  力が入らない体をどうにか動かさそうと試みるも立ち上がる事は叶わず、地面にへばりついてしまう一刀。

  それでも露仁の元に行こうと全身を使い、蚯蚓のように匍匐で前進していく。

  「が・・・!」

  だが、伏羲の足蹴りを顎に受け、またも身動きが取れなくなる。

  「さて、次はお前の番だ」

  そう言うと、伏羲は一刀の前髪を乱暴に掴み頭を持ち上げる。

  「ぅ・・・ぁ・・・」

  一刀は理解する。

  伏羲が持つ鉈の刃先が自分の喉元に突き付ける。

  少し力を加えれば、この首は胴体から離れるだろう。

  あぁ、もう駄目だ。本当に駄目だ。

  自分はここで殺される。

  理解した故に、一刀は心の中で愛する者達に謝った。

  「・・・ご、ごめん、か・・・り、ん・・・みん、な・・・」

  伏羲がとどめをささんと力を込めようとした時だった。

  「まだだ・・・!!」

  「・・・?」

  それは突然の声。

  「あ・・・?」

  その声は伏義にも届き、後ろを振り返る。

 そこには血だまりの中を這いずる瀕死の露仁の姿があった。

  「まだ・・・、お前は・・・死んではいけない・・・!お前が・・・、最後の・・・可能性!!」

  虫の息でありながら、両腕を失いながらも、一刀に向けて露仁は声を発する。

  「・・・かず、と。・・・恐れる、なぁ!・・・その力は・・・、お前・・・しだい!!

  自分を信じ、ろ!・・・その心のままに、力を・・・解放しろ!」

  「うるせぇーよ・・・」

  そんな露仁の姿を見ながら、伏義はぼそっと言う。

  「・・・その心の向かう先が・・・、定まっているのなら!!

  お前は、その力を自在に操り・・・、奴等に負けは・・・!!」

  「うるせぇーって言ってんだろうがっっっ!!!」

 

   ザシュッ!!!

 

  「ッ・・・!!」

  刎ね飛ばされる露仁の首。

  その首はごろごろと地面を転がり、一刀から遠ざかる。

  頭部を失った体はもう二度と動かなかった。

  「・・・・・・!」

  変わり果てた露仁の姿が一刀の瞳に映った。

 

  ―――自分の心を信じるんだ!

 

  ドクンッ―――!!!

 

  瞬間、露仁の言葉が一刀の胸の中で躍動する。

  「ふぅ~、やっと静かになったなぁ」 

  伏羲は一刀の元に再び向かう。

 

  ―――その心のままに力を解放しろ!

 

 ドクンッ―――!!!

 

  再び、一刀の胸の中で躍動する。

  「これで、終わりだ」

  伏羲は鉈を振り上げる。

     

  ―――その心の向かう先が定まっているのなら!

 

  ドクンッ―――!!!

 

  躍動は更に高まり、一刀の身体に熱い血潮が駆け巡る。

  「死ねぇええーーーっ!!!」

  鉈が一刀の首に振り落とされる。

  

 

 

  ガッゴォオッ!!!

 

  「な・・・!?」

  振り下ろしたはずの鉈が頭上より高く跳ね上がる。

  予想だにしなかった状況に伏羲は目を丸くする。

  そして、そこに倒れていたはずの一刀はそこにおらず、忽然と伏義の視界から一刀の姿が消えた。

  だが、その時点で全てが終わった後だった。

 

  ザシュゥゥウウッ!!!

 

  「ヌォオオオオオオオオオッ!!!」

  正面より斬り裂かれる伏羲。

  一刀は刃を手に取り、既に伏羲を斬るという行為を刹那の瞬間に完了させていた。

  「ガ、ァァアアア・・・ッ!」

  無防備の状態で一刀の一撃を受けた伏義。

  気を失いそうになる衝撃に倒れそうになるのをすんでのところで堪えるも、後ずさり片膝を折ってしまう。

  左肩から左腹部までバッサリと斬られた傷口から大量の血飛沫が上がり、切断面は青色の火が焦がしていた。

 それでもなお伏義は生きていた。

  「ぐ・・・ば、馬鹿な・・・ぐぉ、ぉぉぉおおおッ・・・!!!!」

  伏羲はなお苦しみ続ける。

  傷の痛みは勿論、先程まで虫の息だった一刀に深手を負わされ、立場が一気に逆転したという屈辱。

  精神的負傷の方が伏羲にとっては致命的だった。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・!」

  肩で息をする伏羲を一刀はその黄色い瞳で上から睨み続ける。

  伏義の顔に余裕は無く、額に大量の汗を浮かべる。

  「ぐ・・・、北郷・・・き、貴様ぁ・・・!」

  伏羲は一刀を睨み返す。

  一刀は刃を構え直す。その体から青白い炎が溢れ出ていた。

  「・・・・・・」

  特段、言葉は発しない一刀。

  完全に立場が逆転した現状に伏義は苛立ちを隠せない。 

  そんな伏羲に一刀は刃を振り下ろす。

  「ぐ・・・ッ!?」

  伏義は鉈で弾き返すと、すかさず後ろへと飛びずさり、更に跳躍して木の枝の乗った。

  一刀は伏羲を追いかけ、伏義が乗る枝に接近する。

  伏羲の表情はいまだ苦痛に歪めていたが、一刀の姿を見て笑みをこぼした。

  「へへ・・・、まさかここで覚醒するかよ。突端としての補正がかかっているようだな!?」

  「・・・ッ!!」

  一刀は伏羲に再度斬りかかった。

 

  ザシュッ!!!

 

  一刀が着地すると遅れて切り落とされた枝も地面に落ちる。

  だが、そこに伏義の姿はない。代わりに声が聞こえて来た。

  『生憎、俺は多忙の身だ。今日の所は見逃してやる。だが、次はこうはいかねぇッ!!!

  次は必ず殺す!あの老いぼれのようにな・・・』

  木霊する伏義の声は消え、気配は完全消える。

  「ふぅー・・・」

  一刀はゆっくりと息を吐き出し目を閉じる。

  そして、再び目を開くと黒い瞳に戻り、全身から溢れていた炎は消える。

  「・・・う、・・・ッ!」

  途端、一刀はその場に倒れる。

  動かそうにも身体が言う事を聞かず、指先一つ動かせず、そのまま意識を失った。

 

 

―――これで、いい・・・

   今は、これでいい。後の事は、お前に任せる。外史の、人の想いを・・・

   俺の役目はここまでだ、ここからはお前一人で進んでいけ

   お前なら出来るだろう、一刀・・・

 

  

  それから数刻後が経過し夜が明ける。

  山の合間から日の光が溢れ、林の中で倒れていた一刀の顔に差し込む。

  その光に起こされ、一刀は意識を取り戻す。

  重い瞼をゆっくりと開き、まどろんだ視界を少しずつ慣れさせていく。

  目の前には地面に突き刺さった刃の刀身が日の光を浴びて虹色に輝いている。

  「・・・爺さん?」

  露仁の姿を探すも見当たらない。

  一刀は理解する。あの老人はもうこの世界にいないと言う事実を理解した。

  一刀は何も守れなかった。

  結局のところ、自分は守られてばかりで自分は何一つ守れていない。

  「・・・・・・ちくしょう・・・!」

  一刀は泣いた。

  それは不甲斐無い自分への情けなさからか。

  それとも一人ぼっちになってしまった事への寂しさからか。

  その涙の理由は、一刀にしか分からなかった。

 

 

  涙を拭い、左腕に負っていた傷の手当てを終えると、一刀は一人洛陽へ向かう。

  本来二人で行くはずだった道中をたった一人で歩いていく。

  まずは向かう先は予定通り陳留であった。

 

 

  「・・・大丈夫、ですか?伏義さん」

  「うるせーよ・・・。それより、さっさと直してくれよ」

  「は、はい・・・」

  「ついでといっちゃあ何だが、外史の情報一個くれ」

  「え?でも・・・」

  「でも、もへったくれもねぇ。それが無いとこの外史を消滅させらんねぇんだ。

  そうなるとあんたにとっても不都合だろ?」

  「・・・・・・」

  「なぁ・・・母さん、頼むよ。息子の頼みを聞いてくれよ」

  「・・・分かりました。ちょっと待ってて下さい。すぐに用意します」

  「さっすがぁ、話が分かるぜ。

  くく・・・!北郷、今のうちにせいぜい生きてるって実感を味わっておけ」

 

  

  「では、桃香様。行って参ります」

  「うん、気を付けてね。愛紗ちゃん」

  「はっ!では、皆の者出陣だ!!」

  「「「応っ!!!」」」

  愛紗の檄に呼応する関羽隊の兵士達。そして、愛紗を筆頭に城門から出ていく。

 ここは、成都より東に位置する元は呉の防衛拠点として建てた白帝城。

  正和党が蜀に反乱を起こしてから、早くも四日・・・、すでに十の拠点が彼等の手によって陥落していた。

 これは、正和党独自の情報網、蜀軍にとって不慣れな夜の奇襲、そしてどこから入手したのか官渡の戦いで

 魏軍が使用した投石機、といった攻略兵器などによって各拠点の蜀兵達は苦戦を強いられていた。

  この状況を重く見た桃香は、やむなしと・・・その重い腰を上げたのであった。

 現在、蜀軍は白帝城を本陣に各方面の拠点に部隊を派遣し、正和党の侵攻を食い止めていた。

 そして先程、愛紗が率いる部隊が樊城の防衛拠点へと白帝城から出陣したのであった。

  「お姉ちゃん・・・。本当にこれでいいのか?」

  「鈴々ちゃん・・・」

  不満そうな顔をしながら鈴々は確認するように桃香に聞く。そんな鈴々に済まなそうな顔をする桃香。

  「仕方がないさ、鈴々。連中を早いとこどうにかしないといけないんだからさ」

  「そうだよ。悪い人達をやっつけるのがたんぽぽ達の仕事なんだし・・・」

  蒲公英の発言に、鈴々と鈴々の髪を止めている虎顔が怒りを露わにする。

  「おっちゃんのをよく知らないくせに、一体どうしてそんなこといえるのだ!?」

  「鈴々だって、一体何を知っているってのよー!?」

  「お前みたいなちびっこよりも知っているのだ!!」

  「何ですってぇ~!!蒲公英よりちびっこのくせに!!」

  「何をーっ!!」

  「おいこら、お前等止めろって!!」

  二人の喧嘩を止めようと翠が二人の間に割り込む。

  だが、紫苑や桔梗のように上手くなだめられず、喧嘩はどんどん激しくなっていく。

  「でも、確かに民達の中には私達を批判する人達がいます」

  「えぇっ!?どうして!?」

  桃香の傍にいた朱里の言葉に鈴々と喧嘩していた蒲公英がそっちのけで驚く。

  「それだけ彼等という存在がこの国の者達の心に強く根付いている・・・という事だろうな。我々以上に」

  どこからともなく現れた星が、言葉を付けたす。

  「どういう事だ、星?言っている事がよく分からないんだが・・・」

  星の言葉が良く分かっていない翠達。

  その一方でその言葉の意味を理解し、苦虫を噛んだ顔をする桃香。

  「私達の主張よりも正和党さんの主張を信じている方達も多くいるんです」

  「廖化が桃香様に送って来た、あのでたらめな宣戦布告書の内容を真に受けているって言うのかよ!?」

  「民達からして見れば、我々も正和党もさして違いないということなのだろう」

  「じゃあ。蒲公英達が悪者ってこと!?」

  「そう見ている人達もきっと少なくないかと・・・」

  「彼等と戦えば戦うほど、我等は悪者になっていく・・・何とも皮肉な事だ」

  「お前達なんかより、皆の方が見る目があるのだな~♪」

  鈴々は嬉しそうな顔をしながら言うと、今度は蒲公英が怒りを露わにする。

  「ちょっと鈴々!あんたはどっちの味方なのよ!?」

  「だから止めろってー!!」

  二人の喧嘩を止めようともう一度翠が二人の間に割り込むが、やはり紫苑や桔梗のように上手くなだめられず、またも喧嘩は激しくなった。

  そんな光景を見ながら、ずっと黙っていた桃香が口を開く。

  「・・・どうして、こんな事になっちゃったんだろう?」

  この言葉には、彼女自身の後悔の思いが込められたいた。

  そんな彼女の問いは虚しくも誰の耳に届くことなく宙を漂っていた。


 
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