scene-聖フランチェスカ校舎裏
華琳に呼び出され、一刀は校舎裏にいた。
「どうした? こんなところに呼び出して」
教室にいた者の一部が恨みがましい目で見ていたのを思い浮かべながら問う。
華琳の人気は男女、学年を問わずに高い。
いくら恋人と噂されようと、いや、そう噂されているからこそ、華琳のファンに怨まれている一刀。
なにしろ、一刀の女性関係は下は璃々から上は、紫苑、祭まで。
フランチェスカに限っていってもその人数は二桁に上る。
華琳が遊ばれてると思われても仕方がない。
そんな一刀がなぜ現在も無事であるかと言えば、それは噂の恋人達が彼を護るからである。
一刀と彼女達とのデート中にちょっかいをかけてきた不良グループがいくつも壊滅している。
……いまだに社会復帰できない者が多いのは、その後に現れた謎の大男が施した『応急手当』の精神的ダメージによるものであるのだが。
今も、華琳ファンが校舎裏を覗こうとしているのを春蘭、秋蘭、季衣、流琉が止めていた。
「ここは通行止めだ!」
仁王立ちし、道を塞ぐ春蘭。
「ごめんね~、華琳さま、誰にも聞かれたくないみたいだからさ~」
「季衣ちゃんがそう言うなら……」
季衣の説得に『親衛隊』の者が折れた。
親衛隊といっても魏の親衛隊ではもちろんない。
聖フランチェスカの生徒、華琳ファンの一年生によって結成された親衛隊である。
当初、華琳に可愛がられている季衣、流琉は狂信的な華琳ファンによって陰湿なイジメの対象にされてしまった。
一番幼くて標的にしやすかったからかもしれない。
ほとんどのことに季衣はめげなかったが、弁当を隠された時はさすがに落ち込んだ。……その弁当は華琳がつくったものだった。
それまで華琳や春蘭を心配させまいとイジメの事を季衣と流琉は秘密にしていた。
……季衣が隠し事をできるはずもなく、華琳は気づいていたが二人の気持ちをくんで気づかないふりをしていた。
しかし、その時は見かねて華琳が怒った。
「そんなことをする者は、私が大嫌いなクズね」
華琳がそう言ったことが広まり、今度はイジメていた側が非難される側になった。
反省……というより、他に方法がなくなり謝りにきた彼女達を季衣はあっさり許した。
「華琳さま大好きって気持ちはわかるから許してあげる。もうこんなことしちゃだめだよ~」
季衣、流琉を元気付けようとした華琳や秋蘭の料理によって機嫌をなおしていたおかげであったが、それにより季衣たちは華琳ファンから一目置かれるようになっていた。
「校舎裏って場所もなあ……」
「教室ではできない話よ」
一刀は四人に気づかず、華琳は気づきながらも話を続ける。
「みんなにも聞かれたくない話?」
「できればね」
「ま、まさか告白!? ……なわけないか」
前回の経験と華琳の性格から淡い期待をあっさり手放す一刀。
「もうすぐホワイトデーでしょう?」
「うん」
「バレンタインのチョコレートのお返しをしなければいけないのでしょう?」
そう聞かれて一刀は焦る。
「う、うん。……けどあんまり期待されても困る」
「期待? ああ、一刀からのお返しならみんな喜ぶわ。聞きたいのは、私はなにをあげればいいの? ということよ」
「え? ……あ、そうか。華琳もたくさん貰ったんだっけ」
バレンタインデーで華琳はその人気から当然のごとく、かなりの数のチョコレートを貰っていた。中には、他校の生徒から貰ったものもある。
「ええ。手作りにせよ買ったにせよ、想いがこめられた贈り物よ。返さないわけにはいかないわ」
「そうなんだよなあ。……けど、そう言われても俺もよくわからない。チョコなんてもらったことなかったから」
「けれど、知識では知っているのでしょう?」
去年及川が自慢げに説明していたのを思い出しながら答える。
「……ええと、交際OKならキャンディで、ごめんなさいならマシュマロだったっけかな?」
「ふむ。菓子の違いによって意味があるのね」
「あ、でも本命ならマシュマロって地方もあるって及川が言ってたな」
「なにをあげればいいのよ!?」
「だから悩んでいるんだよ、俺も。……まあ、それこそ華琳がくれるものならなんでも喜ぶとは思うぞ。都合よく解釈してさ」
「……一刀はどうするつもり?」
「俺は……予算的に無難にクッキーでも焼いてメッセージカードを添えるぐらいしかできそうにないのが実情だけど」
「それなら一刀、一緒につくりましょう」
「え?」
華琳の提案に一刀は驚いた。
「あの子達に変なものを食べさせるわけにはいかないわ。それに、漢女塾の厨房を使うつもりでしょう?」
「……できればそうさせてほしい。寮や学校でつくるのはちょっと恥ずかしい」
scene-漢女塾厨房
「……エプロン、これしかないのか?」
制服の上からエプロンを付けた一刀がぼやく。
「ええ。卑弥呼の趣味なのかしらね?」
「見る分にはすごくいいけど、自分で付けるのは勘弁してほしい……」
「新妻仕様だったわね。似合っているわよ」
そう華琳に言われてハートエプロン装備の一刀は真っ赤になるのだった。
「生地だけでもすごい量になったな」
「ええ。貰ったチョコの数では私の方が多いけれど、一刀には季衣と鈴々がいるものね」
「それに華琳の指示で色んな生地用意したし」
色が違ういくつもの生地を眺めながら一刀は言う。
「この私が作るのよ。当たり前でしょう」
「さて、じゃ型抜くか」
流琉が用意しておいた抜き型を使い、形をつけてはオーブンシートに並べていく。
「そっちはまかせるわ」
華琳の方は、冷蔵庫で棒状に冷やし固めた生地を切っていく。
「一回で全部焼けないな」
「もうこれは焼いていいのね」
一刀が並べた生地を華琳がオーブンに入れる。
scene-漢女塾食堂
「なんや新婚さんみたいやなあ」
カウンター越しに厨房を覗き、エプロン姿の一刀を肴に一杯やっていた霞が言った。
「いいなあ、華琳さま」
今回は華琳と一刀に任せるということで、厨房から出ていた流琉は羨ましそうに呟く。
「せやけど新婚さん言うたら裸エプロンするんやろ?」
「裸エプロン?」
真桜の発言に凪が問う。
「全裸にエプロンだけなの~。背中もお尻も丸出しの悩殺なの~っ♪」
沙和が嬉しそうに答えた。
「はぅわっ! 一刀様がお尻を出して料理をするのですかっ!?」
「いえ、普通は新妻の方がそうなるかと……華琳さまが料理中なのにもかかわらず一刀殿が後ろから……ぶ~~~~~~っ!」
明命に訂正していた稟が鼻血を噴いた。
「……あなた達、静かにできないのなら少し外してもらえるかしら?」
カウンター越しににっこりと微笑む華琳。
「やばっ、華琳怒っとる?」
「どうしよう鈴々、つまみ食いしたらお仕置きされそうだよ~」
「う~、いい匂いがしてきてるのにそれは拷問なのだ~」
華琳の様子につまみ食いの計画変更を余儀なくされる季衣と鈴々。
「も~、季衣、鈴々さんったら。なにか食べに行こう」
流琉の提案に他の皆も乗った。
「せやな。一刀のえぷろんも堪能したし」
「隊長~、クッキー楽しみにしてるの~」
次々と食堂を後にしていく。
最後に風が。
「華琳さま、お兄さん、鍵は閉めていくのですよ。ごゆっくりどうぞ~」
scene-漢女塾厨房
「やれやれ」
急に静かになったので寂しくなったのか大げさにそう言った一刀。
「ねえ一刀?」
オーブンから焼けたばかりのクッキーを取り出し、加減を確かめながら華琳は聞く。
「新婚の夫婦は裸エプロンをするものなの?」
「ぶっ! ……い、いや、たぶんそう言うのは珍しいんじゃないか? やってもらえる旦那さんは凄く羨ましいと思う」
急にそんなことを聞かれ、それでもなんとか平静を装いながら答えた。
「そう……」
別の生地をオーブンに入れる華琳。
しばし無言の時間が流れる。
オーブンを閉じ、タイマーをセットすると華琳はエプロンを外した。
「え? ……ってええっ!?」
一刀が驚いたのも無理はない。
華琳はさらに服まで脱ぎだしたのだから。
「どう?」
全て脱ぎ終えた後にエプロンを装着した華琳。
「え? あ、あの……に、似合ってる」
なんとかそう答えるのがやっとな一刀。
「……別に一刀と新婚気分を味わいたいわけじゃないのよ。ただ、後で春蘭や桂花にさせる時にどんな感じか知りたかっただけなんだから」
頬染めて華琳がそう言ったのでやっと一刀は理解した。
「そうか……なら『あなた』って呼んでくれない? お願い!」
そう両手を合わせて懇願する。
「もう、仕方がないわね……あ、あなた」
「う、うん……」
二人とも真っ赤になり、再び無言の時が始まる。
その日の夕食は華琳と一刀が用意し、華琳は終始御機嫌であった。
一刀のエプロン姿を聞き、巫女の当番で見ることができなかった春蘭、秋蘭は残念がった。
同じく当番だった桂花は一刀のエプロンよりも、華琳と一刀を二人きりにさせたことを悔しがった。
余りに騒いだため、華琳からお仕置きされることとなる。
「裸エプロンで夜食をつくりなさい」
と。
……もちろん夜食になったのは桂花だった。
華琳は妙に裸エプロンへの責めに慣れていたそうな。
<あとがき>
かなり久しぶりです。
さらにホワイトデー当日を逃していたり、
ホワイトデーっぽくなっかたり反省すべき点が多いです。
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継い姫†無双番外編でホワイトデーネタ(?)です。
この時期だと春蘭たちが3年生だったら卒業してるとかは思いますが、そこは考えない方向で。