No.129731

魔法少女リリカルなのは『強さの先に・・・なの』

きよさん

魔法少女リリカルなのはA'sの終了直後に書いたSSです。
なのはフェスティバル 1回目で配布したのを公開してみます。

半分とらハですw

続きを表示

2010-03-13 11:13:19 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7898   閲覧ユーザー数:7726

 

1.ちょっとしたきっかけ…なの

 

 

4月21日金曜日 PM12:27 聖祥大付属小学校 中庭:お昼休み

 

「んでねうちのお兄ちゃんとお姉ちゃん、朝がすごく早いんだよ」

「へぇ、そうなん?」

 

闇の書事件が終わって数ヶ月。事件の事後処理も落ち着いたある日のこと。

事はなのは達がお弁当を食べるために中庭に出て来たことから始まる。

 

「なのはのお父さんが指南してるんだって」

「うん、『永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術』って言う流派だよ」

なのははちょっと誇らしげに話す。

「でね、なのはのお父さんは昔偉い人のボディガードもやってたこともあるぐら

い強いんだってー。」

「あ…、うん……」

「???」

なのはのぎこちない返事にはやては不思議に思う。

「アリサちゃん!!」

なのはの態度がおかしい理由を逸早く理解したすずかはアリサに注意する。

「あっ!…ごめん、なのは…」

「あ、ううん、気にしないで」

アリサはすぐになのはに謝るがなのはは両手をパタパタさせておちゃらけてみせる。

 

そういいながらもなのはは少し落ち込む。

 

――昔はなのはの父親、高町士郎はアメリカのある議員のボディーガードをやっていた時に

事件があり大怪我をして、高町家がバタバタしてた時があった――

 

その時なのはは『ひとりぼっち』の意味を知った。

その頃の感情を思い出してしまったわけで…

「なのは…」

フェイトはなのはを気遣う。

「ホントに気にしないで、大丈夫だから…」

「うん?何の話?」

フェイトとアリサ、そしてすずかの三人は以前になのはからこの話を聞いたことがあるので

事情は知っているのだがつい最近はのはと仲良くなったはやてだけが事情を全然飲み込めていない。

「なのはちゃん、昔ね家の事情で色々あったんだよ」

すずかがはやてにそっと耳打ちする。

 

(ああぁ、もう私のバカバカぁー。なんだって余計なこと言うの?私はー!!)

アリサは心の中で反省しながら場の空気の流れを変えるため話を変えようとする。

「ああ~、そういえば明日なのはは暇?」

かなり不自然な話の変え方かな?と思いつつなのはに明日の予定を聞いてみる。

「え?」

「暇だったら明日なのはの家に遊びに行っていい?」

なのはは話を変えようとしてくれてることに気づき、

「うん、いいよ」

と、答える。

 

「それじゃ私も…」

「私も行って良いかな?」

フェイトとすずかも遊びに行く気である。

「はやてちゃんは?明日遊びに来れる?」

なのはははやてにも聞いてみる。

「あ、うん。お邪魔してもええかな?」

「うん!大歓迎♪」

はやての回答になのはは嬉しそうに頷く。

「じゃ、明日は私の家に集合ね」

なのはは明日の予定を進める。

 

そして少女達は昼食の続きを開始する。

 

 

 

同日 PM4:34 聖祥大付属小学校 校門前:放課後

 

「じゃあ、また明日ねー」

「うん、また明日ー」

 

なのは達は校門前で別れる。

アリサとすずかは自家用車のお迎え、なのはとフェイト、そしてはやてはバスで帰宅。

それはいつもの日常である。

がしかし、今日は何故かはやてがすずか達と帰ろうとしてる。

それに気がついたなのはが聞いてみる。

「あれ?はやてちゃんは今日どこか寄っていくの?」

「あ、うん。今日はみくにやに寄っていこうと思ってんねん。」

「あ、そうなんだ」

普通だったらなのはとフェイトもついて行くのだろうけど今日はリンディさんから呼び出しが

掛かっているため行く事が出来ない。

「それじゃ私達帰るね。」

「うん、リンディさんに宜しく伝えておいてね、」

「うん、伝えておくね」

「じゃまた…」

 

そういってなのは達はアリサ達と別れる。

 

アリサ達は車で商店街まで移動開始。

車の中で昔高町家で起こった顛末を話す。

 

 

「そうだったん…そんなことがあったんだ…」

はやてが少し沈む。

「だからなのはには笑っていて欲しいって私は思うんだ。」

そうアリサが語る。

「そやね。私もそう思うよ」

はやてはそう言った。

 

はやてだってその気持ちは分からなくもない。

ヴィータ達が八神家に来るまでははやてはずっと一人ぼっちだったのだから…

 

「それじゃ今日はありがとな。」

「うん、それじゃまた明日」

「なのはちゃんの家でねー」

そう言ってはやては今日の夕食の材料を買いにみくにやへ向かう。

 

 

2,八神家の団欒

 

 

同日 PM5:22 八神家 リビング

 

「それで明日なのはちゃんの家に遊びに行く事になったから。」

キッチンでシャマルに明日の予定を話す。

「わかりました、明日は私が家の事をやっておくのでゆっくりしてきてくださいね。」

「ほんまにごめんなー。」

すまなそうにするはやてにシャマルは微笑みながら

「明日は私暇なので大丈夫ですよ」

そう二人が話してる時にヴィータがこっちに来る。

「何々、はやて明日どっかいくの?」

「明日なのはちゃんの家に行くんよ」

ヴィータはちょっと顔を渋らせて

「ええぇー!!」

と嫌そうな顔をする。

「ヴィータちゃん、我侭言わないの。」

とシャマルはヴィータを叱るが「だってー…」とヴィータがぶぅ垂れる。

「そうや!だったらヴィータも一緒に来る?」

ポンと名案とばかりに手を叩く

「え?」

「どうや?」

「・・・・・・・」

あまりヴィータは乗り気じゃない。

ヴィータとしてははやてと一緒に遊べたらそれでいいんだけどどうも心のどこかで

引っかかってて素直に「うん」と言えない自分が胸の中にいる。

「いや、いい。行かない…」

「え?」

今度ははやてが驚く。

今まではやてが誘ったら必ずついて来たヴィータが拒むとは思ってなかった。

「なしてや?なんか嫌なことでもあるん?」

はやては優しく聞いてみるがヴィータは答えない。

そのままヴィータははやての横を通り過ぎ自分の部屋へ向かう。

「ヴィータ?」

いつもと違う態度と取られ不思議に思うはやて。

 

 

「主・はやて、ただいまお風呂から上がりました。」

風呂場からシグナムが現れる。

「あ、うん。次はウチらやねー」

そういってお風呂場に向かおうとするはやてはそこでふと思う。

「あ、そや。シグナムは明日なんかあるん?」

「は?私ですか?」

シグナムは少し考える。

「いえ、明日は一日中何も無いと思いますが…それが何か?」

「いんや、明日なのはちゃんの家に遊びいくんやけどシグナムもどうかと思うてな。」

「そうですか…しかし私が行っても致し方がないので御遠慮させていただきます。」

「明日はどうかご友人達と楽しんできてください。」

とシグナムははやての誘いを断る。

「ううぅ、つまらんなぁー」

なんてちょっとぶぅ垂れてみる。

「あっ、その…」

「きにせんでええって」

「しかし残念や、なのはちゃんのお兄ちゃんとお姉ちゃんが剣術してるから話が合うかもって思うたのになぁ」

なんてちょっと煽ってみる。

「む」

(お、気になってる気になってる)

心の中ではやてが笑う。

「なんか御神流?とか言う古剣術らしいんよ」

「ほぉ」

「どうや?一緒に行ってみん?」

「………」

シグナムが少し考えて

「少しお邪魔させて頂きます」

よっしゃ、落ちた。

そんな事を思い、こぶしを握り締め微笑むはやてだった―――

 

 

3.当日

 

 

4月22日土曜日 AM10:05 海鳴市藤見町64-5 高町家:

 

「みんないらっしゃーい」

なのはとフェイトがみんなを出迎える

「「おはよう、なのは、フェイト」」

フェイトは先に高町家に来ていたりする。

「おはようございます。」

「あ、シグナムさんも来たんだ」

「ああ、今日はお邪魔させていただく。」

「どうぞどうぞー」

 

「さ、みんな中に入って」

「「お邪魔しまーす」」

みんなが門をくぐる。

そこでふとシグナムは音を耳にする。

 

  カンッ カンッ

 

「ん?この音はあの道場からか?」

「ああ、お兄ちゃんたちが剣のお稽古してるんですよ」

なのはがシグナムに説明する

「少し覗かせて頂いて宜しいか?」

「あ、はいどうぞ」

「あ、私も見てみたい…」

「私もみたいーい!」

とみんなも意見が一緒みたい。

なのはが道場へ案内する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

美由希が恭也に向かって斬撃を繰り出し、恭也はそれを一つ一つ捌く。

剣技の合間にも鋼糸、飛針が互いを牽制し合い、一撃でもその身に入ろうものなら

無事では済まない事が容易に見て取れる。

 

「むっ」

シグナムは顔を顰める。

予想してたより完成された剣術であるのは一目瞭然だったのだ。

そして動きから分かる。

これは人を殺すための技術であると――

 

シグナムが魅入ってる間に恭也と美由希がなのはたちに気がついて一旦稽古を中止する。

「なのは?」

「あら?みんなもお揃いで」

恭也と美由希は手を止め、近くにあるタオルやドリンクを互いに差し出しあいながら、

なのはたちに声をかける。

「あ、ごめんなさい。邪魔しちゃって…」

「あはは、気にすることないよ。どうせそろそろ休憩しようと思ってたところだしね」

「よかったぁ」

ほっと胸を下ろすなのは。

 

「それでねお兄ちゃんとお姉ちゃんにお願いがあるんだけど…」

「あのね、剣のお稽古の見学をさせて欲しいんだけど…だめ?」

申し訳なさそうになのはがお願いをする。

二人はクスリと笑い「いいよ」と快諾してくれた。

 

これから暫く恭也たちの稽古を見学する。

その中でシグナムは二人を見てて胸の中が熱くなってるのに気づく。

(この二人と闘りあってみたい…)

そう思うほど二人は強かったのだ。

しかしながらどこかで何か違和感も感じる。

「何が?」と言われれば答えられないのだが剣士として違和感を感じるのは確かだ。

そう考えてる内に稽古が終わっていた。

 

気づいたシグナムは二人に声をかける。

「すまぬが少しよろしいか?」

「「はい?」」

恭也と美由希の声がユニゾンする――

 

その頃――

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

「うん…」

「こちらのお席へどうぞ」

ここは高町家が運営する喫茶店『喫茶 翠屋』

ぶすぅーとしかめっ面しながら入店してきたヴィータに対応したのはなのはのお母さん・桃子である。

昨日のお話が終わってからヴィータはずっと機嫌が悪い。

と言うのもはやてがなのはの所に遊びに行ったことにある。

あれからずーっとこんな調子なのである。

今日はやけ食いするために商店街に出てきた訳なのだ。

「お客様、ご注文はお決まりましたか?」

桃子が注文を取りに来る。

「うーん…」

(メニューのどれを見ても美味しそうに見える)

ヴィータが悩んでると

「今日のお勧めは『クリームたっぷり苺のミルフィールとオレンジペコのセット』でございます」

と桃子が助言する。

「んじゃそれ」

「かしこまりました」

そういって桃子は厨房へ戻る。

 

しばらくしてくして…

「お待たせしました。『苺のミルフィールとオレンジペコのセット』でございます。」

と注文の品を持ってくる。

ヴィータは装飾が綺麗なケーキを見ておそるおそるフォークでケーキを食べる。

口にした瞬間顔が蕩ける。

「うわぁーーーーー!!」

「どうかな?」

「何これ、ギガうまだーー!!」

「良かった♪」

桃子はヴィータを見守ってる。

ヴィータはケーキをガツガツ食べる。

「おかわりっ」

そんな感じに追加注文をしてまたガツガツケーキを食べる。

 

「もし間違えてたらごめんね、もしかしてあなたヴィータちゃん?」

「え?なんであんたあたしの名前知ってん…るんですか?」

蕩けた顔から急に強張る。

「ふふ、あなたの事はなのはから聞いてたから」

笑顔いっぱいに桃子は答える。

「なのは?……なのはってタカマチナノハの事?」

「そう、私はなのはのお母さんなの」

「え?」

そういえば面影がある。

そうヴィータは思った。

(こんな優しいお母さんがいるくせになんであたしのはやてを取るんだよ…)

「ん?」

ここで昨日から機嫌が悪い理由が分かった。

(そうか、あたしはタカマチナノハにはやてを取られたって思ってたんだ…)

「あ、なんでもねぇです」

「なのはから聞いてたけどホントにいい子だね」

「なっ!なに言ってんだよ!?」

顔を真っ赤にしてヴィータは抗議に出る。

「ふふふ」

「何笑ってんですか?…」

ぶすぅとしたヴィータに対して桃子はクスクスと笑う。

でもヴィータもホントはこんな会話が楽しく思える。

そう思えた――

 

場所は高町家に戻る。

「ひとつお願いがあるのだけど、どうか私と一戦交えてくれないか?」

御神流について色々と話を聞いてたシグナムは御神流と闘いたいと思い試合を申し込む。

「「へ?」」

いきなりの申し込みに二人は変な反応してしまう。

「主・はやて、どうか私闘の許可を…」

頭を下げるシグナムに

「ウチはええと思うけど…」

と美由希の方を見る。

「私は大丈夫だよ」

と了解する。

「んじゃ俺は審判やるか」

と恭也。

「二人とも感謝する」

シグナムは深く二人に頭を下げる。

 

 

4.ベルカの騎士VS御神流-シグナムVS美由希-

 

 

同日 PM1:47 高町家道場:

 

 

「それではこれより他流試合を始めます。」

「その前にこの試合のルールを説明します。」

「美由希は木刀の使用で飛針・鋼糸の使用禁止。

シグナムさんは美由希と同じ木刀。魔法の使用の禁止。

どちらが試合不能、または降参の時点で試合は終了とする。」

 

恭也が試合前にルールを説明する。

 

「お互いに礼」

 

二人は向き合い礼をする

とたん場の空気は沈み、その場に居る皆に重く圧し掛かる。

緊張が張り詰めて行く。

 

「……では試合開始」

恭也の号令が道場に響く。

 

「「お願いします」」

 

二人の声が重なる。

一人はベルカの騎士 ヴォルケンリッターが烈火の将シグナム

対するは永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術 高町美由希

その傍らには二人を見守る恭也、なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの姿があった。

 

そこには、凛とした空気が張り詰めていた…

互いが間合いを取り、相手の出方を伺う。

(どう来る?)

まずシグナムは美由希の出方を見る。

やがて美由希が床を蹴ってシグナムに向かって突進する。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

下から上へ薙ぐ。

「先手を取ったか。ならばまずは其方の太刀筋―見極めさせて頂こう!」

シグナムはそう言って美由希の一撃を木刀で受ける。

 

  ズゥゥゥゥゥゥン

 

「くっ!」

(何だ、木刀をすり抜けて直接当てられた衝撃は?)

今まで受けたことのない衝撃にシグナムはたじろう。

 

御神二刀流の打・斬撃の打ち方。

 

『徹』

 

素手、木刀、真剣を問わず「衝撃を徹す」

御神流の初歩の打撃である。

 

「せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

美由希はそのまま攻撃を続ける。今後は垂直からの攻撃。

 

それをシグナムは紙一重でかわし一閃を入れる。

 

シグナム「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

美由希はその斬撃を受け止める。

が、美由希は受け止めきれずによろめく。

そこにシグナムのもう一撃が来る。

「ふっ!」

美由希は上へ飛びシグナムの後ろへ回る。

「やぁぁぁぁぁ!」

シグナムもそれを上に飛びかわしワンステップ下り突進する。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

  カァァァァンッ

 

お互いの斬撃がぶつかる。

そして二人は後ろに下がり体勢を整える

 

「ふぅぅぅぅぅぅ…」

(シグナムさん強い。それに一撃が重い。このまま長引けば私のほうが不利…)

 

「・・・・・・・・・・」

(なんという早さだ。ついて行くので精一杯だ…)

 

暫く静寂が続く。

 

(お姉ちゃんもシグナムさんも凄い・・・)

なのはは二人の戦いを見て素直にそう思った。

 

 

(美由希さん…、あのシグナム相手に互角にやり合ってる…

さっきの一撃、私でもかわせたかどうか…)

一方幾度もシグナムと闘ったことあるフェイトも美由希に対して驚きを見せる。

 

(シグナム焦ってる…なのはちゃんのお姉ちゃん何モンや…)

今までのシグナムの練習を見てる守護騎士のマスターはやても今のシグナムを見

るのは初めてである。

 

 

「速すぎて何も見えな~い」

 

そんな中アリサが緊張感のない台詞を吐く。

無理もない。二人の戦いは達人同士の戦いなのである。

一般人であるアリサには二人の動きに目が追いつかないのだ。

 

すると、隣に座るすずかがアリサに解説を始める。

元々異常なほど運動神経の良いすずか。

達人同士の戦いを前にしても平然と解説をするすずかの方に、アリサは呆気を取られてしまった。

「すずか…あんた、見えてるの?」

「うん、それなりに見えてるよ」

ちょっとテレながら答える。

「へぇ、すずかちゃん。目がええんやねぇ。ウチにもどうなってるか教えてくれ

へん?」

「いいよ」

そういってすずかは二人に今の状況を説明し始める。

 

 

そしてまた美由希から仕掛ける。

それを力で押し返すシグナム。

そんなやり取りが10分ぐらい続く。

 

(このままじゃこっちがやられる。一か八か…)

今までスピードで押してた美由希だったがシグナムが美由希のスピードに慣れてきた事も

あって少しずつ押され始めたのである。

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ…」

美由希は深呼吸をし、木刀を構える。

それに応えるようにシグナムも木刀を構える。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

  カァァァン

 

二人の木刀がぶつかり合う。

その瞬間確かにシグナムは見た。

美由希が消えるのを。

 

確かにそこにいた。美由希の動きについていけなかった訳でもない。

忽然と消えたのである。

 

『小太刀二刀・御神流 奥義の歩法 神速』

 

瞬間的に自らの知覚力を爆発的に高めることにより、あたかも周囲が止まって見

えるかのように振舞うことが出来る。

「え?」

突然すずかが驚く。今まで見えてた美由希の動きが見えなかったのである。

まぁ無理も無い話である。

 

(ど、どこにいった…。落ち着け。気配を感じるんだ…)

 

神経を研ぎ澄まし辺りを探ると、ふと背後より風を感じた。

 

「「うしろ!」」

 

思わず、なのはとフェイトが声を上げる。

その場に居た何人が気付いただろうか…

神速を纏い、シグナムの遥か背後より高速の突きを放つ美由希の姿に

 

『小太刀二刀・御神流 裏の奥義その参 射抜』

 

御神流には6つの奥義がある。その中で射抜は最高速と最長の射程距離を誇る奥義である。

 

だが、奇襲を仕掛ける距離が災いしたか

「そこかぁぁ!!」

奇襲に出た美由希に僅かな差で反撃体制に入る。

 

シグナムが風を感じたのは、その実明確に彼女を狙う殺気にも似た気であった。

幾多の戦、幾千年を経て彼女は未だ此処に居る。

彼女だからこそ気配だけでこの奇襲に対応できたのだ。

 

シグナムは左からの斬撃を薙ぎ払う。

 

  スパァァァァァァン!!

 

木刀同士がぶつかり合ったとは思えない音が道場に鳴り響く。

しかし二人の奥義に木刀が持つ訳もなく二本ともぶつかり合った先から折れてい

た。

 

―だが両者は止まらない。

 

御神流は殺人術だ。元来武器を選ぶ事は無く、ただ小太刀二刀流が一番強力だからに過ぎない。

故に体術すらも凶器と化す

 

相成す、幾千の戦いを戦い抜いたベルカの騎士とて引きは無い。

武具の無力化は戦いの定法の一つだ。そんな戦いなど幾度目か。

 

折れた木刀を握ったまま両者がぶつかる

美由希は折れた木刀をシグナムへ投げつける。

それを難なくかわすシグナムだったがその瞬間腹に重たい衝撃が来る。

「ぐぅぅ…」

木刀を投げつけた美由希はすぐさま、シグナムへと高速の蹴りを放っていたのだ

 

(完璧に入った!)

美由希はそう思いそのまま体を反転させもう一撃入れようとする。だが―

 

「騎士ともあろうものが、模擬と言えど主の眼前に敗北を許す訳にはいかぬ!」

気迫の一撃での体当たりを美由希に見舞う。

 

僅かな一瞬。美由希は油断していた。

 

  ダンッッ!!

 

その一撃は美由希を吹き飛ばし壁へ激突する。

 

美由希は顔を上げるとシグナムは折れた木刀を首筋の1cmほど前に突き出していた。

 

「・・・・・・・・・・・参りました」

 

その言葉の直後、静寂に張り詰めた空気を恭也が説く。

「勝者、シグナムさん」

 

「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

みんなが喝采する。

 

シグナムは思う。

 

―実力で言えば、僅かな差ではあろうが私より御神流を駆る美由希の方が上だったのであろうが…

だが、この勝敗には明確な差があった

 

美由希が扱うのは、まだ生死を知らない暗殺術

自らが扱うは生死を越えてきた騎士剣妓

最後の脚技だってそうだ。あれは多分本来カウンター技だったのであろう。

それを自ら仕掛けた攻撃に使うものでは無い

 

だが恐らく私と同じく生死を越えた… 私とは違う、暗殺術を駆る者が目の前に―

 

「高町恭也…一勝負お願いしたい」

 

 

同時刻 喫茶翠屋:

「おーい、桃子。コーヒーの豆の在庫どこにある?」

「あ、はーい。今行きまーす。」

士郎が桃子を呼ぶ。

「ごめんね、ヴィータちゃんはゆっくりしてってね」

「あ、うん…」

あれから2時間近く桃子はヴィータとおしゃべりしてた。

最初はタジタジだったヴィータだったが今では桃子のことは好きになってた自分がここにいた――

 

 

5.ベルカの騎士VS御神流-シグナムVS恭也-

 

 

同日 PM2:33 高町家道場:

 

「先ほどお二方の稽古で使用していた道具を次から使ってもらいたい。」

先ほど二人の稽古を見ていたときに使っていた飛針と剛糸の事をである。

「え?それはいいですけど…」

次はもっと本気の御神流を見たいと思う。

「そのかわりシグナムさんは防具を使用してもらいますよ?」

「防具?…騎士甲冑の事か」

「はい、それを纏ってもらいます。」

「了解した」

 

そしてシグナムと恭也は道場の真ん中で向かい合う。

恭也と審判役を交代した美由希は二人と向き合い号令する。

 

「お互いに礼!!」

 

二人は礼をし、木刀を構える。

シグナムは騎士甲冑を展開させる。

 

「始め!!」

 

美由希の号令と共に恭也はいきなり切り込む。

 

この勝負は恭也の方が有利なのである。

まず先ほどの試合でシグナムは美由希との戦闘で疲れている。

そしてシグナムの動きは恭也は知っているがシグナムは恭也の動きを知らない。

しかし恭也は最初から実力全てを出すつもりだ。

恭也は最初から全力で行かないとこちらが負けることを知っていたのだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

(速い!!)

 

しかし見えない速度ではない。

シグナムはその一撃を受け止める。

 

「うっそぉ、恭ちゃんの虎切を受け止めた!?」

美由希は驚く。

それも無理はない。

今恭也が使った技は御神流の技のひとつで『虎切』

一刀での高速・長射程の抜刀術である。射抜までとは言わないが抜刀術をもっと

も得意とする恭也の虎切をシグナムは受け止めたのだ。

 

しかし恭也もそこで攻撃を休めるつもりはない。

そのまま8連撃の斬撃を繰り出す。

斬激を弾いた瞬間にも飛針が彼女の急所を的確に狙ってくる。

更に鋼糸。相手の拘束としてだけでなく、鋭く重い糸は凶器としても優秀だった。

 

シグナムに災いしたのは飛針を射撃魔法、鋼糸を拘束魔法に見立てた事だ

魔法戦闘に慣れた彼女からは考えられない程の発射速度である。

そう、詠唱が必要の無い飛び道具が無意識に彼女を後退させていた。

 

だが、飛針や鋼糸では騎士甲冑を貫く事は無い。

飛針の命中には眼をつむり襲い掛かる斬激に集中する。

 

そして全ての連撃を弾き、反撃を開始した。

 

「はっ!」

 

横からの一撃を恭也は難なく受け止める。

 

シグナムはそのまま恭也を突き押す。

よろめく恭也にシグナムは一回転をして突っ込む。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

遠心力を利用した攻撃。

分かりやすく言うとヴィータのラケーテンハンマーみたいなものだ。

純粋な技であるゆえ、魔力加速はしてはいないが

 

さすがの恭也もかわし様がない。

それは誰の目にも明らかなことだ。

しかしシグナムの会心の一撃は恭也には当たらなかった。

 

「いないだと!?」

 

かわせないと判断した恭也は咄嗟に神速を使用したのである。

そのままシグナムの懐へ入り込む虎乱を打ち込む。

 

シグナムが気がついた時にはすでに壁に衝突してた。

 

「がはっ」

 

(美由希さんとの試合でも思ったが、御神流…。なんという恐ろしさだ。)

シグナムはそう思った。

全力の御神流を前にシグナムはたじろいていた。

魔導師や大型の獣が主な相手だった彼女は純粋に人を殺める剣妓を目にするのは初めてだった。

ベルカの騎士とて近接戦闘を主体にしながらも、その実は魔力のぶつかり合いに変わりは無い。

魔力付加したアームドデバイスをぶつけ相手のバリアジャケットを貫く事が出来なければ敵の魔力を削る程度なのだ。

 

魔導師のバリアジャケットはそれ程に強固な物で、魔法戦はダメージのぶつけ合いではなく、魔力の削り合いが本質だ。

事実、魔導師のバリアジャケットは通常の剣では切り裂く事は出来はしないし、衝撃にも強い。

しかし御神の刃は魔力付加無しにそれを貫いた。

 

一瞬何が起ったのか理解出来なかった。

騎士甲冑は無傷。魔力ダメージも負っていない。

だが確かに痛みを訴える右腕と腹部がある。

 

二刀を構えたままこちらの様子を伺う恭也。

このまま続けてほしいと意思を示しシグナムは頷く。

 

シグナムは起き上がり木刀を構え直す。

 

(しかしどうしたものか…)

などとシグナムが考えてる内に恭也が攻撃を再開する。

 

「はっ」

 

後ろへ避ける。

が、追撃は止まずシグナムの木刀に剛糸が絡む。

「くっ」

そのまま恭也がシグナムへ向かってくる。

シグナムは剛糸が絡まったまま恭也の斬撃を受ける。

受け止められた状態で恭也は蹴りをシグナムへお見舞いする

シグナムはそのまま膝を地に付ける。

 

(ふふふ、体の奥から湧き上がる高揚感を感じる…)

(テスタロッサとの戦いにも感じる感覚とも違う…純粋な技のぶつかり合い…)

 

そう思う自分にシグナムは微笑する。

守ってばかりではと攻撃に転じるも恭也には届かない。

体中を打ち付けられた体は痛みは無いものの麻痺し動きが鈍くなる。

そう思ったシグナムは起き上がり木刀を再び構え直す

 

キッと恭也を睨み今体の中に残ってる力全てを木刀に込める。

恭也もシグナムの気迫を感じ取り木刀を構え直す。

 

辺りが静まる。

誰もが次で決まると思っていた。

 

シグナムは木刀を上に振り上げる。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

しかしその時に恭也は神速を使って懐に入り込んでいた。

そこから抜刀からの四連の斬り。

 

『御神流二刀・奥義ノ六 薙旋』

 

もろに喰らい倒れそうになるシグナム。

意識が飛びそうになる。

「今この試合を我が主・はやてが見てるのだ。無様な姿は見せられない。

そう、ベルカの騎士として…守護騎士ヴォルケンリッターの将として!!」

奥義すらも喰らい普通だったら倒れてもおかしく無いのに持ちこたえるシグナム。

騎士としての誇りが今のシグナムを立たせてると言っても過言じゃない。

そんな中恭也は木刀を構えたままシグナムを見てる。

「何をしてる!そのままつっ立てても私を倒すことは出来んぞ!!」

そう恭也に叱咤するシグナム。

意図を汲んだ恭也は木刀を構えなおす。

そしてシグナムを倒す為に剣を振るう。

もう普通の試合ではないのだ。

お互いの剣の誇りの為に戦っているのだ。

 

「もう止めてーーー!」

そんな中はやてが制止に入る。

しかし二人の耳にはもう言葉が届かない。

 

そのまま木刀をシグナムへ振り下ろす。

 

『御神流正統奥義 鳴神』

 

その名の通り御神流の正統継承者に受け継がれる奥義である。

未だ美由希にも見せてない奥義である。

 

シグナムはかわす術も無くそのまま倒れる。試合は決したのである。

 

ふと視界に正座してこちらを見守るなのはの姿が目に入る。

もし仮に…なのはが御神流の使い手であったなら

もし仮に…恭也や美由希が魔力を持ち合わせていたら

「勝てないかもしれないな」

そう言って彼女は笑った。

 

だが嬉しくも思う。

夜天の書に生み出されたプログラムとはいえ、この魂には心がある。

騎士として剣と共に生きる道を誇らしく思う。

 

ならば

己の剣の更なる高みを嬉しく思うは道理

 

もしシグナムが魔法を持って恭也や美由希と戦ったのなら

なす術なく二人は敗北するだろう。

魔力付加した剣はそれ程に鋭く。

魔力を持った動きはそれ程に速い。

 

だが然し、魔力に頼らずとも人を護れる強さ。

彼等の剣妓は、人を殺すために磨かれた剣妓に有りながら、彼らの太刀筋は誰かを護る為に振られている…我等夜天の騎士と同じく護るべき人を護る為にその剣を磨いて来たのだろう。

 

私はまだ強くなれる―

 

そんな事を思い全力で戦ってくれた恭也に感謝の念を送りながら地に倒れこむ。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

無音の中、美由希がハッと気づき「勝者 恭ちゃん」と宣言する。

 

「シグナムぅぅぅー!!」

はやては逸早くシグナムの所へ掛け出す。

それに続いてみんなシグナムと恭也に寄っていく。

 

 

6.終焉、そして広がる絆…なの

 

 

同日 PM6:01 高町家リビング:

 

「お母さんたち、遅いねー」

ふと美由希は口に出す。

「そうだな、いつもだったらもうちょっと早いはずなのに」

と恭也は答える。

士郎と桃子の二人は夕食時になると一旦お店から戻り、夕食を作ってみんなで食

べた後に後片付けと明日の仕込みのためにお店に戻る。

その為5時半にはいつも戻ってきたのに今日はまだ帰ってきてない。

 

「あ、お風呂今上がりました。」

そう言ってシグナムが風呂から上がってくる。

「どうですか?体調は…」

シグナムは自分が大丈夫であると意思を見せるが仮に木刀で受けたとは言え御神

流の正統奥義を受けたのだ。騎士甲冑を纏ってたとは言え無事で済むとは思えない。

 

シグナムは痛む腹を我慢しつつ自分は大丈夫であると伝える。

「それに…我が家には優秀な癒し手が居るからな」

「感謝する、高町恭也。今日の試合で私はまだまだ強くなれそうだ」

そう言って微笑んだ。

自分の為に全力を出してくれた高町恭也に対しての礼としてわだかまりは残したくないのだ

そして三人はリビングで話に花を咲かせる。

 

「「ただいまー」」

あ、帰ってきたようだ。

二人は出迎えに玄関へ行く。

「おかえりー」

そこでいつもと違うことに気づいた。

「母さん?その子は?」美由希が桃子に聞く。

「この子はウチのお客さん♪」

と笑いながら言う。

桃子の後ろからそーっと顔だけを出すヴィータ。

何故お客さんが家に来るのか疑問だった美由希と恭也は首を捻る。

 

「なのはのお兄ちゃんの恭也とお姉ちゃんの美由希だよ」

桃子は微笑みながら二人のことを説明する。

「ふーん…」

じっと二人のことを睨み付ける。

「恭也、なのはは?」

「なのはだったらお友達と一緒に部屋にいる。」

「そう、じゃあこの子をなのはの部屋まで連れて行ってもらえるかな?」

「ああ」

恭也は了解する。

「それとなのはのお友達に夕食を誘っておいてね」

 

 

「それでお姉ちゃんがね…」

「なにそれー」

などと、かしましくおしゃべりをするなのは達。

その時ドアからノックの音が聞こえた。

 

  コンッコンッ

 

「あ、はーい」

なのははドアを開けるとそこに恭也とヴィータがいる。

「え?ヴィータ?なんでここに…」

「はやてーーーーーーー!!」

ヴィータははやてに飛び掛る。

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」

いきなり泣き出すヴィータに困惑するはやて

 

「それでお友達のみなさん、今日は夕食をうちでどうかな?」

もうひとつの頼まれごとをみんなに聞いてみる。

「え。いいんですか?」

「よかったらどうぞ」

「「わーい」」

ま、子供らしいなとふと思う恭也であった。

「それとはやてちゃん?」

恭也ははやてを呼び出す。

「はい?なんでしょう?」

 

恭也とはやては廊下へ移動。

「さっきはシグナムさんに酷い事してごめん。」

「ああ、さっきの事は気にせんで下さい。」

さっきのシグナムとの戦闘ではやての制止を聞かず攻撃した事である。

あれから気が付いたシグナムから

「高町恭也を怒らないでください。これは、わたしが望んだことなのです……。

もし、あのまま情けをかけられたまま敗北すれば私は彼を許さなかったでしょう。

その逆もしかりです。

こうして、全力で叩き伏せられたほうが私にとっても彼にとっても最良の結果な

のだと私は思います。」

と嬉しそうに言わたのを思い出す。

「一つ聞いてもいいですか?」

ふとはやては恭也に質問する。

「何かな?」

「恭也さんにとって剣とは何ですか?」

「それは大切な人を守るための力だよ。御神流はその為にあるのだから」

そう言って恭也は優しく微笑む。

その顔を見たはやても「そうですか…」と呟き、共に微笑んだ。

 

 

――――出会いがあり別れがあり、そしてまた出会う。

その中で本当に大切な人と出会えた人はどれぐらいいるのだろうか…

私はこんなに大切な人がいる。

私は幸せなんだ――――

なんか急にみんなを見ながらそんな事を考えるなのは。

 

「みんなー、ご飯が出来たわよー」

 

 

ToBeContinuityd


 
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