俺達は敵兵士を自軍に組み込み冀州は鄴へと向かう
伝令からの報告によればすでに冀州は曹操様率いる主力部隊が制圧し
俺達が曹操様と合流する頃には冀州どころではなく并州の半分を制圧していた
さすがは主力部隊と言った所か、中央の袁懿達は幽州へと逃げ出し、袁満来は并州は太原へと逃げ込んだようだ
「ただいま到着いたしました」
「ご苦労様、青洲はどうだった?」
「はい、皆の働きにより予定より早く青洲を落とせました」
俺の報告に曹操様は満足そうな顔を浮かべる
皆が無事だったことを喜んでいるのだろう、ごく少数の死傷者が出ただけで済んだ
大勢の兵の命を失わずに済んだのだが、やはり俺としては一人として兄弟を失いたくは無い
「それでこれからなのですが」
「話は聞いているわ、青洲で敵兵士を自軍に組み込んだのでしょう?これからは并州と幽州の攻略になるわね、桂花」
「は、これよりこの鄴で戦力を再編成、その後并州と幽州に攻め込みます。青洲は張三姉妹にしばらくの統治を任せます」
妥当だ、元々は黄巾党の人間は青洲人が多い。張三姉妹の拠点とする話も前に出ていたからな
これより青洲は黄巾党の故郷となる。邑で囲っていた黄巾の民もこの土地に住み着くことになるかもしれない
「しばらくはこの地に留まり兵を休ませるわ、いつでも攻め込めるような態勢はとっておきなさい」
「御意」
「とりあえずはアンタたちはしばらく休んでいていいわよ、またすぐに戦になるんだから」
この調子ならすぐに并州と幽州を手にいれられそうだ、だが油断をすれば足元をすくわれる
とりあえず皆を休ませなければ、休めるときに休んでおかなければいざというときに動けない
「では皆に休むように伝えますのでこれで失礼します」
「ええ、今回のこと皆良くやってくれた、そう伝えて頂戴」
「はい、皆喜ぶでしょう御気使い感謝いたします」
さて皆の元へ戻るか、まずは皆に曹操様からお褒めの言葉を預かったと伝えるか
特に詠は喜ぶだろうな、会心の策が決まったのだから
その後皆のいる兵舎に戻り、曹操様の御言葉を伝えると喜びの声を上げた
よほど嬉しかったのだろう、自分達の力が認められたと、特に俺たちは独立して戦ったことなど
これが初めてだ、何時もは皆の援護や右翼一端か、盗賊退治ばかりだったからな
「皆良くやってくれた、今日は曹操様から体を休めよとの御言葉を頂いた。明日に響かぬようになら
酒を呑むことを許す」
「やったー!お休みなのー!!」
「それって隊長のおごり?うちらの呑み代隊長が出してくれるん?」
まったくコイツラはこんな所まで来て俺にたかるのか、やれやれ、仕方の無いやつらだ
しかし、それが皆のいいところだ、どこに居ても変わらず、どんな場所でも何時もと同じように
俺たちは戦える。これが一番難しいことなのに平然とやってのける、頼もしい奴らだ
「出せる範囲ならかまわんぞ、俺だって秋蘭から小遣いをもらったばかりなんだ」
「なんや隊長、秋蘭様に給金握られてるんか?」
「そうなんだ、ここのところ使いすぎだからな。秋蘭の服だの涼風の人形だの買いすぎた」
がっくりと肩を落とし、うなだれると兵達から笑い声が起きる
「相変わらず嫁さんとお子さんには弱いんですねー!」などと声が上がり皆が笑いあう
「当たり前だ!皆俺の事は知っているだろう?さて、酒だが実はもう買ってある!青洲で知り合った商人に
青洲を出るときに安く売ってもらったからな!」
俺は青洲で敵から手に入れた糧食を知り合った商人に少量譲っておいた、戦が終わった後は必ず米の値が上がる
だからこそ逆に安くなる酒と交換しておいたのだ
「アンタは抜け目が無いわね、僕達を先に行かせて何をしているかと思えばそんなことしてたのね」
「おう!皆で飲む酒と飯は何よりのご馳走だ!さぁ皆で呑むぞ!」
「「おおおーーー!!!!!」」
荷馬車に用意した酒を次々に兵士達が運び出し、たちまち兵舎は酒家さながらの酒場と化した
兵士達は皆喜び、酒を飲み、戦の疲れを癒す。死した友を思い、死した友の分まで呑み、食し
俺たちは生きると誓い合う、俺たちはずっとそうして戦ってきた
そんな様子を肴にしながら、俺は部屋の片隅で酒を少しずつ煽る
兵舎に入ってきた秋蘭がそんな俺を見つけ真直ぐに近寄ってきた
「報告は終わったのか?」
「終わったよ。俺たちは曹操様から体を休めよとの御言葉を頂いた」
「そうか、ではしばらくはここに居ることになるのだな」
そういうと俺の横に座り肩を寄せてくる。何時ものように俺の腕に腕を絡ませて
そして、俺の飲む酒を取り上げ自分の口へと運び、同じように少しずつ煽る
「戦場での何時もの呑み方だな」
「フフフッ、そうだな酔わないように、しかし皆の雰囲気を壊さぬように、こんな呑み方なのに嫌いではない」
「ああ、皆の顔を見ながら死した友の顔を思い浮かべ、天に送り出すように呑む」
秋蘭は頷く、友との思い出が酒を苦くする。だが悲しんで送っては俺達を生かしてくれた者達が
安心して逝けない、だから皆は死した友の分まで笑って、そして呑んで、食す。
だが将である俺たちはいつ戦が起きても良いようにこのような呑み方になった、いつのまにかだ
「そのうちゆっくり呑もう、皆で」
「ああ、そうだな」
二人でぼんやりと皆の宴の様子を見ていると椅子を引きずりながら人影が一人
「詠、どうした?」
「うん、今回のこと凄く嬉しくってね。皆と一つになったと感じた、戦でこんな感じを味わったのは初めてよ」
「そうか、良かったな。俺も凄く嬉しいよ、元々詠は凄い軍師だと思っていたけど皆とここまで連携が取れるとは」
詠は俺達の前に椅子を置くと座り、背もたれに体を預けると手にした酒をゆっくり飲み干していく
「そうね、孤児院やあの邑での体験は僕に新しい知識と感覚をくれた。アンタには感謝しているわ」
「それは俺の想定外だ、そこの経験を生かして皆と心を通わせたのか」
「うん、月にも教えてもらった。相手を信じることが一番大事だってね」
詠は良い成長をした、眼は自信に満ち溢れている。
なのにその眼には傲慢さは微塵も無く、澄んでいてとても綺麗な目をしている。
「良いことだ、これからも華琳様の為、皆のために力を貸してくれ」
「ええ、もちろんよ秋蘭、そのうちアンタの旦那に借りを返さないとね」
「フフッ、こやつは良いのだ。それが楽しみでやっているようなものだからな」
そういうと秋蘭はニコニコしながら見上げてくる。その通りだよ、人の成長とはなんと尊く美しいのだろう
成長をしない人間はいない、時には挫折し、時には苦渋をなめ、それでもそれを生かし成長する
俺に人の可能性と言うものを見せ付けてくれる、だからそんな手助けが出来るのが嬉しくて仕方が無い
「相変わらず見てるだけでおなか一杯、そろそろ皆の所に戻るわ」
やれやれといった感じで詠は皆の元へと戻っていく明日は編成だな、いざという時のために体を少し動かしておくか
剣の方も少しは覚えないと敵に襲われたときに皆を心配させるし士気に関わる
演習場で片手に持った剣を振り回す男が一人
「お?なんや隊長が剣を振り回して・・・・・・踊ってるんか?」
「ホントなのー、新しい踊りかなぁ?」
「隊長、何をなさっているのですか?」
必死で剣を振り回す俺に三人は近寄ってくる。参ったな踊ってるようにしか見えんのか
俺は少し困ってしまった。皆に見られたくないから一人で練習していたのに
「ああ、剣術の練習をな」
「剣術?あれが?踊ってるようにしか見えへんかった!」
「うんうん、へたくそなのー、あれならうちの○○どもの方がましなの」
「こら、戦場や兵の前じゃないんだから女の子がそんな言葉を使うんじゃない」
俺は沙和の頭を撫でると「えへへーごめんなのー」とニコニコしている
いつの間に兵士の前でこんな言葉遣いになったのか、前に詠と兵の訓練で何か話し合っていたと
思ったら急にこんな言葉遣いになっているから驚いた
「・・・・・・隊長、手合わせをお願いできますか?」
さっきから無言で俺の動きを見ていた凪が突然そんなことを言い出す。俺と手合わせだって?
無理に決まっている、出来る事はせいぜい防御するくらいだ
「え?無理だよ。俺の剣術は戦えるようなものじゃない」
「ええやん、やって見たら。凪だって手加減するやろうし」
「お願いします」
凪はそういうと俺に頭を下げてくる。やれやれ、がっかりさせてしまうことになるな
「解ったよ、だけど少しだぞ。じゃ無いと秋蘭に見つかって怒られる」
「はい、ありがとうございます」
「では」そういうと凪は拳を構え俺と対峙する。俺も剣を片手で持ち半身になって構えると
次の瞬間、凪の鋭い突きが俺の顔面を真直ぐに襲い掛かってきた
「くっ!」
鋭い突きを剣でいなし、頭上へ剣を打ち下ろすが、かわされてしまい
態勢の崩れたところへ強烈な蹴りが襲ってくる
「ふっ!」
地面ギリギリに伏せて避けると剣を跳ね上げるが
パシッ
跳ね上げた剣を指先だけで止められてしまい、止められた剣はびくともしない
「すみません、隊長。やはりやめましょう、私からお願いしておいて申し訳ないのですが」
凪は申し訳なさそうに眼を伏せた、まあ解りきっていたことだが結構へこむなぁ
全然通じないどころか避けるまでも無いと言ったところか
「いや、俺も期待はずれですまないな」
「いいえ、私が無理を言ったのに付き合っていただいただけです」
「なんというか、本当に弱いなー!剣も何で片手持ちなん?」
「あんたら面白いことやってるなー」俺達のやり取りをいつの間にか遠くで見ていたのか
霞がニコニコと笑いながらこちらに近寄ってきて話に混ざってきた
「姐さん」「御姉さま」と沙和と真桜がなにやら変な呼び方をしている、いつの間にコイツラ
そんなに仲良くなったんだ?
「見ていたのか、かっこ悪いところ見せたな」
「ほんま変な動きやったで、笑いをこらえるので苦労したわ」
まいったな、武を誇る霞にまでそんなふうに言われるとは、やはり俺に武術は向いていないんだな
「秋蘭の言っていた事はほんまやったんやな、昭には剣を持たせられんて」
「そんなことを、確かにその通りだな。俺が持っても危ないだけだ」
苦笑いをして返す。確かに棍を持っているのが俺には御似合いなのかもしれない
やはり棍をもう少し鍛えるか、そう思っていると笑いながら霞が俺の手を掴む
「そうや、うちが鍛えたろか?」
「え?いいのか?」
「ええよ、一人鍛えるくらいなんとも無い、ただうちの教え方はハンパないで!」
「是非頼む、俺に剣術を教えてくれ」
ニッコリ微笑む霞はそこから俺に剣の持ち方から振り方、そして簡単な形を教えてくれた
一通り俺に教えると飛龍偃月刀を持ち出し、俺に向かって構え「実戦が一番手っ取り早く強くなれる」
と片手でかかって来いとばかりに振り回す
「い、いくぞっ!」
「こいっ!」
かかっていった次の瞬間、俺は天地が逆さまになった。脚を払われ派手に転倒していたのだ
首と背中に痛みが走る。しかし脚を払ったのが刃のほうだったら両足は確実になくなっていた
そう思ったら背筋を冷たいものが流れた
「見えてはいるようやし、防ぐことも出来とるようやけどあかんな」
「うぐぐっ、確かに眼で追えるけど」
一応はとっさに剣を構え、脚払いを防ごうとしてはいるんだが防御ごと吹き飛ばされていた
次はもっとしっかり受け止めてみるか
「まぁ、うちの攻撃を眼で追えるところは褒めたる、そんなら次は・・・・・・あ!」
霞が変な声を出して固まり、動かなくなる。不思議に思った俺は目線の先を確認すると
曹操様の隣で秋蘭が俺の方をじっと見ていた。しまった・・・夢中になっていて気がつかなかった
「あの、すまん秋蘭」
秋蘭は静かに俺に近寄ると俺の手から剣を取り、手と腕の包帯を確認し始める
丁寧に丁寧に、まるでガラス細工を扱うように、その表情はとても悲しげで
「大丈夫よ秋蘭、昭もただの稽古でしょ?」
「ええ曹操様、心配要らないよ秋蘭」
俺の言葉を聞いて安心したのか俺の手を握って眼を伏せてしまう、剣を振り回していたのが
よほど心配だったのだ、本当に悪いことをした。せめて一言いっておくべきだった
俺はゆっくりと優しく秋蘭を包むように抱きしめ、背中を軽く優しく叩く
「昭、これより私達は許昌へ戻るわ」
「え?何かあったのでしょうか」
「ええ、劉備が南蛮を一度で制したそうよ」
南蛮を一度で?どういうことだ?本来は七回は捕まって開放されるの繰り返しのはずだが
何があった?劉備は益州に渡ったばかりだと思っていた、劉備がこちらに攻めてくる可能性が
出てきたということか
「甘さが消えたのかしら、それとも私の思いつかないような方法で屈服させたのか」
曹操様の顔が笑みに変わる。その顔は期待をされているのですか
一度期待を裏切られたのにも関わらず、自分の覇道とくらべたいのですか
どちらが天に求められているか、どちらが大陸に覇を唱えるにふさわしいか
「幽州は霞と稟に任せるわ、并州は春蘭と季衣に、冀州の統治を秋蘭と流流に
青洲は凪と沙和に賊討伐をさせる」
北は騎馬兵が多いし烏桓いるから霞と稟を向かわせるのは解る。だが他はそれほど急がなくてもいいはずだ
劉備にあのときの話の通り隙を見せる御つもりですか?攻めて来いと、自分と劉備どちらが正しいのか、それを決しようと
「昭、貴方の言いたい事はわかる。でも私の気持ち解るでしょう?」
ええ解りますとも、やはり貴方は武で大陸を収めようとしている自分が真に天に求められているのか、それとも
著しい変化を遂げた徳の劉備が天に求められているのかそれを問う御つもりですね
徳で戦をせず皆を治めることが出来るのならば自分はいらない存在だと、優しい貴方らしい
「了解しました、しかし孫策の動きはどうなっているでしょう?」
「報告によれば力は付けている様だけど、まだまだ周りの豪族などを統治することが出来ていないようね」
そうか、取り合えずは孫策まで攻めてくるといった事はなさそうだ、劉備は必ず攻めて来るだろう
たとえ劉備自信が望まなくとも軍師は、諸葛亮は必ずこの隙を狙ってくる
「最後の我儘よ、次の戦で劉備を打ち破り、私は覇王として武王としての道を確実なものとする」
己の身が滅びても、ですか?それはさせない、俺の命を賭してでも守り抜く
貴方こそがこの地に平穏をもたらすと俺は信じているから
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武王編③
次は結構長くなると思うので少し
投稿が遅れるかも知れません
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