No.128858

真・恋姫†無双~薫る空~第62話 覇道編司馬懿√

一ヶ月以上あけてしまいましたorz
この辺りから薫る空を書き始めたときに書きたかった場面に入るので、ちょっと楽しくなってきた。

そんなこんなで62話です。

2010-03-08 17:25:10 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:4335   閲覧ユーザー数:3759

 

 

 

 夜の暗闇の中、あの時のように、異様な光景が俺の目の前で起きていた。

 それぞれ軍を従えているにもかかわらず、一騎打ちが行われている。それは互いに申し出をしたわけでも、同意したわけでもない。ただ襲い掛かってきた最強の敵を最強の味方が迎え撃っただけ。

 その氣に当てられて、互いに戦意を失っている。

 

 

 【葵】「ちぃっ……こんのっ!」

 【呂布】「ふっ――」

 

 洛陽でも、ここでも互角に渡り合ってきた二人だが、徐々に葵が押され始めた。

 

 【一刀】「…………」

 【馬超】「そんな、母様が……」

 

 呂布といえば、既に知らぬものはいないというほどに、その武を天下に知らしめていた。だが、それでも馬超は葵がこの大陸で最強だと信じて疑わなかった。

 けど、こうして実際に刃を交えていると、その差が徐々に露になっていく。 

 呂布に比べて、葵は少しだが、動きが大きい。

 扱う武器のリーチの差を体術でカバーするように戦えば、自然と体力を奪われていく。それに加えて、呂布の今回の戦い方は……。

 

 【呂布】「はぁっ!」

 【葵】「くっ、また大振りで……!」

 

 呂布が一太刀振るうたびに、風にも似た氣の壁が周囲に撒き散らされる。

 全方位への圧力と、葵への豪撃。二つを同時に放ちながら、葵を尚圧倒している。もしも、無手同士で戦ったなら、あの時互角に渡り合っていた関羽にも、この呂布にも遅れはとらないであろう葵だが、今は違う。

 間合いが短ければ懐に入ればいいのだが、それも呂布が相手では意味をなさなかった。

 飛び込むように葵は一瞬で、呂布の間合いの内側へとはいる。しかし、そこにあるのは、呂布の隙などではなく、戟を手放した拳。

 

 【葵】「うっ……」

 

 放たれた正拳を剣で受けるが、その衝撃はまともに体にうけてしまった。

 

 【馬超】「母様!……一刀!何とかならないのか!お前、天の御遣いなんだろ!?」

 【一刀】「…………呂布は、なんで正体をばらしたんだ」

 【馬超】「はぁっ!?こんな時になに言ってんだ」

 

 馬超があせるのも分かる。実際、葵はかなり劣勢だ。兵達もすっかり萎縮して動けずにいる。

 だけど、どうしてここで呂布が”後ろ”から来るんだ。おそらくは敵軍の中でも最強を誇るはず。なのに、本陣を守らず、こちらの退路に軍を置く。それではこっちが本陣に強襲をかけようとしていたら追いつかない。伊達に騎馬民族と呼ばれている涼州の民ではないのだ。行軍速度で勝負するなら、五胡に勝つ要素など何処にも無い。

 

 【一刀】「葵さんは必死に戦っている。だけど、その葵さんですら呂布には叶わない、ように見えるけど……」

 

 呂布は正体を隠すようにあの外套を着ていた。それなのに、あいつの象徴ともいえるあの方天戟を使っているのはどうして。それでは自分が呂布と言っているようなものだ。

 そして、この二人の戦いだ。長期戦になるのは当然の事。この二人の武力にそこまで差があるとは思えない。それなのに圧倒されてしまう理由。

 それに加えて、ここまでの矛盾。敵軍を追えば追うほど負けている。

 そこで退路を断つなんて、まるで撤退させないようにしているようだ。しかし、それは勝利した軍が行う事で負けている軍が行う事ではない。

 本陣に押し込まれようとしていた者達がそんな事をするはずが無い。

 

 【一刀】「だったら――」

 

 何故呂布は本陣とは逆の方角にいたのか。答えは。

 

 【一刀】「本陣は……偽物。五胡の狙いは……!」

 【馬超】「お、おい……」

 

 ――五胡の狙いは、漢そのもの。この大陸そのものの領土だ。

 そして、今五胡が欲しいのはその足がかりになる涼州の地。

 

 【一刀】「――――そうか。呂布は……囮だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――徐州・瑯邪

 

 

 

 

 徐州。かつて陶謙が治めていたこの地を、前戦の反董卓連合での功績により、劉備がこの地の刺史に就いていた。

 まだまだかつての都や、長安、許昌といった都市には及ばないものの、諸葛亮や鳳統の懸案により、その経済は益々上向きとなっていた。

 

 【諸葛亮】「…………ふぅ」

 【鳳統】「お疲れ様です。朱里ちゃん」

 【諸葛亮】「あ、ありがとうです。雛里ちゃん」

 

 部屋にて、まとめられていた書類を片付け、一息ついたところで、いつからいたのか鳳統が机の上に茶を差し出していた。 

 

 【諸葛亮】「……おいしい」

 【鳳統】「ふふ」

 

 茶の感想を聞いて満足したのか、鳳統は小さく笑い、部屋の窓際にたった。

 

 【鳳統】「今日は……ずいぶんあの星が大きいです」

 【諸葛亮】「…………」

 

 月の隣で、一際明るく光る星。見ようによっては赤色にも見えるその星はいつにもまして大きい。しかし、すでに気づいているという風に、諸葛亮はただ頷くだけだった。

 

 【諸葛亮】「報告では、涼州で戦が起こっているみたい」

 【鳳統】「五胡さん、ですか?」

 【諸葛亮】「うん……。でも少し、嫌な感じがする……今までの物とは違うような……」

 【鳳統】「…………」

 

 何も言わず、鳳統は部屋を出て行こうとするが、思い出したように立ち止まる。

 

 【鳳統】「報告と言えば……その、曹操さんのところの軍師さんが、謀反を起こしたとの噂が立っていますが……朱里ちゃんはご存知ですか?」

 【諸葛亮】「曹操さんの……?ううん、聞いていないですね」

 【鳳統】「噂ですので、なんとも言えないけど……」

 【諸葛亮】「ううん、教えてくれてありがとう雛里ちゃん」

 【鳳統】「……はい♪」

 

 かたん、と扉がしまる。

 途端に静かになった部屋の中で、諸葛亮は脱力して椅子に腰掛ける。

 

 【諸葛亮】「……曹操さんの軍師……たしか荀彧さんと……」

 

 曹操軍の詳しい人事など分かるはずも無く、以前に聞いた名前を上げる。

 

 【諸葛亮】「――――……薫さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――涼州・郊外

 

 

 

 【一刀】「葵さんには馬超から伝えといてくれ!俺は先に天水に向かってるから!」

 【馬超】「わ、わかった!」

 

 竦んでいた足を叩いて、奮い起こしながら、馬に乗る。

 

 【一刀】「ったく、ほんとにめんどくさい策だよ!」

 

 すっかり葵の口癖が移った様に愚痴をこぼす。当たり前だ。

 何処の世界に天下の呂布を囮に使う軍師がいるって言うんだ。いや、もっと以前に本隊そのものが囮になるなんて、誰が考える。

 違和感はあったのに気づかなかった。だって、追い詰めているのはこちらなんだ。しかし本隊をどこまで追い詰めても、本陣にたどり着くことは無い。ただ、伏兵、撤退、強襲を繰り返すだけの軍。だが、そんな軍に釣られるように、俺達はどんどん進軍していった。”防衛戦”にも関わらず。

 その結果、守るはずの街と前線の間に大きな空洞が生まれる。敵陣は、そこに生まれる。そして、ここに呂布を配置したのは、それに気づいた俺達を通さないため。

 連合すら足止めを食らった呂布だ。涼州の兵だけなら止めるのは容易いだろう。

 別働隊という名の敵陣が狙うのは、天水そのもの。

 

 【一刀】「なんとかして、ここを抜けないとな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――天水・近郊

 

 

 

 【司馬懿】「そう、馬騰の軍が動きましたか……思ったより速かったですね」

 

 やはり御遣いが相手になるとこちらの思い通りにはならない。おそらく恋の足止めもそれほど持たないだろう。

 なら、予定を早めてでも動くしかない。

 

 【司馬懿】「陳宮、始めましょうか」

 【陳宮】「わ、わかったのです……」

 

 やっぱり軍師をしていただけある。ねねはあたしの態度を見てその話し方や行動を変えてくれる。周囲の兵に、立場はどちらが上なのかをはっきりと示すために。

 ねねの指示が届き、兵達は火矢を構える。本隊が後ろにいるとはいえ、まさか守りの兵がまったくいないということは無いだろう。

 

 【司馬懿】「馬騰がこちらに来る前に落とします。弓兵、構えよ!」

 

 ――王とは、常に人を導かねばならない。他者の先頭に立ち続ける者こそが、王となる人物なのだ――

 

 忘れない。今まで見てきた、王と呼ばれる人達。彼女達のように、常に前へ。

 足は止めない。

 

 【司馬懿】「――――……放て!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 【葵】「あぁん、囮?」

 【馬超】「さっきあいつがそう言って城の方に向かっていったよ!」

 

 一刀からの伝言を聞いた葵は、その表情を分かりやすくゆがめていた。

 圧されてはいるが、楽しくも感じられた呂布との戦いが、一つの謀の上でのものだと知ったからだ。

 

 【葵】「ち……だとしたら、こんなところで遊んでられないな」

 

 視線を遠くへ向けてみれば、既に天水のほうには赤い光と共に黒煙が上がってた。

 

 【葵】「……わかった。翠、お前に半分預けるから、俺が呂布の気引いてる間に一刀に追いつけ」

 【馬超】「あ、あぁ、わかったよ」

 【葵】「急げよ?しくったら明日から家無しだからな」

 

 強く頷いてから馬超は馬に跨り、葵の率いていた本隊の半数を引き継いで呂布へと対峙する。

 

 【葵】「さて……じゃあ、続きをやろうか」

 【呂布】「――……」

 

 葵の声にこたえるように、呂布は強く地を蹴り上げ、二人の間合いをつめる。一瞬消えたようにも見えた呂布の姿は、大きな音を上げて、葵へとぶつかっていた。

 

 【馬超】「今だ!あたしに続けーー!!」

 

 馬超の叫びの後に、多数の馬の足音が続く。

 

 【呂布】「っ――」

 【葵】「っと、お前はこっち見てればいいんだよ」

 【呂布】「くっ」

 

 注意が馬超へとそれたところに、葵がさらに力を加えて一撃を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を上げれば、既に街から火の手が上がっている。

 

 【一刀】「っは……っは……」

 

 馬も体力がそろそろ限界近くなっていきているのか、徐々に速度が落ちている。

 近づいてくるはずの街が妙に遠く感じ始めた頃。ようやく、それが見えた。

 

 【一刀】「いたな……五胡」

 

 馬をとめて降りた後、剣に手をかけながら、前へと進む。

 こちらは一人。あとから軍も追いついてくるだろうが、現時点では誰もいない。

 そんな状態で敵を倒すには……やはり、頭を潰すしかない。馬騰の様子では五胡の動きは今までとは違うようだから、おそらく最近になって以前の物と指揮系統が変わっているんだろう。

 ならば、こちらにもつけいる隙はある。

 

 ――……!

 

 と、近づいてくる俺の姿にようやく気が付いたのか、五胡兵が騒ぎ始める。各々が武器を取り出し、こちらを威嚇するように取り囲み始めた。

 

 【一刀】「……それほど武に自信があるわけじゃないけど……」

 

 俺は、腰からぶら下げている二本のうち、華琳から受け取った剣を抜いた。

 甲高い音を上げながら、まるで鳴き声みたいに、抜き取る音が周囲に響き渡る。

 

 【一刀】「それでもただの兵よりは、強くなったと思うんだ――!」

 

 銀というより、ほとんど黒に近い刀身。形自体は一般に支給されている剣とほとんど変わらないのに、雰囲気はまったくの別物だった。

 

 ――うぁぁぁぁ!!

 

 叫びながら、兵の一人がこちらに突撃してくる。

 こちらに向けられた剣先。俺はそれをしたから弾く。

 

 【一刀】「――っ!」

 

 しかし、弾いた手ごたえは無く、代わりに綺麗に切断された剣先が宙に舞った。この感触に見覚えがあったせいか、今度は体が止まることなく流れ、勢いあまった敵を切り捨てる。

 生臭い血しぶきを上げながら倒れていく敵兵を見ながら、以前の戦の時と同じような心理状態に陥っていく。人を殺すとは何なのか、疑問に思わない時なんてないが、少なくとも前よりは、今は答えに近づいた気がする。

 

 【一刀】「次――」

 

 進路上にいる敵を倒していくつもりで、次はといいかけたとき、不意に目に入った。

 

 【一刀】「……なんで……」

 

 黒い外套を頭から被ってはいたが、その横顔を見間違えるはずがなかった。

 手に持った扇だって、以前一緒に見て回った物だ。

 

 【一刀】「――薫!!」

 

 意識とは別に、気づけば叫んでいて、一瞬目があった薫の目は相変わらず金色のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【司馬懿】「――……」

 

 予想以上に、早かった。

 御遣いとの戦は予想していたよりもやりにくい。外史の外から来た存在では、こちらの力が及ばない。一刀は、数少ない星詠の瞳が覗けない心を持っている相手だ。動きの予想が付かないから、完璧な対策が立てられない。

 それにしても、もう真名で呼ばれるのも随分久しぶりだった。思わず振り向いて、目が合ってしまったが、すぐに目をそらし、移動する。

 一刀の事は兵に任せておけばいい。今は城を落とすほうが先。幸い、城壁にはすでにこちらの兵が乗り込み、中へ入ろうとしている。城門が開くのも時間の問題だろう。

 

 【司馬懿】「御遣いが来たという事は、馬騰……いや、馬超の軍か。近いうちに追いつくはず。少し急ぎましょうか……陳宮、私達も前へでましょう」

 【陳宮】「了解、なのです」

 

 ふたりで歩をすすめて、軍の中に消えていく。

 

 【司馬懿】「――…………馬鹿」

 【陳宮】「――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【一刀】「く――」

 

 一瞬目が合ったはずだが、薫はそのまま奥へと消えていった。追いかけようとしたとき、取り囲んでいた兵が襲い掛かってきて、俺は足止めを食らっていた。

 

 【一刀】「どけって!!」

 

 競り合うようにじりじりと刃をあわせていた兵を吹き飛ばし、

 

 【一刀】「言ってるだろ!!」

 

 そのまま敵を切り捨てる。乗り越えるように走っていくが、薫の姿は見えない。

 肩で息をし始める頃になって、ようやく後ろから地鳴りが聞こえてきた。

 どんどん大きくなっていく地鳴りは、その分味方が近づいてきていることを表している。

 

 【馬超】「みんな!あたしらの城、奪わせるんじゃねーぞ!」

 

 おおおおおおお、と兵の叫びが響く。それに五胡兵が少し動揺するのが見えた。

 

 【一刀】「よし、これで!」

 

 怖気づいた者からなぎ倒し、天水の城へと走る。

 

 【馬超】「一刀!乗れ!」

 【一刀】「馬超!?」

 

 横から伸ばされた手をつかみ、二人乗りの形で、俺は馬超の後ろに座る。

 

 【一刀】「ありがとな、馬超」

 【馬超】「いや、別に……。あ、こら、変なところ触るな!」

 【一刀】「え、あ、いや、えと、ごめん」

 

 とは言っても、馬の二人乗りでは体を持たないと落ちてしまうわけで、俺は出来るだけ気をつけながら、馬超にしがみつく。

 

 【馬超】「ちっ……」

 【一刀】「え、また変なところ触ったかな?」

 【馬超】「馬鹿!そうじゃなくて、門がひらいてんだよ!」

 

 舌打ちする馬超の視線の先をみると、たしかに城門が開いて、中へと続く橋が降りていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【葵】「っ……そろそろ、お前も戻ったほうがいいんじゃないか?」

 【呂布】「…………」

 【葵】「あくまで足止めってか……」

 

 どれだけ切り結んでもすぐには決着など付きそうに無い。それは呂布が攻撃の手を緩めているのだから、当然の事だが、今の葵にとっては何より嫌な戦い方だった。

 このままここで戦っていても、意味はない。単純な一騎打ちならそれも悪くは無いが、裏で呂布に指示を出している奴がいるなら、そいつから叩かなければ楽しむことも許されない。

 

 【葵】「…………どけ」

 【呂布】「…………」

 

 葵の言葉にも反応せず、ただ呂布は葵の道をふさぐ。

 

 【葵】「さっさとどけって言って――」

 

 語意を強めて言いかけたとき、それを遮るように天水のほうから、大きな音がした。

 爆発音にもちかいそれは、二人の注意をそらすには十分なほどの轟音。

 

 【葵】「何……」

 【呂布】「――っ!」

 【葵】「あ、てめぇ!」

 

 葵の気がそれている間に、呂布は急に身を反転させ、後ろへと大きく飛びのいた。

 

 【呂布】「ここまで」

 【葵】「ちっ……今の音か……」

 

 おそらく、呂布に対しての何かの合図だったんだろう。この状況で送る合図の内容など、そう多くは無い。そして、考え付く予想のどれもが悪い方向にしか勘が働かない。

 考えている間に、呂布は撤退を始めるが、それをとめる意味は今はない。

 むしろ――

 

 【葵】「……翠、粘ってろよ……おい!急いで戻るぞお前ら!」

 

 兵を鼓舞し、軍を進める。

 むしろ、呂布を追うよりも、こうして早く城へ戻らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は馬から下りて、開いてしまった城門を眺めていた。

 ここが開いているという事は、中に敵兵が入ってしまったという事。主である葵が外にいるのだから、城は落ちたという事だ。

 まだ外では戦が続いているが既に負け戦。

 と、ふと城壁へと目を移したところで、さっき見た探し人の姿があった。

 

 【一刀】「薫……」

 

 城壁に立てられたほとんどが黒一色の司馬の旗。その隣に立つように、薫は城壁の上にいた。

 

 【司馬懿】「――…………」

 

 そんな彼女が、後ろに誰かいるのか何かを話している。

 話が終ったように、こちらを向きなおしたとき、彼女の手には弓矢が握られていた。

 

 【一刀】「っ」

 【司馬懿】「…………」

 

 弓を持つ意味は、当然矢を射るためだ。そして、その狙いは俺へと向いていた。

 しかし、弾かれた矢は俺に当たることなく、俺の足元に突き刺さった。よく見ると、矢には紙が一枚くくりつけられていた。いわゆる矢文というやつだろう。

 

 【一刀】「これは……」

 

 それを解いて、丁寧に開いていくと、やはり矢文で、中には文章が書かれていた。

 

 【一刀】「――っ!」

 

 読みきった後、急いで顔をあげて薫へと視線を戻したが、薫の姿はそこには無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数刻して、戦は馬騰軍の敗北で終った。

 合流した葵を加えて反撃に移ろうとしたが、呂布も加わった敵の大軍から、城を取り戻すことはできず、撤退することになった。

 

 

 【一刀】「…………」

 

 敗走した後は追撃を受けながら、なんとか同盟していた華琳の領土に逃げ込む事で一段落付いた。しかし、葵達にとってはそれもいつまでの話かは分からない。今の華琳と葵の関係は、要は以前の袁術と呉の関係になるのだから、華琳にとっても、いつまでも放置できる存在ではないだろう。

 

 【一刀】「わざわざ機会作ってくれたんだから、ちゃんと顔くらい見せてくれよ」

 【司馬懿】「一応敵の領地だってわかって言ってる?」

 【一刀】「分かってるよ」

 【司馬懿】「はぁ……」

 

 先ほど撃たれた矢文には、敗戦の後、ある森の中でとあった。

 たったコレだけの内容でどうしろっていうんだと思ったが、偶然か、逃げ込んだ町から一番近い森は、天水領……つまり、ついさっきから薫の領土となった場所だ。まさかと思ってきては見たが、あたりだったようで、分かりやすく目印がつけてあった。

 

 【司馬懿】「まぁ、いいや。なんで追いかけてきたの?」

 【一刀】「理由、いわないと分からないか?」

 【司馬懿】「……だよね。当たり前か」

 

 木々の奥から出てきた薫は、頭のフードの部分だけめくってあるだけで、相変わらず外套を羽織ったままだ。

 

 【司馬懿】「――……で、言いたいことは?」

 【一刀】「大馬鹿野郎」

 【司馬懿】「……それだけ?」

 【一刀】「あぁ、言い出したら十日やそこらじゃ終らないからな」

 【司馬懿】「それは……さすがに勘弁」

 【一刀】「なんで裏切ったりしたんだよ」

 【司馬懿】「それが一番いいと思ったからだよ」

 【一刀】「何に対して一番なんだ?」

 【司馬懿】「決まってるじゃない」

 【一刀】「だから何に――」

 【司馬懿】「あたし”達”だよ」

 

 薫は俺から少し距離をとって、目を閉じた。

 

 

 【司馬懿】「一刀は、外史って知ってる?」

 【一刀】「外史……?」

 【司馬懿】「そ。簡単に言えばここの事。難しく言えば、本来の正史とは別のもう一つの歴史を歩む世界、人が見る夢、夢が作り出す人、それら全部を外史っていうんだって」

 【一刀】「だってって……」

 【司馬懿】「あたしも教えられた側だからね」

 

 苦笑いしながら、薫は話を続ける。

 

 【司馬懿】「外史には突端と終端が存在する。外史の始まりである突端。で、ある出来事をきっかけに起こる外史の終わり、終端。その出来事は外史によって変わるけど――」

 【一刀】「ま、待て!整理するから!」

 【司馬懿】「あはは、あたしのときと同じだ」

 【一刀】「よ、よし、いいぞ」

 【司馬懿】「うん、でね。もちろん、終端なんてものは誰にも分からないんだ。この外史の外から見ている人以外、誰も知らない。だから、どうすればこの世界が終るのかなんて、誰も知ってるわけ無いんだよ」

 【一刀】「あ、あぁ……」

 【司馬懿】「でもね……突端は、違うんだよ」

 【一刀】「始まり……だっけか」

 【司馬懿】「うん。始まりは、知る事が出来る。その歴史での中心なる人がその突端を開いた人だから」

 【一刀】「中心って」

 【司馬懿】「分かる?だから、ここでは占いにまでなった存在、天の御遣いと、その天啓を受けた奸雄、曹操なのよ」

 【一刀】「俺と、華琳……?いや、待て!いきなり世界とかってなんだ」

 【司馬懿】「あんたもなんとなく、心当たりあるでしょ?最初に出逢ったとき、あんた何て言った?未来から来たって言わなかった?たしかにあんたは未来から来てるのよ。この外史とは別の未来だけどね」

 【一刀】「いや、待て、とりあえずそれはいい。俺と華琳がここの突端……っていうのだって話はいい。けどそれがなんで、お前が華琳を裏切る話になる」

 【司馬懿】「人の話はちゃんと聞け。最初に会った時にも言ったよ、一刀。あたしが、華琳のところを出た理由は、一つだけだよ」

 【一刀】「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 【司馬懿】「―――分かるはずの無い、終端を知ったからだよ」

 

 

 

 

 

 

【一刀】「終端?」

【司馬懿】「――……うん」

 薫の話す言葉には聞きなれない言葉が多い。もちろん、それを理解できるわけも無い。外史とか、いろいろ話してはくれたけど、俺が理解していることなんて、結局はここは俺の元々いた場所ではないってことだけ。それなら、今までと何も変わらない。

【一刀】「その終端って、なんだったんだ……?」

 しかし、それが薫の行動の理由なら、聞かないわけには行かない。薫を連れ戻すには、その理由を否定しないといけないから。

【司馬懿】「それは…………」

 薫は俯いて、言葉を濁す。

 言いにくいものなのか、中々口を開いてくれない。

【一刀】「薫――」

 それが何なのか、たずねようとしたところで。

【呂布】「――薫」

【一刀】「なっ……呂布……!?」

【司馬懿】「恋、何かあった?」

【呂布】「囲まれてる」

【一刀】「え……」

【司馬懿】「そっか……」

 森の影から突然現れたかと思ったら、呂布はそう告げていた。

【司馬懿】「ここまでだね。一刀」

【一刀】「え、ちょ、ちょっと薫!」

【呂布】「…………道、開ける」

【司馬懿】「うん、お願い。ねねは?」

【呂布】「お城にいる」

【司馬懿】「そか」

 言いながら、二人は森の中へと歩いていく。

【一刀】「待てって、薫!」

【司馬懿】「一刀、華琳に伝えておいて」

【一刀】「華琳に……?」

【司馬懿】「あたし、あんたの事、大ッ嫌いだったって」

【一刀】「な……」

【司馬懿】「それから……」

 薫は、空に浮かんでいる月をみながら

【司馬懿】「あの月が沈んだら、あたしの真名は忘れて欲しい」

【一刀】「おい!」

【司馬懿】「行くよ、恋」

【呂布】「……(コク」

 二人は駆け出して、森の中へと消えていった。

 追いかけようと、俺も走り出したけど、川原の石に躓いて、気づいたら、二人の姿はなかった。

 それから数分して、がしゃがしゃとやかましい音を立てながら、兵達が押し寄せてきた。俺が森に入ったことを不審に思ったものがここに司馬懿がいると報告したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――数日後。

 天水までの遠征は、結局失敗に終った。

 西涼、天水の領土は司馬懿が率いていた五胡に奪われ、馬騰は曹操の領土に亡命した。同盟国の将ということで、一応は客将扱いとなっているが、事実上は捕虜に近いものだ。

 そして、俺はというと。

【桂花】「まったく、薫の件だけでなく、五胡の侵攻まで許すなんて、無能にも限度というものがあるんじゃないの?」

【一刀】「う……」

 許昌に戻って依頼、桂花と顔を合わせるたびに罵倒されていた。普段なら言いがかりとも思えるようなものだっただけに、自覚のある落ち度だと尚の事、たちが悪い。

【桂花】「しかも、せっかく華琳様が与えてくださった将軍格を棒に振るなんて」

 司馬懿と接触していたことが、俺の不信につながり、降格処分となった。

 もちろん華琳は事情を知っているわけだが、臣下全員がそれを理解しているはずが無く、立場上はこうするのが正しいだろう。

【一刀】「そんな事言うけど、あの状況じゃ!」

【桂花】「……何よ」

【一刀】「いや、何でも……ない」

【桂花】「はぁ……腑抜けに関わっても、ろくな事が無いわ」

 本当に容赦がないな。普段の理不尽な嫌がらせよりも、よほど心臓にくる。

【一刀】「そう思うなら、わざわざ人の部屋までくるなよ」

 そうだ。ここまで言ってくれるがこの人はわざわざ俺の部屋まで来てこの言動だ。

【桂花】「仕事で来ているのよ。そうでなければこんなところ、死んで生まれ変わっても入りたくないわ」

【一刀】「はいはい。わかったから、おわったんだろ?仕事」

【桂花】「……。えぇ、終ったわ。それじゃあね、変態仮面」

【一刀】「俺はロリコンじゃねーよ!!」

 ばたん、と強く扉が閉められた後、部屋は静かになった。

【一刀】「……あぁ、なんだ、書類落として……」

 と、その紙を拾ったが、それはとても政治の書類とは思えない文面だった。

 見間違いとも思ったが、街で授業もしているくらいに字はうまいので、その文字はどう読んだって間違えようがなかった。

【一刀】「こういうの、キャラじゃないだろうに」

 ――『次は、上手くやりなさい』と。

【一刀】「はは……文字つぶれてるじゃないか……」

 それと、本当に小さく、墨がにじんでつぶれてしまっているけど、かろうじて『、か、り」と読めた。

 

 

 

 降格処分と共に、俺に与えられたのは七日間の謹慎。

 裏切った上に勢力を持った薫と接触していたのだから、それくらいは当然だろうか。

【一刀】「部屋から出られないっていうのも、それなりにつらいもんだなぁ」

 仕事に追われているときは強引にでも缶詰にされているが、こう何もすることがないと、一人というは苦痛でしかない。

 ―――どんどんどんどん!!(扉が叩かれる音)

【一刀】「うわっ!な、なんだ!?」

【???】「はいるぞー!」

【一刀】「え、え?」

【葵】「ふぅ……。お、やっと当たり引いたか」

【一刀】「あ、葵さんか……」

 轟音と共に現れたのは葵だった。相変わらず騒がしい人だ。

【一刀】「どうしたんですか?」

【葵】「いや、どうせ謹慎で退屈してるだろうと思ってな」

 どん、と机の上に置かれたのは一本の酒瓶だった。

【一刀】「呑みませんよ?」

【葵】「はぁ!?酒が目の前にあるのにのまねぇってか!?」

【一刀】「いや、今昼間だし」

【葵】「馬鹿野郎、お前時間に縛られてどうするんだよ。男だろうが」

 そこは関係ないと思うんだが、葵には通じないようだ。

【一刀】「葵さんこそ、そんなにおおぴらに出歩いて大丈夫なんですか?」

【葵】「ああ?……あぁ、一応曹操には許可とってあるよ。めんどくせぇったらねぇ……」

【一刀】「ははは」

【葵】「笑い事じゃねぇんだよ!!」

【一刀】「まさか……もう酔ってます?」

【葵】「これくらいで酔うかよ」

 うん、酔ってるな。

【一刀】「……(まぁ、自分の国を取られたんだから仕方がないか……)」

【葵】「お前のほうは上手くやったみたいだな」

【一刀】「え?」

【葵】「お前が俺のところに来ている間に袁紹、落としたんだろ」

【一刀】「え、そ、そうなんですか?」

【葵】「なんだ、お前聞かされてなかったのか」

 だって、今は兵卒上がりの曹長とかと同じ位置づけだもの。軍議に呼ばれるはずが無い。

【葵】「情けないなぁ」

【一刀】「ほっといてくれ」

【葵】「あっはっは!!拗ねるなよっ」

 

 

 

 

 

 ――side薫

 

 

 

 一刀と別れて数日。

 涼州を制圧後、とにかく手を焼かされたのはその領民達だった。よほど以前の君主が良かったのか、反乱の耐えないこと。

【司馬懿】「はぁ……しんど」

 広い玉座に寝そべるように薫はぼやいた。

【陳宮】「薫、口調もどってるですよ」

【司馬懿】「別にあんた以外いないんだからいいでしょ~」

【陳宮】「はぁ……困ったものです」

【司馬懿】「ねぇ、ねね」

【陳宮】「なんですか?」

【司馬懿】「次、どこ攻めよっか」

【陳宮】「まだ鎮圧しきってないのですよ!?」

【司馬懿】「鎮圧なんて同時進行でも大丈夫でしょ」

【陳宮】「むちゃくちゃです……」

【司馬懿】「時間、無いのよ」

【陳宮】「はぁ……そうですね。やはりガイ亭を通って蜀を狙うのが普通じゃないですか?」

【司馬懿】「……だよね」

【陳宮】「……?どこか狙いたい場所でもあるのですか?」

【司馬懿】「……孫呉」

【陳宮】「はぁ!?地理的に真逆もいいとこなのです!」

【司馬懿】「うん。だからなやんでるんじゃない」

【陳宮】「悩むも何も……どう考えたって最終決戦にでもならない限り接触のしようがないのです……」

【司馬懿】「ダメだよ。最後は魏……じゃなくて、曹操とやるんだから」

【陳宮】「…………はぁ。だったらやはり蜀を狙ってそのまま南下するしかないのです」

【司馬懿】「南蛮を通って江南へ?」

 うむ、と陳宮は首を縦に振る。

【司馬懿】「……そこまで待ってられ、ない!」

 勢いづけて起き上がりながら、薫は話すのをやめない。

【司馬懿】「あの子はどうか知らないけど、王様って感じがするのは……雪蓮なんだよね。だから、倒す」

【陳宮】「はぁ……なら、どうやるのですか」

【司馬懿】「中原、ぶった切っていこうか」

【陳宮】「今は劉備がいるのです」

【司馬懿】「倒すよ」

【陳宮】「恋殿の負担が大きすぎるのです!」

【司馬懿】「そこだよね~……」

【陳宮】「それに今下手に劉備なんかに手をだしたら曹操に後ろを取られるのです」

【司馬懿】「……ん~……やっぱり頼るしかない、か。あんまり気は進まないけど」

【陳宮】「?アテでもあるのですか?」

【司馬懿】「ちょっとね。さすがに二回目だし、そろそろ何か言われそうだけど……」

【陳宮】「??」

【司馬懿】「ねねさ、さっきの答えだけど」

【陳宮】「さっきの?」

【司馬懿】「曹操に後ろを取られるって奴。例えば、赤壁あたりで大きな戦があればどうよ。曹操と孫策の、ね」

【陳宮】「どうって…………。――ぁ」

【司馬懿】「ふふん」

【陳宮】「……ずるい手なのです」

【司馬懿】「うまいって言ってよね」

【陳宮】「けれどそれなら、十中八九大陸の半分は……」

【司馬懿】「――……狙える。ま、文字通り火事場泥棒って奴だけど」

 問題はどうやって戦を起こすかだが、それにも考えはあるようで、陳宮がそう問いかければ「ま、繋がりが無いわけじゃないし、どうにでもできるよ」と、薫は答える。

【司馬懿】「さて……」

 だらけていた姿勢から立ち上がって、薫は部屋の外へと歩き出す。

【司馬懿】「次は荊州……朱里のところか。大変だな」

 

 

 

 

 

 

 

 ――徐州・瑯邪

 

 

【諸葛亮】「涼州が……。分かりました。報告ありがとうございます。ゆっくり休んでくださいね」

 報告を済ませた兵に笑いかけ、下がらせる。

 ぱたんと扉を閉めた後は取り繕う必要もなく、笑顔は一瞬で暗くなった。

【諸葛亮】「やはり薫さんですか……」

 なんとなく予想はついていたが、例の噂の内容がはっきりとしてきて、それにあわせたような五胡の侵攻を考えれば、答えはすぐに出た。

 長い付き合いがあるわけではないけれど、汜水関へ出る前に話したときの雰囲気では、とても主を裏切るような人には思えなかった。

 でも、それもあの短い時間の中での印象だ。

 窓から眺めた夜空がいつもより重く感じる。

【諸葛亮】「普通に考えれば、次に狙うのは益州あたりなんだけど……薫さんのことだからきっと……」

 ――どたどたどたあああ!!!

【張飛】「しゅりぃぃいいい!!!」

【諸葛亮】「ひゃいいっ!!!」

 足音と扉を開く音と声がほぼ同時に響き渡った。

【張飛】「にゃははは。やっぱり驚いたのだ」

【諸葛亮】「も~。鈴々ちゃんっ、夜は静かにしてくださいっていつも言ってるでしょ!」

【張飛】「にひひ」

【諸葛亮】「もうっ……それで、何か御用ですか?」

【張飛】「んにゃ?暇だったから突撃しただけなのだ」

【諸葛亮】「暇だからって驚かさないでください!」

【張飛】「ん、朱里、顔が暗いけど何かあったのか?」

【諸葛亮】「話を聞いて――……はぁ……なんでもないです」

【張飛】「??そうなのか?」

【諸葛亮】「はい、大丈夫ですよ。それより鈴々ちゃんはそろそろ寝ないといけないんじゃないですか?」

【張飛】「うっ……愛紗と同じこと言ってるのだ……」

【諸葛亮】「そんな時間ですから……」

 しょうがないな、と苦笑いで朱里は答える。

【張飛】「むむっ」

【諸葛亮】「どうかしましたか?」

【張飛】「これは……愛紗ごんの気配なのだ」

【諸葛亮】「愛紗ごん……」

【張飛】「とぅっ!」

【諸葛亮】「あっ……」

 扉に耳を当てていた体勢から一瞬で張飛は机の裏側に身を移した。

【張飛】「しーっ」

 鈴々は口に人差し指をあてて、その意思を朱里に伝える。黙っておけ、という事のようだ。

 これ以上に頷きがたい約束があるだろうか、と朱里は頭の中でこれから起こる惨劇を予想していた。

 ――こんこん。

 扉が、叩かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴々の怨嗟が瑯邪城内に響き渡っている頃、一刀は。

【一刀】「んー……こっちかな」

【華琳】「あら、いいのね。ならこれ、もらってしまうわよ」

【一刀】「あああああ!?ちょ、ちょっと待った!」

【華琳】「戦に待ったは無いわよ」

 あまりにも暇すぎて死にかけていた所に来た、華琳の助け舟にこれでもかと寄りかかっていた。

 駒をどけながら、自分の駒をその場に進める。

【華琳】「はぁ……薫の件も失敗するはずね。もう少し先を見なさい」

【一刀】「う……それを言われると……」

【華琳】「ふふ。もうしばらくこれでいじり倒してあげるわ」

【一刀】「くっ……、よし、ここだ」

【華琳】「ならこっちから」

【一刀】「え?いいのか?」

【華琳】「どうぞ?」

【一刀】「あ、あれ……?」

【華琳】「ふふ」

【一刀】「お、おい、ちょっと待て」

【華琳】「これで、終わりね」

【一刀】「おまっ……皆殺しは酷くないか!?」

【華琳】「現実は厳しいものよ。覚えておきなさい」

 決着。これで一刀の十二戦十二敗目だった。

【一刀】「これはひどい……」

 一刀側の陣地には味方の駒の倒れた姿で満ち溢れていた。一方華琳のほうはと言えば、一定の間隔で並べられた、陣形のようなものが出来上がっている。

【華琳】「だいぶ調子が出てきたわね」

【一刀】「は?」

【華琳】「今まで軍略とかは桂花にまかせっきりだったから、自分でやるのは久しぶりで調子が出なかったのよ」

【一刀】「敗者に追い討ちかけて楽しいですか」

【華琳】「楽しすぎるわね。癖になりそうよ」

【一刀】「もうなってるだろ!」

【華琳】「あはははっ」

【一刀】「ったく……けほっけほっ」

【華琳】「あら、風邪でも引いたの?」

【一刀】「どうだろ。ここんとこ、夜は外に出ることが多かったからな」

【華琳】「健康管理くらいきちんとしなさい?」

【一刀】「ああ、気をつける」

 がらがらと倒れた駒を並べなおす。

【一刀】「そういえば華琳、馬騰の亡命受け入れたんだよな」

【華琳】「断る理由はないわ。使える者はなんでも使うべきだと思ってるもの」

【一刀】「そっか」

 初手まで戻された盤上に華琳は手を伸ばす。

【華琳】「もし何か仕掛けてきたとしても――」

 駒を一つ、一刀の陣地へと進める。

 

 

【華琳】「――それはそれで、叩き潰すまでよ」

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 お久しぶり……になるのかな。イラストでは投稿もしてたんですけども。

 和兎です。

 まずは更新していなかった言い訳をば……。じつは絵のほうである企画に参加してまして。そっちに集中していました。

 投稿してたイラストはその際の息抜き代わりに書いたものですね。

 執筆が遅れていたのはそれプラス最近小説の方向性がよく分からなくなってきた、というのもありますが。

 長くなりすぎると書くほうも困りものですねw

 今後の方針を示すようなセリフが多かったのはそういう裏側な事情もあったりします。

 要は作者が混乱しないようにって事ですけど。

 

 それはそうとやっぱり別シナリオにはいると琥珀の出番が恐ろしいほど消えましたね。。。

 今後の展開でもう少し増やすつもりではいるんですが、共通シナリオに戻るまではどうしようもないですね。

 

 麗羽の扱い酷くね?ってご意見があるかもしれないので、念のため。

 麗羽とのやり取りは琥珀√でメインに書くつもりです。

 ですので、薫√では思いっきりばっさりしました。

 逆に琥珀√では葵関連のシナリオがまったく無いわけですが。

 一応どちらのシナリオも、片方で起きている事件に視点を当てるというだけで特に展開が変わるわけではないです。一部を除いて。

 

 とまぁ、そんな感じのあとがきという名のメモ帳でした。( ´゚д゚`)←

 

 ちなみに最後に一刀と華琳がやっていたのは、作者の想像上のゲームです。

 将棋とチェスをあわせたような。原作でも同じようなものあったと思うんですが…ちょっとうろ覚えだったので。

 

 

 ではでは、また次回ノ

 


 
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