No.128530

『舞い踊る季節の中で』 第22話

うたまるさん

『真・恋姫無双』の二次創作のSSです。
明命√の作品となります。

戦の惨さに心を痛める一刀、
そんな中、明命が自分の気持ちに気付いてしまいます。

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2010-03-06 21:29:17 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:24226   閲覧ユーザー数:17490

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』

  第22話 ~ 舞い上がる命は、翡雨のもとに墜ちる ~

 

 

(はじめに)

 

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

        :●●●●

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(ただし本人は無自覚)

         気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

         神の手のマッサージ(若い女性には危険です)

 

翡翠誕生秘話:

 

彼女の誕生は、私が書こうとする作品の雰囲気において、明命のライバルに亜莎では、あの雰囲気は出せないと判断し、では誰を出すかというところで、たしか、はわわ軍師の姉が呉の重臣でいたなぁ。彼女なら、妹に似ていると言っておけばイメージも付きやすいしと言う安直な理由が発端です。

まぁ、性格は、かなり朱里の姉という事で、お姉さん風になりましたが・・・・、口調は、『はわわ』『あわわ』があるし、『はうはう』とかかなぁと思っていた処に、明命の『あうあぅ』があったシーンを見て、これだと決定(w 

そうして、書き始めると、想像以上に伽羅が濃く、これでは明命喰っちゃうなぁと、思いつつ続稿(汗

最近になって、やっとバランスが取れてきました。

ちなみに、現在翡翠は一刀に惹かれていますが、男共に幻滅しているのは、彼女の妄想作品以外では、今も続いています(ゴスロリ服シーン参照)。

まぁ一刀が彼女にとって例外という事ですね・・・・種馬ですし(w

 

 

 

一刀視点:

 

 

私こと北郷一刀は、現在、世の不条理を嘆いていた。

 

食料を作りながら、食べるものが無く死んでいく農民、

民のためと頑張れば、覚えのない横領罪を被せられる官、

生きるためと、誰かを殺す事で永らえる者達、

この乱れた世において不条理なものなど幾らでもある。

まぁ、此処までたいしたものではない。

ごく個人的な不条理だ。

 

「聞いているのかっ!」

「・・・聞いています・・・・」

 

俺の頭上から、孫権の怒声が降り注ぐ、

その怒声は、孫策の天幕中どころか、外にまで響いているに違いない。

夕べの鎮魂の舞の事で、怒られるのなら、別に不条理とは思わない。

それくらいの覚悟はしていたし、お説教で済むなら安いものだと思っている。

だが、その事については、いままで、一言も責められてはいない。

孫権の性格からして、怒鳴り込んできても、おかしくないと思っていただけに、何かあるのではと警戒しているのだが・・・・今の所その気配すら見当たらない・・・・一体何があったんだろうか?

ちなみに、俺の味方をしてくれるかなぁ、と思った明命は、何故か今朝から、俺を避けている節がある、今は此方を見ない様にしているぐらいだ。

まぁ、それでも時折、此方を心配そうな顔をしている所は、何と言うか、小動物みたいで微笑ましい。

等と、お説教の最中に、不謹慎な事を考えているが、この際、それくらいは勘弁して欲しい。

そう思いつつ、俺は横目で、事の元凶の孫策を、

俺と同じように床に座らせられ、孫権のお説教を喰らっている孫策を、恨めしげに睨む。

俺の視線に、気がついた孫策は、にっこり笑みを返してくる。

・・・・駄目だ、全然堪えていない、と言うか、悪いとさえ思っていない。

いや、まだ大人しく座っているだけ、孫権に悪いと思っているのかもしれないな。

 

「姉様、何をふざけてられているのです。

 姉様は、孫呉の王である自覚をもっとお持ちください。

 戦の後、あんな兵達の眼のある中で、北郷と一晩を過ごす等、何を考えてられるのですかっ」

「・・・あ・あの孫権、その言い方だと、色々不味い誤解が・」

「当たり前だ! もしそのような事があれば、今頃貴様の首など、とうに無くなっている」

 

だから、言葉を選んで欲しいと言っているんですが・・・・

だめだ、聞く耳なんて持ってやしねぇ・・・・・まぁその辺りは、孫策の妹と思えば納得できるか

等と、我ながら失礼な事を考えていると、その孫策が、

 

「ぶーーぶーー、良いじゃないの、別に一刀と酒を酌み交わしただけなんだから」

「だけでは在りません。

 それだけなら、私も此処まで怒りません。

 問題にしているのは、その後の、北郷が姉様を、ひ・ひ・膝枕をして一夜を明かした事を言っているのです。

 王、自らあのような事をしては、変な噂が流れてしまうのが、分からないとでも言うつもりですかっ

 姉様、何故あのような事をっ」

「う~~ん、なんとなくと、その場の雰囲気で?」

「姉様っ」

「冗談よ、まったく堅いんだから、色々考えがあってよ」

「その考えをお聞かせください」

「うふっ、ひ・み・つ」

 

プチッ

 

あっ、やばっ

 

「冗談よ冗談っ、そんな目くじら立てないでよ」

 

俺がやばいと想った瞬間、孫策も流石に調子に乗り過ぎたと、先に孫権に謝る。

・・・・謝るくらいなら、、最初からからかわないで欲しい、こっちの心臓が悪い。

孫権も、先に謝られたために、怒りをぶつける訳には行かず、深く息を吐き、

 

「今、此処で話すべき内容ではないと言う事は分かりました。

 ですが、このような事をしては、袁・」

「蓮華様」

「うむ、分かった。

 では、この話は帰ってから、あらためてお話させていただきます。

 くれぐれも、お忘れなきように」

 

思春の声に、孫権は話を強引に終える。

うーん、やっぱり、天幕の外で、さっきから聞き耳立てている人達のせいかなぁ。

昨日の時は居なかったのに、何故急に?

・・・翡翠に言われた事もあるので、放置する事にしているけど・・・まぁ、そう言うことなんだろうな。

 

「北郷、貴様も仮にも軍師なら、姉様を止めるのも仕事と思えっ」

「気をつけるよ」

 

と言うか、俺は今回完全に被害者だと思うんだけどね。

それに普通、姉を止めるのは妹の仕事では?・・・・・まぁ孫策が、言って止まるとは思えないけど。

・・・・・・まぁ、孫策の事は、この際横に置いて放置しておこう。

問題は明命に避けられている理由だが、いかんせん、心当たりがない。

俺の不甲斐の無さから、迷惑掛けた事で怒っているなら、昨日のうちからだろうし・・・

以前にも似たような事はあったが、どうやら少し雰囲気が違うし・・・どうしたものやら、

とにかく、せめて機嫌を取らねば・・・・・・

 

結局、考えても、良い手は思いつかず、せめて明命の為に出きるだけ美味しい朝食をと、俺は天幕を出て朝食を作っている兵に声を掛けた。

まぁ、こんな行軍中だから、使える材料や調味料はもとより、時間も限られてくるが、それでもやり方一つで、大きく変わるし、大量に作るからこそ出せる味と言うのもある。

そんなわけで、将達&隊長クラス用の分を、無理言って作らせてもらった。

まぁ、通りかかった思春の口添えがあったからなんだけど・・・

 

「・・・・昨日の戦で、蓮華様をお助けした礼だ」

 

そうそっけない言葉を残して、思春は、隊の撤収指示に向かった。

少なくとも、それなりに信頼はしてくれている事は嬉しかった。

(昨日の殺気の篭った目で、あれだけ睨まれた時は、嫌われたものとばかり思っていただけに、思春の心遣い

 は嬉しかった)

 

 

 

 

結局、当番の兵が作るより、よほど美味しく作る事が出来た朝食も、明命の機嫌を直す事はできず、孫策達を、喜ばすだけに留まり、行軍中も此方を見つつも近づいてくる事は無かった・・・・俺、何か明命を傷つける事したかな?・・・・

 

 

 

 

 

 

 

翡翠(諸葛瑾)視点:

 

 

「お帰りないませ、雪蓮様、蓮華様」

「冥琳、祭、翡翠、私達がいない間留守番ありがとうね」

「雪蓮がいない分、問題が起きなかっただけ気楽だったさ」

「ぶぅーーー、それでは、まるで私が問題ばかり起こしているみたいじゃない」

「そのとおりであろう」

 

雪蓮様が、冥琳様と早速いつものやり取りを始めますが、私はそれを横目に、その後ろの方を見渡します。

 

あっ、居ました。

 

どうやら、向こうも私に気がついたようで、馬を降りて此方に早足に歩んできます。

良かった。何処にも怪我はないようです。

一刀君は、私の前で立ち止まり

 

「・・・ただいま」

 

そう、いつかの悲しい笑顔で、答えるのでした。

 

ズキンッ

 

胸が痛いです。

分かってはいた事です。

覚悟はしていました。

それでも、一刀君の傷ついた笑顔は、

悲しい笑顔は、私の胸を締め付けます。

 

でも、その中で、少しだけ安堵する事もありました。

一刀君の笑顔は、確かに悲しみを、苦しみを、必死に我慢している、悲しい笑顔です。

ですが、あの時とは違います。

一刀君の優しい瞳は、悲しみの中に、確かな光がありました。

その光は、前には無かった強さを宿しています。

その力強い光がある限り、一刀君はきっと大丈夫だと思わせてくれます。

 

でも、それは私にとって、少し寂しい事でした。

一刀君は、私の力など無くても、こうして還って来れたのですから、

一刀君は、自分で立ち上がる事が出来たのですから、

それが、寂しく感じてしまいます。

・・・・・・ですが、それは考えてはいけない事です。

今は、一刀君がこうして無事戻ってきてくれた事を、喜ぶべきなのですから、

だから、私は、想いを籠めて

 

「お帰りなさい、一刀君」

 

そう、一刀君に負けないよう笑顔で応えます。

・・・あれ、おかしいです。

涙が、出てしまいます。

嬉しいはずなのに・・・涙が出るのが止まりません。

 

 

 

 

 

結局、あの後、雪蓮様と冥琳様の取り計らいで、私と一刀君は、先に家に帰ってきました。

明命ちゃんは、れっきとした将ですから、まだ城に残って後始末をしていますが、そのうちに帰って来る事でしょう。

一刀君と私は着替えてから、話を聞くためと言って、私と共に長椅子に腰掛けさせています。

一刀君は優しい子ですから、辛い事は、また自分で抱え込むはずです。

でも、それでは一刀君が、何時か潰れてしまいます。

だから、一刀君が潰れてしまわないように、私は一刀君から、従軍中の事を細かく聞きだします。

一刀君にとって、今回の事を話すのは、苦痛以外の何ものでもない事は分かっています。

でも、それで良いのです。

溜め込まずに、吐き出せば、少しは楽になるものですから、

歩む道は変わらなくても、心に掛かる重みが少しでも軽くなれば、また歩む事が出来ますから、

それでも、一刀君は私に心配掛けまいと、必死に感情を殺そうと耐えながら話します。

 

(しょうがないですね)

 

そんな、我慢強い一刀君を、私は強引に私の膝の上に寝かせます。

 

「ちょ、翡翠っ」

 

一刀君は、抵抗しますが、私は無視します。

一刀君の性格からして、無理やり私を押し退けるような真似は、出来ないでしょう。

・・・・・少し卑怯ですが、この際仕方ありません。

私は一刀君の頭を、優しく撫で続けます。

やがて抵抗する事を諦めるのを待って、いつかの言葉を紡ぎます。

 

「一刀君、前に言いましたよね。

 女の娘の前だからって、無理に我慢する必要は無いんですよ。

 苦しいなら、悲しいなら、泣いても良いのです。 と言うか泣きなさい。

 これはお姉さんの命令です」

「・・・あははっ、あの時も・・・こんな感じだったね・・・」

「そうですね。

 だから、何度だって言ってあげます。

 家族の前で我慢する必要は無いんです。

 それとも、私では一刀君の家族になれませんか?」

「・・・卑怯だよ・・・翡翠・・・そんな事言われたら・・・俺・・・」

「一刀君のためなら、幾らでも卑怯になってあげます」

「・・・それは・・あんまり・・嬉しくない・・・かな・・・」

「・・・・・・・・・・もう、いいんですよ、一刀君」

 

私の言葉に、

 

温もりに、

 

やがて、一刀君は、

 

その胸に溜まった想いを

 

泣きながら、嗚咽しながら、

 

吐露します。

 

苦しみも、

 

悲しみも

 

戸惑いも、

 

怒りも、

 

絶望も、

 

逃げ出したい気持ちも、

 

それをする事は出来ない想いも、

 

前を見続けなければいけない痛みも、

 

心の痛み全てを、

 

私に、ぶつけてくれます。

 

 

私の膝を枕に、せめて泣いている顔は見せたくないのか、

うつ伏せにしている一刀君の髪を、優しく撫でながら、

私は涙します。

一刀君の傷の深さに、

一刀君の優しさに、

一刀君がこれから歩まなければいけない道に、

一刀君をそこに追いやった自分に

悲しくて、切なくて涙します。

 

私に、その気持ちを打ち明けてくれた事に、

私の前で泣いてくれた事に、

家族で居てくれる事に、

心を晒してくれる事に、

私は、嬉しくて涙します。

 

やがて、泣き疲れたのでしょうか、

緊張の糸が解けたのでしょうか、

私の膝で静かに、寝息を立て始めます。

安心したかのように、穏やかに眠ります。

私は、そんな一刀君を、愛しげに見詰め、

 

「・・・・・・お休みなさい・・・・一刀君・・・頑張ったのですね」

 

一刀君の髪を優しく、撫で付けながら、

そう静かに囁きます。

優しくて、

頑張り屋さんで、

脆くても、強い心の持ち主で、

笑顔が素敵で、

私を、大切に想ってくれて、

私を、きちんと大人の女性として扱ってくれて、

私に、色々な事を気付かせてくれた人。

 

 

「私は、やっぱり一刀君の事が・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

明命(周泰)視点:

 

 

日が昇ろうとする時、

目が醒めると、目の前に、雪蓮様の顔がありました。

そんな予想外の光景に、私は目を見開きました・・・・・・どうやら、まだ眠られているようです。

こんな事に気がつかないで居たなんて、どうやら、思った以上に疲れていたようです。

まだ眠る二人を起さないように、そっと体を起すと、二人の姿が改めて目に映ります。

一刀さんの膝枕で眠る雪蓮様は、とても安心したような寝顔でした。

その二人の姿は、まるで・・・・・・何故でしょう、何故か 胸が むかむか します。

翡翠様と一刀さんが居る時は、こんな事ありませんでした。

あえて言うなら、一刀さんがお店で、他の女性達に笑顔を振舞っている時に似ています。

 

「おはようございます、周将軍」

 

私が、原因不明の 気持ちに、悩んでいると、

火番の兵が、朝の挨拶をしてきます。

私は軽く、目で挨拶を済ませ、再び二人に目を向けます。

気分が悪いなら、見なければ良いのですが、何故か目を逸らす事が出来ません。

一体何故でしょう?

そう思っていると、

 

「焼きもちなら、勘弁してやってください。

 そこの御仁は、周将軍を優しげな顔で見守っておられましたし、孫策様に酔い潰されただけですから」

 

えっ

 

「今なんと?」

「へっ、ですから孫策様に酔い潰されただけと」

「最初に、なんと言いましたかと、聞いているのです」

 

私の冷静に振舞おうとする気持ちは、声を必要以上に無機質な物に変え、兵はその声に驚きます。

 

「えっ、あの、焼きもちと・・・・周将軍とそこの御仁は恋仲では?

 ・・・も・もしかして勘違い・・・でしたでしょうか・・」

 

しどろもどろに言う兵の言葉に、私は頭の中が真っ白になりました。

やがて、ゆっくりと頭の中に浸透していくと、私は、その場にいる事が耐え切れず、逃げ出してしまいます。

 

 

 

 

 

あの場を逃げ出した私は、自分の天幕に戻り、簡易の寝台の中に潜り込むと、

先程の兵の言葉が、何度も頭の中を行き交います。

 

『 焼きもちなら、勘弁してやってください 』

『 周将軍とそこの御仁は恋仲では? 』

 

顔が、熱くなっているのが分かります。

頭の中が、茹っているのが分かります。

 

そうです。

たしかに、あれは雪蓮様に、焼きもち焼いていたのだと思います。

そして、それの意味する事は・・・・・

 

一刀さんと一緒に居ると、安らぎます。

 

一刀さんの顔を見ると胸が、どきどき します。

 

一刀さんの事を考えると切なくなります。

 

一刀さんの事を考えると楽しくなります。

 

一刀さんをとても大切に思っています。

 

一刀さんを守りたいと思います。

 

一刀さんが悲しむのが、自分の事以上に辛いと思えます。

 

一刀さんが認められるのが、自分の事のように嬉しく思います。

 

一刀さんと一緒にいたいと思っています。

 

祭様は言われました。

 

『 明命、おぬしが、心に想っている気持ちはとても大切な物。

  今のお主は、その正体が解らず、怯えて居るだけじゃ    』

 

そうです。

今思えば、私は、今の気持ちに気付かずに戸惑い、子供のように怯えていただけでした。

 

 

雪蓮様があの時

 

『 貴女達とまぐわって、子を孕ませなさいって言ったのが、頭にきたのよ 』

 

あの時、私は一刀さんの子を生む事を、恥ずかしいと思いはしましたが、少しも嫌とは思いませんでした。

むしろ私は・・・・・

 

そして、その思いは、今も同じです。

いえ、はっきり自覚した分、恥ずかしさは前以上です。

でも、それでも私は、一刀さんと一緒にいたいです。

 

 

「私は、やっぱり一刀さんの事が・・・・・・・・・・」

 

 

駄目です。

恥ずかしすぎて、頭がくらくらします。

でも、自分の気持ちが、嬉しいと感じています。

その想いが、とても心地良く感じています。

 

「・・・・・一刀さん」

 

 

 

 

 

 

「各班毎に確認しだい、班長は副隊長に報告しなさい。

 副隊長は、その内容を確認しだい、私に報告してください。

 兵站の管理返却は、くれぐれも慎重に行ってください」

 

城に無事帰還した私は、部下達に、兵站の回収、確認等の指示を終え、自分の執務室に向かいます。

戦死者、負傷者の名簿の確認、戦中の各自の報告のまとめ、消費した物資の算出、やる事は、幾らでもあります。時間が開けば開くだけ、正確な情報が取れなくなります。

 

 

 

結局あの後、一刀さんから、逃げてしまいました。

顔を合わせても、恥ずかしくて逸らしてしまっていました。

いけない事だとは分っています。

これでは、前と同じですし、何より一刀さんに、心配を掛けてしまいます。

幸い、行軍中に、遠めに一刀さんを見ていたおかげで、それなりに落ち着く事ができました。

私が一刀さんを、どう想っているかは分りました。

恥ずかしいけど、自信を持って(心の中で)言えます。

 

問題は・・・・一刀さんです。

一刀さんが、私をどう想っているのかです。

大切にしてくれているのは分ります。

ただ、気になるのは、一刀さんは私に、義妹にするように接しています。

今までの事を思い出してみると

 

背中から抱きしめたり、

前からも抱きしめたり、

膝枕をしてもらったり、

手を握って歩いたり、

額をくっつけて熱を測ったり

添い寝をしてもらったり、

 

・・・あうぅ、ずいぶん大胆な事をしていました。

・・・確かに、傍から見たら、恋仲のように見えても仕方ありません。

 

とにかく、それでも一刀さんは、優しく接していてくれました。

だからこそ、私も一刀さんを、義兄のように接して来れたのだと思います

もし一刀さんが、私を義妹としか見ていないのなら、正直・・・・・考えたくありません。

・・・・やはり、胸なんでしょうか?

でも私だって、まだ見込が無いわけではありません。

年齢的に、大きくなる余地はあります。

ふと、頭に母様の姿が思い浮かびます・・・・・・必ずしも、体形が親に似るとは限りませんね・・・

それとも、私には、女としての魅力がないのでしょうか?

今までの、一刀さんと接した時の事を思い出してみると、

 

記憶の中の一刀さんは、私が抱きついたりする度に、顔を赤くして、動揺してたりしています。

(今思えば、慌てている姿が可愛いです。)

そして、その後に諦めたように、優しげに微笑んでいます。

 

とりあえず、義妹としか見られていない、と言う訳ではないようです。

少なくても、一刀さんは、多少なりとも私に魅力を感じている所があるようです。

その事は、嬉しいと思えます。

とにかく希望的観測もありますが、まったく望みが無いと言うわけでは無い事は分りました。

では、どうしたらよいでしょうか?・・・・

 

そういえば、祭様がいつか言われていました。

 

『おぬし等も、いつかは好きな男が、出来るやも知れん。

 もし本気に好いた男が出来たなら、決して逃すな、

 とにかく、押して押して押しまくれ、男なんぞ、それで一発じゃ。

 そしたら、後はこっちのもの、時折甘い顔見せて、しっかりと手綱を握っていればよい』

 

独り身の祭様に言われても、やや説得力ありませんが、年長者の言葉として、そう間違いではないはずです。

今度は、きちんと、そのあたりを意識して、一刀さんに迫ってみる事にします。

幸い、任務の都合上、そういう事情の裏も見てきていますので、参考にはなるはずです。

例えば・・・・・・・・・・・あうぅ、意識してやろうと思うと、かなり恥ずかしいです。

 

しゅぅ~~~~

 

いけません、任務では冷静に見れていたのに、自分がと思うと、頭が茹だってしまいます。

私は、顔を真っ赤にさせて、茹だった頭を机で冷やすかのように、突っ伏します。

とりあえず、こんな状態では、今まで以上に迫るのは無理なようです。

とにかく、今は一刀さんと、きちんと向き合える事を優先しましょう。

ふとそう思っていると、誰かがこの部屋に向かって来ている事に気が付きます。

はて、誰でしょう?

部下が、報告に来たにしては早すぎますし

 

カチャッ

 

「・・・明命まだいたのか」

「思春様どうされましたか?」

 

思春様が、部屋にいる私の顔を見るなり、怪訝な表情をされます。

 

「・・・・雪蓮様より、聞いていないのか?」

「いいえ、特に何も」

 

私の返事に、思春様は小さく溜息を吐き

 

「・・・困った方だ。

 明命、後は私がやるから、今日はもう上がってよいぞ」

「え? でも、それでは思春様にご迷惑が」

「・・・雪蓮様のご命令だ。

 今回、明命が一番頑張ったのだから、早く帰らせてやれとの事だ。

 行軍中、様子がおかしかったのは、遠目にも分ったからな・・・・あの男の事が心配なのだろう?」

 

行軍中の事が、思春様に気が付かれていた事に、私は、思わず顔が赤くなってしまいます。

一刀さんの事を考えていた事が、見抜かれたようで、恥ずかしくなります。

 

「・・・・とっと帰れ、邪魔だ」

「はっ、はい、ありがとうございます」

 

思春様の言葉に、私は慌てて、部屋を出ます。

あのような言い方ですが、思春様の優しさから出た言葉なのは違いありませが、ああいう風に言われた場合、愚図愚図していたら、実力行使に出られてしまいます。

此処は、雪蓮様や思春様のお言葉に甘える事にします。

とにかく、家に帰ったら、この間の祭様の教えどおり一刀さんに、・・・・・・・・そうでした。

自分の事ばかり浮かれてしまい、私は一刀さんが、それ所じゃない事を忘れていました・・・・・

 

一刀さんにとって、今回が初陣でした。

一刀さんは、とても優しい方ですが、その優しさが、戦では逆に一刀さんを傷つけたのです。

賊討伐後に見つけた一刀さんは、一目で分かるほど、脆く崩れそうな程傷つき、本当に危うげな感じでした。

それでも、今まで耐えて来られたのは、その一刀さんの優しさなんだと思います。

賊達を弔う程の優しさが、一刀さんを支えたのだと思います。

彼等の、死んだ者達の魂を救う事で、一刀さんは自分を保てる事ができたのだと思います。

それでも、一刀さんが深く傷ついている事実に、違いはありません。

今までは、行軍中と言うこともあって、その緊張感のおかげで、耐えられたと思います。

でも家に着けば、その緊張も解け、またいつかの様に、悩み苦しむはずです。

今、一刀さんに必要なのは、一緒に居てあげる事だと思います。

黙って支えてあげる事だと思います。

なのに、それを一時的とは言え、忘れてしまうなんて・・・・

本当は、行軍中も付いていてあげるべきでした。

・・・なのに、私は・・・

いいえ、今は落ち込んでいる場合ではありません。

とにかく、一刻も早く一刀さんが、また笑えるよう元気付けてあげなければいけません。

 

 

 

 

 

一刀さんを心配して、急いで帰宅した私を出迎えたのは、

 

『一刀君、前に言いましたよね。

 女の娘の前だからって、無理に我慢する必要は無いんですよ。

 苦しいなら、悲しいなら、泣いても良いのです。 と言うか泣きなさい。

 これはお姉さんの命令です』

『・・・あははっ、あの時も・・・こんな感じだったね・・・』

『そうですね。

 だから、何度だって言ってあげます。

 家族の前で我慢する必要は無いんです。

 それとも、私では一刀君の家族になれませんか?』

『・・・卑怯だよ・・・翡翠・・・そんな事言われたら・・・俺・・・』

『一刀君のためなら、幾らでも卑怯になってあげます』

『・・・それは・・あんまり・・嬉しくない・・・かな・・・』

『・・・・・・・・・・もう、いいんですよ、一刀君』

 

そんな二人の声が、扉の向こうから聞こえてきました。

そして、翡翠様の膝の上で、

すがり付く様に

嗚咽と共に、

心の中を吐き出す、一刀さんの姿が、

扉の隙間から、私の目に映ります。

 

私の耳に、

一刀さんの悲痛が、

一刀さんの苦しみが、

一刀さんの喚き出したい気持ちが、

不条理に巻き込まれた嘆きと怒りが、

それでも、逃げ出したくは無いと、相反する苦悩が、

私の心の中に染み渡って行きます。

 

一刀さんは、泣きながら言います。

私や翡翠様が居たから、潰されずに済んだと、

私や翡翠様の想いが、闇から何度も救ってくれたと、

あの時、私が居たから、

私の存在があったから、

私に触れて居たから、立ち留まる事が出来たと、

私の温もりが在ったから、逝ってしまった人達の魂を救いたいと、歩く事ができたと、

 

 

それは、とても嬉しい事です。

自然と涙が出るほど、嬉しい事です。

私が、一刀さんを救えていたと、

私の存在が、一刀さんの励みになっていたと、

 

でも、

でもっ、

 

だからこそ、私は奈落に落とされました。

 

何で、あそこに居るのが私ではないのでしょうか、

いいえ、たとえ、あそこに居たのが私だとしても、

一刀さんは絶対に、あのような姿を、私には見せてくれません。

私には見せてくれない姿を、翡翠様には見せます。

 

そして、何より私を奈落に落したのが、

 

 

『私は、やっぱり一刀君の事が・・・・・・・・・・』

 

 

最期は聞き取れませんでしたが、その唇の動きで、

 

いいえ、そんなもの読み取らなくても分りました。

 

翡翠様の優しい表情で、

 

翡翠様の愛しむ目で、

 

はっきりと、分ったのです。

 

翡翠様が、一刀さんの事を、

 

一人の男性として、

 

・・・・なんだという事が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

  第22話 ~舞い上がる命は、翡雨のもとに墜ちる~ を、此処におおくりしました。

 

・・・・・・重い、

書いていて、重いと思いました。

この二人には、避けては通れない道ですが、読者様に伝えたい、二人の苦悩の1/1000でも伝わればと、書いてみました。

とりあえず、以前予告したとおり、どろどろ した関係は恋姫無双らしくは無いので、重すぎる展開になる前に、二人の関係を修復して行くつもりです。

 

一刀君は、彼を囲む情勢が許さないのと、自己を守るためもあって、無理やり覚悟を決めていますが、やはり傷を抱えた状態です。

この問題や、いろいろな事情が、今後三人の関係に及んでいく予定です。

 

頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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