No.128270

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(7.First Attack)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。

2010-03-05 21:08:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1364   閲覧ユーザー数:1358

 

7.First Attack

 

 部屋を飛び出した時にはもう外は明るくなっていた。

 今なら、まだ間に合う。

 シェリオのライヴ会場にバイクを走らせる。

 会えるかどうかわからなかったけど、何もしないままでいられなかった。

 

(どうにかして、シェリオに会わなくちゃ――!)

 

 設営で慌しくしているといっても、警備は厳重。

 居場所さえわからないシェリオにどうやったら会えるのか、正直、見当も付かない。

 

「そこの人、ここは一般人立ち入り禁止だよ!」

 

 スタッフらしい人に声をかけられた。

 振り返ると、S.M.Sの制服に目を留めて頭を下げられた。

 

「ええっと、すいませんでした。その制服ってことは警備関係者の方でしたか」

「え? ああ、そうです。――シェリオ……さんに警備のことで至急お伝えしたいことがありまして」

 

 ……ウソはいけないけど、ここは背に腹は変えられない。

 罪悪感を覚えながらも、相手の勘違いを利用させてもらうことにする。

 

「そうなんですね。……っと、今はマネージャーさんが席外してるんだった」

「急いでお伝えしないといけなくて。――公演が始まるまでに何とかお伝えしないと」

 

 どうしたものか思案するスタッフに畳み掛ける。

 ここでもたもたしているわけにはいかない。

 

「うーん、仕方ないですね。わかりました。――シェリオさん、ここの一番奥の部屋にいらっしゃいますんで」

「ありがとうございます」

 

(――ウソ付いて、本当にごめんなさい)

 

 心の中で謝る。

 頭を下げて、シェリオのいる部屋に急いだ。

 

 

 

 教えて貰った部屋にシェリオはいた。

 静かで何もない無機質な空間で一人、外の景色――海の中の景色を見つめてた。

  

「シェリオ――」

 

 名前を呼ばれ振り返った顔に驚きの色が浮かぶ。

 ――当たり前、か。私がここに来るなんて思っても見なかったはずだもの。

 

「アルト! 一体、何しに来た?」

「あなたに謝りたくて……」

「帰れ」

 

 今の自分の正直な気持ちを伝える。

 でも、それを聞いてシェリオは眉をひそめた。

 

「じゃあ、せめてこれだけでも」

 

 ポケットからイヤリングを取り出した。

 紅い石を見て、シェリオは驚いた表情になる。

 

「……あったのか」

「格納庫で見つかったの。許してほしいなんて言わない。それに、今の私にはあなたがスパイかどうかわからない」

 

 オズマ隊長の言っていたことの真偽は私には分からない。

 でも、どうしても謝りたくて、ここまで来た。

 ――私がシェリオを傷つけてしまったのは事実だから。それに――。

 

「でも、これだけは言える。あなたは一人ぼっちなんかじゃない」

 

 私の言葉にシェリオは目を見開いて、手で口を覆う。

 言葉を失ったみたいだった。

 

「! ……何、言ってるんだ。当たり前だろう、そんなこと。この俺が――『銀河の帝王』が一人ぼっちなわけないじゃないか」

「それなら、いいの。このイヤリングがあなたの気持ちを教えてくれたような気がしたから。

今日はこれからライヴなんでしょう。頑張って」

「そんなの、言われるまでもない」

 

 いつもみたいに強気な台詞を口にして、シェリオはふいと横を向く。

 

 ここに来た時より、何となく、シェリオの気配が柔らかくなった気がした。

 少しだけほっとして自然と笑みが浮かぶ。

 

 うん、ここに来てよかった。

 きっとあんな風に別れたままでいたら、ずっと後悔することになったと思う。

 

「――おやおや、素敵なお芝居だね」

「グレオ!」

 

 その時、突然、足音とともに手を叩く音が聞こえてきた。

 音のする方を見ると、シェリオのマネージャーが部屋に入ってきたところだった。

 

「シェリオ、そろそろ時間だよ。――それに、他の方たちも出て来られたらいかがですか?」

 

 もう一つの扉に視線を向けて薄く笑みを浮かべながらそう言った。

 他の方たちって……。

 

「……どうやら何もかもお見通しのようね」

「! オズマ隊長!」

 

 グレオの言葉に扉の影からオズマ隊長と軍高官の制服を着た男性と一緒に姿を現した。

 確か、シェリオのツアー期間中担当責任者だったクリストファー・グラス中尉だ。

 

「さすがギャラクシーの機装強化兵(サイバーグラント)といったとこかしら」

「一体、何のことでしょうか」

 

 オズマ隊長とグレオがにらみ合い、緊迫した空気が流れる。

 その脇から軍の身分証を提示して、グラス中尉が前に出る。

 

「グレオ・オコナー――いや、グレオ・ゴドゥヌワ大佐、貴公の行動は銀河安全保障条約の第17条に抵触するものと判断し、連行する」

「おやおや、そう来ましたか。――シェリオ、時間もないようですので、あなたにも言っておきます」

 

 連行すると言われているのに、眼鏡の奥のグレオの目には余裕の笑みが浮かんでいた。

 そして、シェリオに視線を向けて言葉を続ける。

 

「時間がないって……どういう意味だ?」

「この方たちもライヴが終わるまで待って下さらないようですしね。

二時間ほど前、我がギャラクシー船団がバジュラによる全面攻撃を受けました。ギャラクシーは現在、バジュラと交戦中です」

 

 グレオは静かな声で驚くべきことを告げた。

 その内容に部屋にいる全員が言葉を失う。

 ――ギャラクシー船団がバジュラと交戦しているなんて一切知らなかった。

 

「なんだって! グレオ、どうしてすぐ教えてくれなかったんだ?!」

「如何せん、ここからギャラクシーまでは遠すぎます。新統合軍でも民間軍事会社でもない我々の力では今のギャラクシーをどうにかすることはできませんからね。

それに、その力を有しているフロンティア政府はギャラクシーからのSOSをなかったこととしたようですし」

「そんな馬鹿な――」

 

 薄笑いを浮かべるグレオを前にグラス中尉の表情が歪む。

 事実を確認するべく通信機を操作する。――そして、ある文書に目を留めて、眉をひそめた。

 

「確かに政府高官宛てに機密文書が来ている……フロンティアからのSOS信号は重大なサボタージュであると認め、これを破棄するものとする……まさか、本当に……」

 

 中尉が読み上げた内容はグレオが言ったことが正しいことを表していた。

 ――フロンティア上層部がギャラクシー船団の発した救助信号を黙殺したなんて。

 

「これでおわかりでしょう。ここフロンティアは自らの保身に走り、銀河安全保障条約を破棄し、ギャラクシーを見殺しにすると決めたようですよ。

元々、我々はあなた方がバジュラ本星に一番乗りして、その富を独占しようとしているんではと疑っていたのですがね」

「そんなことするはずない」

「ふふふ、今さっきの揉み消しの事実があってもそう仰るわけですね」

「……」

 

 皮肉げなグレオの言葉にグラス中尉が悔しげな言葉を漏らすが、さっきの文書がある以上、強く言い切ることは出来なかった。

 フロンティア政府がギャラクシーを見殺しにしようとする理由は本当に……?

 

「おい、あんたたちS.M.Sは民間軍事プロバイダーだったな。金を出せば、どこへでも戦いに出るっていう」

「まあ、それで間違ってないわね。それが何か?」

 

 重い空気の中、突然、シェリオがオズマ隊長に声をかけた。

 いきなりな内容にオズマ隊長は軽く肩を竦めて頷く。

 

「あんたたちを動かすのに幾ら要る?」

「マクロス・クォーターと搭載機一式の基本装備で一億二千クレジット。他の機材も必要となれば、後はオプション扱いで加算されていくわ」

 

 シェリオは一体何を言おうとしているの?

 その意図が計ることができない。

 

「ふん、なかなかな値段じゃないか。命の値段って訳か――いいだろう」

 

 そう言って、ポケットからカードを取り出して、オズマ隊長に投げて寄越す。

 受け取ったオズマ隊長はそれを見て驚いた表情を浮かべた。

 

「これって……」

「ベガブラックカードだ。足りない分は次のアルバムの印税をつぎ込む」

 

 そんな隊長の反応を見てシェリオはにやりと笑って、そう言った。

 ベガブラックカードって……限度額上限なしで戦車でも何でも買えるっていうのを聞いたことがあったけど、まさか本当に目にするなんて思わなかった。

 

「あんたたちもフロンティア政府が正しいかギャラクシーが正しいのか、自分たちの目で確かめてみたいところだろう。

俺があんたたちの命を買ってやるよ。ありったけの装備積んでギャラクシーの救出に向かってくれ」

「いいでしょう。艦長に掛け合ってみるわ」

 

 誰もが想像しないような無茶な提案をするシェリオにオズマ隊長は小さく口笛を吹いて頷く。

 

「ちょっと待て。オズマ、まさか本気で……」

「私たちは軍隊じゃない。政府の意思に行動は左右されないわ」

 

 携帯を取り出した隊長を横からグラス中尉が止めようとする。

 でも、それをオズマ隊長は一蹴した。

 

 しばらくやり取りが交わされて、オズマ隊長は電話を切る。

 

「――OK、商談成立。艦長から了承を得たわ。

我々S.M.Sはこれよりギャラクシー船団の救出作戦を実行する。アルト准尉、あなたも作戦に参加しなさい」

「はっ。了解しました、隊長」

 

 隊長の命令に敬礼を返す。

 

「コードネーム『銀河の帝王』発動。これより、作戦任務に入る!」

 

 何が正しいのか、何が真実なのか。

 この戦いでそれに少しでも近づけるだろうか?

 

「何だよ、文句あるのか?」

「ううん、ないわ。私は誰かを守るために空を飛ぶって決めた。それが、最初にあなたに雇われて飛ぶことになるとは思わなかったけど」

 

 私の視線を感じたシェリオが憮然とした表情で聞いてきた。

 どこか照れ隠ししているみたいな言葉に首を横に振る。

 

 思ってもいなかった形での初陣だけど、悪くないと思った。

 シェリオが望んだギャラクシーの人たちを守るために空を飛ぶんだ。 

 

「……戻ってきたら」

「え?」

 

 突然の言葉にシェリオの顔を凝視する。

 見つめられてどこかバツが悪そうに視線を外して、シェリオは小さく呟く。

 

「五体満足で戻ってきて、イヤリング、返しに来い。待ってるから」

「シェリオ――うん、わかった」

 

 ぶっきらぼうな言葉に思わず笑みが浮かぶ。

 うん。この戦い、必ず勝って戻ってくるから。

 


 
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