No.127848

恋姫のなにか 9

くらげさん

恋姫のなにかシリーズ。
前回書き損じた部分のつもりです。

2010-03-03 15:08:42 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:20265   閲覧ユーザー数:10539

間隔空けすぎると前みたいな事になるのでコツコツと。決して早くはありませんが。

今回は前回の直後。リベンジ的な意味も込めての続きです。

相変わらずキャラ崩壊してます。

今回は(多分)このシリーズ一番人気のあの子が出るよ!やったね一刀!

「?」

 

魂の叫びを聞いた気がして、空耳かとキョロキョロ辺りを見回す一刀だったが動かないの!と叱られて渋々固まる。

 

「一刀ちゃんはまた大きくなったねぇ♪うんうん、セーターの編み甲斐があって私は嬉しいです♪」

 

昼食を食べ終えた後、アポはねーけど用ならあるぜ!と幼馴染の姉妹の家に突入した一刀を驚いた顔で、コーヒーとお茶請けを付けて出迎えてくれたのは姉の春蘭だった。

 

「セーターってんな簡単に編めるモンなの?」

「ん~、私の場合は気合とノリですかねぇ?はい、ばんざ~い」

 

言われた通り両手を真っ直ぐ上に挙げると、すかさずガバッと抱きつかれるが昔からの伝統なので慌てる要素は微塵も無かった。

 

「もふ♪こうして成長具合を確かめるのも久しぶりですねぇ・・・」

「そういや久しぶり」

「今更の挨拶ですかww はい、久しぶり♪」

 

ニコニコニコニコと、弟代わりの半身内に会って何がそんなに嬉しいんだと思わずにはいられない一刀だったが、機嫌を損ねると大変なので迂闊な言動は慎む様にしている。

お嬢様チックな言動とは裏腹に、頭の軽い輩を黙らせる為の林檎を常備してるのを一刀は良く知っていた。

林檎をどう使う?グチャッと握り潰す。

 

「そういえば、ゆっくりして行けるんですか?」

「ん~、明日の昼には向こう帰らないとダメかな」

「そうですか・・・・・・プリンが美味しい店を見つけたんです・・・

 でも一人じゃ入り辛い店構えでして・・・思春ちゃんはそもそも誘う事も難しいですし・・・」

 

俯きながらチラチラと上目遣いで“一緒にお手手繋いで行きたいなぁ”と要求されているのは分かっていたが、ヤキモチ屋の桃香に知られたら、きっと大変な事になる。

 

「残念だけど、また今度ね? それか、俺たちの方に来てくれればオモテナシするけど」

「・・・それはそれで非常に心躍る提案なんですけど、なんでもっと早くに言ってくれなかったのか説明を望みます」

「んな事言われても・・・ホントに姉弟って訳でもあるまいし」

「反抗期・・・一刀ちゃんが反抗期・・・いつも泣きべそかいてお姉ちゃんに泣きついてた一刀ちゃんが・・・」

「否定出来ないのが情けねーけど、泣きついてたのは霞ねーさんにであって春蘭にじゃないからね?」

「私の事お嫁さんにしてくれたのに・・・」

「ママゴトのネタ未だに引き摺るの、春蘭と稟お姉ちゃんだけだよ?」

 

がっくりと床に両手を当てて“落ち込んでます”とアピールされるのは中々可哀想になるが、夜の事を考えるとあまり迂闊な行動も取れない。

 

「まぁ、寝る場所さえ確保してくれるんなら行ってもいいけどさ」

「もう♪いくつになっても甘えんぼさんなんだからぁ♪」

「ベタな勘違いありがとう。流石に家で寝るからね、俺」

「・・・・・・え?」

「いや、そんな心底不思議そうな顔で見られても」

「え? いやだって・・・・え?」

またも心底不思議そうに聞き返されて、そういやこういうタイプだったなぁと今更ながらに思い出す。

 

(ホントお花畑が似合う人だ。いろんな意味で)

 

一刀の身内+幼馴染は基本的に手が掛かるというか、お互い様だろうが危なっかしくて眼を離す事が難しいのが揃っている。

筆頭はぶっちぎりで稟が一人旅なのだが、別の意味で春蘭も眼が離せないうっかりさんだった。

思春・秋蘭と一刀は割と歳が近いので無茶したりするのも一緒、そこから一歩離れた所で見守る春蘭というのが外部の共通認識なのだが。

 

(我が道を行くというか、天然さんというか)

 

ベタに『付き合ってください!』『はい。で、何処に出かけるんですか?あ、妹達も一緒に連れて行って構いません?』というのも見た。

自分の下駄箱に入っていたラブレターに宛先が無いので、困っているだろうと全校放送で『私の下駄箱にラブレター入れた○○さん、取りにいらしてください』という公開虐殺も行ったのも知っている。

幼馴染という事で(春蘭だけではないが)橋渡しを頼まれ、デートだのなんだのと約束を何度も何度も取り付けた。

しかしどういう脳内変換がなされたのか、それとも一刀の誘い方が悪いのか、当日は必ず一刀の家にまず来て共に家を出るのが恒例だった。

気を利かせて『用事がある』と同行を拒否しても、結局は秋蘭を引き連れていくので結果は同じ事だった。

 

「どうかしました?」

「ちょっと昔を懐かしんでた」

「あらあら、そんなにお姉ちゃんに昔の制服着て欲しいんですか?」

「俺今さ、秋蘭すげぇって思っちゃったけど、間違ってないと思うんだ」

「皆似たような事言うんですよねぇ・・・私の方がお姉さんなのに・・・」

「大人の女はプリン食べたいって駄々捏ねないと思うんだ」

「・・・・・・あたちしゅんらん、さんさい!」

「相変わらずバカだね、バカ極めてるね」

「おにーちゃん、だっこー♪」

 

あ。と一刀は抱きついてきた春蘭に押し倒されながら何の話をしていたのか忘れかけていたが、すんでの所で思い出せた。

ばれるのが怖いなら最初から連れて行けばいいじゃない。

「ほーら、早くギブしないと大変な事になっちゃうよ~?」

「桃香、性格悪いですよ」

 

ベッタベタな桃香の『弟を恋人にしたいなら私たちを倒してからにしなさい!』宣言だったが、ソレを聞いた蒲公英は既に心が折れかけていた。

桃香だけなら勝ちの芽も、もしかしたらあるかもしれない。凪であっても同様だった。

しかし―――

 

「・・・・・・」

 

一刀がいなくなり、動物の様に床に丸まって寝転がってしまった恋が桃香の宣言を聞いてから、ずっと此方を睨んでいる。

先程から歯を食いしばり、気を抜けばダランと下がってしまいそうな両腕の筋肉を力を入れ続けてひたすら桃香の連脚を耐えている。

肉体の限界が先か、それとも心が折れるのが先か。どっちに転んでも自分しか脱落しないチキンレースだった。

 

「ねぇ?なーんでよりにもよってカズちゃんが帰ってくる日に挑戦しに来ちゃったのー?おかげで私、カズちゃんとマトモにお話出来てないんだけどー?

そしてなーんであの子はお姉ちゃんよりモドキの方を優先させるのかなぁ?何か腹立つから八つ当たりしていい?」

 

勘弁してくださいと土下座を決めたかったが、先ず脚を止めてくれない事には何も出来ない。

 

「桃香、ええ加減にしときーや」

「霞ねーさんだって怒ってる癖にー」

「そら腹は立つけどなぁ・・・お前ちょいやりすぎちゃうかー言うてんねん」

「恋も、睨むのを止めなさい」

 

別段蒲公英の第一印象が悪かった訳ではない、むしろ良かったからこそ加減の出来る桃香が先鋒を買って出たのだ。その桃香もドSだったが。

もし印象が悪ければ恋に任せただろうし、当の恋の脳内には常識が欠落している。桃香はドSだが。

恋がやれば今頃救急車が此方に向かい、姉妹で血液型の合うモノを探している頃だろう。ドSの桃香だと腕がしばらく上がらなくなるだけで済むし。

ようやく連脚の嵐が止み、それと同時に蒲公英はガックリと膝を付いた。息はとっくの昔に上がっているが、それでも桃香から眼は離さない。

 

「あ、カズちゃんからだ~♪」

かなり凄い光景を、蒲公英は目撃した。

ニコニコと、自分を甚振っていた時と同じぐらいの良い顔をしながら通話ボタンを押して、桃香は吹き飛んだ。進行方向にいた稟が溜息を吐きながら襟元を掴んでキャッチ。

 

「もしもし」

 

ケータイを持っていた腕を蹴り上げてケータイを手放させ、其処から空中コンボを決めて妹を蹴り飛ばしたのは恋だった。規格外にも程がある。

 

「? 桃香は伸びてる」

「お前が伸したんや」

「蒲公英、生きてるか?」

 

しかもこの姉妹、目の前で妹が蹴り飛ばされたというのに焦る者がいなかった。何時もの事だから仕方ない。

 

「直ぐ行く」

「恋、代わりなさい」

 

一応は年長者に当たる稟の命令に、恋は聞こえなかったのかそもそも聞く気がなかったのか、ケータイの電源を落とすと―――無表情にソレを握りつぶした。

きっと原因は“寝ている一刀にキスしている桃香”という構図の待ち受けだったのだろう。

 

「桃香殺してから行く」

「やめろ、桃香のライフポイントはもう0だ」

「あー、分かった分かった」

 

目まぐるしく変わる状況に蒲公英は頭が付いていかなかったが、見れば今度は霞がケータイで誰かと喋っていた。

 

「桃香は無理そうやなぁ・・・蒲公英もおるし、ウチと稟が残るさかい、凪連れてったりー」

「霞姉さん代わってください。なんだか知らない間に貧乏籤引いてる気がします」

「アホぬかせ。お前と春蘭の面倒同時に見るとか一刀倒れるで」

「素敵なことじゃないですか!」

 

一刀倒れる→帰るの遅れて(゚Д゚)ウマー←稟の思考回路。以上を霞は正しく予想した。単純すぎて欠伸が出る。

額に手を当てて溜息を一つ溢すとケータイを投げて渡し、恋!と声だけで霞は恋を引き止めた。

 

「お前、今日は料理当番ちゃーうんか?」

「霞がやればいい。稟もいる」

「ほーか、ほな今日は一刀はウチの部屋で寝るんやな」

「・・・・・・」

「どっちかや。我侭言うんなら一刀に叱ってもらうで」

 

じっと恨めしそうな眼で恋は霞を睨むが、あ゛ん?と声を出し睨み返す霞。ひぃと声にならない声をあげる蒲公英。

 

「もしもし?一刀はお姉ちゃん居た方がいいよね?お姉ちゃんおんぶするの好きだよね?」

 

見るのも聞くのも可哀想になるほどの哀願っぷりで弟に縋りつく稟。座っていてコレだから立って電話してたらグズりだすのは間違いないだろう。

見たらアカンと意図的に妹の声を消去して、獣の説得に取り掛かる。

 

「恋、一刀今春蘭と一緒におんねんぞ?」

「別に恋はいい」

「お前がようても相手が嫌やろが。何が悲しゅーて自分半殺しにしたヤツと茶ぁーしばかなアカンねん」

「春蘭が悪い。一刀殴った」

「まぁそれはそうなんやけどなぁ・・・・・・」

 

はっ?!アカンアカン!と霞は首を振って流されそうになる自分を押し留める。

悪い癖だとわかっちゃいるが、それでも弟は可愛い霞。恋があの時切れなかったら自分が変わりに殴っていた。

などと甘い事は言わない。霞より先に春蘭に届いた拳が恋のモノだっただけである。

 

「まぁお前の気持ちもわかる。でも春蘭は今日が終わったらまた暫くは一刀と会われへんねんで?」

「・・・・・・」

「今日のトコは譲ったって、帰ってった一刀にイイコイイコしてもらい?な?」

「・・・じゃあ凪が行く必要もない」

「お前はホンマ一刀の事になったら無駄に頭良うなるなぁ・・・」

 

さて、どう言い包めたモノかと頭を悩ませる霞に、恋が追撃をかける。

 

「それに、一刀が泊まったらどうする」

「そんときゃ春蘭血祭りじゃボケ」

 

その追撃は全く必要ないモノだった。瞬時に恋すら後退りしてしまうほどの凶悪な目付きになり、物騒な事この上ない。

霞こそは正しく、この曲者しかいない五人姉妹の頂点に立つ器なのだと認識して、蒲公英は意識を失った。

霞がその後、どのようにして恋を説き伏せたのかは省くとして、春蘭が行きたがっていた喫茶店に向かっているのは四名。

 

「皆で来れれば良かったのにね~?」

 

ニコニコニコニコと、お気に入りの服に着替えて先頭を歩く春蘭。

 

「客もいるし、今回ばかりは仕方ないです・・・・・・稟姉様ズルイ・・・」

 

その横を歩きながらも、チラチラと一刀と稟の繋がれた手を恨めしそうに見る凪。

 

「こうやってお姉ちゃんと歩くの久しぶりだね?」

 

流石に稟を一人で歩かせる真似はしなかった一刀。

 

「そ、そうね・・・ふわ?!」

 

しっかりと弟に手を繋いで貰っているものの、どういう力が働いたのか後ろに引っ繰り返りそうになる稟。

慣れたもので、一刀は慌てず騒がずに繋いでいた手を引っ張ると、空いている方の腕で身体を抱き締めて安定させる。

 

「大丈夫?」

「う、うん・・・私お姉ちゃんだからね?怖くなんてなかったわよ?」

 

涙目になりながらも強がる姉を、弄る事はさすがにしない。喫茶店に着いたら怖いから。

 

(ズルイズルイズルイ。私は一刀と出歩いた事あんまりないのに・・・)

「凪ちゃんはどういうお菓子が好きですかー?」

「(焼き立てワッフル+ヴァニラアイス)×メープルシロップ=最強の方程式を学会に発表する所存です」

「あら意外。てっきり和贔屓なのかと思ってましたよ?」

「和は桃香です。ワラビ餅中毒ですからアイツ」

「じゃあ桃香ちゃんのおっぱいの半分ぐらいはワラビ餅で出来てるのかしら?」

「もう半分に抹茶ゼリーが入りますね。ちなみに脳には黒蜜です、アイツバカですから」

 

真剣な顔でそんな会話を繰り広げる凪と春蘭を、何とも言えない顔で一刀は見ていた。稟はそれどころではなかった。

 

「ひゃあ?!」

「おっと!」

 

今度はつんのめって一刀の胸にダイブ。歩く方向同じだから物理的に可笑しいとか言ってはいけない。繋いでいた筈の手が離れているなど何時もの事だ。

 

「偶にさ、稟お姉ちゃんは実は恋ねーちゃんより甘えん坊なんじゃないかと思う時があるよ」

「そ、そんなわけないでしょ?お姉ちゃんなんだから」

 

傍から見れば彼氏に腕組んで甘えている女の図が見事に完成しているのだが、両者にその意識が無い辺りなんとも。

それを羨まし気な眼で見る凪だったが、また稟のすっとんきょうな叫び声と、一刀のフォローを見た辺りで嫉妬するのが馬鹿馬鹿しくなった。

何とか稟が膝を擦り剥かずに喫茶店に到着でき、お冷も貰ってさぁ何を頼もうかと四人がメニューを開いた時である。

 

「詰めて」

 

通路側の席に座っていた(隣は凪)一刀にそう声を掛ける人物がいて、不思議に思って首を上げると幼馴染の思春がいた。

学校の制服ではなく、少なくとも一刀が眼にした事は無い、大人しい色合いの洋服に身を包んでいた。

スカートではなくパンツだったし、髪型もいつものお団子頭ではなく、櫛も通してないのだろう、所々解れたストレートだった。。

 

「お前何してんの?」「詰めて」

 

ああ、姉ちゃん達いるからかと判断した一刀はあいよと声をあげ、凪に擦り寄る形になり凪の頬は茹で上がる。

空いた席に座ると、ズレた眼鏡を両手でクイクイと直すが、普段はかけていないからか中々しっくりこないようだった。

 

「あ、思春ちゃん。お久しぶり」

「そう言えば顔を合わすのは久々ね?」

「・・・久しぶりです」

 

俯き、眼だけをやってか細く挨拶するが、思春を良く知る年長者達は特に腹を立てる事は無い。

というか、一刀と顔をあわせている時のテンションを見たら直ぐに救急車を呼ぶだろう。それだけ思春は大人しい、悪く言えばネクラの認識なのだ。

 

「ごめんね、凪ねぇ」

「い、いい」

「思春もどうしたの?一応お前にもメールしたんだけど、反応無かったから」

「・・・無くした」

「充電器またどっか行ったのか?」

 

コクリ。と頷く思春だったが、稟にメニューを渡された所で一刀の上着をギュッと握り締めた。

が、空いている手で何度も眼鏡を上げたり下げたりしている。それを懐かしい気分で見る一刀。

凪はもう空になったお冷のグラスを凝視し、時折空のグラスを呷っている。

 

「な、何?」

「いや、久々にお嬢様眼鏡っ子スタイル見たなぁと思ってさ?」

「あ、あんま見ないでよ、恥ずかしいんだから・・・」

 

そういや眼鏡使うの部屋でだけだったなぁと古き記憶を思い出す一刀。

が、居心地が悪いのか触れ合う所か完全に密着する勢いで張り付く思春に回顧をぶった切られる。普段は思春の風呂上りぐらいにしか当たる事の無い、長い髪がチラチラと当たって何ともくすぐったかった。

 

「お前さ、人見知りなのは知ってるし無理強いもしないけど、姉ちゃん達ぐらいいい加減慣れろよ」

「・・・・・・頑張る」

「んで、何でお前此処に居たの?」

「呼ばれた・・・・」

「え?デート?デートしてたの思春ちゃん?」

 

春蘭が眼を輝かせて身を乗り出すが、その動作にビクッとなって一刀に凭れるように更に身を詰める思春を見て、春蘭の乙女回路も冷却された。

 

「あ、凪ねぇ水欲しいの?俺の分飲む?口つけちゃったけど、まだ残ってるよ?」

 

凪の脳はオーバーヒートし、思春の眼にはボヒュンと上がった煙が見て取れた。

落ち着きなさい。と稟が凪を一応窘め、優雅な動作で店員を呼ぶ。備え付けのボタンを押したわけではない、念のため。

「呼びましたが、構いませんね?」

「やべぇ、決めてねぇ。凪ねぇは?決まってる?」

 

春蘭は元より決まっているし、思春も先に居たという事はドリンクぐらいだろうと判断して凪に確認してみた一刀だったが、凪は只管首を縦に振るばかり。

しかし一刀はヤバいヤバいと凪に構う事無く己の注文を決めるのに必死だった。こいつ死ねばいい。

 

「・・・・・・ん」

「これ美味いの?」

「うん」

「ふーん。あ、コッチのがよさげだけど、これどうなの?」

「一刀は好きかも」

 

んー。とメニューを覗き込む一刀と、他人に進められる程度には商品を知っている筈の思春は肩に凭れながら一緒にメニューを覗く。

それを見つめるのは対面の稟と春蘭。

 

「稟ちゃん。なんかすっごいモヤモヤするんですけど」

「貴女のチョイスでしょう。眼を瞑って差し上げますから、払いは任せましたよ」

「・・・・・・まさか、財布持ってきてないとか言わないよね?」

「失敬な。二人分のお茶代ぐらいは常に持ち合わせてます」

 

もしかしたら、急に弟とお茶する事になるかもしれない。そんな未来が無いとは言い切れない。基本的に稟はポジティブだった。

 

 

四人――改め五人は各々の注文を終え、さて暇つぶしにと歓談する事になったのだが、やはりメインは思春のデート疑惑だった。

 

「で、思春ちゃんは何で此処にいたんです?」

「その・・・呼ばれて・・・」

「それは聞きました。春蘭が聞きたいのは“誰に”呼ばれたのかという事だと思いますよ?」

 

稟と春蘭の質問に、あわあわとなりながら思春は隣の一刀に助けを求めるが―――

「凪ねぇとこういうトコ来るの初めてじゃない?」

「う、うん。そうだね」

「凪ねぇはあんま誘ってくれないから、甘いもの嫌いなのかなーとか思ってたよ」

「は、はちみつは好き。生クリームも」

「あ、そうなの?んじゃ―――ったい!」

 

とりあえず一刀のわき腹を思いっきり抓って会話を止めさせた思春。

 

「なにすんだよ」「ばか・・・」

 

ぷい。と首を横に振る思春に不覚にもキュンときた一刀。隣では凪が過呼吸を繰り返していた。

 

「なんの話?」

「思春ちゃんがデートしてた人の話です♪」「違います・・・」

 

ポツポツと思春が話す内容を一刀がソートした結果によると、どうもクラスメイトにデートに誘われたらしい。

 

「貴女が誘いを受けるなんて珍しいわね?」

「しつこかったから・・・」

「思春ちゃんも林檎持ち歩いたらどうですか?中々便利ですよ?」

「代わりにスイカ潰してきたから・・・」

「何処からスイカ出したんだよドラ○もん」

 

普段ならキレよい突っ込みが返ってくる筈だが、今の思春は摘んだ服をギュッと絞るばかり。

どうにも調子が狂った一刀は黙っておこうと胸に決めた。

と、その時である。

 

「お待たせ―――だ、大丈夫ですかお客様?!」

 

青い髪の巨乳のウエイトレスさんが慌てて安否を確認したのは、茹で上がってテーブルに突っ伏した凪を見たからだった。

 

「な、凪ねぇ?!」

 

一刀は慌てて凪を揺さぶるが、それが完全に止めとなった。

思春は(ノ∀`) アチャーと内心で額に手を当てながらも、意外に保ったなとか思っていた。

 

「きゅう・・・・・・」

「何処も満席ですね。仕方ない、持ち帰りは出来ますか?」

「へ? あ、それは大丈夫ですけど、救急車とか・・・」

「ご心配なく」

「プリン・・・」

「諦めなさい」

 

座っていれば完璧超人はなんら焦る事無くテキパキと場を仕切り、騒動になってもアレなので来て早々四人+1は退散する事になった。

一刀が凪をおんぶし、稟は春蘭に手を繋がれて、思春は一刀の服を離さないという何ともカオスな退出だった。

帰りに稟が膝を擦り剥き、春蘭が肘を擦り剥いた以外は何事も無く自宅まで帰ってこれた。普通に歩けば十分も掛からない筈だが。

何度か凪が眼を覚まし、一刀におんぶされていると認識するとまたすぐ気を失ったのを繰り返したのは思春しか気が付かなかった。

お向かいさんの春蘭はお気に入りの服が汚れた事に半べそ掻いて家の中へ引っ込み、稟は落ち込みながら玄関を開けようとして、自分であけたドアに顔をぶつけていた。

 

「ちょっといい?」

「ん? いいけど?」

 

手を繋いでクイクイと引っ張るので、ドアから顔を覗かせている恋に凪を任せて外に出た。何か物音聞こえたけど気にしなかった。

 

「んで、なに?」

「アンタ、なんで帰ってくるの黙ってたわワケ!?」

「だから、メールしたっつったろ?」

「来てないわよ!」

 

人見知りが発動するぐらいには心の距離が遠い人に囲まれていた鬱憤もあったのか、ヤケに思春のテンションは高かった。

しかし、一刀の自宅前なのを思い出したのか、手を引いてお向かい(夏侯家)の隣の自宅に向かう思春。

おーい。と一刀が声を上げていたが、部屋着とも普段着ともオメカシ服とも違う【虫除け服】で話をするのも嫌だし、眼鏡掛けてる所を見られるのも嫌なのでとりあわず自室に入る。

 

「着替えるから、外で待ってて」

「自分で部屋に引きずり込んで何抜かしてんだお前は」

「何、責任とってくれんの?」

「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」

「出てけ!!」

 

バフン。と一刀の顔に今まで来ていた野暮ったい藍色のトレーナーをぶつけると、部屋の扉をバン!と閉めてから思春はへたり込んだ。

 

「もう・・・なんで充電器無くしたのよ一昨日の私・・・」

 

ズボラな性格を久々に呪ったが、それどころじゃないと気付くとむん!と気合を入れて髪に櫛を入れ始める思春だった。

 

 

「意味わからん・・・なんだ今日の思春」

 

外に追い出された一刀は何となくボーッとしていた。下手に移動してニアミスにでもなったら今日の思春は何をしでかすか分からない。

 

「あ、どーも」

 

物音に反応したのか、思春のお母さんが見に来ていたのでとりあえず挨拶する。

月から聞いたお土産を一応ご近所さんにも買ってきたのだが、どうやら好評だったらしく胸を撫で下ろしていると何時ものお団子頭になった思春がヒョコッと顔をだした。

 

「何してんの」

「一回お前の思考回路覗いてみたいよ。きっとカラフルだぜ」

「アンタのはピンク一色でしょうが」

「お前さ、ホント一回だけでいいから思いっきり殴らせてくんない?痛くしないから」

「アンタ、ご飯食べてくの?」

「いや、流石に帰るよ。桃香姉さんが発狂するかもしれん」

「そういや桃香さんいなかったね?」

 

久しぶりに見る娘の生き生きとした姿に免じて、お母さんはお土産のお菓子を娘が独り占めした事を帰り際の一刀にキッチリとチクるのだった。

その日一刀が帰ってから充電器を探し出し、ケータイに久々に電源を入れて一刀からのお誘いメールに気にしてくれていたという事実にほっこりとした思春だったが、最後のメールに「あんま食い意地張るなよ、おばさん怒ってたぞ」と書いてあるのを見届けると仁義無き親子争いを引き起こした。

 

その頃自宅では、持って帰ってきた凪のスイーツを不貞腐れた桃香が食べ、稟の分をこれまた不貞腐れた恋が食べ、食べられた二人はタッグを組んで恋と桃香に仕返ししようとし、それを恋と桃香が迎撃した辺りでほっぺに生クリームをつけた霞の雷が落ちた。

 

ホント、食べ物の恨みは恐ろしい。

あとがき。とキャラ説明のコーナー。

 

今回新登場は春蘭。彼女も名前だけ登場させるつもりのキャラでした。

春蘭は原作でカッコイイのも可愛いのもバカなのも全部やってますので、当初は崩壊のさせようがなかったです。

もうヤケになって月と同じですがお嬢様ちっくなキャラにしてみました。バカさ加減が難しい。

 

あと、前回頑張れなかった姉'sの面々ですが、今回は恋封じに成功。やったね皆!

でもなぜか思春登場。なにこの子、ホントに前回バカ丸出しだった思春と同じキャラなの?

でもあんだけ仲良かったら帰る時連絡ぐらいするよなぁと思っての登場決意。連絡意味ないですけど。

あと、なんかハ○ヒみたいになっちゃいましたね、私は長○派ですが。

そして更に蒲公英ゴメン。桃香>>>>蒲公英だったんです、キャラ的に。その桃香もドSだし。

凪もいまいちですね、毒舌キャラ多すぎです。

稟は上手い事出来たんじゃないのかなぁと思いましたが、少々ボリューム不足でした。

 

次回作はコメント残されていた風だそうと思います。というか、割と崩壊させるの簡単そうだったんで。

桂花もチビチビ書いてます、ただ周りが困ったちゃんが多いので、オチに繋ぐまでが大変です。

 

ここからはお礼返信です。読んで下さった方、ありがとうございました。

 

zero様  読まれている・・・この思考、読みきられている!

     稟は座ると渋○先生並の合気道の達人の設定でした。春蘭と秋蘭は高確率で打ち間違えます。

あお様  駄々捏ねるクールビューティーは萌えます。

     今回は強がりしか出てませんが。

 

MiTi様  姉妹五人がタッグを組む事態にはならんと思います。多分。

     この姉妹の実態を知ってしまえば、敵に回すより取り込まれる方が賢いと判断するでしょう。

Night様  家族旅行した先では、一刀が稟を抱き抱えて移動するのは普通の光景だったり。

      御大がダメなら、私などはどうすれば生き残れるのか・・・

 

りばーす様 ナイスカオスb

      この姉妹は何かしらのサラブレッドですからね。一刀?ヤツはタラシですよ。

 

狩人様   今回恋をハブる段階で難儀しました。

      原因は恋好きな私ではなく、何しても可愛い恋ねーちゃんにあります。

 

tyoromoko様 あぁ、いたねそんなの<劉○(酷

       回答コメントありがとうございました。スッキリ!しました。

 

よーぜふ様 霞はネコミミ似合うと思うんだぜ!や、猫言葉はアレですが。

      蒲公英は今回も酷い目にあってますが、見えない所で良い思いしてますよ。多分。

 

ミドリガメ様 ありがとうございます。ホントに。

       蒲公英は華琳ちゃんに負けないぐらいの強い子ですよ?

 

ゲストさん様 キャラ付けようとすると、メチャメチャ可愛い子になってしまいます<桂花

       原作でもツンツンなので、うでもない作者としてはデレ書くのが難しいです。

 

にゃものり様 今回は一刀くんが空気読みましたね。蒲公英逃げて!

       地元では家に押しかけて告白する漢を勇者と崇める慣わしらしいです。

 

truth様   恋可愛いよ恋。無双を許してしまう心の弱さがにくいです、ホント。

       たったアレだけの登場に感想もらえて、姉妹もきっと喜んでます。

 

自由人様   一刀は一度女に引っ叩かれるベキです。

       待ってて下さるのは嬉しいです。頑張れます。

 

 

コメント、ありがとうございました。


 
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