ほのぼのとした日差しが差し込む中、木剣がぶつかる音が庭に響く。
「ほれ、そこ踏み込まんでどうする」
「くっ・・・はぁああぁああ!!」
蓮聖と蓮華。2人が剣の稽古をしていて、それを思春と俺が見ていた。
「動作が大きい。雑兵ならともかく、将には通じんぞ」
蓮聖の突き出した足が蓮華の足を絡みとる。
「あっ」
態勢を崩すが、すぐに立て直した。
「よし、もう1回だ」
「はい!でぇええええい!!!」
流れるような剣技。
止まる事無く、蓮聖に猛撃を仕掛けている。
綺麗だ。
とても。
思わず見入ってしまう。
その時、隣にいた思春が声を上げた。
「蓮華様!3手打ち合った後、大きく踏み込んで下さい!!」
蓮華が返事をせず、その言葉に集中する。
蓮華と思春の絆は主従を超え、まるで姉妹のように固い。
疑いなく、蓮華はそれを信じた。
1手、2手、3手・・・瞬間、蓮聖が踏み出し、攻撃を仕掛けてくる。
先程までも、何回か攻撃を仕掛けてきた事があったが、蓮華は恐れ退くばかり。
しかし、主従であり、親友とも呼べる存在である思春の一声で、蓮華の行動が変わった。
「はあぁぁああぁぁあぁあ!!」
踏み込んだ蓮聖に対し、それよりも深く踏み込み、木剣を振り上げる。
「っ!」
振り上げた剣はそのまま振り下ろしてきた木剣を弾き返し、蓮聖の首をも狩り取ろうと・・・
「ほい、合格」
と思いきや、剣を握っていたとは別の手で、蓮聖は木剣を意図も容易く掴んだ。
相変わらず非常識だなぁ・・・
「ま、思春の口添えがあったとはいえ、あそこで踏み込めるのは中々出来ねぇからな。合格だ。蓮華、覚えておけ。時には相手の攻撃時こそ、最大の攻撃時となる時がある。かといって、突っ込むだけじゃ単なるバカだ。見極めろ。相手の動きを読み、自分の動きに合わせるんだ。そう難しい事じゃねぇ。とにかく特訓あるのみだな」
「はい!」
「よし・・・んじゃあ、ちょっくら休憩すっか。一刀~、水~」
「ほい」
冷えた水が入った竹筒を蓮聖に投げ、蓮華には手渡す。
「ありがとう」
蓮華も最初にあった疑惑の視線は何処へやら・・・こんなにも可愛らしい笑顔を浮かべるようになった。
うん・・・やっぱ笑顔が似合うなぁ・・・
「ふぃー、そういやさ・・・思春?何でお前ここにいるんだ?」
「え?・・・あの、いたら不味かったでしょうか?」
俺がそんな事聞いたら、
『貴様にそんな事を話す必要はない・・・ウスノロが』
か、
『蓮華様のお傍にいる事が私の役目・・・貴様こそ何故ここにいる』
か、
『・・・・・・・・・・・・』
はいシカト。
なのに、蓮聖が聞けばこの態度だ。
う~ん・・・やっぱり俺が悪いのかなぁ?
「いやいや、そうじゃなくてさ・・・お前、錦帆賊だったろうが?何で呉で蓮華の補佐なんかしてんだ?」
錦帆賊・・・聞けば、海賊のようなもので、思春は元々その錦帆賊の長だったらしい。
「私達が決めたんです。最初は反対する人間も少なくはなかったけれど、思春の腕と、思春の部下達の力を考えれば・・・って、後はごり押しで」
蓮華が水を飲みながらそれに答える。
「まあ・・・確かに、錦帆賊の海上戦は目を瞠るもんがあるしなぁ・・・でも、あのおやっさんがそんな簡単に了承するとは思えんのだが」
「おやっさん?」
「んあ?ああ、思春の親父殿だな。錦帆賊の王様みたいな感じでなぁ・・・」
「そう言えば、兄様って思春と何時会ったの?」
思春が呉に入ったのは蓮聖がいなくなってから数年後の事。
時間的な食い違いがあるのに、蓮聖は思春を知っている。
そういえば気になるな。
「ん?つうか、重傷の俺拾ってくれたのおやっさんだし?」
「えぇ!?」
「おう、その船に華佗もいてなぁ。恩返しも兼ねて、一緒に行動してた訳よ。思春はまだこんぐらいでなぁ。いやあ、蓮華を思い出しちまって・・・何回か、一緒に遊んだよなぁ」
「わ、私は・・・あまり覚えてませんが・・・」
「にしては・・・真名を許してるのね?・・・・・・そういえば、思春が何で兄様が初恋なのか知らなかったわ・・・こんな事情があったのね」
「え?思春って蓮聖がはつこ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ごめんなさい何も喋ってません何も聞いてませんだからお願いお願いしますからその首元に宛がっている剣をどけぎゃー!少し斬れたよ!?ちょっと首筋に生温かい物がってそれ以上剣を滑らさないで死ぬからマジで死ぬから頸動脈すっぱり逝っちゃいますから!」
早口でもう何を言ってるのかも覚えてないけど、とりあえず誠心誠意込めて懇願すると、剣は何時の間にか引かれていた。
正直、命がいくつあっても足りん・・・・・・
「まあ、とりあえず。そんで実際拾ってくれた分の礼は済んだから、元々治療の為に乗ってた華佗本人への恩返しも兼ねて、旅に出た訳だ」
「へぇ・・・そんな事が・・・・・・」
「まあつう訳なんだが、おやっさん・・・確か国とか政府とかそういうの大がつく程嫌いだったよなぁ?何でまた・・・」
「父なら、江賊同士の争いで戦死しました」
思春は表情を変えず、父親の死を語った。
「何ぃ!?あの、俺でさえちょっとびくったおやっさんが!?」
蓮聖がびびったって・・・その人は一体何者だ・・・・・・
「ええ・・・父ももう年でしたし・・・・・・本人は笑いながら死んでいきました・・・その後は、私が跡を継ぎ、その実力を認められ、孫呉に・・・・・・」
「ふへー・・・お前も大変だなぁ。にしても、あのおやっさんかぁ・・・気のいい人で、いい飲み仲間だったのになぁ」
青い空を仰ぎながら、蓮聖は呟いた。
友とも呼べる人間がどんどん死んでいくという感覚・・・
どれだけ、悲しい事なんだろうか・・・・・・
でも、蓮聖は余り堪えてなさそうにない。
蓮聖が素っ気ないだけなのか・・・それとも、そんな感情に埋もれてる暇がない程・・・多くの死を味わってきたのか・・・・・・
「それと・・・孫覇殿に・・・父から遺言が・・・・・・」
そんな蓮聖を真っ直ぐに見つめ、思春が口を開く。
「おやっさんから?」
「はい・・・・・・『地獄でまた飲もうぜ』・・・と」
「・・・く・・・くく・・・縁起でもねぇや」
それでも、蓮聖は嬉しそうだった。
「いやあ、こりゃ・・・冥土じゃあ忙しそうだなぁ」
何とも義理堅い。
それこそ・・・蓮聖の魅力の1つだろうか。
「あ、あの・・・私は、ここにいてもよろしんでしょうか?」
「あぁ?・・・・・・お前は、孫呉を愛してるか?」
「・・・はい」
「じゃあ、主君である蓮華を愛してるか?」
「はい」
「なら十分だ。お前はここにいる資格がある。つか、ここにいていいかどうかなんて俺が決める事じゃねぇわな」
からからと笑う蓮聖。
「孫呉を愛し、主君を愛してるなら結構。尚且つ腕も立ち、周りからも信頼されている人間。追い出す理由が何処にある?それに・・・さっきの蓮華との稽古。気付くかなぁ・・・とぐらいには思ってたが、お前は気付いたからな」
「?・・・何かしてたのか?」
「ん?俺はな、同じ動作を繰り返してたんだよ。避ける回数。受け止める回数。そして攻撃。それを形を変えながらずっと繰り返してた・・・まあ、一刀や蓮華は気付かねぇだろうが思春はどうかな・・・ってな。それを、お前は見事見抜いた。しかも、的確に主へと伝えた。これ程有能な将は中々おらんだろ」
清々しい笑みを浮かべ、蓮聖は思春の肩に手を置いた。
「これからも、蓮華を支えてやってくれ・・・頼むぞ、思春」
「あ・・・はい!」
「うーし、んじゃ休憩終了だ・・・一刀!ちょっくら揉んでやる!来い!!」
「えぇ!?何で俺!?」
「お前だっていつ戦闘になるかわからんからな、ある程度には鍛えてやるよ」
そういいながら、蓮聖は俺の襟首を掴みながら引っ張っていく。
「れ、蓮華~」
「行ってらっしゃい」
逝ってらっしゃいとしか聞こえませんが!?
ああ、そんなにこやかな笑みで送りださないで~!
「行っちゃった・・・・・・思春?どうしたの?」
見れば、思春の表情は暗く、俯いている。
「いえ、何でも・・・蓮華様、今度は私がお相手しましょう」
「そう?助かるわ」
蓮聖が言った事・・・要約すれば、思春程の将を離す道理はない・・・そういう事だ。
思春ではなく、思春という名の将が理由。
将である思春が必要であって・・・思春という人ではない。
例えば、蓮華や雪蓮ならば・・・
『俺が悲しむから・・・』
などと・・・その者を必要とする。
しかし、思春に必要とされてるのは、あくまで将としての力。
その違いが・・・思春の心を締め付ける。
「・・・いや」
わかっていた事だ。
そんな事。
真名を許されていない時点で・・・決まっていた事。
蓮聖の拘りは・・・真名を許す者の価値にある。
己の命を犠牲にしても、守る価値がある人物。
これに限られる。
即ち、思春はまだ・・・そこまでの価値がないと見られている。
ならば、そこまでのし上がろう。
蓮聖に・・・己の力を見せつけよう。
そう覚悟する、思春であった。
「思春!どうしたの?」
主の声が、思春を思考から離す。
「いえ・・・では、蓮華様、参ります!」
「ええ、いつでも!」
長閑な日々は・・・過ぎていく・・・・・・
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江東の覇人、本編から少し離れて拠点です。
後、もう1つ程拠点を入れて、反董卓連合に入りたいと思います!