許昌に帰り着いた俺たちは、途中秋蘭から追撃中に袁術軍内部より孫策軍が離反し、袁術軍を撃破
その後南に移動し建業に入ったと教えられた。どうやら孫策はうまく独立を果たしたらしい、
それどころか袁術に分散されていた将達が集まり力を急速に付けているとのことだ
「ところで袁紹軍はどうなっている?」
「それなんだが、どうやらまだ統治を済ませることが出来ないらしい。劉備達が民のほとんどを連れて行ってしまったからな」
「そうだったな、侵略した先に誰も居なければ内政も何もないだろう」
俺は許昌に戻るなり曹操様の下へ赴き、劉備達とのことを報告した
そのときの曹操様の反応はつまらなそうに、ただ冷めた眼をされていた
おそらくは劉備の行動に少々がっかりなされたのだろう、心なしか劉備に期待をしていたようだから無理もない
「秋蘭、曹操様から兵の準備をと仰せ付かっているんだが」
「ああ、準備が整い次第討って出る。領民が居ないせいで領地に兵を大きく分散させてしまっているのだ」
「では薄いところを狙っていくのだな?」
「そうだ、兵の薄いところを討つ。おそらく襲われることを想定していないのだな。袁紹の周りが一番薄い」
「罠ではないのか?」
「稟によるとそれは無いようだ、袁紹の性格と斥候からの報告でただ油断をしているだけだと」
そのとき頭には袁紹軍のことが抜け落ち、稟のことが思い浮んだ
そうだ、この間のことを問いたださなくては、あの邑へ俺に無断で経路を引いたこと忘れてはいまいな
「どうした昭?誰か悪いことでもしたのか?」
「さすが解っているな、秋蘭。少し出かけてくる」
「解った、帰りは?」
「なるべく早く戻る。詠を連れてくるから食事は多めに頼む」
「ああ、凪たちも連れてくるのだな。解った」
凪たちも連れてくるのも解っているか、フフフッ秋蘭には隠し事が出来ないな。さて、稟の所へ行くか
稟の元に向かい歩いていると見慣れた後ろ姿を見かけた。詠か、食材か?持ちすぎてフラフラしてるな
詠の後ろから近寄るとひょいと持っている荷物を取り上げた
「詠、孤児院の買出しか?」
「あっ!昭、ありがとアンタも役に立つじゃない」
始め少し驚いていたが俺に気がついた詠はこっちを見てにやりと笑う
隣に並んで歩くといつもとは違う服装、これは・・・・・メイド服?
「何だその格好?いつもの作業服はどうした?」
「ああこれ?これはアンタの所の主様が月を見てこれを着なさいって」
「曹操様が?あの人にも困ったものだ、それで何で詠まで?」
「ぼ、僕だって嫌よ。でも月一人にこんな格好させられないじゃないっ」
「そうか優しいな詠は、曹操様の事は荷物を代わりに運ぶから許してくれ」
「や、優しいだなんてっ!ぼ、僕は月が可愛そうだからっ!」
「わかってるよ」と言うと顔を赤くして向こうを向いてしまった。素直じゃないな
詠を見て笑っていると「さっさと行きなさいよ」と背中を押される。俺の軍師殿は面白いなぁ
「まったく、それでどうせまた袁紹軍との戦いがあるから僕の所に来たんでしょ?」
「ああ、あと稟の所に用があってな」
そういうと俺を押す手が止まってしまい、下を向いてしまう
「・・・・・・ごめん、反対したんだけど」
「謝らないでくれ、長老の所に寄ってくれたんだろう?助かったよ」
「うん、でもあの邑は怨みや悲しみを深く持つ人の集まりだから」
「俺はその話を聞いて、月とあの邑に脚を運んでくれてる詠を凄いと思うよ」
「なに言ってるの、ただ心配だから着いて行ってるだけよ。アンタの方が凄いわよ
普通は出来無いわ、敵同士だった人達まであの邑で共に生活をしてるんだから」
「じゃあ御互い様だな」
「あんたは褒める甲斐がないわね、まったく」と言ってまた歩き出す。
月はきっとこの優しさに支えられているんだろう、詠と一緒ならどこまでも強くなれるのだろうな
俺はあの時、月を大きな光だと評したがきっと月と詠、二人を合わせて大きな光なのだろう
月の目を通して詠までも見ていたようだ
「あら、昭。どうしたのかしら?」
「曹操様!」
孤児院に着くと迎えてくれたのは月ではなく曹操様だった
「私が居ては変かしら?」
「いえ、そういう訳ではありませんがどうなさいました?」
「昭知らないの?華琳はたまにここに来て園長と話をしていくわよ」
詠の話によると俺の知らない所で色々と金銭面などで工面をしていてくれたようだ
昔からそうなんだが、曹操様は私よりも頭が回るし、知らない所で支えてくれていたりする
一番凄いのはこの方だ、俺など足元にも及ばない
「子は国の宝よ。私が平穏を手に入れた後、国を背負うのはこの子達だもの」
「貴方にはかないませんよ。」
「そのうち学校というのも作りたいわね。私を超える人物がそこから出てきたら、それはとても素晴らしいことだと
思わない?」
そういって笑う曹操様の顔はとても輝いている。やはりこの方は戦は好きではないのだ
覇王として誇り高い戦をすることを好むが、それは非道な虐殺や無駄な争いを好まぬと言うこと。
自分の能力を知っているがゆえに選んだ茨の道、この方は苦しみながら覇王の道を歩んでおられる
「フフッ、難しい顔をしてるわね。私の心を知っている人が居るから、辛くとも寂しくはないわ。・・・・・・・・ね?」
「ええ、もちろん。私は覇王と共にあるものです。」
「へぇ・・・・・・・華琳でも辛いなんて言うのね?」
「私だって人間よ?それに意地を張っても慧眼に見抜かれてしまうもの」
「昭の眼も罪な目ね、隠し事が出来ないもの。」
まったく詠の言う通りだ、しかしこの眼があるからこそ覇王と共に歩める。
そして苦しむ人を助けることが出来る。そして・・・・・自分が理想の為に殺した人を忘れないで居られる
己の罪を忘れず居られる。これだけは決して忘れてはいけない
「さて、麗羽との戦いは明日になるわね。そろそろ私は戻るわ、貴方達は?」
「私は稟の所へ行きますのでご一緒します。詠、後で屋敷に凪たちと来てくれ」
「解ったわ、もちろん月もいいわよね?」
俺は「あたりまえだよ」と言うと荷物を院内に置き曹操様と共に城へと歩く
「そういえばあの服はどうしたのですか?」
「ああ、めいど服のことかしら?昭から聞いた話を元に作らせたの。試に月に着せてみたら
とても可愛らしかったわ」
「まさか手を出される御つもりですか?」
「フフッ、そんなことをしたら彼女を愛する者達に何をされるか解った物ではないわ。」
「人気者ですからね月は」
「そうね、孤児院の聖女などと呼ばれているそうよ」
とうとう聖女になってしまったか、そういえば孤児院から出るとき数人の青年が出入り口から覗いていた
一馬に護衛の兵を増やすように言っておくか
「ねぇ昭、今日は私も相伴にあずかっても良いかしら?」
「ええ、喜んで。秋蘭も涼風も喜びます。特に涼風は曹操様がとても好きなようですから」
「うれしいわ、私も涼風が好きよ。眼は貴方に似たのねとてもよい眼をしてるもの」
「顔は秋蘭に似てよかったと思っておりますよ。きっと美人になる」
「フフフッ、そうね。貴方に似たら美人にはならないわ」
「ええ、悔しいですが反論できません」
そういうと顔をほころばせて笑っていらっしゃる。まあ本当のことだ、仕方ない
秋蘭は美人だからつくづく似てよかったと思っている。そうこうしていると城についてしまった
「じゃあもういくわ、あまり叱っては駄目よ。稟も私のことを思ってしてくれたのだし、明日からの戦いで
使い物にならなくなってしまっては困るわ」
「やはり解っておられましたか」
「貴方は顔に出やすいし、春蘭と秋蘭と私は小さい頃から貴方と一緒だったから解るわよ」
そういって行ってしまわれた。そうだな、俺も三人の思っている事は一番わかる
だから曹操様が少なからず袁紹軍との戦いに不安があるのがわかってしまう
少しは気持ちを軽くして差し上げられたのだろうか。
その後、城内の個室から稟の泣き叫ぶ声が聞こえ、しばらくの間俺は魏の悪夢とよばれることになった
ー夏候邸ー
食事が終わり、部屋の居間では曹操様、月、春蘭、秋蘭、涼風が御茶を飲みながら雑談をしている
その隣の客室で明日の作戦会議を行っている最中だ、俺の部隊となる詠、凪、真桜、沙和
一馬、この五人で一つの部隊
「アンタ何したの?城からひどい怒鳴り声と泣き声が聞こえたと将たちが大騒ぎよ!」
「まぁ秘密だ、それよりも明日なんだが朝一で確認の軍議に入る。その後、袁紹軍に向かって
進軍し、宣戦布告する。」
「わざわざ相手に知らせるの?」
「ああ、風によれば徐州に兵を散らばせ過ぎて救援を要請しても間に合わないとのことだ」
「なるほど、それならば大軍を相手するわけではないが大国を相手にしていることにはなる
しかも堂々と、ですね?隊長」
凪、良く学習をしているな。良い事だ、冷静に風評まで頭に入れることができている
「確かに相手は四州を制覇し徐州まで手に入れているわ、でもその四州から援護は?」
「ああ、元々麗羽の親族は仲が良くないからなわざわざ今回の目的の下邳城までは来ない」
「うわーそれってなんかドロドロしてるのー!」
「そうだな、まあ身内で覇権争いをしているから一人倒せば後は勝手に身内同士で争い崩れてくれる」
「衰退した所をサクッとやっつけるんやな!」
「その通りだ、で俺たちは次の戦いから右翼を主に受け持つ」
「兄者も戦に出るのですか?」
「後方で指示を送るだけだ、曹操様の隣でな」
「で、僕がこの四人と連携を取って戦うって訳ね?」
俺は頷き皆を見回す。詠が入ってからと言うもの、部隊の動きががらりと変わった
陣形を整える速さ、武器の構え、どれを取っても以前とは比べ物にならない、新兵でありながらだ
入れ替わりの激しい新兵部隊がまるで古参にも負けない錬度を保っている
なので今回、新兵部隊でありながら右翼の一端を担うことになった
「詠ちゃんのおかげなのー、新しい兵の中に古参の兵を春蘭様に頼んで数人入れてもらって
その人を手本にさせると周りの皆がそれに引っ張られていくの!」
「経験者を入れてその動きに合わせる。そして古参の方は魏の兵としての誇りや生き方が
動きに現れますから、新兵は皆憧れを持ちついていってます」
「四人のおかげよ、皆それぞれの特色を出した兵をうまく交流させているし。どこの部隊に混ぜても
それなりに活躍が出来るなんて僕だけじゃ出来なかった」
どうやら詠を入れて正解だったようだ、うまく噛合って御互いを引っ張りあげている
「これなら心配など要らないな、俺も安心して曹操様の隣にいられるよ」
「何言ってるの?アンタがその眼で相手の動きを見るんでしょ?後ろにいたって指示は出してもらうわ」
「ああ、なにか動きがあればすぐに指示を出すよ」
そう答えると隣から涼風を抱いた曹操様が入ってきた
「今回は貴方も前に出ていいわよ、秋蘭の許可が出たわ。」
「え?華琳様それほんまですか!?」
「ええ、その代わり一馬を馬に乗せて常に側に置くことが条件よ」
「そんなんもちろんや!!なぁ一馬!!」
「ええ、真桜さん!私に任せてください!これで私達は兄者と戦えます!!!」
皆はそれぞれ声を上げて喜び合い、曹操様にお礼を言い部屋を飛び出し秋蘭に駆け寄り皆飛びついている
三人が許可してくれたか、どうやら曹操様も春蘭、秋蘭も洛陽での一馬の腕を信頼したようだ
俺はそのことが嬉しかった、そして皆と共に戦えることがうれしかった
ならば俺はこの戦で死ぬわけにはいかないな、死しては一馬が認められない
詠たちもだ、そして負けるわけにはいかない曹操様が望む世界を掴むまでは
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戦闘準備中です
次回は袁紹軍との激突になります
頑張って書きます><
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