紙一重の日常
目覚ましをなる瞬間に止めて、ギルベルトはキッチンに行き朝食の準備を始める。準備と言っても簡単に、買ってあったパンを皿に載せてテーブルの中央に置き、冷蔵庫から切ってあるハム、チーズ、ジャム瓶を取り出し、同じようにテーブルに並べる。コーヒーメーカーに電源を入れて、スイッチを押す。
「よしっと」
一通りの準備をして、ギルベルトは自室に戻り、部屋着に着替えて洗面所に洗顔に行く。そうしている間に、ルートヴィッヒが起きて来て朝食を食べ始める。それが日常だ。
洗顔が終りリビングに行くと、いつもいるはずのルートヴィッヒがいない。時間には余裕はあるが、ルートヴィッヒは、一日の時間を決めている。たぶん起きているとは思うが、念のためにギルベルトはルートヴィッヒの部屋に向かう。
「ルッツ、遅刻すんぞ」
ノックをするが返事が返ってこない。遅刻という単語にも反応しない。
「ルッツ!」
これは、一大事に違いない。起きてないことも一大事だが、ギルベルトの呼び掛けにいっさい返事をしないのは、これが初めてのことだ。
ドアを開けて、部屋に入りベッドに寝ているルートヴィッヒの側まで行き、思いきり肩を揺らす。
「ルッツ大丈夫か! おい、ルッツ返事をしろ!」
「んっ…」
小さく声を出しギルベルドを避けるように毛布を被り直すルートヴィッヒ。とりあえず、意識があることは分かって、安心した。
「おい、ルートヴィッヒ! お兄様がせっかく起こしに来てやったっていうのに、なんだ、その態度は!」
「……なんだ、兄さん。今日は、休みだ」
「んな、わけあるか!? 今日は、水曜日だぞ」
「なら、創立記念日だ」
「いやいや、それは結構前に終わったから」
「……なんでも良い、今日は休みだ。休むと決めたんだ」
「ルッツ……」
校則を暗記していて、それに反したことがないルートヴィッヒが、学校をずる休みする日がこようとは、思ってもいなかった。ギルベルドは、それを嬉しいと思う半面、どうして、休みたいのか知りたかった。学校で、何か嫌なことがあったのだろうか。いや、いつものルートヴィッヒなら、苦戦しながらも自分で解決しようと努力するはずだ。
「ルッツ、とりあえず起きろ」
「断る」
はっきりと断れる。こんな反抗的なルートヴィッヒは、初めてだ。いつもなら、ギルベルドが理不尽なことを言い、それをルートヴィッヒが止める。本当に滅多にないことばかり起きている。
プロイセンは、だんだん苛々してきていた。親代わりとして、清く正しく、威厳を持って育ててきたルートヴィッヒに、ここまで拒まれるとは思ってもみなかった。いや、ルートヴィッヒに限って、そんなことは起きないとまで、思っていた。
「ルートヴィッヒ! お前、家訓を忘れたわけじゃねぇだろうな!」
「そんなわけないだろう」
「なら、言ってみろ」
すっかり眠気が覚めたルートヴィッヒは、上半身を起こして、ギルベルトを見る。そして、覚悟を決めたように口を開いた。
「兄さんに口答えしない。また、返事はJaのみである」
「よし、ちゃんと分かってるな」
まだ整っていない髪をこねくり回すように撫でる。
「よし、じゃ、飯にしようぜ」
リビングに行き、朝食を食べながら、ギルベルトは聞いてみることにした。
「それで、どうしたんだ? 学校で何か嫌なこともあったのか?」
静かに首を横にふる。何度か口を開いて、言おうとするのだが、その度に、顔を赤くして下を向く。
「あのな、俺は絶対に休むなとか言わないし、どんな理由でも怒らない」
優しく諭すように言うと、俯いたまま口を開いた。
「……明日から、兄さん」
「ん? 俺がどうした?」
「仕事で、一ヶ月ぐらい空けるだろ……だから」
「へ?」
仕事の関係で、家を空けることがよくあるギルベルト。だから、ルートヴィッヒが、何を言いたかったのかよく分からなかった。詳しく聞きたくても本人は恥ずかしいのか、俯いたままだ。
「一ヶ月ぐらいあっという間だろ?」
「……そうだな。兄さんにとっては、あっという間かもしれない。だが、俺にとっては、そうではない。ないんだ……」
最初、ルートヴィッヒが何を言いたいのが分からなかった。だが、ふと目に入ったカレンダーを見て分かった。
「なんだ、ルッツ? その歳になって、一人でお留守番が出来ないなんて言わないよな?」
「そんな訳あるまい。いや、もういい。学校に行くことにする」
「まぁ、落ち着け。ルッツ」
部屋に戻ろうとするルートヴィッヒを後ろから抱きしめるように止めて、肩口に頭を乗せた。
「ごめん。もうすぐ、家庭学習期間で休みだったな。すっかり忘れてた」
すでに学生を卒業したギルベルトにとって、長期休みの概念はもうすでに無いに等しい。だが、ルートヴィッヒは違う。長期休みに入れば、家にいる時間が増える。それは、在宅ワークがメインのギルベルトといる共にいる時間が増えるということに繋がる。
「なんで、学校に行きたくなかったのか理由を言え。そしたら、兄ちゃん、ルッツの願いを叶えてやるぜ?」
そう言えば必ず返事が返ってくることをギルベルトは知っている。そういう風に育てたのは間違いなく彼だ。
「……明日から、いないのなら、今日ぐらいは、一緒にいたかった」
「ん、俺も一緒に居たいぜ? でもよ、せっかくの皆勤なのに、休んじまっていいのか?」
「もう授業もほとんど無いから、それなら、兄さんと居たい」
卒業間近の今、大事な授業が無くても友達と過ごす残り少ない時間は貴重な物だ。それを分かっているギルベルトとしては、学校に行ってもらいたい。だが、今は友達よりも自分を選んでくれたルートヴィッヒを強く、強く抱きしめた。
「よし、分かった。とりあえず、制服に着替えて来い」
「な! 話が違う」
せっかく恥を忍んで、言ったというのに。ルートヴィッヒは、信じられないを見るようにギルベルトを見た。
「チッチチ。つまり、ルッツは、お兄様と一緒にいたいんだろ? なら、まずは皆勤を取れ。そしたら、ご褒美として、特別に仕事について来ることを許可してやる」
「でも、明日はまだ学校だ」
「日程なんかは、俺様にかかれば簡単に変更できるぜ。だから、ルッツは学校に行け。今日は、特別に俺様のお気に入りのバイクで送っててやる」
「本当か?」
「このギルベルトが、嘘をついた事があったか?」
「ああ、しょっちゅう聞いているが?」
「……ルッツ、そこは嘘でも、無いって言え」
「無理だ。俺は、兄さんのためにならない嘘はつかないと決めているからな」
確かにそうだとギルベルトは笑う。それに、釣られるようにルートヴィッヒも笑った。
時間は遅いは、これでいつも通りの日常が始まる。
あとがき
本当は、朝に弱い√を書くつもりだったんですが、途中からどうでもよくなった。
依存が好きなんです。
プーのお仕事は、しょっちゅうあっちこっちに行きますが、メインはお家でやる仕事です。
……むしろ、そんな仕事有りますか? そんな、ところで働きたいぐらいです。
この話の√とプーは、従兄弟です。身寄りがない√をプーが引き取りました。
さて、年齢差は?何歳希望?
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