No.126122

真・恋姫†無双 ~祭の日々~18

rocketさん

前回の皆さんの予想、にやにやしながら読ませてもらいました。
誤解を招いてしまってアレなんですが、音とか一刀くんの感覚とかはそこまで重要ではなかったのです・・・
答えは今回を読んでいただければと思います。
ちなみに、ノーヒントと見せかけて、ひとりはヒントをまいておいたのです。興味がある方は第十四回を見ていただければ。
楽しんでいただけたら嬉しいです。ではまた次回!

2010-02-22 21:38:24 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8097   閲覧ユーザー数:6346

 

 

突如現れたその人物たちに、俺は目を見張るばかりだった。

張飛もあまりの驚きにか、動きが止まっている。

・・・もちろん、その三人のうち、二人に動きを封じられているせいもあるのだろうが。

突然姿を現し、悲鳴をあげた劉備さんは、俺たちの顔をぐるりと見渡すと、何事かを考えて去っていった。

ひとりが追いかけようとするが、張飛を封じるのに精一杯だったのか、舌打ちをしてそれを諦めた。

 

現れた三人が三人とも特徴的だったのだが、俺は何よりその中の一人である、顔見知りの女性に声をかけずにいられない。

 

「秋蘭・・・?」

 

呼ぶと、その女性は張り詰めていた表情をやわらかくして、俺に微笑んでくれる。

「北郷・・・久しぶり、だな。もう一年になるかな?」

 

がしっ。

 

「ん?」

肩をつかまれ、次の瞬きを終えたときには、俺の体は宙を舞っていた。

 

――ぐしゃっ。

「ぎゃっ」

 

情けない声を漏らしつつ地面に落ちる。

「しゅ、しゅー・・・らーん・・・」

「ばか者め、勝手にいなくなったりなぞするからだ。私はもとより、華琳様や姉者、それに他の面々も・・・どれだけ悲しんだと思っている?」

その目は怒りと、それ以上の哀しみに揺れていた。

俺はどうしようもない呵責の念に駆られる。

「ごめん、俺・・・」

思わず言い訳が口をつくが、それは他ならぬ秋蘭によって止められる。

「謝罪は後でゆっくり聞くとしよう。私としては、この状況にいささか疑問を感じずにいられんのだが?」

そういわれて、ようやく今の状況を振り返る。

・・・殺されかけていたというのに、俺、よく忘れることができたな。いや、秋蘭と再会できた喜びが大きかったのは確かだけれども。

 

俺をまさに襲わんとしていた張飛の槍を止めているのは、蒼い髪をなびかせ、着物のような服を着込んだ涼やかな印象を与える美少女。

「おや、私ですかな?知っておる人のほうが多いでしょうが、我が名は趙子龍。蜀の代表として、我が主と妹分を止めに参った。

・・・ふむ。そちらの御仁とは初対面でしたかな・・・?どこかで見たような気もするが」

名乗りを上げた趙雲さんは、俺を見、そういって首をかしげる。

趙雲さんの疑問は正しい。なにせ、彼女は俺がいちばん最初にこの世界に来たときに――一度会っている。

そして趙雲さんは俺から視線をずらし、さもおかしそうに笑ってみせる。喉を鳴らすようなその笑みは、不思議と不快に感じなかった。

「孫呉の将というのは、そう簡単には召されぬらしい・・・またお目通りかなうとは思いませんでしたぞ、祭殿」

祭さんはその言葉ににやりと笑っただけで応えてみせた。

 

「え、ええと・・・」

 

と、所在なさげにしているのは、最後の一人――正直この人がいちばん驚いた――孫呉の姫君、孫権さんだった。

趙雲さんは張飛の槍を受け止め、孫権さんは張飛の背後に回りこんでいる。まさかの連携プレイだ。

どうやらこのふたりは、同時に出てきたらしいのだが・・・。

「どうしてここに星や蓮華がいるのだ?私はまずそれに驚いているのだが?」

秋蘭がそう問いかけると、趙雲さんは「ああ、それは」と説明する。

「私は鈴々の後を追ってきていたのだが、いざ追いついてみればこの修羅場でな。

しょうがない、この場へ乗り込もうかというときに蓮華殿を見かけ、お誘い申し上げたというわけだ」

孫権さんはその言葉に「まあ、そういうことだ」と頷いている。

・・・いや、そういうことだ、じゃないよ!

「ちょっと待って。なんでここに孫権さんがいるんだ?」

俺の質問にみんなの視線が集まるが、なぜか答えたのは祭さんだった。

「ああ、たぶん、策殿か冥琳あたりがつけたんじゃろ――監視か護衛のつもりかは知らんが」

「・・・気づいてたの?」

「道中、なにやら気配を感じるのう、とは思っておった。権殿だけのはずもないじゃろうから、明命あたりが着いて来ておるやもしれん。まったく権殿はまだまだですなあ。尾行はバレぬようにやるのが大前提でございましょう?」

「え、ええ・・・」

ばつが悪そうに苦笑いする孫権さん。

不意に俺のほうを見て、顔を真っ赤にして睨まれた。

「・・・え?」

なんで睨まれているのだろう。確かにもとから良い感情は持たれていなかったけれど・・・

 

と、そこまで考えて、ようやく思い至る。

建業から俺たちの後をついてきていた、ということは・・・もちろん、その途中であった“アレ”も見ていたということではないか・・・?

 

「え、えーと・・・その・・・」

「なにかよくわからんが、そちらのいざこざは後にしてもらえるか、北郷?」

弁解しようとするが、やっぱり秋蘭に止められる。まあ確かに今はそんな場ではないけど・・・。

 

見ると、張飛はふたりに拘束されたまま呆然と立ち尽くしている。

さきほどまでの覇気はどこへいったのか、項垂れてさえ見えた。

 

「・・・鈴々、これはどういうことだ」

「・・・・・・星」

趙雲さんの態度も、先ほどの軽口を叩くようなものから、詰問するような鋭く厳しいものへと変わっていた。

「みんなで決めたろう?お前もその場にいただろう?・・・何ゆえこんなことをする?」

「だって・・・だっておかしいのだ!みんな、お姉ちゃんを悪者みたいに・・・!」

「だから勝手に出してやったのか?出してやって、彼女に言われるまま、彼女が望むままにここまで着いて来たのか」

「・・・鈴々だって、鈴々なりに考えてやったのだ!みんなが何て言っても、鈴々はお姉ちゃんの味方に・・・!」

 

――ぱんっ。

 

平手打ちが飛ぶ。

もちろん、したのは趙雲さん、されたのは張飛だ。

打たれた張飛はやっぱり呆然として、趙雲さんを泣きそうな目で見つめている。

「甘ったれるな!我らがみな、好き好んで主を幽閉したとでも思っているのか!自分だけが正しく、我らが狂っているとでも?」

「そんな・・・そんな、ことは・・・」

みるみるうちに張飛の目に涙がたまっていく。

「考えてやったと?なにを考えたというのだ?桃香様に嫌われるのがいやで、言われるがままに行動した言い訳か?」

「・・・お姉ちゃんに嫌われるのは・・・いやに、決まっているのだ・・・」

「だから言われたとおりにするのか。王と言えどもひとりの人間、間違えることもあろう。それを支え、正すのが家臣の役目ではないか。王が間違えたのなら、それはおかしいとはっきり言ってこそ真の忠臣というものだろう」

 

場が静まり、とうとう嗚咽を漏らしだした張飛から武器を取り上げて、趙雲さんは「少し二人だけにさせていただきたい」といった。

逃げるのではないかと考えたのか、孫権さんが止めようとしたが、逆に祭さんにそれを止められる。

「構わん。後で儂らがとっておる宿で落ち合うということで、どうじゃ?」

「ああ、必ず行く。・・・ふたりでな」

 

辺りがなんともいえない気まずさに満たされる中。

俺は聞き逃せない一言に頭を悩ませていた。

 

・・・主を幽閉、だと・・・?

 

 

その後、残った面々は俺と祭さんがとっていた宿に集まった。

俺が全員分のお茶を淹れ、それぞれの前に置いていくと、それぞれに感謝の言葉を述べられる。

最後に自分の分の茶を持って寝台に腰掛ける。誰も話し始めないので、俺から口を開いた。

 

「えーと・・・魏から来るのって、秋蘭のことだったんだね」

「ん?ああ、最初は三羽烏のうち誰かをという意見もあったのだが、いつ蜀が攻めてくるともわからんから、あやつらには兵の強化をな」

そう、俺たちが旅をしている間に・・・きっと魏も呉も最低限の準備は整ったはずだ。

あとは事が起きるか、もしくは収まるか。

たとえ今後どうなろうとも、劉備さんの処罰は避けられないだろう。

「まったく、洛陽ほどではないにしろ襄陽は広いな。二日前には着いていたんだが、なかなかお前たちを見つけることができなかった」

「え、そんなに早く着いていたの?」

「私をあまりなめてくれるなよ。それくらいはな。霞が来る前には、神速で尊ばれていたのは私だったんだぞ?」

「いや、そうか。そんなに早くに着いていたなんてね」

「手当たりしだい宿をあたってはいたが、なにせ襄陽は交易の面でも発達しているからな・・・宿の多さも半端ではなかったのだ」

「なるほど」

「ちょっといいか?」

そこまで話したところで、祭さんが挙手した。

「ん?」

「儂はちいと孫権殿とふたりきりで話がしたいでな。ちょっと出てきてもいいじゃろうか」

もちろん、星殿が戻ってくるまでにはこの場に居られるようにするから、と念を押す。

「ああ、いいんじゃないかな?俺たちはずっとここにいるから」

 

その言葉に頷いて、祭さんと孫権さんは退室した。

それを見計らったのか、秋蘭が大きくため息をついた。

「どうした?」

「・・・なに、やはり少し気を遣う。あの方はあまり気にしておられぬようだが」

あまりに祭さんと長く過ごしすぎていたから気がつかなかった。秋蘭と祭さんの間には、少なからず因縁があったのだったな。

「祭さんはあまりそういうことに頓着しないみたいだね。俺も、謝ろうとしたら逆に叱られたよ」

「立派な方だ。あんな出会い方でさえなければ、もっと親しくなれただろうのに」

「あきらめるのは早いんじゃないか?」

少しだけ残念そうな顔をする秋蘭に、思わずそんな言葉がついてでる。案の定、秋蘭は不思議そうな目で俺を見ていた。

「祭さんって、本当にそういうことに関してからっとしてるんだよ。今からだって遅くない。

秋蘭が射たことだって・・・そうだな、謝ろうとしたら笑われるんじゃないか?」

「それもそれでどうかとは思うが」

苦笑する。さきほどまで少しだけ見えていた影がなくなったようで、俺はほっとする。

「・・・でも」

「ん?」

すい、とそのなめらかな手が俺の首に回される。

しばらくぶりのその香りにくらくらした。

「北郷、お前、黄蓋殿にずいぶんと詳しくなったようじゃないか」

絞められるような圧迫感を感じる。

「え、ええと・・・」

「まったくお前という奴は」

先ほどのものよりもずっと大きなため息と共に圧迫感からは開放される。しかし、その腕はまだ回ったままだ。

抱き寄せられる。

圧迫感も、恐ろしさもない。それは本当に、こちらにまで感情が伝わってくるかのような、あたたかな抱擁。

 

「・・・会いたかったのだぞ、一刀」

「・・・・・・うん、ごめん。俺も会いたかったよ」

 

ああ、祭さんはひょっとして気を遣ってくれたのかな、なんて――。

そんな考えが不意に浮かんだ。

 

 

「さて、ここまで来ればよいか」

 

宿から少し離れ、人目につかない所までやってきた。

「出てきたらどうだ」

「・・・お久しぶりです、祭様」

先ほどまでなにもいなかった空間に、不意に現れた人影。

予想通りの人物――明命だ。

「ばれていたとは・・・私もまだまだ修行が足りません」

しゅん、とする明命。

「いやいや、おぬしのことは気づけておらんかったよ。ただ、権殿だけでお国を離れるわけなかろうからな」

「私はバレバレだった、ということね・・・」

今度は権殿がため息をつく。

そんな様子に、思わず笑みがこぼれた。

「いやいや。・・・さて、どうしてここにいらっしゃれるのか、お尋ねしてもよろしいか」

その言葉に、今までの態度を一新させ、ふたりは真面目な表情になる。

「名目上は、あなたと、あの男――北郷と言ったかしら。の、動向を見守るため。もちろん祭ほどの人物ならばひとりでやらせたほうがいいのだろうけれど、またあなたを失うなんてことになったら・・・ね」

「おやおやまったく。心配性じゃなあ」

それが皆の本意であることはわかっていたが、その中でも、おそらく際立って声高に尾行をつけさせたであろう人物が脳裏に浮かぶ。

「ここまでが建前ね。で、おそらくだけれど、お姉様は私の修行も兼ねさせているみたい」

「修行、ですか」

「王たるもの、臣下のために体を張れなくてどうする、とね。本当ならお姉様こそやりたかったみたいだけれど、さすがにこの時期に王が国を離れるわけには行かないでしょう?もちろん私だけでは心配だから、明命が着いてきたの」

「はいっ、護衛のお役目を頂いてまいりました!」

元気よく反応する明命を見、しばし考える。

「いや、しかし・・・それこそこんな時期に、おぬしらふたりともが出てきてよいのか?少しでも人の手が要るじゃろう」

権殿は少し顔を曇らせ、代わりに明命がより声を潜めて答える。

「どうやら、冥琳様は此度のこと、これ以上深刻にはならないであろうと考えておいでのようです。未だ確証は得られませんが、蜀王乱心の噂もあって・・・。先ほどの星殿の発言からして、間違いないようですが」

「ふむ・・・」

 

・・・王を幽閉した、というもの。

星の反応から見て、おそらくは乱心した劉備に味方しているのは張飛だけであったと見える。

「やっと訪れた平和を乱すなど・・・誰もついてくるはずがない、か」

「当然です。雪蓮様と魏王の間では、すでに何回にも亘って情報交換や対処についての話し合いが行われていて・・・その中には、劉備の処罰についても」

「・・・どのように決まった?」

「私が蓮華様について来たのは、もちろん護衛が第一ですが・・・もし劉備に会うようなことがあればともうひとつ任務を賜って参りました」

予想はついている。

しかし、聞かずにはいられない――少し昔、戦場の最中で見たやわらかな笑みを思い出す。

明命は殊に無表情を保って、その言葉を告げた。

 

「でき得るならば、劉備を抹殺せよ――と」

 


 
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