「なあ、朱里」
「なんですか?ご主人様」
「解いてくれないか?」
「ダメです」
「なあ、雛里」
「ダメです・・・」
「はぁ・・・」
後の蜀の御遣い、北郷一刀は椅子に縛り付けられていた。
「あれだけ暴れてまだ暴れたりないのですか?」
「お盛んですな、お館様」
横では新たに仲間となった紫苑と桔梗が微笑んでいた。
「私も暴れたくて暴れてた訳ではない」
「暴れた自覚はあるんですね」
雛里の消えそうな声が彼の胸に突き刺さる。
「・・・もう何も言うまい」
目の前では根無し草であった劉備軍念願の本拠地だった。
楽成を越えた劉備軍は一気に成都に迫った。
黄忠と厳顔・・・紫苑と桔梗を仲間に迎えたという情報を益州中に広める軍師たちの策により、劉備軍はより強大になった。
成都攻略戦は、椅子に縛られていた蛇を解き放つこともなく消化試合で幕を下ろした。要するに地の文で終わらせる茶番である。
劉璋はささやかな抵抗の後、投降した。
王座は開け放たれ、桃香はその王座の前に立っていた。
「座らないのか?」
一刀の声に桃香は笑顔で答えた。
「座らないよ」
第二十二話 蜀漢建国 ~The Rule of Virtue~
「またこんなところで職務怠慢ですか?ご主人様」
「仕事は終わらせたぞ」
空を望める城壁の上で、一刀は蒼天を仰いでいた。
一方の愛紗は青龍偃月刀を手にしているところを見ると、今朝の軍議で決まった出陣の準備をしていたらしい。
「王座に座らない王か」
「桃香さまのことですか?」
一刀は空を見上げながら、静かに頷いた。
この場所を大層気に入っている一刀は、わざわざ自費で長椅子を置いた。彼はそれに深く座る。
「変わったな、みんな」
「そうですか?場所と立場が変わっただけで・・・何も変わりませんよ?」
横に愛紗が座る。
「成長しているという意味だ」
「私たちが・・・ですか?」
「まだ一年も一緒に過ごしてないのにな」
一刀は笑いながら立ち上がり、城壁を降りる階段のほうへ歩を進める。
愛紗もそれに続いて歩き始める。
「愛紗も黄巾の乱の時はただの将だった。だが今では勇将だ」
回顧は歳をとった証拠かもしれない。
しかしこの数ヶ月で起こった出来事は新鮮で、何より刺激の連続だった。
「鈴々も大人の自覚が出てきた。朱里や雛里もあまり恥ずかしがらずに物事を言えるようになってきた。星は丸くなったし・・・白蓮は普通か。桃香は・・・青くなくなったな」
「青く・・・青二才という意味ですか?」
「夢を持ちつつ、現実を見据える。翠を説得するとき、正直私が説得しようと思ってたんだ」
「そういえば桃香様が止まりませんでしたね」
愛紗が小さく笑う。思えばあの時は桃香に口を挟めず、翠も桃香の想いに触れた結果が今という時間なのだろう。
「軽い洗脳だな」
「ということは私たちも・・・ですね」
「しかし今から一戦構える連中はそうはいかんぞ」
蜀の行く末は五胡と南蛮だった。
―――呉
「多分そろそろよ」
「魏の南下作戦か・・・」
呉では、いよいよ天下三分となった大陸の地図が目の前に開かれている。
「で、私たちの同盟国は今どうしてるの?」
「蜀なら、五胡の進行を食い止め、南蛮平定に向かうらしい」
「あら、援軍を出した方がいいかしら」
「要らんよ。下手に兵力を裂いて、その隙を曹操を突かれるのも面白くない」
腕を組んだままの玲二が、地図上の蜀ではなく魏を睨めつけていた。
「それほどまで恐れるものなのか?あの将は?」
黄蓋は腰に手を当て、前回交戦し圧倒された漢を思い出す。
「今まで裏舞台でいろいろ引っ掻き回してたんだと思う。表舞台に立った今、あの人は容赦なくこっちに牙を剥いてくる」
「しかし、斥候や諜報員を派遣しないなんて・・・」
はたでは甘寧と周泰が玲二をそれぞれ対照的な顔で見る。
「あのなぁ、単独で旦那とぶつかって勝てる人間なんてそうはいない。二人だってこの前四人がかりで撤退させただけだろ?」
うぐっ、と甘寧と周泰が唸る。
「しかし、それと斥候の話がどうつながる?」
今度は孫権の問いかけだ。尤も内容だったので反撃の糸口を掴めそうな甘寧は目を光らせる。
「話を最後まで聞け。・・・旦那は対諜報の経験もある。一騎当千の化け物が諜報員がいないか目を光らせてる。これを聞いて任務に就くか?俺はごめんだね」
「しかし情報を掴めないのでは・・・」
呂蒙の一言に全員がうなずく。
「・・・穏。魏軍が西方作戦はどのくらいで終わると思う?」
「そうですねぇ・・・早く見て二ヶ月といったところでしょうか?」
「ってことは蜀の対五胡、南蛮作戦と同じくらいといったところかしら?」
戦いの天才、雪蓮はそう感じたらしい。冥琳や呂蒙もうなずいているところを見ると全員の意見は同じだろう。
「けど肝心の諜報が放てないじゃん」
小蓮が会議に飽きたのか集中力が切れたのか、投げやり気味に意見を出す。
「旦那だって万能じゃない。旦那のいない場所に諜報を放って情報収集を続ければいい。核の情報は見えんが全体像は把握できる」
「・・・それほどにまで恐れるんだな。あの漢を」
孫権の一言に、玲二は目を瞑り静かに答えた。
「生ける伝説だからな・・・あの人は」
―――魏
「さて会議を始めます」
魏の王座の間にて会議が催されていた。
郭嘉の声が響き、全員の目が華琳に集中した。
「さて、劉備がとうとう立ち上がったわ。ご丁寧に国を作ってね」
「蜀は今疲弊しています。叩くのなら今かと」
猫耳の頭巾をかぶった荀彧が華琳に進言する。もっともな理由だ。
「まて桂花、彭城のことを忘れていないか?」
「何よ、秋蘭。やつらは今度こそ逃げ道はないわ」
「そうだぞ、秋蘭。ひねりつぶせばいい話だ」
「けどですね、蜀は防衛上手ですからねぇ」
論争に発展しそうな場を程昱がたしなめる。
「加えて進行し難い地形、呉との同盟、そして・・・」
「関羽を初めとする優秀な将ちゅうことやな」
郭嘉と張遼が言葉を続けた。
「関羽と呂布は言うまでもなく、底が知れない張飛に勇将趙雲、つい最近かの錦馬超も戦列に加わったとか」
程昱の一言で好戦派はなりを潜める。
「加えて劉障配下の将を何人か手駒にしています」
「その上あの地雷とかいう罠・・・たまりませんわ」
「人を殺さない分たちが悪いの」
楽進、李典、于禁の前線三羽烏が唸る。
「救護するのに余計に兵力裂かれちゃうし・・・」
「何よりあの現状を見た兵の皆さんが戦意を失ってしまいます」
許緒と典韋も続いた。
「あのやり口は正史のやり方だ」
今まで黙り込んでいたケインが発言する。
「奴は合理的だ。同時に優しすぎる」
「優しすぎる?まさか殺したくないからあの地雷って方法を使ってるの?」
「あいつは戦士だ。どの世界を見てもあいつほど戦争の凄惨さと無益さを知っている奴はいない。だからこそ優しい。だからこそ・・・一番戦士に向いていない漢だ」
「あんな女みたいなやつ、私一人で・・・」
「やめておけ、殺されるまでいかないが・・・一生立てなくされるぞ」
ケインが神妙な面持ちと声で春蘭を制する。
「過大評価じゃないか?」
秋蘭がケインに問いかけるが、全員が同じ疑問だろう。
一国のお目付け係が、将にかなうはずがない。ケイン以外そう思っているだろう。
「とにかく奴の相手は俺がやる。危険すぎる」
みなケインに何か言いたげだったがそれを言ったのはただ一人、華琳だった。
「貴方が彼に固執する理由がわからないわ」
「もっともだ。だがあいつはこの世界で俺を殺しうる可能性がある唯一の人間だ」
目の前の将には自分は殺されない。彼らしい自信に満ちた言葉であったが、同時に一刀への最大評価でもだった。
「下手をすればあいつ一人で集落ひとつが消えるやもしれんな」
* *
呉と魏は着々と決戦に向け準備を進めていた。
西方で五胡を退けた蜀軍は南蛮の地で強大な障害に突き当たっていた。
おまけ:次回予告
次回待望の・・・
ギャグ回!
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この作品について。
・真・恋姫†無双をベースにとある作品の設定を使用しています。クロスオーバーが苦手な方には本当におすすめできない。
・俺の◯GSを汚すんじゃねぇって方もリアルにお勧めできない。
・ちなみにその設定は知っていれば、にやりとできる程度のものです。
・この作品は随分と厨作品です
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