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真・恋姫無双『日天の御遣い』 第一章

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は第一章。
例の始まりのシーンです。

2010-02-21 19:14:47 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:14215   閲覧ユーザー数:11769

【第一章 開始】

 

 

 彼が目を覚ますと、そこは見知らぬ荒野だった。

 

「………………あ?」

 

 右を見ても荒野。

 左を見ても荒野。

 どこからどこまでも荒れた野原が続いている。

 

「……夢、か?」

 

 夢にしちゃつまんねえ有様だな、と目を瞑って現実逃避を試みる彼に非はない。何せ起きたら足を運んだ記憶のない場所にいたのだ、これを現実と思うほうが無理な話だろう。

 しかし彼の抵抗も空しく、夢は終わりを迎えることはない。

 どころか――

 

「――おう兄ちゃん。珍しいモン持ってるじゃねえか」

 

 未だ現実逃避中の彼の背に、夢を悪夢に塗り替える声がかかる。

 ぱちりと目を開けて振り返ってみれば、そこにいたのは変な格好をした三人組の男。

 

「うっわ……本当につまんねえ有様だ。美人なねーちゃんでも可愛い嬢ちゃんでもなくコスプレ野郎とか、健全な男の夢じゃねえだろうが」

「はあ? 何言ってんだ、コイツ」

「あっしに聞かれてもちょっと……おいデブ、わかるか?」

「わ、わがんね」

「……夢にしちゃリアルが過ぎるな。そもそも、この俺がこうも無様な夢に浸るわけねえ、か。ってことはまさか――現実?」

「ブツブツと気色悪い野郎だな……頭がおかしいのか? ああもう、まどろこっしいやめだ、やめ」

 

 言って呆れたように、諦めたように三人組の一人――おそらくはリーダー格だろう中肉中背の男は懐から短剣を取り出し、切っ先を彼に向けた。

 

「言葉は通じてるな? だったら金目のモンを寄越せや。腰にぶら提げた細い剣と、ついでにその夕暮れみてえにキラキラしてる服も置いていけ。そうしたら命だけは助けてやらんこともないぜ」

「………………結論。これは夢じゃねえ」

 

 鼻先にある刃になんの関心も示さず、やれやれと肩を竦める彼。

 

「偏見になるが、コスプレする連中がカツアゲなんざするわけねえし、こんなどこにでも売ってあるような服を欲しがったりは絶対にねえ。トラブルとは長い付き合いだけどよ……今回は流石にトラブルの域を超えていやがる」

「……おいテメエ、状況わかってんのか? 余裕かましてるとバラすぞこらぁっ!」

「完全に理解はしちゃいないがな、今の状況ぐらいちゃーんとわかってるさ。わかった上で余裕かましてるんだ、馬鹿にすんなよヒゲ野郎」

「っテメエ!」

 

 吐き捨てて笑う彼の態度に怒りを沸かせ、男が短剣を振り上げた――瞬間。

 

「待てぃ!」

 

 新たに場へ参加する、凛とした声音。

 

「だ、誰だっ!?」

「たった一人の庶人を相手に徒党を組んで襲いかかる……そんな外道共に名乗る名前など、持ってはおらん!」

 

 そこから先はまさしく刹那。

 まず吹き飛ばされたのは三人組の中で最も背が低い男。地面を何度も転び跳ね、糸の切れた人形のようにだらりと動かなくなる。次に餌食となったのは醜く太った巨大な男。だらしない腹が痛々しい音を響かせてへこみ、苦悶に顔を歪ませながら崩れ落ちた。

 それら全てが瞬きにも満たない、一瞬の間の出来事。

 残った中肉中背の男は赤から青へと顔色を変える。

 

「ひいっ……にっ、逃げるぞ!」

「へっ、へい!」

「だっ、だな!」

「逃がさん!」

「あ、おい嬢ちゃん……って、行っちまったか」

 

 彼が言葉を発する前に槍を携えた乱入者の少女は駆け出し、慌てて逃げる三人組の後を追った。

 またもや一人になる彼。なんというか……状況がさっさと進みすぎて何がなんだかさっぱりわからない。

 

「大丈夫ですかー?」

「……あ?」

「傷は……どうやらないみたいですね。立てますか?」

「あー、おう。大丈夫だし、ちゃんと立てるよ」

 

 本当にめまぐるしい。

 次が終わればすぐにその次、当人を置いてどんどん先に進んでいく事態に内心で嘆きながらも彼は立ち上がり、おっとりした声の持ち主と、しっかりした声の持ち主に身体ごと視線を向ける。

 そこにはまた珍妙かつ奇妙な、どことなく中華風の格好のウェーブのかかった髪の少女と、眼鏡をかけた少女の姿があった。

 

 

 

 

「えーっと、まあ、とりあえずありがとうな」

「私たちは何もしていませんよ。礼ならば先の彼女に述べてあげてください」

「そうですねー。それにどうやらお兄さん、風たちの助けは不要だったみたいですしー」

「家族でもねえのに俺を兄と呼ぶんじゃ……ああいや、助けられたのに怒るのは筋違い、か。なんでもねえ、忘れてくれ」

 

 ぶわり、と彼がただならぬ雰囲気を放ったことに少女二人は身体を緊張させるも、ぱたぱた気を散らすように彼が手を振ったことで、戦慄し始めた空気が元に戻る。

 背筋を伝う冷たい汗をけして表情には出さず、一騎当千の武将を友に持つウェーブがかった髪の少女は桁外れの頭脳ですぐさま理解した。

 ああ、正しく自分たちの助けは不要だったのだ――と。

 

「やれやれ。すまん、逃げられた」

 

 そんなやりとりをしていると、そこに先ほどの槍を携えた少女が戻ってきた。

 どうやらあの三人組は取り逃がしてしまったらしい。

 

「え、あ、お帰りなさい。……盗賊さんたち、馬でも使ってたんですかー?」

「うむ。同じ二本足なら負ける気はせんが、倍の数で挑まれてはな」

「追い払えただけでも十分ですよ」

 

 和やかに少女たちは会話を始めるが、展開に追い付けていない彼は見目麗しい彼女たちを眺めつつ意識を思考の海に沈める。

 

「(美人は大歓迎なんだが……状況が状況だけにどうも喜べねえな)」

 

 起きたらそこには荒野が広がり、次いでチンピラに刃を向けられ、それを救ったのは見目麗しい少女三人。これが夢であれば奇妙の一言で片付けられるが、照りつける日の光や生温く頬を撫でる風、そして彼の経験に基づく勘がまぎれもなく現実だと語っている。

 なんとも笑える有様だ。

 笑い話にもならない、というのが実に笑える有様だ。

 

「あーっと……風ちゃん? だったか?」

「……ひへっ!?」

「貴様……っ!」

 

 ひゅいん!

 空気の裂ける音と共に首筋へあてがわれたのは槍の穂先。

 さっきのチンピラたちの時とは違って表情を驚きに染めた彼を、殺気立った槍を携えし少女の目が射抜く。

 

「どこの世間知らずな貴族かは知らんが、いきなり人の真名を呼ぶとはどういう了見だ!」

「……物騒なものをあっちに向けたりこっちに向けたり、忙しい嬢ちゃんだな。というか、真名ってなんだ?」

「しらばっくれるな! 訂正なさい!」

「て……っ、訂正してください……っ!」

「しらばっくれてるつもりはねえんだが……まあ、恩に仇を返す気はない。俺の言葉が琴線に触れたのなら訂正するし、撤回するし、謝るよ」

 

 朝焼け色の頭を下げ。

 

「ごめんなさい」

 

 彼は言った。

 打算もなければ命惜しさでもない、ただ非礼を詫びる意だけが込められた謝罪だった。

 沈黙。

 そしてゆっくりと、槍の穂先は彼の首筋から距離をとる。

 

「…………ふん。結構」

「はふぅ……いきなり真名で呼ぶなんて、びっくりしちゃいましたよー」

「………………」

 

 それはこっちの台詞だ、とは流石に彼も言えなかった。

 ここで空気を読めないのはどこぞかのはっちゃけた高笑い娘くらいなものだろう。

 

「……真名ってものはいまいちよくわかんねえけど、悪かったよ、嬢ちゃん」

「もういいですよー。風もおに……貴方の琴線に触れてしまったようでしたしー」

「ああ、あれは別に気にしなくていいって。それでその真名っつうのが駄目なら、俺は嬢ちゃんたちをなんて呼べばいいんだ?」

「程立と呼んでくださいー」

「今は戯志才と名乗っております」

「我が名は趙子龍」

 

 ウェーブがかった髪の少女――程立が名乗り、それに他の二人も続く。

 名を尋ねて名乗らぬは無礼。本来は彼も名乗りを返すつもりだったのだが――槍を携えた少女、趙子龍の名に頭が真っ白になった。

 

「は? 趙子龍って……まさか三国志に出てくる趙子龍のことか?」

「そのさんごくしとやらがどういったものかはわからぬが、趙子龍とは確かに私の名ですな」

「……どういうことだ?」

 

 

 

 

 趙子龍。

 それは劉備に仕えた五虎将軍の名。

 しかしかの武将が生きていたのは彼がいた日本と大陸を違う中国の、そして何千年も前の時代だ。何より、ここにいる自称趙子龍は少女だが、彼の知る史実の趙子龍は美形と評されているものの、まぎれもない……男。

 やはり夢?

 いや――違う。

 これが夢であるはずがない。目が覚めたら荒野で自分を助けてくれたのはなんと美少女の三国志の武将でした、なんて、思春期真っ盛りな青少年だろうとみやしないふざけた夢だろう。

 じゃあ、一体これは。

 この有様は――なんだ?

 

「……なあ嬢ちゃんたち、ちょっと教えてほしいことが」

「すまぬが、それはあちらに聞くとよい」

「あちら?」

 

 子龍の指差した方向を見ると、地平線の彼方から砂煙がこちらへと向かってきていた。

 

「どうやら陳留の刺史殿が来たようだ」

「下手に関わると面倒ですね……早く立ち去るとしましょう」

「ですねー。ではではー」

「は? おい、ちょっ」

「官に絡まれるのは厄介なのでな。それでは、さらばっ!」

 

 そして程立、戯志才、趙子龍と名乗る三人の少女はあっという間に姿を消す。

 またもや一人になる彼。なんというか……置き去りにするにもほどがあるだろう。

 

「はあ……ったく、美人に会った途端に置き去りとか、ついているのかついていないのかさっぱりだ。まあ、何かが憑いているのは間違いなさそうだけどな」

 

 大きな溜め息を一つ吐き、彼は近付いてくる砂煙に目をやって。

 

「官――つまりは国の役人か。現状を知るには確かに一番の相手なんだろうが……何も知らない今の有様じゃ悪い事態になりそうだし、適当にふらふらして請け負いやってりゃ答えも出てくれるだろ」

 

 腰に差した鍔のない刀を確認し。

 近くに転がっていた荷物を拾い。

 

「さてさて、それじゃあ尻尾を巻いて逃げさせてもらうとしましょうか」

 

 近付く砂煙を背中に。

 先の少女たちが姿を消したほうとは逆方向に。

 彼は、足を進めた。

 

 

【第一章 改史】………………了

 

 

あとがき、っぽいもの

 

 

どうも初めまして、リバーと名乗る者です。

 

小説を書くのも公開するのも初めてなので戦々恐々しつつ投稿しました。

 

ど、どうでしたしょう?

文や風たちの口調は大丈夫でしたでしょうか?

口調については何度も何度も恋姫をプレイして確認したのですが……違和感があれば是非にご意見のほどをお願いします。

 

えっと、とりあえず《彼》は我らが一刀君ではありません。自分のオリキャラが魏ルートに落ちてきたことになっております。

我らが一刀君をチートして落とすのもよかったんですけど……やはり我らが一刀君は弱いからこそ強いんだろうと思い、オリキャラにしました。

あ、もう少し後になりますが、ちゃんと我らが一刀君は登場します。

どうかそれまで、そしてそれから後も応援よろしくお願いします!

 

追記

 

やっぱり真恋姫は魏ルートが一番ですよね!

 

 


 
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