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恋姫無双 袁術ルート 第三十二話 美羽の小さな冒険(後篇)

こんばんわ、ファンネルです。

この間、釣り画像が出たようですが、今回は本物です。

かなり、長いです。お茶でも飲みながら見ていただけると幸いです。

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2010-02-17 23:09:24 投稿 / 全26ページ    総閲覧数:15031   閲覧ユーザー数:10975

第三十二話 美羽の小さな冒険(後篇)

 

無事に七乃さんの私室に到着した二人だった。

 

「お嬢様。御立派でしたよ。よく、痛いのを我慢しましたね。」

「ふ、ふん!わ、妾にしてみれば簡単な事なのじゃ!」

 

舌がよく回っていない。どうやら、今も痛いのを我慢して泣きそうなのを我慢しているのだろう。その証拠に目が未だにウルウルとしている。

 

「さてと、今日は市場に行きますけど…………さすがにその格好ではまずいですね。」

 

それは当り前であろう。今、美羽が身にまとっているのは天子が身にまとう由緒正しい法衣なのだから。

 

「うむ。この格好は動きづらくてかなわんぞ。」

 

そう言って、由緒正しい法衣を乱暴に脱ぎ捨てて、そこらへんに放り出した美羽だった。当然ながら七乃さんは何も言わない。

 

「それじゃ、お嬢様。お着替えしましょうね♪」

「うむ♪」

「う~ん…………さすがに普段の服もまずいですね~………え~と………これをこうやって………こうして………さ、出来上がりましたよ♪いかがですか?」

「おお~!!見事なのじゃ!」

 

美羽の恰好は、濃いめの紫色のミニスカワンピに髑髏の髪飾り。両脇のツインテールにウェーブをかけ、クルクルとした髪型だった。まるで、どこぞの覇王様のような格好……というより、もろそれだった。

 

(華琳さんにそっくりになってしまいましたけど………かわいいから良いですよね♪)

 

七乃は美羽のあまりの可愛さに酔いしれてしまっていた。だから、曹操と同じような格好をさせた事について何も考えていなかった。まあ、かわいいからよいのだろうけど……。

 

「さてと、では行きましょう。」

「うむ!」

 

こうして、美羽は一日だけだが、自由を手にした。

 

 

 

だが、この行動が曹操軍全体を揺るがすものに発展しようとは誰も思わなかった。

 

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

……

 

 

ここは市場。

 

「うっはは~い!!おお~!!妾も見たことないようなものがたくさん並んでおるぞ!!」

 

美羽は曹操に捕まって以来、こうして町をゆっくりと歩いた事がなかった。ここ洛陽も一刀たちが統治していたころとはかなりの変化を見せていた。だから、美羽にとって曹操が支配している洛陽はまったく別の町に見えていた。

 

「七乃~!早く、早く行くのじゃ!」

「そんなにあわてなくても時間はまだありますよ♪」

 

美羽は大はしゃぎであった。無理もないと言えば無理もない。もともとわがままなお嬢様なのだ。むしろ今までよくあんな生活を我慢できたと褒めてあげたいくらいだ。

 

「七乃!次はあっちに行ってみるのじゃ!」

「はいはい。」

 

七乃さんは美羽に連れ回されて忙しそうだが、決して不満でない事を一応言っておこう。彼女にとって美羽に喜んでもらう事が何よりの喜びなのだから。

 

 

………………………

 

 

ある程度、町を見ただろうか?さすがの美羽も休まずにこの広い洛陽を見て回るのは無理があっただろう。さすがにばててきたようだ。

 

「お嬢様!大丈夫ですか?」

「う、うむ!この程度、大丈夫じゃ!それに今日一日しか回れぬのだから、妾はもっと遊びたい!」

 

見るからに疲れてそうなのに美羽はまだ遊びたいという。

 

「まだ、時間はありますよ。ここで休んでいてください。何か、お飲物をお持ちいたしますから。」

「うむ!出来れば蜂蜜水がよいぞ!」

「かしこまりました。すぐに戻りますから、ここから動かないでくださいね。」

「うむ♪」

 

そう言って、七乃さんは美羽を置いて飲み物を持ってこようとした。

 

………………

 

「ふっふ~ん♪早く帰ってこないかの~♪」

 

美羽は逸る気持ちを抑えながら七乃さんの帰りを待っていた。その途中、

 

「みゃ~……」

「うん?なんじゃ?」

 

何やら変な鳴き声が聞こえてきた。猫であった。猫は美羽の足もとにすり寄ってきた。なかなか人懐こい猫である。

 

「うはははは!これ、くすぐったいではないか!」

 

どういうわけか、その猫は、美羽の事が気にいったようだ。美羽もまんざらではなく、その猫に構っていた。

 

「むふふふ、愛い奴じゃの~。」

「みゃ~ご。」

 

美羽はそのまま猫を抱きあげて頬をすりよせた。

 

「うふふ、気持ちいの~。」

 

確かに猫に頬をすりよせると柔らかくてとっても気持ちが良い。だが、猫にとってはかなり嫌がる行為である。人懐こい猫と言えど、それは例外ではなかった。

 

「ぶみゃあ!」

「あっ!」

 

猫はそのまま美羽の手から離れ、逃亡を企てた。

 

「こ、こら!待つのじゃ!」

 

そして、美羽もまた猫を追いかけて行った。七乃さんにここを動くなと言う言葉も忘れて。

 

…………………

 

「はあ……はあ……。う~む、あ奴め!せっかく妾が可愛がってやろうとしたというのに………」

 

美羽は結局、猫を見つける事は出来なかった。そのままあきらめて七乃さんが待っていろと言った場所に戻ろうとした。だけど………

 

「あれ?………ここはどこじゃ?」

 

 

……………………………

 

 

………………

 

 

……

 

 

曹操軍の日常は軍議から始まり軍議で終る。今日もそのサイクルは途切れることなく、平坦に進んでいた。

 

「以上を持ちまして、次の我らの進行目標は劉備軍率いる徐州にすべきかと……」

 

稟が主である曹操に対して提案した軍題であった。今、稟は曹操と二人っきりだった。

 

「そう。貴方がそういうのならそれでも構わないわ。でも、本当に良いのかしら?」

「どういう事でしょうか?」

 

稟は何か不審に思った。自分の作戦を良しと言った曹操が、どうして自分にこの作戦を実行してもよいのか?という質問を返すのか?

 

「劉備軍にはかつて貴方が仕えていた董卓がいるでしょう?」

「!!」

 

そう。劉備軍にはかつて一刀ともう一人の人物に仕えていた。それが董卓であった。董卓は劉備軍によって殺されたという話で決着がついていたが、本当は劉備によって匿われていたのだ。当然ながら、稟も風も霞もそれを知っていた。知っていながら曹操に隠していた。曹操にとっては裏切り行為でしかないが、どうしても月たちには生きていてほしい。その思いで今まで黙っていたのだ。

 

だが、曹操は何もかも知っていたようだった。自分たちの嘘も。董卓が実は生きている事も。稟は覚悟を決めた。曹操は裏切りに対しては容赦のない処罰を与える。それが、たとえ自分の軍師であろうと。

 

「そんなに身構えないで頂戴。貴方たちに私が何かするはずないでしょう?」

「な、なぜですか?私は貴方に嘘を言ったのですよ?」

「うふふ。前に仕えていた主君を簡単に売るような人間だったら、私は貴方をあの場で殺していたわよ。すぐに主君を裏切る恥知らずな者としてね。」

「華琳様………」

 

曹操は稟たちの嘘について何にも思っていないようだ。それどころか、自分たちの身を顧みず主君であった董卓を助けようとする姿勢に曹操は惚れていた。

 

「それで、改めて聞くけど、本当に徐州に攻め込むの?」

 

曹操は改めて聞いた。今度ばかりは黙って逃がすなんて方法はとれない。今の董卓になんの権力もないとはいえ、戦争になれば巻き込まれるのは必至である。それはつまり、以前の主君であった董卓への完全な決別を意味する。

 

だが、稟は………

 

「はい。」

 

なんの迷いもなく答えた。

 

「今の私の主君は華琳様です。我が軍略で華琳様の覇道を支える事こそ今の私のすべて!そのためなら、たとえ月様を敵に回したとしても本望というものです!」

 

稟は完全に曹操に忠誠を誓っていた。曹操を支える事が今の彼女のすべてなのだろう。月たちの事を思わないわけではない。だが、それ以上に曹操に少しでも早く天下に覇を唱えて欲しかった。早く、この混沌とした乱世を終わらせる。それが彼女の本当の願いでもあるのだ。そのためにはどうしても劉備を倒す必要があった

 

「うふふ。うれしいわ、稟。」

「か、華琳様!?」

 

突然、曹操は稟に近づいてきた。そして、淫らに稟の体を触り始めたのだ。

 

「貴方が私のために、そこまで考えていただなんて………。貴方を部下に持てた事を誇りに思うわ」

「かかかか華琳様!!そ、そそそこは!!」

「どうしたの?稟。何を恥ずがしがっているの?生娘でもあるまいし………」

「ひゃう!わ、私は……こ、こういう経験は……一度も……ひゃあ!」

 

稟は顔を真っ赤にして曹操になされるがままの状態に陥っていた。

 

「あら、そうなの?てっきり北郷一刀に手出しされていたと思っていたのに……ますます、気にいったわ。………ふ~……」

「うひゃあ!」

 

曹操は稟の耳に息を吹きかけていた。完全に軍議などではなかった。すさまじく百合百合しい場面でもうすぐクライマックスのはずだったのだが………

 

「も、もう………ぷーーーーーー!!!!」

 

バタ!

 

肝心な場面で稟は鼻血を出して気を失ってしまったのだ。

 

「……………はあ。」

 

曹操もあきれ顔であった。それ以上に悔しいという感情の方が大きかったのかもしれない。かなり未練たらしく倒れた稟を見ていた。

 

 

稟がすさまじい出血をしたために曹操は医者を呼ぼうとした。その時、偶然にも風が部屋を訪れてきた。

 

「華琳様、失礼しますね。…………おや、これは一体……」

 

風はこの部屋の惨劇を目の当たりにして何事かと、感情のない顔で思った。

 

「あ、風。ちょうど良かったわ。すぐに医者を呼んできてくれないかしら。稟がこんなふうになってしまって。」

「あ、それなら御心配には及びませんよ。」

「え?」

 

そう言って、風は稟の上半身を起こし、首の後ろをトントンと叩き始めた。

 

「稟ちゃん、大丈夫ですか?トントンしますからね~。トント~ン。」

 

そうすると今まで止まる気配のなかった稟の出血がみるみるうちに止まって行ったのだ。

 

「これでもう大丈夫ですよ。稟ちゃんは風たちがお兄さんたちの所にいた時からこうでしたから。もう慣れているんです。だから、お医者さんなんか必要ないんですよ。」

「…………北郷一刀がどうして稟に手を出さなかったのか、分かった気がするわ。」

 

一人納得する曹操であった。

 

「ところで、私に何か用があったのではないの?」

「はい。実は変な情報が入りまして………」

「変な情報?」

 

バタン!

 

突然、仰々しく部屋の扉が開かれる音が聞こえてきた。

 

「華琳様!ご無事ですか!?」

 

中に入ってきたのは曹操軍の武将である夏候惇こと春蘭であった。

 

「春蘭、いきなり入ってきて何事なの?」

「か、華琳様が犬に追いかけられて泣かされたって聞いて、いてもたってもいられず戻ってきたのです。良かった~。御無事で何よりです。」

「ちょっと待って!誰が犬に追いかけられて泣かされたですって!?」

 

バタン!

 

また、扉が開いた。

 

「華琳様。」

「秋蘭。」

 

今度入ってきたのは夏候淵こと秋蘭だった。

 

「やはりここにいらしたのですね。御無事で何よりです。となると、先ほどの情報は…………」

 

そう言って、秋蘭は何か考え込むのであった。

 

「秋蘭ちゃんも見たのですか?」

 

そんな考え事の最中、風が秋蘭に聞いてきた。

 

「いや、実際に見たわけではないが、何件も情報が集まってきたのでな。さすがにおかしいと思い、ここに来たのだ。」

「そうだったんですか…………」

 

そう言って、風もまた考え込んだ。さすがの曹操も一体何が起きているのか理解できずに彼女たちに解答を求めた。

 

「ちょっと!一体、何が起きているのか分かるように説明しなさい。」

 

秋蘭は何か言いずらそうな顔をしていたが、風は何の遠慮もなく曹操に行った。

 

「実はですね、町で幾つもの華琳様の目撃情報が出てきたのですよ。」

「私の?私は今日はこの城から一歩も出ていないわよ。」

「はい。それは私も知っていましたから、何かの見間違いだと思ったのですけど、何分、幾つもの目撃情報が集まりまして………」

 

曹操はようやく事態を理解できた。一体、どういう事なのだろうか?曹操は考え込んだ。

 

「私の偽物が現れたってことなのかしら?」

「おそらく。」

 

風もそう思ったらしい。そうして、曹操は何か考えた。

 

「敵国からの陰謀か何かかしら?」

 

自分に化けて何かしらの問題を起こし、失脚を狙っているのではないか?曹操はそう考えていた。何せ自分には敵が多いのだから。

 

「いいえ。違うと思いますよ。」

「どういう事?」

 

風が曹操の言葉を否定した。

 

「その、とても言いづらい事なのですが…………」

「構わないわ。言いなさい。」

「はい。実は華琳様の目撃情報と言うのは、華琳様が思っているような事ではなく、ものすごくおっちょこちょいな場面なんです。」

「おっちょこちょい?」

「はい。先ほど、春蘭ちゃんが言った、犬に追いかけられて泣かされたという情報のほかに、飲食店の前で意地汚そうによだれを垂らして見ていたり、他にも見ていて恥ずかしいような事が………………」

「…………………フラ。」

 

曹操は気を失いそうになった。

 

「華琳様!お気を確かに!」

「だ、大丈夫よ。」

 

決して大丈夫そうには見えない曹操だった。

 

「私の偽物が私に化けて、そんな事をしているなんて絶対に許せないわ!すぐに探し出すわよ!探し出して、この世の地獄というものを見せてやるわ!うふふふふ♪」

 

ものすごい不気味な笑顔で言う曹操だった。本当に怖い………

 

「秋蘭!皆を集めて頂戴!すぐにでも偽物探しに行くわよ!」

「は、はい。それは構わないのですが………」

「何!?」

 

かなりの御怒りのせいか、いつもの余裕をなくしている曹操だった。

 

「ま、町の警邏隊や兵たちに呼びかけた方が早く見つかるのでは………」

「こんなことで兵を使ったら、それこそ恥ずかしいわよ!」

 

どうやら、曹操は兵たちに偽物とはいえ、間抜けな自分を見られたくないようだった。

 

「極秘に探し出すわよ!」

「ぎょ、御意!」

 

 

そして、曹操軍の主要メンバーが集まつつあり、後は出発を待つばかりだった。

 

「それにしても、張勲の奴は一体どこにいるのだ?華琳様が招集をかけているにもかかわらず、姿を現わさぬとは!」

 

春蘭は未だに七乃さんの事を気にいらないようだ。

 

「七乃は休暇中よ。ま、七乃なしでも何の問題もないでしょう。」

 

曹操はそう答えた。確かに曹操軍が誇る精鋭がこれほどまでにそろっているのだからなんの問題もないだろう。いや、ある意味では大問題だ。こんなくだらない事に精鋭をすべて招集するなんて………どうやら曹操様はかなりおかんむりのようだ。

 

「失礼いたします。」

 

メンバーも揃ったし、いざ出発と言う時にひとりの兵がやってきた。兵は部屋を訪れた瞬間、身が凍るような感覚に襲われた。無理もないだろう。ここには曹操軍の精鋭が集結しているのだから。

 

「何用?」

 

曹操が聞いてきた。少なからず、曹操の声には怒気が含まれている。

 

「は、はい!実は張勲様の事でして………」

「七乃の事?」

 

兵は曹操たちに事のすべてを伝えた。捕虜である美羽の部屋に帝と七乃が訪れた事。何かとても怪しかった事。事の事情をすべて話したのだ。曹操はそれを聞き、嫌な予感がした。曹操だけではない。風も稟も霞もまた嫌な予感がした。曹操たちは急いで美羽の部屋に急行した。

 

 

……………………

 

 

ここは美羽の部屋

 

「神楽様、一体どういうつもりですか?」

「………いや、すまない。」

 

さっそくばれた。ばれてしまった。

 

「皇帝陛下ともあろう方が捕虜の脱走に手を貸すとは………」

 

曹操は怒りを通り越してあきれてしまっていた。

 

「貴方はこの大陸の天子なのですよ!それなのにこんな………」

 

さすがに覇王と呼ばれる曹操と言えど皇帝陛下である神楽にはさすがに敬語を使うようだ。

 

「すまない!本当にすまない!」

 

神楽は涙目で訴えていた。

 

「美羽の境遇がかつての自分に重なり、とても哀れに思えたのだ!だからせめて今日一日だけでもあやつを自由にしてやりたくて………本当にすまない!」

 

神楽は今にも泣きそうな目で曹操に訴えかけた。

 

「……………………………」

 

そんな神楽の純粋な思いを聞いた曹操は黙っていた。他のみんなも曹操の口が開くをの待っていた。そして…………

 

「………………ジュルリ。」

「うん?」

 

なぜか舌をなめるような音を出していた。

 

「華琳?」

 

神楽は不審に思っていた。今の曹操の目は先ほどまで怒っていた目であったが、現在の目は何か違う。まるで獲物を目の前にして興奮している野獣のような目であった。

 

 

………………

 

 

華琳side

 

(ヤバ!激可愛い!)

 

そんな事を曹操は切実に思っていた。よく見ると、今の神楽の恰好は、今までのような男らしい格好ではなく、美羽が着ていたかわいらしい服装であった。しかもサイズが少し合わないせいか、発展途上の胸部が無駄に強調されている。その上、今は神楽の視線は曹操の下にある。つまり、涙目で曹操を上目づかいしているのだ。

 

「華琳様。」

 

稟が曹操に尋ねた時、ハッとしたように曹操は頭をぶんぶんと回した。

 

(あ、危なかったわ!)

 

実はかなり危なかったみたいだ。稟が声をかけてくれなかったら欲情に身を任せてしまう所であった。

 

「な、何?稟。」

「神楽様と美羽様の事をお許しください。華琳様。」

 

そう言って頭を下げた。風も霞もまた頭を下げた。彼女たちは叱りを受ける覚悟で言ったのだ。そんな覚悟を決めた彼女たちに曹操は、

 

(そうだった。袁術が逃げたという話だったわね。)

 

曹操にとって美羽が逃げた事など些細な事に過ぎない。今の曹操はコスプレ?している神楽に夢中であった。だから美羽の事などどうでもよかったのだ。

 

「分かったわ。稟たちに免じてこの話はこれで終いにするわ。神楽様ももうこんな事はしないように。」

 

なんてとても器の大きい事を言った。当然ながら稟たちは曹操の器の大きさに感銘を受けた。曹操が実は神楽の姿に萌え萌えであったとも知らずに………

 

 

曹操を始め、彼女の部下たちは当初の目的であった偽物を探すという事に加え、美羽も探すという事になった。だが、彼女たちは気付いていなかった。曹操の偽物と美羽が実は同一人物であった事に。

 

 

その頃の七乃さんは………

 

「お嬢様~!お嬢様~!!」

 

いなくなった美羽を探していた。

 

「ああ。困りました!お嬢様がいなくなるなんて………。お嬢様……今頃……」

 

何を考えているのか?七乃さんの頭の中には不審なおっさんに身ぐるみをはがされている美羽の姿が浮かんでいた。

 

「お嬢様~!!」

 

七乃さんの悲痛な叫びは美羽には届かなかった。

 

 

その頃の美羽は………

 

 

「お姉ちゃん!捕まえた!」

「むう!捕まってしもうた!」

「あはは!次はお姉ちゃんが鬼だ~!!」

「逃げろ~!!」

「こら~!!待つのじゃ~!!」

 

子供たちと遊んでいた。あの時、美羽は………

 

 

少し前

 

「むう~。困ってしまったぞ。ここがどこだか分からなくなってしまった。」

 

この洛陽は、以前一刀が治めていた時と比べて大きな区画整理が行われていた。なので町全体がかつて美羽が暮らしていた時の洛陽とは全く別の街と化していたのだ。

 

「七乃~!どこにいるのじゃ~!!」

 

美羽は大きな声を出したが七乃さんには届かなかった。いよいよ美羽も自分の置かれている状況に恐怖し始めた。

 

「な、七乃~!妾はここじゃぞ~!!」

 

どれくらい歩いただろうか?その途中に犬に追いかけられたり、飯店の美味しそうな饅頭の誘惑に負けそうになりながらも美羽は七乃を探した。しかし、何度叫んでも七乃さんは現れなかった。美羽はとうとう泣き出したくなってきた。

 

「うえ………ひっく……な、七乃~……」

 

いつの間にか美羽は泣き出していた。そんな美羽の所に……

 

「あれ?曹操様?」

「あ、曹操様だ!」

「曹操様、泣いているの?」

 

何人かの子供たちが美羽の側にやってきたのだ。美羽の居る所は少し広い空き地であった。どうやらここは子供たちの遊び場であるようだ。

 

「うん?なんじゃ、お主らは?」

 

美羽が顔を上げると、みんな心配そうな顔で美羽を見ていた。

 

「あれ?曹操様じゃない?」

「曹操じゃと?妾をあんな奴と一緒にするでない。」

「ごめんね。曹操様の姿に似ているから。」

 

まあ、確かに美羽の姿は曹操の姿そのものと言っても過言ではないだろう。クルクル頭に髑髏の髪飾り。黒っぽいミニスカワンピと。

 

「ねえ、名前はなんていうの?」

「名前じゃと?ふふふ、聞いて驚くではないぞ!妾は袁術!あの可愛くて聡明で有名な袁術とはこの妾の事じゃ!」

 

自分の名前を誇らしげに言うのはさすがに美羽と言うべきだろうか?しかし、子供たちの反応は美羽が予想している物とは違かった。

 

「袁術?知ってる?」

「うんうん。知らな~い。」

「お姉ちゃんって、本当に有名なの~。」

 

子供たちの反応は美羽を当然ながら驚愕させた。

 

「なんと!妾を知らぬとは!」

 

当然ながら美羽はギャーギャーと騒ぎだした。そんな美羽を子供たちは笑いながら相手をしていた。美羽の必死さが子供たちにとっては面白おかしかったようだ。

 

「あははは!お姉ちゃん面白~い!」

「ねえ、お姉ちゃんも遊ぼう!」

 

どうやら美羽は子供たちに気にいられてしまったようだ。

 

「ねえ、遊ぼうよ~!」

「む、むむ~……わ、分かったのじゃ!特別にお主らに構ってやろう!」

 

なんだかんだ言って、美羽も『お姉ちゃん』と呼ばれた事が結構気にいったようだ。ここで遊んでいるうちに七乃が迎えに来てくれるかもしれない。そんな事を考えていた。

 

 

現在

 

「はあはあ……く~!なんとすばしっこいガキどもなのじゃ!」

 

七乃さんが迎えに来てくれるかもしれないと思っていたのに、美羽はすっかり遊ぶ事に夢中になってしまっていた。美羽は同時に二つ以上の事を考えられないようだ。

 

 

曹操軍side

 

 

曹操軍のみんなはとうとう動き出した。勿論、目的は曹操に化けている偽物と逃げ出した美羽の検索であった。

 

「真桜。例の物をみんなに。」

「ほいさ。」

 

曹操は真桜に命令し、真桜はみんなにあるものを渡した。なんだか、手に持てるような小さな箱型の物体であった。

 

「これは何ですか?華琳様。」

 

春蘭たちが不思議に思うのは当然だろう。今まで見たこともないカラクリだったのだから。

 

「これは『けいたい』と呼ばれるカラクリらしいわ。」

「『けいたい』ですか?」

「ええ。以前、七乃に北郷一刀から聞いた天の国の話を聞いてね。なんでも天の国の人間は遠く離れた者と会話を出来るカラクリを開発しているようなの。七乃に協力させて、真桜にそのカラクリを再現してもらったのよ。」

 

そう言って、曹操は真桜に実際に使わせてみた。

 

「そんじゃ、皆さん。この出っ張りの部分を押してな。」

 

そうして。みんなは言われたようにボタンを押した。

 

「あーあー……聞こえますかー?あーあー。」

「ぬおおお!!なぜだ!なぜ、この箱から真桜の声が聞こえる!?」

 

真っ先に驚いたのは春蘭だった。他のみんなも声にならないくらいに驚いたようだ。

 

「一体、どういう原理で話が聞こえるのだ?」

 

疑問を吹っかけてきたのは秋蘭。他のみんなも聞きたいようだったが、真桜は、

 

「それは『企業秘密』と言うもんや。」

 

なんてはぐらかした。みんな不平不満だったが、曹操がそれを収めてくれた。

 

「皆、これ以上真桜を困らせるのはやめなさい。どうせ説明してもらっても私たちの理解できるようなものではないわ。そうでしょう?真桜。」

「さすが華琳様や!よう分かってる。」

「とにかく、これがあれば、皆と常に状況の把握が出来るわ。見つけたら、これで他の者に連絡する事。良いわね!?」

「御意!」

 

そう言って、みんなは『けいたい』を持って、偽物探しに出かけたのだ。

 

 

真桜side

 

 

「それにしても、いくら連絡が出来るようになったからと言って、この広い洛陽で特定の人物を探すなんて、無茶もいいところやな?」

 

なんて、不平不満を言った。曹操本人が側にいないからこんな事を言えるのだろう。まるで、親に言われた掃除を、みられている時だけ一生懸命。見られていない時にサボるといたような感じだ。

 

「う~ん……袁術はともかく、偽物なんて本当にいるんかい?たとえ、いたとしても本当に分かるんかいな?」

 

まあ、実際に彼女の言う通りだろう。偽物がいると言う報告しかもらっていない。つまり、誰もその偽物を見ていないのだ。本当に存在するのかということ自体、怪しくなってきたものだ。そんな事を考えている最中、空き地から元気な子供の声が聞こえてきた。

 

「あははは!お姉ちゃん、こっちだよ~!」

「おっ!子供が元気に遊んどる。やっぱり子供は元気が一番やな。」

 

実にほのぼのとした光景でった。これも曹操がこの街を再興したからこそかもしれない。そう、思っていた時、

 

「うん?な、なんや?あれ。か、華琳様!?」

 

子供たちを追いかけているのは、曹操そっくりな姿をしていた。いや、そっくりと言う表現ではおかしい。まったく同じ格好をした人物がいたのだ。

 

「か、華琳様!こんなところで何をしてるんですかい!?」

「うん?誰じゃ!?お主。」

 

顔を真桜に向けた瞬間、真桜はそのキャラに似合わずの素っ頓狂な声を出して驚いた。

 

「ぬえええええ!?お、お前は袁術!?」

 

 

その頃の七乃さんは……

 

 

「お嬢様~!」

 

未だに美羽の事を探していた。そんな七乃さんの所にある人物がやってきた。

 

「七乃殿。こんなところで何をしているのですか?」

 

凛だった。側には風もいた。

 

「稟さん、風さん。どうして、こんなところに?」

 

七乃は何となく理由に気付いていた。やはりというべきか、二人の回答は七乃の思っているような事であった。

 

「どうしてではありませんよ。まったく、美羽様を逃がすなんて何を考えているのですか?」

「あ、やっぱり気付かれちゃいましたか。」

「当たり前です!しかも神楽様まで巻き込んで………。心配しましたよ。」

「申し訳ありませんでした。御心配をおかけしたようですね。それで華琳さんは何と?」

「今回は目を瞑るらしいです。正直、ほっとしました。」

 

稟はため息をついて、まったくと言ってそれ以上は何も言わなかった。

 

「ところで七乃さん。問題の美羽様は一体どこに行ったのですか~?」

 

風はあたりをキョロキョロと見渡したが、いくら探しても美羽の姿はなかった。

 

「実ははぐれてしまいまして………。今頃、お嬢様は……うっ!うう!」

「何を考えているのかは分かりませんが、大丈夫だと思いますよ?」

 

風は、まあいずれ見つかるだろう。と思っていた。それに、曹操も美羽の事を許したのだから、なんの問題もないと。そう七乃に言った。

 

「そうですね。ところで、お二人は本当にどうしてここにいらしたのですか?もしかして、お嬢様の事を探しに来たのですか?」

「それもありますが、実は変な情報が入ったのです。」

「変な情報?」

「はい。なんでも華琳様に化けた偽物がこの街にいると言う情報なのですが……。ご存知ですか?」

「…………偽物ですか?」

 

一瞬、七乃の中で何かが走った。何か、忘れているような思い出したような何とも言えない感覚に襲われていた。

 

「………偽物……あ」

 

何かを思い出したようだ。七乃さんはほんの少ししか顔に出していないというのに、風はちゃっかり七乃さんの顔の変化に気付いたようだ。

 

「七乃さんは何か知っているのですか?」

「あはは………その偽物って、もしかしたらお嬢様の事かもしれません。」

「…………はい?」

 

言葉を失うに値するものすごいぶっちゃけ話であった。

 

 

華琳side

 

「………説明しなさい。七乃。」

 

曹操は静かに言うが、はっきり言って怒っている。それはもう阿修羅が裸足で逃げ出すような恐ろしいオーラを纏っていた。

 

側には風と稟もいた。彼女たちは先ほど、七乃からある程度の事情を聞いていた。さすがにこれは隠すわけにはいかないと曹操に連絡したのだ。七乃さんも稟たちの報告を止めなかった、だって、時間が経てば美羽が偽物だという事がばれてしまう。早いか遅いかの違いだけだ。

 

「あははは♪、すみません。華琳様。」

「あははは♪じゃないわよ!一体、どういうつもりかと華琳様は聞いているのよ!」

 

曹操の側には桂花もいた。彼女は、曹操の代弁をしているかのように話す。

 

「七乃。場合によっては私は貴方に罰を与えなければならないわ。」

 

曹操は部下にはそれはもう百合百合しいほどの愛情を注いでいる。そんな曹操が罰を与えると言うのだから、間違いなく本気で怒っていた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。お嬢様と街に出る際、さすがに神楽様の服ではまずいと思いまして。」

「それは分かるわ。問題なのは、どうして、私に似せているという所よ。」

「どうせ、町に出るのならオシャレな格好で出たいじゃないですか。」

「それで?」

「どんな服を着させようかなと思った時、私は華琳様の事が頭によぎりました。」

「私の事が?」

 

曹操は最初、七乃が何を言っているのか分からなかった。

 

「はい。華琳様は普段からオシャレな格好をしているではないですか。」

「お、オシャレ?わ、私が?」

「はい!その小柄な割にメリハリの付いた体に合わせたような服。そして、その美しいお顔をさらに引き立てるような美しい髪。そして………ベラベラ!」

 

いつの間にか、曹操は七乃の会話に引き込まれていた。側にいた桂花もうんうんと首を縦に振っていた。

 

「コレコレこういうわけで、私は思わず、無意識のうちに華琳さんの格好に似せてしまったのです。お嬢様にはなんの罪もありません。」

「そ、そんな……わ、私はそんなに大した事なんか……」

 

七乃さんは、どんどん『自分たちは悪くない』、という方向に話を持って行った。まさに口先八丁というものだ。ある意味、これは魔法と言ってもいいかもしれない。

もう分かると思うが、七乃さんの狙いはとにかく曹操を褒めて褒めて褒め殺し、自分たちの正当性を認めさせる事にあった。しかし、相手はあの曹操。ちょっとやそっとの褒め殺しは逆に仇となるだろう。しかし、曹操は七乃の言葉にだんだん呑まれつつあった。

 

普段の曹操ならば、褒め殺しなんて通用しないだろう。褒め殺しなんて、他の諸侯や豪族たちに飽きるほど言われてきた。そんな、曹操がどうして七乃さんの褒め殺しにほのめかされているのか?

 

理由は簡単だ。曹操が普段褒められるのは、覇王として。もしくはこの洛陽の支配者として。そんなところだ。誰もかれも彼女を『覇王』としか褒めた事はなかった。しかし、七乃が褒めているのは、曹操を『覇王』としてではなく『一人の女の子』としてすごいと褒めていたのだ。曹操もなんだかんだ言って、年頃の女の子。髪型だって気にするし、肌の手入れだって欠かしたことはない。勿論、服装だって。(服は春蘭に買ってもらっているらしいが、彼女のセンスを曹操は高く評価している。)

 

そんな、今まで言われた事のないような事を言われて、曹操は少し……いや、かなり嬉しかったようだ。

 

「本当に申し訳ありませんでした。華琳様。華琳様に似せようとした私が愚かでした。どのような罰でも受ける覚悟は出来ています。しかし、お嬢様だけは……」

 

やっと、話が終わったのか。とうとう、曹操の裁断待ちになった。そして、曹操は……

 

「し、仕方ないわ!そ、そこまで言うのなら今回の件は不問とするわ!」

 

などと、完全に七乃さんの思い通りに動かされてしまった。桂花なんて『ふ、ふん!ちょっとはあんたの事を見直したわ!』なんていう始末。風も稟もほっと胸を降ろした。

 

「でも、私の姿で街を歩く事は迷惑だわ。少なくても、袁術は捕まえさせてもらうわよ。」

「仕方ありませんね。」

 

さすがに七乃は引き際を弁えている。これ以上、は余計な事を言わないようにした。本当だったら、もう少し、美羽にこの街を堪能させてあげたかったが……

 

「袁術を捕まえたら、せめて服を変えさせなさい。そしたらもう一度、街に出る許可を与えるわ。」

「華琳様?」

 

曹操は捕虜である美羽の外出を許可した。さすがの七乃もこれには驚いた。よく見ると、曹操の顔は少し赤くなっている。そして、顔が妙ににやけていた。どうやら、七乃さんの褒め殺しが予想以上に効いたようだ。

 

 

これにて、すべてが一件落着になるはず……だったのだが、突然この場に相応しくない音が聞こえてきた

 

♪~♪♪~

 

真桜特製の携帯電話の音だった。携帯と言うよりは無線機に近い形であったが。

 

『こちら真桜!偽物はんを発見したで!しかも、その偽物はん、なんと袁術や!至急、応援を頼む!ブチ!』

「真桜!待ちなさい!真桜!」

 

華琳の制止も聞かずに突然、会話が切れた。さすがの真桜印の携帯とはいえ万能ではないようだ。みんなに連絡出来なくなっている。おそらく、混雑しているために会話が一時不能に陥っているのだろう。

 

「まずいわね。」

「はい。ものすごくまずいです。」

「まずいですね~。」

「困りました。」

「ちょっと、どうするのよ!」

 

華琳、七乃、風、稟、桂花は同時にまずいと思った。たった今、本当にちょうど今、和解出来て美羽の処罰も無しという流れになってというのに。この場にいない者たちは今の話を聞いてどう思うだろうか?

 

予想するのかとても簡単だ。さしもの袁術が曹操に化けて、仕返しをしようとしている。そんな感じに見えなくもない。しかも、不幸な事にここにいる者以外はみんな単純一図だ。今の会話で、美羽に何かしらの不幸が起きても何の不思議もないだろう。

 

華琳は周りを見た。周りには七乃、稟、風、桂花がいる。orzと倒れそうになった。みんな、肉体派ではなく頭脳派である。

 

「と、とにかく!春蘭たちよりも早く袁術を見つけるわよ!でないと、あの子たちの事だからきっと袁術に何かしらしでかすわ!」

「御意!」

 

そう言って、華琳たちは四方に分かれた。春蘭たちよりも早く見つけなくては美羽が危ない。

 

 

真桜side

 

 

「待てや、こら~!!」

「待てと言われて待つ馬鹿がいるわけないじゃろ~!!」

 

美羽は今、真桜に追いかけられていた。先ほどは子供を追いかけている時と比べモノにならないくらいの俊敏さであった。

 

「はあ、はあ!くそ~!なんつう逃げ足の速さや!」

 

真桜も一介の将と言えど、どちらかと言えば武器を作るのが専門だ。だから、こういう肉体労働は彼女向きではなかった。

 

そんな彼女の元にある人物がやってきた。

 

「真桜!無事か!?」

「おお!凪!」

 

そう、彼女の仲間の凪であった。真桜とは違い凪はバリバリの戦闘員である。

 

「すまん!逃がしてしもうた!」

「大丈夫だ!見つけただけでもお手柄というものだ。後は私に任せろ!」

「うう~!凪、格好良すぎや~!」

 

そう言って、真桜は凪にバトンを渡して、その場に倒れた。

 

「袁術め!華琳様に化け、この街で悪さをしようとは!許せん!」

 

何とも筋違いな事を言っている凪であった。彼女は、ただちに美羽の捜索にその自慢の足を走らせた。

 

(まだ、遠くには言っていないはず……ならば!)

 

なんだかんだ言って、凪はこの街の警邏隊。この街についてはかなり詳しい部類になるだろう。その土地勘のためか?すぐに美羽の後ろ姿を見つける事が出来た。

 

(見つけた!)

 

 

美羽side

 

「はあ、はあ、……一体、何だったんじゃ!あやつは!妾を見かけたら、いきなり追いかけて来よって!」

 

美羽はそんな事を言ったが、何となく理由が分かったかもしれない。もしかして、神楽と入れ替わった事がばれてしまったのかという事に。だからと言って、あんな風にものすごい形相で追いかける事はないのではないか?そんなに悪い事をしているわけではない。ただ単に街を見たいだけなのだから。そんな事を考えていた。

 

「ふう。あやつは……良し。もう追いかけてこんな。」

 

などとほっとしたのもつかの間。

 

 

ドガーン!!

 

 

何か、ものすごい衝撃が美羽の顔をかすめ、目の前にあった茶店を爆散させた。

 

美羽はフルフルと震えながら、後ろを見た。そしたら、

 

「袁術~!!」

 

先ほどにも劣らない恐ろしさで別の人間が追いかけてきた。

 

「うぎゃあああああ!!な、なぜじゃああああ!!」

「待てー!」

 

ドガーン!

ドガーン!

ドガーン!

 

気弾というのだろうか。まるでカメ●メ破みたいな攻撃を連続で打ち出していた。かつて、虎牢関であの三国最強であるはずの恋を怯ませた技だ。

 

「うぎゃあああああ!!な、七乃~!!一刀~!!」

 

美羽は大きな叫び声を出しながら助けを呼んだ。何も知らない人間がこの場を見たら、どっちが悪役か分かりはしない。いや、そもそも悪役なんていないが。そんな事はともかく、美羽は凪の攻撃を既の所で躱していた。まさに紙一重である。

 

「ちい!すばしっこい奴だ!だがこれで!」

 

凪はいよいよ美羽を追い詰めた。そして、最大出力の気弾を美羽に放とうとした。その時、

 

ゴン!

 

鈍い音と共に頭に激痛が走った。誰かに叩かれたようだ。一体誰だ!と振り向いた瞬間、凪は身を凍らせた。

 

「ちょっと兵隊さん!これは一体どういう事だい!」

「そうだそうだ!」

 

一人や二人ではない。複数の人間が凪を敵意ある目で見ていた。彼らはこの街の町人だ、そう、ただの町人である。なのに、凪の事をものすごく怒っていた。

 

「あんたのおかげで店がめちゃくちゃだよ!どうしてくれんだい!」

「ちゃんと弁償してくれるんだろうな?」

「そうだそうだ!」

「あー!!先月、張り替えたばかりの障子が~!!」

 

すさまじいほどの人たちが凪に言いよってきた。

 

「こ、これは……あ、悪を追い詰めるためにし、仕方なく……」

「いくら悪い奴を追い詰めるためと言っても、そのために何かを傷つけていいわけないだろう!」

 

もっともな意見である。

 

「この始末、一体どう責任を取ってくれるんだ!?」

「そうだそうだ!」

 

いつの間にか追い詰められているのは美羽ではなく凪の方だった。

 

「こ、この始末は……ご、後日にでも……いや、ちょっと待て!こ、来ないでくれ!……アアアッッ~~~~~!!!」

 

当然ながら、美羽はこの隙に逃げた事は言うまでもない。

 

 

美羽は大通りを歩いていた。

 

「ふう、まったく、曹操の部下はあんな奴しかおらんのか!?曹操の人となりが分かるというものじゃ!」

 

お前だけには言われたくない言葉だ。

 

「それにしても、走ったせいか喉が渇いたの~。そういえば、七乃とはぐれてから何にも口にしておらんのだ。お腹もすいたの~。」

 

美羽はとぼとぼと歩いていた。そんな中、知った顔が美羽の目の前に現れた。

 

「おお~!!美羽っちやんけ!」

「うん?誰じゃ?」

 

声の主を良く見ると美羽の知った顔であった。そう、霞だ。

 

「おお~!!霞ではないか!」

「ははは!聞いたで、美羽っち。あんた、城を抜け出したそうやないか?華琳の奴、かなり怒っておるで。」

「な、なんと!そ、そんなにか!?」

「ああ。それはもう鬼のような形相でな。」

「うう~………」

「し、しかもその格好………」

「ん?この格好がどうかしたのかの?」

「い、いや、なんでもないん。」

 

真桜の言っていた事は本当であった事に霞は気付いた。やはり、華琳の偽物はこの美羽であった事に。

 

(遠くから見ると、本当に華琳やな。でも………いいな~……可愛いな~……)

 

実際、美羽の姿を見れば誰でも美羽が華琳出ない事に気付くだろう。しかし、この華琳のコスプレともいう格好が恐ろしく美羽に合っているのだ。

 

「まあええ。とにかく美羽っち。城に戻るで。」

「うえ!?な、なんでじゃ!?妾はもうちょっとこの街を見てみたいのだ!」

「そう言うわけにはあらへんのや。早いうちに謝った方が美羽っちのためやで?」

「む~……」

 

とうとう観念したのか、それ以上美羽は何も言わなかった。でも、怒られると分かっていながら城に戻るのはなんだかとても怖い。美羽はとても怖がっていた。

 

「そんな顔すんなや。ウチも一緒に華琳に謝ったる。許してもらったら、今度街に連れて行ったやるさかい。」

「本当か!」

「おお!勿論や!」

「それなら、戻ってやってもよい!ただ~………」

「ただ?」

 

何とも濁った返事である。霞が何かと聞き返した時、

 

ググ~!!!

 

美羽のお腹の中からものすごく多くな虫が泣き出したのだ。

 

「…………………」

「…………………」

 

二人とも黙ってしまった。声を失うほどの大音響であったのだ。

 

「………腹が減ってるんか?」

「………うむ。」

「………はあ、しゃない!どこかで飯でも食って行こうか!おごったるで!」

「本当か!いやっほおおぉぉい!!」

「ま、もう保護したしな。別に飯を食ってからでもええやろ。」

 

霞は喜んでいる美羽を前にそんな事を考えていた。

 

 

桂花side

 

「~こういうわけで、袁術を捕らえるのではなく、保護する事。分かった?」

「ああ。華琳様がそう命じたのなら、仕方あるまい。流琉も分かったな?」

「はい。秋蘭様!」

 

桂花は、美羽を探しにいている最中、秋蘭と流琉に出会った。そして、事の事情を二人に伝えたのだ。

 

「それにしても、この真桜の作った『けいたい』だっけ?もう!必要な時に使えないなんて!」

「物に当たっても仕方あるまい。それにしても、そういう状況ならば、早く袁術を保護しなければならんな。」

「そうね。特に春蘭の馬鹿に見つかったら………考えただけでも背筋が凍るわ。」

「………季衣も同じかも。」

 

桂花と流琉は春蘭と季衣よりも早く袁術を見つけなければまずいと本気で思っていた。

 

「と、とにかく!春蘭の馬鹿と季衣よりも早く、袁術を見つけるのよ!分かった」

「うむ。」

「分かりました。」

 

そう言って、二人とも美羽を探すために走り出した。これで、あの二人よりも早く見つければなんとか美羽を助ける事が出来るだろう。そう思っていた。

 

 

霞side

 

「パクパクムシャムシャ!」

「……ほお、良い食いっぷりやな~!」

 

二人は近くの居酒屋で食事をしていた。美羽は食事に夢中で、霞は美羽の食事風景を肴にお酒を飲んでいた。

 

「ふ~!!いっぱい食べたのじゃ!妾はとても満足じゃ!」

「良かったな。」

「うむ。」

 

満面の笑みで美羽は霞に微笑みかけた。とてもかわいらしい笑みであった。

 

「ところでお主はさっきから何をやっておるのじゃ?」

「あ、ああ。これか。」

 

霞の手元には真桜印の『けいたい』があった。何度いじっても連絡が取れない。連絡が出来ない携帯なんてただの箱であろう。

 

「これは、離れた奴らと会話ができるカラクリらしいんやけど………壊れているようやな。連絡が出来へん。」

 

ぽい

 

そう言って、真桜の努力の結晶である携帯をその辺に投げ捨ててしまった。そして、手元の酒を上手そうに飲み干してしまった。

 

「ぷは~!!ああ~!!昼間っから飲む酒はやっぱ一味違うな~。」

 

実に幸せそうに酒を飲む霞であった。

 

「分からんの~。妾はお酒なんかよりも蜂蜜水の方が好きなのじゃ。」

「なんや、美羽っち。子供やな~。この味の良さが分からんとわな~。」

「な、何じゃと!わ、妾をこ、子供扱いするでない!お、おおお酒の味くらい、妾だって理解できるに決まっておろう!」

「またまた~。無理すんなや。」

「む、無理などしておらぬわ!わ、妾だって……!」

 

そう言って、霞の手元の酒を取り、一気に飲んでしまった。

 

「お、おい!美羽っち?」

「ぷは~!ど、どうじゃ!?」

「おお~!!お見事や!見直したで!」

「ふん!妾に出来ぬ事などないのだ!……ひくっ!」

 

少し、酔っていしまったようだ。霞は、満足しながら、美羽に伝えた。

 

「さてと、そろそろ城に戻るとしようや。会計を済ませてくるから、ここにいるんやで。」

「ひっく……う、うむ……ひく……」

 

そう言って、霞は美羽を置いてレジの方へと言ってしまった。これが彼女の最大のミスであったとも知らずに。

 

「う~……な、なんだか、とっても良い気分なのじゃ~……」

 

ふらふら~と、美羽はどこかに千鳥足で行ってしまった。霞は忘れていた。美羽はものすごい馬鹿だという事を。言われた事を三歩歩けば忘れてしまうような鶏頭であった事を。しかも、今の美羽はホロ酔い状態である。三歩どころか、三秒で霞の言葉を忘れてしまったのかもしれない。

 

「お~い、美羽っち~。そろそろ行くで~。美羽っち?……美羽っち!どこへ行ったんや!?」

 

まあ、こんな事になるのは誰でも予想が出来るだろう。出来なかったのは霞の最大のミスと言うものだ。

 

「美羽っち~!!」

 

何度叫んでも課すもの声が美羽に届くわけがなかった。

 

 

沙和side

 

 

「きゃー!!この服って阿蘇阿蘇に乗ってた最新の服なの~!あ~!!こっちにも!あっちにも~!!きゃー!きゃー!」

 

沙和は美羽を探す仕事をほっぽって衣服店でテンションを上げていた。まあ、彼女に言わせれば、仕事をサボっているのではなく、ただの小休止らしい。

 

「これ、凪ちゃんが着たら可愛いだろうな~!あっ!こっちは華琳様にでも……あは~!幸せ~なの~!」

 

何度も言うが彼女は仕事をサボっていない。ただの小休止である。

 

「う~ん、買いたいの~。でもすごく高いの~。」

「買いたければ、買えばよいではないか?お主にとても似合うと思うのじゃ。」

「う~ん……そうなんだけど、私が着ると言うよりは、華琳様に着させてあげたいというのが本音なの~。」

「お主は変な奴じゃな。自分が着るのではなく、他人に着させて何になるというじゃ?」

「えへへ。分かってないの~♪服ってのは自分で着ても友達に着させてもとても楽しい事なんだよ♪」

「ふーん……」

「………あれ?」

 

沙和は一体誰と話しているのか?その事にようやく気付き、沙和は自分の隣を見た。

 

「え……えええええええ!!!」

 

自分の隣にいたのは、曹操と同じような格好をした美羽であった。そう、彼女たちの目的であった華琳の偽物が目の前にいたのだ。

 

「え、袁術ちゃん!?」

「うむ、妾が袁術じゃ!ぐふふふ……ひっく。」

「あわわわ!は、早くみんなに連絡しなくちゃ……そ、そこを動かないでなの~!!」

「うむ。分かったのじゃ!……ひっく。」

 

美羽は言われた通りにその場を動かなかった。沙和は急いで真桜印の携帯でみんなに連絡を取ろうとした。しかし、どこのも連絡が出来なかった。

 

「ふえ~ん、どうして誰も応答しないの!?」

 

沙和はあまりにも突飛つすぎる今の展開に頭が付いていけなかった。どうして、ここの袁術がいるのか?どうして、みんなに連絡が取れないのか?考える事が多すぎて頭がこんがらがってしまっていた。

 

「これ、お主。いつまで妾は止まっておればよいのじゃ?」

「も、もうちょっと待ってなの!」

 

いくら携帯で連絡しようにもうんともスンとも言わない。完全に欠陥品である。

 

「こ、こうなったら~なの!……えい!」

 

ギュ!

 

「むひゃ!」

 

突然、美羽を抱きしめた。

 

「こ、これ!一体、なんのつもりじゃ?無礼であろう?……ひく!」

「つ、捕まえたの~!ぜ、絶対に離さないの~!……ってお酒臭!?」

 

美羽の体からは酒気があった。

 

「も、もしかして酔ってるの?」

「何を言うのじゃ!わ、妾が酔うわけないじゃろう!……ひぐ」

「絶対に酔っ払っているの~。」

「酔っぱらっておらんと言うとるに。しかし………」

「うん?何?」

「お主の体はやわらかいの~。」

「え?」

「こうやって、抱きつかれるととても落ち着くのじゃ。」

 

そう言って、美羽も沙和の背中に手を回してきた。

 

(うわ!うわ!な、何なの~?この超可愛い生き物?す、すごく可愛いの~!!)

 

この時、沙和の中に眠る『他人をもっと可愛くしたい病』的な何かが目覚めた。

 

 

沙和は美羽を離し、手を引いて試着室の前まで美羽を連れて行った。

 

「え、袁術ちゃん!ちょ、ちょっと来てなの!」

「ふえ?」

 

美羽はわけが分からぬまま沙和の言う通りに動いた。ここから、沙和の本領発揮であった。いろんな服を持ってきて、美羽に着せては脱がせ、着せては脱がせ、まるで着せ替え人形のごとく美羽をこき使った。

 

「はあ……はあ……、と、とってもか、可愛いの~!!袁術ちゃん!次はこっちの服を!」

 

沙和のコーディネイトは、華琳の服装を維持したまま、さらに可愛くするというものであった。もともと、華琳に服を着させたいという強い願望を持っていたために、美羽はちょうど良い実験体であった。しかも、ちゃんと生きている分、春蘭作の『着せ替え華琳様』よりもいいかもしれない。

 

「むう……妾は少し飽きたぞい。まだ終わらんのか?」

「何言っているの!これからが本番なの~!!」

 

さらにギアを上げる沙和であったが、手元にあった服がとうとう無くなってしまったようだ。

 

「新しい服を持ってくるから、ここにいてなの!絶対に動かないでほしいの!」

「う、うむ。」

 

そう言って、沙和は新たな服を探しに行った。そして、美羽は……

 

「やっぱり、飽きたのじゃ。」

 

そう言って、『沙和がコーディネイトした服装のまま』外へと行ってしまった。

 

「ふっふ~ん♪袁術ちゃん!次はこの服を……あれ?袁術ちゃん?袁術ちゃん!?」

 

沙和はあたりを探しても美羽の姿はなかった。そして、

 

トントン

 

沙和は肩を叩かれた。振り向くと、そこには店の店主がいた。

 

「あ、あの………何なの?」

「君の連れのあのお譲ちゃん。出て行ったよ。」

「え、ええええ!!た、大変なの!すぐに探さなくちゃなの!」

 

そう言って、急いで店を出ようとしたが……

 

ガシ!!

 

店を出るよりも素早く腕を掴まれた。

 

「え、な、何なの?」

「あのお譲ちゃん、店の商品をつけたまま出て行っちゃったの。お代を置いて行ってくれる?」

「え?えええええなの!」

「ああ、ちなみに料金は~~~ね。きちんと払ってもらうよ。」

「そ、そんな~!なの~!!」

 

こうして、沙和はその店の店主に捕まり、美羽を追いかける事が出来なかった。

 

 

春蘭、季衣side

 

 

場所が移り、ここは春蘭と季衣がいる場所。曹操軍でも一、二を争うほどの単純な者たちである。

 

「それにしても、袁術見つかりませんね。華琳様に化けているらしいですけど、本当なんですかね?」

「ふん!あんな奴が華琳様になりきれるわけがないだろう!華琳様はあんな奴よりも美しく、気高く、聡明な方だ!」

「でも、みんな近くで見ないと分からないくらい似ているらしいですよ。」

 

彼女たちは町人たちに聞きこみしながら美羽の事を探していた。単純だが、現段階では一番効率が良い探し方であろう。

 

「そういえば、春蘭様。」

「うん?なんだ?」

「もし、仮に、袁術が華琳様にとても似ていたらどうするんですか?やっぱり斬っちゃうんですか?」

「それは、当然………い、いや、ゴニョゴニョしてからでも……ああ、いや、違う!やはりゴニョゴニョの方が……」

「何を考えているのか知りませんけど、あまり考えないようにします。」

 

部下に心配される春蘭であった。

 

 

風、稟side

 

 

「美羽殿、一体どこへ……」

「当てもなく探すのはやはり効率的ではありませんね。」

「そうは言いますが、他に手がない。」

「そうなんですよね~。」

 

稟と風は二人で美羽を探していた。しかし、当てもなく探すのは本当に効率が悪い。どこかに手がかりがあればいいのだが……

 

フサフサ

 

「何か手掛かりになるようなものが欲しいですね。」

 

フサフサ

 

「そうですね~。そう、たとえば、アレみたいな。」

「そうです。ああいう目印みたいな……あれ?」

 

フサフサ

 

彼女たちの目の前には髪を両脇にクルクルとしたツインテールが、ばねのように跳ねていた。

 

「うん?おお!稟と風ではないか!?」

「み、美羽殿!?」

「簡単に見つかりましたね~。」

 

そうして、稟と風は急いで美羽の側に駆け寄った。

 

「心配しましたよ。てっきり、春蘭殿たちに見つかったのかと思いました。」

「ヒヤヒヤしたぜ!心配掛けさせんじゃねえよ!」

「すまんの、稟。それからその頭の変な奴。」

 

美羽は二人に頭を下げた。何ともとても素直な反応である。

 

「み、美羽殿?どうかしたのですか?」

 

あまりにも素直な美羽の反応に二人は不審に思った。そして、美羽に近づいたら、美羽は突然、稟に抱きついてきた。

 

「り、稟。」

「み、みみみ美羽殿!?こ、これはいいい一体!?」

「稟~。」

 

美羽は凛にべったりとくっついて離れない。風はそんな美羽を傍で観察していた。

 

「ふ~む……あ、なんかお酒臭いです。美羽ちゃんはどうやら酔っぱらってしまっているようですね。」

「なっ!?さ、酒?み、美羽殿!貴方はまだ未成年だというのに……!」

「稟ちゃん稟ちゃん。」

「なんですか!?」

「この世界のキャラに未成年はいませんよ。」

「何メタな発言しているんですか!?」

「いえいえ、大人の都合というものです!」

「と、とにかく、美羽殿をなんとかしてください!」

「ええ?稟ちゃんは美羽ちゃんに抱きつかれてうれしくないんですか?」

「そ、そんな事は今は関係ないでしょう!」

 

稟と風がギャーギャーと騒いでいると美羽が口をあけた。

 

「り、稟。」

「み、美羽殿。酔っているのかもしれませんが、とりあえず放してもらえるとありがたいです。」

 

稟は、あははと言いながら、美羽を離そうとしたが、美羽の抱きつく力はさらに強くなった。

 

「り、稟。な、なんか変なのじゃ。」

「へ、変?」

「う、うむ。なんか、体がとても……とても熱いのじゃ。」

 

いつの間にか、美羽の体には熱気が帯びており、顔を真っ赤である。そして、目には涙が浮かんでいるほど潤っていた。

 

「はあ、はあ、り、稟。わ、妾は……妾は病気に……なってしもうたのかの~……」

「み、美羽殿……はう!」

 

美羽は、その震えた手で稟の腰に手を回してきた。しかも、稟の体のラインをなぞるように。

 

「はあ、はあ……り、稟……た、助けて…助けて欲しいのじゃ~……ひっく」

 

ストン

 

美羽が稟に体重をかけたせいで、稟は思わず尻もちをついてしまった。

 

「みみみみ美羽どどど殿!いいい、いけません!そ、そんなところに手を伸ばしては……はあん!」

「りん……稟……。」

「お、おやめください!美羽殿!……ひゃあ!……首筋を甘噛みしないで……ひゃん!」

 

何とも百合百合しい場面である。風も二人のやり方に目を奪われていた。

 

「み、美羽殿!こ、これ以上は……これ以上、何かしたら、わ、私は自衛のために貴方に何かしてしまうかもしれません!」

 

ある種の脅しである。稟にとって最大の抵抗なのだろう。しかし、美羽は……

 

「稟になら……稟になら…・何をされても……妾は構わぬ。」

 

そう言って、ますます甘え?をエスカレートさせていった。この言葉が止めになったのか分からないが、とうとう稟は、

 

「も、もう……ぷふうううううううーーーーー!!!」

 

鼻血を噴き出してしまった。

 

 

すさまじい量であった。まるで噴水のように血柱が立ったのだ。

 

「り、稟ちゃーん!」

 

何ともわざとらしく友の名前を叫ぶ風であった。

 

「稟ちゃん、しっかりしてください!」

「う……ふ、風?」

「そうですよ!風ですよ!しっかり!今すぐ、そんな血なんて止めてあげますから!」

「わ、私の事よりも……み、美羽殿を……」

「稟ちゃんを置いておくなんて風には出来ません!」

 

真面目なのか間抜けなのか分からないシーンを横に美羽は二人のやり取りを見学していた。

 

「美羽ちゃん。」

「うん?何じゃ?」

 

風は突然、美羽に言いだした。

 

「これから、美羽ちゃんは城に行ってください。」

「城にか?」

「はい。そこで七乃ちゃんがお待ちしています。」

「なんと!七乃が!?」

「はい。本当なら私も付いて行きたかったのですが、こんな稟ちゃんをここに置いていくわけにはいきません。一人で行けますか?」

「当たり前じゃ!城に戻るくらい、妾一人でも出来るに決まっとる。」

「そうですか~。」

「気を付けて行けよ!」

「分かっておるのじゃ!」

 

そう言って、美羽は城への帰路へと向かったのだ。しかし、この光景を遠くから見ていた者たちがいた。

 

 

春蘭、季衣side

 

「なんだ!?あの血柱は!?」

「行ってみましょう!春蘭様!」

 

近くに春蘭と季衣がいた。彼女たちは稟の血柱をすぐそばで見てしまったのだ。そうして、すさまじい速さで血柱が立った場所に向かうと、そこはすでに地獄であった。稟が大量の出血をして、風が稟を一生懸命に介護している。

 

「こ、これは……!」

「あ、春蘭ちゃん。季衣ちゃん。」

「風!一体、何があったのだ!」

「いやあ……実は美羽ちゃんが……」

「何!袁術だと!稟をこんな目にあわせたのは袁術だと言うのか!?」

「え?あ、ああ。まあ、確かにそうと言えなくもないですが………」

「許せん!よくも稟を!行くぞ!季衣!」

「はい!春蘭様!」

「………あ。」

 

目にも止まらぬとはまさにこの事なのだろうか?電光石火の勢いでその場からかけ離れてしまったのだ。

 

「………どうしましょうか?」

「………知らねえよ。」

 

その場に取り残された風と宝譿であった。

 

 

天和、地和、人和side

 

ここは、『数え☆役万☆しすたーず』のステージ。今日は天和たちのライブの日でもあった。ステージ前にはお客さんがたくさんいる。

 

「今日もいっぱい人が来てくれたね♪。」

「そうね。これも地和たちの魅力あっての事だわ!」

 

天和と地和は今日の繁盛に大満足なようだが、三姉妹の中で最も冷静で頭脳明晰な人和はこの状況を楽しんでなどはいなかった。どうしてなのだろうか?

 

「姉さんたち、そうは言うけどこの人気がいつまで続くか分からないわよ。」

「どういう事?」

「今日のお客さんたちを見て、何か思わない?」

「お客さん?」

 

天和と地和はカーテン越しにいる客を見た。いつもと同じ風景である。

 

「いつものみんなが来てくれているよ。」

「ええ。でもいつもの人たちしか来てくれていないのよ。」

「それが何か問題あるの?」

 

地和が人和に聞いた。

 

「今は問題ないけど。これから問題になって行くわ。これからはいろんな客層に手を入れて行かなくちゃ、他の歌手たちに追いつかれてしまうかもしれない。」

 

まあ、実際に天の国(現実)の世界でも同じことだ。バラードが得意な歌手でもたまにはロック系の歌に手を出したりする。浜崎あ●みが良い例である。客を飽きさせないための処置なのだ。天和たちの場合、いつもロック系に近い歌ばかり歌っているために若者しか来ないのは必然だと言えるだろう。

 

「確かにそうね……たまには年齢層の高い客のための歌を歌わなくちゃ、みんなに飽きられちゃうわよね。」

 

歌の世界というのはとても厳しいようだ。一度でも飽きられてしまったらそれでおしまいなのだから。

 

「でも、いつもの形を変えるってのは大変よ。何か良い方法があるの?」

 

地和が人和に聞いたが、人和は何も思いつかないようだ。だが、姉の天和が突然何か閃いたようだ。

 

「あ、そうだ!」

「何か閃いたの?」

「うん。美羽ちゃんに協力してもらうってのはどう?」

 

天和が考えた策は美羽に協力を要請する事であった。

 

「あっ!良いかも!あの子って、なぜか年寄りに人気があるわよね!」

 

地和もそう思ったようだ。何回か、美羽とは歌で対決した事がある。だからこそ、美羽の実力はきちんと把握していた。美羽なら大丈夫だろうと。

 

「ちょっと待って!袁術様に協力って………確かに良い方法かもしれないけど……袁術様は今は曹操様に幽閉されているのよ。」

「だったら、曹操様に頼めば良いじゃない。」

「そうそう♪」

 

人和は少し考えてみた。確かに美羽の協力を得れば、高い年齢層の方たちにも自分たちの歌を知ってもらえるかもしれない。そして、華琳には軍の士気高揚のために一時、貸してくれと言えば美羽を貸してくれるかもしれない。そんな事を考えていた。覇王を利用するとはなかなかしたたかな人和である。

 

「そうね。今度、曹操様に聞いてみましょう。」

「あはは♪ また美羽ちゃんと歌えるなんてすごく楽しみ!」

「うむ!妾もお主らともう一度歌ってみたいの♪」

「ま、今の地和たちの足もとにも及ばないかもしれないけどね。」

「何を言うか!?妾とてお主らになんか負けはせんぞ!」

「どうだかな…………って……え、えええええええ!!!!」

 

ようやく、会話の不審さに気付いた三人。振り向けば、そこに美羽がいた。

 

 

振り向けば、そこには美羽がいた。

 

「み、美羽ちゃん!?」

「うむ!久しぶりだの。え~と……そうじゃ、天和!」

 

地和も人和もかなり驚いている。

 

「ど、どうしてここにいるの?そ、それに何なの?その格好。」

「うん?ああ、これか。七乃が仕立ててくれたのじゃ。ああ、そういえば、曹操の部下にもいろいろと仕立ててもらったがの。」

 

服装の事よりも人和はどうしてここにいるのかと聞きたかったようだ。

 

「み、美羽様!どうしてここにおられるのですか?た、確か……貴方は曹操様に幽閉されていたはずでは……」

「七乃と神楽が出してくれての。今日一日だけじゃがな。……ひく。そして、城に戻ろうとしたのじゃがな……ここは、城ではないのか?」

「ここは私たちのコンサートステージです。お城はあちらの方角ですよ。」

「なんと!こっちの方が騒がしいから、こっちが城だと思ってしもうた!」

 

先ほど、風に一人で帰れると言ったばかりなのにこのザマである。

 

「それと、ここは関係者以外立ち入り禁止なのですが……どうやってここに入ってきたのですか?警備の者は?」

 

彼女たちがいるところはステージの裏である。本当だったら、こんなところに入れるはずがないが……

 

「警備?そんな者いなかったぞい。」

「そ、そんな馬鹿な!」

 

人和は急いで、ステージの裏口に行った。すると、そこの警備員はファンたちの喧嘩を止めていた。そのために美羽はこっそりと入る必要もなく、ここに忍びこめたのだ。

 

「………ふう。もう少し、警備とファンの間での取り決めをしっかりする必要があるわね。」

 

とりあえず、事情は読みこめたのでこの件についてはもうお終いという事になった。

 

「所でさ、美羽ちゃん?」

「うん?何じゃ?」

「私たちと一緒にステージに立ってみない?」

「な、何じゃと?」

 

天和がいきなり提案してきた。

 

「ちょっと姉さん!いきなりはいくらなんでも無理よ!」

 

人和が反対するのは最もだろう。振り付けや歌詞をほんの数分で覚えられるはずがない。

 

「大丈夫だって、今日私たちが歌うのは、美羽ちゃんも知っているあの時の歌だもん。」

「あの時の歌?そういえば、お主らは一体何を歌うのじゃ?」

「えへへ~♪ これ!」

 

天和はポスター……ではなく、分厚い瓦版を美羽に見せた。

 

「なになに………『天の御使い作☆らぶ♡ま●ーん』………こ、これは!?」

「そう。美羽ちゃんたちが、黄巾党の本拠地で歌ったあの歌だよ!」

 

そう。かつて美羽が一刀と雪連たちと共に歌ったあの曲である。黄巾党を滅亡に追い込んだ歌を黄巾党の首領だった彼女たちが歌うというのは何とも言えない皮肉である。

 

「こ、これは一刀が作った歌ではないか!?」

「えへへ♪ すごく良い歌だったから真似しちゃった♪でもこれなら美羽ちゃんも歌えるでしょ?」

「当たり前じゃ!お主らよりも上手く歌えるぞ!」

「じゃあ、決まりね!」

 

このようにトントン拍子で話が纏まってしまった。しかし、人和はまだ納得していない様子であった。

 

「もう、天和姉さんは………」

 

しかし、姉が決めてしまった事を変える事が出来ない事を知っている人和はそれ以上言わなかったが、地和が人和に付け足した。

 

「いいじゃない、人和。」

「ちぃ姉さんまで……」

「美羽だって今日だけだって言うし………ほら!ファンのみんなに対する『さぷらいず』ってことでさ!」

「しょうがないな~。」

 

と、このように美羽も今日のステージに参加する事になってしまった。

 

 

そうして、ライブの時間がやってきた。

 

「みんなああ!!元気いーー!!」

「ほああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「声が小さいよ~!!元気いーーー!!」

「ほあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「こっちは元気かな~!!」

「ほあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

いつものやり取りである。みんな、今日のこの時を楽しみにしていた事がこの声からうかがえる。

 

「今日はみんなにとっても『さぷらいず』なお知らせがあるの~!!」

「なああああああにいいいいいい!!」

「今日はこのライブのために『すぺしゃるげすと』を呼んでるのおお!!」

「だあああああれええええ!!!!???」

 

何とも乗りの良いファンたちである。

 

「じゃあ、紹介するよ~!!美羽ちゃん~来て~!!」

「うむ!!」

 

そうして、美羽はステージの上に上がった。

 

「妾が美羽じゃ!皆の者!今日は妾たちのために集まって、妾はとてもうれしいのじゃ!」

 

ざわざわ……

 

ファンたちの間からはざわめき声が上がる。

 

「み、美羽様!?」

「ほ、本物かよ!?」

「誰だ?あのチビ?」

「ば、馬鹿野郎!美羽様だよ!知らねえのか?」

「え?有名なのか?」

「かつて、天和ちゃんたちと歌で勝負して唯一、天和ちゃんたちに勝った人だよ!」

「ええええ!?天和ちゃんたちが負けたの!?」

「今は曹操様に幽閉されていると聞いたが……戻ってきてくれたんだ!」

「うおおおおおお!!こいつはすげえ!天和ちゃんたちと美羽様の『こらぼ』だ!」

 

彼らは黄巾時代からの天和たちのファンである。中には黄巾崩れの者だって少なくない。なので、美羽は古参のファンの間ではかなり有名であった。

 

ざわめきも次第に驚嘆と感激の声に変って行った。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

ファンたちのテンションは最高潮になった。結果論であるが、美羽の参加はかなり天和たちにとってプラスに働いたようだ。

 

「それじゃあ行っくよおお~~~!!」

「ほあああああぁぁぁぁ!!ほおおおおぉぉぉ!!!ほあああああぁぁぁ!!!!」

 

こうして、『数え☆役万☆しすたーず』+美羽のライブが始まったのだ。

 

 

春蘭、季衣side

 

「それにしても袁術の奴め!どこに行ったのだ!?」

「完全に見失っちゃいましたね。」

 

二人は完全に美羽を見失っていた。当てもなく歩いていたら、突然……

 

ドオーン!!

 

近くからすさまじい歓声が上がった。まるで爆撃にあったかのようなすさまじい轟音であった。

 

「な、何だ!?この声は!地響きが起きているぞ!」

「この声……あっ!!」

 

季衣は何か思い出したようだ。

 

「今日は『数え☆役万☆しすたーず』のライブの日だ!すっかり忘れてた!」

「な、何だ?その数えなんとかというのは?」

「知らないんですか!?今、大陸で最も人気のある歌手たちですよ!ほら!華琳様も軍の士気を上げるために何回か城に招いたじゃありませんか!?」

「知らん!」

「………そうですか。」

 

どうどうという春蘭である。そこまで誇らしげに言う必要もないというのに……

 

「あ~いいな~……僕も行きたいな~……。あ、ねえ!春蘭様!」

「なんだ?」

「ちょっとだけ覗いていきましょうよ。」

 

季衣は何が何でも行きたいようだ。しかし春蘭は、

 

「駄目だ!」

 

駄目といった。まあ、当たり前だが。

 

「少し位、良いじゃないですか~。」

「駄目だ!我らには偽物、もとい袁術を探さなくてはならないのだぞ!」

「そりゃそうですけど………」

 

 

季衣は諦めきれないようだた。とたん、季衣は何か閃いたようだ。

 

「そうだ!春蘭様!」

「うん?」

「袁術ってもしかして、あのステージの近くにいるのではないでしょうか?」

「な、何だと!?」

「だって、こんなに探しても見つからないんだもん。あそこなら隠れる場所もたくさんあるし!もしかしたら………」

「………季衣。」

 

少し苦しい言い訳である。さすがの春蘭も季衣の話術に引っかからないだろうと季衣自身思っていたが……

 

「なぜ、それを早く言わん!」

 

見事に引っかかった。

 

「すぐに向かうぞ!季衣!」

「はい!」

 

こうして、春蘭と季衣は天和たちのライブステージへと足を運んだ。これまた結果論だが、季衣の直感は当たっている。しかし、それはまだ知らない二人だった。

 

 

天和たち、美羽side

 

天和たちのサプライズライブは大成功であった。心なしか、お客も増えている感じがする。さっきまで若者ばかりだったというのに高齢者の方たちも来てくれていた。これが美羽の力というのだろうか?

 

「ふははははは!皆の者!妾の歌はどうじゃったか!」

「さああああいいいいいこおおおおおううううう!!!」

「ふははははは!!妾は気分が良いのじゃ!もう一回、歌ってやるのじゃ!」

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

美羽は現在、ホロ酔い状態である、つまりテンションが普段の倍くらい高いのだ。そのテンションがこのライブで遺憾なく発揮されている。やはり、歌手はテンションが高くてナンボというものだ。

 

「それじゃあ、美羽ちゃんも乗ってきた事だし!!『あんこーる』!行っくよおお~~!!」

「ほあああああぁぁぁぁ!!!ほおおおぁぁぁ!」

 

美羽は天和たちのファンの間でかなり人気であった。もともと、美羽は美少女である。それに加え、何だか知らないがものすごい保護欲が駆り立てられる。でっかい口を開く割に器が小さい。そのギャップがさらに美羽を可愛く見せているのだろう。

 

「ほおおおおおぉぉぉぉぉ!!ほああああああぁぁぁぁ!!」

 

ファンのみんなも普段のテンションより心なしか高い。

 

 

春蘭、季衣side

 

「やっぱり、生のステージは違うな~!」

「こら!季衣!我らは遊びに来たのではないぞ!ここに袁術がいるかもしれぬのだから、きちんと探せ!」

「……は~い。」

 

やる気なく返事をする季衣である。

 

「それにしても、これだけの人数から袁術を探すのは無理じゃありませんか?」

「無理でもなんでも気合いで見つけるんだ!」

「そんな~……」

 

深いため息をして、がっくりする季衣だった。こんなはずじゃなかったと思いながら、季衣は見たかったライブステージに目を移した。

 

「あれ?」

 

ゴシゴシ!

 

季衣は目をこすった。でも見間違いなんかではない。

 

「しゅ、春蘭様?」

「なんだ?」

「あ、あれ……」

「うん?……あれは……華琳様!?……じゃない!!袁術だ!」

 

とうとう見つかってしまった美羽だった。

 

 

天和たち、美羽side

 

「みんな~、今日もいっぱい楽しんで行ってくれた~!!?」

「ほああああああぁぁぁぁ!!」

「良かった~!!」

 

ライブももう終わってしまうのだろう。しかし、天和たちも美羽も大満足であった。

 

「美羽ちゃんも、今日はありがとね!とっても楽しかったよ!」

「妾もとっても楽しかったのじゃ!」

「また、一緒に歌おうね!」

「うむ!約束じゃぞ!」

 

そして、握手を重ねる美羽と天和たち。感動のまま、このライブは終わりを迎える………はずだった。

 

「袁術~!!!」

 

天和たちのファンにも負けないような怒号が最後尾から聞こえてきた。

 

「袁術~!!ここであったら百年目!今度こそ、絶対に逃がさぬぞ!」

「待ってくださいよ~。春蘭様~。」

 

 

ドガーン!

 

 

「うあああ!」

「ぎゃああ!」

「ひええええ!」

 

そう言って、ステージを覆い尽くしているファンたちをふっ飛ばしながら美羽に近づいて行った。ふっ飛ばすと言っても、さすがに一般人を怪我させるわけにはいかないため、大剣にはきちんと鞘がされていた。(まあ、それでも怪我はするのだがね。)

 

「ふええええ!!あ、あやつらは……!!」

 

美羽は今日起きた事を踏まえ、春蘭が自分を狙っている事にすぐに気が付いた。そして、あの形相。捕まったら最後だと美羽は直感した。

 

「い、一体何なのあいつ!」

「あれって、夏候惇様!?」

 

天和たちもさすがに今の状況についてこられないようだ。何せ、曹操軍でも最強と名高い夏候惇こと春蘭とその部下の季衣が自分たちのファンたちをふっ飛ばして、こっちに近づいてくるのだから。

 

「ふええええん!!た、助けて欲しいのじゃ~!」

「美羽はあいつらに追われてるの?」

「う、うむ!今、あやつらに捕まってしまったら、わ、妾は……ガクガクブルブル!」

 

顔を真っ青にしながら美羽は震えだした。そして、先ほどホロ酔い状態であった美羽の酔いもすっかり冷めてしまった。そんな、美羽に天和たちは味方した。

 

「何だか分からないけど、美羽ちゃんの事、守ってあげるね♡」

「そうね。私たちのステージをめちゃくちゃにしてくれた仕返しもしなくちゃ!」

「ファンたちには『いべんと』の演出とだけ言っておきましょう。」

「お、お主ら……」

 

天和たちはステージに立ち、大きな声でファンたちに命じた。

 

「みんな~!その人たちは美羽ちゃんを狙う悪い人たちだよ~!」

「お願い!みんな!美羽ちゃんを助けてあげて!」

「ちなみにこれは『いべんと』の一つだから、やり過ぎても構わないよ~!!」

 

彼女たちが命じた瞬間、先ほど、やられまくっていたファンたちの動きが変わった、その動きはまるで洗練された兵たちのように。

 

「なんだと~!!美羽ちゃんを狙う奴だって~!!」

「許せね~!!」

「みんな!行くぞ~!」

「美羽ちゃんを守れ~!!」

 

本当に乗りの良いファンたちだ。

 

「な、なんだこいつ等は!?」

「春蘭様!こっちにも!」

 

ファンたちはここは絶対に通さない!と言わんばかりに春蘭たちに突撃していった。一人一人では彼女たちにはかなわないだろう。しかし、何百何千という人間の突撃なら話は別だ。

 

「さ、美羽ちゃん。今のうちに逃げて。」

「し、しかし!お主らは!?」

「私たちは大丈夫だよ。」

「今日は楽しかったしね!」

「売り上げもいつもの倍近く上がりました。」

「お、お主ら……!」

「さ、早く……!」

 

そう言って、美羽を裏口から逃がそうとした。

 

「くっそ~!!逃がすか~!!」

「春蘭様!こっちからも来ましたよ!」

「おのれ!!次から次へと……!」

「春蘭様~!キリがないですよ~。」

「泣き言を言うな、季衣!必ず、袁術を捕まえるのだ!」

「そんなこと言っても……」

 

次から次へと、天和たちのファンが春蘭たちを襲う。

 

「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」

「美羽ちゃんを守れえええ~!」

 

さすがの魏武の大剣も数の暴力には勝てないようだった。

 

「くっそ~!!!」

「春蘭様~!!」

 

こうして、二人は数に負け、ファンたちに呑みこまれてしまった。

 

 

華琳、七乃、神楽side

 

 

「もう日が落ちますね。」

 

すでに太陽は落ちようとしている。七乃は華琳と神楽と共に美羽の帰りを待っていた。

 

「春蘭たちもまだ戻ってこないわ。もしかしたら、あの子たちに見つかったのかも……」

 

華琳は何とも不安な事を言ってくれる。

 

「美羽なら大丈夫だろ。」

 

神楽は美羽の事を信じていた。美羽ならどんな困難にもその持前の運で乗り越える。そんなふうに思っていた。

 

三人は美羽の帰りを待っていた。この時期、昼間はかなり熱い時期だが、夜は冷え込む。いよいよ、日が落ちてしまった。

 

「もし、これ以上待っても現われなかったら、明日、兵を使って大捜索するわ。」

「………ありがとうございます。」

 

華琳は優しい事を言っているのだが、七乃は明日じゃ遅いと思っていた。夜は冷え込む。その上暗い(夜だからあたりまえだけど。)美羽は未だに一人で眠れない夜がある。そんな美羽をこんな夜の街に置いておけない。七乃はその冷静な顔の裏でかなり焦っていた。

 

「さてと、これ以上は体を冷やすわ。中に戻りましょう。」

「申し訳ありません。私はもう少し………」

「そう……」

 

そう言って、華琳もその場に止まった。

 

「華琳様?華琳様と神楽様はもう城に戻られては……」

「部下を置いて、私だけ城に戻れるわけないでしょう。」

「余も残るぞ!」

「華琳様。神楽様。」

 

何とも心の大きな二人だった。七乃はそんな彼女たちにかなり感謝していた。

 

「それにしても、魏王の私と皇帝である神楽様をこんな事させるなんてね。ほんと、とんでもないじゃじゃ馬だわ。」

「そうだな。」

 

華琳と神楽はそんな話をしながらクスクスと笑っていた。そんな会話をしている最中、

 

「ん?お、おい!あれって……」

 

神楽が、何か見つけたようだ。よく見ると人影だ。しかもとても小さい。

 

「あれは……お嬢様!」

 

美羽だった。足取りがおぼつかない。見るからに疲労困憊の様子で城に戻ってきたのだ。

 

「お嬢様!」

 

三人はすぐに美羽の元に駆け寄った。

 

「おお……な、七乃~。」

 

美羽はものすごく疲れているようだ。呂律が少し変だ。そんな美羽に七乃は優しく言った。

 

「お帰りなさい、お嬢様。」

 

そして、美羽もまた……

 

「ただいまなのじゃ。七乃。」

 

日が落ちたというのに、とても眩しい笑顔で『ただいま』と言った。この一日は美羽にとってかなり、過酷な一日であっただろう。美羽の『ただいま』という言葉にはかなりの苦労が入っているのかもしれない。美羽が今日一日何が起きたのか分からない者も、美羽のこの姿を見れば、決して楽なものではなかったと感じさせる。

 

……フラ

 

美羽が突然、体のバランスを崩し、倒れそうになった。

 

「お嬢様!」

 

七乃が美羽を助けようとする前に……

 

トン

 

華琳が美羽の体を支えていた。

 

「華琳様?」

「か、勘違いしないでちょうだい!た、倒れそうだったから……危ないと思ったから助けただけだから!ただ、それだけよ!」

 

そんな事を顔を赤くしながら華琳は言った。

 

「華琳。お主、顔が赤くなっておるぞ。」

「ギロ!」

 

皇帝陛下である神楽を睨みつける華琳であった。

 

 

美羽は華琳の腕の中で眠っていた。とても安らかに……

 

「はあ、こんな寝顔を見せられたら、今日の事を怒れないじゃない。」

「あはは♪」

 

美羽を腕の中に、華琳はとても困ったような顔をしていた。そんな華琳は何か慈愛に満ちていた。そんな華琳はどこか新鮮だ。おそらく、今の華琳は『覇王』の華琳としてではなく『一人の女の子』の華琳なのだろう。

 

「う……う~ん……」

 

美羽が甘えるように華琳の胸の中でうずくまっている。

 

「な、七乃~。」

 

華琳の胸の中で七乃の名前を呼ぶ美羽だった。

 

「七乃。この子、私と貴方を勘違いしているみたいよ。」

「もう。お嬢様。その方は私ではありませんよ。私はもう少し大きいんですから。」

「………今、何か馬鹿にされたような……」

「気のせいです♪」

 

こうして、美羽の波乱万丈な一日は幕を閉じる…………はずだった。

 

「七乃~……うう……」

 

何か、美羽はうなされているようだ。

 

「この子、うなされてるわ。」

「お嬢様、どうしたのですか?」

「うう……うおっぷ。」

 

七乃さんは美羽の顔を覗き込んだ。そして、何か匂う事に気付いた。

 

「あ、何かお酒臭いです。」

「お酒?あ、本当。」

「なんじゃ、こいつ。酒を飲んでおるのか?」

 

曹操も気付いた。神楽もまた……

 

「…………………」

「…………………」

「…………………」

 

三人は同時に顔を見合わせた。

 

「ま、まさか………!」

 

華琳は戦慄した。七乃も神楽も何となく嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は現実のものとなる。

 

「うっ……おげえええええぇぇぇ!!!」

 

予想に反せず、美羽は華琳の胸の中に胃の中の異物を吐き出してしまった。

 

「…………………」

「…………………」

「…………………」

 

三人の時が止まった。そして、一番最初に我に返ったのは華琳だ。

 

「い……いやあああああああ◆●〒○★§±¶×Γ!!!!!!!」

 

途中から、言葉に出来ない悲鳴を出して、華琳は生まれて初めて悲鳴を上げた。

 

 

後日談というか、今回のオチ。

 

 

華琳は美羽のゲ●がトラウマになったせいか、数日間仕事に手を付けることなく部屋に閉じこもってしまった。

 

春蘭と季衣は初めて勝負に負けたせいか、そのショックと恐怖で数日間、部屋から出てこられなかった。

 

秋蘭と桂花と流琉は、華琳をなんとかして元気にさせようと、数日間、華琳の面倒を見ていた。

 

稟は出血多量で重症。

 

風は稟の介護に大忙し。

 

凪は、未だに店の修復に手を取られている。

 

真桜は全身筋肉痛でダウン。

 

沙和は給料のほとんどを取られてしまい、ショックで寝込んでしまった。

 

霞は、相変わらずのマイペース。(無傷)

 

天和、地和、人和は美羽のおかげで高年齢層の人たちにも名前を売る事が出来て、さらに歌に磨きをかけているようだ。

 

 

結果

 

曹操軍は事実上、壊滅状態まで追い込まれた。立て直しにはもう少し時間がかかるだろう。

 

 

 

 

 

 

そして……美羽は、

 

「七乃~!!次はあっちに行ってみるのじゃ!」

「はいはい!お嬢様!」

 

今日も元気であった。どうやら、美羽は神楽、七乃の協力を得て、自由を手にしたようだ。

 

これにて美羽の小さな冒険は終わる。その頃、あいつは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

「はあ、はあ……つ、着いた!ようやく建業に着いたぞ!」

 

次からはこの男の話に戻る。

 

 

続く

 

 

あとがき

 

こんばんわ、ファンネルです。

 

こんなに遅れてすみません。書きたい事が多すぎて、書きに書きまくったらこんなに時間が経ちました。

 

今まで書いた物語の中で最も長いです。みんな飽きずに読んでいただけましたか?

 

前回、釣り名人様がこの作品の釣り画像を書いた事について、許可を出してしまった事をここでお詫びします。しかし、作者としては、釣られる人が多い事は、不謹慎なのでしょうがとてもうれしかったです。

 

これからも書きますので、この袁術ルートを忘れないでくださいね。

 

では、次回もゆっくりして行ってね。

 


 
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