「紹介しよう。右端のチビから順に、太郎、三郎、はわわ、あわわ、次郎だ。」
「「「真名だけで紹介しないでください!!」」」
「「それ名前じゃないです!?」」
到着と同時に本人たちが何か言う前に勝手に紹介する祐一。
当然、怒られた。
「なんか、すごい人だね…」
「あ、俺は姓は相沢、真名は祐一。祐一さんでも祐ちゃんでもお兄ちゃんでも、お好きなように呼んでくれ。」
「なっ!?ろくに会話もしないうちに真名を預けるなど、正気か!?」
「本当言うと俺の祖国に真名っていう風習はないからな。でも郷に入っては郷に従えとも言うし、祐一を真名ということにした。」
今決めた。とは、ギリギリで言わなかった。
「それに真名は信頼の証なんだろ?義勇軍としてともに戦わせてくれと頼んでいるというのに信頼してないなんてなんの冗談だ?」
「それにしたって…いや、今はそれより、こんな小さな少女が戦列の端に加わるのには…いささか歳が若すぎるのではないか?」
祐一にしてみれば、いささか性別がおかしいのではないか?とでも言いたくなるのだが、そういう世界だと飲み込む。
「ごほん、槍持って戦うだけが義勇軍のすることではないだろ?行軍速度や目的とする相手部隊の決定、戦術や陣形の選択、兵糧の管理、この義勇軍を機会に名をあげて独立する気なら内政ができる奴もいる。その時にこの二人の少女は最大の戦力になってくれる。」
「は~…」
「……」
「なんでこんなに反応冷たいの!?朱里や雛里まで!」
「さっきまでさんざんからかってたお兄ちゃんとは別人みたいなのだ…」
鈴々のこの台詞が、現在の空気の全てを表していたと言ってもいい。
「あの状態の方がいいならあの状態で言いなおす「「いえ!結構です!!」」…最後まで言ってから反論してくれ…」
「ま、まあ、確かにそのような能力のある人材なら……」
「うん!歓迎するよ!はわわちゃん!あわわちゃん!」
「はわわ!?私は姓は諸葛、名は亮、字は孔明、真名は朱里です!」
「あわわ…私は姓が鳳で名が統で字が士元で真名が雛里です!」
名乗りが終わると同時に、祐一は少し睨まれた。
「(睨むな二人とも。そして許してくれ。俺だってまさか本当にあれで呼ぶとは思わなかったんだ……)」
「あっしは唐周。真名は太郎です」
「おでは唐権。真名が次郎なんだな」
「俺は唐香。真名は三郎。俺たちは義勇兵として戦います。お頭に教えてもらった覚悟を持って!」
三郎が祐一の方を向くのと同時に全員の視線が祐一に集まる。
「名はさっき名乗った通り。それから参加を決定する前に、玄徳に聞きたいことがある。」
「ふぇ!?わ、わたし?」
コクと頷き続ける。
「大将であるあなたの芯を、信念を見せてほしい。構わないか?」
「は、はい。私にわかることなら…」
「あなた以外にこたえられるものなど居ない。……あなたが旗揚げした目的と、その思いの強さを教えてほしい。」
「……私は、この大陸を、誰もが笑って過ごせる平和な国にしたい。そのためには誰にも負けない。負けたくないって思ってる。」
ポニテ関羽がなにか口を挟もうとしているのが端に見えたが、劉備が返答すると思いとどまったようで成り行きを見守っている。
張飛は不思議そうな顔をしているが……まぁ、いいや。
「それが、自分の命をかけてまで、自分自身でやり遂げるべきことだと?」
「はい。」
祐一は眼を見つめる。劉備がその眼を見つめ返してくる。決意を込めた瞳で。
「(この子なら、大丈夫。間違えない。取り違えたり、しない。)」
膝をつき、頭をたらし、
「あなたの理想の実現のため、我が剣をお使いください。」
真剣な声で、そう言った。
「私は劉備玄徳。真名は桃香といいます。祐一さん、顔をあげてください。これから仲間としてよろしくお願いします。」
祐一は顔をあげ、桃香の顔をうかがった。微笑んでいるが、先ほどまでのポヤっとした顔ではなく、真剣に自分の言葉を聞き遂げてくれたことを知る。
「仲間…か……文字通りに受け取ってかまわないのか?桃香。」
「はい♪」
「じゃあ、次は鈴々の番なのだ!張飛っていって、鈴々は真名なのだ!真名で呼んでもいいぞー」
「むぅ…我が名は関羽だ。真名は愛紗という。宜しく頼む。」
愛紗は少し不満顔だったことに祐一は気づいたが、何も言わず思うにとどめる。
「(朱里や雛里は自力で認められるだろ…太次三郎は普通の義勇兵と混じればたいして気にされることも無くなるだろうし…俺もああまで言ったからには本気でやるぜ?)愛紗…」
最後の名前だけ無意識に口に出してしまったが。
「何か?祐一殿」
「へ?いや何も…」
「名前を呼んでおいて何もないことはないだろう。」
「………………あ、あんなところに未確認飛行物体が!」
「そんな古典的な手にひっかかるか!」
「(そのツッコミがくるの!?)」
未確認飛行物体とは何だ!みたいなツッコミを想定していたらしい。……UFOでも、通じたんじゃないかとか疑い始めた祐一だった。
ちなみに、カタカナ言葉が通じないのは、この街までの道中にて朱里で実験済みである。
「いや、そんなことよりこれからどうするかって話を俺が来るまでしてたよな?」
「む…むぅ…そうだったな…」
「……………ああ!」
方針決定すべき張本人が完全に忘れてたらしい。
「と、いうわけだから、朱里に雛里。早速出番だ。」
「へ?でも…新参者のわた「俺も新参者だが散々ひっかきまわしてもおとがめなしだぞ。今のとこ。」…ですよねぇ~」
朱里のジト目に耐えきれず目をそらす
「それに、ほら。これからはもう仲間だし?ねえ?」
「うん♪そうそう!二人の意見を聞かせて?」
無邪気に肯定してくれる桃香に感謝し、すこし良心が痛んだ。
「あわわ…それじゃあ………えと、私たちの勢力は諸侯たちと比べれば極小でしかないので、黄巾党のなかでも小さな部隊を相手に勝利を重ね、名を高めることが第一です。」
「敵を選べと言うのか?」
「そういうことですけど、弱小勢力でしかない私たちは名を高めて義勇兵を募っていくしかありませんが、そうなると問題は兵糧です。」
「おなかが減るのは気合じゃどうにもならないからなー……」
おなかを切なげにさする様子に、何かあげたいと思ったのは一人ではなかった。まあ、何も手元には無かったわけだが。
「名をあげながら、討伐行の付近の邑や街の富豪に寄付を募るか…」
「黄巾党の補給物資を鹵獲する以外に現状では補給に関する手段はとれません。」
「それだったらやっぱり弱い部隊を狙って倒して行った方がお得だね~」
「正々堂々を是とする愛紗には納得できない部分もあるかもしれないけど、しばらくは飲み込んでくれるか?」
「これだけ状況を説明してくれれば、それしか方法がないとわかる。私に否はない。桃香様は如何ですか?」
「私もなーし!」
「鈴々は別になんでもいいのだ!」
愛らしい少女の姿で言われれば可愛いなあとか思えるが、燕人張飛という英傑の台詞と思うと若干めまいがする祐一だが、
「(俺が桃香に話しかけた時のことを思えば、自分がおかしいと思ったことにはツッコむのか…)」
意外としっかり者なことに思い当り、ため息をつく祐一であった。
「じゃ、出陣と行くか?桃香?」
「うん!」
果ての無いような荒野を進軍しながら、各方面へと細作を放ち、黄巾党の動向を探る劉備軍。
彼は、そんな細作のうちの一人。祐一である。
「ああ、いい天気だ…」
鬼丸国綱は、鞘も召喚して納め、腰に佩いている。妖術かなんかを使うだとか騒がれるのを嫌ったため、細作として単独行動しているうちに召喚して、ついでにもう異次元に戻す気はない。
今は羽織の下におさまってるし、虚空から剣をとりだしたなんて突拍子もないことはばれることもないだろう。
それよりも、と祐一が考えるのは関羽たちのことである。
朱里や雛里の身体能力を見るに、別に全ての女性が男性より優れた身体能力を持っているわけではないことはわかるし、義勇軍を見たって男女比率は9.5:0.5といったところだ。
それでも、女性の比率が多いと感じはするが、英傑がみな女性という違和感には及ばない。
ならば、愛紗や鈴々が武力の高い英傑として存在しているのにはどんなからくりがあるのか?
特別に剛腕ではないどころか、あれはむしろ細腕だと評価してしかるべきだというのに…
「……ん」
絶対に強さの秘密を暴いてやろうと思いつつ、視界の端に認めたものを間違いがないかどうか確認し、反転して本陣へ戻って行った。
祐一が持って帰る報告は以下のものである。
『前方10里ほどに黄巾党と思しき軍団が陣を敷いている。その数、およそ1万』
「(敵軍の半分程度しかいない自軍でどうするか。腕の見せ所だぞ?軍師様?)」
報告を聞いて転進すれば旗揚げ早々、大義名分を失うことになりかねない。
将の強さだけを頼りに突貫すれば、その犠牲は果てしなく大きくなるし、数の力に勝てるとも限らない。
桃香、鈴々、愛紗だけでは正解を導くことはできない。
祐一にだって無理だ。地形なんてまったく把握してないし、用兵に関しては完全な素人。
まあ、家が家なので、この時代の兵法書とか読んだことくらいはあるが、単なるノルマとしか考えず読んだだけなので自らの血肉にはなっていない。
こんなことになるなら、ちゃんと読んでおけばよかったとか思いながら、気を足に纏い、本陣へ戻って行った。
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三話投稿です。
書いていて個人的に好きだった「ポニテ関羽」という表現はもう出せませんね…というわけで、自己紹介の話です。
祐一君のテンションのギャップは、書き始めた当初の自分の想像以上になってます……