No.124750

いつか君に届いて2

瀧澤淳志さん

大学の長い通学時に少しずつ作ってた作品です。
台本の様に台詞の前に発言者名を書いているのは、仕様です(笑)。
その方がわかりやすいかと思いまして……。

2010-02-16 02:37:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:430   閲覧ユーザー数:429

二人が鏡から出て来て話をしているうちに、時間は完全に遅刻していることを示していた。もう遅刻は間逃れないが、達也は少しでも早く行けるよう駅まで走ることにした。

達也「で、君等も学校に付いてくるの?」

優佳「当然!」

優佳と静琉は、達也の少し後を追いかけて来ていた。

達也「同じ学校なんだ」

静琉「いいえ、残念ながら違うので、近くまでです」

最初は寝ぼけてるのかなぁっと思った達也だが、はっきりしている意識に、今二人が目の前にいることが現実なのだと理解した。

達也「……それで、鏡から来た人とどう見分けるの?」

優佳「見分けるのは私達だから、それは大丈夫」

達也「ああ、そうなんだ。あともう一つ質問していい?」

静琉「なんでしょうか?」

達也「君等がここにいるって事は、こっちの優佳さんと静琉さんが鏡の前に立っても映らないんじゃないかってことなんだけど?」

優佳「それは簡単。世の中には三人似てる人がいるって言うでしょ? 当然鏡の中にもいるから代わりに出てくれるわ。ちゃんとホクロとかも化粧で作ってね」

達也「へぇ~……。あっヤベッ、連絡しとかないと……」

達也は鞄から携帯電話を取り出すと、電話をかけた。

「はい」

 電話の相手の声を聞く。

達也「もしもし昌宏か? 朝のホームルーム、遅刻するからよろしく頼む」

昌宏「了解した。トイレにでも行ってるって言っておくよ」

達也「サンキュー」

電話の相手は田嶋昌宏と言う。中学から同じ学校に通っている親友だ。機転が効く奴で、いつも助けて貰っている。

達也は一安心して、電話を切った。

達也「ふぅ、あとは一時間目の数学か……。まぁ、樋口だから大丈夫かな」

優佳「樋口? ……頭の薄い?」

達也「そうそう! ヅラだって噂でさ、最近はちょっと変……ってなんで知ってるの?」

静琉「強制送還の一人目は、その人になりそうですね」

達也「えっ、樋口が? 嘘だろ!?」

 いきなり知っている人が該当したことに、達也は驚くしかなかった。

話をしているうち、学校の近くの公園まで辿り着いていた。いつもは面倒な通学も、こういう時だとすぐに着く感じがする。

達也は何気なく公園に目をやると、スーツ姿の男がベンチに座っていた。

達也「あれ、……樋口じゃん」

黒板に向かう後ろ姿を何度も見てれば、一発でわかる。

――っていうか、頭で。

達也「何やってんだ? 樋口の奴……」

次の瞬間。後ろを歩いていた優佳と静琉が飛び出し、樋口に近づいた。

優佳「達也、短刀出しといて!」

達也「えっ、ああ、分かった」

優佳と静琉は素早く回り込み、樋口の前に立った。

優佳「はい、動かないで! 規則違反につき、強制送還させて貰うわよ!」

樋口「き、君達は誰かね?」

静琉「そうきますか。でも、彼を見ても惚けられます?」

静琉は短刀を持っている達也の方を指さした。

樋口「ちっ、管理局か!」

優佳「おっと、逃がさないわよ! 達也、早く来て」

達也「ほ、ほんとに樋口がそうなのか?」

優佳「私達が言ってるんだから、間違いないに決まってるでしょう」

樋口「……ちっ、三人が相手じゃ、分が悪いな」

 そう言った樋口は立ち上がり、急に表情を変えて怖い顔になった。

静琉「本性を現しましたね」

樋口「ああそうさ、俺は鏡から来たよ! だってよぉ、コイツ、頭のチェックとかなんだか知らないけど鏡見過ぎなんだよぉ! 俺の自由が奪われるじゃねぇか! だから殺してやったのさ」

優佳「まっ、だいたいこっちに来る奴はそんな理由が一般的よね。でも、規則違反よ」

樋口「そんなこたぁ、分かってるさぁ!」

優佳「あら、物分かりがいいじゃない。でも、もう終わりよ」

急に樋口は、空へ伸びた円柱状の青白い光りの壁に囲まれた。

樋口「これは……まさか! いつのまに!?」

優佳「残念ね、もう逃げられない」

優佳は樋口との話の中、足を引きずり、地面に丸いラインを書いていたのだ。それはファンタジーで良くある魔法陣みたいなものだった。

樋口「こ、こんなもの」

 樋口はラインを消そうとしたが、ラインは消えなかった。

静琉「無駄です。私がいる限り、優佳の転送陣はそう簡単に壊せません」

話からすると、静琉が魔法陣を強化しているのだろう。

樋口「く、くっそー!」

 樋口は諦めず、光の壁を叩いていた。

優佳「さぁ、達也、それで刺して」

達也「ま、マジかよ……」

 樋口を目の前にしても、戸惑ってなかなか手が進まなかった。

あたりまえだ。人を刺すなんて、普通はできるわけがない。

優佳「早くして! これを続けるのってすっごく疲れるんだから」

達也「ああ、もう……ごめんなさい!」

実は刃先が引っ込む仕組みになっていますように……と祈りながら、とりあえず目を瞑って刃を突き刺した。

ガキン!

金属同士がぶつかるような音と共に、その反動が手に伝わる。

達也「……え? ガキン!?」

達也は恐る恐る目を開けると、短刀は見事に樋口の脇腹に刺さっていた。

樋口「ちっくしょぉぉぅ」

短刀で刺された樋口の体は、次第に二次元状に変化し、時が止まったかの様に動かなくなった。そして次の瞬間、樋口の体はまるでガラスが割れたように粉々に砕けた。

達也「うわっ!」

思わずその破片を避けようとしてしまったが、破片は魔法陣の光の壁で遮られ、こちらに飛んで来る事は無かった。

優佳と静琉は魔方陣を静かに消すと、それと同時に破片も消えていった。

優佳「ふぅ……どうやら、無事成功したみたいね」

 優佳は、ラインを引くときに靴に付いた土を払いながらそう言った。

静琉「とりあえず、一人転送出来ました」

 二人の発言を聞いても、達也まだ落ち着けないでいた。

達也「今の魔方陣みたいのって……?」

静琉「はい、今の転送陣で鏡の世界に転送をするのです。だから、あの人を殺してはいないのですよ」

 静琉は達也を安心させようと、笑顔を見せる。

優佳「私たちが転送空間を作って閉じこめ、平面になったところを短刀で刺して割ると、転送ってわけ。まぁ、エレベーターみたいなものかな」

 優佳は静琉の言葉に付け加えた。

達也「じゃあ、殺してはいないのか……」

それを聞いて、達也はやっと安心することが出来た。

 

 

樋口を転送した後、三人は達也の通う学校の校門に向かった。

静琉「では、私たちはこのままこの周りにいますので」

達也「えっ、学校には来ないの?」

優佳「こっちの私達は、あなたと違う学校に通ってるからね。行ったら怪しまれるでしょう? あっ、逃げないでよね?」

 優佳はまた、達也に銃の形を作った手を向ける。

達也「逃げないよ……」

少しふざけて言う優佳達を後に、校舎に向かった。

こっそり教室の後ろの扉から入り、自分の席に座って黒板を見ると、“自習“と書いてあるだけで、教師はいないようだった。

当然だ、さっき――と思っていると、昌宏に話しかけられた。

昌宏「どうやら間に合ったみたいだな、達也」

達也「まぁ、ね」

 自習になったことをいいことに、クラスメイトの何人かが席を立って移動している。誰も、樋口が来ないことに困ってはいないみたいだった。

昌宏「樋口の奴、どうしたんだろうな? 噂じゃ無断欠勤って話だぜ」

達也「そう……なのか」

昌宏「……どうした? なんかすごい疲れた顔してないか?」

達也「そんなことないって」

昌宏「なら良いけどさ」

 結局、代わりの先生も来ることなく、一時間目はそのまま自習となった。

達也「ほんとに、樋口がね……」

いきなりいつもと違う、しかも普通じゃ信じられない出来事が起こり、それをどう頭で整理しようか色々考えているうちに、今日の授業は終わってしまった。

荷物をまとめ、校門に足早に向かうと二人が待っているのが見えた。やっぱり今朝起きたことが本当のことだと思い出される。

静琉「お疲れ様です」

優佳「遅いぞ~」

二人は達也に気付くとそう言った。

達也「これでも終わってからすぐ来たつもりなんだけど……」

授業が終わってすぐに校門に向かったから、これ以上早くは無理だ、と達也は思った。

静琉「ええ、達也さんの顔を見ればわかりますよ」

そう言いながらの静琉の笑顔に、ドキッとした。

達也「あ、うん……」

優佳「……ねぇちょっと、マズいんじゃない?」

 優佳は周りを見ながらそう言った。

達也「え?」

気付くと、周りからざわざわと小声が聞こえてきた。視線から、それはどうも達也達のことの様だった。

周りはみんな制服の中、彼女たち二人だけ私服で、しかもルックスも良い為か、下校途中の同じ学校の生徒からの視線が集まっていた。

達也「た、確かに。とりあえず帰ろう」

達也は急いで二人と共にこの場を立ち去ることにした。

帰り道、一人でまた色々考えてしまった。後ろで付いてくる二人は、二人だけで会話している。内容は聞こえない(聞いてない)が、多分、世間話なのだろう。時々笑い声が聞こえた。

 

 

あれこれ考え事をしているうち、いつの間にか家の前に着いていた。

達也「あ、そういえば君等はこの後どうするの?」

後ろを付いて来たのは知っていたが、この後どうするのかは知らない。

優佳「実はその事なんだけど……」

その先をなかなか言い出さない優佳に、静琉が代わって言った。

静琉「差し出がましいとは思うのですが、今日の所は達也さんの家に泊めてもらえませんか?」

達也「……え?」

優佳「それとも、女の子二人を野宿させるつもり?」

確かに、見た目が未成年の二人が今から泊まるところを探すのは大変だろう。かと言って、野宿させるなんてそんなことは出来ない。

達也「あ、いや……」

――……マジかよ。

正直、どうすればいいか困った。


 
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