「お~い!かずピーこっちやで。こっち~」
博物館の入り口で立っている少年は、待ち人の姿を見つけると手を振りながら自分の存在をアピールする。かずピーと呼ばれた少年もそれに気づき苦笑を浮かべながら駆け寄るのであった。
「おはよう、及川。わり、ちょっと遅れたか?」
「うんにゃ。ギリギリセーフやで。」
「そうか・・・それじゃ、早速いきま「あの・・・」ん?」
友人と無事合流したので行動に移そうとした少年に声がかかる。それは少年達とは性別が違うのだろう、キーの高い声であった。少年が視線を向けると及川の姿に隠れて見えなかったのだろう、小柄な少女の姿が二つ見えた。しかし、声をかけられた少年には見覚えのない顔のようであった。
「ああ、かずピー。紹介するわ。ワイの彼女や!」
「どうも。北郷さんのことは彼から聞いてます」
少年-北郷一刀-は現在、学校の長期休暇が終わりに近づいている為、休暇に入る前に出された課題を片付けようとしていた。本日はその中にあった、学園の博物館の感想文を書く為に現地に訪れることが目的なのだ。しかし、一人で行くのもなんなので、クラスメイトであり、悪友である及川と一緒に行くことにしたのだが・・・。どうやら、及川は別の思惑があったようで、つまりは自分の彼女を一刀に見せたかったらしい。それでも、彼女の友人を連れてきて一刀に居心地を悪くしないように配慮しているところもあり、なんだかんだで憎めない奴である。
その後、お互いに自己紹介を済ませた一行は博物館に入る。
「三国時代の展示品ね~」
「それにしても、三国志好きの学園長にも困ったもんやで。博物館なんて建ててまうんやから。これに金かけるんやったらもっと違うことにかけて欲しいわ」
「確かに」
「同感ね」
博物館を見学して回った一同の感想は上記の通りである。もちろん、こんなことを書くことは出来ないので、ちゃんと考えて書きはするが。
見学を終えた一行は近くの喫茶店で軽くお茶を飲み、雑談に興じる。内容はもちろん、及川と彼女との馴れ初めだ。及川は嬉しそうに語ってくれたが、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。それをさらに友人にからかわれてしまったりしていてちょっと可哀想に思うが、幸せの代償として我慢してくれと軽く流す一刀であった。
喫茶店を出た一行はそこで解散になり、まず及川が彼女とのデートに行くということで二人仲良く手を繋いで去っていった。及川の彼女の友人も用事があるらしく帰るらしい。特に用事のなかった一刀も一人でブラブラとするのもなんなので、帰宅することにした。
「しっかし、意外と楽しかったな。あいつが彼女連れてきたときはどうなるかと思ったけど」
帰り道で、一刀は博物館でのことを思い出して笑みを浮かべる。4人での行動では常に及川が会話の主導権を握っており、一刀がツッコミやときおりノッたりし、彼女の友人がそのボケに対してつっこんだり、相槌を打ったり、及川の彼女はそれにひたすらに笑っていた。その人を飽きさせない話術に一刀はただただ感心する。それからも今日あったことを思い出していた一刀だが、感想文のことに思考が向いたとき、ふと博物館のあることが思い浮かんだ。
「あの光はなんだったんだ?」
それは博物館の一番奥にある展示品を見たときのことだ。三国時代の鏡と題されたそれ。その鏡を見た瞬間、一刀の視界は真っ白な光に埋め尽くされた感覚に陥ったのだ。驚いて目を閉じてしまい、及川達を不思議がらせてしまった。その光は目を開けたときにはすでになく、及川達はなんとか誤魔化したがその後も一刀の心には鏡のことが気になって離れなかった。
「・・・なんだ?」
鏡のことを考えていた一刀の前で、数人の人が悲鳴を上げて逃げ惑っている光景が目に映る。その逃げ惑う人を追う巨大な影が騒ぎの元凶のようだ。
「俺も逃げたほうがいいかな?」
なんとなく危険と感じた一刀は、避難しようと踵を返そうとしたところ。
「あらん?」
見つかった。見つかってしまった。一刀が恐怖を感じ、背中には悪寒が走る。考えるよりも体が動き、体裁もなく逃げ出した。しかし・・・。
「な~んで逃げるのかしらん?」
回り込まれてしまい、逃げることが出来なかった。筋骨隆々の体をして、頭ははげているのか?そっているのかわからないが、両側にのみ生えている髪を左右一本づつの三つ編みにしているおっさんが一刀の体をつま先から頭のてっぺんまで見つめている。
正直、悪寒がさらにひどくなった。夢なら早く覚めてくれ!そう思わざるを得ない一刀。しかし、悲しいかな。これは現実である。
「あなたね。選ばれたのは」
恐怖を感じていた一刀だが、おっさんから出た言葉に何故か先ほどの鏡のことではないかと考えに至る。恐怖を感じるが、それ以上に興味が沸きおっさんの話を聞こうと逃げるのをやめる。
「選ばれたっていうのは鏡が光ったことと関係があるのか?」
「あらん?よくわかったわね。私はまだ何もいってないのに」
おっさんは少し驚いたように目を大きく見開いた。
「いや、なんとなくな」
「そう・・・なかなか鋭いじゃない。これなら、こっちも安心して任せられるわ」
任せる。この言葉に疑問を抱いた一刀、真意を問おうとするも先ほどの騒ぎで周りが騒々しくなってきた為「場所を変えましょ」というおっさんの提案を受け、移動することにした。
「で?鏡のことを説明してくれるんだろ?」
「もう!せっかちな男は嫌われるわよ?そうね・・・まずは自己紹介しときましょうか」
おっさんの名前は聞いた瞬間、信じる信じないよりも先に思わず反論をしてしまうくらい衝撃的な名前だった。ある歴史を知っている人にはあまりにも有名な人物の名前だったから。
「私の名前は貂蝉。しがない踊り子よ」
貂蝉。それは三国志に登場する絶世の美女の名前。が、目の前にいるのは禿げた左右におさげのおっさんである。信じたくはない。
「嘘だ!信じられない!貂蝉って言や、三国志に登場する絶世の美女の名前だぞ!それをどうみてもおっさんのお前が名乗るなんて俺は断じて許さない!」
「だ~れが、目を合わせた悪夢にうなされてしまうような化け物ですってぇ!!私は正真正銘、貂蝉よ!ほら、みなさい?この踊りの美しさを!」
言うやいなや、「ふんふん!」と荒い息で腰を激しく振りながら本人曰く踊りを踊っている自称貂蝉、一刀視点では貂蝉の名を名乗る変態。踊り?も美しさを感じるよりも荒々しさしか感じられない。正直、話なんてどうでもいいから早くこの場から退散したくなった一刀。
「っと、本題を忘れるところだったわ!」
10分程踊った貂蝉はようやく満足したのか、正気に戻ってくれた。あのまま続けられたら精神が壊れていたかもしれない、心底安堵しながら一刀は本題を切り出す。今度は余計なことを言って話を脱線させないように注意しながら。もう、あのような拷問タイムは勘弁願いたいから。
「それで?俺が選ばれたってのはどういうことなんだ?」
一刀が本題を切り出すと真剣な眼差しでどことなく翳りのある表情で説明をしてくれた。
「こんなこと、いきなり言われても信じられないと思うのはわかるわ。でも、最後まで聞いてね」
そう前置きをした後、貂蝉は話出す。その内容は確かに到底信じることが出来る内容ではなかった。
「世界の管理者ね・・・確かに信じろって言うほうが無理だな」
「でしょ?でも、悲しいかな事実なのよね。だから、こちらとしては信じてもらうしかないのよ」
貂蝉の話では、彼女?らは外史と呼ばれる一種のパラレルワールドを管理している者の一人なのだそうだ。外史は幾多にも分岐し、生まれ。そして、終焉を迎える。彼女?もその仲間達もいくつもの誕生と終焉を見守ってきた。ある時は管理者が世界に介入し、外史をあるべき姿へと修正するという強引なやり方もしてきたのだそうだ。それでも、自分達の仕事に誇りを持ち役割をこなしていたのだが。
「そんな自分達の仕事に残酷な現実があったのよ」
その現実を目の当たりにした貂蝉の友達はまるで抜け殻のようになってしまったというのだ。自分の役割をただこなすだけの人形に。助けてあげたいと思うが、自分達は自分達の力では外史に介入することは出来ても、あまり大きなことが出来ないので助けられない。外史の世界に生きる人には管理者に抗うことが出来ないのだという。そこで、正史に生きており、外史に適応出来る人に仲間を助けてもらおうと考えたのだという。
「その適応した人間っていうのが俺で、鏡が光って反応したってことなのか?」
「正解。判定基準は聞かないでね。私もわからないから」
判定基準とかはあまり気にしていなかったので問題はない。それよりも気になることが一刀にはあった。
「話はわかったが、それはお前達の都合だろ?正直、仲間を助けるメリットが見えなければ誰だって断る話だぞ?」
「そうね・・・。でも、私はあの子達を助けてあげたい。今の自分に、世界に絶望している子を助けてあげたいの!だから、協力してちょうだい!私の出来る範囲ならあなたの願いをかなえるから」
一刀はじっと貂蝉の目を見る。彼女?の言葉に嘘偽りがないかを見定める為に。一刀の気になること。それは貂蝉の仲間に対する思いだ。そこに下心や何か不穏なことがあった場合は可哀想だが、断るつもりでいた。しかし結果は、彼女?の目には一点の曇りがなく、本当に仲間のことを心配しているのだと感じられた。
なら、一刀の出す答えは決まっている。
「お前がどんなに仲間を大切にしてるかは目を見ればわかった。濁りがなくまっすぐな目をしてるからな。嘘はないと思った。・・・だから、俺はお前に協力するよ」
そう貂蝉の仲間を助けるという答え以外に選択肢はなかった。
「ありがとう!このお礼は私の体でたっぷり「助けるって具体的にはどうするんだ?」・・・そうね。私が案内するから、あなたは話を聞いてあげて」
貂蝉の言葉の中に不穏な気配を悟った一刀は話題を強引に変えるが、幸いにも貂蝉はその話にのってくれた。話を聞きながらも助かったと思う一刀だった。
「話を聞くだけでいいのか?」
「ええ、それだけすればあなたには次にやるべきことが見えるはずだもの」
「おいおい、そんなこと言われても俺はそんな出来た人間じゃないぞ?」
貂蝉の絶大といってもいい信頼の言葉に一刀はむずかゆくなるような感覚になる。そんな様子に少し表情を曇らせて言葉を続けた。
「あなたのことは少し調べさせてもらったからね。だいたいのことはわかっているわ」
勝手に自分のことを調べられていい気分になる人はいない。知らない人物に調査される、しかもその人物から協力要請。通報されてもおかしくないだろう。が、一刀は表情も変えずに一言。
「そうか。なら、その信頼に応えますかね。貂蝉、案内よろしく」
「え、ええ。わかったわ」
あまりにあっさりした発言に貂蝉のほうが戸惑ってしまったくらいだ。
「さぁ、これに触れてちょうだい」
貂蝉が取り出したのはあの博物館で見た鏡だった。ちなみにどこから取り出したのかは秘密だ。思い出すと精神に大きな被害が及ぶ為である。
「それって、博物館にあった・・・お前、盗みは犯罪だぞ?」
「大丈夫よ。これはあれとは別物。姿形、機能が同じってだけよ」
「それなら、いいけど」
「ささ、これに触れてちょうだい。それだけで、あなたを目的の場所まで連れてってあげられるのよん」
ずいっと差し出される鏡。それに触れようとして、彼は根本的なことを聞いていないことを思い出した。
「そういえば、どこに行くんだ?あと・・・誰を助ければいいんだ?」
「時は古代中国。漢王朝時代、あなた達風に言えば、三国志と言われる話の時代よ」
「えっ?」
「一つ忠告しておくわね。そこでは、現代の常識を捨てなさい。さもないと死ぬわよ」
「ちょ、ちょっと!?」
真面目な顔で忠告すると貂蝉は鏡を一刀の手に触れさせる。まだ、質問をしようとしていた一刀は焦った。鏡に触れた瞬間、体が吸い込まれるように引き寄せられていくから。
「うわああああああああああああああああああああああああああああ」
抵抗らしい抵抗も出来ず、一刀は鏡の中へと吸い込まれ、消えていった。
貂蝉は一刀が鏡の中へと吸い込まれるのを見届けるとぽつりと零す。
「私の仲間をよろしくねん」
鏡をしまうとその場に背を向け去っていこうとして何かを思い出したかのように笑う。
「北郷一刀。幼少期に両親と死別し、親戚に預けられるもやっかいもの扱いされる。その為、非行に走り夜な夜な喧嘩に明け暮れる。中学に上がると同時に孫の状況を知った祖父に引き取られ更正。それと同時に農業に興味を持ち農業とそれに関することについて勉強を始める。さらに、地元では同年代がおらず年下ばかりな為、面倒見がよく親御さん達の信頼も厚いか・・・。どぅふふ。情報以上に興味深い人だったわね。それに私の目が曇ってないとか・・・いやぁああん♪格好いいじゃないの~。惚れちゃったわん♪」
こうして、北郷一刀は貂蝉の手によって三国志の世界へと足を踏み入れたのだった。
はじめまして。
この度、小説を書かせて頂きました『びっくり』と申します。
以後よろしくお願いします。
初めての投稿の為、勝手がわからず短過ぎないかな?
と投稿の出来に不安になっています。
次回はもっと長く書いてから投稿しようと思います。
また、アドバイスがございましたらよろしくお願いします。
その意見を糧にして良い作品を書けるように精進していくしだいです。
さて、作品についての説明をしたいと思います。
この作品は再構成となっています。
作品中でも少し触れていますが、一刀の設定を変えています。
設定の説明は出来るだけ作中でするようにしますが、ある程度の話数とキャラが揃ったときに
設定集のようなものを書いてみようと思っています。
では、これからも私の描く物語をよろしくお願いします。
Tweet |
|
|
118
|
85
|
追加するフォルダを選択
はじめまして。この度、真恋姫無双の小説を書かせて頂きました。
主人公は北郷一刀君であります。まだ、序盤ということで出ていませんが。今後オリキャラ武将を出す予定です。オリキャラが苦手、嫌いな人はご注意下さい。
また、真恋姫無双に登場しないが無印に登場したキャラも出す予定ですので。お楽しみに。