第三章《死なせないよ》
「あんた何者だ?いったい何がしたい、なぜ俺たちの事を知っている。」
「アタシの名前は貂蝉。あなたに会いたいという人を連れてきたのよぉ。」
「兄さんに会いたい人ね・・・、誰?」
優理が怪訝な顔をすると同時に、疑問を口にした時。
「それは私です。」
突然の背後からの声に振り向いたさきには、どこか儚げな印象をかもし出す、女性の姿。
「・・・・・・あんたは?」
目の前の人物に話しかける。
「失礼しました、私の名は管轄。
あなた方の住む正史と異なる世界、外史とを繋ぐ者。
とでも申しましょうか。少しお話でもいかがでしょう?」
名乗りを聞いて、途端に優理が胡散臭そうな顔をする。
「外史だ正史だって・・・・。ねぇ、あんた何が言いたいわけ?」
この疑問も当然のものだろう。
突然、「今いる世界とは別の世界がある。」と言われて、
あなたは信じることが出来るだろうか?
もちろん信じる人もいるだろうが、
即答できるか。否。
「でもまぁ、そこの貂蝉だっけ?そいつと仲間なら捕まえるだけ。話なんか聞いてる暇は・・・」
「下がれ、優理。」
一刀が、冷たい声で優理の言葉を遮った。
「兄さん?」
「あらぁん。ご主人様は聞いてくださるのぉん?」
「誰がご主人様だっ!・・・・・で?魏のみんなに何かあったのか?」
管?同様、訳のわからない事を言い出す一刀に、優理は戸惑う。
(兄さんまで何言い出すんだ?)
「なぜ魏に何か起きたとお思いですか?」
「俺が関った外史は・・・、俺が本来の歴史から完全に外しきった外史は一つ。俺に話があるって言ったら、それ以外にないよ。まぁ”別の俺”はどうだったかは知らないけどね。」
一刀の気配が、肌を刺す針のような質のものに変わる。
久しぶりに感じた、戦に挑む前の一刀の気配と理解できない言葉に、
優理は動揺を隠せないでいた。
「ね、ねぇ兄さん。さっきから何言ってんだよ?外史とか魏とか・・・・・兄さんが歴史から外した、とか。なんなんだよ、訳わかんないよ!」
優理の怒鳴るような声を聞き、一刀がポツリと語り始めた。
「・・・・・・。四年前に俺は、三国志演義の世界を、いや、それに似た世界の歴史を変えた。」
「三国志演義に似たって・・・、三国志じゃないのか?」
「ああ。なんたってあの、曹操や関羽、呂布なんかの武将全員か女の子になってる世界だ。
そこで俺は、天の御使いとして魏に下り、曹操と共に戦っていた。」
先ほどから、一刀の口からこぼれる言葉に混乱する。
外史
三国志に似た世界
変わった歴史
女になった英雄
ごちゃごちゃになった考えを整理しようとしていた頭が、ある答えを導き出す。
「まって・・・。魏で戦っていた?そして兄さんが歴史を変えた。ってことは・・・・・。」
それはつまり・・・・・・
「そうだ。本来は赤壁で負けるはずの魏が勝った。俺が勝たせたなんて言えないが、これから起きるであろう出来事や敵の策なんかは伝えた。定軍山で夏候淵も死んでない。」
だがそれは、いくら外史とはいえやって良いことなのか。歴史を曲げてしまった一刀はどうなったのか。
「そんなことダメに決まってる。だけど、彼女たちに、華・・・いや、曹操に勝って欲しかった。
だから、歴史を曲げるようなことをしたんだ。ま、代償はでかかったけどな。」
「代償?」
優理の言葉で、とたんに一刀の顔に影が差し、自嘲的な笑みを浮かべた。
「曹操と、約束してたんだ。ずっと側にいるって。でも無理だったよ。」
「え・・・、なんで」
「消えたんだよ、彼女の前から俺は。満月が綺麗な夜にさ、彼女を泣かせながら俺は消えたんだ。」
(兄さん・・・、涙は出てないけど、泣いてるみたいだ。)
「そっか、兄さんは曹操さんのこと・・・。」
「ああ。愛していたよ、この世の誰よりも。」
「そろそろよろしいかしらぁん?」
二人の会話に貂蝉が割り込む。
「すまない。それで、管?よ。話とは?」
「それでは、単刀直入に言いましょう。北郷一刀様、曹孟徳の代わりに消えていただけませんか?」
優理は理解できないでいた。消えろと、確かに言ったのだ。自らの兄貴分に向かって。
「っつ!あんた!何を!!」
だが、
「わかった。」
兄は言った。自らの存在を消せと言われて、消えると、何の迷いもなく。
「兄さん!?何言ってるのかわかってるのか?死ねって言われてんだぞ!
兄さんが消える理由がどこに・・・」
「理由はあるさ。華琳の”代わり”に消えろってことは、華琳が死ぬ運命にあるんだろ?」
どうなんだ、と管轄に問う。
「ええ。彼女は、不治の病を抱えています。
今すぐにとは言いませんが、いずれその身に巣食う病魔が暴れだすでしょう。」
「今、再び動き出した五胡の軍勢と三国同盟は戦っているわ。その中心である曹操ちゃんが倒れたら?」
「三国同盟は決定的な打撃を被る。だったら俺が身代わりになれば・・・・・・。」
「円く収まるわねぇ。」
「収まんねぇよ!」
自らがおいて行かれたまま勝手に進んでゆく話。ついに堪えかねて、優理が爆発する。
「決定的な打撃?兄さんが身代わり?ふざけんな、なんで兄さんがそんなことする必要があんだよ!兄さんが消える理由なんてどこにも・・・・・。」
「俺にはあるんだよ、優理。」
突き放すような冷たい言葉を突きつける。
「なんだよそれは!」
「「「歴史を捻じ曲げた。」」」
まったく同時。三人の声が重なる。
「え・・・?」
それは禁忌。未来を、人をすべて変えてしまう。生まれいずる子は生まれてこず、これから起こるであろう出来事が起こることが無くなってしまう。
「魏は負けるはずだった。たとえば蜀の劉備ちゃんに孔明ちゃん、
呉の孫策ちゃんに周喩ちゃんなんかも死ぬはずだったのよぉ。」
「そのしわ寄せが、一刀様の一番近くにいた曹孟徳様に来てしまっている。」
「だったら、俺が全てを背負うのがあたりまえだろ?」
無論、彼女がそれを望むはずが無い。だがそれが、泣かせてしまった彼女に、今、俺に出来る唯一の償いだと彼の目は言っていた。
「兄さん・・・・・・。」
「そんな顔するなよ。」
泣き顔の優理と口元に笑みをたたえた一刀。
「ただ、いつ彼女の病魔が暴れだすかはわからないのです。」
「そこでなんだけど、ご主人様。あなたの魂を別の物体として構築しなおすわぁん。」
そういうと、一刀の胸に手をあてる。刹那、眩い光を発した。
「ぐっ!」
光が止むと貂蝉の手には、ビー玉くらいの大きさの、
「・・・水晶の、首飾り?」
「ええ。ですが、こう見えてこれは貴方の魂。万が一割れたり、壊れたりすれば・・・。わかっていますね?」
一刀に首飾りを手渡す。
「死ぬか・・・。それで、俺はどうすればいい?」
「基本的には、向こうでなにをしてもかまいません。
ただ、曹操様に異変が起きたら、その水晶を渡してください。」
「すぐに渡してはいけないのか?」
「犬死したいのならば、お好きに。」
フフッと、管轄が妖艶に微笑む。
「気をつけるよ。」
「じゃあご主人様。門は開いておいたわぁん。」
指差す先には、光。
「バイクは持っていってもいいわよぅ。」
「ありがたい。じゃあ・・・」
「僕も行く。」
優理が一刀の言葉を遮る。
「なに?」
「僕も行く。んで、曹操さんも助けて、兄さんも死なせない!」
先ほどまでとは打って変わり、優理は子供のように澄んだ目で言った。
「僕には、兄さんたちが何言ってるのかわかんない。
どうやっていいのかすらわかんない。バカだから。ただ、難しいって事ははわかる。」
そこで一端言葉を切り、大きく息を吸う。
「それでも、諦めたくない!だからつれてけ!!」
そして。思いっきり叫んだ。
「・・・・・・ったく。」
「ふふふ。」
「むふぅん。か・わ・い・い。」
ひぃ!
「失礼ねっ!あんたの穴、掘るわよ!」
「やめてぇぇぇぇっ!」
あらら、泣いちゃったよ。これから北郷君死ににいくかもなのに・・・グダグダだよ(笑)
「ほれ、優理。後ろ乗れ。」
「おー!」
「北郷様、ご武運を。」
「おっしゃ、・・・・・・逝くぞ!」
そして、霧の向こうに消えていった。
「っつ!」
一刀の顔が引きつる。
「ぎゃあぁぁぁぁああああ!」
今日何度目かわからない優理の叫び声。
なぜ?
それはね・・・・・・
霧を抜けた瞬間、かなり高い崖から飛び降りてたんだ、空を飛んでたんだ(泣)
バイバイ。みんな!
To be continue...
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この作品は、真 恋姫無双の二次創作作品です。
もちろん、たくさんの人に楽しんでもらえるように頑張っていますが、まだまだダメなところがたくさんあると思います。
ぜひ、アドバイスなど貰えるとうれしいです。
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