新・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 蒼華綾乱の章
*この物語は、黄巾の乱終決後から始まります。それまでの話は原作通りです。
*口調や言い回しなどが若干変です(茶々がヘボなのが原因です)。
第二話 徐晃 ―知勇、集いて道は始まる―
反董卓連合。
史実では都での董卓の暴政を見かねた曹操が檄文を飛ばし、河北の袁紹が盟主となったこの連合は、どうやらこっちではそう簡単な話でもないようだ。
『どうせ自分以外の人間が権力の中枢を握ったことへの腹いせでしょ?』
頭の奥に反芻するのは、先日の華琳の声。
嘲る様な、呆れた様な、諦めた様な、そんな声音。
そう。
つまりこの世界での反董卓連合は、袁紹の腹いせに始まるという何とも下らない戦いになり下がってしまったのである。
「はぁ…………」
宛がわれた部屋で、本日既に三ケタを超えたであろうため息を洩らした。
(実際は違うんだとしても、やっぱり戦わなきゃならないんだよなぁ……)
「今更不服か?」
「うぉッ!?……し、司馬懿か」
「心外だな。何だその化け物を見た様な眼は」
心の声に応えた様な言葉を返したのは、この間から華琳の陣中に加わった司馬懿。字を仲達。
あの宴席での仕官の申し込みは、意外な事にあの華琳が一も二もなく許可した為に晴れてその幕下となる事になったのだが……。
(桂花とか凄い睨んでたよなぁ……俺と初めて会った時以上じゃなかったか?)
「自らの最も忌むべき所の男が、自らが最も敬愛する主君にあっさりと認められたのが気に入らんだけだろう。僕ならば、才を示して黙らせればいいだけの話だ」
「…………なぁ、司馬懿ってもしかしてエスパー?」
「その『えすぱぁ』というのが何なのかは知らんが、君の顔を見れば何を考えているかなんて直ぐに分かるぞ」
若干呆れた様な目線を向ける司馬懿は、ふと思い出した様に口を開いた。
「ああ……そう言えば忘れていたな。北郷、出陣だ」
「え?また賊徒でも出たの?」
「察しがいいな……いや、それ以外に出陣する理由がそもそもないか。ともかく出るぞ」
華琳が居を構える屋敷を、やや慌て気味に走る一つの影。
手にはそれなりの数の書簡が携えられており、彼女の胸部を押し上げる布地を下から更に押し上げる格好になっていた。
「あぅあぅあぅ~~~っ!」
情けない様な声を上げる女性は、慌てた様に壁際に角を曲がり―――
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
同じく走っていた一刀と激突した。
しかもかなりの速度で走っていたせいか、激突した際に女性が持っていた書簡が宙に舞い、二人は盛大な音を立てて床に飛び込む様にして倒れた。
「北郷!何をやって……い、る?」
一刀の隣を疾走していた司馬懿は慌てて足を止め振り返り、然る後言葉を失った。
「いてて……だ、大丈夫ですかってうぉわ!?」
「きゅ~~~」
目を回して仰向けに倒れる女性のふくよかな胸を鷲掴みにする両手。
女性の上に覆いかぶさるようにして倒れ、頭は丁度膨らみの谷間にうずめられていた。
無防備な女性を強引に襲う暴漢。
傍から見ればそれ以外の何者でもなかった。
「……北郷」
「ち、違う!誤解だって誤解!!だ、だって急だったしホラ!!な!?」
「……弁解の前に、まずはその手と身体をどけるのが先ではないか?」
後でこの事が露見し、出陣前にも関わらず後で華琳の説教をのたまう事が確定した未来の種馬であった。
「わ、私は姓を徐。名を晃。字を公明と申します」
文武両官が居並ぶ席で、やや上擦った声音で女性、徐晃が名乗った。
勢いよく頭を下げるのと同時に衣服に包まれた二つの果実がプルンと揺れ、一部というか半分以上の人間が自分のと見比べて小さく嘆息を洩らしたのを一刀は聞かなかった事にした。というよりその揺れた果実に目が行っており、隣に座す司馬懿に呆れた様なため息を洩らされていた。
「えと……は、初めてお会いする方も多いですけど。……お、お願いします」
沈黙が苦しかったのか、付け足す様にして徐晃は再び礼をした。
今度の動作は小さかったのに、再び波打つように揺れる二つの果実。一刀は再びそこに目が行き―――隣に座す司馬懿が何時の間にか装着していた手甲の鋭い指先にわき腹を刺された。
「……へぅぅ……」
沈黙がどこまでも痛いのか、とうとう涙目になる徐晃。
流石に見かねたのかいい加減この場の空気が嫌になったのか呆れたのか、ともかく一番冷静な司馬懿が口を開いた。
「この者は以前から華琳様の陣中に?」
「いいえ。……そうね、強いて言うなら『昔拾った』娘、かしら」
華琳が言うには、嘗てある卑しい男と共同戦線を張る事になった折に彼女に出会い、その美しさを気に入った華琳が手に入れようとした矢先、その男に彼女が襲われそうになったのだという。
即刻その男の首を刎ね上げた華琳はその女性、徐晃を文字通り『慰め』て、男の率いていた部隊をそのまま彼女に率いさせていたのである。
「そ、それで……この度華琳様が飛躍の一歩を歩み出したと聞き、居てもたってもいられず…」
「私の元に来た、と……ふふ、可愛い子ね。菫(すみれ)」
年にそぐわぬ妖艶な笑みを湛えて華琳が囁くと、菫――徐晃の真名――は頬を朱に染めて頷く。
その光景を春蘭が羨ましげに見て、桂花がギリギリと射殺す様な視線を菫に向けている。一刀は「またか」と言った感じに呆れており、司馬懿は一連のやり取りの半分以上をスルーしていた。
「つまり、軍を率いるに足る将が一人増えた。と……」
「そ、そそそそんな!しょ、将だなんて大それたもの!!わ、わわ私に務まる訳ないじゃないですかぁ!?」
司馬懿の呟きに大げさに反応する菫。
しかし当の司馬懿はと言えば、その反応がどうにも意外だったらしく首を傾げた。
「何故だ?君はこれまで一軍を率いていたのだろう?ならばまさかずっと戦わなかった等という事はあるまい」
「ででで、でもぉ……」
「有能な者が増えるという事は、むしろ喜ばしい事。己が才を謙遜したいのは分かるが、華琳様が認める程であればむしろ堂々と誇っていいのではないか?」
「へぅぅ~……」
「それに…」
「仲達。虐めるのはそれくらいにしておきなさい」
華琳のやんわりとした制止に、酷く似合う意地悪な笑みを浮かべて頭を垂れる司馬懿。
からかわれたのだと知った菫は、今度は違う意味で顔を真っ赤にした。
「ひ、ひどいですぅ~~~っ!!」
何とも愛嬌のある可愛らしい怒声が響いた。
賊の征討が終わり、華琳は一刀への説教と功労のあった者へのご褒美を終えてから自室に戻り、テキパキと案件を片付けていた。
その折、ふと一つの竹簡を取る。
提出者は、司馬懿仲達。
天和達、正確に言えば張角達を捕えてから、黄巾党はその大部分を華琳の陣営に組み入れられた。
数にして十数万、一般の人々を含めば倍以上に膨らむ大人数だ。
華琳の陣営に入った司馬懿がまず着手したのが、これらの人員の采配。
一つの県や街にそんな人数を置いておける訳がなく、さてどうするかと先日から議題にあがっていた所を……
「なら手始めに、この案件を片付けてもらえるかしら?」
という華琳の鶴の一声ならぬ王の一声で司馬懿に回されたのである。
回された司馬懿はと言えば、いつまでに片づければいいのか、どの程度の融通は利くのか、等と言った質問を矢継ぎ早に行い、全てに明瞭な回答を得てから取りかかった。
……のが十日程前の事。
その日の会議が終了した直後に司馬懿は宛がわれた執務室に入り、時折ふらりと外に出ては市街で子供と戯れ、茶屋で碁盤を囲み、市中で語らうといった毎日を送っていた。
六日過ぎの午後には一刀の部屋を訪れ、彼の住んでいた世界での行政や施政、法や軍備といった多種多様な事について質問や疑問をぶつけていた。
その際に一刀から聞いた『完全な軍属の兵隊』や『過去に自分たちの国にいた英雄』等の話に天啓を得たのか、後日司馬懿が提出した書類にはこう記されていた。
『常備軍』の配置と『商業』の奨励。
即ち現在の常識である兵農未分離状態を脱却し完全な兵農分離政策をとる事で、収穫期にも軍を動かし、更に複雑な陣形や調練を可能とする。これは一刀の話を元に司馬懿が自分たちの現状を理解した上でもう少し具体案が書き足されている。
更に街道の整備と管理を徹底し商業を支援する事で街の、ひいては県や州の物流を盛んにし復興、合わせて法整備を行う事で管理運営を徹底しようというのである。こちらも一刀の話や過去に行われてきた施政を参照していくつか改定点が付け加えてある。
両案共に一刀が嬉々として語った英雄・織田信長の話を元にしている事は華琳の知る所ではない。
常備軍については、桂花が以前提出した上申書にも素案があり、現在彼女は政務の傍らで暇を見つけてはそれを手直ししていたのだが……
(…まさかこれ程までに早く、しかも現状に見合った政策を提出するとはね……)
華琳自身、内心これ程までやるとは予想だにしていなかった。
司馬懿仲達の噂は、実は華琳は何度か小耳にはさんだ事はあった。
曰く『叡智の使途』。曰く『政の天才』。曰く『今張良』。
最後のは巷の評判だが、前者二つは違う。特に最初のは現在の後漢王朝でも最高峰とされる大学者・蔡邕の批評である。
無論、どちらも大規模な人員とかなりの額の予算を必要とするのだが、恐らくそれを言えば更に縮小した形で堅実なものを出してくるだろう。
実を言えばどちらの案も現時点で実行可能であり、将来的な展望から見ればむしろ望ましい事ばかりなのだが……
(的確過ぎる……いや、むしろ自分にこの案件が回ってくる事を見越していた?)
考え、しかし直ぐに華琳は首を横に振った。
(いいえ、それは考え過ぎ……少し疲れているのかしら)
いずれにしても、有能な配下が一人増えた。それは喜ぶべき事。
(むしろ問題なのは……)
華琳が手にとったのは、一つの竹簡。
そこに綴られたのは、袁紹が発した檄文。
…を後ろに投げ捨て、物思いにふけった。
(……やっぱり、少し小さいかしら。でもこれだって、別に……)
あはれ。少女の密かな悩みに答える者はいない。
夜は、まだ更けていく。
予告編:董卓√
少女は願った。
乱世の終焉を。
「ボクの願いは、月を天下人にする。……ただ、それだけだよ」
戦なき地平を。
「我が主、我らが主は誰だ!?漢王朝か?宦官か?否、断じて否!我らが主はこの世にただ一人、董仲頴のみである!!」
踏み出す勇気を。
「俺が月の傍にいる。…それじゃあ、だめかな?」
少年の思いは、千里を駆け、
「ならば問う。貴様にとっての『真実』とは何だ?」
「これがボク達を、月を傷つけた罰だ!!」
「主が志の為、今一度死ね!我が同朋達よ!!」
少女の願いは、天を超える。
「集え英雄たちよ!もう一度その力を結集し、本当の敵を…袁紹を討て!!」
「結構。ならばその道、この曹孟徳が支えましょう」
「成程……よかろう。貴様なら、我が真名を預けるに値する」
志を同じくする者たちは、『真』の旗の元に集いて、
「はい!これからも、頑張っていきましょう!!」
「わかった…我ら孫呉は、真国との盟約に応じよう」
中原に、願いをのせた旗は閃く。
「さあ…行こう。月」
「はい。ご主人様」
そして、少女はその歩を踏み出す。
真・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~
新伝 『月夜詠嘆、恋ノ音色』
近日投稿!
……え?厳しい?
速報!
天の御遣い、大徳を離反!
「選びなさい。関羽を私に差し出すか、その知識を私に捧げるか」
あまりにも無力。
「何故ですか…何故なんですか!?ご主人様ァ!!」
あまりにも無情。
俺のせいだ。
桃香を、星を、朱里を、鈴々を、雛里を……そして、愛紗を傷つけたのは、全て俺のせいだ。
「君の望みは、なんだ?」
「その願い。叶えてやる。ただし……」
「進みゆくは茨の道。二度と引き返せはしない」
それでも、それでも俺は……!
「今ここに、曹孟徳より天命は去った!」
中原に翻る、四つ目の旗。
「この大地は、天下は!再び天の御遣いによって、天壌へと帰す!!」
集うは、いかな悪名をも恐れぬ者たち。
「今こそ―――我らは『魏』を脱し、『晋』の名を授かる!!」
天命の少年が進みゆくは、無間の闇か。
それとも――――――――
「これが、背負うべき業と罪だ」
「あい、しゃ……。生きて、幸せに……」
「ご主人様ァ!!!」
真・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 天下争乱の章
新説、ここに極まる。
……かもしれない。
後記
短い……本文が短いくせして予告がダラダラと。
どうもです茶々です。
二話目だというにも関わらずなんだこの更新スピードの遅さは…とか自分で自分に突っ込みたくなりました。
前回載せたアンケートですが、実は予想外に多くの方にご回答いただいており一人びっくりしています。
この場を借りて御礼申し上げます。有難うございます!!
はてさて話は変わりますが、実は司馬懿の武器変更の裏話は今回載せた一幕。一刀を小突くシーンが起因となっています。
初めは鉄扇で頭をしばこうかと考えたのですが、それだと冷静な~…の下りがおかしくなるんじゃね?とか、アレって結構痛いでしょ、とか、一人で自問自答した結果ああなりました。
……いや、ぶっ刺すのも痛いとかいう突っ込みはなしの方向でお願いします。
あれくらいなら一刀くんは平気でしょう。……多分。
アンケは引き続き募集しています。
どんどんみなさんのご意見・ご要望御寄せ下さい。
それでは。
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茶々です。お久しぶりという程でもない気がしますが、お久しぶりです。
今回は蒼華繚乱の章第二話。徐晃こと菫の登場……なんですが、何かチョイ役みたいな感じでしか登場しませんでした。
しかもやっぱり短い……なので、先日浮かんだ別連載案その二を載せました。
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