~森の中~
女の子は1刻(30分)程して、やっと泣き止んだ。
女の子は、ゆっくりと豪臣から離れる。
「・・・その、取り乱したりしてすみません」
「いいよ。気にしなくて」
頭を下げる女の子に、豪臣は苦笑して返す。
「それに、俺も謝らないと」
「え?」
首を傾げる女の子。
「そこに居る奴なんだけど・・・」
「?・・・きゃっ!」
豪臣が指差した方を振り向くと、そこには朔夜が鎮座していた。
(ああ。やっぱ、気づいてなかったか)
豪臣は、後ろから怯える女の子の頭に手を乗せる。
「そんなに恐がらなくても大丈夫。こいつは俺の・・・ペット?みたいなものだから」
「ペット?」
女の子は、涙眼で豪臣を見上げてくる。
「あ~・・・愛玩動物って言えビャッ!」
ズン!ヒューーーベチャ!
豪臣は、顔面に朔夜の虎パンチを喰らって後方に吹っ飛び、木の幹にブチ当たる。
「い、いってぇ~」
鼻を押さえて蹲る豪臣。その眼の前に
「(ひ~で~み~!)」
眼だけでそう言ってくる朔夜が立っていた。
豪臣は
「ヒィッ!!ご、ごめんなさい!俺の・・・え~っと、相棒です!相棒!」
ビクッ、と仰け反った後、額を地面に擦り付けて土下座する。
朔夜は
「(次に言ったら、殺します)」
と、無言の圧力を加えた後、引き返して行った。
離れて行く気配を感じながら
(・・・死ぬかと思った)
と、豪臣は安堵の溜息を漏らした。
「え~、改めまして、こちらが俺の相棒の朔夜。んで、俺が紫堂豪臣だ」
改めて朔夜を紹介し、自分の名を名乗る豪臣。
しかし、女の子は
「は、は~」
(何で、無事なんですか?)
豪臣の異常さに驚いていた。
「だから、こいつが悪戯したことについて謝るな。ごめん」
豪臣は、女の子の様子に気づかず、頭を下げる。
「は、はい。いえ、大丈夫です」
「そっか・・・で、君は誰かな?」
「っ!えと、その・・・」
(どうしよう。詠ちゃんには自分の名は名乗っちゃ駄目、って言われてるし・・・)
豪臣に訊かれて、どう答えるべきか考える女の子。
そんな様子を見た豪臣は
「無理には訊かないよ?」
(どっかの豪族のお姫さんか?)
気遣う様に声を掛ける。
(・・・この人なら大丈夫、だと思う。・・・でも、約束があるから。・・・あ!)
「・・・・・・月(ユエ)、です」
女の子は悩んだ末に、月と名乗った。
「ユエ?それって、真名じゃないのか?」
豪臣は、眉を寄せる。
「はい。事情があって、本名は名乗れませんが、命の恩人さんに偽名を使いたくありません。だから、私の真名を受け取って下さい」
月は、真剣な顔でそう言った。
(誠実な娘だな)
「分かった。俺には真名が無い。だから、俺のことは豪臣と呼んでくれ」
豪臣が、笑顔でそう言うと
「はい。豪臣さん」
月も笑顔を返した。
豪臣は、月が何故一人きりで居たのかを聞いていた。
そして、分かったことは、月が迷子になっていたことと、朔夜が喋ったことには(恐怖のあまり)気づかなかったらしい、ということだった。
「・・・は?一人で森に入って、丸3日も迷子してた?」
「は、はい」
月が、少し項垂れながら答える。
(思っていたよりも、わんぱくお姫さん?てか、よく生きてたよな)
「で、その御供の人たちは?」
「分かりません」
さらに落ち込む月。
(おかしいな。此処から街道まで、ゆっくり歩いても2刻(1時間)掛らない。ローラー作戦?て言うか、人海戦術で探せば、一発で見つけ出せるんじゃないか?)
豪臣は、顎に手をやり考える。
(さらに、馬車を停めた開けた場所、ってのは、確かに街道にあった。けど、その場所に馬車は無く、人の気配も無かった。それに・・・)
豪臣は顔を上げ、月に訊く。
「なあ、何でこんな何も無い森に来たんだ?」
「え?・・・それは、私に仕えてくれている人が、この森なら安全に自然を堪能出来る、と言っていたからです」
「安全に堪能、ねぇ」
(虎の居る森が安全?護衛が居ても、万が一があったら、とか考えなかったのか?)
豪臣は、不審に思いながらも、月に訊く。
「月。君の住んでいた町は何処だ?天水か長安か漢中か。それとも、別の何処かか」
「えと、天水です」
「そっか。なら、俺が送って行ってやるよ」
豪臣は、頷いてから笑顔で言う。
「えっ!本当ですか!?」
月は、驚いたように豪臣を見上げる。
「おいおい。女の子一人を、こんな森の中に置いて行けるかよ。それに、俺たちは、天水に向かっていたんだ。丁度良いよ」
(ホント、丁度良い。月を此処に導いた人物が気になるしな)
「ありがとう、ござい、ます」
月は、本当は一番心配していたことが解決した安堵で、涙眼になった。
「おいおい。泣くなって」
そんな月を、苦笑して撫でてやる豪臣。
そして、撫でながら
(こんな良い娘。ほっとけないわな)
心の中で、そう呟いた。
~天水 城内廊下~
豪臣が、月から話を聞いていたころ。
「李儒(リジュ)!あんた、どうしてくれんのよ!?」
天水の城内は、混乱していた。
「どう、とは?」
眼鏡を掛けた女の子に、李儒と呼ばれた文官の男が無表情で訊く。
「惚けるんじゃないわよ!月のことに決まってるじゃない!」
「ああ、太守様のことでしたか。しかし、賈駆(カク)殿。少しは落ち着いたらどうですかな。あなたは、参謀の筆頭でしょう?常に、冷静さを失ってはなりません」
李儒はそう言って、賈駆を諫める。
しかし、賈駆は収まらない怒りをぶつける。
「月が行方不明になってるのよ!しかも、護衛はあんたの親衛隊の兵よ!」
「そうですな。しかし・・・」
そこまで言って、初めて表情が変わる。相手を憐れむ眼だ。
「太守様の護衛隊隊長には、賈駆殿。わざわざあなたの意見を取り入れ、あなたの親衛隊副隊長を置いたのですよ?・・・それでも、わたしの責任ですかな?」
「ぐぅ・・・」
賈駆は、悔しそうに唇を噛む。
そんな賈駆を、呆れたように李儒は言う。
「私はその責任を、あなたに押し付けたりはしていませんよな?責任は、隊長の任に就いた者に負ってもらいましたから。これでも、まだ、責任問題を蒸し返しますかな?」
「・・・・・・」
もう、ぐうの音も出ない賈駆。
「終わったことを蒸し返す前に、太守様の捜索の責任者となったあなたには、やるべきことがあるでしょう?」
「・・・・・・」
「もう、よろしいですかな?では、失礼します、賈駆殿」
そう言って、李儒は去って行った。
その勝ち誇った李儒の背中を見ながら
「くそっ!」
賈駆は地団駄を踏んだ。
~天水 城内賈駆の政務室~
賈駆が政務室に戻ると、賈駆親衛隊隊長が待っていた。
「賈駆様!」
「っ!・・・李傕(リカク)隊長。どうだった?」
賈駆は、一瞬驚くも、すぐに本題に入る。
「ふざけています!何故、あいつがあんな風にならなければならないのですか!?」
李傕が、あいつ、と呼んでいるのは賈駆親衛隊の副隊長のことである。
「あんなにも悲惨な亡骸を、あいつの嫁さん子供に見せられません」
李傕は、悔しさのあまり、握った拳から血が流れ落ちる。
「そんなに酷かったの?」
賈駆は、沈痛な面持ちで訊く。
「はい。全身十数か所を刺されていました。李儒の親衛隊は、城に戻ってから処刑した、と言っていましたが、あの亡骸は死後2日は経っています!」
「・・・そう。これで、あの能面が死体の引き渡しに応じなかった理由が分かったわね」
「はい。我々が、力づくで見なければ、そのまま埋めるつもりだったのでしょう」
二人は、そこまで言って黙る。
(これは、あの能面の筋書きしたもの。そして、このままボクを城外に出させるつもり。・・・でも、何をするつもり?)
賈駆は、李儒の目的が分からないため、危機感を覚える。
(~~っ!考えても仕方ない。まずは、月を助けに行かないと!)
そう思い、賈駆は顔を上げる。
「隊長。親衛隊を集めて。月の捜索に行くから」
「は!準備は、終わっております。1刻後には出発出来ます」
「分かったわ」
李傕は、敬礼をして出て行った。
そして、賈駆は
(月・・・どうか、無事で居て)
親友の無事を祈った。
~天水 城内李儒政務室~
賈駆たちが出立してすぐのこと。
「政務中、失礼します。郭汜(カクシ)です」
「郭汜隊長ですか。どうぞ、入って下さい」
李儒がそう言うと、郭汜が入って来た。
「先程、賈駆参謀筆頭が、親衛隊を率いて御出立なさいました」
「そうですか。で、客人の方は?」
郭汜に、表情を崩さない李儒が問う。
「は。お客人は、城下の例の宿屋にてお待ち頂いております」
「わかりました。すぐに、向かいます」
そう言って立ち上がった。
そして
「ああ、彼女が残した鼠の処理は任せましたよ」
郭汜に命じる。
「お任せを」
それを聞き、李儒は政務室を出る。
「さて、賈駆殿。無事に太守を連れ帰って来て下さいよ。彼女も、そして、彼女という弱点を持つあなたも、まだまだ利用価値があるのですから」
李儒は、僅かに唇を釣り上げ、そう呟いた。
~森の中~
一通りの話を聞いた豪臣は、天水に向けて出発することにした。
「じゃ、月は朔夜に乗ってくれ」
「え!朔夜さんに乗るんですか?」
「そだよ」
驚く月に、笑って返す豪臣。
月は、未だに恐怖が拭えていないため、朔夜に近寄れない。
その様子に
「仕方ないなぁ」
と、豪臣が溜息を吐く。
「よっ」
「きゃっ!」
豪臣は、月の脇に後ろから手を入れて持ち上げる。
そして、朔夜の背に乗せた。
「・・・・・・」
若干、放心する月。
しかし
「あの、朔夜さん。重くないですか?」
そう朔夜に訊く。
(言葉が通じないと思っているのに訊くか?・・・ばれてる?)
そう心配する豪臣。
しかし月は、豪臣さんの言葉に反応したのなら、きっとこの虎さんは賢いんだ、と思っていたので声を掛けたのだった。
朔夜は、月の言葉に頷く。
「本当に賢いんですね」
暴れたりせず、頷いてくれたことが嬉しくて、月は笑顔になる。
豪臣は、月の言葉に心配が杞憂であることに気づき、そして思う。
(この笑顔を護ってやらないとな)
「さ、行こう」
「はい。よろしくお願いします」
そして、二人と一匹は天水に向けて出発した。
あとがき
どうも、虎子てす。
お気に入り登録140人突破!
皆様、ありがとうございます。
さて、作品の話ですが・・・
新キャラ登場です。李儒、李傕、郭汜。
李儒の謀略は置いとくとしまして、李傕と郭汜ですね。
読者の中にも、李傕が賈駆の部下? 三國志と逆じゃね? と思う方もいらっしゃるでしょう。でも、仕方ないのです。詠を上の立場にしたいので。
そして、プロフに書いていることですが、李傕と郭汜が不仲? それって、董卓が死んでからじゃん。と思う方もいらっしゃるでしょう。でも、親衛隊長には敵対する人物を入れたかったので。
まあ、外史だから、と思ってて下さい。
三人のプロフは、次のページです。
次回投稿は、早ければ4日。遅くとも5日終了までにと予定しています。
作品への要望・指摘・質問と共に、誤字脱字等ありましたら、どんどんコメント下さい。
最後に、ご支援、コメントを下さった皆様。お気に入りにご登録して下さった皆様。
本当にありがとうございました。
ではでは、虎子でした。
プロフィールの能力値は、真・恋姫✝無双のパーフェクトビジュアルブックでの能力値の5~1をA~E。恋達のEXをSと置き換え、それぞれに+・無印・-を(作者の独断と偏見によって)つけました。つまり、最強がS+で、最弱がE-となります。
補足Ⅰ:SとS+の間には絶対的な壁があります(という設定です)。
補足Ⅱ:一般兵はオールE(という設定)です。
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李儒 文優 (リジュ ブンユウ):? ♂
身長 170前後 年齢 30半ば
董卓軍の文官で参謀の一人。謀略に長けた人物で、文官の中では賈駆と並ぶ存在。文官は、賈駆派と李儒派に分かれていて、実は筆頭の賈駆よりも李儒派が四分の三を占めている。
謀略を巡らす時は、相手に「何かをしようとしている。でも、その何かが分からない」という、歯痒さを与えて、じわじわと追い詰めるやり方を好む。
ある人物と会うために、月を森に置き去りにさせた人物。
外見
常に無表情。眼は鋭く細いため、相手に自分の意図を読ませない。顎にちょこんと髭を生やしている。頬が少し瘦けているが、痩せている訳ではない。中肉中背。
性格
非常に狡猾。外には出さないが、ほとんどの人間を見下し、駒として見ている。
口調
自分を私と呼ぶ。基本的に敬語を使うが、上から目線の発言が多い。
武器
①なし
能力値
統率C・武力E・知力C+・政治力B・魅力C―
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
李傕 稚然 (リカク チゼン←読み方?): ♂
身長 170後半 年齢 40前後
賈駆親衛隊隊長。兵士の中では、賈駆に一番信頼されている男。公私でキャラが変わる。勤務中は真面目で、多くの部下から尊敬される存在。しかし、プライベートでは奥さんとイチャイチャしている。
幼馴染の郭汜とは、表面上仲良くしているが、実際は険悪な仲。これは、それぞれが賈駆・李儒の親衛隊長になってからである。
外見
顔も身体も丸で出来ている。顎髭を揉み上げまで生やしている。勤務中はキリッ、とした目付きだが、プライベートでは穏やかで真ん丸な目付きに変わる。
性格
真面目で正義感があるが、頑固な訳では無く、臨機応変な対応が出来る。
口調
自分を私と呼ぶ。上司には敬語、部下には命令口調と徹底的に区別している。
武器
①剣
能力値
統率D・武力D・知力E+・政治力E+・魅力D
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
郭汜 (カクシ): ♂
身長 170後半 年齢 40前後
李儒親衛隊隊長。李儒の手駒。
外見
体格はガッチリとしていて、無駄な脂肪は無い。鼻の下のちょび髭が印象的。
性格
無駄な事が嫌い。邪魔者はすぐに排除したがる。
口調
自分を私と呼ぶ。基本的に上司にのみ敬語で、後は見下して話す。
武器
①剣
能力値
統率D-・武力D+・知力E+・政治力E+・魅力D
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拙い文章ですが、よろしくお願いします。