No.121815

恋姫✝夢想~乱世に降り立つ漆黒の牙~ 第六話

へたれ雷電です。

現在試験中により、時間が空きましたが更新です。

次回は予告通り拠点パート的なものを上げます

2010-02-01 15:29:39 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6297   閲覧ユーザー数:5488

「次の先鋒は曹操と袁紹だったよね?前の戦いで、僕たちと劉備軍が活躍しすぎたから焦ってるのかな?特に袁紹は」

 

「そうだろうな。まあ、あの袁紹のことだから、数の少ない我らがあれだけやれたのだから、数の多い自分たちはもっと上手くやれるとでも思ったのではないか?」

 

「ああ~、それはありますね~。でも次の虎牢関には飛将軍呂布さんがいますけどね~」

 

ヨシュアの言葉に冥琳と穏が同意した。どちらも似たようなことを思っていたのだろう。そしてヨシュアは呂布の名を聞いてしばし、自分が聞いた呂布の風評を思い出す。

 

飛将軍呂布。天下無双と謳われ、その武は神の域に達しているという。先の黄巾党との戦いでは一人で三万、四万もの敵を斃したと言われている。だが、その風評の数字だけで言えばそう脅威ではない。執行者ならばその程度は相手できる。だが、ヨシュアが気にしたのは神の域にまで達しているということだった。その呂布が、第七使徒やレーヴェ、そして剣聖と呼ばれた父たち、自分が最強だと思っている人物たちと、肉薄するほどの武をもっているのかどうかが気になっていた。そして、それを確かめるためにも一度戦いたいとも。このあたりはレーヴェに影響されているのかもしれない。向こうの世界でも自己の戦闘力をあげることにも気を払うようになってから、エステルたちからレーヴェに似てきた、と言われ、偶然出くわし、戦闘になったヴァルターからは、剣帝に似てきやがったと言われた。自分にとってはうれしいことでもあるのだが。

 

「それで、他にはどんな武将がいる?」

 

そこで冥琳の声に我に返った。それに答えたのは思春と明命だった。

 

「飛将軍呂布の他、董卓の懐刀と言われる賈駆という話です」

 

「それと、先の汜水関から撤退した張遼と華雄も虎牢関に入ったという情報が。苦戦は必至かと」

 

「…つまんないわね」

 

「袁術のことだね。でも雪蓮。袁術の兵力を削るにも、強引に巻き込むしか方法はないよ。袁術が布陣している場所は遠すぎる。考えられる策としては、というか策なんていいたくないけど、僕たちが戦場に乱入、そして敗走するふりをして、敵を袁術のところまで引っ張っていく、ぐらいしか手はないと思うけど…部の悪い賭けだよ」

 

「じゃ、そうしましょ。冥琳、細かいところは頼んだわ」

 

ヨシュアの策となど口が裂けても言えないような案に雪蓮はあっさり頷いた。それしか手がないとは分かっているものの、こうまであっさり頷かれるのも問題であるが、ある意味いつものことなので、何も言わないでおく。冥琳や穏もそれがわかっているのか何も言わなかった。

 

「了解した」

 

「報告します!袁紹、曹操の部隊が虎牢関に取り付き、戦闘を開始しました!」

 

「分かった。雪蓮、動くぞ」

 

「分かったわ。それじゃ、いきましょ、ヨシュア」

 

「ああ」

 

ヨシュアの策を採用することになった孫策軍は、無理矢理袁術を舞台に乗せるべく行動を開始した。

開戦からしばらくして、曹操軍では虎牢関をどう攻めるか、ということで頭を悩ませていた。闇雲に攻めてもこちらの被害が大きくなるだけ、なんとかして敵を虎牢関から引っ張り出さなければいけないのだが、そのためには袁紹の軍と連携を取ることが必須なのだが、ただただ攻め立てているだけの軍にそんなことは期待できそうにもなかった。

 

「さて、敵の攻撃は馬鹿みたいに…というか馬鹿なんだけど、攻め立てるしか能のない袁紹が一身に受けてくれているから楽だけど…埒が明かないわね」

 

「ほんと邪魔しかしないわね。あの馬鹿は…。しかし、何か状況を変える一石があれば良いのですが…」

 

そのとき、曹操のもとへ一人の兵士が駆けこんできた。

 

「申し上げます!後方よりこちらに接近する軍があります!旗は孫一文字!」

 

「ふむ、なるほどね。桂花、孫策の意図が貴女にわかるかしら?」

 

唐突に曹操に尋ねられた荀彧は、しばらく首を傾げながら考えていたが、答えが思い浮かんだのか、顔を上げた。

 

「乱入し、その後敗走するふりをして袁術のところまで敵を引っ張っていくということですか?しかし、そんな成功率の低い…」

 

「私たちがそれに乗じる事でその成功率はあがるわ。いえ、それを見込んでのことかもしれないわね。春蘭、秋蘭。孫策の動きに合わせ、敗走するふりをしながら後退する。準備をしておきなさい」

 

「御意」

 

夏侯淵は話を理解していたので何の疑問も持たずに頷いていたが、夏侯惇は理解していなかったらしく、頭に疑問符を浮かべながら頷いていた。

 

 

 

「前方、曹操の牙門旗が道を空けました!」

 

先行していた思春からそんな報告が入って来る。雪蓮はそれを聞くと、少し意外そうな顔をして、すぐに頭を横に振った。

 

「さすがね、こっちの思惑に気づいたみたいね。しかし、これは助かるわ。こっちの思惑が分かっているのなら、上手く連携してくれるでしょ。突っ込むわよ、ヨシュア、冥琳!」

 

「了解したよ」

 

「分かった。明命、思春。ヨシュアの動きをよく見ておけ。お前たちにはいい手本になるだろう」

 

「はい!しっかりと見させていただきます!」

 

「御意」

 

冥琳の言葉に明命は真剣な顔で元気に頷き、思春は静かに頷いた。

 

「よし、では行く!皆の者、我が旗に続けぇーーーー!」

 

「応!!」

 

雪蓮の号令に、孫呉の兵は大きく声を上げ、突進を開始した。そして、その場、といっても主に袁紹の軍なのだが、それをかき乱すと、場が混乱したことで出てきたのであろう、深紅の呂旗と漆黒の華の文字の旗を見ると、雪蓮は少し意地の悪い笑みを浮かべて口を開いた。

 

「猪はほんと釣りやすいわね。全軍反転!」

 

雪蓮の言葉に全軍が一斉に反転を開始する。遠目に見ると、曹操の部隊も反転を開始していた。何も対応がとれていないのは袁紹の部隊で、少ししてからもたもたと反転を開始する。殿は強制的に袁紹の部隊に押し付けられる。そして、後退する孫策、曹操、袁紹の部隊を、呂布の部隊と華雄の部隊は追撃してくる。それを確認すると、雪蓮たちは袁術のところへと一目散に後退していき、そして敵部隊を袁術に押し付ける事に成功した。油断しきっていた袁術の部隊は慌てて迎撃態勢を取り、敵部隊を迎えていた。

「ふふ、慌ててる慌ててる」

 

「作戦は成功か。曹操がうまく乗ってくれたおかげで、危険な賭けにはならなかった…ヨシュアよ、お前はこれを見越していたのか?」

 

愉快そうに笑っている雪蓮の横で、少しだけ表情を緩めた冥琳がヨシュアの方へ顔を向けてくる。

 

「一応考えてはいたけど、ここまで乗ってくれるとは思っていなかったよ。でも今はそれよりも、ここからどれだけ犠牲を少なくして勝利を得るか、ということだよ。張遼の旗も袁紹のところで見えたから、相手の戦力は上手く引きずり出せたとみていい」

 

「ヨシュアの言うとおりだな。雪蓮、頼むわよ」

 

「了解。…興覇、幼平!」

 

「「はっ」」

 

「部隊を反転させて反撃に移る!袁術軍を盾に敵を分断。我らは呂布と華雄の部隊に横撃をかける!」

 

「御意!」

 

「はっ!」

 

思春と明命は鋭く声を返すとすぐさま行動を開始する。そして入れ替わりに兵士が駆けこんでくる。

 

「曹操軍反転!続いて袁紹軍も反転!更に後方より劉旗が接近しております!曹操軍、袁紹軍ともに向かうは紺碧の張旗!劉旗はそのまま賈一文字の旗に向かっていくようであります!」

 

「そうか。…頃合いは良し!孫呉の兵たちよ!今こそ我らの力を見せつけるとき!全軍抜刀!雄叫びと共に突撃せよ!」

 

「応っ!」

 

兵たちは雄叫びをあげて、今度こそ敵を葬るために突撃していく。雪蓮もそれに乗じて敵陣の中へと突っ込んでいった。ヨシュアはそれから離れずにともに敵のなかに足を踏み入れる。

 

「そ、孫策だ!やつを討ち取れ!」

 

途中、騎馬に乗った武将が孫策に気づき、接近してこようとしたが、突然上体を仰け反らせて落馬した。見ると、彼の眉間に一本の短刀が突き刺さっていた。

 

「あら、命中。良く当たるわね」

 

「これくらいなら思春や明命も出来るようになると思うよ。それより、気を抜かないようにね」

 

そう言ってヨシュアは、雪蓮の後ろにいた兵士を斬り倒す。

 

「あら、私を守ってくれるんでしょ?」

 

ヨシュアの言葉に雪蓮は悪戯っぽく笑う。ヨシュアはやれやれというように苦笑すると近寄ってきた敵兵をクラフトで纏めて始末した。

 

「さて、呂布や華雄はここにはいないようだね。明命や思春のところか、袁術のところにいるのかもしれない」

 

ヨシュアは双剣を振って血糊を払いながら口を開いた。

 

「そうね、華雄はともかく呂布とは戦ってみたかったのだけど残念」

 

雪蓮は本当に残念そうに溜め息をつくが、ヨシュアとしても呂布とは戦ってみたかったので、少し残念だった。そして、呂旗と華の旗が撤退していることに気がついた。そして張旗も下がっていくのが確認できる。

「これは僕たちの勝ちだね」

 

ヨシュアの言葉に雪蓮は頷くと周りを見渡して、味方が集まって来るのを確認する。そしてあらかた集まると冥琳が口を開いた。

 

「劉旗はどうなっている?」

 

「賈駆の軍勢を押し込み、更に追撃の姿勢を見せていますね」

 

「なら、私たちもこのまま洛陽まで追撃しちゃいましょ」

 

「そうだな、劉備、曹操に伝令を出せ!我らはこのまま一気に洛陽に迫るとな」

 

「はっ!」

 

冥琳に指示に伝令は急いで曹操と劉備のもとへと駆けて行く。そして曹操と劉備から、行動を共にするという返答が来ると部隊を纏め、追撃を開始した。退却する敵軍を追撃しながら、董卓軍を追い込み、洛陽へと迫る。そして洛陽についてみれば、そこには董卓軍は存在せず、すでに撤退した後のようだった。一番乗りは早々と劉備に譲り、冥琳と甘寧は少数の兵を連れ、地図と台帳を手に入れるために潜入していった。そして城内が荒れており、それが黄巾党の残党の仕業だということが分かった。その報告に雪蓮は顔を険しくして口を開いた。

 

「いつかあの獣を根絶やしにしてやるわ」

 

「そうね。でもまだそんな力はない。それは後回し。今は入城したらすぐに復興作業を開始しようと思うの」

 

「当然でしょ。穏!」

 

「了解で~す。資材は供出できる分をまとめておきま~す」

 

そして曹操と劉備が入城したという知らせを受け、乱暴狼藉を働かないようにとしっかりと言い聞かせたうえで入城し、復興活動を行っていた。大抵の諸侯は無駄なことを、と冷笑していたが、そんな諸侯を見るヨシュアの視線は更に冷たかった。そして雪蓮は復興活動の様子を見ながら少し苦しむような表情を浮かべていた。

 

「雪蓮、どうしたの?」

 

「戦争の爪痕。それっていつも弱い人間にしわ寄せがいくのよね。母様が死んだ後、江東でも内乱や侵略、暴徒の反乱とかが一気に噴き出してね。そのとき、私は民を守る力がなくて…それが今の状況と重なって見えるのよね」

 

「…だったらいつか守れるようになればいい。今はその力がなくても、しっかりと前を見据えてすこしずつ力をつけていけばいい。弱音も吐いていい、だけどその分前を見据える。それが大事だと思うよ」

 

「ヨシュア…。そうよね。私は前を見据えて精いっぱい出来る事をする。そして後事を蓮華に託さないとね」

 

「…あまり不吉なことは言わないで欲しいな」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

ヨシュアの言葉に、少し冷たいものと怒気が混じっているのに気付いたのか、雪蓮はすぐに謝罪した。そのとき、明命が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「しぇ、雪蓮様!冥琳様!ヨシュア様!大変です!!」

 

「どうした何かあったのか?」

 

明命の慌てように、何か大変なことでも起こったのではないかと身構える。だが、そういうことではなさそうだった。

 

「井戸がブワーってなってて、龍がドーンって舞い上がってて、凄いのなんのって感じです!」

 

瞬間、皆が首を傾げた。だが、いくら考えても理解できないし、明命を落ちつけたのは良いものの、伝えるべき内容を忘れてしまっていたので、とにかく現場にいくことになった。そしてその問題の井戸についてみると、中から光があふれていた。

 

「僕が確認してくるよ」

 

「ええ、だ、大丈夫なのですか!?」

 

「たぶん大丈夫だとは思うよ」

 

ヨシュアは心配する明命にそう言ってから井戸に入っていく。そしてすぐに巾着のようなものを持って出てきた。そしてヨシュアがそれを開けると、雪蓮たちは驚いていた。明命に至っては言葉が出ないようだったが。

 

「それって玉爾じゃないの!?」

 

「なぜこんなものがここに!?いや、董卓軍撤退の時に持ちだされ、持ちだしたものがこの井戸に捨てたか隠した。そんなところか」

 

「天佑ね、これは」

 

「ああ。この天佑、存分に利用させてもらおう。明命!」

 

「はい!」

 

「幾人かの兵を洛陽の民に偽装させ、さりげなく情報を流せ。…孫策が天より玉爾を授かったと」

 

「了解であります」

 

明命はその指示に頷くとすぐに走り去っていった。

 

「雪蓮。この噂が広まれば、雪蓮の下に人や物が集まるだろう。これからは徳ある王として演技をしてもらうわよ」

 

「はいはい、わかってますよ~」

 

「雪蓮なら、大丈夫だと思うよ」

 

「ありがと。それじゃ、戻りましょうか」

 

雪蓮の言葉に頷き、自陣へと戻っていった。そしてしばらく孫策軍は慈善事業を続けていたが、雪蓮が玉爾を手に入れたという噂が広がるにつれ、多くの人と物が集まっていった。

 


 
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