~長安⇔天水の街道~
「はあぁぁぁぁ」
森に隣接した街道に、大きな溜息の音が響く。
溜息の主は、豪臣だった。
豪臣は、たった一人で街道脇の岩に腰掛けている。洛陽を出立したときに一緒だった朔夜と、豪臣が乗っていた馬が居ない。
(何て言い訳しよう・・・)
豪臣はガックリと項垂れた。
【回想・始】
洛陽を出立し、長安を通過。天水まで、もう数日で到着する、といった距離まで来たときだった。
朔夜がキレた。
洛陽を出てから、豪臣と共に落馬した数6回、朔夜のみ振り落とされた回数8回の計14回。
乗馬が一向に上達しない豪臣の所為で、気持ちが悪くなったり地面に叩きつけられたりした。
朔夜は、我慢の限界を迎えようとしていた。
そして、決定的だったのが、朔夜15回目の落馬のときだった。
「・・・ヒデ、ミ・・・もう、無理、です・・・っ!!」
朔夜は、前回までの14回と同様に、豪臣の肩から落ちた。が、次の瞬間、今までと違うことが起きた。
ドス!!
「ぎゃぷっ!!!」
ゴロゴロゴロ・・・・・・
落ちた朔夜が、馬に蹴られてしまった。
「朔夜!!」
豪臣は、馬を飛び降りて、朔夜の下に走る。
「・・・・・・・・・」
朔夜は、動かない。
豪臣は、不審に思う。
朔夜の体は、そん所そこらの武人では、傷を付けることすら出来ない程に頑丈に出来ている。
馬に蹴られたくらいでは、どうということも無い。
しかし、動かない。
「・・・さーくーや?大丈ブホッ!!」
声を掛けていた豪臣が、吹っ飛んだ。
一瞬で巨大化した朔夜の前足に殴り飛ばされたのだ。
「さ・・・く、や?」
体に『剛』も何も掛けていなかった豪臣は、痛みで上手く動けなくなる。
そんな豪臣の眼の前で、朔夜は、その身に殺気を纏っていく。
その殺気に当てられ、豪臣も、少し離れた場所に居る馬も動けない。
「もう・・・もう、我慢出来ません。四神(シジン)である西方白虎。その一部を以て創られたこのあたしを・・・」
豪臣が恐怖する程の殺気を放ち、俯いたままで呟くようにして話す朔夜。
「馬畜生如きが・・・足蹴にするなんて・・・」
朔夜が顔を上げる。
「・・・殺す」
一瞬で終わった。
馬の居た場所に、真っ赤な返り血を浴びた朔夜が居た。
馬の姿などは、何処にも無い。
ただ、無理やり押し潰されたかの様な肉の塊があるだけだった。
(おいおい。馬を相手に本気にならなくても・・・)
豪臣は、冷や汗を流しながらも立ち上がった。
「ぐっ!・・・腹いてぇ」
朔夜に殴られた腹部を押さえながら、朔夜の下へ歩いて行く。
そんな豪臣を、朔夜が振り返る。
「やり過ぎました。謝ります」
頭を下げる朔夜。
「何だ?反省はしているんだな」
そう呟く豪臣。
しかし
「反省はしていますよ?後悔はしていませんが」
そう言う朔夜に、豪臣は呆れて
「・・・おい」
と、言うが、プイ、とそっぽを向く朔夜だった。
【回想・終】
それから朔夜は、血を洗い流すために、水の匂いする森の中に入って行った。
そして、豪臣はたった一人で此処に残っている。
「あ~、圓(うぉん)さんに、何て言い訳するよ、これ?」
少し離れた所にある肉塊を見て言う。
「馬って高いはずなんだよな~」
迷惑を掛けている衛(えい)親子に、さらに迷惑を掛けることになってしまい、豪臣は、また溜息を吐く。
そのとき
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が響き渡った。
「何だ!?」
豪臣は、森を振り返る。
(女性の悲鳴?こんな森の中から?・・・!!)
不審に思った豪臣だったが、流琉と最初に出会ったときを思い出す。
「賊か!?」
豪臣は、そう舌打ちをして駆けだした。
~森の中~
【視点・??】
驚きと恐怖で、私は、有らん限りの声を出した。
蹲っていた私のすぐ近くに、大きな虎が居たから。
「グルゥゥ・・・」
虎は、私を見据えたまま、少しずつ近づいて来る。
私は、トス、と腰が抜けてしまった。
「え、詠、ちゃん」
逃げられない私は、震えながら親友の名を呟く。
もう、すぐそこまで来た。
虎は、私に襲いかかろうと身を屈める。
私は、ギュッ、と眼を閉じた。
しかし
「・・・・・・・・・・・・」
虎は、いつまで経っても襲ってこない。
フッ、と虎の気配が遠のく。
恐る恐る眼を開けると、虎は居なくなっていた。
(な、何で・・・?)
疑問に思い周りを見渡す。
そこには
【視点・終】
~森の中~
「え?何だ、この鳴き声?」
豪臣が声の方へ走ってると、何処からともなく「へぅ~・・・へぅ~・・・」と言う鳴き声が聞こえてきた。
声の方にしばらく走ると、朔夜が居た。
朔夜は、此方に背を向けて座っており、右の前足で何かをしている様だった。
そして、朔夜の足が動く度に「へぅ~」と言う声が聞こえる。
(何をしているんだ?)
豪臣は、朔夜の隣に立って覗き見る。当然、朔夜は豪臣の存在に気づいており、驚かない。
しかし
「・・・は?」
豪臣は、驚いた。
朔夜の眼の前には、頭を抱えて蹲り、此方に尻を向けている女の子が居たのだ。
そして、朔夜がその娘の尻を突っつく度に、女の子は「へぅ~」と声を上げていた。
ツンツン←朔夜が突く
「へぅ~」
ツンツン
「へぅ~」
これの繰り返し。朔夜は満面の笑み。
(何だ、この感情!?)
豪臣は、その様子を見ながら、内から湧き出してくる変な感情に疑問を持った。
(何だ?・・・嗜虐心と言うか、何と言うか・・・苛めたくなるな)
そんな豪臣を、若干悦に浸っていた朔夜が振り向く。
「・・・やりたいですか?」
ニヤ、と笑う朔夜。
「やりたい!!」と言いそうになりながらも、思いとどまり
「止めてやれ」
と、豪臣は言った。
朔夜は、残念そうにしながら
「ホントは、やりたい癖に」
と、豪臣を横目で見ながら、そう呟く。
豪臣は溜息を吐き、女の子の背に手を置きながら
「もう大丈夫だよ」
そう声を掛けた。
「へぅ?」
涙眼の女の子が、ゆっくりと豪臣を見る。
豪臣は、頭を撫でてやり
「怖かったね。でも、もう大丈夫だ」
そう笑顔で言ってやった。
すると
「・・・っ!!」
「っとぉ!」
女の子は、いきなり抱きついて泣き出してしまった。
そんな女の子を抱き留めながら
「あ~、参ったな、こりゃ・・・」
苦笑いをする豪臣だった。
おまけ
【視点・朔夜】
あたしは、虎に襲われそうになっていた女の子を発見した。
虎は2mくらいの大きさだった。が、あたしは、さらに大きい5mの巨体だ。
一睨みで、襲い掛かろうとしていた虎は逃げて行った。
女の子は、危機が去ったことに疑問を持ったのか、辺りを見回す。
眼が合った。
「ヒッ!!」
先程の虎よりも大きなあたしを見て、あまりの恐怖に震えだす。
(助けてあげたのに、その態度は頂けませんね)
あたしは、わざとゆっくり近寄っていく。
「た、助け・・・てぇ」
涙が、じわじわ、と眼に溜まっていく。
(もう少しだけ、懲らしめてあげます)
あたしは、足を振り上げる。
「っっ!!」
女の子は、此方にお尻を向けて頭を抱える。
あたしは、そのお尻を、ツンツン、と突いた。
すると
「へぅ~」
と、声をあげ、いえ、鳴いた。
(・・・・・・)
あたしは、もう一度突く。
「へぅ~」
女の子は、また鳴く。
(・・・ふふ、ふふふ、ふふふふふふふ!!)
あたしは、何だか気持ちが良くなってきた。
突く→鳴く 突く→鳴く 突く→鳴く
あたしは、それを繰り返す。
(ふふふ!さあ!鳴いて、泣いて、啼きなさい!ふふふふふ――――――――)
あたしは、止められなくなってしまった。
あとがき
どうも、虎子です。
いつの間にやら、お気に入り登録が三桁を超えてました。
皆様、ありがとうございます。
さて、作品の話ですが・・・
朔夜さんが、キレちゃいましたね。
彼女の言っていた四神ですが、知ってますよね? 青竜・朱雀・玄武と共に東西南北を守護するとされる獣です。
朔夜は「白虎の力の一部を借りて、豪臣の仙氣で創造された式神」という設定です。
まあ、仙術を使っていない豪臣をタコ殴りに出来るのは当たり前、ということです。
次回投稿は、早ければ2日。遅くとも3日終了までにと予定しています。
作品への要望・指摘・質問と共に、誤字脱字等ありましたら、どんどんコメント下さい。
最後に、ご支援、コメントを下さった皆様。お気に入りにご登録して下さった皆様。
本当にありがとうございました。
ではでは、虎子でした。
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拙い文章ですが、よろしくお願いします。