No.120901

真・恋姫†無双 ~祭の日々~12

rocketさん

一刀くんと祭さんのドキドキ珍道中・・・の前に、入れたくないけど入れなきゃいけないダークな蜀サイドをお送りします。
今回で読んでくれている人が激減するのを覚悟でやりました。不快になったらすみません。
呉から蜀への道が遠いので時間の流れに気を遣うのがむずかしいですが、とりあえずこの時点で、一刀くんたちは着々と旅路を進んでおります。
次回はくるりと一変、一刀くんと祭さんサイドになります。
楽しん・・・でもらえるかは今回は本気で諦めてます。では、どうぞ。

2010-01-27 20:53:04 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8899   閲覧ユーザー数:7016

 

 

「――桃香様を、牢に入れましょう」

 

 

重く、深いその言葉は、蜀勢の耳に確かに染み渡った。

最初に反駁を示したのは、当然といっていいのだろうが、関羽こと愛紗であった。

「なにをばかなことを言っているのだ!朱里、貴様なにを言っているのかわかっているのか?」

「ええ、愛紗さん。私はすべてを承知で発言しています」

「ふざけるな!桃香様は我らが主だぞ、それを・・・」

気迫を乗せて放った言葉は、しかし、伏龍には利かなかった。それどころか逆効果だったとみえる。愛紗の反駁を受けて、朱里はいっそう決意を固めたらしかった。

「愛紗さんもわかっているはずです・・・最近の桃香様がおかしいことを。国の為にとあたためてきた施策を全て無に帰するというだけでも大概でしたが、今回の一件を庇うことは最早できません。我らが信じた主の夢を、あなたまでお忘れですか?」

愛紗は誰よりもわかっていた。義姉が最近情緒不安定になっていることを。

今回の挙兵未遂が、今までの苦労を全て泡にしかねないこともわかっている。だがそれでも彼女は義姉を牢に入れることなどできなかった。信じ、愛した姉であるからこそ。

「り、鈴々も反対なのだ!そんなのぜったいだめなのだ!」

それに追従するは、やはりもうひとりの義妹、張飛。

「お姉ちゃんはちょっと疲れているだけなのだ・・・ちょっと休んだら、また優しいお姉ちゃんに戻ってくれるに違いないのだ!」

「ええ、ですから、休んでもらいましょう。牢の中で」

「だからそれじゃだめなのだ!」

冷たく切り返す朱里に、鈴々はもう涙目になっている。愛紗も脂汗を流して朱里を睨んでいた。

それでも朱里は言葉を翻すわけにはいかない。

――大陸に平和を。それだけを願って蜀に仕えた彼女だから。

「・・・今の桃香様を野放しにすることは危険・・・です・・・。朱里ちゃんの意見が正しいと思います・・・」

朱里を援護するのは、伏龍に対する鳳雛、雛里。

「雛里まで!・・・どうして牢に入れねばならんのだ、せめて部屋に・・・」

「わざわざ私たちに知られないように挙兵を発表したんですよ?ひとりにしたら、何をするかわかりません。

疲れていようが狂ってしまおうが――桃香様は王なんです。これ以上、事を大きくするわけにはいかないんです・・・」

目を伏せる朱里の表情は暗く、しかし凛としている。この顔は決意した顔だ、軍師としての仕事を果たすときの顔だ。

それを判断してか、今まで傍観を決め込んでいた面々も次々と意見をあらわす。

「確かにちょっと今の桃香様はおかしいよな・・・頭を冷やしてもらったほうがいいと思うぜ」

「蒲公英もそう思うよー」

馬姉妹に、

「わしも軍師殿に賛同させてもらう。今の桃香様は信じられん」

桔梗が続く。

紫苑はあえて意見をせず、その場を鋭く眺めている。

「ばっ、ばか言うな!桃香様を、桃香様を牢に入れるなんてできるわけないだろうがッ!!」

愛紗よりも強く、そして冷静さを失った声で叫ぶのは魏延こと焔耶。

「ちょっとー、今はそういうのやめてよね。そんなこと言ってられる時じゃないんだからさー」

蒲公英が呆れたようにつぶやくと、焔耶は憤死しかねないほど顔を真っ赤にする。

「おっ、おっ、おま、お前ぇ・・・!」

「やめんか、焔耶。今回はお前の意見はきけん」

桔梗にそういわれると、焔耶は歯噛みせんばかりにうつむく。

「くっ・・・お前たちまでそんなことを言うのか・・・!」

愛紗は握る拳を振るわせて絶望する。

「あ、愛紗ぁ・・・どうしたらいいのだ!」

鈴々はもう涙目を通り越して泣いている。自分の姉を誰も信じてくれないことを嘆いている。

「許せ、愛紗、鈴々。・・・だが、朱里よ。愛紗の言うとおり、牢だけは勘弁できないだろうか?王を捕らえるなど・・・外聞も悪いだろう」

それは星の、最大限の譲歩。

しかし。

「なりません――・・・我々は魏、および呉に最大限の誠意を示さねばなりません。こちらに害意がないことを、地に頭をこすりつけてでも。・・・そのためには、元凶である桃香様を無罪放免とはできないでしょう」

 

そこまで話したところで、きぃ、と部屋の扉が開いた。

 

「あれー?みんな、こんなところで集まって、なにしてるのー?」

 

 

 

空気が凍る。皆の目が見開かれる。

彼女はその双眸を朱里にむけた。

 

「ひっ」

 

・・・思わず出る悲鳴を、誰が咎めることができようか。

 

「ねえ、朱里ちゃん。何のお話してたの、私にも教えて?」

「あ、あの・・・と、桃香様・・・」

「何を震えているのかな?顔色悪いよ?」

 

朱里に手を伸ばす桃香、そこに見える禍々しい気を察した星が間に割り込む。

 

「・・・・・・どうしたの、星ちゃん」

「桃香様、御免!」

 

手に持つ愛槍で主を狙う。殺すつもりではない、しばしの間失神してもらうだけ。

 

「星、よせっ!」

 

しかし槍は払われる。関雲長の青龍偃月刀によって。

「止めるな愛紗、今はやむを得ない!」

「させんぞ、お前に・・・お前たちだけには桃香様を傷つけさせてなるものか!

・・・・・・鈴々、桃香様を連れて逃げろ!」

「う、うんなのだ!」

他の面々の制止する声も届かず、鈴々は変わらず笑顔を貼り付けたままの桃香の手を引いて部屋を飛び出した。

 

「・・・愛紗、今やらねば手遅れになるのだ」

「わかっている・・・わかっているが、それでも私は桃香様を裏切れない!」

 

御免、と。

それだけをか細く漏らして愛紗は走り去る。

その声に宿る感情を察することのできない人物はここにはいない。

 

「・・・私は、間違えたのでしょうか」

 

あまりに怒涛に起こった出来事に皆が言葉を失う中、今まで張っていた気が緩み、朱里は今にも泣きそうになっている。

雛里がそばに寄り添い、紫苑がその頭を優しく撫でた。

 

「気にするな、朱里。誰かが言わねばならなかった」

 

星はそう声をかける。・・・三人が出て行った方角を見ながら。

 

 

 

 

「・・・は、はぁっ・・・はぁっ、はっ・・・!」

 

走るのが遅い桃香を引き摺りながら、鈴々はひたすらに駆けた。

「鈴々ちゃん、速いよぅ」という桃香はこの際無視した・・・今は愛紗に言われたことを守るべきだ。それくらいは鈴々にもわかっていた。

 

「鈴々ッ!・・・桃香様!」

後ろからきこえる聞きなれた声に、鈴々は思わず足を止める。そして安堵した。

「あ、愛紗」

「すまん、遅れたな」

 

気づけば街を離れていた。

人目につかぬよう、近くの森に身を潜める。

これからどうすべきか・・・できれば仲間たちの考えが少しでも改まったころには戻りたいのだが。

そう愛紗は考える。

だけど。

 

「・・・三人になっちゃったね」

 

桃香のほんわかとした声。

いつもなら和み、愛しくなるはずのその声だったが、今はあまりに場違いすぎて愛紗は顔をしかめずにいられない。

「しょうがないのだ、みんなちょっと怖かったのだ」

「本当だね、みんな変だったよ~・・・」

それに気づいていないのか、鈴々が自然に答える。

「うん、でも、私はうれしいな。だって愛紗ちゃんと鈴々ちゃんが一緒にいてくれてるもん」

その言葉に、少しだけ頬が緩む愛紗。

ああ、きっと桃香様は本当に少しお疲れになっていただけなのだ。

少し休めば謝ってくれる。

慰めたくなるくらい落ち込みながら、「私はなんてことを」と反省してくれるに違いない。

前と同じ、自分が信じた優しい桃香様に戻ってくれる・・・。

「桃香さ・・・」

 

 

 

「しょうがないから、三人でやろっか、戦」

 

 

「・・・え」

「一応、まだ私の名前だけでも少しくらい兵隊さんたち集まるよね。それに愛紗ちゃんに鈴々ちゃんもいるし――そうだ、みんなにバレないように兵舎に行けばいいんじゃないかな?馬をもらって、糧食をもらって・・・うん、それでいこうよ」

「・・・と、とう、か、さま・・・」

鈴々が愛紗の服の裾をつかんだ。その手は震えていた。

「あ、愛紗、愛紗ぁ」

「・・・・・・・・・」

涙を流す義妹を慰めてやる余裕もなかった。

油断すれば、自分も泣いてしまいそうだった。

「うん?どうしたの、ふたりとも?早く行かなきゃ」

 

目を瞑る。

脳裏に浮かぶのは彼女との出会い、そして共に過ごした日々・・・。

ようやく理解した。

――これは、私の姉ではない。

 

「ほーらっ、ふたりとも元気だして!大丈夫大丈夫、私たち三人で、大陸を笑顔にしようよ!」

 

その、言葉を。

愛紗が今までずっと大事にしてきた、心に焼き付けてきたその言葉を・・・

そんな張り付けたような笑顔で、言わないでください。

 

「・・・ごめんなさい、桃香様」

「え?・・・きゃあっ!?」

 

桃香の手を後ろで縛り、そのまま引き倒した。

「あ、愛紗ちゃん・・・どうして・・・」

 

おねがいだから。

その顔で、その目で、そんな感情を乗せて――私を見ないでください。

 

「・・・鈴々、帰るぞ。朱里たちこそ正しかった」

「あ、愛紗・・・じゃあ」

 

「桃香様を、牢に入れる」

 

――なにをまちがった。

  ただ平和だけを願ってこの身を投げ打ってきたのに。

  すべては終わったと・・・思っていたのに。

 

流れる涙を拭かぬまま、愛紗は静かに目を伏せた。

 


 
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