No.119964

恋姫✝夢想~乱世に降り立つ漆黒の牙~ 第五話

こんにちは、雷電です。
時間が空きましたがヨシュア編更新です。現在試験期間中でいそがしいですがなんとか時間みつけて頑張っています

2010-01-22 20:26:43 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6282   閲覧ユーザー数:5563

汜水関攻略が始まり、劉備軍が前に出たしばらく経ったが、状況は特には変わらずにいた。一度旗が大きく動いたが、すぐに静まった。恐らくは華雄を張遼が押し留めたのだろう。自分も馬鹿にされて憤っているだろうに、それを堪えて味方を押しとどめなくてはいけないとは張遼も苦労しているだろう。

 

「…雪蓮、どうする?あまり時間をかけると向こうが冷静になってしまう」

 

「そうね…冥琳、ちょっと袁術ちゃんのところに行ってくるわ」

 

「何をする気だ?」

 

「後で説明するわ」

 

雪蓮は何か思いついたのか、それだけ告げて袁術のところへと向かっていった。ヨシュアはそれを見送ると冥琳へと向き直った。

 

「冥琳、兵の準備をしておこう。雪蓮が戻ってきたらすぐに出られるように。雪蓮は袁術から出陣許可をもらってくるだろうから」

 

「そうだな、興覇!幼平!雪蓮が戻り次第、劉備の横に並び、挑発に参加する。用意しておけ!」

 

「はっ」

 

「はい!」

 

思春と明命は短く返事をすると即座に行動を開始する。そしてしばらくすると、やはり雪蓮は袁術から出撃許可をもぎ取ってきていた。そして準備が整っていることに軽く驚いた顔をした後、満足そうにうなずいた。

 

「準備万端ね。私も挑発には参加するから。却下、はなしよ。今の状況を長引かせるわけにはいかないから私が餌にならないと。それにヨシュアもいるでしょ?」

 

「それはそうだが…文台様を絡めて挑発するのか?」

 

「そういうこと。じゃ、行くわ」

 

文台、雪蓮の母親らしいがヨシュアはあったことがないのでどんな人物かわからない。もう亡くなっているので会うことももちろんできない。だが、雪蓮や冥琳、祭の顔を見る限りかなりの人物だったようだ。

 

「冥琳と穏は後曲の部隊を指揮、釣り上げた大物を逃がさないようにね。それじゃ、ヨシュア。いくわよ」

 

ヨシュアは雪蓮の言葉に頷き、雪蓮の後ろにつき、ついていった。

「はぁ~い劉備ちゃん。なかなか手こずってるようね」

 

「あ、孫策さん。そうなんです、敵がなかなか冷静なようで…」

 

劉備は今の状況をどうしたらいいのかわからないようで顔を曇らせる。強かな印象を受けたが、策を考えたりということはできないようだし、彼女自身、武の心得はそうないようだった。

 

「だから私が出てきたの。腹立つけど袁術ちゃんには許可はもらったから。それじゃ、私が挑発を受け持つから、劉備ちゃんは釣りあげた魚の調理をお願い」

 

「はい。…でも勝てるんでしょうか」

 

「大丈夫よ。私たちは華雄、貴女は張遼を。それを基本方針にしましょう。余力があれば助けるけどこっちもギリギリだからそれは覚えておいて」

 

「はい。でも私たちだけで二人の武将さんを相手にしなくちゃいけなかったんですから、それよりはましです」

 

雪蓮はそれに頷いて応えると挑発を行うために前に出る。そして一度深呼吸をしてから大きく声を張り上げた。

 

「汜水関守将、華雄に告げる!我が母、孫堅に敗れた貴様が、再び我らの前に立ちはだかってくれるとは有り難し!貴様ごときの頸を取ることなど、どれだけ容易いだろうか!稲を刈りとるごとく容易いだろう!どうした華雄?反論はないのか?そうか、孫堅に敗れたことが怖かったか。ならば仕方がない。この私が再戦の機会を与えてやろうと思ったのだが…すでに負け犬精神が染み付いてしまったか!ではさらばだ、負け犬華雄殿!」

 

雪蓮はそれだけ言うと大きく嘲笑を上げながら後ろへと下がっていった。だが、しばらく待っていたが、張遼が止めたのか、華雄が出てくる気配はなかった。

 

「出てこないわね」

 

「出てこないですね」

 

「ならいいわ。今のうちに寄せちゃいましょう。無造作に寄せてくる敵を見て華雄は我慢できるのか。ってね」

 

「でも大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫。ヨシュア、一つ訊くけど、城門から華雄よりも先にまず真っ先に出てくる兵を一度に始末できたりする?」

 

「できるよ」

 

「そう、なら最初の十数人か数十人お願いするわ」

 

十数人から数十人って数に差がありすぎるよね、と思いつつも一つ気になったことがあるので訊くことにした。

 

「でも、僕が目立つのはまずいんじゃないのかな?」

 

「大丈夫よ、貴方の速さなら名のある武将でもないとその姿は確認できないわ。貴方を思春の部隊に紛れ込ませ、そこから貴方の最高速で相手の出鼻をくじいてもらい、そのまままた思春の部隊に紛れ込んでもらう。できるでしょ?」

 

そのヨシュアを信頼しきった、自信たっぷりの言葉にヨシュアは、全く彼女は、と苦笑する。そしてどこか剣帝を知っているものなら彼を思い出させるような余裕の笑みを浮かべて頷いた。

 

「もちろん。『漆黒の牙』の真骨頂、見ていると良いよ」

 

「頼んだわ。興覇、幼平はいるか!」

 

「はっ」

 

「これから華雄を釣る。汜水関に軍を寄せろ。興覇の部隊にはヨシュアが紛れ込み、そこから相手の先陣の出鼻をくじいてもらう。少々危険度が増すけど…頼めるわね?」

 

「御意」

 

思春は雪蓮の言葉に何も躊躇することなく頷いた。そしてヨシュアと共に汜水関へと向かっていった。

「何の疑問も持たずに行っちゃった」

 

「私の為に死んでくれる子たちだからね。もちろん死なせる気もないけど」

 

「あはは、わかってます。孫策さんは優しい人なんだろうって思いましたから」

 

「なら、そう思っておけばいいわ。それよりも仕上げにかかるわよ」

 

押し寄せる軍にとうとう我慢できなくなったか、城壁の上の旗がとうとう動いた。そして城門が開かれる。

 

「城門開きます!旗は…漆黒の華一文字!華雄です!」

 

「ようやく釣れたわね。後方に伝令!一度相手の攻撃を押し返し、距離を保ちつつ後方に大物を引っ張っていく!しっかり対応しろと伝えておけ!続いて袁術にも前線に動きありと伝えておけ!」

 

「御意!」

 

雪蓮の言葉に兵士は後方と袁術のところへと駆けていく。雪蓮はそれを見送り劉備へと視線を送る。劉備は何を言いたいのか分かったのか頷いて自分の軍の方へと戻っていった。

 

「孫呉の精兵たちよ!猪突してきた敵を殲滅する!その力、天下に示せ!全軍抜刀!」

 

その言葉に兵士たちは次々と抜刀する。ヨシュアはそれをしり目に目を細め集中する。最高速をもって突出してきている兵士をまずは始末する。そして姿を見られないうちにまたここに紛れ込む。自身が目標にした一団には華雄はいないようだ。そして、

 

「かかれ!」

 

雪蓮の声が聞こえてきたと同時にヨシュアは思春の部隊から飛び出した。恐らく向こうの兵士は勘のいいもので何かが近づいてくる、というのが分かっただけだろう。

 

「真・漆黒の牙!」

 

研ぎ澄まされたいかなる巨体をもひれ伏せさせる刃が超高速で兵士に襲いかかる。ヨシュアは一気に兵士の間を駆け抜け、一瞬の停止のあと、すぐさま引き返した。そして思春の隣で姿を表すと、若干上がった息を整える。背中を向けているので直接見えないが、敵が動揺して足が鈍ったようだ。それも当然だろう。まだ接敵してもいないのに味方の兵士が突然倒れたのだから。

 

「…凄まじいな。私でも目で追うことができなかった」

 

思春が驚きの入った声で言葉をかけてくる。

 

「今が好機だよ。今敵は動揺している攻撃を仕掛けるなら今だ」

 

「そうだな。甘寧隊はこれから敵に突撃をかける!敵は動揺している、恐れるな!」

 

「応っ!」

 

兵士は思春の言葉に応えて突撃を開始する。ヨシュアは思春と分かれ、雪蓮のもとへ行くために行動を開始した。

「く、何が起こったというのだ!?」

 

「わ、わかりません!生き残った者の話によれば何かが通り過ぎたような、そのようなものが見えたあと、急に前を先行していた兵士が血を噴き出して倒れたとのことで…ぐぁあ!」

 

周囲の兵が混乱する中、華雄も困惑しながら襲いかかる兵士を斬り捨てていく。先行させていた兵士が突然倒れたと思えば、その動揺に付け入られ満足な対応を取ることも出来ずに混戦になっていた。何が何だかわからないうちに味方の兵士が殺されたという話は直接見ていない兵士たちにも恐怖をもたらした。敵には風よりも速い武将がいる、姿を消せる妖術使いだ、とか遠くから言葉だけで人を殺せるなどの情報が戦場に流れ兵士を混乱させていた。

 

「華雄!ここはもうあかん!虎牢関まで退くで!」

 

「まだだ、私はまだ戦える!」

 

張遼が駆けてきて華雄に撤退を指示した。だが、華雄は首を横に振った。

 

「いやだ…いやだ!二度も孫家の旗に背を向けるなど、私の誇りが許さん!!」

 

「将軍、お悔しい気持ちは分かりますが、命あっての誇りです!ここは退きましょう!」

 

「ううう、あああああああ!!」

 

華雄は叫んで向かってきた敵兵を力いっぱい斬り殺してから俯いて言った。

 

「分かった…撤退する。次だ、次こそ孫家の血を大地にまき散らしてやる…」

 

「よし、なら撤退すんで!敵の追撃を警戒しつつ、ウチの旗についてこい!」

 

「応っ!!」

 

張遼は残った兵を纏め、追撃をかわしながら虎牢関へと撤退していった。

 

 

 

「ヨシュア、お疲れ様」

 

「ああ、雪蓮も。冥琳、少し話があるんだけどいいかな?」

 

「どうしたヨシュア?」

 

汜水関を落として戻ってきたヨシュアと雪蓮は互いを労いながら冥琳たちの待つ後曲へと帰還する。そして冥琳の姿を確認するとヨシュアは彼女に声をかける。

 

「今日の戦果をできるだけ華々しく各地に喧伝してほしい。兵士を旅人にでも変装させて、孫呉の活躍で勝利を得た、と」

 

「会心の手だが、よくそんなことを思いつくな」

 

「元いた世界でも似たような手段は使われていたからね。この世界だと人づてに伝わる情報はとても重要だ。人は旅人が持ってくる情報を真実、またはそれに近いものだと思うからね」

 

「そうだな、すぐに兵を手配させよう。穏、聞いていたな?すぐに手配しろ」

 

「了解でありまーす」

 

いつも通りの口調で返事をした穏が立ち去るのと入れ違いに劉備たちが走ってきた。

「孫策さん、ご助力ありがとうございました」

 

「別にかまわないわ。それで、私のこと信じてくれた?私の切り札も見せてあげたんだから」

 

「はい。ところで…切り札ってなんですか?」

 

「桃香様、そのように素直に信じてしまっても構わないのですか?まぁ、私も切り札とやらには興味がありますが」

 

「切り札は彼のことよ」

 

雪蓮は幾分か誇らしげにヨシュアを示した。ヨシュアを見た関羽たちはどこが切り札なのか、と首を傾げた。

 

「それがわからないのならこれ以上は流石に教えられないわ。ただ彼が切り札だということだけ覚えておきなさい」

 

「劉備、君なら分かるだろう。僕たちは共通の敵がいるのならば手を取り合えると」

 

「共通の敵?」

 

「共通の敵…曹操さんですね。資金を持ち、人材を持ち、天の時を待っている北方の巨人」

 

確か孔明というはずの少女が口を開く。彼女はヨシュアが言わんとすることを理解しているだろう。

 

「そう。彼女の目指すものは魏一国による天下統一。劉備、君が望むものは何?」

 

「私が望むのは皆が安心して、笑って暮らせる世界です。私はそんな世界を作りたい」

 

「ならば分かるだろう?曹操と劉備殿の理想は相容れない。私たちの理想とも相容れない。いつかは我々や劉備殿の領土に侵攻してくるだろう」

 

「なるほど」

 

劉備は納得がいったのか、手を打ち合わせて冥琳とヨシュアの言葉に頷いた。

 

「だったら、その時に慌てるよりもお互いの利益の為に手を結んでおくべきではないかな、と思うんだけど」

 

「実際私は天下統一にはそこまで拘ってないのよね。私の一番の望みは孫呉の民が幸せに暮らすこと。天下統一は二の次、三の次ね」

 

「今から手を結んでおいて、いつかは君たちと僕たち、これは僕の勝手な意見だけど曹操三人で天下を分け、お互いに手を差し伸べ、その手を取ることができたらこの大陸はもっと栄えると思う。僕がいた国でもそうだったから」

 

「そうですね、ヨシュアさんでしたっけ?あなたの言うとおりです。愛紗ちゃんは…どうかな?」

 

 

「孫策殿や軍師殿たちが仰ることは正鵠を射ているかと」

 

「鈴々もさんせーなのだ」

 

桃香が関羽の方を振り返り、彼女の意見を求める。彼女も特に反対することもないのか穏やかな顔で応え、張飛も笑顔で応えた。

 

「なら、これからよろしくお願いします」

 

「うん。こちらこそよろしくね」

 

微笑みを浮かべながら、劉備と雪蓮は硬く握手を交わした。

 

 

そしてすぐに汜水関を後にし、虎牢関へと向かっていった。今度はその先鋒を袁紹と曹操に変えて。

 


 
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