黄祖との戦いの後、豪臣たちは長沙に帰還した。
帰還した豪臣は、青蓮たちから歓待され、逗留を乞われた。
豪臣は、劉表との睨み合いが一段落するまで、を条件にそれを承諾した。
~城壁~
豪臣たちが、無事に長沙に帰還して1ヶ月が経とうとしていた。
豪臣は、朔夜と共に夜空を見上げ月見酒を楽しんでいた。
「何を思っているのですか?」
と、朔夜が訊く。
「そろそろかな、と考えてたんだよ」
豪臣は、月を眺めたまま答える。
「結局、劉表は報復活動を起こさなかったしな。今後のために、力を温存させるためなのか、優柔不断で考えている内に動く機会を失ったのか判断に迷うけどな」
「評判を聞く限り、後者でしょう」
そう朔夜が答えると、場が沈黙する。
二人は、月を眺める。
しばらくして、豪臣が口を開く。
「明日、青蓮に言って、明後日に此処を出よう」
「良いのですね?」
豪臣を見詰めてくる朔夜。
豪臣は
「ああ。貂蝉が言っていた“試練”が始まるまで、後9ヶ月。見ておきたい人物も居るしな。
それに、このまま此処に居たら、いつの間にか孫家の将になってそうだし」
苦笑して答える。
「そうですか。・・・では、この昼寝三昧な日々も終わりですね」
そう言って、また月を見上げる朔夜。
「・・・残念だよな」
豪臣は、月を見上げながらこの一月を振り返った。
<青蓮>
~中庭~
豪臣が長沙に来て三日が過ぎた日の昼前。
「・・・面倒だな~」
と、顰めっ面の豪臣。
場所は、城の中庭。それなりの広さがあり、その中央に豪臣と青蓮が立っていた。
青蓮の手には剣、南海覇王が握られている。
「豪臣さん。準備は良いですか?」
「良くない」
青蓮の問いに、即答する豪臣。
「いつまで、駄々を捏ねているんですか?いい加減に観念して下さい。あなたの実力を測るものなのですから」
青蓮は、呆れ顔で言ってくる。
(あ~、ホント面倒だな~)
~食堂~
時間は戻って、朝食。
長沙に滞在している孫家の将たちが勢揃いしていた。
そんな中、穏(ノン)が豪臣に話しかけてきた。
「豪臣さ~ん。そう言えばですね~。思春ちゃんを手玉に取って、雪蓮様の剣を素手で止めたってホント何ですか~?」
穏は、帰還祝いと称された宴会の場で紹介された軍師だ。冥琳の弟子らしい。自分の仕える青蓮たちや、師匠の冥琳が真名を預けていると聞くと、すぐに真名を教えてくれた。
穏の言葉に雪蓮が反応する。
「思いだした!そうよ、それよ!」
そう言って、いきなり隣に座っていた豪臣に詰め寄る。
「そ、それってなんだよ?」
(顔、ちけぇよ!)
吃りながら豪臣が訊く。
「再戦するわよ。うん!」
「何が、うん、だよ!訳分からん!」
一人で頷いている雪蓮に、ツッコミを入れる。
「ん?ご飯食べたら勝負するのよ」
「・・・面倒臭い」
「するわ!」
(何で、決定してんだよ!)
豪臣は、周りに助けを求めようと視線を巡らす。
スス!
何故か視線を逸らす思春と穏。そんな中、冥琳と祭は同情の眼で豪臣を見てくる。
(何だよ、その眼は!)
豪臣が冷や汗を流したとき、黙って食事をしていた青蓮が口を開く。
「駄目よ、雪蓮」
「え、何で?」
(フ~。さすが青蓮。まるで天使のようだ!)
と、豪臣が安心すると
「勝負するのは私よ」
満面の笑みで、そう言い放つ。
「は?」
「え~!」
(・・・・・・堕天使だったか!)
ガックリと肩を落とす豪臣。
雪蓮は、青蓮に抗議するが、青蓮に笑顔で見詰められ敗北した。
豪臣は、ふと視線を感じて冥琳たちの方を見ると
(だから何だよ、その眼は!)
同情の眼で見られていた。
~中庭~
豪臣が思い返していると、青蓮が声を掛けてきた。
「そろそろ始めないと、雪蓮が怒り出すわよ」
豪臣は、雪蓮たちが立っている庭の端を見た。
早く~、と雪蓮が声を上げていた。
「・・・分かった」
観念して、豪臣は頷いた。
庭の端には、孫家の将たちと思春の肩に乗る朔夜が居た。
対峙する二人を見ながら、勝負について話していた。
「冥琳。どっちが勝つと思う?」
「そうだな・・・青蓮様だな。祭殿、どうです?」
「そうじゃのぅ。思春を組伏せた時は鮮やかじゃったが、策殿のときは押されておったしのぅ・・・青蓮の方に分がある気がするのぅ」
豪臣の戦いは見たことがあるが、手を合わせていない二人はそう答える。
「穏は?」
「ん~・・・私はですねぇ。やっぱり青蓮様だと思います~。何しろ孫堅軍最強のお人ですもんね」
「ふ~ん」
三人の意見を聞いた雪蓮は、ニヤ、と笑う。
そんな雪蓮を見て、祭が訊く。
「手を合わせた策殿は、どう思われる?」
「私は、豪臣ね。素手で止められたとき、この男には勝てない、って思ったもの」
「私も、同意見だ。貴殿も手合わせすれば分かる」
「当たり前です」
祭に訊かれ、雪蓮と思春、そして(思春以外に聞こえない声で)朔夜が答える。
「ふむ。そうか」
そんな会話をしながら、五人は豪臣たちの様子を見る。
まだ、始まる様子では無い。
(何をやってるのかしら?)
雪蓮は、豪臣のやる気が無いように見え
「早く~!」
そう声を上げた。
豪臣は頷いて、構える。と言っても、青蓮に正対し、自然体で立っているだけだ。
青蓮は首を傾げる。
「あら?剣は使わないのですか?」
「あれは、使わない。やるからには負けられない。そう言う約束をしてしまったからな。青蓮は、新月を使って勝てる相手じゃない」
豪臣は、自分の後ろに突き立ててある新月を、チラ、と見てそう言った。
すると、青蓮は嬉しそうに笑顔を作る。そして、一度眼を閉じて南海覇王を構える。
青蓮の眼が開く。
雰囲気が変わった。
(・・・何だ?)
豪臣は、その威圧感に驚いた。
(っ!眼つきが全く違う。あれはまるで、朔夜に睨まれたみたいだな・・・)
青蓮が、少し前傾姿勢になる。
「それじゃあ、始めるか。豪臣」
口調は、初めて出会ったときの様に雑に、そして、ドスの利いたものになった。
豪臣は、驚きながらも頷く。
そして
「『我が心を以て、我が身、鋼と為る――剛』・・・『我が心を以て、我が身、力を得る――怪』」
仙術を発動させる。
睨み合う二人。先に動いたのは青蓮だった。
「はぁああぁぁぁぁ!!」
青蓮は、一気に間合いを詰めて連続の突きを見せる。そして、そこに斬撃も加わり豪臣に反撃の隙を与えないようにする。
(雪蓮や黄祖のおっさんよりも、速いし確実に強い・・・が・・・)
豪臣は、攻撃を避け、払いながら、少しずつ青蓮を押し返す。
そして
「フンッ!」
キン!ドス!
「ぐふっ!!!」
(仙術を使っている俺の敵じゃない)
南海覇王を撥ね上げて、青蓮の腹に蹴りを見舞った。
たったの、それだけだった。
青蓮は、蹴りを受けて腹を抱える様にして倒れた。
「青蓮!」
祭たちが駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
祭に抱き起こされ、若干咳き込むが、笑顔を作る。
そこには、豪臣の良く知る青蓮が居た。
「まさか、ここまでの力量差があるとは、思いませんでした」
脂汗を流しながら青蓮が言う。
「加減はした、と思う。1刻もすれば、完全に回復するさ」
豪臣は、笑顔でそう言って
「んじゃ、後は祭たちに任せた。俺は部屋に戻るから」
その場を立ち去り、その後ろを朔夜がついて行った。
部屋に戻った豪臣は、備え付けのベッドに倒れ込む。
(キツイ・・・たった二つ、術を合わせて使っただけでこの様か。修行、サボってたもんな~。今の状態じゃ、本気で戦うことが出来ない。どうしよ~)
自分の不甲斐無さに落ち込む豪臣だった。
夜になり朔夜が眠った頃、豪臣は日課になりつつある城壁での月見酒に出かけた。
豪臣が城壁に着くと、そこには先客が居た。
「青蓮。どうしたんだ、こんなトコで?」
「豪臣さん?私は、月を見ていただけですよ」
そう言って、笑みを返す青蓮。
そんな青蓮に、豪臣は酒の入った大徳利を前に出して振って見せる。
青蓮は、頂きますね、と言って近づいてきた。
しばらく二人は、黙って酒を酌み交わしながら並んで月を眺めていた。
が、青蓮が、口を開く。
「今朝は、ありがとうございますね。豪臣さん」
「いや、俺も自分の現状が分かって良かった」
豪臣は、そう答えて青蓮を見詰める。そんなことが訊きたい訳じゃないだろ、と。
青蓮は、頷いて言う。
「本当に残ってくれないのですか?」
それは、孫家の将となって欲しい、という誘いだった。
「前にも言ったが、それ出来ない。俺は、此処の雰囲気も人物も好きだ。
けど、青蓮も知っての通り、俺は仙人になるための修行で来ている。それが何なのかは分からない。が、それを知っている者から見聞を広げろと言われたんだよ。だから・・・」
続けようとした豪臣に、青蓮が寄り掛かり、肩に頭を預けてくる。
「・・・青蓮?」
「・・・罪作りな人ね」
青蓮が呟く。豪臣は、その意味が分からなかった。
「私の気持ちは、どうしてくるのですか?」
そこまで言われて、豪臣は気がつく。
「お前なぁ・・・子持ちだろ?」
「そんなことは、恋には関係ないですよ」
(確かにな。それに、こんなにも魅力的だもんな。でも、俺は・・・)
「・・・ごめんな」
そう言って、青蓮の肩を抱く。
「まったく。言動が合っていませんよ。断っておいて肩を抱くなんて」
呆れ顔で溜息を吐いて、豪臣を見る。顔を上げた青蓮との距離は、僅か数cm。
「良いですよ。此処に逗留する間に、あなたの気持を変えてみせますから」
「出来るかな?」
見つめ返しながら、豪臣が言う。
二人の距離が縮まっていく。
そして
「して・・・見せますよ」
青蓮の言葉と共に、二人の唇が重なった。
そんな二人を階段から見ていた者が居た。
「私の居ない処で、女と二人きりですか」
朔夜だった。
「・・・良い度胸ですね」
そう呟いたとき、二人は寄り添ったまま、その場を離れて行った。
(どうせ、青蓮の部屋でニャンニャンでしょう。邪魔するのは野暮と言うものです。明日、覚悟して居て下さいね、豪臣)
そう思い、朔夜は部屋へと戻って行った。
が、部屋の前まで戻って来たとき
(あ、あの天然すけこまし星人!!)
朔夜は、怒りに顔を歪めた。
(私が寝ていたはずの部屋で、ニャンニャンですか!)
豪臣と朔夜の部屋から、人の気配がする。しかも二人。さらに言えば、一方は良く知っている気配。
朔夜は、その場を去りながら言い残す。
「熟女マニア。本当に良い度胸です。明日は“覚悟”していて下さいね」
次の日。昼になって皆の前に現れた豪臣は、顔中に引っ掻き傷と歯型で埋め尽くされていた。
あとがき
どうも、虎子です。
お気に入り登録80人突破です。ありがとうございます<m(__)m>
さて、作品の話ですが・・・
今回と次回は拠点“っぽい”話です。
黄祖には、あれだけ梃摺ったのに青蓮を呆気無く・・・まぁ、これが豪臣の無手バージョンの強さです。
ちなみに、設定資料を閲覧されれば分かるのですが、現段階では青蓮>黄祖ですよ。
11・12・13話のQ&Aです。
Q.豪臣の力(パンチ)は、当たったら千切れ飛ぶ程なの?
A.普段の豪臣は、仙氣で身体能力が上がっていますが、千切れたりしません。内臓破裂程度です。11話の返り血は、口から出たものと見て下さい。ただし、『怪』を使用した時の力なら、一般兵相手のときに可能です。
Q.紫苑を出して!
A.最初は、三國志で劉表に仕えていた紫苑を登場させようと考えていたのですが・・・ごめんなさい。黄祖は、後々重要な・・・ですので。
Q.黄祖、強っ!?
A.いえいえ。今の黄祖は、まだまだですよ。ただ、後々・・・
と、こんな感じです。
次回投稿は、早ければ24日。遅くとも25日終了までにと予定しています。
作品への要望・指摘・質問と共に、誤字脱字等ありましたら、どんどんコメント下さい。
最後に、ご支援、コメントを下さった皆様。お気に入りにご登録して下さった皆様。
本当にありがとうございました。
ではでは、虎子でした。
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拙い文章ですが、よろしくお願いします。