和やかな雰囲気の中、私たちは真名を交換し合いました。
これで、月さん詠さんは名実共に公孫賛軍の仲間入りとなりました。
そんな中、一人大事な人物がいない事に気付きました。
稟ちゃんです。
「あの~、稟ちゃんは~?」
私がこう言った途端、白蓮さんや華雄さん霞さんが複雑そうな顔をしました。
そんな三人を見て星ちゃんとお兄さんは首を傾げています。
月さんと詠さんは事情が分からないのでキョトンとしていました。
「稟は……、曹操軍に下った……」
「えっ!?」
「なんと!?」
白蓮さんのこの言葉に、お兄さんと星ちゃんは驚きを隠せないようでかなり大げさな反応を示しました。
私はというと何となく察しがついていたので、冷静に事を受け止めました。
「風は驚かないのか?」
「稟ちゃんが曹操さんに熱を上げていたのは知っていましたし~、この連合で会った時にひょっとしてという思いもありましたから~」
「そうなのか……。 あ、これは稟から風への文だ。」
そう言って、白蓮さんは私に一通の文を渡してくれました。
中には、虎牢関での戦いで曹操さんに見初められた事。
私がお兄さんに日輪を見出したと同じように、稟ちゃんは曹操さんにそれを見出した事。
私や星ちゃんとの旅が楽しかった事。
白蓮さんの下での事などなど、色々書かれていました。
最後に、ごめんなさいと……。
その文字を見た時に、私は思わず涙を流していました。
友人が自分の理想に近づいた事への嬉しさでしょうか。
それとも、その友人と離れ離れになってしまった事への悲しさからでしょうか。
自分でも分かりませんが、なぜか涙が止まりませんでした。
そんな私をお兄さんが抱きしめてくれました。
「ずっと一緒だった人と別れるのは悲しい事だから、思いっきり泣いていいんだよ」
そう言うお兄さんに私は冷静に答えました。
「いえ~、目に砂埃が入ってしまっただけですよ~。それよりも心配です~」
「何が?」
「稟ちゃんが鼻血を出したら誰が介抱するのでしょう~?」
この私の言葉で場がまた明るくなりました。
ただ、事情の分からない月さん達はずっとキョトンとしたままでした。
心配する点が違うだろうと誰かに指摘される気がしました。
お兄さんに指摘されるのかと思いましたが、それは違うところから出ました。
「風、それよりも今は稟が曹操軍に行ってしまった事が問題だ!!」
そう、我が軍の大将である白蓮さんです。
「稟は、わが国の中枢にいた人物だ。様々な施策も知っている。何より張三姉妹の事もあるしな」
「確かにそうだな。それらの情報が曹操軍に流れるとなると厄介かもしれん」
「そうでもないと思いますよ~」
白蓮さん達の懸念はもっともかもしれませんが、私はそれほど重大な事態になるとは思っていませんでした。
「今まで風達がしてきた施策などその気になれば誰でも思いつくものですよ~。 それにある程度の情報は曹操さんにも流れているでしょう~。張三姉妹の事は、護衛でもつければ大丈夫だと思いますよ~」
「そうか?」
私の回答が意外なのでしょう。
二人ともキョトンとした表情をしています。
実際、私の言った通りなはずです。
ただ、張三姉妹に関しては、用心に越した事はない程度に思っています。
それに、稟ちゃんが華琳さんの下に行ったからとって、なんでもかんでも話したりはしないようなそんな気がしていました。
それ以上に気掛かりなのは、稟ちゃんが抜けた穴をどう埋めるかでした。
「稟ちゃんが、華琳さんの下に下ったからといってなんでも話すとは風は思えません~。 それよりも稟ちゃんがいない分をどうするかが風は気になるのですが~」
「確かにな、うーん……」
私の言葉に白蓮さんが腕を組み唸っています。
稟ちゃんの抜けた穴は意外と大きいです。
稟ちゃんほどの力を持った軍師向きな人は、この大陸でもそういないでしょう。
身近なところでは、桃香さんのところのお二人くらいでしょうか。
なかなか妙案が浮かびません。
と、ここでお兄さんが言いました。
「それなら、詠に手伝ってもらったらどうだ?」
お兄さんの言葉に白蓮さんが明るい表情になります。
それとは対照的に、詠さんは驚いてました。
「ちょっと、なんでボクが!?」
「だって、詠は董卓軍の優れた軍師なんだろ?」
「それはまあ、そうだけど……。 じゃなくて、ボクはもう表舞台には立てないはずじゃ……」
「別に表に出る必要ないだろ。献策とか裏方だけでもやれれば風の負担軽減になるはずだし」
「だけど……」
そう言って詠さんは横を見ました。
隣では、月さんがやりなよと促すような表情をしています。
「ボクだって軍師として働けるならやりたけど、お手伝いという立場だし……」
「白蓮、どうかな?」
「確かに今まで稟が行ってきた事全てを風に任せるとなると、風への負担が大きくなる。 手伝える部分はやってもらえるならそれに越した事はないだろうが……」
白蓮さんはそう言って私を見ました。
おそらく、私の意見を求めているのでしょう。
「風も表舞台に出ないなら別に構わないと思いますよ~。 詠さんの実力は噂でですがいろいろ聞いてますし~」
私としても負担が軽減されるなら歓迎です。
董卓の側にその人ありとまで言われているその実力は疑う余地がありません。
「風が問題ないなら、いくつかの案件は詠にお願いしよう」
白蓮さんのこの言葉で全てが決定しました。
「仕方ないわね、ボクが手伝ってあげるよ」
「詠ちゃん、頑張ってね」
月さんの励ましに詠さんの決意も新たになったようです。
と、ここで連合の他の兵士さんたちを適当にあしらっていた貂蝉さんが中に来ました。
「袁紹ちゃんの家来さんが公孫賛ちゃんに用事があるって来ているわよ」
「本初のが?・・・ちょっと行ってくる」
そう言って白蓮さんは入り口へと走っていきました。
暫くして戻ってくると、私たちに言いました。
「洛陽の制圧が済んだそうだ。それでこれから献帝に謁見するそうだから来て欲しいという事らしい」
「皇帝陛下にですか~?」
「そうだ。 風に星、そして北郷、一緒にきてくれ。 月達は……貂蝉頼む」
「あ~ら、ここをどこだと思っているのかしら?」
「そうだった」
置いてけぼりを食らう事になる月さん達は納得の表情をしていました。
「まあ、しゃーないわな。 うちらが行く訳にはいかんし」
「そうだな。 何か得物でも借りて稽古でもするか」
「おっ、それならウチとやろうや」
「そうだな」
霞さんと華雄さんでなにやら盛り上がっています。
そこにすかさず詠さんの言葉が入りました。
「ちょっと、人様の家で何しようとしてんのよ!!」
「何って……、稽古やけど?」
「稽古って……、また何か壊すんじゃないでしょうね!!」
「壊さへんって……、なあ?」
「ああ。 まあ、稽古の邪魔になって何かにぶつかるかもしれんがな」
「あー、それはしゃーないやん」
「それを壊すって言うんじゃないの?」
「でも、それは不可抗力やし……」
詠さん達がなにやら言い争いをしているのを星ちゃんが眺めつつ言いました。
「私も華雄や霞と手合わせしたいのだが……」
「いや、星は公孫賛軍の将軍だからこっちだ!!」
華雄さん達の所に行きたがっている星ちゃんを無理矢理引っ張りながら、私達は洛陽の王宮へと行きました。
あとがき
いやぁ、短い(笑
すみません、全然筆が進みませんでした。
自分でも笑っちゃうくらいにご都合主義連発です。
こんな感じで、ちゃんと進められるのか不安になって来ました^^;
稟が抜けるのか規定事項でした。
ただ、いつ抜けさせようかというのが問題でした。
今回のように連合での戦いで華琳に見初められてと言うのがいいかなと・・・。
月と詠の事を稟に知られてから華琳の下へじゃ色々都合も悪いですからね。
次からは反董卓連合も終わり、ついに群雄割拠の時代へと進んでいきます。
戦闘シーンが苦手なのでその辺をどう捌こうか今から色々考えています。
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真・恋姫無双の二次小説です。
風の視点で物語が進行していきます。
またまたかなり期間が空いてしまいました。
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