No.118210

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(4.2.Star Date/The second part)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。

2010-01-12 18:28:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1089   閲覧ユーザー数:1078

4.2.Star Date(The second part)

 

「一日は短いのよ。早く走って」

「ちょ……ちょっと待って!」

 

 いきなり表通りに向かって走り出したシェリオの後を追う。

 え? ――ちょっと、本気?

 

「ほら、手を貸して」

「――無茶し過ぎ!」

 

 先に乗り込んだシェリオにひっぱり上げられて何とか乗り込む.

 突然のことすぎて、胸の鼓動の激しさがなかなか収まらない。

 

 まさか走ってる路面電車に飛び乗るなんて思わなかった。

 抗議の視線を向けてもシェリオは軽く肩をすくめて見せただけで、上機嫌に鼻歌なんて歌ってる。

 

「んー。風が気持ちいいわね」

「楽しそうね」

「まあね。ギャラクシーと全然違うから」

 

 ちょっとだけイヤミのつもりで言ったのに柔らかい微笑が返ってきて、どきりとする。

 ――何か不意打ち食らったみたいでちょっと悔しくなる。

 

「そんなに違ったっけ」

「ギャラクシーに来たことがあるの?」

「うん。小さい頃にだけど。そんなにここと違ったかな」

 

 動揺してるのを隠したくて、話題を変える。

 まだ舞台に立っていた頃の話だけど、公演でギャラクシー船団に行ったことがあった。

 その頃はそんなにフロンティアと違う印象がなかった気がする。

 

「結構、急激に変わったかもね。今はハイテクノロジーの最先端を行ってるわ」

「だから、インプラント技術とかも進んでるんだ」

「そうね。ギャラクシーじゃインプラントもサイボーグ化も結構当たり前のことかな」

「それって、すごい」

 

 インプラントもサイボーグ化もここじゃ医療用じゃなきゃ手術を受けられないし、技術としても最先端の部類に入る。

 それが、当たり前なことになるなんて、ギャラクシーのテクノロジー技術はエデンよりも進んでいるのかもしれない。

 驚いて目を丸くしているとシェリオはくすりと笑った。

 

「でも、アタシは何もしてないわよ。それが売りのひとつだし。

正真正銘、生まれたままの姿よ」

「!」

 

 すっと屈んでサングラスをずらして視線を合わせて、軽くウインク。

 ――ちょっと、またなんて不意打ち!

 我ながら簡単に遊ばれてると思いながらも顔が熱くなるのが分かる。

 

「赤くなっちゃって、カ・ワ・イ・イ」

「ん、もう!」

 

 サングラスを元に戻して、小憎らしい笑みを唇に履く。

 ワザとわかっててやってるのに、こうも簡単に思い通りの反応をしてしまう、自分が悔しすぎる!

 

「――この辺で歩きたいな」

 

 シェリオの気が向くまま、繁華街に近い停留所で降りた。

 

(……大丈夫、かな?)

 

 いつも通りこの辺りは人が多かったけど、意外とシェリオに気づく人はいなかった。

 もちろん、ちらちら見られてはいるし、こそこそ話しているのはあちこちで目に付くけど。

 ――まあ、まさかこんな普通に街中を歩いてるなんて思わないか。

 

「あ……!」

 

 歌が聞こえてきた。

 聞き覚えのある旋律と歌声。

 それが流れてきた方を見ると大きなモニタにシェリオのPVが映っていた。

 

(ライヴの時の歌だ……)

 

 不思議な気持ちで画面を見上げる。

 スポットライトを浴びて、堂々として華やかなパフォーマンスで魅せる『銀河の帝王』がそこにいた。 

 

「何見てるの? ――ああ、アレ」

「やっぱり有名なんだ」

「そう?」

 

 私の視線の先に自分の姿を見て、別段、珍しくもなさそうにそう言って軽く肩を竦める。

 あれがシェリオにとっては普通のことなんだ。

 

「――当たり前に街中に『いる』んだね」

 

 あのオーロラビジョンだけじゃない。

 視線を動かせば、あちこちにシェリオの姿があった。

 ――何だか、ちょっとだけ不思議な気持ちがした。

 

「馬鹿ね。何言ってるんだか。ほぉら、さっさと行くわよ」

「あ、痛ッ。――待ってよ!」

 

 改めて驚いてる私を見てちょっとだけ不機嫌な表情になる。

 そして、人の額にデコピンして、さっさと歩き始めてしまった。

 

「あら、いい匂い。何売ってるのかしら?」

 

 しばらく歩いてると美味しそうな匂いがしてくる。

 時計を見れば、そろそろお昼が近い時間。

 近くにカラフルなバンが止まってて、ホットドッグを売ってるのが見えた。

 

「ホットドッグみたいだね。食べてみる?」

「いいの?」

「ちょっと待ってて」

 

 ちょうどいいし、そう言って買いに走る。

 きっと屋台なんていうのは珍しいんだろうな。

 期待で子供みたいに目をキラキラさせるシェリオが何か可笑しかった。 

 

「お待たせ。はい、どうぞ」

「ありがと」

 

 結構人が並んでて買ってくるのに思ったより時間が掛かってしまったけど、出来たてのホットドッグは美味しそうだった。

 他の人たちと同じように道端で頬張る。

 

「美味しいわね」

「………」

「どうかしたの?」

 

 話しかけられても答えない私にシェリオは小首を傾げる。

 ――当の私は……答えたくても答えられなくて……。

 

「か……辛いーっ!!」

 

 お店の人が「オマケしといたよ」って言ってたのはコレのことだったの!

 たっぷりマスタードのオマケなんて、全然嬉しくないーっ。

 

 顔を真っ赤にした私にシェリオは一瞬きょとんとした後、大爆笑してくれた。

 全くホントに遠慮も何もないんだから!

 

「やだ、可笑しい! ――お子様味覚なのね、アルトって」

「う……うるしゃい……」

「あらあら、言葉まで可笑しくなっちゃってるわよ」

「~~~!」

 

 笑いすぎて涙目になってるシェリオを睨み付けたけど、辛さで口も回らないような状況じゃ、全然説得力ないみたい。

 逆に余計に可笑しそうにして噴出しさえしてくれた。

 

「これでも飲みなさいよ」

「……あ、りがと……」

 

 くすくす笑ったまま、シェリオは持っていた紙コップを渡してくれた。

 何とか口の中に残ったマスタードを洗い流したくて、ジュースを一気に飲み干す。

 

「ふう……」

 

 ……これで、ちょっとマシになったかも。

 やっと一息ついたところでシェリオが人差し指で紙コップを差してにやりと笑った。

 

「?」

「それ、さっきアタシも飲んだんだけどね」 

「――っ!」

 

 シェリオから渡された紙コップを思わず見つめてしまう。

 それって……もしかして……私、シェリオと……。

 

「これって、間接キスよね」

「ちょっと――!」

 

 分かってて、わざとそう言って、投げキッスをしてみせる。

 本当に何て性質の悪い!

 

「アルト、また顔が真っ赤よ?」

「シェリオ――許さないんだから!」

「あらら、怒っちゃった?」

 

 逃げ出したシェリオの後を追った。

 自分でも顔が赤くなってるのがわかる。

 いいようにシェリオに遊ばれる自分が悔しくて、人を玩ぶシェリオ本人にも腹が立つ!

 

「ちょっと待ちなさい!」

「いやぁよ」

「もう!」  

 

 果てのない追いかけっこ。 

 こっちも毎日鍛えてるけど、さすが敵も現役アイドル歌手。

 なかなか追いつくことが出来なかった。

 

(――一体、私ってば何やってるんだろ?)

 

 はじまりを思い出すのもバカバカしくなる程度に走り回った後、シェリオが何かに目を留めて立ち止まる。 

 

「あれ、楽しそうね」

「あれって――ジャイロバイクのこと?」

「どこで借りられるのかしら」

 

 シェリオの視線の先では子供たちが電動立ち乗り二輪車――ジャイロバイクに乗って走り回っていた。

 多分、シェリオの言うみたいにレンタルしたヤツだと思うけど、乗ってみたいのかな?

 

「乗るつもり?」

「もちろん! さあ、探しに行くわよ」

「はいはい……わかりました」

 

 何たるバイタリティ。

 さっきまでの追いかけっこしてたとは思えない軽快な足取りに白旗を揚げる。

 全くこんな場面で『銀河の帝王』たるパワフルさを認識することになるとは……。

 

「♪~」

 

 ちゃっかり子供たちにレンタル場所を聞いて、ジャイロバイク無事ゲット。

 鼻歌交じりにジャイロバイクにのるシェリオに頭が下がった。

 ――本当にお見事でございます、『銀河の帝王』。

 

「あ! そんな乱暴に運転したら、危ない!」

 

 最初、しばらく慣らし運転していた時はよかったけれど、慣れてきた途端、無茶な運転。

 舗装された道なら大丈夫だと思うけど、ここは郊外で足元が良くない。

 そんなスピードが出るわけじゃないけど、こけたりしたら……。 

 

「この程度で何言ってんの? 追いつけないんなら、素直に言いなさいよ」

「誰もそんなこと言ってない!」

「悔しかったら、追いついてみなさいよ」

「もう!」

 

 人の心配なんか、どこ吹く風。

 スピードを上げるシェリオの後を追うしかなかった。

 

(全く、もう……)

 

 しばらく走らせていると木々が生い茂る森林地帯に入った。

 フロンティアは21世紀初頭の地球を模しているから、人工だけど自然地帯も存在する。 

 

「……綺麗ね」

 

 シェリオは頭上を眺めながら、呟いた。

 さっきまでの速度が嘘みたいに緩やかなスピードでジャイロバイクを走らせる。

 

「ドームの中にこんな森があるなんて。

木漏れ日が輝いて、鳥の囀りが聞こえて、なんて不思議で素敵なの」

 

 シェリオの携帯のシャッター音が静かに響く。

 楽しそうな表情であちこち見回して写真を撮っていく。

 

「私には作り物の森なのでそんなにはしゃげるあなたの方が不思議」

「そう? はしゃぎすぎかな」

「さあ、別にいいんじゃない?」

 

 くすぐったそうに笑うシェリオにつられて、笑みが浮かぶ。

 ここで当たり前に育った私には無邪気にはしゃぐ姿が微笑ましく思えた。

 

 ――本当にシェリオって不思議だと思った。

 ステージの上の顔、意地悪な顔、それに、今みたいに無邪気な顔。

 一体、いくつの顔を持っているんだろう?

 


 
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