No.118157

『想いの果てに掴むもの ~第10話~』

うたまるさん

『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。
蜀で繰り広げる一刀のドタバタ物語とは
今回ある事が起因で、一刀は蜀の将と一騎打ちをする羽目に

2010-01-12 08:42:03 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:24752   閲覧ユーザー数:17755

真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ

『 想いの果てに掴むもの 』蜀編

  第10話 ~ 鬱積する想いと矛先 ~

 

 

 

「そこの兄ちゃん、肉まん食べていかないかい」

「関羽様、今日も見回り、ありがとうございます」

「みよ、この切れ味、堅い南瓜が、まな板ごと」

「おっちゃん、それやくにたたないんじゃ」

「お譲ちゃん、そんな兄ちゃんほっといて、てっ、あれ無視ですか残念」

「関羽様ー、一緒に遊ぼう」

「すまない、また今度な」

 

賑やかだった宴も、日が変われば、また日常へと戻っていく

次の日、桃香の元に行った俺と風に桃香と諸葛亮が告げたのは

今、蜀が抱えている問題の幾つかの解決に、協力して欲しいというものだった。

正直、他国の問題を、俺みたいな余所者に何故と思ったが、

話を聞いていくと納得。

大きく分けると、国営の私塾つまりは学校に関する事

許昌やその周辺の治安の良さから警備体制を模範したいとの事

風呂に使用した技術の利用例や、その有用性や問題点

その他、魏でやっていることで、広く知られている幾つかの俺が提出した政策を、蜀で適用できるか等と

納得いくものだった。

こういった場合、俺だけでなく、風が付いて来てくれたことは、非常にありがたかった。

こちらの世界での一般常識が欠けている俺だけでは、言いたいことを伝えきれるか、

心配なところがあるからだ。

その点風は、そのあたりは大分慣れているので俺をフォローしてくれるはず。

 

そういうわけで、まず警備体制を含む街の様子を見たいと言って、

こうやって、関羽さんと風を一緒に街を回っているのだが、

まず活気はある。このあたりは、徳として知られる桃香の人気のおかげもあるだろう。

そのため人も多く集まってきて、賑やかしさを、かもし出している。

その反面、街の規模や警備の人数が、それに追いついていない事。

貧民街とすら呼べない地区も、幾つか存在してしまう事。

まだまだ数えれば、きりが無いくらいの問題点が目に付く。

だが、その殆どは一足飛びに直せるものではない。

多くの時間とお金と労力が必要となる。

とりあえず、見てみて正解だ。

まだ一部しか、つかめていないが、こまめに見にこれば、それなりに気が付く事も出てくるはずなので、

当分街を巡視する事に、付き合ってもらおうと、心に決める。

 

俺は城に戻ると、諸葛亮に此処二年分の警備報告を見せてもらいたいと頼む。

警備報告を見て、気になる事があれば、聞いてまわり。

報告の中で政策が元で出た問題があれば、その政策の事を頼んで、当時の竹簡を見せてもらう。

 

そんなわけで、此処6日、他の問題は後回しにして、

朝と夕方と街を回り、残りは城で報告書を読むといった事を繰り返していた。

そして、7日目

 

バンッ!!

 

「北郷殿! あなたはなにを考えられている!

 我々のお願いした事に、いっこうに助言もしてくれず

 街をうろつき、警備の報告だけに飽き足らず、我らの政務の記録まで読み返す始末

 これでは、まるで、細作ではありませぬか!」

 

パキッ

 

と、とうとう関羽さんが、凄い剣幕で、あてがわれた執務室に乗り込んできた。

その剣幕に、隣に居た風は、とくに気にしておらず。

聞きたい事があったので、来てもらっていた鳳統が、俺の後ろに関羽さんの剣幕に怯え、隠れていた。

とりあえず、俺の影に隠れた鳳統をこのままでは、被害を受けかねないと、風の方へ追いやる。

 

「まぁ、落ち着いて、その手に持っているのって、もしかして俺が頼んだ奴?」

「ええ、そうです!

 一応頼まれた以上、持ってきましたが、これ以上我等に協力しないのなら、

 これをお渡しするわけにはいきませぬ!」

 

関羽さんは鋭い目つきで、これ以上勝手を振るう事は許さんといった感じに、俺を睨み付ける。

 

「でも、俺は桃香に頼まれてきたんだけど」

「それは、あなたが、我らの助けをすると聞いているからです!」

「あ、あの愛紗さん」

「雛里殿は黙っていてもらいたい。今、私は北郷殿と話しているのだ」

「あわわわわ、・・・」

 

愛紗の剣幕に、俺は一度肺に溜まった息を吐き出すと、

 

「士元、頼んで悪いんだけど、孔明を呼んできてもらえるかな」

「あわわ、はいわかりました」

 

俺の頼みに、鳳統は部屋を出て行く。

 

「北郷殿、どういうつもりか、お聞かせ願おう」

「まぁまぁ、孔明が着たら話すから、今は落ち着いて

 風、関羽さんにお茶でも出してあげて」

「はいのなのですよー」

「北郷殿!」

 

俺の言葉に、関羽さんは、とっとと話せと言わんばかりだが、

俺は、諸葛亮が来てからだと言わんばかりに、手元の報告書に視線を移す。

俺のそんな態度に、関羽さんは苛立ちを隠せない様子で

少しは落ち着こうと、お茶に手をやるが。

 

「あちっ」

 

淹れたばかりのお茶を、怒りを飲み込まんとばかりに飲み込み、

その熱さに目を白黒させる様子を

俺は、しっかりと目撃した。

関羽さんって結構面白い人なのかも、

本人は気が付いていないようだけど、天然系委員長属性なのかもしれない。

真面目なだけに、そこをからかったら面白いかもしれない、

だが残念なことに、龍の口に手を入れるほど、俺には度胸はないので無理だけど・・

そう思っていると、廊下から、慌しい足音と共に、鳳統が諸葛亮を連れてやってきた。

 

「はぁー、はぁー、愛紗さん、北郷さんを、細作として斬ったって本当ですか」

 

諸葛亮は部屋に飛び込み、開口一番にとんでもない事を言う。

 

「えーと、俺、一応無事だけど」

「あ、あれ? でも雛里ちゃんが」

「あわわ、ちがうよ、朱里ちゃんが勝手に早とちりを、私は愛紗さんが、斬らんばかりの勢いでとしか」

「朱里よ、いくらなんでも、私はそのような短絡ではないぞ」

「でも、それくらいの勢いだったは、たしかだったのですよー」

「風殿までそのような事」

「とりあえず、揃ったね、孔明、急遽呼び出してしまって悪かったね」

「はわわ、そんな事無いです。 とにかく無事で何よりです

 それで、何の騒ぎなんです」

「朱里よ、おぬしも知っていよう、北郷殿が我らの願いをそっちのけで、我らのした事を調べている事を」

「で、でもそれは、きっと理由があるからだと一昨日にも」

「ああ、聞いた。 だが、これ以上無為に我らの政策を調べられては、たまらんと言っているのだ」

「まぁまぁ、二人とも」

 

俺は、とりあえず、言い合いになりそうな二人を止める

 

「うん、皆に不審と思われたのも仕方ないかもね。

 本当は、もう3日は欲しかったんだけど、風お願い」

「くーー・・・」

「寝るなーー!」

 

ピシッ

 

「おぉぉぉ、愛紗さんの勢いに、思わず風は寝てしまったのですよー

 お兄さん、相変わらずの、鋭い突っ込みでしたねー」

「それはいいから、お願いできるかな」

「はいはいなのですよー」

 

俺の言葉に風は、部屋の奥から、竹簡、木簡の山を持ってきて、机の上に置く。

 

「これは?」

「とりあえず、俺が街を見たり、記録を見て気が付いた事や、その解決案を簡単に書いた物だよ。

 きちんと纏めてないから、読みづらいだろうけど、とりあえず見てみてほしい」

 

俺はそう言って3人に見てもらう。

 

「こ、これは・・」

「はわわ、こんな事にまで気が付くなんて・・・」

「あわわ、朱里ちゃんこれ」

「うん、でもこれってどういう意味が・・・」

「たぶん、こちらのと連携して・・・」

 

3人は、内容に驚いたのか、軍師の二人は、早速内容の討議を始めていた

 

「まだ、途中だから、見てもらうのは恥ずかしいのだけど、これを元に討議していこうと思ってたからさ、

 今まで黙っていたのは、申し訳ないけど、こちらもある程度、情報を整理してからじゃないと、何も言

 えなかったからなのは理解して欲しい。

 警備体制についての案は、やったことあるから纏めやすかったんだけど、今の状況に合わせるのに、

 手間がかかっててさ、あと少しだけ待って欲しい」

 

俺はそう言って、書き掛けの竹簡の束を関羽さんに、掲げて見せる。

 

「これを全部、北郷殿が?」

「いや、風が大分手伝ってくれた。 俺一人だったら一月以上かかってたんじゃないかな」

「失礼しました! 北郷殿が此処まで考えて下さっているとは知らず。

 無礼の数々、本当に申し訳ありません」

 

俺の言葉に、関羽さんはそう言って、大袈裟に俺に謝ってくる

 

「ああ、関羽さん頭を上げて、元はと言えば、俺が黙っていたのが原因なんだから、

 関羽さんは、当然のことをしただけだから。 うん、こちらこそ、申し訳ない。

 いろいろ腹を探られるような真似をされて、不愉快だったろう」

 

関羽さんに頭を上げてもらい、今度はこちらから頭を下げる。

そんな、こちらの態度に、こちらが悪いとお互いが言い合う。

そんな俺と関羽さんに

 

「お兄さんも、愛紗さんも、喧嘩両成敗と言うことでいいじゃないですかー」

「これにて、一件落着ー」

「とホウケイも言っている事ですしー」

 

風と宝譿の言葉に、その場に笑顔がこぼれる。

それと、風、喧嘩両成敗って金さんじゃないんだから

とおもわず、風の頭の上で宝譿が金さんのように、桜吹雪を見せている姿を想像してしまった。

なんかコミカルで、楽しいかもしれない。

だが、まぁそれは置いておいて

 

「というわけで、関羽さん、孔明、士元、もう少し調べたいんだけどいいかな?」

「はい、このように、きちんと仕事していただいている以上、私に是非はありません」

「でね、この方法だと」

「うん、他にも使えそうだよね」

「孔明? 士元?」

「はわわ」「あわわ」

「あの、話し聞いていてくれた?」

「は、はひゅ、全然かまいません。

 こちらの政策やその記録も、今まで程度のものであれば、お見せする事に問題はありません」

「うん、ありがとう」

 

諸葛亮の返答に、裏で色々不満の声を抑えてくれているだろう二人に、感謝の意を篭めて、

精一杯の笑顔で、俺は礼を述べる。

すると何故か、二人は顔を赤くして、ぽーとしている。

そういえば、此処まで急いできたみたいだから、疲れが出たのかな。

じゃあ、今はそっとしておいた方が良いかな、そう判断して、もう一度関羽さんに顔を向ける。

 

「じゃあ、そういうわけで、関羽さん、その手の報告書見せてもらえるかな」

「あっ、失礼いたしました。 どうぞこれ・・・・」

 

関羽さんは手の竹簡を渡そうとしたが、手の竹簡を見て動きを止めた。

彼女の手の中の竹簡を見ると、見事に握りつぶされている。

そういえば、最初になんか割れる音がしたよーな、

・・・竹簡って、握り潰せる物なのか(汗

 

「か、重ね重ね、申し訳ございません。

 どうやら、竹が悪くなっていたようで、本当に申し訳ありません」

「・・・あっ、いいよ・・・悪くなってたのなら、しょうがないよね・・」

 

再度謝る関羽さんを、俺は、乾いた声で押しとどめる。

・・どう見ても悪くなってたようには見えないんだけどね(汗

・・・うん、彼女を怒らせないよう、今度からは、もう少し相談しよう。

 

「孔明」

「ひゃ、ひゃい」

 

俺の言葉に、諸葛亮が慌てて返事をする。

どうやら、まだ酸欠で頭がぼー としていたようだ。

 

「出来れば4日後ぐらいに、討議の場を設けたいんだけど、いいかな?」

「わかりました。 詠ちゃん や ねねちゃんにも、声を掛けておきます」

「うんよろしく、悪いね使うようで」

「いえ、こちらからお願いしている以上これくらいは」

「うん、とにかく、ありがとう」

 

俺はもう一度感謝の意味を籠めて、せい一杯の笑顔で礼を言う。

すると今度は、何故か下を向いてなにやら、ごちゃごちゃ呟いている。

さすが諸葛亮、きっと、さっきの案を検討しているのだろう。

そうして、一悶着があったが、

俺と風は、現状把握と、かなり大雑把だが、その対策現案を纏めるのに10日を有した。

 

 

 

 

 

 

そんなわけで約束の日、

ある一室で、俺、風、そして蜀の頭脳陣である諸葛亮、鳳統、賈駆、陳宮、関羽さんが、

机を囲っていた。

桃香は仕事が溜まっているらしく不在。

まず俺は、関羽さんにしたように、色々調べる事によって、皆に不快な思いをさせてしまった事を、

お詫びした。

次に、この街に来て一番思ったこと、それは、この街の人が、桃香を始め将達に絶大の人気を有し、

それに驚愕した事を述べた。

 

「人のことは気がついても、自分の事は気がつかないとは、お兄さんらしいです」

 

と、意味不明なことを言っていたが、それはいつもの事なので、俺は話を進める。

人気があるなら、この人気を利用しない手は無いと

さすがに、この言い方は不味かったのか、関羽さんが怒り出したが、

 

「うん、言い方が悪かったね。桃香風に言えば、

 皆に協力してもらって街を良くしていかない手は無い

 って、こと」

 

俺の訂正に、関羽さんは納得したようで、あとは許昌で最初にやったことを提案する。

むろんお金がかかるので、桃香や諸葛亮に、街の代表者達と相談してもらわないといけないが、

でも、それでもお金が足りないと言う意見に、俺は、先日の竹簡や木簡を皆に見せる。

 

「警備の報告書から、辿って行った政策の報告だけでも、これだけ、気がついた事があった。

 この国は将が多いから、でてきた問題に対しては、凄く迅速に動いているのがわかる。

 これはとても素晴らしい事だと思うし、街の人達の人気も、此処から来ている所もあると思う。

 でもその反面、同じ問題が何度も起きていたり、警備が他の政策と連携が取れていない事が判る。

 例えば、難民とかを受け入れ、家を与え、田畑を開墾していく、これは詠の政策かな?

 これそのものは、とても素晴らしい政策と結果だったと思う」

「ふん、当たり前よ。ボクがやったんだもん」

「うん、そうだね。

 でも難民の仕事は他にもあったし、途中、使われた方法とか、問題が他の政策に生きていないんだ」

「う¨、でもそれは・・・」

 

そう言って、俺は、気が付いた事を一つ一つ説明していく。

とにかく、問題が起きたら、それがもう起きないようにする策を考える事。

とにかく情報のフィードバックとその活用が大切ということ。

使えそうな策は、他の部署にも報告する事。

とにかく、連携をすることで無駄をなくし、支出を抑える。

公共工事も、時間がかかっても、労働力が安くまかなえる時期に行っていく。

年単位の長期の工事なら、それ以外の時は、またその時期が来た時のために、効率よく作業できるように

少ない人数で、下準備を主に行わせる等して、支出を抑える。

とにかく現代では基本だが、この時代では経験則に頼る事が多い。

民に呼びかけ、兵ほど出せないが、その代わり、住居の提供や兵役や労役の免除等、

賃金に換わる特典を出す事によって、安く警備の兵を募る。

お祭り好きな街の人の気質を利用して、国営の競馬場や娯楽施設で利益を出す。

技術の応用も、この街を見て必要そうなものを幾つか挙げて、その有用性や問題をあげる。

など、短期間では効果は出ないが、長期的に見れば、かなりの経費削減や利益になる案を出していく。

途中、この時代では、分からない言葉もあったらしく、それはそのたびに説明をして言って、

ある程度説明を終える、

 

「と、とにかく、うまくいくとは限らないし、こちらからの一方的な意見だし、大雑把だから

 これから大分煮詰めていかないといけないと思うのだけど、どうかな?」

 

俺は、自分で言っていて、これだけの量を、こちらの意見ばかり言って、

かなり一方的だった事に気が付き、不安になって皆の顔色を伺ってみると。

 

「正直ボクは、人の所の内情を、これだけ調べて、

 なおかつ、一方的にあれだけ言える、あんたの度胸に呆れるわ」

「ぐはっ・・」

「でも、あんたの言っている事は最もだと思えるし、ボクとしては、案そのものは悪くないと思う」

「そ、そうです。 先日も思いましたけど、私達と違う視点で、これだけ物事を観察できるなんて」

「そうだよね、朱里ちゃん。 それに、今まで聞いた事も無い発想も多かったし」

「うぬぬぅ、・・このような手段があるとは・・・ねねが見込んだだけの事はあるのです」

「すみません、私には、正直話しについていくことが・・、

 とにかく、我等にとって有益だと言う事だけは、判りました」

 

と言うみんなの言葉に、俺はほっと息を付く、魏の皆だったら、絶対一悶着あるもんなぁー

 

「よかった。 じゃあ、話を薦めていくだけの価値はあるって事で、考えていいのかな?」

「はい、まだ、こちらで検討してみなければ、はっきりした事は言えませんが、

 ほぼ全部、検討する価値があると思います。

 こちらの意見を纏めますので、また5日後ぐらいに討議をしたいと思います。

 北郷さんは、今まで調べ物で疲れていると思いますので、それまでお休みください」

「そう?、じゃあ休んでばかりもなんだから、こちらで、いくらか纏めれるものは纏めておくよ」

「わかりました。 それから、北郷さん、これからは朱里とお呼びください」

「へ?いいの?」

「はい、今回の事を見ても、北郷さんの働きは信頼に値します。

 なら、私もその信頼に答えようと思ったからです。

「あわわ、わたしも、雛里と呼んでいただけたら、・・・これくらいしか、感謝の意を出せないから」

「わかった。 二人の真名、しっかりと受け止めさせていただくよ

 朱里、雛里、これからもよろしくな」

「は、はひゅ、はわわ」「ひ、ひゃい、あわわ」

 

そうして、朱里と雛里の真名を授けてもらう事で、蜀での第一歩を無事踏み切る事が出来た。

 

 

 

 

 

ダンッ!

 

スッ

 

トッ

 

ダンッ

 

トトトット

 

ダンッ!

 

トッダンッ

 

べシャー

 

ズササーーー

 

「うぺっ、口の中に砂が・・・」

 

第1回討議から二日、昨日は、休日にして、風と一日街を見て歩いた。

今日は、久しぶりに丸半日を使って鍛錬をしようと、朝から頑張っている。

むろん、こちらに来てからも、朝夕と短時間ながらも鍛錬を続けてはいたが、

まとまった時間の鍛錬は久しぶりになる。

今も、縮歩の練習をしていた。

やはり仙人とまでは行かなくとも、二連続くらい縮歩が瞬間的に出来るようになれば、

攻撃の幅が広がると思い、練習をしていたのだが、結果は見ての通り、1回目の縮歩の勢いを殺しきれず

2回目の縮歩をでバランスを崩してしまい、ヘッドスライディングをかける始末。

まだ数回に1回しか旨くいかない。

俺はいったん練習をやめて考える。

今までは、最速からの練習ばかりやってきた。

だから、どうしても力が入りすぎるのかもしれない。

なら、通常の動きから、小規模の縮歩を繰り返してはどうだろうか

 

タッ

タッ

 

「とっ、うん、やはり、思ったとおりだ」

 

そんなに速度を上げなければ旨く行く、だがあまり連続すれば"氣"の消耗は激しい。

逆に言えば瞬間的だったら、使えるって事だ。

あとは、これを練習して速度を上げていき、コツを掴めば、最速からもやりやすくなるかもしれない。

それにこの方法は、剣を振るのにも使えるかもと思い、やってみる

 

「はぁはぁ」

 

だめだ、やはり、剣を振るうには、"氣"を送るのが必要な箇所が多すぎて、数分で息が上がってしまう。

威力を挙げるのと違って、増幅で全体速度を挙げようとするのは、単発ならともかく、連続となると、

今の俺では、あっという間に息が上がってしまい、とても無理だという事が判った。

 

「なにやってるんだ、おまえ」

 

俺が息を整えていると、馬超と馬岱が通りかかり、俺に気がつき近づいてくる。

 

「見ての通り鍛錬さ」

「一人でか?」

「皆忙しそうだしね。

 それに纏まった時間を取れるなんて、久しぶりだから、色々試したい事もあるしね」

「一人の割りに、埃だらけのようだけど」

「これは、そのははははは」

 

馬超の突っ込みに、俺は笑うしかなかった。

一人で鍛錬してコケまくってましたなんて・・・さすがに恥ずかしくて言えないぞ。

 

「それにしても、武官でもないのに熱心だな」

「まぁね、今の俺程度じゃ全然役に立たないけど、いつか華琳達の力になりたいから、自分を磨いている」

「おまえの事は、皆から話で聞いている。

 なんで、おまえ見たいな甘い奴が、曹操の傍にいるんだ? あいつのどこがいい?」

 

俺の言葉に馬超は問いを返す

 

「うーん、最初はそれしか、生きる方法が無かったのもあるけど、今は違う。

 俺が傍にいたいんだ。

 華琳は、俺なんか必要ないくらい、しっかりした奴だし、周りの皆も凄い人達ばかりだ。

 でも、それは、華琳の目指すものに力を貸したいと、思っているからだと思う。

 俺も、色々理由あるけど、高潔で、真っ直ぐな所に惹かれているのは確かだよ」

「高潔で、真っ直ぐだと・・・」

 

俺の言葉に馬超は、俺の最後の言葉を繰り返した。

なにやら、俯いて、ぶるぶる震えている。

 

「孟起さん?」

「こ、高潔で真っ直ぐな奴が、母様を毒殺するものかっ!」

「ちょ、なにを」

「おまえだって、皆を旨く丸め込んでいるようだが、あたしは、そうはいかないぞっ!

 ねねを旨く抱き込んで、なにを狙っているっ!」

「いや、それは誤解で、俺は何も狙ってないっ。 それに」

「黙れっ! いいか、あたしは母様を毒殺するような奴の手下の事なんて、信用する気は無い!」

「まってくれ、馬騰いや、寿成さんは、たしかに俺達が行ったときには、もう」

「なんだと、おまえも曹操と一緒になって、母様をっ!」

 

グイッ

 

俺の言葉に、馬超は、俺の胸倉を掴み上げ、俺を宙吊りにする。

 

「こほっ、俺達が行ったときには、本当に」

「あたしは、黙れと言ったぞ! それに母様は自ら毒を呷るような方ではない!

 おまえ達以外、他に誰がいるって言うんだ

 もっともらしく母様を弔い。 裏では邪魔な奴を卑怯な手で、それで高潔なんてよく言えるなっ!」

 

ドサッ

 

馬超は吐き捨てるように、言葉を叩きつけると、その手を放し、俺を放り出した。

 

「こほっ、だから、判ってくれ、華琳は絶対に、そんな事しやしない!」

 

地面に叩きつけられながらも、馬超に言う。

俺のことはどうだっていい、でも華琳のことを、そのように言われるのは、我慢ならない。

馬騰さんのことは残念だと思うけど、それは華琳だって一緒だ。

華琳は、あの後落ち込んでいた。

戦そのものを回避でき無かった事は、あの時の俺達には仕方なかった事。

ならばせめてと、馬騰さんと正々堂々と戦う事を願った華琳が、その願いを叶えられなかった事。

馬騰さんが、毒を呷るなんていう所まで、追い詰めてしまった事を、華琳は悔やんでいた。

俺は、そのことを良く知っている。

だから、その娘である馬超さんには、怨まれるのは仕方ないと思うけど、そのことだけは誤解して欲しく

なかった。

 

「そんな戯言を信じろと言うつもりか」

「本当のことだから、これしか言いようが無い、頼むから信じてくれ」

 

チャッ

 

「そこまで言うなら、あたしと勝負しな、勝ったら、信じてやってもいい」

 

そう言って、いつの間にか手にした槍の矛先を、突きつけ俺に言う。

・・・勝負って

 

「無茶苦茶だ、俺と孟起さんじゃ、相手にならないくらい判るだろうっ!」

「あの時のあたし達と曹操達とは、それぐらい力の差があった。

 でも、あたし達は、正々堂々と戦った。 なのにおまえらは母様をっ!」

「だからって、こんな事に何の意味が」

「御託はもういい、あんたのところの曹操が言ってたよな、

 言いたい事があるなら、まずは力を見せろって、なら、あたしも同じだ。

 あたしを説得したければ、力を示すんだな」

「わかっ」

「それぐらいにしてほしいのですよー」

「「風」」

 

俺が馬超の言葉に、頷こうとした時、風が横から止めに入る。

 

「翠さーん、これ以上は、桃香さんにとって、不味い事になると思うのですよー」

「そうだよ、お姉様、此処でこいつを叩きのめしても、おば様は」

「そんなことは判ってる!

 分かっているから、星や皆の言う事を信じて、魏の連中を受け入れている。

 でもこれ以上、こちらに踏み込むと言うのなら、話は別だ」

「だそうですよー、お兄さん、気持ちは分かりますけど、此処は、引いてくれませんかー」

「駄目だよ、風」

「お兄さん・・・」

 

俺は風の言葉に拒絶する。

華琳の事もあるけど、もうこれはそんな単純な問題じゃないんだ。

馬一族のしこり、

これが敵対している同士なら問題はない。

でも同盟を組んでいるもの同士、しかも重臣の中に、相手を拒絶している者がいる。

これは、今何とかしておかないと、今後大きな問題に発展しかねない。

ましてや、毒殺となると、この時代、卑怯の代名詞みたいなものだ。

むろん戦に毒を使う人達もいる、でも一角の武将が、ましてや王が王に行ったとなれば、

そのしこりは、子孫にまで受け継がれかねない。

そんな悲しい運命は鎖は、なんとしても防がなければならない。

それに、彼女は・・・・

 

「風、此処で何とかしないといけないんだ」

 

俺は風に笑いかけるように、うまく笑えた自信は無いけど、

その言葉に、俺の気持ちを乗せて伝える。

 

「孟起さん、その勝負の申し出、受けるよ」

「おまえ、正気か? あたしとおまえでは、勝負にならないって、自分で言ったばかりだろ」

「勝負を申し込んできたのは、孟起さんの方からだよ、

 それに、勝負にならないなら、俺に勝てる要素をくれないかな、

 例えば、俺が一撃でも当てたら、俺の勝ちとか」

「ふーん、あたしに一撃でも当てれると、思っているのか?」

「思ってないよ、それくらい分かる。

 だからもう一つ」

「これ以上何をくれと言うんだ、ずいぶん欲張りじゃないか、

 いいのか? 欲をはれば、それだけ赤っ恥をかく事になるんだぞ」

「仲間のためなら、恥なんて幾らでもかくさ」

「へぇー、言うじゃない。 その言葉に免じて、もう一つだけくれてやる」

「勝負は騎馬で、ただし馬には攻撃しないって条件で」

 

ギリッ

 

俺の言葉に、馬超は、此処まで聞こえるほど、強く歯軋りする。

 

「おまえ、あたしを嘗めているのか!」

 

チクリ

 

馬超の激昂と共に、突きつけられた槍が、俺の喉にあたる。

 

ゴクリ

 

俺はそんな馬超に、気圧されない様、必死に勇気を振り絞り、次の言葉を紡ぐ。

正直、緊張しすぎで舌が カラカラ のため、声を出しにくい。

それでも俺は、最後まで馬超と話す覚悟を、もう一度決める。

 

「別に嘗めてないよ

 孟起さんに、勝つ手段を考えたら、これしかなかっただけさ」

「それが嘗めていると言っているんだよ! 

 おまえたしか、馬に乗って数年と聞いているぞ

 そんな奴が、生まれた時から馬と生きている馬一族に、騎馬戦だと?

 嘗めるのも大概にしろ!」

 

俺の言葉に、馬超は俺の言葉にますます激昂する。

槍の穂先が、わずかに皮膚を裂くのが判る。

でも俺は、まっすぐ馬超を見つめ、もう一度言葉を紡ぐ

 

「でも、これが終わったら、きちんと話を聞いて欲しい、約束だよ」

「いいだろ、あたしに一撃でも当てたら、何でも言う事聞いてやる。

 蒲公英からまぐれで一本とったからって、あたしに通用すると思った、その思い違いを、

 たっぷり後悔させてやるからなっ! 行くぞ蒲公英」

「わわ、まってよ。 お姉様ー」

 

そう言って、怒り心頭に馬岱を連れて去っていく

 

「あらら、やっぱり怒らせちゃった」

「当たり前ですよー、お兄さん、あんなこと言って、勝てる見込みあるんですかー」

「普段の馬超さんなら、どんな条件つけたって勝てる見込みなんて、これっぽちも無いさ」

「ならどうして」

「たとえ勝ち目が無くたって、いま、やらないといけない事と思ったからだよ

 風、俺が負けたら、馬超さんの事、救ってやって欲しい」

「ふぅー、風はお兄さんの尻拭いですかー

 やめるなら今ですよー、愛紗さんや朱里ちゃんに言えば、止められると思いますからー」

「うわー、もう負け決定なの俺? それに止めたって何も変わらないさ

 ならチャンスいや、機会があるだけ、ましだと思う」

「わかったのですよー、でも、あとでお仕置きが待っているのですよー」

「・・・・えーと、それまからないかな」

「駄目なのですよー」

 

風の言葉に、俺が懇願するが、即答で返されてしまう。

・・・一応俺って、風の主人のはずだよな・・・・グスン

 

「まぁそれは、おいといて、 風、今から言うものを準備して欲しい

 あと、手伝いも欲しいんだけど」

「あれ、お兄さん、何か悪巧みを考えましたねー」

「悪巧みって、そんなんじゃないよ、真桜に作ってもらった奴を、完成させようと思って、耳貸して・・」

「・・・・そんなので、なんとかなるんですかー?」

「うん、大分違うよ」

「そうなのですかー、では早速材料を集めるのですよー」

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様ー、そんな奴瞬殺です。 瞬殺!」

「どっちも頑張るのだーー」

 

次の日、城壁の上から声援が聞こえる中、俺と馬超は騎乗で

俺は模擬刀を、馬超は練習用の槍を持って向かい合っていた。

 

「翠、このような仕合、何の意味がある。 北郷殿相手では勝負にすらなるまい」

「ふん、愛紗に、あたしの気持ちが分かってたまるか」

「だが、この勝負、勝っても負けても、他国の重臣相手に、このような騒動を起こしたおまえには、

 それ相応の罰が待っていると、分からぬ訳ではあるまい」

「関羽さん、大丈夫だよ、こちらは負けても何も言う気はない。

 華琳も、正々堂々とした勝負での事なら、何も言わないと思う」

「そちらがそうでも、こちらとしては、そうも行きません」

「愛紗、はじめてくれ、あたしは母様のことだけでなく

 馬一族の馬術まで嘗められて、はらわた煮えくり返ってるんだ。 止めても無駄だよ」

「たくっ、二人ともなにを考えているのか

 とにかく、勝負は一本勝負。 ただし、翠は一撃でも当てられたら、負けとする。

 馬への攻撃も禁じ、相手を殺す事はまかりならん。

 では、はじめっ!」

 

関羽さんの言葉に俺は、馬超に向かって馬を歩ませる。

馬超さんも、馬を歩ませ、お互いの馬が横になるまで近づくと、二つの騎馬は足を止める。

 

「へーー、逃げまとって、隙を見つけようって魂胆だと思ったら、

 このあたしと打ち合うつもりかい、相変わらず嘗めたことしてくれるね」

「言ったはずだよ、嘗めてなんかいない。

 逃げまとったって、俺の馬術じゃ隙を突くなんて出来ないからね」

「馬上の打ち合いの方に、勝機があるなんて言ってる事が、あたしを嘗めてるって、言ってるんだよ!」

 

ヒュッ

 

ギィン

 

言葉と共に来る突きを、刀で弾く

もう、すでに意識は色の無い世界に入っている。

しかし、今の一撃、あれでも手を抜いたのだろうけど

鋭さと重さは馬岱の比じゃない。

霞との仕合を経験していなければ、やばかっただろう。

 

「へー、今の一撃を避わせるとは、あれから少しは腕をあげた様だね」

 

とにかく、短期決戦だ。

長引けば、実力も経験も違う俺に、勝ち目などあるわけが無い。

いや、もともとこの仕合に、俺の勝ち目は無かった。

だが、ほんのわずかでも、あるとしたら、それは・・・

俺は馬超の言葉を無視して、更に馬を近づける。

馬超は、俺の行動に気が付くが、そのまま

 

「いいだろう、そんなに接近戦がしたければ受けてやる。

 馬一族の騎乗戦の怖さ、その身に刻みなっ!」

 

馬超はそう言うと、俺が真横に来るのを待って、槍を横に払う。

 

フォン

ヂリッ

 

俺はそれを、"氣"で加速した剣で上に払う。

 

「ほらほらっ! まだ続くよっ!」

 

そう叫びながら、馬超は次々槍を振るう。

俺は左籠手に"氣"を送りながら、それを必死に、受け流す。

少しでも気を緩めば終わりだ。

こちらから攻撃に出るなんて、とてもじゃないが出来ない。

馬超の攻撃は鋭く、速く、何より重かった。

それでも俺は、"氣"の消耗が早いにもかかわらず

加速した剣で、滝のような攻撃を受け流しながら、機会を待つ。

機会を待ちながら、真桜と風に感謝する。

馬術の未熟な俺がこうして、曲がりなりにも馬上で打ち合っていられるのは、

馬で旅をするという事で、真桜に頼んで作ってもらった鐙のおかげだ。

結局時間が無くて、足をかける金具の所しか出来なかったが、

旅の途中に完成させるつもりで、持ってきていたのが助かった。

完成させるのをすっかり忘れていたのを、

昨日あれから、風や魏の兵士さん達に言って手伝ってもらったのだ。

この時代、鐙は、まだこの地方に広まっていないのか、今まで見た事が無い。

鐙が有るのと無いのとでは、馬上での安定度や踏ん張りが、桁違いにあがる。

そのおかげで、こうして、なんとか馬超の攻撃を凌げている。

だが、それでも、鐙の無いとはいえ、馬超の武と馬術は、俺の想像もつかない位置にある。

鐙のおかげで、実力の底上げをした所で、馬超本来の実力なら、こんな打ち合いになら無い、

最初の一撃で俺は、馬から転げ落ちていただろう。

でも、そうはならなかった。

そして、一方的とはいえ、こうして打ち合っている。

なら理由は簡単だ。

馬超は自分の中で迷っているんだ。

母親の事を、華琳達のことを

華琳達を見れば、毒殺するはずが無いと気が付くはず。

ましてや、この二年、多少なりとも関係を持った二国だ。

そして、何人かの将と、真名を許すだけの付き合いがあった。

なら、余計華琳が毒殺なんて、するはずがないと、分かるはず。

だけど、こうして、毒殺を疑っている。

その答えは、馬超本人が言っていた

 

  『 母様は、自ら毒を呷るような方ではない 』

 

と、だから、その事実を受け入れたくないのだろう。

でも、華琳のせいにするのも、間違いだという事に気が付いているのだろう。

だから、こうして、馬超の攻撃を凌いでいられる。

怒りで、勝つのではなく、嬲るための油断した槍で、

嘆き、迷い、心の奥底で泣いている そんな鈍った槍で、

あっさりやられるほど、俺は弱くないつもりだ。

俺には皆がいる。

俺を信じてくれている人が見ている。

彼女をを救って欲しいと思っている、彼女の仲間のためにも、

俺は、あっさり負けちゃいけないんだ。

だが、現実はそんなに甘くない。

いくら俺が想っても、彼女との実力差は絶対だ。

 

「おまえらなんかに、あたしの気持ちがっ!」

 

この猛攻を、必死で凌ぎ続けるために

"氣"で加速し続ける。

剣で受ける毎に、

攻撃を流す毎に、

俺の"氣"と体力は、

どんどん目減りしていく、

殺しきれない衝撃が、

俺の肉体を蝕んでいく

 

(もう、あまり余裕が無いっ、くそっ駄目か)

 

「これで、終わりだっ!」

 

嬲るのにも飽きたのか、馬超が、勝負をつけるために、大きく振り上げる。

 

「いまだっ!」」

 

馬超の動作にあわせ、輝く左籠手を馬超に向けると、

 

「目潰しなんか聞くかよっ!!」

 

おそらく ねねから、聞いていたのだろう、

閃光から目を守るように、目を瞑りながら、槍を振り下ろしてくる。

その一撃に絶対の自信が有るのだろう。

受けも逸らすも許さぬ剛激。

馬ごと避わす事など、なおさらだ。

 

(でも、目を瞑るのは、不味いだろっ!)

 

そう心の中で叫びながら、左籠手の仕掛けを発動させる。

 

バシュッ

 

と言う音と共に、籠手の部分が跳ね上がり

3本の細いワイヤーが射出され、馬超に高速で向かっていく。

俺は"氣"でワイヤーを操りながら、馬超の腕に絡みつかせる。

それと同時に、籠手内の巻取り用モーターを"氣"で高速で回す。

 

「なっ、これはっ?!」

 

事態に気が付いた馬超が、驚くがもう遅い

俺はワイヤーの巻取りと共に、腕を引き、馬超の姿勢を崩す。

同時に鐙から足を抜き、ワイヤーを引く反動も利用して、

馬を蹴り、馬超に向かって跳ぶ。

 

ドガッ

 

「うっ」「うぐっ」

 

ガッ

 

「グッ」

 

 

意表をつかれた事態で、鈍った槍を、腕を引きながら跳ぶことで避わせた俺は、

そのまま馬超に体当たりをし、その腕に刀を振るう。

刀は、馬超の腕に当たり、馬超はその衝撃で、槍を落とす。

俺は勢いを止める事など、最初考えていなかったため、

そのまま、馬超の向こうに落馬する。

 

「一本、それまで、勝者、北郷一刀」

 

関羽さんの判定に、城壁の上が騒がしくなる。

それは、俺も同じだ。

正直、こんなにうまくいくとは思わなかった。

 

「翠、分かっていると思うが」

「・・・・・あぁ、愛紗、判ってるよ」

「はぁーはぁー、

 とりあえず・・・俺の勝ちで・・・いいのかな」

「ええ、北郷殿、貴殿の勝ちです。

 勝者がいつまでも、そのように地面に寝転がっていては、格好が付きません。

 立って、皆に元気な姿をお見せください」

「はぁーはぁー、ごめん、"氣"の使いすぎで、立てそうに無いんだ。

 もう少し、このまま休ませて」

「はぁ、そうですか」

「あはははは、なんだよそれ、

 そんな へろへろ な奴に、あたしは一撃入れられたのかよ。 あたしも焼きが回ったかなー」

「はぁはぁー、そうだ、ワイヤーを巻き取らないと」

 

俺は、そう言ってわずかに回復した"氣"でワイヤーを巻き取る。

 

「ちょ、ちょっとまだ、腕に うわっ」

「へっ?」

 

ドガッ

ちゅっ

 

ワイヤーが、まだ腕に巻きついたままだった馬超が、巻き取られたワイヤーに引っ張られて、

俺の上に落ちてきた。

・・・あの、今一瞬だけど、口に当たったあの感触って・・・・・

俺は恐る恐る、馬超をみると、そこには

口を片手で塞いで、顔を真っ赤にして、涙を溜めて震えている馬超の姿があった

 

「・・・えーと、今のは不可抗力であって、決して狙ってたわけじ」

「こ、こ、こ、こ、こ、こ、この、変態○×△野郎ーーーーーー!」

 

ドガッ

ゴキッ

ベキッ

 

俺の謝罪の言葉も途中に、

馬超の乙女の悲鳴と共に、

俺の無防備な顔に拳が、何度も突き刺さった。

 

 

 

ガクッ

 

 

 

 

 

 

「あぁ、ひどい目にあった」

「ふん、自業自得だ」

 

 

 

馬超に、顔を何度も殴られ、"氣"と体力を使い果たしていた俺は、あの後あっさり気を失い。

目を覚ますと、すでに夕方。

顔の腫れは、風が冷たい濡れた布を、こまめに替えてくれたので、あまり痛まずに済んでいる。

 

「お兄さん、今回は無茶なのですよー」

「うん、それは分かっている。

 でも馬超程の相手なら、一応死ぬ心配は少なかったから」

「むー、それでもなのですよー

 そんなに、風を心配させて楽しいのですかー」

「ごめん、でも」

「分かっているのですよー、そんなお兄さんだから、風達はお兄さんに惹かれたのですからー」

「うん、それでもごめん、心配かけちゃって」

「しかたないですねー、

 とりあえずお兄さん、庭でお客さんが待ってますから、行って来るのですよー」

「おっ、おい、客って」

「いいから、行けって言っているだろ、この唐変木が」

「と、ホウケイも言っている事ですしー」

 

といって、部屋を追い出された俺は、風の言うとおり庭にいくと

そこには馬超がおり、俺は馬超の近くまで言って座った。

 

そんなわけで、さっきの開口一番の言葉に冷たく返されたわけだが。

それ以降、お互い何も話さない時間が過ぎ、やがて

 

「なんで、勝負受けたんだ?」

「なんで、その質問なの?」

 

沈黙を破った馬超の質問に、質問で返す。

 

「星が、それを聞いておけって、あたしも気になったし、

 実際、勝ったのはあんただけど、あの条件であんたが、あたしに勝つ可能性なんて、

 万に一つだって無いって、あんたなら、分かっていたんだろ」

「うん、俺に勝ち目なんて一つも無かった。 これは絶対だ。

 でも俺は勝った、なんでかな?」

「そ、それはあたしの油断が」

「それだけじゃないって、孟起さんは気が付いているはずだよ、その理由もね」

「・・・・・」

 

馬超の言葉を遮って、

俺は馬超に、もう逃げ出させないように、言葉で追い詰める。

だが、帰ってくるのは沈黙。

でも、それが答えだ。

今まで、目を逸らしていた事実に、今、彼女は向かい合っている。

俺が出来るのは、ここまで

決めるのは、彼女自身だ。

 

「これは、あたしと曹操の問題だ。

 なんであんたが、体を張って勝ち目の無い試合に挑む?

 忠義のためか? それとも女のためとでも言うつもりか?」

「そうだね、その二つも理由の一つかもしれないけど、決め手じゃない。

 そんな理由だけなら、こんな事で、俺は戦わないよ」

「じゃあなんだよ」

「だって、あのままじゃ、君が救われないって思ったから」

「んなっ! なんだよ、それ、赤の他人のために体張ったって言うのか?」

「赤の他人じゃないよ、こうして、言葉を交わし、名を交わした。

 そんな相手が、心の中で苦しげに泣いているのなら、俺はそれを何とかしたいって思う。

 それが許される状況なら、そのために、俺は幾らでも体を張るよ」

 

俺の言葉に、馬超は、呆然とする。

あれ、俺何かへんなこと言ったかな?

 

「あははははははははははははははははははっ」

 

馬超の態度に、自分の言葉を振り返って確認していると、突然馬超は高らかに笑い出した。

 

「な、なんだよ、いきなり笑い出して」

「これが笑わずにおれるかって、変だ変だと思ってたら、ここまで変わってたとは」

「変って、ひどいな、俺これでも普通のつもりなんだけど」

「おまえみたいなやつ、普通なわけあるかっ、

 ねねがおまえの事、大馬鹿だって言ってたけど、間違いない、大馬鹿以外何者でもない」

「ひどいなー、一応俺、警備隊長で文官見習いなんだけど」

「そっちは、知らないけど、

 そんな理由で、勇将と名高い、この錦馬超と仕合をする奴なんて、

 大陸中探したって、おまえ以外いないって、だからそんな奴は大馬鹿野郎で十分さ」

 

本当に、おかしそうに笑う馬超に、俺も釈然としないまま、笑顔を返す。

少なくとも、彼女の中で何かが吹っ切れたようだ。

なら今はそれを喜ぼう。

そう二人で、ニヤニヤ笑っていると。

やがて馬超は、まじめな顔になり

 

「あんたみたいな大馬鹿で、真っ直ぐな奴が、 嘘を言うとも思えないからな、信じるよ。

 曹操が母様を毒殺したわけじゃないって

 母様のことは残念だけど、いつまでも引きずっていたら、それこそ母様に笑われちまう」

「孟起さん、ありがとう」

「翠でいいよ」

「えっ、真名いいのか?」

「あぁ、あんたへのせめてもの侘びさ」

「わかった、ありがたく真名を受け取るよ

 翠さん、これからもよろしく」

「翠でいい、どうにも照れくさいしね。

 その代わり、あたしも一刀と呼ばせてもらう」

「ああ、よろしく、翠」

「こちらこそな、一刀」

「しかし、一刀、馬術は駄目とか聞いてたけど、なかなかやるじゃないか、

 馬上であれだけ、あたしの攻撃を受けきれる奴なんて、そうはいないぞ」

「いや、あれで精一杯だったんだよ。 それにこっちは秘密兵器もあったからね

 そのおかげで、俺みたいな未熟な奴でも、一時的に踏ん張れたんだと思う。

 それに翠、全然本気じゃなかったろ」

「あはははは、まぁそれは・・・

 さすがに一刀相手に、本気に倒しにかかるのは、大人気ないと思ってね。

 で、その秘密兵器ってのは、鞍についてた奴か?」

「ああ、そうだよ。

 鐙って言って、これがあると、馬上での安定度が全然違うんだ。

 あとで試してみる?」

「いいのか? 秘密だったんだろ?」

「それは言葉のあや、それに、もう見せちゃったしね、蜀への技術供与と思えば問題ないよ」

「ふーん、じゃあ早速」

「おいおい、今からか?」

 

翠に引っ張られ、馬屋へいくと

早速ためしてもらう事に

 

「おぉぉぉぉ、すげぇ

 こんなので、こんだけ安定するんだ。 ほいっと」

 

翠は鐙の感触に興奮ぎみに馬を、あっちこっちと、走らせながら色々試している。

やがて、とりあえず満足したのか、馬を下りると

 

「すごいなこれ、これなら一刀でもあれだけやれたって、納得できる。

 早速、うちの騎馬隊に入れるよう愛紗に・・・・って駄目だった」

 

さっきまではしゃいでいた翠が、いきなり落ち込む

 

「翠どうした?」

「いや、愛紗に進言しようと思ったんだけど、あたし10日の蟄居くらっててさ、

 部屋以外は厠と庭しか、出ちゃいけないことになっているんだ」

「なんでそんなことに・・・・そっか俺のせいで、じゃあ俺から桃香に」

「いいって、これでも、一刀の変わりに、風が言ってくれたおかげで、軽く済んだんだぜ

 追放されても、文句言えないくらいだったんだからな」

「追放って・・・・・・ごめん、俺が勝手な事したばかりに」

 

翠の言葉に、俺は青ざめ、謝罪をする。

 

「いいって、頭を上げてくれよ。

 あたしは感謝しているぐらいなんだから、そんなんじゃ、あたしの立場が、余計なくなるじゃないか」

「でも、それじだと翠が」

「いいんだよ、一刀は悪くない。

 悪いのは、いつまでもくだらない事で悩んでいた、あたしなんだから

 これ以上、この話しはなし、でなければ拳で黙らせるぞ」

 

翠の言葉に、俺は、少しだけ救われた気がした。

だから、せめて俺に出来る事

 

「じゃあ、どうせ暇だろ?」

「ああ、おかげさまでな」

「なら、俺が鍛錬する時、付き合ってくれると助かるのだけど」

「ああ、付き合うぜ。

 だけど、あたしの稽古は厳しいから、そのつもりで覚悟しておいてくれよ」

 

俺の言葉に、翠は楽しげに、そして面白げに言うのだった。

 

だが、俺はこの時知らなかった、この後、

 

関羽さんに見つかり、

 

蟄居中にもかかわらず

 

馬に乗った事がばれてしまい。

 

今回の騒動の事も含めて

 

二人揃って、

 

長ーーーーーいお説教を受ける

 

運命をが待ち受けていることを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・関羽さん、もう勘弁してください・・・

 

 

 

 

 

成都城内のある一室:

関羽、黄忠、趙雲、諸葛亮、鳳統の5人が王も含めずに密談をしていた。

 

「あらあら、愛紗ちゃん、お帰りなさい」

「もう、そちらはいいのか、愛紗よ」

「こちらの件もあるので、早めに切り上げてきました。 まったくあの二人には困ったものです」

「早めに、切り上げてあれでは、あの二人助かったと言えるのか」

「ふん、まだ言い足りないくらいだ。 北郷殿も少しは、自分の立場を考えて欲しいものです」

「だが、おかげで、翠の件は片が付いたのだろう。

 なら、感謝こそすれ、文句を言ういわれはないと思うのだが」

「翠のことは、私も感謝しています。

 ですが、もう少しやり方って物があるはずです。

 ましてや北郷殿は、微妙な立場に立たされておるのに、このような騒ぎを起こして、

 文句の一つや二つ、でもします」

「まぁ落ち着け愛紗よ、すぎた事をいまさら言っても仕方あるまい。

 なら翠の事を感謝しつつ、今後を見なければ足元をすくわれかねぬぞ」

「まぁ、星の言う事も分からないでもない。

 で、朱里、今のところどうなんだ」

「はい、今回は、天の知識を使った道具の実用試験、と言う噂を直前ですが流したおかげで、

 妙な噂は今のところありません。

 ですが、これがどの様に広まるかは、予測の範囲を超えるのか、それとも収まるのかは、

 広まってみない事にはなんとも・・・」

「そうか、雛里、朝廷の方の動きは」

「あわわ、細作の報告では、朝廷内での噂の方は沈静化しつつありますが、

 北郷さんの処遇にめぐっては、現在硬直しているようです。

 こちらで調べた事を、魏の桂花さんに送っているのですが、返事が来るのはまだかかるかと」

「星、五胡の方はどうなっている」

「あちらも動かず、というか、ここ最近、動きがなさすぎる。 愛紗よ」

「うむ、やはり、何処かに兵を集めていると、考えるべきか、それとも」

「そうねぇ、やはり、警戒しつつ、国境の砦に兵を補充するしかないと思うわ」

「紫苑でも、打つ手はありませんか」

「打つ手も何も、これだけの情報では、これ以上、手は打てないって言うのが現状よ」

「そうか、なら仕方ない。 砦に兵を少しずつ補充し、情報収集に当たろう。

 では、何か問題が出ない限り5日後にまた」

「ああ」

 

 

 

 

 

刻々と動く時間の中

 

平穏な日常の下で

 

不穏な影が

 

少しづつ

 

その影を

 

伸ばしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

あとがき:

 

どうも、うたまるです。

おかげさまで、10話を無事迎える事が出来ました。

応援してくださった読者の皆様ありがとうございます

 

さて、今回は、どうにも説明や心理描写が多くなってしまいました。

これは、次回から蜀でのびのびと動くための前準備と考えください。

と言うか、私にシリアス交えてのドタバタ騒ぎを一刀に行わす執筆力がなく、

どうしても説明っぽくなってしまい、申し訳ございません。

 

とりあえず、今回は前半は一刀の政治力のお話となりました。

一刀としては、この二年勉強した事や、彼の世界での常識的なことを指摘して言っただけです。

ですが、それを、この世界に合わせる事が出来たのは、彼の能力だと私は考えています。

2つの原作でも、彼の政治力は悲鳴を上げながらでも、皆を導いていることから伺えるシーンがあります。

この作品では、そう言ったことを踏まえたうえで、更に風や稟の教育、そして風の手伝いあっての政治力と

なっています。

 

後半の馬超に関しては、魏アフターシナリオでは、前々からやってみたいテーマでした。

一族の長として悩む彼女の姿を、一刀の視線で私なりに描いてみました。

それなりに、彼女の心の葛藤が書けたと思います。

 

さて、今回、新たにスーツの機能が公開されました

ワイヤー:スーツ左籠手内部に内臓

     火薬の替わりに"氣"を用いて、3本のワイヤーを射出でき、高トルクモータで巻き取ります。

     その力は強く、250kgまで引っ張る事が出き、パージも可能。

     ワイヤー自信も一刀の"氣"である程度操作可能です。

     今回一刀は、閃光をフェイントにして使用。

     まともにやったら、将達レベルでは避けられるので、殆ど不意打ちか、崖登り用です。

 

今回で蜀で動くための準備が終わり

次回から、一刀君がいろいろ動けるよう頑張って書いていきたいと思います。

 


 
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