No.117166

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(4.1.Star Date/First volume)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。

2010-01-07 20:40:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1372   閲覧ユーザー数:1362

4.1.Star Date(First volume)

 

 入隊初日。

 S.M.S隊舎にはオズマ隊長やミシェルたちパイロットだけじゃなくて、マクロス・クォーターの他のクルーたちも集まっていた。

 それでなくても、実際に辞令を受けて、階級が与えられることに緊張するのに、さらにプレッシャーを感じてしまう。

 

「本日付でSMS小隊に着任致しました早乙女アルト准尉であります」

「早乙女准尉、いつ如何なる時でも命を懸けて飛ぶ覚悟はあるか?」

「はい! その覚悟は出来ております、隊長!」

「よろしい。貴公の入隊を認める」

 

 

 緊張した面持ちでオズマから辞令を受けるアルトを見守るS.M.Sの面々。

 久々の新入隊員に、皆それぞれ興味津々だった。

 

「初々しいな~」

「さすが舞台に立ってただけはあるね」

「うんうん。カワイイ」

 

 オペレーター三人組がこそこそと頷きあう。

 新人が予想以上の美少女とくれば、一部の視線はさらに熱くなるわけで。

 

「くふふふ。美味しそうだわ」

 

 三人組の背後でハスキーボイスな声が妖艶にそう言って笑う。

 操舵士のセリフがが舌なめずりしそうな勢いなのを感じて三人組は全力で手を振る。  

 

「いやいや、あの子、女の子ですよっ」

「だから、いいんじゃない」

 

 同性同士でそれはないでしょうと言わんばかりのセリフにマルゴはうふふと笑って、ウインクした。

 ……なかなか曲者揃いのクルーたちであった。

 

 

(なんか、微妙にやり辛い……)

 

 集まってる隊員の皆は明らかに私の方を見ていて。

 でも、話してる内容まではとても聞こえない。

 ――一体、どんな話をしているんだろう? かなり気になる。

 

「では、早乙女アルト准尉の入隊を記念して!!」

「?!」

 

 いきなり、横断幕が目の前に現れた。

 突然のことに目を丸くしているといきなり隊長が何かを投げて寄越した。

 反射的に受け取ってしまう。

 

(!! 何、これ?! ――爆弾?!)

 

 着火された丸い鉄球。……まさか、本物の爆弾なんじゃ!!

 

「歓迎会を行う!!」

 

 本物か偽物か見定めることも出来ないまま、タイミングよく、私の手の中でそれは爆発した。

 

「○△■※☆★◎%!!」

 

(し、信じられない!!

 私以外は準備万端、ガスマスク装着完了しているなんて!!)

 

 景気良く爆発したソレは爆弾じゃなくて、催涙弾だった。

 

(い、一応、よかったのか、な……。)

 

 ――手荒い歓迎に言葉もなく倒れるしかなかった。

 

 

 

「んー!」

 

 大きく伸びをして眠気を飛ばす。

 ……さわやかに輝く朝日が目に痛い。

 まさか入隊初日に貫徹する羽目になるなんて思わなかった。

 「入隊歓迎会」の横断幕と大義名分の元、小隊の皆と一緒に一晩明かすことになるとは。

 

 事は最初の催涙弾で終わず、ダメージを受けたままの私を巻き込んで大騒ぎの宴会に突入した。

 そのバカ騒ぎは、夜更けどころか、夜が明けて空が白むまで一晩中続いた。

 

「ホント、眠い。全く皆、人をダシにしてどんちゃん騒ぎしたかっただけじゃん」

 

 呟いて、欠伸をかみ殺す。

 民間軍事会社とはいえ、さすが皆軍人。

 貫徹しても皆涼しい顔で解散だったなあ……。

 もちろん、ミシェルもルカも。――でも、まだ私にはムリ。

 

「――ふえっ!」

 

 物陰からいきなり腕を引っ張られて、バランスを崩す。

 

(一体、誰――?!)

 

 気を抜いていた……というより、こんなこと予想するはずもなく。

 

「朝から欠伸だなんてスミに置けないわねえ。

昨日の夜は誰とお楽しみだったのかしら、アルト」

 

 狭い路地に引き込まれて抱きすくめられ、耳元にそう囁かれた。

 

「……ちょっと、何するのよ!」

「あら、顔真っ赤にしちゃって、カ・ワ・イ・イ」

 

 精一杯に抗って相手を見上げるとサングラス姿のシェリオがにやにや笑いを浮かべてた。

 昨日の今日で現れるなんて、信じられない。

 ――いそがしいはずなのに一体どういうつもりなんだろう。

 

「売れっ子トップシンガーがこんなところで何してるわけ?」

「あら、冷たいのねえ。アタシたち、あんなにしっかり抱き合った仲なのに」

「へ、変な言い方しないでよ! ライブのあれは不可抗力でしょ!!」

「それだけじゃないのに。あんなに必死に助けてくれたから、嬉しかったのよ」

「~~~」

 

 しくしくと泣き真似するシェリオに言葉が見つからない。

 何でこの人楽しそうなの? これって完全にからかわれてるだけじゃない!

 ……ああもう、こんなのやってらんない。

 

「もう、いい。用事ないなら、私、学校に行くわよ」

「ちょっと待ちなさいよ。意外に短気なのねえ。用事はちゃんとあるわよ」

「……何?」

「アタシのイヤリング、知らない?」

 

 シェリオのイヤリング?

 言われてみて、左右一対だったはずのイヤリングが右側だけにしかないことに気がつく。

 

「昨日の戦闘に巻き込まれた時になくしちゃったのよ」

 

 大切なものなのと言われて、記憶を手繰る。

 もし、あるとすれば……。

 

「うーん、ここにない……か」

 

 航宙科のロッカーでEX-ギア装備一式を隅々まで見てみたけど、シェリオのイヤリングは見つからなかった。

 一体、どこに紛れ込んでいるんだろう?

 他に思い当たる場所がないか、考えてみる。

 

「あれ、本当に大切なものなのよ」

「そう、なんだ。……でも、よく私のところにあるってわかったね?」

「だって。さっきも言ったじゃない? あの時、アタシたちしっかり抱き合ってたじゃない?」

「はぁ? 何言ってんの! そんなことしてないってば!!」

「もう、本気で怒らないでよ。冗談が通じないんだから」

「冗談でも言っていいことと、悪いことがあるでしょ?!」

「赤くなっちゃって、カワイイんだから」

 

 ううう……また、からかわれた。

 シェリオには本当に会う度にいいようにあしらわれてる気がする。

 

「まぁ、本当のところはうちのマネージャーの視覚データから見つけたんだけど」

「視覚データ? ――もしかして、ネットワーク?」

「そう、視覚インプラント。ギャラクシーじゃ結構メジャーな技術なんだけど」

「フロンティアじゃ、医療目的以外でのインプラントは違法だから。ギャラクシーは違うのね」

 

 気がつかなかったの? と不思議そうに言われて頷く。

 そっか、フロンティアとギャラクシーじゃ、「インプラント」に対する感覚が違うんだっけ。

 

「そうね。普通に取り入れられている技術よ。――ねえ、アルトのロッカー、何入ってるの?」

「ちょ……ちょっと覗かないでよっ?!」

 

 突然、にやりと笑って、シェリオがロッカーを覗き込んでくる。

 中見られたら何言われるかわかんない!

 慌てて、扉を閉める。――間違って開けられないようにちゃんと鍵も閉める。

 顔を上げるとかなり不満そうなシェリオと目が合った。

 

「アルトのケチ。ちょっとくらい、いいじゃない。

なぁに、そんなにあせるって事は見られたら困るようなモノでも入ってるんじゃない?」

「そ、そんなもの入ってないっ!

ここにないんだから、次の場所に行くわよ!!」

「あーら、残念」

 

 睨み付けてもシェリオの顔から人の悪い笑みが消える事はなくて。

 もう、ホント、どこまで人をからかって楽しむつもりなんだろう?

 このまま放っておいたら鍵だって何とかされそうな気がして、さっさとロッカーを出た。

 

「すいません。ハンガーに落し物したみたいで……」

 

 次に思いついたのはメサイアのハンガー。

 ……シェリオがなくして、私の装備にもついてなかったということは、後考えられるのはVF-25のコックピットか機体のどこか。

 さすがにシェリオと一緒に行く訳にはいかないから、電話でS.M.Sに問い合わせる。

 落し物として見つかってると良いんだけど……。 

 

「……そう、ですか。届いてなさそうですか。担当の方は……」

「どう?」

「今見てもらったけど、遺失物係に届いてないって。

詳しく調べて貰おうにも明日にならないと担当者が来ないみたい」

 

 当て外れな応えが返って来て、首を横に振った。

 さすがのシェリオも残念そうな表情を浮かべる。

 

「今日しかないのに。――再来週、ギャラクシーへ帰るまでに時間がないの」

「シェリオ……」

 

 本当に大切なもの、なんだ。

 見つからないことに罪悪感を感じて胸がちくりと痛む。

 ――何とかして、見つけたいと思った。

 

「その携帯貸して。ワタシが話をつける」

「え? ちょっと待って。そこまでしなくても、私が明日探しに行って来るから」

「――本当?」

「も、もちろん!」

「ちょーっと怪しいわねえ」

「え……え? え? ちょっと!」

 

 せっかく人が頑張ろうと思ったのに、見事に水を差された感じ。

 有無を言わさず、携帯を取り上げようとするシェリオから必死で逃げる。

 悔しいけど、10cm以上の身長差にこの体格さは私に不利過ぎる!

 

 そうは思うものの、取られまいと頑張ってみる。

 シェリオに電話使われて交渉なんてされたらどんなことになるのかなんて簡単に想像できる。

 直接S.M.Sに乗り込まれでもしたら、厄介なんだから!

 

 じたばたとしている最中に携帯の呼び出し音が鳴った。

 ちょっと、助かったかも……。

 

「ちょっと、待って」

 

 慌てて、通話ボタンを押すとミシェルの声が聞こえてきた。

 

「ミシェル、どうしたの?」

『アルト? ちょっと大変なことになったの』

「え? 大変なことって」

『ランタがいなくなっちゃったらしくて。今、オズマ隊長から連絡あって探してほしいんだって』

「いなくなったって……何かあった?」

『どうやら、オーディションに出たのがばれて、大喧嘩になったらしいわ。それで、ランタ、家を出ちゃったらしいのよ。「お兄ちゃんのバカーっ」って』

「何、それ。何で、私たちが姉弟喧嘩に巻き込まれなきゃいけないわけ?」

 

 話の内容にぽかんとする。

 いなくなったランタを探してくれって隊長命令なの?

 ――それって、職権乱用になるんじゃないのだろうか。

 そういうと受話器の向こう側でミシェルがため息をつくのが聞こえた。

 

『アルト、あんた、ブラコン隊長に直接それ言ったら? オズマ隊長がランタのことで職権乱用するのなんて今に始まったことじゃないわよ』

「それ、本当?」

『大本気(マジ)ですとも。とりあえず、私もルカも何回も迷惑被ってるわよ。悲しいほど日常茶飯事かもね。

――それより、あなた男連れで歩いてたらしいけど、相手はランタじゃなかったのね』

「へ? 男連れって……」

『ルカが見かけたって。そう聞いて今回は苦労せずに終わるかと思ったけど、当てが外れたわ。

……まあ、それはそれで』

 

 ルカ、一体、どこで見てたんだろう? ……いや、そうじゃなくて。

 軽くため息をつきつつも、どこか面白がるような気配にいやな予感がした。

 

「な、何よ」

『相手、誰? とうとうアルト姫にも彼氏できたわけ?』

「彼氏って?!」

『ふふふ。その焦りっぷり、ますます怪しいわねえ。ちょっと変わりなさいよ』

「だ、誰と変われっていうのよ?」

『もちろん、あなたのカ・レ・シと』

「はぁっ? ――そんなんじゃない」

 

 完全にミシェルってば、面白がってる!

 ――この場をどう切り抜けるかを思案してると元凶がひょっこり顔を出してきた。

 

「何、話してるの? カレシに言い訳してる?」

「!」

『アー、ルー、トー』

「も、もう、切るね!」

 

 これこそ、正真正銘の四面楚歌!!

 頭で何か考える前に、携帯の通話を終わらせてた。

 

『ツーツーツー……』

 

 最悪な局面を回避できたことに一息つく。

 ……弱冠、ミシェルと次会った時がコワい気もするけど、この場でシェリオとミシェルの二人の間で板ばさみで苛められるよりきっとマシ。

 自分にそう言い聞かせることにした。

 

「あらら、切っちゃってよかったの? 相手、カレシだったんじゃない?」

「違いますっ! 女友達!」

「ふーん、あのランタって子からじゃなかったんだ」

「何でここでランタの名前が出てくるの?」

「ふーん。あっそ」

「? ちょっと何よ?」

 

 本気で不思議に思って聞くと、シェリオはあっさりその話題を打ち切った。

 食い下がろうとすると軽く肩を竦められて、哀れみの目を向けられた。

 

「わかんないなら、別にいいんじゃない」

「そんな風にいわれると余計に気になるんだけど!」

「もう、何よ。別にいいって言ってるじゃないよ」

「教えてったら」

「やーだ」

「ケチ!」

 

 最後には子供の言い合いみたいになってきた。

 ――でも、ここまで来たら引き下がれない。

 

「そんな悪いこという子にはこれ、返してあげない」

「え! それ、いつの間に……」

 

 シェリオの手の中にあるのは、私が首にかけていたはずのお守り。

 母さんの形見でずっと肌身離さず持ってた。――それを一体、いつの間に!

 

「はい、これでポケットの中。取りたいなら自力で取りなさい」

「そんな! 冗談!!」

「ほら、どうぞ?」

「~~~」

 

 取り返す前にこれ見よがしに見せつけながら、自分の腰ポケットに直し込んでしまった。

 素直に返してくれるはずないシェリオから自力で取り返すには、力や体格差を考えたら、最低でもシェリオに抱きつくか何かしないと無理。

 そんなこと、とても出来そうにない……どうしよう。

 

「返してほしかったら、今日一日、付き合ってもらうわよ」

「はい? 何で、そうなるの?!」

 

 いいようにしてやられてる現状にがっくり凹んでいるとシェリオが思ってもみない提案をしてきた。

 勝手に人のものを取り上げて、なんて言い様!! 

 

「『アイモ』のことも聞きたいでしょ。遊んでくれたら、教えてあげる」

「ああ、もう。わかったわよ。一日、付き合います!」

「ふふふ、いい子ね」

 

 半分やけになって提案を受け入れるとシェリオは嬉しそうに笑った。

 もう、本当に我ながらどこまでもいいようにされてると思う。

 

 ――シェリオには何をしても勝てないような気さえしてきた。

 本当に『銀河の帝王』なのかもね、この銀河最強ワガママ男!


 
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