――side華琳
【華琳】「…………」
一瞬、嫌な悪寒が走った。
気のせいのだとも思える程度のものだったけれど、ひどく気になる。
【華琳】「……急ぐわよ」
行軍速度を上げて、洛陽への足を速める。
虎牢関を抜けて、そろそろ洛陽が見え始める頃。
華琳が間に合うかは、微妙なところだった。
――side薫
【薫】「…………」
――今のって……。
頭の中で、”司馬懿”の声が震えていた。
さきほど、人ひとり分の意識が消えた。気を失っただけなのか、それとも、もう目を覚ますことがないものなのか。
それは、内にいる彼女だけではなくて、当然”私”も感じ取ったもの。
【薫】「…………大丈夫……」
自分にも言い聞かせるように呟く。
――大丈夫って、何!?今のどう聞いたって一刀の!
【薫】「分かってるから!!」
叫びだす薫に怪訝な視線を送る兵達。
彼らには薫の聞いている声が聞こえるはずもないので、当然ながら、薫の言葉の意味なんて理解できるはずがなかった。
【薫】「わかってるから……」
二度目の言葉は、俯いたまま、静かに口にしていた。
【兵】「司馬懿様!!敵軍が迫ってきています!!」
現状を伝えるために、伝令が飛び込んでくる。
敵兵はそこまで来ている。
【薫】「そう、ありがとね。休んでていいよ」
薫の言葉に兵は理解できないという顔になる。
そんな伝令を横切って、薫は前へと出る。
腰にぶら下げていた、いつか、真桜からもらった黒い扇を持って。
前へとかざすようにして、叫ぶ。
【薫】「右翼は転進して、敵を迎撃せよ!夏候惇へ合図を送れ!!」
大きく扇を振るう。
大げさにも見える動きは、兵を鼓舞するためのもの。
これは勝てる戦なのだと。
しかし、それでも不安な兵は残るものだった。
これは……と、不安げな表情を見せる兵。小隊をまとめる立場であるその兵は、他の者よりも、不安は大きいようだ。
【薫】「仮にも曹操軍の精鋭なんだから、都の親衛隊が相手だろうが、総崩れなんてことはそうそうありえないよ」
諭すように、一つ一つ答えていく。
その合間にも、先ほどまで圧されていた戦は、互角にまで巻き返していた。
【薫】「夏候惇将軍にお願いしたのは、二つ」
一つは、”自身は一部隊を連れて伏兵の中にまぎれる”こと。
もう一つは、”たとえ負けていようと、絶対に指示を出すな”ということ。
指揮官がいなければ、たとえ強兵といえども、連携の取れた軍相手では戦闘はきびしいものになる。
当然、こちらが崩れ始める。
元々総兵数でいえば、こちらが少ないのだから、それは当たり前。
だから、あえて右翼のほうを少し手薄にする。
先に崩れ始める右翼を撤退させ、敵軍が追ってくれば、そのまま二分し、追わずに左翼へ向かうようなら、右翼を再び転進させる。
どちらにしても、敵の左翼が動き出した時が、こちらの勝機になる。
それが、敵の懐にまで忍び込ませた獅子を、眠りから目覚めさせる合図になるから。
【薫】「獅子埋伏の計とでも名づける?」
ペットに名前でも付けるように、その顔はいつも以上に子供のようだった。
【春蘭】「……む。合図か!」
戦場を見据えるように、身をふせていた春蘭。
その合図に、表情を歓喜のものへと変える。
【春蘭】「行くぞ!!!敵将の頸をあげてやるのだ!!」
春蘭の号令に、兵達は雄たけびで答える。
その声をきっかけに、伏せていた兵達はいっせいに戦場へと走り出す。
――洛陽
【???】「後悔するくらいなら、立ち上がるんだな」
【賈駆】「あんた……何者よ」
赤い髪に白い衣。
この時代では見ることのないような形の衣装だ。
【???】「この男は俺に任せろ。君には救いたい者がいるんだろう?」
【賈駆】「……え……えぇ」
質問には答えず、たずね返してくる。
何処まで知っているのか。男はまっすぐにこちらを見てきた。
【賈駆】「…………」
ゆっくりと立って、男を通り過ぎるように歩いていく。
【賈駆】「…………その男、もう死んでるわよ」
言い捨てるように、賈駆は告げると、男は静かに呟く。
【???】「彼はまだ死ぬべきではない。……それに彼もまた、その事実を受け入れてはいない。ならば、俺の五斗米道になせないことなど無い」
【賈駆】「…………」
最後まで聞き届けると、何も言わずに、賈駆は走り出した。
【一刀】「…………」
【???】「…………」
そして、男が一刀の傷口に触れはじめると、一刀の体が傷口から輝き始める。
――洛陽・郊外
【春蘭】「はっ!!」
敵本陣に奇襲をかけ、将を討つ。
それができれば、戦などどれほど簡単なものだろう。
だが、実際に彼女にかかれば、よほどの軍が相手で無い限りそんな事すら可能だった。
剣を振るい、敵兵を退ける。
だが、本陣に乗り込むまではよかったが、未だに肝心の敵将が見当たらない。
【春蘭】「くっ……敵将はどこだ!!この夏候元譲が相手となろうぞ!!」
叫ぶも、群がるのは敵兵ばかり。
【春蘭】「ちぃっ!」
煩わしいほどに食い下がる敵兵。
本陣を守る兵ともなれば、一振りというわけには行かず、敵の剣を弾いて切りつける。
しかし、どれほど倒しても、敵将の姿が見えることは無かった。
【薫】「将がいない?」
伝令から伝えられた前線の状況。
伏兵に本陣が狙われたことで、敵軍に混乱がみられるものの、大きく決め手になるような崩れ方はしない。
まるで先鋒が崩れているだけ、というような対応だ。
【薫】「これは……」
【李儒】「貴様は期待はずれだったということだ」
【薫】「な――っ」
後ろから、ありえない声。
振り返れば、そこにはいるはずの無い、敵将と数騎の敵兵。
こいつがここにいるということは、本陣を捨てたということ。
【李儒】「軍師”ごっこ”は楽しかったか?仲達」
がさりと、後ろにいた敵騎兵が前にでる。
【薫】「…………」
扇ぐように、上をみる。
空はもうすぐ夕方になろうとしていた。
【李儒】「ふ…――行け」
その合図を元に、敵兵が一気に突撃を開始する。
一瞬で距離をつめてくる騎馬術はたいしたものだとおもう。
【薫】「クス……―――ばーか♪」
薫が笑う。
【李儒】「っ!?」
その瞬間。李儒は目の前の光景が信じられなかった。
突撃した騎兵は”ある一定の位置”から前へ進めなくなっていた。
いつの間にいたのか、薫の後ろには、弓を構えていた兵がいる。
その矢を受け、攻撃を仕掛けた騎兵はすべて、地へと討ち伏せられ、李儒自身もまた、矢を受けた馬から振り落とされてしまう。
【李儒】「な……馬鹿な……」
【薫】「……どうだった?分かりやすい伏兵だったでしょ?あんたも軍師なら、見破った時は嬉しかったよね?」
そんな事をいいながら、実際に楽しそうなのは寧ろ薫のほう。
元敵兵の屍をまたぐように、李儒へと近づいていく。
【薫】「敵軍を本陣側に引き寄せて、その間に伏兵でしとめる……なんて策だとおもった?」
喜劇でもみているように、笑いは止まらなかった。
それとは反比例するように、李儒の表情はどんどん凍り付いてく。
【薫】「まぁ、全部……おとりだけどね」
見下すように、薫の表情もまた、冷え切っていた。
夕方に近づいた空は、どんどんその色を変え、やがて紺色へと変色していく。
それと同時に、薫の瞳は、いつか見た金色へと変わっていった。
【薫】「…………」
そして、少しの間の後に、すべて語るように、耳元で薫は囁いた。
【薫】「ふふっ……期待はずれだったよ。”董卓”さん♪」
【李儒】「――!?」
李儒が薫の意図に気づいたとき、それが彼の意識が存在していた最後の瞬間だった。
あとがきという名の言い訳。
えー、随分と好き勝手やってしまい、もうしわけありませんですw
あのお方のほとんどチートのような設定がないとこのお話は詰んでいました。はい
もう寧ろ自分を光にしてください(
その上で薫の鬼のような設定ですが・・・
つい、やっちゃうんだ★
ああああああ、ごめんなさいごめんなさい!
今回の話でお分かりかと思いますが・・・
はい、李儒はどうみてもかませ犬です。
あと、前回の琥珀もそうですが、少しオリキャラが強すぎるんじゃないかと、作者も思い始めてきました。
まぁ琥珀はそこまでチートってわけではないので、次回その辺はっきりさせます。
あぁ、薫と馬騰の能力は強すぎるといわれても否定できないので、あきらめちゃってください。
強すぎる理由も、いつか明らかになると思います。
では、予定ではあと2~3話で洛陽編も終わりになると思います。
もう少しですので、更新速度マッハでがんばりますのでヨロシクお願いしますm(__)m
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52話です。
えー、最初に謝っておきます。申し訳ないw
もう今回作者の好き勝手やってしまいました。
色々突っ込みどころ満載です。
あとついでに作者のネーミングセンスのなさは許してくださいorz
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