No.116833

こっち向いてよ!猫耳軍師様! 11

komanariさん

正月も終わってしまいましたが、明けましておめでとうございます。
長らく間があきましたが、やっと11話が出来ました。

今回も、誤字脱字などありましたら、ご指摘をよろしくお願いします。

2010-01-06 02:50:39 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:37859   閲覧ユーザー数:31036

「あんた。昨日の政策案のまとめ、今日中に出しなさいよ!」

 私がそう言うと、北郷は書簡がうずたかく積まれた机から顔を上げた。

「あ、あの。荀彧さん? この書簡の山が見えないですか?」

 苦笑いと言うのにふさわしい表情をした北郷が、なぜだかとても可愛らしく思えた。

「そこに積んである書簡も、全部あんたが出した政策案なんだから、あんたがちゃんとまとめなさいよ」

 こいつの机の上に積まれている書簡は、すべてこいつが出した政策案に関するもの。なんでこんなにもこいつの政策案に関する書簡があるのかと言えば、こいつが未来の知識をもとにした政策案をたくさん出したからだった。

「ひ、日付が変わるまでには出しに行くよ」

 そう言い終えると、北郷は机に広げられた書簡に視線を落として言った。

 

(ふぅ。体に異変はなさそうね)

 書簡仕事をしている北郷を見ながら、私は少し安心していた。

(この前の仮説が正しいのか。それを確かめるために未来の知識を使った政策案を出させてみたけど、やっぱり“大局”が示しているのは、三国鼎立までの流れみたいね)

 そのことを確かめたくて、色々と政策案を出させてみたけれど、こんなにも使える政策案があったことには、少し驚いた。

 こいつを私の部下にしたのには、それらを確かめたいという思いもあったが、その他にも色々と確かめたいことがあったから、こいつはついこの間から城内の一室に住むようになっていた。

「うーん……」

 書簡を前に頭を抱えている北郷を見ながら、私は少し頬を緩めていた。

「日が変わるまでじゃ遅すぎるわ。今日の夕暮れまでには出しなさいよ」

「その他の書類を、全部後回しにしていいならなんとか……」

「そんなの許すわけないでしょ。全部今日中にやりなさい。それくらい出来るでしょ?」

「じゅ、荀彧の基準で考えれば出来るかもしれないけど、俺は荀彧ほどの能力はないよ」

 顔をこちらに向けることをせずに、北郷は書簡を書きながらそう言った。

「あんたは、私がつくった政策決定局のただ一人の局員なんだから、それくらいは出来なさいよ」

 私がそう言うと、少し間をおいてから北郷が答えた。

「……この場所を目指して頑張ってきたから、出来る限りのことはするよ。まぁ、俺が頑張ったところで、たかが知れてるかもしれないけど。それでも、出来ることはやっておかないと」

 その声色は何かを決意しているかのようで、私はその言葉になんと答えていいのかわからなかった。

「と、とにかく。今日中に提出だからね! 遅れるんじゃないわよ!?」

 私はそう言ってから、隣にある自分の執務室へと向かった。

 

 

 

一刀視点

 

――バタンっ

「……ただ一人の局員。か」

 荀彧が執務室へと向かった後、俺はそう口に出していた。

(あの荀彧が、あんなことを言ってくれるとは思ってみなかったけど、これも曹操さまのためなのかな?)

 今までは、ただ荀彧のそばにいられればいいと思っていたけど、実際に近くまで来ると、もっと近くに行きたくなる。

(荀彧に触れてみたい。真名を呼んでみたい。抱きしめたい。キスをしたい)

 そんな願望があふれてくる一方で、俺を取り巻く現状が、願望は所詮願望のままで、叶うことなどないんだと、そうささやいてくる。

(荀彧が俺を呼んだのは、赤壁の後に滅んでしまうだろう俺の知識を、未来の世界での知識を、少しでも多く出させるためなんじゃないだろうか?)

 この前の定軍山での出来事で分かった俺が滅びてしまう条件。歴史が変わってしまえば、俺が滅びてしまうという条件。

 荀彧が敬愛している。というか、愛している曹操さまを勝たせれば、俺は滅びてしまうだろう。

(たとえ、そうだとしても。荀彧が危険な目に合わないためには、曹操さまには勝ってもらわないと困る。俺の知る歴史通り、赤壁で曹操さまが負けて、それで俺が生き延びたとしても、もし荀彧が死んでしまったら、俺はきっと、きっと後悔をする)

 ふと、書簡を書く手を止めて、俺は荀彧が出て行った扉を見つめた。

「俺が死んだら、君は悲しんでくれるかい?」

 そう呟いた俺の声は、扉に阻まれた後、かすかな余韻を残して消えて行った。

「って、そんな訳ないか。……さ。仕事しよ」

 俺は一度頭を振ってから、書簡に視線を戻した。

 その時の俺には、そう言って自分をごまかすぐらいしか出来なかった。

(もう荀彧は諦めるしかないんだ)

 心のどこかにそう思う俺がいて、自分は死んでしまうのだろうと、そして自分が死んでしまっても、きっと荀彧は特に気にすることもなく、曹操さまが勝ったことを喜んでいるんじゃないかと、そう諦めていた。

(俺の本心はどこにあるんだろう。生きたい? 荀彧を守りたい? それとも……)

 そんなことを考えながら、俺は書簡を埋めて行った。

 

 

「……ねぇ、風。最近、桂花が自分の直属の部下に男を採用したっていう噂を聞いたのだけど、それは本当?」

「そですねー。風もまだ直接確認したわけではないのですが、書面上はそうなってますねー」

「書面上?」

「はいー。噂を聞いてから人事を確認したのですが、書面上では北郷一刀さんって人が部下になってましたねー」

「北郷一刀? 珍しい名前ね。……どんな人物だかわかる?」

「えっとー。この前の文官採用試験で合格した人で、元警備隊の人なんですが、なかなか面白い発想をする人ですよー」

「面白い発想? そう言えば、この前の採用試験は風が責任者だったわね。でも、この前の採用試験で入ってきたのはいいとして、そんなに有能なの?」

「試験の解答を見るに、かなりの発想力は持っているとは思いますがー」

「それがすぐに発揮されている訳ではない。ということ?」

「はいー。前の部署では、それなりに政策案を採用されていたようですが、あの桂花ちゃんが目をとめるほどのことはしてないように思えますねー」

「ふぅむ……」

「あ。それとですねー」

「うん? まだ何かあるの?」

「どうやら、この北郷さんは文官になってから、秋蘭ちゃんと親しくしていたみたいですよー」

「秋蘭と?」

「はいー。秋蘭ちゃんの部屋から出てくる北郷さんの目撃情報が、多くありましたので、たぶん間違えではないと思いますー」

「そう。……風、悪いけど引き続き調べてみてくれないかしら?」

「いいですけどー……」

「な、何よその目は」

「いえいえ。華琳さまもやきもちをお焼きになるんだなぁと思いましてー」

「や、やきもちなんかじゃないわよ!」

「そですかー。では、そう言うことにしておきますねー」

 

 

 

桂花視点

 

「うーん……」

 その夜、私はある部屋の前を行ったり来たりしていた。

(まったく、私がここまで来てるんだから、気が付いて出てきなさいよ!)

 つい最近、城内にあるその部屋の主になった男は、私が心の中でどんなに悪態をつこうと一向に出てくる気配を見せなかった。

(なによ。もう寝たって言うの? この私が、直々に来てやってるって言うのに!)

 そもそも、夜更けにあいつの部屋に来たのには訳がある。最近、風が北郷のことを嗅ぎまわっているのだ。そのことに私が気付けているということは、風がわざと私に気付かせようとしているようにも思えた。

 そもそも風は、北郷が文官になった時の試験責任者だし、あいつの発想力のことは知っているはず。それに、もし私が男を部下にしたことを疑問に思ったのなら、風の性格からして、直接私に聞いてくるか、または私にばれない様にあいつの身辺を探るはずだ。

 それがわざわざ私にばれるような調査の仕方をするということは、風の意思で調査をしているのではないということではないだろうか。風ではなく、それでいて風に調査を命じられる人なんて、この国に一人しかいない。

(華琳さまが北郷のことを調べさせていて、風はそのことを私に知らせようとしているんじゃないかしら)

 もしそうだとしたら、北郷自身が呼び出される可能性も出てくる。あいつのことだ、華琳さまに何か聞かれたら、包み隠さずすべて話してしまうかも知れない。

 そんなことになったら、北郷が消えてしまう運命が決定づけられてしまう。それだけは避けたかった。

(あいつには生き残ってもらわないと。少なくとも、私の気持ちがはっきりするまで……)

 

 この時の私はそう思うことで、華琳さまへの思いと一刀への思いとに、どうにか折り合いをつけようとしていた。

 

(と、とにかく。あいつにそのことを伝えておかないと。いつ本人が呼び出されるとも限らないし)

 今日は、そのためにわざわざこんなところまで来たのだ。早いところ、あいつに話をして自分の部屋に帰りたかった。

(北郷は別にいいにしても、こんな夜中に男と出会ってしまったらどうしよう。……あぁ、想像しただけで鳥肌が立ってきたわ)

 そんなことを思いながらも、あいつの部屋の前で声をかけられずにいるのは私で、声をかけようとして、その声が私のからあいつへと発せられる前に、私は口を閉じてしまう。そんなことを繰り返していた。

「ほ……」

 数度目で、なんとか初めの言葉を発することが出来たけど、それでもその後を続けることが出来なかった。

(わ、私がここまで来てるんだから、気配とかで気が付きなさいよ! あんた元警備隊でしょう!?)

 そんなことを思いながら、私は部屋の扉を恨めしく見つめた。

(私が、私が来てやってるのに……)

 北郷が出てくるのなんて待たずに、自分から入っていけばいいことなのは分かっていた。

 でもそれが出来なかった。自分から入ってくのがひどく恥かしくて、入ってなんて言えばいのかわからなくて、あいつがどんな顔をするのか少し不安で。とにかく、自分から入れないでいた。

 

 

 

 そうして、北郷の部屋の前で右往左往していると、ふいに後ろから声をかけられた。

「……? 荀彧?」

「ひゃっ!」

 その声にびっくりして、私は思わず尻もちをついてしまった。

「いったぁーい……」

 床に思い切りぶつけてしまったお尻をさすりながら、声のした方を見上げると、部屋の中にいるはずの北郷が不思議そうな顔でこっちを見ていた。

「やっぱり、荀彧だ。……こんなところでどうしたの?」

 そう言いながら差し出された北郷の手を、私は無意識のうちにつかんでいた。

「び、びっくりさせるんじゃないわよ!」

「ご、ごめん。そんなつもりはなかったんだけど……。んで、どうしたの? こんなところで」

 私の手をひいて立たせたあと、北郷はそう尋ねてきた。

「そ、それは……」

 素直に“あんたに用事があったから”とは言えなかった。これが、華琳さまからの命令だとか、仕事とかだったらすんなり言えたのだろうけど、完全な私用で来た私には、それを言うだけの勇気がなかった。

「それより、あんたはどこに行ってたのよ! も、もしかして女!?」

「違うよ。てか、そんな風に見える?」

 北郷は少し不服そうにそう言った。

「ふ、ふん。違うならいいわ」

「ふぅ。……」

「……」

 少しの間、私たちはお互いに黙った。

(と、とにかく用事を済まさないと)

 私がそう思っていると、北郷が話しかけてきた。

「まぁ、立ち話もなんだし、部屋入る? お茶までは出せないけど、ここよりはマシだと思うよ」

「そ、そうね」

 私が同意すると、北郷は部屋の扉を開いた。

「ちょっと待ってね。今灯りをつけるから」

 そう言って、北郷は先に部屋に入った。私は部屋の前で、灯りがつくのを待っていた。

「……お待たせ、どうぞ」

 しばらくすると、北郷がそう声をかけた。

「え、ええ」

 少し緊張しながら、私は北郷の部屋に入った。

 部屋の中は、昔行った長屋の部屋と同じように、色々なものが置いてあった。でも、前は見かけなかった本の類が多く机に置いてあった。秋蘭から本を借りてまで勉強をしていたという北郷の頑張りを垣間見れたような気がして、少しうれしかった。

「ごめん。李典隊長からもらった発明品とかで、少し散らかってるんだ」

 少し恥ずかしそうにそう言いながら、北郷は私に座るように促した。

「ふん。ちゃんと整理しなさいよ」

 そう言いながら、私は勧められた椅子に座った。

「……それで?」

 私が椅子に座ると、北郷は寝台に腰掛けて、そう話しかけてきた。

「な、何よ」

「いや。こんなところにわざわざ来たってことは、なんか訳があるんだろう?」

 そう言う北郷に促されて、私はここに来た目的を話した。

「あんたを私の部下にしたことで、華琳さま、いえ曹操さまがあんたのことを調べ始めたようなのよ。今はまだ、程昱に過去の行動とかを調べさせてる段階みたいだけど、いずれはあんた自身を呼びだして、直接お調べになる可能性があるわ」

 私がそこまで話してから北郷の方を見ると、あいつは真剣に私の話を聞いていた。

「そこで、もしあんたが直接曹操さまに呼び出された時の対応の仕方を言いに来たの」

 私がそう言うと、北郷は何かを考え込むような表情になった。

「いい? 何か聞かれても、あんたが未来から来ただとか、未来の知識があるだとか、そう言うことを言ってはだめよ。あくまで、あんたは東の島国から来た渡来人で、たまたま私の故郷にいて、たまたま私の部下になった。そう言うことにしなさい」

 私が言い終えると、なぜか北郷は少し悲しそうな表情になった。

「……」

「ど、どうしたのよ?」

 悲しそうな表情のまま黙っている北郷が、少し不安に思えた私は、思わずそう声をかけた。

「……それは、さ」

 意を決したように、北郷は口を開いた。

「荀彧が曹操さまに気に入られるためかい? それとも……」

 不安そうな目で私を見つめる北郷から、目をそむけることは出来なかった。

 

 

 

一刀視点

 

「荀彧が曹操さまに気に入られるためかい? それとも……」

(それとも、俺を守るためかい?)

 俺はそう聞きたかった。

 

 部屋に戻ってくるまで、城壁でずっと考えていたことを聞いてしまいたかった。たとえ自分が死んでも、荀彧を守りたいという気持ちはもちろんある。でも、そうすることで、荀彧の中に俺は残るのか。それが、ただただ不安だった。

 荀彧の迷惑になることをやめて、少しでも荀彧のそばに行って、それで少しでも荀彧の役に立てるように頑張ろうと誓った時は、こんなことで悩むなんて想像もしなかった。

 でも、近くに来れば来るほど、荀彧にとって俺がどんな存在なのかが気になった。

 

 このまま荀彧が歴史を変えて、曹操さまが天下をとる代わりに俺が死んで、それで荀彧は俺のことを覚えていてくれるだろうか。

 すこしでも、俺がいなくなったことを悲しんでくれるだろうか。

 

 ずっとそのことを考えていた。城壁の上でもそのことを考えていて、結局答えが出なかった。

(そんな訳ないだろう? 荀彧はあくまで曹操さまのために俺を利用しているだけなんだ)

(けど、俺が倒れた時に、俺の名前を叫んでくれたじゃないか。きっと、少しは俺のことを心配してくれているはずだ)

 そんなやり取りを頭の中でずっと繰り返して、それで部屋に帰ってきたら、荀彧がいた。

 

 胸が高鳴った。

 

 もしかしたら、俺に会いに来てくれたのかもしれない。こんな夜更けに、わざわざ俺の部屋まで。

 動揺しながらも、なんとか平静を装って、俺は荀彧を部屋に招き入れた。

(どうすればいい? ていうか、荀彧の目的は何?)

 そんなことを頭の中でぐるぐると考えながら、俺は荀彧の言葉を待った。

 そうして言われたのは、曹操さまに呼ばれた時の対応についてだった。

 もしかしたら、ロマンチックなことを言ってもらえるんじゃないかと期待していた自分が落胆したのと同時に、城壁で考えていた疑問がまた起き上がってきた。

 荀彧は、未来のことを曹操さまに言うなといった。それは、未来の知識を使うのは荀彧で、俺はあくまで荀彧の捨て駒だということなのか。それとも、曹操さまに話してしまったら、赤壁の戦いで歴史が変わってしまい、俺が死んでしまうから話すなということなのか。

 これまでの荀彧とのやり取りからは、前者の結論に向かうのはたやすくても、後者の結論に向かうのはひどく難しいように思えて、なんだかとても悲しくなった。

 

「それとも……」

 確かめたかった。荀彧はどんな気持ちでそう言っているのか。もし、俺のことを心配してくれているのなら、俺はそれだけで死ぬことを受け入れられるような気がしていた。でも、そうでなかったら、俺はこのまま自分の死を受け入れられるかわからなかった。

 荀彧は、俺が次に何を言うのか待つように、俺の方を見ていた。

「それとも……」

 聞いてしまいたかった。でも、俺が望む答えでなかったら、俺は荀彧を危険にさらしてでも生き残りたいと願うかもしれない。聞いてしまったら、もう今までの気持ちのままでいられないような気がした。

「……」

 俺の言葉を待っている荀彧を見つめると、その目が、口が、鼻が、髪が、荀彧という存在そのものが、とても愛おしく思えた。

(……ふぅ。やっぱり、荀彧を危険な目にあわせたくないな)

 そう思った。荀彧が危険な目に合わないためなら、俺が死んでもいいように思えた。

 

「……いや。何でもない」

 

 俺はそう荀彧に言うことで、荀彧を守るのだと、自分に言い聞かせた。

 

 

 

桂花視点

 

「……いや。何でもない」

 北郷はそう言って、少し悲しそうに微笑んだ。

(何でもないって何よ! なんでそんな顔で笑うのよ!)

 なんだか無性に悔しかった。

 こいつは何かを悩んでいるのに、そのことを私には話さなかった。そして、すべて自分でしょい込む決意をしたかのような顔で、悲しそうに微笑んだ。

(なんで私に言わないの? あんたが何でも話せるのは、この世界で私だけなんじゃないの?)

 こいつが私に送った初めての手紙に書いてあった文面を、私ははっきりと覚えていた。

 

“俺が何でも話せるのは、この世界では、荀彧だけだから”

 

 あいつの手紙には、確かにそう書いてあった。それなのに、こいつは今話さなかった。それが悔しかった。一刀を悲しそうに笑わせていることが、ひどく悔しかった。

「……何よ」

「え?」

 私が呟くと、よく聞き取れなかったのか北郷がそう聞き返して来た。

「何よ! なんで言わないのよ! なんでそんな顔するのよ!」

 出てくる言葉を止められなかった。その一言ひとことを言うたびに、胸が締め付けられて、目に涙がたまっていった。

「自分だけで抱え込んで、なに格好つけてんのよ! あんたは手紙に嘘を書いたの!? これだから男は嫌なのよ!」

 そんなことを言いたいわけじゃないのに、口をついて出てくるのはひどい言葉ばかりで、それも悔しくて、悲しくて、目からあふれる涙をぬぐうこともせずに、私は叫んでいた。

「じゅ、荀彧……」

 私が泣いていることに気が付いたのか、一刀が立ち上がって私に近付いてきた。

「帰る! こんなとこ来るんじゃなかったわ!」

 一刀が私に触れる前に、私は一刀の部屋を飛び出した。

 

――バタンっ

 自分の部屋の扉を閉めると、私はその場に崩れ落ちた。

「何よ……なんで、あんな顔するのよ」

 涙は依然として止まらず、私が言葉を発するたびに、大粒の涙が頬を伝っていった。

「なんで、私に言わないのよ。なんでこんなに悔しいのよ、なんでこんなに悲しいのよ……」

 扉に背をもたれさせながら、流れる涙を止めようと必死でぬぐっても、涙は頬を伝うのをやめてくれなかった。

「なんで。……なんであんたのことを思うと、こんなに胸が苦しいのよ」

 私の言葉に答える人はいなくて、私の問いかけはむなしく消えていった。

「なんでよ。……答えなさいよ、バカ一刀……」

 私の問いかけに唯一答えることが出来る男の名前をつぶやくと、一段と涙があふれてきた。

 

 

 赤壁へと向かうまであと少しと迫った日の夜、私は流れ出る涙をただただぬぐっていた。

 

 

 

あとがき

 

 お久しぶりです。komanariです。

 

 気が付けば斗詩が……。間違えました、年があけて、正月も終わってしまいましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

 まずば、こんなに投稿が遅くなってしまい済みませんでした。頑張れば、2009年のうちに11話は投稿できたのですが、色々と頑張りが足りず、こんなに間を開けてしまいました。

 

 さて、その11話ですが、どうだったでしょうか?

 何と言いますか、「あぁ、これはもう恋姫に出てくる桂花さんじゃないなぁ」などと思いつつ書いていました。読んでくださった方の中にも、違和感をもたれた方がいたかもしれませんが、その辺はご容赦いただけるとうれしいです。

 一刀くんに関しても、なんか暗めになってしまいましたが、本来支えになるべき人が自分をどう思っているのかわからず、しかも、このままいったら自分は消えてしまうという状況だったら、精神的にだいぶきついんじゃないかと思い、こんな感じになったしまいました。

 

 そんなこんなな11話でしたが、次で赤壁に入れたらいいなと思っています。何話まで続くかは……依然として不透明ですw

 でも、今年はなんだかんだで忙しいので、出来るだけ早めに最終話までもっていきたいと思っています。

 

 少しあとがきが長くなってしまいましたが、これくらいで失礼いたします。

 

 それでは、今回も閲覧していただきまして、ありがとうございました。

 


 
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