No.115864

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(2.Hard Chase)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。
劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。 【追記】1/2、一部内容を訂正しました。

2010-01-01 21:08:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1610   閲覧ユーザー数:1584

2.Hard Chase

 

「うわぁ、すごいですね、シェリオ」

「さすが、銀河の帝王。魅せてくれるわね」

「………」

 

 ルカもミシェルも賞賛の言葉を口にする。

 ステージ上方からシェリオのパフォーマンスを見ていた。

 広い空間を色とりどりのライトが照らし出し、大音響が響き渡る。

 その中で堂々とパフォーマンスを見せるシェリオの実力には舌を巻くしかない。

 

「そろそろスタンバイの時間ね」

 

 ミシェルが時間を確認してそれぞれ飛行の準備態勢をとる。

 

 ゴーサインを待っている間に心拍数が徐々に上がる。

 時計に目をやって、自分の中でもカウントダウンを始めた。

 

『――Ready go!』

 

 インカムから聞こえてきた合図にパワーグライダーでステージに飛び出す。

 観客の声と大音響が一気に周りを取り囲んだ。

 

 本当にすごいステージだった。

 広い会場を埋め尽くす観客全員がステージ上にいる一人の人間に釘付けになってる。

 歌だけじゃない、その存在から目を離すことができない。

 

「!」

 

 旋回した時、こっちを見たシェリオと目が合う。

 その瞬間、彼がにやりと笑った気がした。

 

(何か、する気?)

 

 いやな予感がした。

 リハじゃない、本番だし、ステージにプライドを掛けてるアイツが何か仕掛けてくるなんて、本当はありえないけど。

 でも、シェリオの目がそういってる気がした。

 パフォーマンスを続けながら、当たり前のように持っていたレーザー銃をこっちに向ける。

 銃口はあからさまに私を狙ってた。

 

(ちょっと、本気で打つ気?)

 

 軽くウインクして、引き金を引く。

 銃口から打ち出されたのはスペードのマークをしたライト。

 当たったところで体に影響は全くないけど、飛行中に光で目がやられるなんて冗談じゃない!

 

「!」

 

 すんでのところで光をかわす。

 

(……あったまに来た!!)

 

 人をバカにすんのも大概にしときなさいよ!

 

『アルト、ちょっとアンタ何する気!!』

 

 インカムからミシェルの慌てた声。

 でも、そんなのが聞こえたって、ここで引き下がったら女が廃る!

 

(見てなさいよ!)

 

 ステージに向かって一直線に急降下する。

 歌っているシェリオの体すれすれのところで再反転。

 驚いた顔を見て、ちょっとだけ溜飲が下がる。

 

『アルト、隊列に戻りなさい! このままじゃ、パフォーマンスが台無しになるでしょ!』

「了解」

 

 頭の温度が下がったところにミシェルの怒った声が入る。

 ここは大人しく戻った方が良さそう。

 ……どのみち、後で小言言われるだろうけど。

 

 次、何を仕掛けてくるか――ちらりとそんなことが頭を過ぎる。

 でも、銀河の帝王とまで異名をとる超トップアイドル歌手シェリオがステージ中に何度も何かをするはずないと余計な考えを頭の中から追い出す。

 実際、目まぐるしい変化を見せるこのステージでさっきみたいなイタズラするなんて、ありえない。

 

『フォーメーション、再確認。ここからヤマ場だから、気を引き締めて。

特にアルト。さっきみたいなのは、なしでよろしく』

「了解」

 

 ミシェルの言葉に首をすくめる。

 曲が変わるのと同時に全員散開して急上昇、タイミングを合わせて旋回して急降下。

 繰り返し練習した手順を反芻して深呼吸した。

 シロウトじゃないってこと、証明してみせる。

 

『Go!』

 

 ミシェルの合図でパワーグライダーのエンジンを全開にする。

 

(え……アイツ、今度は何する気?)

 

 視界の端っこにいきなり駆け出したシェリオの姿が見えた。

 ――こんな演出、リハーサルの時にはなかったはず。

 一体、何をしようって言うの?

 

「!」

 

 シェリオの掛けていく先を見て目を見張る。

 ステージから迫り出した台はすぐそこで終わっていた。

 そして、その先には防護ネットも何もない。

 

(ちょっとアイツ何考えてんのよ!)

 

 自分が向かってる先がどうなってるかわかってるはずなのにシェリオは全力疾走の足を緩めない。

 

「あのバカ!」

 

 さすがに見てみぬフリをする気にはなれなかった。

 アイツの意図はわからないけど、このままじゃ確実に落下する。

 毒づいて急旋回した。

 

「きゃぁーっ!!」

 

 そして、予想通りの展開が待っていた。

 ステージからダイブするシェリオ。 

 落下するその姿に客席から悲鳴が上がる。

 

(間に合って――!)

 

 出力全開。急加速する加圧に顔を顰める。

 近づく地面。あの高さから落ちてただで済むはずはない。

 

(……もうちょっと!)

 

 落下するシェリオに手を伸ばす。

 

「よしっ!――きゃあ?!」

 

 シェリオの手を掴んだ瞬間、がくんと衝撃が走る。

 いきなり倍以上の加重がかかったせいでバランスが崩れた。

 

(落ちる――!)

 

 旋回しながら落下し続ける。

 このままじゃ、二人揃って地面に激突することになる。

 それでも何とか体勢を立て直そうと試みた。

 

「せっかく助けてくれても、これじゃあカッコつかないわねえ」

「――え?」

 

 切羽詰った現状にため息つくシェリオ。

 のんびりした口調に一瞬現状を忘れる。

 

「まあ、間に合ったのは及第点だけどね。シロウト飛行士(パイロット)さんにはこれが限界かしら」

「何言って――」

「このままじゃ、二人して落ちちゃうってことよ。

でも、ステージ台無しにするわけにはいかないのよね」

「?」

「――しっかり摑まっててチョウダイ」

「?!」

 

 シェリオの腕が逆に私の体を抱き寄せた。

 がっちり抱き締められて、否応なしに抱きつくみたいな体勢になる。

 

「さあ、行くわよ」

「!」

 

 がくんと衝撃があって、落下が止まる。

 シェリオが腰に巻いていたブースターを点火したんだ。

 気が付かなかったけど、ステージ衣装の下に隠し持ってたらしい。

 ほっとした反面、ふつふつと怒りが湧き出してくる。

 ――そんなの持ってたんなら、無茶しなくてよかったんじゃない!

 

「これで、作戦成功」

「こ……こんなの、リハーサルじゃなかったじゃない!」

 

 ブースターの浮力で緩やかに上昇する。

 恨みを込めて精一杯にらみつけてもシェリオはにやりと笑うだけだった。

 

「あら、人生、予定通りばっかりじゃつまらないでしょ。

予定外のハプニングっていう刺激がなくちゃ楽しくないわよ」

「し、信じらんない……」

 

 軽くウインクまでされて、心底言葉を失う。

 ホント、何てとんでもない奴なんだろう。

 

「はい、到着。

お礼なら要らないわよ。なかなかいい抱き心地堪能させて貰ったから」

「……!」

 

 ステージの上に降り立って、開放される。

 こっちの気持ちなどお構いなしにいけしゃあしゃあとそう言ってのけるシェリオに軽く殺意を抱きそうになる。 

 

「アナタ着やせするタイプなのね。驚いっちゃったわ」

「はぁ――?!」

 

 今度は一体何を言い出すつもり!

 何か言い返してやろうと口を開こうとした時、シェリオの手が胸元に伸びた。 

 

「まあ、こっちはまだまだ開拓中みたいだけど」

「○△■※☆★◎%!!」

 

 余りのことに言葉が出てこない。

 よ、よりによって、人の胸を触るなんて!!

 

「顔もアタシ好みだし、こっちが成長したらいつでも相手してあげるわね」

 

 やりたいことやって、言いたいこと言って、シェリオはウインク一つ残して歌い始める。

 

『アルト! 一体、何やってるの! 早く戻って!!』

 

 インカムから聞こえてきた怒鳴り声に我に返る。

 ライヴはまだ続いてる。

 くやしいけど、こんなところで突っ立てる場合じゃない。

 

(――いつかこの借り、返してやるんだから!!)

 

 誰にいうこともない決心を胸にステージから飛び立った。

 

『アルト、何があったの? トラブル?』

「……終わったら、説明する」

『了解。このまま続けて大丈夫ね?』

「もちろん」

 

 インカムから聞こえてきたミシェルの少し非難めいた声に軽く肩をすくめる。

 ――終わったら、こってり絞られるだろうな。

 自業自得だけど、少し憂鬱になる。

 

(ダメだ。今は集中しなくちゃ)

 

 軽く頭を振って、フライトに集中する。

 今は『飛ぶ』ことに意識を向けなくちゃいけない。

 

「!」

 

 次のフォーメーションに移ろうとした時、突然、会場に警報が鳴り響いた。

 強制的にライヴは中断されて、会場に戸惑いの色が広がる。

 

『緊急放送です。非常事態につき、市民の皆様は至急最寄のシェルターに移動してください。

繰り返します……』

 

 無機質なアナウンスと危険を知らせる映像が繰り返された。

 ライブ会場の照明が点き、シェルターに続くゲートが次々と姿を現す。

 

(一体、何があったっていうの?)

 

 近くにあったハッチを開けて外に出る。

 コンサート会場の屋根の上に立って、空を見上げる。

 

「こんな近くで戦闘してるなんて……!」

 

 思わず声が出る。

 戦闘機の爆音と火薬がちらす火花が空を満たしていた。

 こんな光景、見るのは初めてだった。

 

「! ――シェリオ!」

 

 空で繰り広げられる光景を呆然と見ていたら、背後でガチャンとハッチの開く音がした。

 振り返ると同じように驚いた顔で空を見上げるシェリオがいた。

 

「どうなってるんだ、一体」

「早くシェルターに行きなさい! エマージェンシー・コール、わかってるでしょ!」

 

 自然と厳しい口調になってしまう。

 今、ここに一般人がいていい状況じゃない。

 目の前で戦闘が起こっていて、避難勧告が出ているんだから。

 

「まだライブは始まったばかりなんだぞ。簡単に中断させられるか!」

 

 怒鳴られてかちんと来たのかシェリオが声を荒げる。

 その言葉を聴いて、違和感を感じる。

 

(――何か、変じゃない?)

 

 ステージにいたときは女言葉でしゃべっていたはず。

 それが今は普通の男言葉で。

 

「? 何だ?」

「言葉使い、変わってない?」

「ふん。――一体どうなってるんだ?」

「わからない。でも、とても危険な状況なことだけははっきりしてる」

 

 緊迫した空気が辺りに張り詰めていた。

 上空で繰り広げられている戦いは間違いなく現実だ。

 

「!」

 

 その時、爆音とともに一筋の閃光が近づいてきた。

 ――戦闘の流れ弾!

 

「シェリオ!」

 

 逃げるように言おうとしたけれど、すでに時遅し。

 それほど離れていない場所に派手に着弾してその爆風で二人とも吹き飛ばされてしまった。

 なんとか体勢を立て直して、パワーグライダーの翼を開く。

 一緒に飛ばされたシェリオを何とか助けなきゃ!

 

「くっ!!」

 

 それほど離れていないのに、伸ばした手が届かない。

 それどころか、徐々に軌道がずれて距離が離れていく。

 このままじゃ、シェリオの体は地面に叩きつけられることになる。

 

(どうすれば……)

 

 落ち着け、落ち着いて考えろ。――焦る自分に言い聞かせる。

 何か使えるものがないか、記憶を探る。

 

(――そうだ! さっきのが使えるかもしれない)

 

「シェリオ! ブースター、点けてみて! 燃料、残ってるかもしれない!」

「! わかった――!」

 

 声が届いて、シェリオが答えるのが聞こえた。

 後はガスブースターの燃料が残っているのを祈るしかない。 

 

(――やった!) 

 

 シェリオの体が浮き上がるのが見えた。

 これで地面に叩きつけられることはなくなった。

 緩く下降するシェリオの腕を今度は掴むことが出来た。

 

「大丈夫?」

「なんとか、な。そっちは?」

「一応、ね」

 

 安心からお互い軽口を叩く余裕も出てきた。

 しかし、降り立った町の様子にお互い言葉を失う。

 記憶にある光景から一転して、辺り一面、瓦礫の山と化していた。

 

「……」

「……酷い有様だな」

 

 隣でシェリオが呆然と呟いた。

 まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。

 

「! ――じっとしていて。バジュラに見つかるかもしれない」

「……ああ、そうだな」

 

 足を踏み出そうとしたシェリオを止める。

 それにどこか上の空な返事が返ってきた。

 当たり前か。――こんな現実を早々に受け入れるなんてムリに決まってる。

 

「く……来るなぁ!」

「! ――ランタ!」

 

 それほど離れていない場所から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 悲鳴に近いその声の方に視線を向けると、バジュラを前におびえるランタの姿があった。

 

「知り合いなのか?」

「うん。――ここでじっとしてて」

 

 恐怖におびえるランタは目の前にバジュラが迫っているのに逃げ出すことも出来ないみたいだった。

 このままじゃ、命が危ない。

 何とか、助け出さないと。

 

「おい――どうする気だ?」

 

 ブースターのエンジンをかけようとした手をシェリオが止める。

 

「助けに行かないと」

「どうやって? ――戦闘機をつぶしてしまうような相手だぞ」

「でも……」

 

 厳しいシェリオの言葉に返す言葉が見つからない。 

 確かにバジュラ相手に丸腰で向かっていくなんて無謀な話だ。

 でも、このまま、見過ごすわけに行かない!

 

「! ……あの機体、使えるかもしれない!」 

「おいっ!」

 

 止めるシェリオの手を振り切って駆け出す。

 さっき視界に入った無人になったVF-25戦闘機。

 あれを動かすことが出来れば、ランタを助けられる!

 

 バジュラの死角をついて、パイロットのいなくなってしまったVF-25のコックピットに体を滑り込ませる。

 この機体にはEX-ギア対応のインターフェイスが乗っているはず。 

 

(お願い、動いて――!)

 

 うろ覚えの手順でEX-ギアシステムを起動させる。

 急ぐ気持ちを抑えて、スロットルを握る。

 これを動かせなきゃ、ランタを助けることは出来ない。

 

 液晶にconnectの文字が表示され、stand byの状態になる。

 ――何とか、いける。

 

「行け――っ!」

 

 ランタに近づくバジュラに体当たりする。

 予想外の敵の来襲に一瞬ひるんだ。

 

 その隙にVF-25に装備されている機関銃を構える。

 安全装置をはずして、ありったけの弾を撃ちっ放す。

 

 激しい爆音とともに弾丸がバジュラに襲い掛かった。 

 弾幕と土煙で視界が奪われる。

 何とか、これバジュラの動きを止めることが出来たら……。

 

(――ダメかっ)

 

 煙幕が晴れて現れたバジュラの姿に舌打ちしたくなる。

 少なくない数の弾丸が着弾したのに、バジュラへのダメージは少ない。

 

(後、使える物は……)

 

 操作コンソールを叩いたけれど、武器が見つからない。

 ――こうなったら、機体そのものでバジュラを防ぐしかない! 

 

 ランカとバジュラの間に立ちはだかり、防御の体制をとる。 

 

『VF25のパイロット、下がって! 後はこちらで引き受ける!』

 

 突然、通信機を通して声が聞こえてきた。

 それと同時に着弾音が炸裂する。

 

 機を逃さず、目の前に現れたVF-25の機体がバジュラに更なる攻撃を加えた。

 さすがの頑丈なバジュラの体も度重なる攻撃には耐え切れない。

 最後には動かなくなり、その場に倒れた。

 

(これが……実戦、なんだ……)

 

 静寂が戻り、じわじわと目の前の光景に現実感が迫ってくる。

 スロットルを握る手の震えが止まらなかった。

 

「アルト――」

 

 一連の攻防をシェリオはただ見つめることしか出来なかった。

 拳を握り締め、自分の無力さに歯噛みする。

 

「シェリオ様、お迎えに参りました」

 

 突然、声が掛けられる。

 振り返ると、見慣れた人影が立っていた。

 

「! ――ブレラ」

 

 冷静な声で目の前に膝をつく女性の姿に驚きを隠せない。

 一体、いつの間に現れたのか。

 毎度のことながら、神出鬼没な彼の護衛官だ。

 

「遅くなり申し訳ありません。バジュラの侵攻が予想より早かったもので。

――大きな怪我はないようですね」

「勝手に体をサーチしないでっていってるでしょ!」

 

 シェリオを見る目が硬質な光に変わり、無遠慮に体の隅々までを見つめた。

 そのことに、シェリオは抗議の声を上げる。

 幾ら無事を確認するためとはいえ、あまり気持ちのいいものではない。 

 ――それが、ギャラクシーのサイバネティクス技術により身体の大部分をインプラント化(人工化)した機装強化兵(サイバーグラント)であっても。

 

「失礼しました。

このままここにいては危険です。避難しましょう」

「ちょっと待ってよ。あの子が――」

「失礼いたします」

 

 華奢な容姿のブレラはシェリオの抗議の声などに動じることなく軽々とシェリオを抱き上げる。

 

「ブレラ、ちょっとは人の話を――」

「グレオ氏もお待ちですので、参ります。シェリオ様、しっかり掴まっていて下さい」

 

 ブレラは帰還ルートを確認する。

 その視線の先を見てシェリオは顔を引きつらせた。

 

「! ――おい、そっちは下水!」

「最短コースで参りますので我慢して下さい」

「冗談! うわあっ――」

 

 シェリオの抗議の声を聞き流し、マンホールの蓋を吹き飛ばして、二人の姿は派手な水音とともに下水道に消えた。


 
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