1.Close Encounter
『ええーっ!! 本当にホント!! アルト、シェリオのチケット取れたの!!』
携帯からランタの元気な声が聞こえてくる。
ちょっと前にライブのチケットが取れなくてしょげてた姿がウソみたい。
「うん。シェリオのライヴで飛ぶことになってて、そのツテでチケット手に入ったから。
今からそっちに転送する」
『やったーっ。本当にありがとう、アルト。今日の出前、オマケいっぱいつけとくからね』
「期待してる」
チケットのデータをランタの携帯に転送する。
凹んでるのがあまりに可哀相でエージェントに掛け合ってみたら、何とか用意してくれた。
ここまで喜んでくれるなら、頼んでみてよかった。
銀河の帝王の異名を取るシェリオのライブチケットは確かにプラチナ化してるらしい。
いつもはギャラクシー船団にいるシェリオがライブツアーでここフロンティア船団まで来ること自体珍しいから、余計そうなってるんだろう。
「アルト先輩、練習始まりますよ!」
「ああ。うん、わかった」
ルカの声に返事する。
携帯を仕舞って、練習場に向かう。
「……このタイミングで3回転ね」
ミシェルがプログラムを見ながら、再確認してる。
ライヴに参加するメンバーでライブパフォーマンスの練習。
単独飛行じゃないから、必然的に飛行レベルは下がるのがちょっとだけ悔しい。
「私なら5回は回れるのに……」
「何? アンタ、まだ根に持ってんの? シェリオにシロウト扱いされたこと」
呟いたのが運悪くミシェルの耳に入ったらしい。
呆れたような青い目がこっちを見る。
確かにリハーサルでシェリオにそんなこと言われたけど、別にだからってわけじゃない!
「! そんなこと、ない! 私はただ、いつでも目一杯飛びたいだけで……」
「そんな負け惜しみ言っちゃって。可愛いんだから、アルト姫は」
妖艶な笑みを浮かべてミシェルが投げキスをしてくる。
「!! ミシェル!!」
いつものようにからかってくるミシェルに食って掛かる。
毎度毎度、どうしてこうちょっかいだしてくるんだろう。
「娘々。の出前でーす! ……って、あれ? アルト、ミシェル??」
練習場に元気な声が響く。
大きな出前箱をもったチャイナ服のランタが現れた。
追いかけっこ状態になっていたミシェルと私の姿に目を丸くする。
「それじゃ、一旦、休憩ーっ!」
直前までのやりとりはどこ吹く風。
ミシェルはそう号令かけて、銀河ラーメン(マゼラン星雲おまけつき)をちゃっかり受け取って食べ始めた。
……ホント、現金な奴。
「アルト……食べないの?」
差し入れを受け取ってない私を心配げに見つめるランタ。
「え……あ、うん。後で食べる。飛ぶ前はちょっとでも体軽くしときたいから」
「そう……なんだ」
私の答えにちょっとほっとしたようにランタが笑う。
「あ……この風……」
「アルト?」
「これを待ってたんだ」
今までと違う風が髪を舞い上げる。
北北西の風。――これなら、飛べる!
「ちょっと飛んでくる」
外していたパワーグライダーをセットして、走り出す。
計算された空間で吹くこの風が私を空に送り出してくれる。
例え、それが偽りの大空であっても、今の私にはそこを飛ぶ瞬間が至福の時だった。
――それが私の知る自由だから。
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マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。
劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。