恐るべきまでに澄んだ、月。
ここまで月の光を実感したのは、去年の今頃だっただろうか。
竹取の翁は、婆とともに同じ月を見ていた。
なよたけ、あるいは、かぐや姫。
かつて、娘だった、「月」の姫。
彼女の軌跡を彼らと追う事にする。月に関する、ある秘密事項に関しても。
ご存じの通り、彼女は翁が竹を割ったときに現れた。
あまりに可愛いので、なよ竹という名前を付け、端正に育てた。
幼少期の彼女は、昼間は元気に夜は翁達の言うことを聞く、いわば優等生であった。
そのうえ可愛いあまり、「何時自分たちのそばにいて欲しい」と思った事もある。
翁と媼は自分たちに子供ができなかった境遇からか、まるで本物の娘のように優しく優しく育てたせいか、気だてのいい、美しい娘に育っていった。
ところが成人してから、少し状況が変わっていく。
長い間物思いにふけったり、求婚者達に無理難題をふっかけるようになったのだ。
前記の通り才色兼備の彼女は、幼い頃から異性の求愛が耐えなかった。
翁と媼は、彼女の苦悩を聞きながら、他人に対し丁重に扱うように言った。そのため、おしとやかで優しいとますます、異性の視線を集めるある種の悪循環を生んだ。
ついには遠い京にまで、その美しさは評判となり当時のの貴公子達は彼女に求婚の文を送った。媼は、
「あまり相手に失礼な言の葉を送らぬようにな」
といつもの気分で軽く忠した告。
ところが翁が京に用事のあった際、なよ竹、いや、かぐや姫に関する評判を聞いて二人は腰を抜かしてしまった。
「佛の御石の鉢」?「蓬莱の玉の枝」?「火鼠の皮衣」?「龍の頸の玉」?「燕の子安貝」?
「なんじゃ、聞いたことないお宝じゃ。何を考えておるのじゃろ」
「…多分、嫌な貴公子を断るのに難題を出して、嫌われるためにいったんじゃろうが、これはやりすぎじゃわ」
彼らの知識のない頭にはこの言葉は異界に感じたため、かぐや姫に問い詰めた。
かぐや姫は、縁側で外をぼんやり見ていた。
二人の足音に気づいて、すこし、憂いを帯びた表情を隠して、うっすら口元に無理をして微笑した。
「…どこかにあるという宝物です。多くは西のほうらしいのですが。…ごめんなさい…単に遠回しの断り文のつもりでいたのですが…。断りの返事を考えすぎたあまり、少し、遊びが過ぎましたね」
明瞭というよりも、なにか感情が欠落してしまった印象を感じ、媼は少し不安になった。
その顔には、いつかは終わる何かを待っているようなはかなさが見受けられた。
最初の憂げな顔に、厭世、たとえば自殺や出家、という言葉を、翁は思い浮かんだが、彼女が言い足そうにしてる言葉を待とうとその場を見守ることに決めた。
翁と媼が立ち去った後、昼間にうっすらと覗かせている月をかぐや姫は再び眺めていた。
そして実は翁達夫婦に伝えなければならない言葉を探していた、ことはまだ隠しておこうとそう思った。
実は、自分はこの世界からいうと時間的にも、地理的にも遠い世界の人間なのだ。
そして、実は自分が翁夫婦や貴公子達のような人間ではなく、そして人が見るほどいい人間ではないとも。
「遠い世界」を何処にするか、彼女は。凄く悩んでいた。
小さい頃から聞かされたおとぎ話を思い出しながら。
「天女様だと、偉い人間のようにも思えるし…、天照様じゃ、ずっとこの地にいるかんじよね…どちらにしても、あまり時間はないようね」
半分の月が彼女に何かを語ってるように見えた。
「使い」のものがくるまで、次の満月まであともう少し。
そして、「月」の世界が地の世界と合流するまでもう少し。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
第二話ですが、竹取の物語自体は次で終わります。
その後、インターバルを1話分置いて、次の話へ。