「マーボーカレー?」
「うん、麻婆豆腐とカレーを混ぜた、とても辛くて美味しい料理なんだ。みんなからは不評らしいけど、僕、好きなんだよね」
アンドロイドの少女、ユズは紫の髪の少年、源春樹の発言にぽかんとしていた。
マーボーカレーという料理は聞いた事がないし、そもそもアンドロイドは食事をする必要がない。
ユズは嗜好品としてなら鮭とホワイトチョコが好きだが、こんな辛い料理をユズは全く知らなかった。
「鮭は使うの?」
「いやいや、麻婆豆腐にもカレーにも鮭は使わないって。とにかく、麻婆豆腐とカレーを一緒に作って、それを混ぜるだけの簡単な料理って事で」
「……分かった、わたし、マーボーカレーを食べてみる。アンドロイドは食べなくていいけど、興味はある」
食べた事はないし食事もしなくていいが、ユズはマーボーカレーに興味を持ち、春樹と一緒にマーボーカレーを食べる事にした。
「っていうか、ユズってアンドロイドだったんだ」
「……そう」
春樹はユズを初めてアンドロイドだと知って驚いた。
好奇心旺盛な個体なので、造られてから間もない存在かもしれない。
春樹はそう思いながら、麻婆豆腐とカレーを作る準備に入る。
父子家庭で育った春樹は家事全般が得意で、麻婆豆腐とカレーを作るのも、彼にとっては朝飯前、と言っていいかもしれない。
ユズは春樹が丁寧に料理を作る様子を、無言でじーっと見ていた。
三十分後、それぞれ二人前の麻婆豆腐とカレーが完成し、春樹はそれを半分ずつ掛け合わせ、二人前のマーボーカレーを作った。
簡単なものだが、これが春樹なりのマーボーカレーと言える。
いくら周りが不評で嫌われようとも、春樹はどうしてもこれを食べたかった。
「「いただきます」」
春樹とユズは丁寧に手を合わせ、マーボーカレーを一口食べた。
「……うん、上出来」
「でしょ? マーボーカレー、美味しいのになぁ」
マーボーカレーを食べた二人の顔は綻んでいた。
何故こんなに美味しい料理が評価されていないのか、二人は理解できなかった。
「麻婆豆腐は麻婆豆腐で、カレーはカレーで食べたいって言う人が大半らしいけど、やっぱりそれは分からないなぁ……」
「美味しい×美味しい=凄く美味しい……理解不能」
アンドロイドの計算能力は高いため、ユズは単純にそう考えていた。
だが、マーボーカレーはどうしても世間では不評らしい。
「わたしには人間の考えが分からない。バズる=虫がたかるって意味だと思った」
「まあ、確かにバズは虫って意味だからね。美味しい蜜をたくさん出す花には、それを求める虫もたくさん群がるからね」
随分と棘のある事を言う二人だが、ユズはアンドロイドだからであり、春樹は事実を言っているだけである。
ユズとしては、力ずくで対抗しようかと思っていた。
「……でも、社会を作っているのは人間の群れだというのも理解してる」
しかし、人間の群れにユズが特攻すれば、社会は崩壊してしまう。
ユズはそれを、心の底では望んでいなかった。
「そもそも、破壊は主が好まない事。だから、わたしは必要な時以外は戦わない」
「ユズは妖怪と素手で戦ってるのに?」
「……妖怪、怪は話せば分かり合えるのが多い。でも、どうしても戦わないといけない時は戦う。ヤマノケみたいに」
ユズは戦闘用アンドロイドだが、主人が戦いを好まないため、機会はない。
しかし、町にヤマノケという凶暴な怪が現れた時、ユズは操られた町の人々を体術で一掃し、ヤマノケと戦ったのだ。
これが、必要な時に戦う、という意味かもしれない。
「長くなるから今回はここまで。美味しかった、あなたのマーボーカレー」
「そうだね、脱線しすぎちゃった。ユズ、付き合ってくれてありがとう」
春樹とユズは、マーボーカレーを通じて仲良くなるのだった。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
ほのぼのとした日常を、人間とアンドロイドが過ごします。
「彼」が好きなものに関するSSです。