No.115227

Beginning of the story 第五章ー外の世界3

まめごさん

ティエンランシリーズ第三巻。
現代っ子三人が古代にタイムスリップ!
輪廻転生、二人のリウヒの物語。

「おれ、王女とバイトしていた…」

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2009-12-29 21:29:25 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:476   閲覧ユーザー数:464

特に好き嫌いがある訳ではないが、楽な仕事は嬉しいものだ。

とある町で請け負ったのは店番だった。そこの主人は昼間よそへ用事があるらしく、午前から夕方にかけて店に座っていればいいだけの話だった。

「まあ、大抵ヒマだから。あと昼餉は台所にある物を適当にたべておくれ。君ともう一人、お願いしている子がいるから仲良くしてあげてね」

奥には、橙色の頭をした痩せぎすの男が座っていた。なぜかリウヒを見てかたまっている。

カガミといい勝負の丸いオヤジは、じゃ、よろしくといって出かけて行った。

橙男と反対側の椅子に座る。ぼんやりと外を見ている内に、雨がポツポツとふってきて、あっという間に辺り一面を濡らし始めた。道行く人々が列を乱された蟻のように逃げ纏う。

 

宮廷を出て、一年近くが経った。相変わらずトモキの行方は知れない。

早く会いたい焦燥感はある。なぜ、これだけ探しているのに、見つからないのだろうか。似ている男がいると噂を聞きつけても、ガセばかりだ。

それでもリウヒは外の世界に大分馴染んできたと思う。

苦手で仕方のなかったキャラとは、お互い適度な距離を保って接している。マイムは基本的に自分に関心がないし、なにより王女として見てくれない所がいい。カグラは何を考えているのか分からない男だが、マイムは「いい?あの男は天性の女たらしなの。だから、何かいわれてもホイホイとついていっちゃだめよ。分かったわね」と諭した。

カガミは相変わらずだ。しかし、大人たちは、リウヒとキャラを子供として扱い、夕餉がすむと二階の部屋へと毎回追いやった。

 

夜更けは、子供の知らない素敵な別世界が広がっているように思えた。

一度、キャラと共同線を張って、部屋からこっそりと出たことがある。下ではカガミが、知らない旅人らしき男と楽しそうに飲んでいた。宿の外に出ると裏でカグラとマイムが話していた。銀髪の男は壁に凭れて腕を組み、金髪の女はすぐその横で向かい合うように、男に何かを囁やかれていた。

あまりにも親密な空気に、少女二人は凍りつきそれから慌てた。見られている事に気が付いていないカグラとマイムは、至近距離で見つめあっている。その距離はゆっくりと狭まっていき、男と女は目を閉じた。リウヒが固唾をのみ込んだ瞬間、キャラに襟首を引っ張られた。

「なにするんだ、キャラ!」

「しーっ!これ以上見るのは野暮よ!母さんが言ってたもの、ヒトノコイジヲジャマスルモノハウマニケラレテシンジマエって」

「なんだそれ。呪文?」

「あたしだって知らないわよ!」

小声で言い合いをしながら、転げるように部屋に戻った。寝台に潜り込んで、蒲団をかぶっても動悸は治まらなかった。あの二人の醸し出していた雰囲気に当てられたように、顔が赤くなる。

「リウヒ」

キャラの声がして、蒲団から顔を出すと、これまた赤い顔が真剣に自分を見ていた。

「見ていた事を、誰にもゆっちゃ駄目よ。外に出たことがばれちゃうからね」

コクコクと頷く。

「だけど…」

リウヒの寝台に寄りかかったキャラはうっとりと夢見るように言う。

「あたしもいつかあんなことをするのかなあ…」

わたしもそうなのだろうか。

殿下が恋をするお相手は誰なのでしょうね。シュウの声がする。

その時、階段を上る足音が聞こえて、藍色の頭はヤドカリのように蒲団に引っ込み、赤毛は慌てふためいて、自分の寝台に飛び込んだ。

「あら、やだ。あんたたち、まだおきていたのー。早く寝なさーい」

返事をしながら蒲団から覗いたマイムの姿は、先ほどの濃い雰囲気は全くなく、リウヒは幻をみたのだろうかと首をかしげた。

 

雨音が強くなって現実に戻る。となりの男は、ずっと視線を自分に向けたままだ。なんだか気持ち悪い。

「わたしの顔に何かついているのか」

不機嫌な声で聞くと、少し不思議な発音で返事がかえってきた。

「米粒」

振り向くと、男は己の口下を指す。慌てて口元に手をやると、なるほど米粒が一つ、ポロリと落ちた。

男はひっそりと笑うと、表に目線を向ける。リウヒも同じ方向に目を向けた。

雨はやむことなく降り続く。知らない男と二人、まるで雨の檻に閉じ込められているみたいだった。

****

 

 

「雨が続くね」

宿で朝ごはんを食べている時。リウヒとシギに声をかけると、返事が返ってこない。顔を上げるとリウヒはぼんやりと隣の男の食膳を見ていた。

「なんだよ。やらねえぞ」

「馬鹿」

なんでもない会話に、甘さが含まれている。カスガの全身が痒くなった。ここ最近、二人の間に流れる密度は濃厚で、とてつもない疎外感を感じてしまう。いつからだろう、多分、あの野宿から。自分が寝ている間に何かあったのだろうか。

リウヒの視線を辿ると、そこにはシギがいる。シギの目線を辿ると、そこにはリウヒがいる。お互いが目線を合わせると、恥ずかしそうに逸らす。

まるで、思春期の男女のようだ。醸し出される甘酸っぱい空気に、カスガはなんだか体がムズムズするのだった。見ている方が照れてしまう。

二人に何かあったのかと聞いてみても、歯の奥に物が詰まったような、要領のえない返事が返ってくるだけで、さっぱり分からない。

これは、あれだな。付き合う前の一番楽しく嫌らしい期間。いっそ付き合ったり、結婚してしまった方がすっきり爽やかになるのに、その前のモヤモヤした時期は密度が濃く甘い。実際、友人や後輩のそんな姿も見てきた。

大事な妹にも、ようやっと春が来たのか。現代から遠く離れたこの古代で。

宿の台所を借りて赤飯でも焚いてやろうか。小豆ってここにもあるのかな。

 

「まつげがついている」

シギの手が伸びて、リウヒの目の下に触れた。

「あ…」

幼馴染が顔を赤らめて男を見る。男もつられて顔を赤くした。見つめあったまま固まって動かない。

「ごちそうさまー」

ああ、こっちが恥ずかしくていたたまれない。本当にごちそうさまだよ、君たちには。絶叫したいような、大笑いしたいような気持ちを抑えてカスガは、椅子を立った。

****

 

 

反対側の椅子には、藍色の髪の少女が座っている。衣は粗末だが、きちんと躾けられているのだろう、浅く腰掛け、凛と背筋を伸ばしている。片や、自分は半分ずり落ちた格好で、片足を抱え込んでいた。

雨はやまない。ここ数日間、降りっぱなしだ。おかげで客も一人も来なかった。

ずっと少女と二人、雨の中に閉じ込められている。二人でぼーっと椅子に座り、昼になると、台所のものを適当につまむ。夕方になって、店の親父が帰ってきたら自分の宿に戻る毎日を送っている。

背もたれに頭を預けて、リウヒの事を考えた。満天の空の下、キスをしてからぎごちない。熱を孕みつつ、欲望さえ入り混じっている密な空気が流れるようになった。しかし、お互いそこから動かない。カスガも居心地が悪そうにしている。

言わなければ良かったのだろうか。でも言わずにはいられなかった。

ため息をついて天井を見上げた時。横から小さな腹の音が聞こえた。キュールルルと可愛く鳴いている。頭を巡らせると、少女が真っ赤な顔をして腹を押さえた。

[飯にしようか]

苦笑して立ち上がる。

台所にあったのは、冷めた汁物と櫃に入ったご飯だった。おれがこっちやるから、お前は飯を握ってくれと言うと、コクンと頷いた。中々に無口な子だ。この四日間、一言二言しか言葉を交わしていない。

そして、見れば見るほど、恋しい女にそっくりだった。藍色の長い髪も、白い肌も、黒い瞳も、ほっそりとした体も。若干幼く、背が低いこと、年不相当の落ち着いた雰囲気を除けば瓜二つといっていい。この子はリウヒのご先祖かもしれないな。もしかしたら前世の姿だったりして。と小さく笑った。

 

いい感じで汁物が温まり、少女に目をやったシギは愕然とした。

[お前、なにやってんのぉ!]

[見れば分かるだろう、握り飯をつくっている]

[分かんねえよ!これじゃ潰れた飯の塊だよ!]

失礼な、と少女は鼻を鳴らした。

[失礼なのはお前だ、お前!こんな姿にしてしまって、お米さまに申し訳ないと思わないのか!]

料理が下手くそな所までそっくりだよ!こいつは!

[好きで不器用になった訳じゃない!それに、お前お前連呼するな!わたしにはリウヒという名前がちゃんとある!]

うおおい、名前まで一緒だよ!シギは、頭を抱えて天を仰いだ。が、そのままグリンと少女に向き直る。

もしかして、この子、王女?いやいや、まさか。伝説の王女は、絶世の美女だ。目の前の少女は、可愛いとはいえそこらの村にもいるような普通の娘だ。リウヒという少女は、睨むようにシギを見つめていたが、再び腹を押さえた。今度はグーと低い音が聞こえた。

[リウヒは、今、何をしているんだ]

 

[仲間と旅をしている。中々に面白い。シギは?]

[おれも旅をしている。三人で]

可哀そうな飯を食いながら、それとなく聞き出してみたが、やはりカスガの話す王女に間違いなかった。王女とははっきり言わなかったが、すんでいた所で騒ぎがあって、外に出た。今は少女一人と、オヤジ一人と、青年一人と、女一人が仲間にいる。ということは、まだシラギとかいう男とトモキとは合流してないんだな。カスガの耳にタコができたほど聞かされた話を照合しながら、王女の低く流れるような声に耳を傾ける。

[お前の話も聞かせてくれ]

昼を片付け終わり、自分の椅子に座ったリウヒは、興味深そうな目でシギを見つめる。膝を抱え込んで、そこに顔をうずめてこちらを見ている様子は、大層可愛らしかった。

この小娘が、ティエンランの歴史上でもっとも有名な人物とは思えない。だけど、おれは今、その王女と話している。カスガが付け回したがる気持ちが、少し分かる気がした。

[ジンとはどんな国なんだ]

シギは戸惑った。まさか遥か時空のはてからやってきましたなんて言えない。しかも、ジン国に対して微かな嫌悪感もある。ティエンランを滅ぼした大国への。

[便利で、物や人が溢れていて…]

口をでるのは、やはり現代のことになってしまう。

[いいところじゃないか。そこに住む人は幸せなのだろうな]

いいところなのだろうか。幸せなのだろうか。ならばなぜ毎日、痛々しい事件は起こり、それをテレビで見ながらおれは他人事のように、家を出る支度をするのだろうか。

ぼんやりと思いながらシギの口は、別の言葉を紡いでいたらしい。

[わたしは恋というものをしたことがないから分からないが]

年頃の娘らしく、恋愛話になると顔つきが変わった。っておれは何を話したんだー!この小娘に!

[シギに想われているその人が、少しうらやましい]

クスクスと笑う少女に、シギも強ばった笑顔を返した。頭の中はパニックだった。

ヤバいこといってないよね、おれ。大丈夫だよね、おれ。

[わたしもいつか、そんな想いを抱くようになるのだろうか]

小さな王女はうっとりと彼方を見る。

[なるよ]

シギは知っている。目の前でちょこんと座っている少女がこれから辿る運命を。その過程で生まれて消えた愛も。

名も無き海賊の青年との別れ、年の離れた黒将軍との死別。

そして、お前は立派にその人生を生き抜いたんだよ。

[必ずなる]

痛烈な痛みを伴って。とは言えなかった。

リウヒはきょとんとシギを見ていたが、そうか、と笑った。その笑顔に胸が引き攣れた。

****

 

 

シギの声に、リウヒとカスガは、弾かれたように顔を上げた。

「おれ、王女とバイトしていた…」

宿の一室で呆然としたように言う。予想どおりカスガは闘牛の如くシギに詰めより、リウヒは慌てて幼馴染に飛びついた。

「どうして、どうして、君たちだけ…!ずるい!ずるいよう!」

鼻水まで垂らして泣いている。

「おれだって、たまたま一緒になっただけで…やめろ、カスガー!おれを殺す気か!おい、リウヒ!助けろ!」

「落ち着いて、ね?落ち着いて!」

シギの襟首を掴んで、前後左右に振り回したカスガは、ベッドに飛び込んでオイオイと嘆いた。

「大丈夫?」

「マジで殺されるところだった…」

むせるシギの背中をさすってやると、こちらをじっと見る。

「やっぱりそっくりだ」

「なにが」

「お前と王女」

まさか、だって、王女は超美人なんでしょ。それが以外とそうでもなくて、普通の娘だった。そこらにいるような、本当に普通の子だったんだ。最初はおれも、疑っていたけどその子の話を聞いて…。いや、絶対間違いないって。

「でも、なんかほっとけないっていうか、かまってやりたくなるような子だった」

思わずいらっとしてしまった。

「ちっちゃくってさ、男の保護欲をくすぐるみたいな…。あっ!あくまで客観的に見てだぞ!」

リウヒの冷たい目付きにシギが慌てたように言う。

「へーえ」

二人のやり取りを、カスガは布団をかぶってじっと聞いていた。

「じゃあ、確かめないとね」

嬉しそうに言う。リウヒは呆れた。過去に関わるな、ややこしくなるからと言ったのは、この幼馴染ではないか。

「遠くからそっと見るだけならいいだろう」

ため息をついたが、自分も興味はある。己にそっくりな伝説の王女を見てみたい気持ちがむくむくと湧いてきた。

「わたしも行く」

 

翌日。リウヒとカスガは、無理を言って仕事を休み、シギのバイト先に押し掛けた。雨が幸いして、笠を外さずに店内に入る。商品を見る振りをしつつ、王女を観察した。シギが「お前ら、やり過ぎ!」青い顔して、パクパクしていたが、勿論無視した。

シギの反対側に、ちょこなんと座っている少女は、本当に自分そっくりだった。美人でもなかったし、普通の平凡な顔だった。よくいえば、姿勢が正しく品があると言えばあるくらいだった。

今までの、わたしのコンプレックスはなんなんだろう。思わず息を漏らしてしまう。伝説の、絶世の美女と同じ名前で、散々苛められてきた。その王女に言いようのない嫌悪感を抱いてきた。

この子だって普通の子じゃん。笑いたくなる。

カスガは食い入るように見ている。肩を小突いて注意してもなんの反応もなかった。

と、少女が動いて、シギに何か耳打ちをした。

その仕草に、猛烈な嫉妬心が沸いた。やめて。わたしの目の前でそんな、仲良くしないで。

ところが、シギも少女に囁き返して、二人でクツクツと笑う。楽しそうに。

嫉妬心が大きなウロで引っ掻きまわされたようだった。馬鹿。あの馬鹿。

わたしのことを好きだといったくせに。なんでそんな子とそんな楽しそうに。

大したことじゃないのは分かっている。でも、あの馬鹿に平手打ちを喰らわせたいくらい、腸が煮えくりかえった。

「先に帰るね」

小さく言って店を出た。カスガの声が聞こえたが、無視した。雨は激しく降り注いでいる。笠に当たる音がうっとおしくて、勢いよく脱いだ。水滴が髪から顔へ伝い滴り落ちてゆく。裾がぬれて重くなり、足が絡まりそうになった。それでもリウヒは宿を目指して黙々と歩く。

目から涙が溢れて止まらないことにも気付かずに。

****

 

 

「気づけば結構この町にもいたんだねえ。そろそろ次へ行こうか」

カガミがのんびりという。あの橙頭ともお別れかと思うと、無償に悲しくなったが、子供のリウヒに決定権はなかった。

「そうか」

明日からここにはこられないというと、シギはひっそりと笑った。ここの店番は、本当に楽な仕事だった。来た客はたった一組で、不思議な二人連れだった。

「初めての客だな」

こっそりシギに言うと、

「何も買わねえよ」

二人でクスクスと笑った。その言葉通り、売上は皆無だった。

客のうち、一人はさっさと帰ってしまったが、もう一人はなぜかこちらをじっと見つめていた。シギが舌打ちして「お客さーん。駄目だよ、商品を懐にいれようとしちゃあ」といって店の外につまみだし揉めていた。なんだ、ものを盗ろうとしていたのだ。

「もっとシギと、色々話したかったな」

「リウヒは最初、全然はなさなかったじゃねえか」

「それはお前もそうだろう」

それもそうだ、と二人で声をたてて笑う。いつものように、文句を言いながら昼餉を食べて、ダラダラと話しながら店番をして、宿に帰る時刻になった。

「宿まで送って行くよ」

リウヒも何となく離れがたかったので、ありがたく申し出を受けた。男は自分の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。その優しさが嬉しかった。

 

わたしが、これから恋をするならば。

ふと思う。

優しい人がいい。この橙頭の男のように。

そしてわたしを王女と見ない人がいい。横で歩くこの男のように。

宿についた。

「送ってくれてありがとう。またいつか会えるといいな」

「リウヒも、これから大変だろうけど、がんばれよ。めげるんじゃねえぞ」

じゃあな、と手を上げて男は踵を返した。一度も振り返らずに遠ざかって行くその背中を、リウヒは痛いような、切ないような気持ちでいつまでも見送っていた。

 

ある日、ひょっこりシラギがやってきた。自分が王女だとキャラにばれて、てんやわんやになった。そしてキャラを丸めこむカグラの口のうまさに、ああ、これが女たらしだというものかと納得した。

シラギからリンたちの消息を聞いて、安堵の息を吐く。

「無事で良かった…で、お前は何をしに来たんだ」

「お守りするためにございます」

相変らず表情を変えずにいう男にそうか、と返した。

ほっとした。すぐに宮に帰されると思っていた。

 

現金なものだな、わたしは。リウヒは小さく笑う。

幼いころは、トモキの家にどうしても帰りたかった。トモキの家に帰ると、今度は東宮に帰りたくなった。そして、外の世界を旅している今は、宮には帰りたくないと思う。このまま、みんなと一緒にいたい。広く美しいこの世界の中に。

初めて見る風景、果てしなく広がる空。仕事をして、仲間と話して、笑いあうこの場所に。

でも、いつかはあそこに帰らなければならない。宿の窓から見える遠くの宮廷は、未だ修復工事が行われている。

 

夕餉を食べ終わると、いつもの如く、リウヒとキャラは上に追いやられようとした。

「嫌だ」

「いつものけ者にして」

二人して、卓にへばりつくと、カガミが苦笑した。

「そうかい、じゃあ仕方がないねぇ。今日は特別だよ」

おお、いつから物分かりのいいオヤジになったのだ。喜んだ二人だったが、あまりにも難解な話に、すぐに飽いてしまった。シラギとカグラは相槌や質問をしながら、話を聞いているようだが、マイムはつまらなさそうに、ただ酒を飲んでいる。

ちらりとキャラを見ると、赤毛の少女も頷いた。そして眠くなったと言って、上に上がったのだった。

「どうしてトモキさんは見つからなくて、おっさんが来るのよ」

キャラは膨れ顔でブツブツ愚痴っている。それを聞きながら、リウヒは違う事を考えていた。シギは元気だろうか。想い人とうまくいっているのだろうか。

別れてから、まだ数日しか経ってないのに、とても懐かしく感じる。あの人に想われている女はきっと幸せなんだろうな、とうらやましく思った。

 


 
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