No.115045

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #18 麗羽の冒険と夫婦の義務と…温泉!?

四方多撲さん

第18話を投稿です。
今回は容量ギリギリで大変でした……本気で99%以上使ってますww
一行削っては登録を試し、表現を変えて文字数を減らしては登録を試し。ようやく投稿出来ました~^^;
今回のストーリーはほぼ題名通りです。一刀くんの受難というか、自業自得(?)も含まれますw
三悪だ! 悪玉トリオだ! いや、『三バカ』だ!! 蜀END分岐アフター 「やっておしまい!」 「「あらほらさっさー!」」

続きを表示

2009-12-29 00:04:44 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:46840   閲覧ユーザー数:32036

北郷一刀を皇帝とし、大陸の大半を手中とする大国家『大和帝国』が建国された。

こうして一刀と三国の乙女達は、ようやく結ばれたのだった。

 

そして、八月の終わり。第一子である皇太子・董白が無事出産されたのである。

 

月の出産が無事終わり、母子共に健康状態も良好。一先ず胸を撫で下ろした皆々。

一刀が九月の『頂議』の為に、様々な準備・情報収集を行っていた頃。

 

「こ、これは……!?」

 

臣下が忠誠を誓う儀式で、官を捨てる宣言をし、願い通り正室の一人として召し上げられた麗羽は、自室でとある資料を読んでいたが、突然叫びながら立ち上がった。

 

「これこそ、今後の後宮に必要なものですわ……!」

 

この資料は、正室の権力を利用して大陸中から収集した、“とあるモノ”に関して記載された文献を、読み易いよう文官に纏めさせたものである。

そして、麗羽が求める“とあるモノ”とは……神秘の術具や、仙人の秘宝『宝貝(ぱおぺい)』などの情報であった。彼女は、先の三国同盟一周年記念祭において、自称『大陸一の占い師』管輅が見せたという天界を映し出した鏡や、従妹である美羽から聞いた女性に男根を生やす蜂蜜のような、神秘のアイテムに強い関心を抱いていたのだ。

 

かつて、麗羽は自身が万能無敵の人間だと思っていた。

……今でもそこらの馬鹿共より余程の働きを見せることが出来ると信じて疑わないが。

 

(でも……。今のわたくしでは、一刀さんの役に立つことは出来ても……“目立てない”!!)

 

麗羽は何事であれ自分が中心でなければ満足出来ない、ある意味“子供”である。

しかし、一刀や蜀勢との触れ合いの中で、自身に匹敵する(と彼女は思っている)才能の持ち主たちが、世にはこれ程多く存在するのだということを認めるようになった。

 

そして……以前はゴボウ・メンマ・孫の手扱いだった北郷一刀に懸想する自身を自覚してより、彼の中で自分という存在が小さいことに我慢が出来なくなっていった。

何かと言えば騒ぎを起こしていたのは、無意識に彼の気を惹こうとしていた面もあったのだ。勿論、単純に目立ちたがりであることもあるが。

 

時代は変わり、とうとう北郷一刀は皇帝として大陸を治める最高位の人間になることとなった。

配下の官吏として他の者達と同様の活躍をしたところで(彼女は出来ると思っている)、その他大勢の一でしかないのではないか――

 

そう考え至った麗羽が求めた、北郷一刀にとって自身が唯一無二の存在となるための方法。

それが、“この世に二つとない秘宝、術具、宝貝を所持する”存在となることだったのだ。

 

麗羽は正室となるや、すぐさま行動に移した。

正室という権力の“お零れ”にあずかろうという浅薄な官吏を利用し、自身が自由に出来る文官を手に入れた。

また大陸中の地方自治体へも“大帝国の正室が神秘の秘宝の情報を求めている”とこっそりと伝達させた。

地方の官吏は、中枢へのコネクションを得る絶好の機会と、麗羽の狙い通り、わらわらと資料を寄越してきたのだ。

 

この人脈の使い方は、さんざ漢王朝時代にやっていたことであり、彼女にとっては造作もないことだった。

 

こうして集められた文献や秘宝は、当然であるが九割九分九厘が紛い物であった。

秘宝(と言われて献上されたもの)は、時間が掛かると言われたもの(植えると金の実がなる樹木の種とか)は全て偽者と断定。即効性のあるもののみ実験して確かめた(本物は今のところひとつもない)。

山と積まれた文献は、不幸にも“麗羽担当”となってしまった文官がせっせと紐解いては資料として纏めている。

 

そうやって纏めさせた資料を読むのが、麗羽の日課となっていたのだが。

今日、とうとう彼女の直感に引っ掛かるネタが目に入ったのだ。

 

しかし、残念ながら彼女は直属として自由に扱える兵を持たない。

 

(ならば……自身で赴き確認するまで!)

 

「文醜さん、顔良さんに伝言にお行きなさい! 袁本初が最優先で私室へいらっしゃい、と呼んでいると!」

 

侍従である宦官へそう命じる麗羽。

結局、麗羽の独断専行に巻き込まれるのはこの二人であるらしい。

 

「ぬぅぅぅ……」

 

九月一日の夜。

北郷一刀が『大和帝国』皇帝となって、早くも一ヶ月が経過しようとしていた。

月も無事に皇太子を出産したが、今後も出産という大仕事することになるであろう妻たち、そして産まれてくる我が子達の為に、無い知恵を搾って纏めた『医者増員計画』もどうにか頂議で官僚達を説き伏せることに成功し、採択されることとなった。

ところが順風満帆と言ってよい滑り出しをした筈の彼は、一人後宮の東屋で腕を組み、唸っていた。

 

(確かに今の俺には“敵”が多い。それも外ではなく“内の敵”だ。それは分かる……)

 

三国の英雄で占められた『和』王朝の中枢。それは皇帝復権に際し、自分も権力を手に出来ると考えていた、漢王朝時代の“古狸”達にとって、まさしく不満のタネであった。

不満を軽減する為に、上級官吏の『九卿』こそそういった元々の有力者に任じられたが、結局のところ、政治に関与出来るのは、上公や三公、そして実務機関である尚書省だけであったのだ。しかもその尚書省のトップスリーはやはり元三国の英傑によって牛耳られている。

 

(だからってさぁ! “外出禁止”はないと思うんだよ!?)

 

結局、一刀が不満なのはその一点であった。

蜀時代では、暇を見つけては市井へと出掛け、民と触れ合ってきた彼だからこそ。危険だと言われても、外出禁止という扱いは、どうしても我慢ならなかったのである。

 

(民と触れ合わずに、どうやって政治しろってんだよぉ~~……)

 

勿論、完全禁止という訳ではない。完全な護衛体勢を整えた上での“外出”ならば許可も出る。しかし、それでは一刀の考える“民との触れ合い”は不可能だろう。

また、この禁止令を出した愛紗や華琳、蓮華なども、何も今後ずっと禁止する積もりではない。ただ、建国から日の浅い今こそ、この一ヶ月の政に不満を持つ元・有力者が“暗殺”などの強攻策に出る可能性を否定出来ない。まして“傀儡と出来る幼帝”と成り得る皇太子が生まれたばかりである。故に、この“皇帝外出禁止令”は朝廷の内情が安定するまでの暫定的な処置だった。

 

それは一刀も理解しているのだが。ひと月に亘った婚礼も終わり、ようやく政治に参画し始めようというこの時期に、民の様子が窺えないのは、一刀にとって大きなストレスであった。

 

「はぁ~~……ん?」

 

そんな訳で意気消沈気味であった一刀が、ふと後宮の建物を見遣ると。

季衣と流琉が何やら談笑しながら廊下を歩いている。

 

(……そうだな。落ち込んでても仕方ないよな。二人と遊んで、ちょっと気分を和らげよう)

 

「おーい! 季衣、流琉!」

「兄ちゃん!?////」「兄様!?////」

 

声を掛けてきたのが一刀と分かるや、ふたりはだだだっと大きな足音と共に逃げていった。

一刀は二人が逃げ去る際に頬を赤く染めていたことに気付いていなかった為、何が何だか分からない。

 

「……な、何で逃げるの……?」

 

ショックで固まってしまった一刀は、呼びかけの為に右腕を上げた姿勢そのままに机に突っ伏した。

 

(な、なんだ!? 俺、何か二人の機嫌を損ねるようなこと、したか? 少なくとも、二人とも婚礼の時は、ちゃんと……。確かに婚礼以後は、余り会話らしい会話出来てなかったけど……)

 

八月はほぼ毎日が婚礼であった一刀だが、全員と顔を合わせる機会は殆ど無かった。まともな会話は、婚礼を取り仕切る小蓮と儀礼を司る『九卿』である『太常』の官吏、そして婚礼相手としかしていなかったかもしれない。

 

(こ、これはいきなりマズイ事態なのでは……!?)

 

どんどん悪い方向へと思考が遷移していく一刀。こうしては居られぬと、重い腰を上げ、二人を追うことにした。

廊下を早足で歩いていく。途中出合った宦官に、二人の行き先を訪ねつつ、自室に茶の用意を頼んだ。

宦官によると、二人は互いの自室の方向とは別、後宮の更に奥に広がる庭園へと向かったらしい。

 

(とにかく、重要なのは会話することだよな。婚礼を済ませたからって、俺の中に油断というか、“だれた”気持ちがあったのかもしれないし……。お茶でもしながら、ゆっくり話せば……)

 

対話を重視する如何にも一刀らしい思考であったが、それはともかく、彼も庭園へと到着した。

後宮には、中庭以外にもその奥に広大な庭園――所謂『禁苑』――があり、其方には花壇に池、林道など、正室らがゆっくりと過ごすことが出来るようになっており、休憩の為の東屋なども複数設置されている。

 

つまり……端的に言って相当広いということだ。

 

(うーん、どこだ~?)

 

まして夜である。灯りは禁兵(警護兵)が防備の為に焚いている松明が幾つかあるだけ。

しかし、運良く一刀は二つの人影を発見し、すぐに其方へと向かった。

 

「おーい……!」

 

いきなり逃げられたことによる気後れからか、少し小声で遠慮気味に人影へ声を掛ける。

しかし……

 

「「か、一刀様!?////」」

 

人影は、明命と亞莎のものだった。しかも、二人もやはり赤面しながら逃げ去ってしまった。

 

「……………………」

 

周囲の暗さもあって、またも二人の顔色まで把握出来なかった一刀は、ショックの余り、その場に立ち尽くすしかなかったのだった。

 

 

 

次の日の朝。

仕事の為、宮廷の政務室へ向かう一刀だったが、昨晩の出来事がショックで、相当落ち込んでいた。

そんな彼を、軍務に赴こうとしていた紫苑が気付き、話し掛けてきた(臣下は宮中を早足で歩かなければならず、武器を持つことは禁じられていたが、正室は全て許可されている)。

 

「おはようございます、ご主人様。あらあら、酷いお顔ですわよ?」

「あぁ、おはよう、紫苑。そ、そうかな? ちょっと昨日の夜、寝られなくてね……」

「……何か、心配事ですか?」

「……うん、ちょっとね……」

「ならば如何です? 本日のお昼は、後宮の中庭でご一緒致しませんか?」

「そうだな……。紫苑は唯一結婚経験あるもんな。相談に乗って貰おうかな……」

「はい、お任せ下さいな♪(あらあら、そういう相談なのね♪ ご主人様には悪いですけれど、これは楽しそうな予感♪)」

「じゃあ、お昼によろしく」

 

紫苑の心中を知る由も無く、一刀は頼もしげにそうお願いしたのだった。

 

「ちょいと紫苑さん」

「はい、なんでしょう。ご主人様?」

「なんでこんなに人が増えてんの!?」

 

紫苑に相談に乗って貰う為、昼食を共にしたがった桃香や蓮華、風や穏の誘いを断って来たというのに。

何故か後宮の中庭の東屋には、総勢九人もの正室が集まっており、給仕がせっせと昼餉の準備をしていた。

なおその場にいたのは、紫苑を筆頭に、愛紗・翠・桔梗・白蓮・華琳・春蘭・秋蘭・祭である。

 

「その、ご主人様が気落ちされていると紫苑から聞いたもので……」

「う、うん。あたしも気になっちゃって……」

「水臭いぞ、一刀。悩みがあるなら、言ってくれよ。その、私でも、役に立てるかも知れないし……」

 

真っ当に心配してくれていた愛紗、翠、白蓮。

 

「紫苑めが面白いものが見られると言うものですからな」

「うむ。おぬしの青臭~い話を楽しみに……もとい。心配して来たのだ」

「春蘭から、あなたが何やら悩んでいると聞いてね。退屈していたし、丁度いい娯楽になるかしら、とね。ふふっ」

「うむうむ。華琳様に悩みを聞いて戴けるなど、望外の幸せだろう、北郷?」

「(すまんな、北郷。華琳様も政務で忙しく、鬱憤が溜まっておられるのだ……)」

 

残りの面々は半分以上娯楽扱いであった。

 

「ええい、暇じゃない癖に暇人共め……!」

「まあまあご主人様。皆心配しているのも本心なのですから。お食事しながら、ゆっくりとお話を聞かせて下さいな♪」

「……今気付いたけど、紫苑も楽しんでるね……?」

「おほほほ♪」

 

まあ複数の意見が聞けるのも有難いか、と思い直し。食事に手を付けつつ、一刀は昨晩の経緯を話した。

 

『……はぁ(嘆息)』

 

経緯を聞いた、その場の全員(春蘭を除く)の第一声(?)がこれであった。

 

「なんでいきなり溜息なのさ!?」

「……女の機微に疎いとは思っていたけれど……これ程とはね」

「なんじゃい、つまらんのう」

「酒の肴にもならんではないですか、お館様よ」

「ほんとだよ。ご主人様って、さんざん引っ張っておいて、肝心なトコでヤキモキさせられるんだよな……」

「全くです。私も翠に全面的に賛同せざるをえませんよ、ご主人様」

「北郷! 華琳様が退屈されているではないか!」

「姉者、少し黙っておけ」

 

非難囂々な一同に、寧ろ泣きたい一刀であった。半分以上自業自得かも知れないが。

 

「……ご主人様。あの娘たちが逃げたとき、お顔はご覧になりましたか?」

「か、顔? 暗かったからなぁ……殆ど見えなかったよ」

「うふふ、やっぱり。それならば問題ありませんわ。ここはこの紫苑めにお任せ下さいな♪」

「どうするんだ?」

「ご主人様の仰る通り、会話するのが一番。ならばその場を設ければよいのですわ。そう――逃げ様の無い場を」

 

そういって紫苑は妖しくも艶やかに笑ったのだった。

 

 

 

その夜。

後宮の一室、内密な話をする為に作られたという地下室。

 

「し、失礼、します……」

「お呼びでしょうか、祭さ……ま?」

 

その部屋の扉を開け、訪れたのは亞莎と明命。

 

「あれ、亞莎と明命? どうしたの、こんなとこに」

 

そんな二人へ、先に部屋へ訪れていたらしい季衣がそう尋ねてきた。

 

「さ、祭様に呼ばれて……って季衣ちゃん、その手に持ってるものは何なの!?」

「はぅあ!?」

 

季衣はその手に鞭を持っていたのだ。その隣には顔を真っ赤にした流琉もいた。

 

「なんなんだろうね、これ。この部屋、よく分かんない道具が一杯あるんだよー」

「……////」

 

見回してみると、確かに様々な道具が並んでいる。

鞭に始まり、荒縄、蝋燭、目隠し、猿轡、三角木馬に各種拘束具、天井にはナニかを吊るす為の鉤、etc、etc……

 

「……ふ、二人も祭様に呼ばれたのですか?」

「ううん。ボクたちは華琳様に呼ばれたんだけど」

「「「…………」」」

 

季衣以外の三人が顔を見合わせる。三人ともその表情は疑念と恐怖に彩られていた。

これから何が行われるのか……というか何をされるのか。それを想像し、恐慌に陥りかけたその時。

 

「お待たせ、四人とも」

 

部屋に入って来たのは――北郷一刀であった。

 

「ひえっ!?」「兄様!?」「「か、一刀様~~!?」」

 

想像していた、自身を“責める”相手の像が、華琳から一刀に変わるや、季衣以外の三人は途端に赤面。

先日のように逃げようとした四人であるが、この部屋の出入り口はひとつのみ。しかも今は一刀が陣取っている。

 

「はぅはぅはぅあぁぁ~~~!?////」

「ま、まままままさか、一刀様が……これらで……私達を!?////」

「に、兄様! いくらなんでも、いきなりコレは無理ですぅ~~~!////」

「ふみゅぅ……////」

 

「は? みんな何を言って……って、なんじゃこの部屋はぁ~~~~!?」

 

「「「「え?」」」」

「くぅっ、紫苑の奴! 『ごゆっくり♪』ってこういうことかよ! 何考えてんだ!?」

「あのぉ……一刀様?」

「あ、ああ。ごめん、取り乱した。えっと……四人に集まって貰ったのはね、その~。何で昨日は声を掛けたら逃げちゃったのかなーって……。俺、何か気に障ること、しちゃったかな……?」

 

いつになくしゅんとした様子の一刀に、四人はようやく自身らの行動が一刀にどういう印象を与えていたのかに思い至ることが出来た。

 

「(“逃げた”って、季衣ちゃんたちも?)」

「(う、うん。兄ちゃんの顔を見るのが、なんかすっごい恥ずかしくて……)」

「(私達と同じなのです……。じゃあ、一緒に)」

「(……はい。そうですね)」

 

「「……申し訳ございませんでした!」」

「「ごめんなさい!」」

 

「へ?」

 

非は自分にあると思い込んでいた一刀は、四人の謝罪に虚を突かれ、呆けてしまった。

 

「な、なんかね。兄ちゃんの顔を見るのが恥ずかしかったんだよ……」

「その……一刀様にご、ご寵愛戴いてより、より一層ご尊顔を拝するのに勇気が必要になったと申しますか……」

「私も、亞莎と同じなのです……」

「ですから、思わず逃げてしまって……」

「そっか。……そっか! あはははは! 良かった~~!

「「一刀様!?////」」「わあっ、兄ちゃん!?////」「きゃっ、兄様!?////」

 

一刀は嬉しさの余り、四人を掻き抱いて笑った……のだが。

 

「……。……どうもこの部屋だと落ち着かないな……」

「「「(こくり)」」」

「そうなの? ていうか、この部屋って何する部屋なの?」

「さーて! じゃあ俺の部屋でお茶でもしようか!! お菓子も用意するぞ~、季衣! な!?」

「う、うん」

 

季衣の疑問を強引に誤魔化し、不安を吹き飛ばした一刀は四人を連れて部屋を出て行った。

 

(紫苑め……覚えてろよ!? ――でも、ありがとう……)

 

九月の『頂議』において提案した『医者増員計画』が官僚に認められたことで、一刀の政治参画もホットスタートとなった。

 

一刀は今日も慌しく朝廷内の天子(皇帝)の政務室にて、各所へ勅令を出す為の準備をしている。

その政務室に同席し、彼を補助するのは『太傅』にして『中書監』である桃香を初め、『侍中』詠・穏・風・音々音、そして『中書令』蓮華である。

 

『太傅』は本来ならば皇帝(特に幼帝)への訓導が役目だが、基本的に桃香は一刀の補助役である(元々『太傅』は常置しない役職であり、時代によっては単なる名誉職であったりした)。

『侍中』四人は、一刀の質問に対して回答する側近である。ところが、音々音は『飛将軍の軍師』を自任・自称しており、側近に任じられた癖に常に皇帝に侍ることを拒否した。慌てる周囲を抑え、一刀自身が『偶にならいいんじゃない?』と認めた為、音々音は“非常勤側近”という意味不明な立ち位置となったのだった。しかし現在は医者増員の大計画の準備に忙しい為、政務室に詰めさせられている。

『中書監』および『中書令』の二人は、皇帝の秘書としてスケジュール管理等を行う為に同室しているのだが、主にこの役を務めるのは蓮華であった。また、『中書』というのは上奏への返答文や詔令を起草する役でもあり、一部書類を持ち込んでいた(中書用の執務室も別に用意はされているが、二人はなんのかんのと理屈をつけて、秘書として一刀に侍っている訳だ)。

 

という訳で、昼食を挟み、せっせと午前の政務に続いて、勅令文を纏めようとした一同であったが、その前に蓮華が一刀の机へと近付き、話し掛けた。

 

「陛下。午後の政務の前に、中常侍筆頭・孫尚香より陛下へ報告書の提出があるとのことにございます」

「シャオから? 内容については聞いてる、蓮華?」

「申し訳ございません。後宮の諸事について、としか」

 

慇懃かつ謹厳な蓮華の応答に、一刀は少々苦笑い。

まだ一緒に政務するようになって三日ではあるが、蓮華は終始この調子である。勿論、仕事が終わり後宮へと戻れば、柔らかい(『女の子モード』の)彼女に戻るのだが。

 

「……なあ、蓮華。この部屋には俺達しかいないし、そんな堅苦しい喋り方は止めない?」

「公の場において、天子様へ敬語を用いないなど……単なる不敬者にございます」

 

畏まられることに幾分苦手意識のある一刀の提案をにべも無く断る蓮華に、周囲も苦笑気味だった。

 

「あはは……ご主人様は堅苦しいの苦手だもんねぇ……」

「……その理屈出されると、ボクすっごいやり辛いんだけど……こいつに敬語とか……」

「ねねもなのです……」

「揃いも揃って! 蜀でどうだったかは知らぬが、ここは帝国皇帝を中心に政を司る場……宮廷なのだ! 如何に正室たる我々とて、臣として仕える以上は畏敬を以って接するのが道理というものだろう!」

「まぁまぁ蓮華様~。そう興奮なさらずに」

「すぅ……ぐぅ……」

 

旧蜀勢の態度に言葉を荒らげた蓮華を、穏が抑える。

残る風は、周囲がどれ程騒がしくともいつも通りのマイペースのご様子。

 

「……失礼した。だが、私の言うことは正しい筈だ」

「『王様モード』の蓮華ちゃんはちょっと怖いよぉ……」

「そういう話をしているのでもない!」

「ご、ごめんなさぁ~い!」

 

頭を抱えて縮こまる桃香。

正確に言えば、桃香の方が蓮華よりも官品は上なのだが。桃香はそういったことを感じさせない雰囲気と魅力(?)を放つ女性ゆえに、どうも蓮華も敬語を使うのを忘れ易いようだった(特にツッコミでは)。

 

(うーん、蓮華の言うことは尤もなんだけど……正直、仕事し辛いんだよなぁ。リラックス出来ないし。よーし……)

 

一刀は椅子から立ち上がり、蓮華の側へと寄って唐突に彼女の両手を取り、自身の両手で互いの胸の前で包み込むように握った。

 

「か、かず――陛下!?」

「立場の上下はあっても、俺達は『仲間』だ。だから俺は“形式だけの主君”で構わないんだ。

 みんなだって、畏まった場では蓮華の言う通り、相応の態度を取るよ。勿論、俺もね。

 だから……そんなに肩に力を入れないで、ね?」

「一刀……」

 

至近の真正面から囁かれる言葉に蓮華の全身から力が抜けていく。

一刀は言葉を続ける。

 

「今が公私のどっちだって言われたら、当然“公”だけどさ。仕事をするにしたって、『仲間』の結束は重要だよ。

 主と従が余りに乖離すると、互いに本音が見えてこないんだ。だから敬語とか態度とか、形式に拘りたくない。

 その辺は個人個人に任せるようにしようよ」

「……で、でも……」

「『皇帝である俺が言ったから正しい』なんてことは絶対に有り得ない。皇帝、天子、天の御遣い。どう言われたって、結局俺は只の人間だ。必ず間違う。その時――みんなには間違いを指摘して貰わなくちゃ。その為にも、さ」

 

そう言って、一刀はゆっくりと腕を蓮華の腰に回して抱き、自分の頬を彼女の頭に軽く当てた。

 

「……もう。仕方のない人……////」

 

一刀の説得(?)に、顔を赤らめつつ。蓮華はそう呟いた。

 

「(蓮華様ったら、かなり強引に丸め込まれちゃいましたねぇ。くすくす♪)」

「(でもあの理屈は、如何にもご主人様らしいと思うな♪)」

「(だからって、何で手を握ったり腰に手を回す必要があるのよ!?)」

「(全く、お兄さんのタラシっぷりには感服するばかりですねー)」

「(ねねは、へぼ太守……じゃなかった、へぼ皇帝に敬語やらを使わずに済むなら、もうどうでもよくなってきたのです……#)」

「(そんなこと言って、拗ねちゃうなんて。ねねちゃん可愛い~♪)」

「(桃香の平和的前向き思考には、毎度毎度ほとほと呆れるのです!////)」

 

一刀の机の前、ということはほぼ部屋の中央奥であり。そこでイチャイチャしだした二人に、残りのメンバーは小声で雑談中。

とは言え、すっかり『女の子モード』になってしまった蓮華はともかく、雑談の内容は一刀の耳にしっかり届いており、彼も誤魔化し笑いをしながら蓮華から離れようとした。が……

 

「ちょっと! 一刀、お姉ちゃん! どーして政務室で抱き合ってるの!?」

 

と大声を上げて入室して来たのは小蓮であった。

 

「あ、あはは……(ちょっと行動を起こすのが遅かったか……)」

「ひゃぅ!? い、いや、これは……」

 

飛び跳ねるようにして一刀から距離を取った蓮華は、あわあわと小蓮へ言い訳を試みるが、そんな状態でぱっと言い訳が口から出て来る程、彼女は器用ではない。まして相手は自身をよく知る実妹の小蓮である。

 

「お姉ちゃんって、いつもは堅苦しい癖に! ちょっと甘い言葉を掛けられると、すぐ懐柔されちゃうんだから!」

「うっ……」

「一刀も! お姉ちゃんが流され易いの分かってて、口説くのは駄目だよ! 仕事中に口説いていいのは、後宮で中常侍のシャオといるときだけなんだからね!」

「ど、どんな理屈ですか、小蓮さん」

「(キッ!)」

「ゴ、ゴメンナサイ……」

 

他のメンバーは、そんな三人の様子を見たまま雑談を続行中。

 

「(あらあらあら。一瞬で修羅場ですねぇ♪)」

「(ふん! 自業自得よ!!)」

「(今回ばかりは詠に同意するのです!)」

「(お二人もまた飽きもせず、同じような反応ですねー)」

「(ケンカ売ってんの、風!?)」

「(怒らないで、詠ちゃん。ねねちゃんも。ご主人様が他の女の子を口説いてたら、誰だって機嫌も悪くなるもんね?)」

「「(機嫌悪くなんてない!)」」

「「「(…………)」」」

 

こちらはこちらで最早テンプレと化した遣り取りであったが。

 

「失礼致します」

 

そこへ更に入室して来たのは思春だった。

彼女は蓮華の側近護衛――宮廷を守る禁兵とは命令系統が違う、皇帝直属という特殊な立ち位置に設置された『親衛隊』の一人として、皇帝の政務室の外で待機していたのだ。

 

なお彼女以外で『親衛隊』に配されたのは、魏で同様の役職による実績を持つ流琉と、その相棒である季衣、そしてその隠密性を評価された明命であった。

しかし、蓮華が秘書として皇帝・一刀に侍ることが多いことから、思春が皇帝とその側近周辺を。落ち着きのある流琉が『丞相』華琳を初めとした『司徒』朱里を含む、内政を司る上級官僚らを。将軍でもある季衣が『大将軍』愛紗や『大司馬』雪蓮、『太尉』冥琳らの軍部上層部を。そして工作・隠密の達人である明命が全体のフォロー役となって、帝国中枢の官僚と一部武官を(主に暗殺などから)守護していた。

 

さておき。

 

「…………」

 

思春は政務室内を睥睨し。

この混沌とした状況の原因が一刀であると判断するや、いきなり抜刀し愛刀『鈴音』を振り上げた。

 

「少しは皇帝らしく出来んのか、貴様は……!」

「殿中でござる、殿中でござる~~~!?」

 

斬られかけている皇帝本人がそれを言ってどうするという話はともかく。

一刀は慌てて振り上げられた思春の腕を両手で押さえた。見ようによっては縋り付いている様に見えなくも無い。

 

「情けない姿なのです……」

「うふっ♪ 旦那様ったら必死ですねぇ」

「そりゃ必死にもなるでしょ……。というか……あんた、『旦那様』なんて呼んでるの……?」

「ええ。おかしいですか?」

「……は、恥ずかしくない?」

「そんなこと言ったら、旧蜀勢の方々はみなさん『ご主人様』とお呼びしているじゃありませんか~」

「ボクは呼んでないわよ……」

「ねねもです!」

「とか言って~。閨事では呼んだりしてるんじゃないんですかぁ~?(にやにや)」

「ち、ちちち違うわよ!」

「……詠。その反応は……まさか!?」

「うっさいわね! 違うっつってんでしょ!?////」

 

音々音にまで詰め寄られ、いよいよ追い詰められた詠をフォローしようとした訳でもなかろうが。

 

「お兄さんの修羅場拝見も面白いですが、そろそろ話を進めませんかー?」

「あはっ、そうだね。思春ちゃんも武器を収めて。小蓮ちゃんも、その話はまた夜にね。今はお仕事のお話を優先しよ?」

 

風が突如全員へと話を促し、桃香がそれに乗る形で纏めに掛かった。

 

風と桃香の取り成しで、ようやく政務室に平穏が戻る。

小蓮は改めて手にしていた書状を一刀の机に置いた。

 

「一刀、夜伽の日取りがやっと決まったから確認してね♪」

「はい!?」

「もー、大変だったんだから! 今晩は労って欲しいな~?」

「小蓮! 仕事が大変なのは当たり前だ! そんな理由で……」

「お姉ちゃんには聞いてませーん」

「――っ#」

「蓮華様、気をお静め下さい。そのままでは小蓮様の思う壺です」

「分かっている……分かっているのよ、思春……#」

 

(シャオは蓮華のペースを乱す天才だなぁ……ってそんな話はどうでもいいんだ)

 

一刀は書状を指差し、小蓮へ疑念を返す。

 

「いやいやいや……夜伽の日取りって、どゆこと?」

「だって正室が三十八人もいるんだもん。“当番制”にして管理しないと不公平でしょ?」

「た、確かにそれはそうかも、だけど……」

 

困惑しつつも書状を開いて読み出した一刀は、思わず叫んでいた。

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

一刀のリアクションに、側近達も席を立ち、椅子に座っている一刀の後ろや横から、夜伽の日取りが書いてあると言う書状を覗き込む。

 

 

九月 三日 桃香、愛紗、鈴々、星、華琳、春蘭、秋蘭、雪蓮、冥琳

九月 四日 朱里、雛里、月、詠、紫苑、桔梗、蓮華、小蓮、祭、思春

九月 五日 翠、蒲公英、焔耶、霞、凪、沙和、真桜、穏、亞莎、明命

九月 六日 恋、音々音、白蓮、麗羽、猪々子、斗詩、季衣、流琉、風

九月 七日 休み

九月 八日 桃香、焔耶、麗羽、白蓮、桔梗、華琳、霞、凪、雪蓮、蓮華

九月 九日 愛紗、翠、月、詠、恋、音々音、春蘭、季衣、小蓮

九月 十日 鈴々、朱里、雛里、紫苑、秋蘭、流琉、風、冥琳、穏、亞莎

九月十一日 星、蒲公英、猪々子、斗詩、沙和、真桜、祭、明命、思春

九月十二日 休み

 

 

「とりあえず二巡り分だけね。基本は官位順で、誰某(だれそれ)と一緒がいいとか、みんなの要望も結構満たしてて、我ながら上出来だと思う!」

 

胸の前で両手を握り締めて力説する小蓮。

一日に九~十人ずつで四日連続。一日休日があって……というスケジュールに、一刀が叫ぶように突っ込む。

 

「そう言うことではなく! シャオは俺を乾涸びさせる積もりか!? 特に明日! 紫苑と桔梗と祭が一緒って!?」

「年長者の三人から技術を盗んで、一刀を満足させてあげられるようになるからね♪ これも后のつ・と・め♪」

「だからぁ~! そう言うこと以前の問題だろぉ!?」

 

半分涙目で小蓮へ訴える一刀だが、小蓮は両頬に掌を当てトリップ中。全く話を聞いていない。

 

「ご主人様、大丈夫なのかなぁ、コレ……?」

「……コレは明らかに無理なんじゃないの? 途中で死ぬわよ。腹上死なんてコイツらしいけどさ……」

「こ、これは……物凄いのです……。恋殿と一緒なのは、確かに希望通りなのですが……」

「私は男というものを良く知らないのだけど……それにしても無理があると思うわ。……あ、私は最初、思春と同じ日なのね」

「蓮華様。私は必ず、絶対に、断固拒否しますので、人数に入れぬようお願い致します(しかし……幾ら何でも一日の人数が多いのでは……? 北郷め、蓮華様を満足させられぬような事態にならんだろうな!?)」

「そ、そう。思春がそう言うなら仕方ないわね(本当に私の護衛の為だけに正室になったのかしら……?)」

「ふぅむ……」

「……ふむふむ」

 

その場の誰もが、小蓮作成の日取りを見て驚き呆れていたが、風と穏はじっくりと書類に目を通している。

そして、飛び出した驚愕の一言。

 

「これは見事な出来の日取りですねぇ♪」

「の、穏!? 無理だよ、こんな日程!」

 

穏へと勢い良く突っ込んだ一刀だったが。

 

「――お兄さん。これはある意味、自業自得かも知れませんよ?」

 

追い打ちのように放たれた風の一言によって、その勢いを失った。

 

「ど、どう言うこと?」

「旦那様。蜀では、関係のあった方々は恋人あるいは愛人であって、“妻”ではありませんでしたね?」

「浮気っぽいのは認めるけど、みんな本気だったよ!」

「そう言う問題ではないのですよぉ。古来より、夫婦においてはこのような慣例がございますぅ……」

 

穏は一拍置き。

 

「まずひとつ。『夫婦の情交とは祖先を敬う神聖なる儀式である。それ故“秘め事”とする』」

 

これは儒教という道徳観念より派生したと考えられる慣習である。

儒教における最大の道徳とは、先祖から自身、そして子孫へと血脈と家を受け継いでいくことであり、その為に長幼の序列を重んじ、秩序を構築し維持していくこと。即ちこれ『孝』である。

それ故、古代中国においては、子孫を残す行為である夫婦の情交もまた神聖視されていたと謂われる。

 

「ふたつ。『夫婦の秘め事において、妻は夫を導き、夫は妻を性的に満足させる義務を負う』」

「そ、それは頑張ってると思うけど……」

『////』

 

一刀が周囲の妻達を見遣ると、皆揃って赤面して俯いたり、視線を逸らしたり。

思春以外の誰もが先月(旧蜀勢にとってはそれ以前も)の彼との行為を思い出して、挙動不審気味であった。

少なくとも、閨事における技術に関しては、北郷一刀が超絶的巧者であることは確かだった。

 

「うふっ、そうですねぇ♪ 旦那様は穏も十分満足させて下さいましたね~♪」

「つ、続き! 続きをお願いします、穏先生!」

 

薮蛇の気配を察した一刀が、続きを促す。

 

「おっと。そして最後、みっつ。『夫には五日に一度、妻との交わりが義務づけられる。但し妻が拒否した場合はこれに限らない。七十歳になると初めてその義務から解放され、夫婦は同じ箪笥に衣類をしまうことが出来るとする』」

「は、はぁ!? 五日に一度を七十歳まで!?」

 

一刀はざざーっと血の気が引いていく音が聞こえた気がした。

 

「そうですねー、お兄さん。こんな話があるのですよ?」

「ふ、風?」

「『街の東に若くて元気な、恰幅のいい男あり、その妻たちは朝から晩までいがみ合い、彼の言葉に耳をかさない。

 街の西に腰を曲げて歩く半白の髭の老人あり、妻たちは最善を尽くして素直に彼に仕える。

 これは何故か? その答えは、後者は房内術の微妙な極意を得ており、前者にはそれがないということである』」

「…………」

「お兄さんは、風たちを皆“正室”として迎えてくれました。そして、序列を付けることを拒否し、誰にも真剣で、疎かにすることがありません。それ自体はとても嬉しく思うのです。しかし……」

「旦那様、風ちゃんの言う通りなのですよ~。全員を正室としたことで、今、穏が申し上げたことが“義務”として発生してしまったのです。故に――小蓮様が作成されたこの夜伽の日取りはその理念に沿っており、かつ旦那様の休暇も設定されていて、とても良い出来である、と申したのですぅ」

「…………………」

 

穏と風の道徳理念に裏打ちされた理論と意見に、ぐうの音も出ない一刀であった。

 

(一晩で十人、五日のうち四日相手にし続け、それを約五十年続ける……?)

 

死刑宣告でもされたような一刀の表情に、表情を緩めた穏が声を掛けた。

 

「旦那様~。そこで良い方法をお教え致しましょう~♪」

「ほ、ほんと!? ぜ、是非ご教授お願いします、穏先生!」

 

藁にも縋る思いで、穏に頭を下げる一刀。

そんな夫の様子に、穏は笑っていたが、その他の面々は苦笑いである。

ともかく、穏は言葉を続けた。

 

「一夫多妻が基本である中華では、古来より『留保性交』が推奨されて来たのですぅ。旦那様もこれを習得すれば、たとえ一夜の相手が十人だろうと乗り切れるでしょう~♪」

「りゅうほ……?」

「留めて保つ、と書くのですよ。お兄さん」

「……それってつまり……」

「はい~♪ 『留保性交』とは性交において男性が射精せずに精力を蓄える方法ですぅ。“女性の陰は無尽蔵にあるが、男性の陽は限られている”という考えに拠って開発された先人の知恵と言えましょう~♪」

「……(む、難しいことをさらっと言ってくれるなぁ……)」

 

自身の掌を合わせて誇らしげに答える穏だが、異論を挟んだ娘が一人。

 

「え~、シャオはやっぱり“出して”欲しいなー。早く赤ちゃん授かりたいし~、そっちの方が気持ちい――」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ! 小蓮ーー!! はしたない物言いを止めなさーーーーい!!!!」

「も~、お姉ちゃんうるさーい。自分だって同じように考えてる癖に!」

「そ、そんなことは……!////」

 

姉妹喧嘩が再勃発した隣で、桃香が難しい顔をしていた。

 

「でも……小蓮ちゃんの言うことも尤もだと思うんだ。でも、それが原因で喧嘩とかになったら嫌だし……」

「(そりゃ、どっちが良いって言われたら……いやいやいや! ボクは何を考えて……!)」

「(……いつになったら、この淫猥な会話から逃げられるのですか……。助けて下され~、恋殿ぉ~……)」

「ふぅむ、そうですねー。桃香ちゃんが感じていることは至極当然。となると……夜伽の日取りに“子種を授かる権利”も当番に追加して貰うしかありませんねー」

『ええっ!?』

「う~ん、まあ妥当な線じゃないかなー。そもそも“夜伽の当番制”は正室間に不公平がないように作られたものですし。小蓮様には、また考え直して貰うしかありませんけど」

「うぅ~、やっと出来たと思ったのに……。うん、でもやっぱり“不公平”は一刀が一番望まないことだもんね。シャオ頑張る!」

「おぉー。小蓮様、いい女ですねー♪」

「ふふーん、シャオ様にお・ま・か・せ♪ じゃ、早速作り直してくるね~♪」

「あ、ああ。よ……よろ、し、く……」

 

シャオは書類を掴み、勢い良く政務室を飛び出して行った。

 

(こ、こうなったら一日も早く『留保性交』とやらを身に付けないと……。二巡目には乾涸びちまう!)

 

……一巡出来ると考えている辺り、彼の絶倫振りが窺える。

 

「じゃ、じゃあ仕事を再開しようか……?」

 

そう皆を促しつつも、暫くは夜が来るのが怖くなりそうだ、と一刀は感じていたが。

 

(みんなを……“全員を正室にする”と言ったのは俺なんだ。責任は取らなきゃな。それに、道徳だ義務だなんて関係ないよな。俺がみんなを愛しているのに変わりはないんだ。――やってやろうじゃないか!!)

 

一刀は覚悟完了し、変な方向に燃え上がっていた。

 

 

 

その日のうちに小蓮が修正案を上奏してきた。

それによって決められた後宮での夜伽に関するルールは以下の通りとなった。

 

ひとつ。基本的な順序は、中常侍の提示した日取りを遵守すること。但し、各人の交渉により入れ替え等は、中常侍筆頭の認可を以って許可するものとする。

ひとつ。妻には拒否の権利がある。これはたとえ皇帝の命令によっても覆されることは無い。

ひとつ。交わりにおいては、当番の全員を纏めてでも、何人かずつ小分けにしてもよい。詳細は、その日の当番たる妻同士で決定すること。但し順番等で紛糾した場合、中常侍が決定するものとする。

ひとつ。場所は基本的に閨房(一刀の寝室とは別の伽専用の部屋)とするが、各人の私室を用いてもよい。

ひとつ。天子の“子種を授かる権利”については、中常侍の定めた人選に従うこと。問題が起きた場合、夫及び妻同士で判断せず、必ず中常侍に判断を委ねること。

ひとつ。正室でない者を伽に参加させる場合、前日までに中常侍へ報告し、許可を得ること。また、閨を同じくする者全員の認可を得ること。

ひとつ。女性同士の同性愛について、互いの同意を以って交わるに限り、中常侍はこれに関与しない。但し、男性同士の同性愛については、中常侍筆頭の許可を得ること。

ひとつ。日取りなどに関し、要望がある場合は中常侍に依頼すること。最終決定権は中常侍筆頭にあるものとする。

 

文中の“中常侍筆頭”とは、言わずもがな小蓮のことである。

 

なお、女性同士の同性愛について寛容であるのは、女性の精は限りないと思われていた為、女性同士の愛情は肯定され、寧ろ気分転換の意味合いで奨励されもしたという時代背景が根拠となっている。

しかし、男性の精力の無駄遣いである男性同性愛は、禁じられないまでも(儒教的に)反社会的なものと見なされた為、中常侍筆頭の許可を得ることを条件とした(実際、古代中国でも男性同士の同性愛は存在し、逸話も残されている)。

 

呉国においてはワガママ姫として有名な小蓮であったが、後宮の諸問題に関しては意外にも(?)公平な判断を下し、正室らから大きな信頼を得ることになる。

 

「――でも、一番はシャオなんだからね♪」

 

というお決まりの台詞と共に。

 

「麗羽様~、ほんとにそんなものがあるんですかー?」

「勿論ですわ! わたくしの勘を信じなさい! おーっほっほっほっほ!!」

 

猪々子が主にそう尋ね、自信満々に答える麗羽。

 

((根拠は“勘”!?))

 

麗羽の答えにうんざりとする猪々子と斗詩である。

 

 

今、三人は泰山の麓へと訪れていた。

麗羽たちの目的は二つ。

ひとつは、泰山の山頂近くに生えているという、霊験灼(あら)たかな竹『妄想竹』。この竹から作られた道具は、持つ者の意思などに応じて、様々な霊妙(硬化・軟化・伸縮自在など)を発現するという。

もうひとつは、やはり山頂の泉に沈んでいるという『湧泉真玉』。地面に埋めると、その場に様々な効能を持つ泉が湧くという。

 

特に麗羽は、後者の『湧泉真玉』を強く求めていた。

何故なら、湧いた泉には悪阻(つわり)の抑制、産後の肥立ちの補助、また文献には産湯として使われたとあり、飲んだり浸かることで、生命力を増幅させる効能があると謂われていた為だった。

 

泰山は、そこまで高い山ではない。ものの数時間で頂上まで登れるだろう。

……道に迷いさえしなければ。

 

 

「で、文醜さん。今どの辺りなんですの?」

「…………」

「……文ちゃん? まさか……」

「え、えへへ……」

「ま、迷ったんですの!?」

「すんませーん!」

 

三人は、馬を下りて登山の途中だったのだが。

現代には参道やロープウェイが作られ、参拝も楽になる泰山であるが、勿論この時代にはまだ道などない。一部の道教関係者が歩いた、獣道のような跡があるだけだ。

そんな道を猪々子先導で歩いたこと自体が無謀だったと言えよう。

 

「――――」

 

しかし。

 

「ん? なぁ、斗詩。今……金属が擦れる音がしなかったか?」

「ええ? 気付かなかったけど……」

 

猪々子に言われ、耳を澄ませた斗詩は、確かに金属音を複数聞き取った。

 

「……うん。鎧の金属が擦れる音、だね……。少なくとも武装した“部隊”がいるよ」

「やっぱ結構な人数が隠れてるな。こんなとこで何してやがんだ?」

「ま、まさか! わたくしの宝を先に奪おうとする輩ですの!?」

「いやー、それはないんじゃないっすかね」

「そうですよぉ。一旦鎧を脱いで、私が様子を見に行きましょうか?」

「なにをこそこそと! 秘宝はわたくしのモノですわ! 文醜さん、顔良さん、やぁぁっておしまいなさい!!」

「さっすが姫! その命令、待ってました!」

「ええーー!? ちょっと二人ともぉ~~!」

「往くぜ、斗詩!」

「ああ~~ん! 待ってよぉ、文ちゃ~ん!」

 

猪突猛進の申し子、猪々子が抜刀して音のする方向へ突進。

口で止まらない相棒の背後を守るように、斗詩も大槌を構えながら後に続く。

 

相手も猪々子の存在に気付いたらしく、途端に周囲が慌しくなった。人の声も聞こえてくる。

猪々子は、武装した一団を発見するや、そちらへ突進する。

 

「――遅えってんだ!」

 

猪々子の先制の一撃。殺さないよう、大剣『斬山刀』の“平”で一気に数人を打ち払う。

まるで暴風のように暴れまわる猪々子。

 

「文ちゃん、無茶しちゃ駄目だよ! 相手の目的も分かってないのに~~!?」

 

そう言いつつも、しっかりと猪々子の背後を守る斗詩。

そこへ現れたのは――

 

「此方の接近に気付くとは、大したものだ。我が名は葉雄! 賊徒めが、我が武勇を冥土の土産にするがいい!!」

 

流浪の武将、葉雄であった。

 

「……華雄?」

「ええい! 私をその名で呼ぶな!」

「戦っちゃ駄目よ、文ちゃん! 華雄さんは記憶を失ったってご主人様が言ってたでしょ!」

「あー、そういやアニキがそんなこと言ってたっけ。えっと、葉雄?」

「さっきまでの威勢はどうした! 我が戦斧が怖くなったか!?」

「……斗詩、アレ、ぶん殴ってきて、いいよな!?#」

「ああ~ん、駄目ぇ~~! 葉雄さんも、ちょっと待って下さい~~!」

 

「……あなた達は何をやってるんですの?」

 

混沌とし始めた戦場(?)に、暢気な麗羽の台詞が響いた。

 

(元はと言えば、麗羽様が“やってしまえ”なんて言ったせいなのにぃ~……)

 

 

斗詩の必死の説明で、ようやく葉雄も武器を収めた。

 

「そうか、北郷様の配下であられたか。失礼した。私は傭兵団を率いる葉雄と申す」

「いえ、此方こそいきなり攻撃してしまって、ごめんなさい。こんな山中なので、てっきり盗賊か何かと」

 

麗羽や猪々子が話に加わると、ちっとも会話が先に進まない為、葉雄と斗詩で状況を確認中である。

 

「私達は、ここ泰山にあるという秘宝を探して探索中だったんです。葉雄さんは、どうして此方へ? ご主人様から伺ったお話では、五胡の国々を廻ると……」

「うむ。そうなのだが……」

 

葉雄が語るには、彼女が率いる傭兵団はまず鮮卑に向かった。何故なら第三次五胡戦争を勃発させた主導国は鮮卑であったからである。

葉雄は何故鮮卑の大人(鮮卑の部族長)が明らかに国力に劣るにも関わらず戦争を決意したのか。そして、どうやって周辺諸国(他の五胡や南方異民族)と連携・連絡をとったのか。それらを調べる心積もりであった。

 

情報収集を続けるうちに浮かび上がってきたのは、『于吉』と言う名の道士。

どのような術なのか、彼は僅か一晩で数十万の騎兵を鮮卑の大人に与えたという。また、映したものを対となる鏡の下へと一瞬で移動させる霊妙なる鏡をも与えられたことを聞き、ようやっと彼女は第三次五胡戦争の裏側に辿り着いたのだった。

そして、彼の周りには時折白い道士服の集団が現れていたこと、于吉が泰山から来たと言っていたことを鮮卑の官吏から聞き出した葉雄は、その本拠地を突き止めようと、此処までやって来たのだ。

 

「私の配下が収集した情報によると、山頂に建築物があるとのことだ」

「道士……ということは、私達の目的にも関連があるのかも知れません」

「どういうことだ?」

「私達が欲する秘宝というのは、神秘の力……と言えば聞こえが良いですが。胡散臭い、妖しげなものです。霊山と名高い泰山なら、と考えていましたが。仙人を目指すという道士の本拠地があるというなら、その信憑性も増します」

「成る程……」

「それに、先ほど数人怪我をさせてしまいましたし。どうか、我等も同行させて戴けませんか?」

「お二方のような武士(もののふ)、しかも北郷様のご配下である方々が力を貸して下さるというのに、否などありませぬとも。……文醜殿と刃を交え損ねたのは残念でありますがな」

 

斗詩の提案に、葉雄はにやりと笑ってそう答えた。斗詩としても三人は既に迷子の身であった訳で、願ったり叶ったりであった。

 

一行は山頂にあるという建築物を目指し進む。ところが……

 

「……駄目だ。やはり元の位置に戻ってしまっている……」

 

どれ程登っても山頂は見えてこず、葉雄の部下が情報収集した地形ともいつしか狂いが出ていた。

そこで、道途中の木々や岩に傷をつけ、目印にして進んだのだが。

一行は、いつの間にか元の位置へと戻されていたのだ。

 

「……道士の術の類、でしょうか?」

「恐らくは。くっ、流石に術に対抗する手段はないぞ……」

「葉雄の兵にも疲れが見えるぜ。ちっと休憩した方がいいんじゃね?」

「……あと一刻(二時間)もすれば日も落ちるな……どうしたものか」

 

と悩む三人であったが。

 

「あーもう! いつになったら山頂に着くんですの!? 全く、あなた方に任せていたら日が落ちる前に山頂に着かないではありませんの! こうなったらわたくしについてらっしゃい!!」

 

とうとう癇癪を起こした麗羽が、単独で進み始めた。しかも全く山頂の方向と違う。

 

「ちょっ! 待って下さいよ、麗羽様!」

「そうですよぉ! 今は葉雄さんと協力してる立場なんですからぁ!」

 

(アレの側近とは……苦労しているようだな、顔良殿も文醜殿も)

 

かつては味方から頭痛のタネのひとつとして話題に上がった葉雄(華雄)であったが。

既にその頃の記憶はなく。一刀との触れ合いによって『守る強さ』を得た葉雄は、客観的にそう判断していた。

 

「あなた方に任せた結果がこれでしょう! わたくしの強運をお信じなさい! おーっほっほっ……ほ?」

 

岩の上で、いつもの高笑いをしていた麗羽は、足を滑らせ、その裏へと転がり落ちていく。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

「「麗羽様ッ!?」」

「袁紹殿!」

 

どすん、という音と共に地面に落ちた麗羽。

 

「あいたたたた……」

「大丈夫ですか、麗羽様!?」

「え、ええ。お尻を打っただけですわ……。いたたた……」

「よ、良かったぁ……。あれ? 姫、その手に持ってるの、何ですか?」

「あら、木の枝ですわね。ああ、落ちるときに咄嗟に掴(つか)まったのでしょう」

「いや、その枝の先……」

 

麗羽に握られた、折れた木の枝の先。そこには何かの紙の切れ端がくっ付いていた。

そして、ひらひらと落ちてくる引き裂かれた紙片。

 

「……何か、不思議な文字や文様が描かれているようだな……もしや……」

「……そう、ですね。これ、“結界”のお札、なのかも……」

「そうだとしたら、今度こそ山頂に行けるのか?」

「「「…………」」」

 

「もう、とんだ目に遭いましたわ! さあ、気を取り直して、先に進みますわよ! ……で、山頂はどちらですの?」

 

 

もう一度地形を確認した上で進んだ一行は、見事山頂の建築物を発見。現在は偵察兵が斥候に出ている。

 

「……全く、袁紹殿の強運は驚愕という他ないな」

「おーっほっほっほっほ! 当然ですわ!!」

「ひ、姫! 静かにして下さい! 敵地の目の前なんですから!」

 

やはり、あの紙片は山頂を目指すものを惑わす結界の礎であったらしい。

大岩に貼り付けられていた呪符が、岩から転落した際に麗羽の掴んだ木の枝で擦られて千切れ、結界が壊れたのだ。

その強運っぷりに、感服というより呆れる葉雄であった。

 

「報告! 建築物および周辺に人の気配無し!」

「そうか。ご苦労」

「はっ!」

「……だそうだ。往くとしよう」

「ちぇっ、なーんだ。誰もいないのかー。暴れられると思ったのにな~」

「くくっ、文醜殿は私と気が合いそうだな。私も全く同じように考えていたところだ」

「おっ、そうかそうか! そうだよなぁ、あたいの知ってる“あんた”はそういう奴だったぜ? なーんか大人しいと思ってたけど、猫でも被ってたってか?」

「はっはっは! 我が武を誇ることには些かの迷いもないが、私は部下の命を預かる身。何かを“守る”というのは、敵を撃破すればいいという訳ではないらしくてな。……これもあの方を、延いては大陸の民を守る為。多少の我慢を覚えたというだけだ」

 

どこか遠い瞳で誇らしげに語る葉雄。そしてそのまま建築物へと歩み出す。

猪々子と斗詩には、その目の先に映る“男性の影”がはっきりと見えていた。

 

(なーんだ、結局コイツもアニキに諭されちゃったクチか。正に同類って訳だ。へへへっ)

(私の知ってる華雄将軍とは全然違う……。記憶喪失ってこともあるんだろうけど。ほんと、ご主人様の影響って凄いなぁ)

 

「猪々子、斗詩! 何をしてますの! 連中に遅れを取るんじゃありませんことよ!」

「へーい」「はーい」

 

誇らしいような、呆れるような。感情入り混じって結局苦笑いのような面持ちで二人も麗羽に追随した。

 

 

 

霊廟のようなその建物には、結局人どころか動物含めて全く動くものの気配がなかった。

葉雄の親衛隊――傭兵達は、周囲の警戒と探索を行っている。

葉雄、麗羽、猪々子、斗詩の四人は、建物の奥へ奥へと進んだ。

行き止まりは、まるで謁見の間のような大広間。謁見の間であれば玉座に当たる場所には、何かを置く為の台座だけが設置されており、特にこれといったものは見当たらなかった。

 

「……既に引き払われた後、か……」

「この台座、何を置く為のものなのかな……」

「んー? 結構薄っぺらいもんを挟む感じだな。銅鑼とか?」

「――鏡、かもしれん」

「鏡ですか?」

「ああ。于吉なる道士は、鮮卑の大人に霊妙な鏡を与えたという。もしかしたら、その類のものかもしれん。まあそれが分かったところで大した情報にはならんか……」

「そうですね……」

 

多少の失望感を伴って、語る葉雄。

 

(出来るなら、あの方の怨敵の拠点を潰してしまいたかったのだがな……)

 

葉雄がそう考えていることを察していた二人も、沈黙したまま。

 

「……結局、何もないじゃありませんの! わたくしの目的を忘れてませんでしょうね? 文醜さん、顔良さん!」

「「あー」」

「“あー”って何ですの、“あー”って!」

「まあまあ麗羽様。とりあえず此処なら雨露を凌げますし。一晩休んで、明日は周辺を調査してみましょうよ」

「……そうですわね。傭兵たちもへばっているようですし。ここは顔良さんの顔を立てましょう」

 

ナチュラルに明日の捜索にも傭兵を使う気満々の麗羽であったが。

 

「……袁紹殿。我等は傭兵だ。“使う”気ならば、貰うものを貰いますぞ?」

「わたくしのお陰で此処まで辿り着けたというのに、ケチですわね」

「ふむ、それは尤も。では明日一日だけ手助け致しましょう。それ以上は“依頼”とさせて戴く」

「……いいでしょう。この人数で見つからないようなら、諦めも付くというものですし……あら?」

 

交渉が纏まりそうだった矢先、麗羽が台座を見ていて何かに気付いた。

 

「……何かしら、この破片……」

 

麗羽が床に落ちていた何かの破片を拾おうと台座に近付く。

 

カチッ!

 

軽快かつ聞いた者を不安に陥れる音が、その場の誰の耳にも確かに届いた。

 

「…………」

「「れ、麗羽様!?」」

「罠か!?」

 

猪々子と斗詩が麗羽を守るように側につく。

葉雄も戦斧を構え、周囲を警戒する。

 

がたんっ!

 

だが、予想を超えた事態が起きた。

 

「「「「!?」」」」

 

確かにさっきまであった筈の床が“無くなっていた”。

 

完全に中空に放り出された四人。

猪々子と葉雄は、己が武器を突き立てられる“壁”を求めたが、それすら無い。

まるで、台座のあったあの大広間そのものがなくなったかのような。

 

「これも妖術なのか~~~!?」

「う、嘘だろぉ~~~!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

「猪々子っ! 斗詩っ! 葉雄さんっ!」

 

麗羽が三人を掴まえようと手を伸ばす。

 

(わたくしの強運なら、或いは助かるやも……!?)

 

せめて、自分と触れ合っていれば、自分の運を分け与えられるかも知れない――

そんな完全な運頼り。しかし、このまま落下すればどこまで落ちるか分からない上に、何かを考えているような時間がある筈も無く。

半分以上無意識に、麗羽は手を伸ばしていた。

 

「麗羽様っ!」

「葉雄さん!」

「――!?」

 

猪々子が麗羽の手を掴み、同時に斗詩の腰を抱える。

斗詩は大槌『金光鉄槌』で引っ掛けるようにして葉雄を引き寄せた。

 

そして四人は落ちていく――

 

落下する先は、木々生い茂る森。そしてその先は当然地面だ。

誰もが死を覚悟した。

 

だが。

 

神風の如く。四人を強風……いや、烈風が打つ。

その風圧によって、弾かれるように四人は吹き飛ばされ。

十数秒後、四人が落ちたのは……

 

 

どっぽーーーーーん!!

 

 

もうもうと湯気立つ、温泉であった。

 

「はぁ~……いい湯ですねぇ、麗羽様~……」

「何を暢気な……」

「はぅぅぅん、死ぬかと思ったよぅ……」

「はぁ……全く、袁紹殿の強運には驚かされてばかりだ……」

 

四人は今、鎧も武器もない状態で温泉に浮かんでいた。

この温泉、足が着かないとかいうレベルではなく、相当に深いのだ。そのお陰で、落下した四人は水底に埋まるようなことこそなかったが、装備の重みで沈んでしまう為、仕方なく鎧や武器を手放して、浮いてきたのだった。

 

「あー、あの風は幸運だったな~……」

「わたしくに掛かれば当然の結果ですわ! おーっほっほっほっほ!」

「それが麗羽様のお陰だとは限らない……と言いたいところですけど……」

「そう思わせるだけの実績があるのだろう? 折角助かったのだ……ならば素直に感謝しておこうではないか……」

「そうですねー……」

 

暫くはそのまま小さな湖のような温泉(以後温泉と呼称する)に浮かんでいた四人だったが。

気力を取り戻し、まずは岸まで泳いで拠点確保。その後、潜水して装備品を取り戻した。

温泉は、断崖絶壁に沿うようにして広がっていた。そう大きなものではないようだったが、水底はすり鉢状になっており、広さの割りに深さはかなりあるようだった。

周囲には竹林が生い茂り、動物の気配も多々ある。だが、温泉自体には魚などの一定の大きさ以上の水生生物の影が全くなかった。

 

ある程度情報を収集した彼女等は、簡単に野宿の準備をし、火を熾(おこ)して囲んだ。

 

「ちょっとあの崖を登るのは厳しいなぁ。ほぼ垂直なんだもんよ」

「それは回り道すれば良いことですわ。それより気になるのは……」

「そうですね。この周辺の竹……資料の特徴と一致します。もしかしたら……」

「ほう。この竹が探していた秘宝のひとつなのか?」

「もしかしたら、ですけど。人の意思に応じて特性を変えるという神秘の竹、ということなので。明日、実験でもしてみましょう」

「それに、この湖というか温泉というか……。これも例のものに関するものではないの?」

「はい。周囲の虫や動物たちは、異常と言える程に成長しています。特に水――湯の中で見たこと無い大きさのヤゴがいました。竹林を飛んでいるトンボも、信じられないくらい大きいです」

「あー、確かにでっかいなぁ。噛まれたら指千切られそうだもんな」

「怖いこと言わないでよ、文ちゃん! ……ともかく、『生命力を増幅させる効能がある』という特徴に当てはめて考えてもいいかも知れません。単に誰も知らない新種と言う可能性の方が高いんですけど」

「斗詩は夢がないなぁ。盛り下がること言うなって」

「全くですわ。此処がわたくしの求めていた秘宝の在り処に違いありません! 明日は竹の実験と、温泉の探索をしますわよ!」

「部下共が心配ではあるが……一度、明日一日は手伝うと言った以上、私も手伝わせて貰おう」

 

 

その夜。

 

「(なぁなぁ、斗詩ぃ~。もう寝ちゃった?)」

「(うぅん……。どうしたの、文ちゃん)」

「(にひひひ。なーんか、ムラムラ来ちゃっててさぁ。ちょっとシようぜ~?)」

「(なっ、何言ってるのよ、猪々子!?)」

「(なー、いいだろ~?)」

 

迫る猪々子から逃げるように後退るが、すぐに何かに行き詰った。どうも大き目の竹に背が当たっているらしい。

 

「(むふふふ……)」

「(や、やだぁ、猪々子……)」

「(とか言っちゃって、もう逃げるの止めてんじゃん。実は斗詩も結構キテんだろ~?)」

「(うぅ~~! 猪々子のばかぁ!)」

 

斗詩が顔を赤らめたその瞬間。

 

どくんっ!

 

「ひゃっ!?」

「うわっ!?」

 

斗詩がもたれ掛かっていた竹が、突如一回り大きく太くなったのだ。

 

「「…………」」

 

猪々子が、その竹に触れて目を瞑る。そして、脳内でありったけの淫靡な姿の斗詩を想像する。

 

どくんっ!

 

更に大きく太く、そして硬くなる竹。

 

「……成る程。『妄想竹』、ね……。誰だ、こんな名前付けた奴は……」

「ほんとだよね……」

 

結局、すっかり気分が冷めてしまった二人であった。

 

 

次の日。

昨晩の出来事を猪々子がありのまま話した。斗詩ははにかんで赤面し、俯いてしまっていたが。

半信半疑だった二人も、猪々子が実演してみせると、昨晩の二人のように呆れ顔となった。

 

「ま、まあともかく。これで目的の一方は入手出来たのです。あとは『湧泉真玉』ですわ! さあ、潜ってお探しなさい!」

「「「も、潜って!?」」」

「何を驚いてますの。この温泉の様子から、この湯こそが『湧泉真玉』から湧いた泉である可能性は高いですわ。ならば、今もこの温泉の湯を湧かせ続けている『湧泉真玉』が、水底にあるはず!」

「……理屈は分かりましたけど。麗羽様も手伝って下さいよ。泳げるでしょ?」

「なんでわたくしが肉体労働なんて……」

「「「(じぃーーーー……)」」」

「わ、分かりましたわよ! わたくしも探します! それでいいのでしょう!?」

 

麗羽の逆ギレを合図にしたかのように、四人は温泉を潜り始めた。

 

暫くして。すり鉢状の水底の中央部分――つまり最深部で確かにそれらしき石を発見した四人。

あっさりと見つかったは良いのだが。

 

「……考えてたのより、随分でっかいな……」

「うん……。私も、てっきり掌に載るくらいだと思ってたよ……」

 

発見した『湧泉真玉』らしき石の形状は螺旋状の巻貝のようであったが、問題はその大きさ。

先端部分が水底に刺さるように埋まっていることを考えれば、宮殿の支柱並みの大きさであったのだ。

 

「形状は文献通りなのです。恐らくは本物の筈。何とか洛陽まで運ぶ手段を考えねば……。身重の人間にわざわざ湯治に此処まで来させる訳にはいきませんもの」

「その文献は持ってきていないのか?」

「流石に。簡単な写しなら持って来てたんですけど……。温泉に浸かっちゃったせいで、墨が滲んじゃってて」

「そうか……。あの石の一部を切り取るというのは駄目なのか?」

「うーん……どうでしょう? 何せ、こんな湖みたいな温泉を作っちゃうような代物ですから。詳細なんて誰も知らないんです」

「ならば仕方ない。試行錯誤してみるしかないだろう。とりあえず、掌で持てるくらいに削ってくるとしよう」

「んー、葉雄の言う通りかもな。細かいことは誰にも分からねーんだ。だったらやるだけやるしかないだろ」

「じゃあ、この小刀を持って行って。多分、玉(翡翠)くらいの硬さだから削れると思う。出来れば突起部分を探して、折る感じで」

「うっし、了解! 行ってくるぜ!」

「念の為、私も行こう」

 

二人は早速温泉の最深部を目指して潜水。

身体能力に優れる二人は、すぐに目的地まで到着。

 

(んー、突起部分ねぇ……)

 

見た目は確かに玉で出来た巻貝といった感だ。

 

(よく見れば、表面に一定間隔で何か棘のような突起があるな)

 

葉雄が、その突起部分を指差す。

 

(おー、確かに突起って感じだな。よぉーし……)

 

猪々子が、突起部分の“根”に小刀を突き刺し、へし折る。

 

(よっし、戻ろうぜ)

(うむ)

 

という訳で突起部分だけを持ち帰った二人。

 

「こんなんでどう?」

「ふーむ。本当に玉のようだな。色こそ白いが……」

「これも螺旋状になってるんだね。とにかく実験してみましょう。地面に刺せばいいんですよね?」

「文献にはそう書かれていましたわね」

 

猪々子から突起部分を受け取った斗詩が、温泉から少し離れた地面に刺してみる。

暫く待つと、確かに石から水が漏れ出した。水から湯気が立っていることから、湯であることが窺える。

 

「おおー! ほんとに水が出てきたぜ!?」

「ほほぉ……。不思議な石もあるものだな……」

 

斗詩が石から湧いた湯に触れる。

 

「うん、熱いくらい。やっぱり湯ですね」

「問題は、これが入浴出来るほどの湯量を湧かせることが出来るかどうかですわ」

「それはやってみないと分かりませんよぉ。とにかく一度洛陽へ戻って、ちゃんと場所を決めてから実験するしか」

「いいじゃないですか。もう場所は分かってるんですから。駄目だったらもう一回取りに来ましょうよ」

「……そうですわね。得体の知れないものを扱うのです。ひとつずつ、実験して。その度に結果を纏めていくしかないですわね。そうと決まれば、早速帰る準備ですわ!」

 

 

結局、予備ということでもう数本の突起を入手した一同は、崖を回り込み、ようやく元の霊廟まで戻ったのだった。

すぐさま兵を纏めた葉雄は、麗羽たちとともに山を下った。

 

「部下の報告では、周辺には特に異常や怪しいものはなかったそうだ。残念ながら、この拠点は捨てられた後だった、ということだろうな」

「ま、仕方ねーさ。で、葉雄はこれからどーすんだ? あたい達と一緒に洛陽まで来るか? アニキも喜ぶぜ?」

「そうですわね。なんだかんだと世話になった礼もしたいところですし」

「申し出はありがたいが、まだ私はあの方の下へは行けぬ。五胡の全てをこの目で見届けて。参じるとしても、それからだ」

「くすっ♪ ご主人様や月ちゃんの言った通りの方ですね♪」

「う……そ、そうなのか? あの方は何と?」

「なんだよー、葉雄。アニキが自分をどう言ってたか、気になるのか~? へへっ」

「う、うるさいぞ、文醜殿!」

「お二人とも『真っ直ぐで、実直で。なんにでも一直線な人』って仰ってましたよ」

「そ、そうか……////」

「まあ。お顔が赤いですわよ、葉雄さん」

「袁紹殿まで!? ごほん! とにかく、今はまだ洛陽へは参じませぬ。いずれ、また」

 

そう断言した葉雄を見て、猪々子は物言いたげに麗羽と斗詩に目配せ。

それに対し、二人は笑顔で頷いて見せた。

それを確認した猪々子は、喜色を隠しもせず、葉雄へと話し掛けた。

 

「そっか。じゃあその内、洛陽で会えるのを待ってるぜ! あたいは文醜……真名は猪々子ってんだ」

「ぶ、文醜殿!? しかし……」

「私は顔良、真名は斗詩です。道中お気をつけて、葉雄さん」

「顔良殿まで! わ、私は……」

「あなたが真名を失われたことは伺ってますわ。しかし、これだけ世話になった方には相応の応対があって然るべきですもの。何より……一刀さんが信頼する方ですものね」

「袁紹殿……」

「姓は袁、名は紹、字は本初。真名は、麗羽ですわ。今後、わたくし達主従のことは真名でお呼びなさい。これはせめてもの誠意。いずれまた見(まみ)えるのを楽しみにしていますわ。葉雄殿」

「……ありがたき幸せ。では、さらば!」

 

葉雄は親衛隊である傭兵達を率い、去って行った。

 

「……姫」

「なんですの、文醜さん」

「この竹とか、葉雄の部下に運んで貰えば良かったんじゃ……」

「……。もっと早くお言いなさい、このお馬鹿!」

「麗羽様だって気付かなかったじゃないですかぁ!」

「……はぁ……」

 

 

 

紆余曲折あったものの、麗羽たちは目的の秘宝を二種とも入手し、洛陽へと帰参した。

葉雄の話を聞いた一刀は、彼女が元気にしていること、自分やこの国のことを守ろうとしてくれていることに大層喜び、麗羽、猪々子、斗詩の嫉妬を買っていた。懲りない男である。

 

因みに彼女等は八月の末に出立し、九月の十日に帰参したのだが。

それはつまり、その間に夜伽のスケジュールが採用・実施されていたということであり。しかも麗羽に至っては二巡目の当番日までが既に過ぎていた。

これに大いに不満を抱いた麗羽が散々騒いだのだが、周囲からは“勝手に出掛けてたお前が悪い”の一言で一蹴された。

結局、一刀が次の休みの夜に相手をするというフォローを入れて、ようやく納得した麗羽であった。

……既にそんなフォローの余裕のあるこの男は、稀代の英雄(と書いて種馬と読む)であること確実である。

 

 

それはともかく、帰参した麗羽は早速後宮の諸事を司る中常侍筆頭の小蓮と相談し、後宮の奥に『湧泉真玉』を用いた露天風呂を設置することにした。

幸い湯量は十分であり、入浴には全く問題なかった。麗羽自身や何人かの女官などで効力や副作用の有無などを実験。問題ないことを確認した上で、後宮で日常的に使用することとなった。

 

『湧泉真玉』からは常に湯が湧き続ける為、後宮にて使用していない時間においては、宮廷を通り市街まで流れる石製の上水道を設置し、民間にも無料で開放することにした(『湧泉真玉』が設置された場所に分岐点を作り、後宮の露天風呂に流すか、市井へ流すかを分岐させている)。

 

また、正直『妄想竹』は使い道が思い付かなかった為、麗羽専用の宝物庫に保管された。

但し、『湧泉真玉』の水(湯)でしか育成しない可能性もあった為、後宮の露天風呂周辺に一部植生された。

 

かくして、洛陽の後宮には、天然(?)の露天風呂が完成したのであった。

 

暦の上では秋の始まりである九月の上旬。季節の上では残暑の真っ最中である。

洛陽でも毎日毎日暑い日が続いている。

 

しかし確実に季節は移ろいつつあり、夏季に多い雨が少なくなったことを実感し始めた、そんなある日。

 

北郷一刀は、旧魏勢の軍師、稟・風と共に、何故か例の露天風呂に入っていた。

 

「「「…………」」」

 

三人の間に漂う、奇妙な緊張感。

最初に沈黙を破ったのは風だった。

 

「お兄さん。まず事情は分かってますかー?#」

 

何処となく不満気というか。機嫌が悪そうな風に少々押されつつも一刀は答える。

 

「あ、ああ。稟が華琳との夜伽で鼻血を出さないように、“練習”相手になれってこと、だよな?」

 

『和』王朝が建立されて既に約一ヶ月少々が経過していた。

月の出産も無事終わり、産後の肥立ちも上々。一刀は昼以上に夜も(それこそ死ぬ気で)忙しい日々を送っている訳だが。

 

このひと月において、一刀と稟の関係はというと、一言で言えば“異性の友人”であった。

第三次五胡戦争の折には、一刀に対して周囲が不可解に思う程に極端な反応を返していた稟であったが、新国家建国後、日常的に彼と触れ合う内に次第に距離感も自然になっていった。

一ヶ月が経過し、一刀が政治に参画し始めた頃には、すっかり普段の稟のまま、一刀と触れ合うようになっていた。少々辛辣気味の言葉、そっけない態度。しかし、相手の立場を慮った上での的確な助言。

 

仕事においても行政の実務機関である尚書の副長官である尚書左僕射として、十二分に活躍を見せていた。

私事として一刀と触れ合うことこそ余りなかったが、直属の上司となった雛里や、同僚である亞莎とは私生活でも親しく付き合うようになっていた。

 

そんな折、一刀は華琳から呼び出された。用件を聞くと、彼女はこう言った。

 

『稟の鼻血癖は知っているわね? 穏や風の意見によると、これは訓練による克服が可能であるとのことなの。そこで……一刀、あなたが稟の夜伽の“練習”相手となりなさい。私との夜伽に耐えられるよう、稟の“女”を磨くのよ! ――これは命令よ!』

 

皇帝に命令するな、という話もあるが。一刀はそもそもそんなことを気になどしないし、華琳が“上”から物言う場合、大抵反論しても無駄であることを鑑み、彼は渋々承諾したのだった。

 

しかし正直に言えば、一刀はこの“練習”に気乗りしていなかった。

稟とは三国同盟以後、友人として付き合ってきた。一刀自身は、稟を魅力的な女性としても見てはいたが、彼女が華琳に心酔していることを十分承知していたが故に、自分に対して慕情を持っている筈はないと考えていたからだ。

 

「そう、です。華琳様の参謀として召し上げられて早一年以上。私は、未だ御寵愛を受けることが出来ずにいるのです……! 以前、穏殿にも相談したのですが……適当な相手と“練習”し、慣れることで克服可能なのではないかと……」

 

稟は無念げに目を瞑り、そう力説した。

しかし……

 

「俺でいいのか? 大体“適当な相手”ってのが引っかかるんだよな……。俺はいいんだよ。男だし、稟のことを魅力的な女性だとも思ってる。でも……稟はそれで納得出来るのか?」

「――ッ////」

 

一刀からは稟自身を気遣う気配がひしひしと感じられる。さんざ彼方此方に“食指”を伸ばしている癖に、この男は相手の女性を尊重することを忘れないのだ。

その気遣いに、思わず稟は頬を染めてしまった。

 

「……#」

 

対して不機嫌なのが風である。

彼女は建国時に正室となることを誓約し、婚礼も済ませ、既に正室として後宮で生活している。

しかし、旧魏勢では、元主君である華琳の想いに対する遠慮があり、彼女が懐妊するまではと、一刀との行為に及ぶことに忌避感があったのである。特に“月のモノ”とのタイミングによっては、夜伽を拒否することもある程だった。

勿論、そのような気遣いを嫌う華琳は、旧魏勢に遠慮無用と直接伝えてはいたが、元家臣としてはやはりどうしても遠慮が前に出る。

 

さしもの風も、こういった事情があり、余り積極的に一刀に迫れないでいたのだ。

だというのに、正室でない稟が“練習”という名目を得て、先に一刀とxxxxするとなると。それは気分も害されようというものである。まして稟と親友であるが故、なお余計に。

 

「……貴殿(あなた)はこのひと月、皇帝として見事に振舞っています。建国までの……いいえ、かつて敵だった頃からの功績を鑑みても。貴殿以上の男性は、この大陸には存在しない。そう思うからこそ、貴殿にお願いしているのです」

「……まあ稟ちゃんくらい発育してれば、お兄さんも問題ないでしょう?#」

「ふ、風?」

「さっきから、風の声というか、雰囲気が怖いんですが……」

「気のせいですよー#」

 

明らかに雰囲気が、というかもう怒りのオーラが目に見えるようだ。

しかし何を言っても逸らかされてしまうので、仕方なく一刀は話を進めることにした。

 

「……で、“練習”するとして。結局俺は何をしたらいいんだ?」

「「…………さあ?」」

「おい!?」

「それが分かっていれば、苦労はないんですよ、一刀殿……」

「あー……そういうレベルなのね……。じゃあ、ちょっとずつそれっぽいことしてみようか」

「それっぽいことですか!?」

「稟ちゃーん。そこで怖気づいたら何にもなりませんよー」

「そ、そうね……。では、お願いします。一刀殿」

 

一刀は取り敢えず、対面ではなく、稟と風の間に入って、横一列に並んだ。

そして、二人の肩に手を回す。

 

「このくらいなら、どう?」

「は、はい。多少の緊張はありますが、特に問題ないようです」

「……お兄さん。何故、風の肩にも手を回すのですか?」

「え? あ、嫌だった?」

「……ずるい聞き方なのです……。流石は『和の種馬』ですねー?」

「なにその蔑称!?」

「市井では有名ですよ?」

「嘘ぉ!?」

「因みに官僚や将軍方に広めたのは風ですけどねー。何故か、いつの間にやら市井にも広まっていたのです。不思議不思議」

「風~~~~!?」

 

市井にまで広まってしまっては、最早撤回は不可能。一刀は項垂(うなだ)れた。

 

「一刀殿。気落ちするのは分かりますが。自業自得です」

「稟もフォローしてくれないのね……」

「天界の言葉で言われても分かりかねます」

「もういいよ。どうせ俺は種馬野郎ですよ……」

「さ、そんなことより、練習再開ですよー。次は……」

 

 

結局この日は、それなりにイチャイチャしてみたものの、稟が鼻血を出すことはなく。

一歩前進として、“練習”は続行されることとなったのだった。

 

しかし、この“練習”がどんどんエスカレートし、最後には“致す”ところまで行ってしまうことになるとは、一刀も稟も考えていなかっただろう。

 

が……風だけは、ドサクサに自分にも“手を出させる”ことに成功し。そして、それこそが彼女の狙いであったのは確かなところであろう。勿論、友人の体質改善も本気であったのだろうが。

 

 

恐るべきは程仲徳の深慮遠謀か――

 

 

 

続。

 

諸葛瞻「しょかっちょ!」

曹丕「そうっぺ!」

周循「しゅうっちの!」

 

三人「「「真・恋姫†無双『乙女繚乱☆あとがき演義』~~~☆彡」」」

 

諸葛瞻「お読み戴き多謝でしゅ。諸葛亮こと朱里の娘にして北郷一刀の第23子、しょかっちょでしゅ!」

曹丕「乱文乱筆なれど楽しんで戴けたかしら。曹操こと華琳の娘にして北郷一刀の第9子、そうっぺよ♪」

周循「少しでも面白いと思って下されば重畳。周瑜こと冥琳の娘にして北郷一刀の第25子、しゅうっちで~す☆」

 

 

周循「……今回は、何と言いますか。色々な意味でギリギリって感じですね……」

 

曹丕「ついでに容量もギリギリ一杯よ……。なお、作中に出てきた『妄想竹』や『湧泉真玉』なるアイテムは完全な創作よ」

 

諸葛瞻「ということで早速参りましょう」

 

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諸葛瞻「さっくりとゲストコーナーでしゅ! 自己紹介からお願いしましゅ!」

 

 

董白「はいはい。寒い日が続くけど、みんな元気? 董卓こと月の娘にして北郷一刀の第1子。なりたくもない皇太子になっちゃった董白(はく)よ。諱は史実の董卓の孫娘から。某カードゲームとかで有名だから、知ってる人も多いかもね」

 

呂琮「あいあいさー! 呂蒙こと亞莎の娘で、北郷一刀の第29子、呂琮(そう)でーっす♪ 諱は史実通り、呂蒙の第一子からだよーん」

 

 

曹丕「董白様は黄平12年8月末で小学部を卒業され、高等部・文官科に進学されているわ。呂琮はしょかっちょ、しゅうっちと同じ年少上級(小4クラス)ね」

 

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○質問:特技・特徴は何ですか?

 

董白「弓馬術と腕力には自信あるわよ♪ 馬上射的だってお手の物。牛を絞め殺したこともあるし。……後で父さんと母さんから散々説教くらったけどね……」

 

諸葛瞻「この時点でお気付きの方もいらっしゃると思いましゅが、董白しゃまは“史実での若き董卓”をイメージしたものとなっているそうでしゅ」

 

曹丕「月様と同じ色素の薄い銀髪のようなウェーブがかった長い髪。すらりと伸びた手足。整った顔立ち。……本当に黙っていれば、儚げなお姫様なのだけれど……。髪をツインテールにして、スリットの深いチャイナドレスで馬を駆る董白様は、洛陽の不良共(年上ばかり)をシメている『番長』でもあるのよ。……絶対、パンチラ目当ての馬鹿もいますよ?」

 

董白「見たい奴には見せとけばいいのよ。あたしは馬に乗るのが好きで、『開封』の連中との喧嘩で暴れるのも大好きってだけよ。それに付き合ってくれてんだし、それくらいはご褒美よ」

 

呂琮「うひひ♪ とか言っちゃって~、琮は知ってるにゃ~? こないだ、お父さんにそのパンチラ見られた時、すっごい恥ずかしがって落馬したとか♪ ついでにお父さんをぶん殴って、月様に怒られたとか♪」

 

董白「ッ!? な、なんでそれをッ!////」

 

呂琮「荀惲【桂花】から聞いたにゃ~♪」

 

董白「くぅ~……あンのクソガキー! あとで拳骨くれてやるわ!!」

 

周循「……という訳で、姉妹内では『ツンデレ壱号』と呼ばれている董白様なのでした。因みに『開封』というのは、大和帝国の第二都市として発展することになる大商業都市です。結構、洛陽から近いんですよ」

 

諸葛瞻「洛陽がワシントンなら、開封はニューヨークって感じでしゅかね。なんにしても、色っぽいハスキーボイスの蓮っ葉気味の口調、姉御肌で面倒見の良い董白しゃまは、そういった男達から絶大な人気を誇るのでしゅ。……鳳宏ちゃん【雛里】が“ああ”なのにも結構影響してる気がしましゅ……」

 

曹丕「個人的に董白様には親近感があるのよね……(と言って胸を見る)」

 

董白「……まあそうっぺとはね。劉禅【桃香】とか、あたしに喧嘩売ってるとしか思えないわ……!」

 

四人「「「「(アレは明らかに遺伝……)」」」」

 

呂琮「じゃ、次は琮かな。まず見た目としては『着物』が好きで日頃から着てるよ。お母さんから『暗器術』も習ってるんだけど……」

 

周循「よく着物からはみ出してるな」

 

呂琮「にゃはは~、まあまだ練習中ってことで♪ それから、『人形(ドール)』も大好き! 着物も人形も高価だから、いっつもお父さんにおねだりして買って貰ってるのさ~♪」

 

諸葛瞻「呂琮ちゃんは――」

 

呂琮「(ぴかーん!)琮ちゃんって呼ぶなーーーー!!#」

 

諸葛瞻「ひょえっ!? あ、ああ、そうでしゅね。ごめんなさいでしゅ」

 

周循「どういう訳か分かりませんが、呂琮は“ちゃん付け”で呼ばれることを極端に嫌がるのです。本人も理屈は分からないらしいですが……」

 

諸葛瞻「改めまして……呂琮は甘え上手でしゅので。お父しゃまも大変でしゅね~……」

 

呂琮「ただ、最近はお父さんも反撃してくるようになっちゃったんだよねぇ」

 

曹丕「あら、そうなの? 娘に激甘なお父様にしては珍しいわね」

 

周循「それだけ出費が辛いということなのでは……?」

 

呂琮「『買って欲しければ、テストでこれこれの成績を取れ』ってさぁ~。めんどくさいけど、欲しいモノはとてもお小遣いだけじゃ足らないしさー」

 

諸葛瞻「……成る程、納得でしゅ。呂琮は本気を出せば、年少上級でもトップクラスの“知能”の持ち主でしゅが、普段は怠け者を演じているというか……。とにかく、まともに勉強などに取り組んでいないのでしゅ」

 

曹丕「くすくす……。見事にエサに釣られてるという訳ね」

 

 

------------------------------------------------------------

 

○質問:特に仲の良い姉妹は?

 

董白「あたしは何と言っても賈訪【詠】ね。母さんと詠様の関係もあって、本当にずっと一緒だったからね。勿論危ない所には連れて行かないわ。念の為言っておくけど、賈訪【詠】に色目を使うような馬鹿は“九割九分九厘殺し”の刑よ……?」

 

諸葛瞻「死んだ方がマシなレベルでしゅね、きっと……」

 

董白「骨という骨を握り潰し、圧し折ってやるわ……。それはともかく、それ以外は大体似たようなもんね。皇太子なんてものを背負っちゃったせいで、誰からも“様付け”だし。ったく、堅っ苦しいのよ……」

 

周循「堅苦しいのが苦手なのは父さん譲りですかね」

 

董白「――しゅうっち。あたしのどこが、あのバカ親父に似てるって言うの……?#」

 

周循「失言でした(土下座)」

 

董白「ふん! まぁ乗馬が趣味の姉妹とはマシな方かな。馬秋【翠】、馬承【蒲公英】、夏侯衡【秋蘭】、張虎【霞】あたりね。武官候補とはそれなり、くらい。本気で暴れるとなると、やっぱあいつら相手じゃないとね」

 

曹丕「私も偶にお相手させて戴いているわ」

 

董白「あたしはアンタみたいに頭は良くないけどね。あ、そうそう。張苞【鈴々】とは結構気が合うかも。アレはあたしに敬語使ったり、様付けしたりしないからね」

 

曹丕「そのせいでいつもお母様方に叱られてますけどね……。次は呂琮よ」

 

呂琮「あ~い。琮と仲がいいのは『着物』蒐集仲間の顔尚【斗詩】と、『人形(ドール)』蒐集仲間の張順【人和】かな~?」

 

周循「その付き合いからも分かるが……金の掛かる娘だな、お前は(嘆息)」

 

呂琮「にゃははっ、そうだにゃ~♪ あと、琮は『華蝶仮面』のファンなもんで、孫仁様【小蓮】とはおっかけ仲間だね。ただ、孫仁様【小蓮】は『怪傑・頭八倒』も好きなんだけど、琮は『華蝶仮面』イチオシなんで、微妙に好みの差があるかも?」

 

諸葛瞻「興味のない人間には、何が違うのか、良く分かりましぇんね……」

 

呂琮「趣味ってのはそういうもんさね。それから、そこそこ仲が良いのが荀惲【桂花】と馬承【蒲公英】かな? 気が合うって言うか」

 

周循「……要するに、年少上級の悪戯者三人組という訳だ……。悪巧みという言葉の似合う三人組だな……」

 

 

------------------------------------------------------------

 

○アンケート:次回、読んでみたい姉妹は?

 

周循「今回もゲストのリクエストを募集させて戴きます。以下の二つからお好きな方をお答え下さい。コメントの端に、ちょろっと追記戴ければ幸いです。リクエストのみでも全然OKです! なお、“前回集計分もカウントする”というのは、既出の姉妹を優遇する為の措置です。皆様のご回答をお待ちしております(ぺこり)」

 

A:蓮華・思春の娘達

B:霞・葉雄の娘達

 

 

 

曹丕「筆者としては、かなりのお気に入りである董白様の魅力が伝わったか、相当不安みたいだけど」

 

周循「脳内音声再生能力をお持ちの方は、月様の『中の人』のハスキーな方の声で読んでみて戴けると、少しはマシになるかと。さて、次回は『洛陽の日常』。今回は後宮に温泉が出来る話でしたが、次回は如何に?」

 

諸葛瞻「題名からすると拠点っぽいでしゅが。のんびりお気軽に楽しめるものになるよう、鋭意執筆中とのことでしゅ。それでは、みなしゃま。しぇーのっ」

 

 

五人「「「「「バイバイ真(ま)~~~☆彡」」」」」

 


 
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