No.1148395

ホームランハート!

Nobuさん

野球少女×料理少年の一次創作小説です。
子供向けにしましたが、テーマは「児童書にありそうでなかった恋愛」です。

2024-07-19 09:18:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:135   閲覧ユーザー数:135

「えいっ! えいっ! えいっ!」

 

 若葉小学校のグラウンドで、とにかくバットを振っている少女がいた。

 彼女の名は肥後(ひご)日向(ひなた)、若葉小学校のリトルリーグのチーム、若葉ドワーフズ唯一の女子選手である。

 負けず嫌いで男勝りの彼女は、日々を授業と練習に励み、“普通の”女の子らしさはなかった。

 

 自分が振り向けるような男の子はいないし、ほとんどの男の子も「女の癖に」とバカにするだろう。

 だがそれでも彼女が若葉ドワーフズに入ったのは、自分からチームを元気づけたいと思っていたからだ。

 女の子でも活躍できる、それが日向の考え方であった。

 

「あれ? こんなところにみかんゼリー? 誰のものだろう」

 練習を終えて一息つこうとした時、日向はベンチの上にみかんゼリーがあるのを見た。

 今はちょうど午後12時でお昼ご飯の時間なので、日向はベンチに座ってスポーツドリンクを飲み、みかんゼリーを一口食べた。

「わぁっ、美味しい! 疲れてたからちょうどよかった。お昼が食べられなくなっちゃうけど、これくらいなら大丈夫よね!」

 日向はそのみかんゼリーがとても美味しかったので、あっという間に全て食べてしまった。

 その時、グラウンドに一人の少年がやってくる。

 さらっとした黒髪が特徴的な、“普通の”女の子なら一目惚れしそうなタイプだ。

「そのゼリー、美味しかった?」

「うん、とっても!」

「それ、僕の手作りなんだけど……」

「えぇぇっ!?」

 みかんゼリーが少年の手作りだと聞いて、日向は驚いて顔が赤くなる。

 見た目はこんなにかっこいいのにお菓子を作るのが上手いなんて、日向には想像ができなかった。

「あなた、料理が上手いのね」

「親が一緒に働いてるから家にいない事が多くてね。お料理とかお掃除とかを手伝っていたんだ」

 少年は共働きの両親に代わって家事を手伝っており、自然と料理が上手になったという。

 なるほどと納得した日向は、少年の名前を聞き出そうとした。

「あなたは誰?」

「僕は木場(きば)夕日(ゆうひ)。君と同じ小学5年生で、若葉ドワーフズのマネージャーなんだ」

「あ、そ、そうなのね。あたし、肥後《ひご》日向《ひなた》っていうの。若葉ドワーフズではサードをやってるわ」

 少年は夕日と名乗り、日向も彼に簡単な自己紹介をした。

 日向は男の子のマネージャーなんて心の中では変だと思ったが、自分は若葉ドワーフズ唯一の女子選手なので何も言わなかった。

「夕日君、料理が得意なんて凄いわね。あたしにも少し教えてほしいわ」

「もちろんだよ、日向ちゃん。今度、一緒に料理しよう!」

 

 それから数日後、日向は夕日の家で一緒に料理をする事になった。

 夕日の家はとても綺麗で、キッチンも広々としていた。

 両親が共働きしているとの事なので、夕日が全て綺麗にしているのだろう。

 

「夕日君、何を作るの?」

「今日は、僕の得意なオムライスを作ろうと思うんだ。日向ちゃんも手伝ってね!」

 夕日は赤いエプロンをつけ、日向にもエプロンを渡した。

 日向のエプロンは、青いハートが描かれた、女の子らしさもスポーツ少女らしさもあるエプロンだった。

「ありがとう、夕日君。これも、手作り?」

「あはは、流石にエプロン部分は買ったんだけど、ハートは僕がつけたんだ」

「そうなんだ。嬉しい!」

 ここでも気配り上手な夕日に、日向は笑顔になった。

 

 こうして、二人は楽しそうに料理を始めた。

 夕日は丁寧に教えながら、日向も一生懸命に手伝った。

「卵を割るのって難しいね。でも、夕日君が教えてくれるから、少しずつ上手くなってきた気がするよ」

「そうだね、日向ちゃん。練習すればどんどん上手くなるよ。君がやってる野球みたいにね」

「夕日君、こんなところでもこんな事を言うなんて」

「だって、僕はマネージャーだからね」

 二人は笑顔で料理を続け、やがて美味しそうなオムライスが完成した。

 日向は自分で作ったオムライスを見て、嬉しそうに微笑んだ。

 

「わぁ、本当に美味しそう! 夕日君、ありがとう!」

「どういたしまして、日向ちゃん。一緒に作れて楽しかったよ」

「あたしも! 夕日君、とっても楽しかった!」

 

 その後、二人は一緒にオムライスを食べながら、たくさんの話をした。

 夕日は野球の事や学校の事、そして将来の夢についても話してくれた。

 

「夕日君、将来は何になりたいの?」

「僕は、料理人になりたいんだ。美味しい料理を作って、たくさんの人を幸せにしたいんだ」

「素敵な夢ね、夕日君。あたしも応援するわ!」

 日向も自分の夢を話した。

 彼女はリトルリーグの実力を生かして、ソフトボールの選手になりたいと思っていた。

 夕日はその夢を聞いて、心から応援する事を約束した。

「日向ちゃん、君ならきっと、ソフトボールの選手になれるよ。僕も応援するから、一緒に頑張ろうね」

「ありがとう、夕日君。あたしも夕日君の夢を応援するよ!」

 

 こうして、日向と夕日はお互いの夢を応援し合いながら、ますます仲良くなっていった。

 後にそれが恋だと気付くのは、ちょっと先の話である。


 
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