No.114364

Beginning of the story 第三章ー古代3

まめごさん

ティエンランシリーズ第三巻。
現代っ子三人が古代にタイムスリップ!
輪廻転生、二人のリウヒの物語。

「王女だよ。ぼくらは伝説の王女とすれ違ったんだ」

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2009-12-25 21:31:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:547   閲覧ユーザー数:534

「生きててよかったー。死ぬかと思った…」

リウヒがまだ言っている。カスガは動悸が未だ止まらない。ほとんど一睡も出来なかった。

昨夜の火事をよく見ようと、大通りにでたカスガたちは、ものすごいスピードで突進してきた馬に轢かれそうになった。まるでトラックが突っ込んできたような迫力に、ちびりそうになった。慌てふためいて逃げたものの、馬はそのまま走り去っていった。

 

だけど。

 

ベッドに胡坐をかきながら思う。

あの火事は、ジン国の戦のものではない。それならば、この町も焼かれているはずだ。そこでカスガは愕然とした。

ここは、いつの時代のティエンランだ。憧れの国にいる事に浮かれて、一番大事な事を忘れていた。

火事。謀反。間一髪逃げた王女。

「ねえ、馬に乗っていた男の人、カスガにそっくりだったよね」

「あのスピードで、よく男の顔なんて分かったな」

「わたし、動体視力はいいんだ」

「世界に自分とそっくりの…おい、カスガ!どうした!」

喘ぐように、カスガは呼吸していた。喉がヒューヒューとなっている。

顔色を変えて駆け付けた二人に、苦しそうな声を出す。

「ねえ、リウヒ。昨日の馬には、男一人だった?」

「えっ?ええと、ええと…ううん、もう一人いた。二人乗っていた」

「そのもう一人は、どんな人だった…?」

「ええっ?どんなって…」

「どんな人だった!」

ほとんど吠えるようなカスガに、リウヒは驚いて身を引き、シギが庇うようにリウヒの前に腕を出した。

「落ち着けよ、お前どうしたんだよ」

「…な、長い髪だった。多分女の子だと思う。男の人に抱きかかえられていた」

「リウヒだよ…」

シギとリウヒはきょとんとして、目を合わせた。わたし?とリウヒが自分を指す。

「違う。王女だよ。ぼくらは伝説の王女とすれ違ったんだ」

突然カスガが絶叫して、突っ伏した。シギとリウヒは飛び上って、ヒッシと抱き合った。

「あああ、もう!ケータイで撮っとけばよかった!ぼくのバカバカバカバカ!」

「カスガ、カスガ。落ち着いて」

「あの速さで撮れるわけないだろう。下手したら轢き殺されるところだったんだぞ」

二人の声も、カスガには届かなかったらしい。突っ伏したまま両手で頭をポコポコと叩いている。

しばらくたって、ようやく我に返った。

「ごめん。ちょっと興奮のあまり…」

「うん、びっくりした。色々と」

「おれも」

だけどさ、とシギがいぶかしむ。

「あれが王女とは限らないだろう。ただ、今の時期に宮廷から逃げたってだけで」

「いや、教育係のトモキって人が一緒に馬で逃げたんだよ。王女の兄的な存在で、その成長に一役買ったんだ。後に、初の民間出の宰相となる。トモキの弟が、これまた…」

「カスガ、話がずれている。昨日の馬に乗っていたのが、トモキと王女だったわけ?」

「そう」

「じゃあ、カスガはそのトモキにそっくりってこと?」

「そう…なるのかな。ぼくはちゃんと見たわけじゃないから、分からないけど」

「おれも全然分からなかった」

もしかしたら、カスガの遠い前世かもしれないねー、とリウヒが笑う。

「さてと。朝飯くって、帰ろう」

シギが立ちあがって伸びをする。

「そうだね。早く帰らなきゃ」

リウヒも腰を上げた。

「なんで帰るのさ」

同時に二人が振り返った。うろんな目でカスガを見ている。

「今から面白くなるのに、なんで帰るの」

「帰るよ!当たり前でしょう!わたしたちの住む所は、現代であって古代じゃないでしょう!」

「おれも、おれの生活があっちにあるんだよ!学校もバイトもあるし、母親だって向こうにいるんだよ!」

じゃあ、二人で帰ればいい。とカスガが腕を組んで、どっかりとベッドに座り込んだ。

「もう、カスガ。我儘言わないでよ。帰ろうよ」

ほとんど泣きそうな声でリウヒがカスガの襟を掴んで揺さぶったが、動かない。

「ねえ、お願い」

動かない。

「ほっとけよ。いこうぜ」

突き放すようにシギが言って、リウヒの手を引いた。

「じゃあ、いくからね。本当にいくからね」

「うん。いってらっしゃい」

さすがにリウヒはムッとしたらしい。ツンと横を向くと戸の向こうへ出て行った。

数秒後、ものすごい勢いで帰ってきた。

「どうして、一緒にこないの!」

「ぼくはここにいるっていったろう。早く行きなよ。シギをまたしているんだろう」

「カスガぁ…」

「向こうに帰ったら、ぼくの両親によろしく言っておいて」

「もう知らない!馬鹿!馬鹿カスガ!」

涙をためて、走って行ってしまった。

窓からのぞくと、通りで泣いているリウヒの肩を抱きながらシギが何かしら言っている。本当にこうして見ていると、あの二人は恋人同士みたいだ。中々にお似合いじゃないか。そのまま歩いて行った。どうやら朝食を取ることを忘れているようだ。あのリウヒが。

カスガは伸びをして、深呼吸をした。空気がおいしい。夏真っ盛りだというのに、纏わりつく湿気がなくてカラッとしている。

朝ごはんを食べて、その辺を探索しよう。飽きたら、宿の親父を手伝おう。

弾むような足取りで、階下に向かう。

あの二人は、きっとここに戻ってくる。現代に帰れずに。何となくだが、確信に近かった。

****

 

 

何をやっても無駄だった。二人で走ってみても、立ってみても、ジャンプしてみても、後ろ歩きで歩いてみても。やけになってスライディングまでしてみた。

ただ、服が泥だらけになっただけだった。

「やっぱり三人そろわなきゃ、無理なのかな」

「多分」

洞窟の中で、疲れ果てて座り込んでしまった。シギも壁にもたれている。

カスガの馬鹿。

腹ただしいような、泣きそうな悲しみが胸を刺す。あんなカスガ、初めてだった。生まれて初めて拒否された。

「おい、血が出てるぞ」

その目線をたどると、腕に擦り傷ができて、血が滲んでいた。

「ああ、多分唾でも付けときゃ治る…」

と、シギがスタスタとやってきて、リウヒの目の前にしゃがんだ。腕をとって、いきなり舐めた。

「な、なにするの!」

顔に血が上るのが分かった。手を引こうとしても、びくともしない。

「大丈夫だから!後で洗えばいいから!」

「ああ、こら、暴れるな。擦り傷甘くみていると、膿んで痛い目みるぞ」

「えっ…」

それは嫌だ。しぶしぶ、腕の力を抜いた。

シギの舌は、自分の腕を味わうようにゆっくりと舐める。奇妙な感覚が体を駆け巡った。

「んっ…」

声が出た。男の口は半分開いていて、舌が出ている。白い肌の上を這っている。

それは大層色気があって、リウヒの顔は赤くなった。心臓がドキドキして止まらない。

「あっ…、や…」

うおおい、なんて声を出しているんだわたしは!思わず目を閉じてしまう。すると、舌の感覚はますます鋭くなって、奇妙な感覚もますます強くなってきた。

「なに?お前、感じてんの?」

目を開けると、シギがこちらを見ていた。例のからかいの目で嫌らしく笑っている。今度は恥ずかしさに、頭に血が上った。

「馬鹿!そんなんじゃない、ちょっとびっくりしただけで!」

「へえ」

腕を振り切ると、今度は素直に離れた。

「あの、ありがとう…。ねえ、どうしようもないから、とりあえずまた宿に戻ろう?」

「だな」

立ち上がると、リウヒに手を差し伸べた。

「何?」

「助け起してやろうってんだよ。親切心の分からない女だな」

「すみませんね」

素直にその手を取る。引っ張られて立ち上がり、二人は歩き出した。手を繋いだまま。

わたし、なんでこの男と手をつないで歩いているんだろう。からかっているのは分かっているのに、なんでいつものように怒れないんだろう。

空が遠く青い。ピールルルルーと鳥が鳴きながら呑気に旋回している。

多分、疲れてもうどうでもいいからだ。朝ごはん食べそこなって、お腹がとってもすいているし、好きでも何でもない男と手を繋いでいることくらい、腕を舐められた事くらい、どうだっていい。

心の隅っこに小さく芽生えた甘い気持ちは、無視することにした。

「お帰り」

疲れ果てて宿に帰った二人は、カスガのその姿を見て絶句した。さっそく古代の衣を着て、時代に馴染んでいる幼馴染にリウヒがとがった声を出す。

「なに?その恰好。馴染み過ぎて気持ち悪い」

「ありがとう。褒め言葉として受け取っとくよ」

ゲンさんが、お下がりをくれたんだ。君たちの分も貰っといたから、着替えたら?と上を指す。この男は、自分たちが帰れないことが分かっていたのだ。しかも誰、ゲンさんって。腹が立ったが、今日はもうあの洞窟にいく元気はない。今夜何とかカスガを説得して明日、また行こう。何より、この泥だらけの服を脱ぎたかった。

「いたせりつくせりで悪いね」

皮肉を言ったつもりだったが、カスガはニコニコしている。

部屋の中には、二着の服が並んでいた。それを広げて、観察する。昨日、今日と見た限りでは、男女でどうやら服が違う。ヒダの入った長いスリップのようなものに、長着を巻きつけ襟を左が上になるように左右を合わせる。そして帯を締めるのが女性。

男性は、スカートではなく、ゆったりしたズボンのようなものだ。後は一緒である。

どちらにしても綿でできていた。帯は紺と濃い黄色だった。

「おれはこれだな」

シギがさっさと服を取ると、シャツを脱いだ。いきなり裸の上半身が出現して、リウヒは口から心臓が飛び出そうになった。細いが筋肉がしっかり付いていて、均等が取れている体だった。

「なに見てんだよ」

「いっ、いきなり脱がないでよ!」

慌てて、自分の分を取って隅に移動する。服を脱ごうと手にかけて振り返ると、シギはリウヒに気にする事もなくベルトを外そうとしていた。急いで顔を背ける。

どうしようか、トイレで着替えようか。いや、臭い。

風呂か。いや、清掃中だった。

ここで着替えるしかない。

「こっち向かないでね」

言いながら、勢いよくシャツを脱ぎスリップを被った。モソモソとブラを外す。ささやかな胸だが、なんだか心もとなくて不安になる。長着を巻きつけカーゴパンツを脱ごうとして、ふと自分はパンツをはいていなかったことを思い出した。

わたし、もしここで暮らすことになったら、ずっとノーパン、ノーブラなんだな。侘しい気持ちになりながら、帯を締める。丈はかなりの長さで、踝の辺りまであった。シャツとカーゴを畳んで、振り向くと、シギがストレッチをしている。どうやら、こちらは見ないでいてくれたようだ。

「靴はないのかな」

「多分、身分の高い人しかはかないんじゃねえの。取りあえず、下に行こうか」

「うん」

歩き出そうとして、裾が縺れて蹴躓き、したたかに膝を打ちつけた。

「痛…」

「なにしてんだよ」

「すごく歩きにくい、これ」

リウヒは滅多にスカートをはかない。ましてや超ロングスカートなんて穿いたことがない。

踝まであるこの丈は、歩きにくくて仕方がない。

「蹴るようにして歩けば?ウエディングドレスを着た時、蹴るようにして歩いたって女友達が言ってた」

実践してみると、確かにその方が歩きやすかった。しかし、女友達ってなんなんだ。あんたには既婚者の女友達がいるのか。胸がチリッとしたものの、何も言わなかった。

下に降りると、カスガが髭親父と談笑しながら台所で豆のさや抜きをしていた。

「ああ、二人ともすごく似合っているね」

嬉しそうな顔に再び腹が立ったが、もう言い返す気力もない。シギも同様らしく、

「なんか手伝う」

と台所に入って行った。リウヒも後に続いた。

****

 

 

夜、二人は必死になって、カスガへの説得を続けたが、頑固なこの男は首を縦に振らなかった。

「ぼくは、ここに残りたいっていってるんだ。あの王女の上意の礼を、見てみたい」

「それは二年後なんだろう。それまでここにいるってゆうのかよ」

「現代っ子には辛すぎるよ。わたしたちのすむところは、あっちなんだよ」

話しは堂々巡りで中々、終着点が見えない。ついにリウヒが泣きだした。

「お願い、カスガ。明日、一回だけでいいから、一緒にあそこにいこう」

しゃっくりをあげながら、ベッドによじ登ってカスガに抱きつく。その体にカスガの手が回った。なんだか甘い恋人同士のように見えて、シギは思わず嫉妬してしまった。抱きつくことはないだろう、抱きつくことは。カスガも腕まわしてんじゃねえよ。

「でも、やっぱりぼくはここに残りたいんだ。外の世界に出た王女をこの目で、実際見られるチャンスだし」

「明日で無理なら、もう諦めるから。シギもそれでいいよね」

「しょうがねえな」

それよりも、早く離れろってんだ。胸がむかついて気持ち悪い。

「分かったよ」

カスガがため息をついた。

「明日、一緒にあの洞穴へいこう。でも、もし帰れなかったら、二年間ここにいる。それでいいね」

「うん。ありがとう、カスガ」

嬉しそうな声をだして、リウヒが離れた。顔を洗ってくる、とそそくさと扉の向こうへ消える。ちらりと見たその顔には、涙の跡はなかった。あいつ、ウソ泣きを使っていたのか。シギは笑いだしそうになって、慌てて口の中を噛んだ。

女って怖えー。

一方の幼馴染にだまされたカスガは深刻な顔をしている。

「リウヒがあんなに気弱にいうなんて、初めてだ」

痙攣する頬を隠すため、煙草を掴んで窓際にゆく。

最後の一本。

煙を深く吸いながら、ふと昼間の事を思い出した。洞窟で、腕を舐めた時に上げたリウヒの小さな声。妙に可愛らしくて、つい欲情してしまった。そんな場合じゃないだろうと正気に戻り、軽口で誤魔化したものの、なんとなく離し難く、手を繋いで宿に戻った。いつもはうるさい女も静かに黙っていた。

この部屋で着替えた時。その後ろ姿をじっくりと眺めた。勢いよくシャツを脱いだ裸の背中はなまめかしく、細いながらも腰はなだらかな曲線を描いていた。すぐにスリップをかぶられ内心舌打ちしたものの、胸は小ぶりで中々可愛らしいではないかと鼻の下が伸びた。

リウヒが振り返る直前、ストレッチをする振りをすると、見られていた事に気が付きもせずに、「靴はないのかな」と無邪気な質問をしたのに微笑ましさを感じた。

おれは、あの子を気に入っているんだろうか。いやいや、今の状況がおかしいから目につくだけだ。第一、シギの好みはポチャ系だ。細い女なんて固いだけで全然柔らかくないじゃないか。そうだよ、異様な状況だからただ、あいつが目立つだけだ。一人納得して、吸殻を携帯灰皿にしまった。

 

翌日、再び洞窟内で知恵の出る限り頑張ったが、やはり無駄だった。

「ああ、もう嫌!」

泥だらけになったリウヒが頭をかきむしり、座り込んだ。

「もういい。わたしもここで暮らす」

「馬鹿、何言ってるんだよ、お前、自分の親や心配している人がいるんだろう」

「だって、帰れないじゃん」

「それは…」

それでもシギは気になる。母は心配しているだろう。バイトは、大学の単位は。

「なんとか現代と連絡が取れたらいいんだけどね。ケータイは圏外だし…」

本当にこの古代で生きていかなければいけないのだろうか。

想像がつかない。でも、帰れない。諦めるしかなかった。

「宿に帰ろうぜ」

その声は、自分でも驚くほどあっさりしていた。ほとんどやけっぱちといっていい。

「となると、君たちは古代語を習得しなきゃいけないね」

カスガが嬉しそうに言う。うげっ、とシギとリウヒは首を絞められたような悲鳴を上げた。

「いつまでも、ゲンさんにお世話になっている訳にいかないし、他でもバイトを探そうよ。実践学習、能力もアップ、金も入る。一石三鳥じゃないか」

踊るようなカスガの後をついて歩きながら、シギとリウヒはがっくりとうなだれた。

「ドナドナでも歌いたい気分だ…」

「思いのほか、思いのほかでした…」

 


 
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