第二十六章~繰り返される突端と終端・前編~
「でゃあああっ!!」
ブゥオンッ!!!
ガギィイイイッ!!!
一刀が放った斬撃は容易く受け止められ、受け流される。
「おらぁああッ!!」
ブォウンッ!!!
ガシィイッ!!!
左慈の放った足蹴りは蠅や蚊を叩き落とす様に振り払われる。
「はぁあああっ!!」
ブゥオンッ!!!
華琳が放った横薙ぎは空を切る。狙った相手は彼女の頭上はるか上まで飛び上がり、下にいる三人を
見下ろす。すると、一列をなした黒い文字達が次々とその横を過ぎ、三人に突撃を仕掛けていく。
それを見た左慈はその場から離れ、一刀は華琳を抱きかかえてその場を離れる。そして三人が元いた場所に
黒い文字達の一列がその勢いを削ぐ事無く、突撃していき、そのまま境界の無い地面に激突、再び無秩序に
空間内を漂う。
「はぁぁあああっ!!!」
ブゥオンッ!!!
「でぇぇえええいっ!!!」
ブゥオンッ!!!
「はぁあああああっ!!!」
ブゥオンッ!!!
一方、春蘭達は兵を率いながら、三人とは別に周囲に次から次へと現れる傀儡兵達を薙ぎ倒していた。
しかし、彼女達に倒された傀儡兵は途端、その体は大量の黒い文字に姿を変え、同様に他で倒された傀儡兵が
姿を変えた文字達と混じり合う様に一カ所に集まると、再び姿を現すのであった。ある程度の数を倒す度に
このような事が起き、春蘭達は手を焼いていた。
「くそ!これではきりが無い!!」
「やっぱりそう簡単には倒されてはくれない・・・ってわけね」
現状を打破できない状況に弱音を口にしてしまう愛紗と雪蓮。
「馬鹿者!ここに来て何弱音を吐く!?そんな事を言っている余裕があるならば、手と足を使って
目の前の敵を倒せ!!」
春蘭は横から喰ってかかる様に二人を一喝する。
「我らに出来る事は、華琳様達があの男に集中できるようこの傀儡達を引きつけておく事だけだ」
と、春蘭の後ろからフォローするように秋蘭が口を出す。
「秋蘭ちゃんの言う通り・・・よんっ!!」
ドガァアアアッ!!!
貂蝉はそう言いながら傀儡兵達を一纏めに吹き飛ばす。
「『縛』っ!」
「「「・・・ッ!!!」」」
干吉の放った一言により傀儡兵達は束縛を受けたかのように身動きが取れなくなる。
「ちょりゃああああああっ!!」
ブォォォオオオオオオッ!!!
「おぅりゃああああああっ!!」
ブォォォオオオオオオッ!!!
季衣と流琉の放った豪撃が叩きこまれ、動けなくなった傀儡兵達は防御も出来ず、そのまま吹き飛ばされる。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああああっ!!!」
ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!
そして、吹き飛ばされずに残った者達を鈴々が片端から薙ぎ倒していった。
「ふむ、まぁこんなものでしょうか・・・」
彼女達の戦いぶりを見ながら、干吉は客観的立場からその様子を呟く。そんな彼の元に貂蝉が近づいていく。
「干吉ちゃん、一刀ちゃん達は勝てると思うかしら?」
「・・・さて、私は預言者ではないのでそれは分かりかねます。しかし負けられては、全ては外史喰らいの
思うがまま・・・私としては自分の存在が今更消えて無くなってしまうのは、心許ない・・・」
「あらぁ?あなたがそんな事を言うなんてちょっと意外ねぇ」
「私も今の自分に愛着を持つようになった・・・。ただ、それだけの事です。ただ、それだけの・・・」
「・・・そう。左慈ちゃんもあなたの様になれれば良いのだけれど・・・ねぇ」
「それは難しいでしょう・・・。決着をつけない限り、彼は前を見る事も、歩き出す事も叶わない」
そう言って、干吉は左慈の方を見るのであった。
外史喰らいの中枢である一刀の姿を模した男が放った攻撃をかわした一刀。華琳を下ろすと男の姿を探す。
「とぁあああッ!」
ブワァアッ!!!
左慈は男に肉弾戦を仕掛けていた。蹴撃を連続で間髪無く放つ事で、男に反撃の隙を与えない。
男は左慈の攻撃の動きを読み、身をかわしていく。その表情にはまだ余裕が残っており、それが左慈に
苛立ちを与える。
ガシィッ!!!
そして苛立ちの中で男の首を狙って放った蹴撃を片手で受け止められ、左慈は右足を上げ、左足で立つ
状態になる。
「ふぅッ!」
ブゥオンッ!!!
男は左慈の足を持ったままの体勢から棒立ちとなっている片足に向かって、横薙ぎを放った。
「ちッ!」
左慈は男に持ち上げられている右足を軸にして体を右に勢いよく回し、棒立ちとなっていた左足で男の
左側のこめかみを上方から振り下ろす形で蹴り飛ばした。左慈の蹴りを顔に受けた男は左慈の右足を掴んで
いた手を離し、ぐるりと右回りに一回転する。
「おらぁあああっ!」
ブワァアッ!!!
ドガァアアアッ!!!
境界の無い地面に降り立った左慈は体勢を整えると、すかさず男の脇腹に蹴りを叩きこむ。そして男の体は
凄い勢いで回転しながら吹き飛ばされ、黒い柱に激突する。
「やったか!」
左慈の元に駆けつけた一刀。柱に激突し、その際に砕けた破片の下敷きになり、その下でうつ伏せで
倒れる男の様子をうかがう。
「さてな、だがこの程度で倒せる相手なら削除の進行はとうに中止になっているはずだ」
左慈の言葉に聞いて、一刀は空間上に映る大陸の地図を見上げる。すでにその4分の3以上が黒く塗り
つぶされており、そしてその進行は続いていた。
「・・・いつまで寝ているつもりだ。さっさと起きろ」
「・・・・・・死んだ振りをしていれば、見逃してくれると、思ったのだけれど・・・」
左慈に言われ、男は背中に掛かっていた柱の破片を払い除けながら立ち上がる。
「どこの熊だよ、俺達は。ちなみに、熊に死んだ振りは逆効果なんだ」
男は肩にかかった誇りを手で払いながら、一刀の話を聞いていた。
「成程・・・、君はすでに実践済みだったね」
「何の話・・・?」
華琳は訝しそうに一刀の顔を見る。
「こっちの事、こっちの事」
そう言って、一刀は何でも無いと流すと、我先に男に仕掛けていった。刃の刀身に力を流し込みながら男へと
駆けて行く。
「はっ!」
ブゥオンッ!!!
青白く輝く刀身を横に薙ぎ払う。
ガッゴォォオオオッ!!!
男は大剣で受け止める。剣と剣がぶつかった瞬間、青白い炎が発し、火の粉なって拡散する。
「甘いっ!」
「ッ!?」
ドガァッ!!!
一刀の腹部に直蹴りが叩きこまれ、一刀は後ろへとたじろぐ。体勢を崩した一刀に追い打ちを掛けようとした
男であったが、そこにそうさせまいと左慈が一刀と入れ違いに仕掛けて来る。
ブワァアッ!!!
男に放たれた左慈の横回し蹴り。しかし男は上半身仰け反らせ、その蹴りの軌道の下を潜り込んでいく。
そして男が上半身を戻すと、今度は華琳が絶を振り上げた体勢で仕掛ける。
ブゥオンッ!!!
ガギィイイイッ!!!
だが、その不意を狙った一撃も男は受け止める。絶と大剣の刃がぶつかる音が響き渡る。そして男は華琳が
その瞬間、不敵に笑っていた事に気づく。
「?」
それを見た男は眉をひそめながらも、絶を弾き返そうと大剣に力を込めた瞬間。
ブゥオンッ!!!
「ッ!?」
青白い残像が男の腹部に入り込む。男は華琳の攻撃を受け止めていたため、その残像の動きに対処
する事が出来なかった。そして残像はそのまま男の腹部を引き裂いた。
「ぐぅううううううぅぅぅ―――ッ!!!」
華琳の絶を跳ね返すとほぼ同時に後方へと平行移動する男。両足でその勢いを削り、数メートル下がった所で
止まる。引き裂かれた腹部から、青い炎が燃え上がり、全身へと移りつつあった。
「・・・っと」
男に絶を跳ね返され、浮だった体勢を整える華琳。そして、男がいた場所には、足を大きく広げ、前屈みに
なった体勢で青白く輝く刃を振り切った一刀が立っていた。
ガギィ―――ッ!!
一方、男の方は大剣を杖代わりにしながらも、片膝ついた状態。青い炎が今にも全身に燃え広がろうとしていた。
「・・・、どうやら少し舐めて掛かっていたようだ・・・」
「・・・っ?」
男の様子がおかしい事に気づく一刀。
「・・・なら、僕も・・・、本気を出すべきだよね?」
そう言うと、男は大剣を支えにして立ち上がった。
「ふぅ―――ッッッ!!!」
ブワァ――――――ッ!!!!!!
男が腹の底から吐き出すような大声を発した瞬間、その体から黒い蒸気が大量に発散された。男の体を
燃やしていた炎はその蒸気によっていとも簡単に掻き消される。
「くっ・・・!」
「なぁ・・・!」
「ちぃ・・・!」
男の体から発散されたその黒い蒸気の禍々しい感覚・・・怒り、憎しみ、悲しみ、恨み、嫉妬、絶望、
劣等感・・・人が抱く負の感情を全身で感じ取り、三人は思わず顔を手で隠し、たじろいでしまう。そんな
三人を気に掛ける訳も無く、黒い蒸気は次第に男を中心に渦巻き始める。
「今まで集めてきた、この負の感情・・・。果たして、どれ程のものになるのだろう?」
黒く大きく渦巻くその中から、男の声が聞こえて来る。一刀はこの時、全身に強烈な悪寒、震えに襲われる。
ブワァアアアアアア――――――ッ!!!
黒い蒸気は次第に男へと再び取り込まれていき、その度に男の全身が黒く凝縮していくのが分かる。そして
全てが取り込まれると、男の周囲には黒く濁った霞が立ち込めていた・・・。
「ふんっ!」
鼻を鳴らし腕を一振りする。霞は掻き消され、その衝撃は空気を伝って周囲広く伝導する。
一刀達もその衝撃を肌でしっかりと感じる。腕を振り回しただけでのこの衝撃・・・、男は一体どうなったのか
と男の姿をその目で捉える。
全身から黒いオーラのようなモノを発し、白装束から黒い、一刀が身に纏っている学生服にも似ているが、
その丈は膝下にまで達し、腰の辺りで四枚に開いている服を羽織っている・・・。その身を完全に黒く染め
上げたその姿で、男はまるで別人の様な雰囲気を醸し出しながら立っていた。
「あれが・・・、負の感情を具現化した姿・・・」
一刀の驚愕に顔を染め、額を汗が流れる・・・。
「何て禍々しい姿だ。悪魔・・・、魔王とでも形象するべきだろうか?」
外見自体は変わっていないも、その異常なまでの禍々しさに、左慈は反吐が出そうな顔で男を見ていた。
一方・・・。
「あの姿・・・あの雰囲気・・・、まるで・・・人の悪い部分だけが表に露わになって・・・」
戦闘の最中、男の姿と雰囲気に当てられた凪はぶるぶると寒そうに震え、両腕を掴みながらその場にしゃがみ
こんでしまう。
「っ!凪、何しとるん!?」
「凪ちゃん!しっかりして!」
近くにいた真桜と沙和は凪の異変に気付き、側に駆け寄る。
「二人とも!!ここはうちに任せて、凪を何とかしぃや!!」
三人に襲いかかって来る傀儡兵達を撥ね退けながら、霞は二人に凪を任せる。
「恩に着るで、姐さん!」
「凪ちゃん!!・・・凪ちゃん!!」
「・・・・・・」
二人の励ましにも、凪は動じようとはせず、ただその身を震わせるだけであった・・・。
姿を変えた男の前に再びあの大剣が現れる。そして剣は中心から左右に分裂、片刃の二本の剣に姿を変え、
男は片刃の剣を両手に携え、身が構える。
ブワァア―――ッ!!!
ドガァアアアッ!!!
「きゃあああ―――ッ!!!」
それは一瞬、数秒間というわずかな時間が飛んだ様な錯覚。一刀と左慈でも男の動きを知覚する事が出来ず、
気付いた時には、華琳は男の斬撃を喰らい、その体は宙へと吹き飛ばされていた。
「華琳っ!!・・・ッ!?」
ガギィイイイッ!!!
ガゴォオオオッ!!!
ガッゴォオオオッ!!!
華琳の身を案じ、後を追いかけようとする一刀に容赦なく斬撃が襲いかかる。一刀はその速い攻撃に対して
受けに徹する事しか出来ない。そのため、一刀は男の斬撃の動きに気を持っていかれていた。
ドガァアアアッ!!!
「ぐぁッ!?」
そのため、男の膝蹴りに気づくのが遅れ、男の膝は鳩尾に深くめり込み、一刀は急激な嘔吐感に襲われる。
ドガァアアアッ!!!
嘔吐感から上半身が前のめりになる一刀の顔面を男は追い打ちと言わんばかりに蹴り上げる。一刀の体は大きく
仰け反り、宙に浮き上がる。
「でやぁあッ!!」
左慈は男の背後から攻撃を仕掛けに行く。
ザシュゥッ!!!
「うわぁあッ!!」
宙に浮き上がったその体に男の放った横薙ぎの斬撃を喰らい、一刀は薙ぎ払われてしまう。
ブワァアッ!!!
ガシィイッ!!!
「・・・!?」
男に蹴撃を放った左慈。だがその一撃は男の剣で払い除けられ、逆に左慈は男の突きを受ける。
ブゥオンッ!!!
ザシュッ!!!
「がぁあああッ!!」
切っ先を立て、放たれた突きを胸で受け止める左慈。無双玉の力で体が刺し貫かれる事は無かったが、白装束
は突きの衝撃で破け、その体は後方へと弾き飛ばされる。
バッゴォオオオッ!!!
弾き飛ばされた左慈。その先に立っていた一本の柱に激突する。激突の衝撃は反対側へまで貫き、柱に横に
向かって一本のひびが入る。
ゴォォォオオオ・・・ッ!!!
そして柱は折れ、ゆっくりと気を失っている左慈の上へと倒れていく。
「左慈っ!」
干吉は普段の冷静さを欠いた顔で左慈の元へと急いで向かう。
ゴオオオオオオッ―――!!!
そして完全に横倒れになる柱を中心に倒れた際に生じた衝撃が周囲広くに伝わっていった。
「おい、凪!大丈夫かいなぁ・・・!」
「凪ちゃん・・・」
一方、戦意喪失した凪を抱え、戦闘域から離脱した真桜と沙和。二人はとりあえず凪を柱にもたれかけさせる。
凪はずっとぶるぶると体を震わせ、うずくまったまま・・・。二人もここまで怯える凪を見た事が無く、内心動揺
していた。この時、凪は男の体から発していた気、つまりは負の感情を誰よりも強く感じ、怖気づいてしまって
いた・・・。沙和はそんな凪の頭を撫で、抱き込む様にして介抱し続ける。真桜は一刻も早く戦闘に戻りたかっ
たが、凪の事が心許無く、その場から離れ様にも離れる事が出来なかった。
「華琳、ここで待っていてくれ・・・」
一刀は男によって吹き飛ばされ、気を失っている華琳を見つけると、近くの柱に持たれかけさせる。
華琳の口元から流れた血の跡を親指で拭うと、一刀は立ち上がる。
「うぅ・・・ッ!?」
その瞬間、一刀に急激な立ちくらみと胸を締め付ける痛みが襲う。
バッゴォオオオッ!!!
「ッ?!」
背後から聞こえて来る轟音。振り返ると、一本の柱が横倒れようとしていた。一刀は左慈がやられたのかと
瞬間的に予感した・・・。
「・・・・・・!」
一刀は全神経を視覚・聴覚に集中させ、男の姿を探す。左慈がやられたのならば、次はこっちを狙ってくる。
そう思った一刀は周囲に男の気配を探す。
「・・・!」
意外と簡単に見つかった。男は殺気を隠すつもりがさらさら無く、一刀の真上にその姿を現す。
ブゥオンッ!!!
「くッ!」
頭上から振り下ろされた男の斬撃。一刀は地面を蹴ってその場所から離れる。男の振り下ろした剣は空を切り、
地面は引き裂かれる。だが、男が刺さった剣を抜き取ると、地面は何事も無かったかのように元に戻る。
ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!
そして再び攻撃に転じる男。一刀は周囲に乱立する柱を上手く利用して、男の攻撃を掻い潜って行く。
男の斬撃を一刀は柱を盾にする事で、更にそこから男の横へと飛び出していく。
「はぁッ!!」
ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!
ガッギィイ!!!ガッゴォオ!!!
「おりゃッ!」
ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!
ガゴォオオッ!!!ガギィイイッ!!!
剣と剣とがぶつかる度に青白い火花が散る。しかし、力で負けてしまい、一刀は背後に柱を背負う形になる。
ブゥオンッ!!!
男は一刀に斬撃を放つ。一刀はその斬撃の下を掻い潜り、回避する。
バッゴォオオオッ!!!
男の放った斬撃は一刀の背後に立っていた柱を斬り、またも柱が横倒れする。斬撃を回避し、受け身を取ると
一刀は左拳に力を集中させる。
「(時間はもう無い!ここは一気に決める・・・!!)」
そして一刀の拳が青白い光に包み込まれていく。男は一刀の方に体を向けようした・・・。
「おりゃぁああああああっ!!!」
一刀は男に向かって、渾身の一撃を放った。
ガシィイイイッ!!!
「くッ!ぐぅう・・・・!!!」
一刀の左拳は男の右手によって受け止められる。その右手で抑え込まれ、拳から放たれるはずの光が
外へと拡散出来ず、右手の中で行き場を無くしていた。
「ぅうう・・・!!ぐ、ぉぉおおお・・・!!」
一刀は左拳に右手を乗せ、強引に押し込み続ける。だが、片手で受け止める男は動じない。
「・・・・・・」
男は何を考えたのか、左手に持っていた二本の剣を地面に突き刺すと、ぎゅっと左手を握り締める。
すると、次第にその左拳が黒い光に包みこまれていく。そして拳を開き、そのまま右手に軽く添えた。
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
「うわぁあああああああああ―――ッ!!!」
男の右手から混沌とした漆黒に塗り潰された光が放たれる。一刀の青白い光は掻き消され、一刀自身はその
光の中に包み込まれ、光の進む方向へと流されていく。
「が・・・、ご・・・、なぁ・・・!」
黒い光が中心へと収束し、消えるとそこには一刀だけが残った・・・。彼の白い学生服はボロボロに破け、
黒く汚れていた。体の所々から黒い煙が上がり、虫の息となって仰向けに倒れていた。そして何より、同化が
ついに顔左半分にまで達し、その影響か・・・左目の白い部分が赤くなっていた。
「大したものだ。まだしぶとく生きているようだね・・・」
一刀の元に男が歩いて近づいて来ると、仰向けに倒れる一刀を見下ろす。
「けれど一刀、そんな君には感謝しなくてはいけない。僕の思惑通りに動いてくれたのだからね」
「思惑・・・だと?」
「君をこの外史に再び降り立たせたのは君自身がこの外史のプロットを僕の都合の良い様に引き立てて
くれるからだ。君の存在は外史に戦いを巻き起こす、言わば・・・物語の引き立て役。戦いが起これば、
僕は負の感情を搾取する事が出来る。そのために、祝融達をこの外史に送り込み、負の感情を搾取させた」
「・・・そのために、そのためだけに・・・俺をこの外史に戻した・・・」
「考えてもみろ。君を殺す・・・ただそれだけなら、あの場で殺せば済む事。全く、君と言う奴は
本当にいい感じに僕の思惑通りに引き立て役という役割を演じてくれたわけだ」
「俺が戦いを引き起こしたって・・・がはぁ!」
一刀が話し切る前に、男が一刀の胸を踏みつける。
「君がでは無く、君自身がだよ。君がこの外史にいるだけでこの外史のプロットは自動的に戦いが起きやすい
環境に調整される・・・。この外史はそう出来ているんだよ。君の意志とは別にね。それが済めば君は用済み
・・・。君の存在は僕達には邪魔なもの以外の何物でもないからね。だが、南華老仙がそれを邪魔してくれた
おかげで、結果としては今に至ってしまった」
「く、くそ・・・!」
自分の胸を踏みつける男の足を取って掴み取りながら、一刀は男を睨みつける。
「しかし、君はその役割以上の事をやってのけてしまった。結果、僕は君達によって手足を失ってしまった
が、彼等の消滅も無駄ではなかった。女渦の消滅は結果としてもう一人の君を完全に消滅させ、伏義と祝融
の消滅は結果として君が力を浪費させ、その命を大きく削らせ、そして今に至る・・・肉を切り、骨を断つ
とは良く言ったものだ」
「・・・・・・」
「とはいえ、その一方で僕は君を高く評価している。その得体のしれない力に振り回されながらも、それでも
その力を以て、伏義と祝融を倒してしまったのだから。そんなイレギュラーな君を・・・このまま消滅させて
しまうのも、少し惜しい気がする」
「何が・・・言いたい?」
含みのある言葉に隠された男の意図が汲み取れず、一刀は問いただす。
「つまり、君と交渉しようと思う。君が望めば、君は自分にとってとてもとても都合の良い世界を
自分の手で創り出す事が出来るんだ。この銅鏡を使えばね・・・」
そう言って、男の掌を広げる。するとそこから銅鏡が現れる。
「それは・・・その銅鏡は・・・!」
「この銅鏡を使えば、君はこの外史の情報を使ってまた新たに外史を作りだす事が出来る。正史の人間の
想念の一切の干渉も無い。本当の意味で君だけの世界を創る事が出来る。こんな外史なんかよりももっと
素晴らしい世界がね」
「この外史よりも・・・」
「その通り。例えば、華琳や春蘭達だけではない・・・桃香や愛紗・・・、雪蓮や蓮華、全ての女の子に
囲まれた・・・、まさにハーレム!な世界だって可能だ。僕はそんな外史が実際に見た事がある。その
外史の君は本当に幸せそうだったよ・・・」
「・・・・・・確かに。それは本当に幸せそうだな」
「だろう、ならば君もそうすれば良い。この銅鏡を手に取り、そう強く望めばね・・・」
そして男は一刀から足を退ける。
「そうか・・・、なら・・・」
一刀はふらつきながらも、二本の足で立ち上がる。男は一刀に銅鏡をさし渡すと、一刀はその銅鏡に手を伸ば
していく。男はそんな一刀を不敵な笑みを零しながら見ている。だが、銅鏡を手に取ろうとする寸前で一刀の手
が止まり、男はどうしたのかと眉を潜める。そして一刀は銅鏡を手の甲で横に払い除けた。
「な・・・っ!?」
一刀に払い除けられた銅鏡は男の手から離れ、そのまま地面へと落ちていく。
バリィ―――ンッ!!!
そして銅鏡の鏡が粉々に砕け散る。今回はそこから光が拡散せず、その場に破片が散らばる。
「こんなものは必要・・・ない」
一刀の思わぬ行動に唖然としていた男は一刀の声に反応し、一刀を見た。
「俺が今まで戦ってきたのは、そんな・・・自分にとって都合の良い世界を創造するためなんかじゃない!
俺は、この世界を守るために戦って来たんだ!!都合が悪くても、皆がいる・・・この外史を守るために!!
そんな上辺だけの世界なんて・・・、俺は望まない!」
一刀は自分の思いを男にそう言い放つ。
「・・・・・・」
バゴォオオオッ!!!
「がぁ・・ッ!!」
だが、一刀は男に顔を殴られ、再び倒れる。
「交渉決裂・・・。一刀、君は僕が思った以上につまらない存在の様だ」
「つまらなくて結構。これでも俺は・・・この世界に愛着があるんだよ」
「なら・・・死ね!」
そう言って、男は剣を手に取る。
「させるか!!」
ブワァアッ!!!
「ッ!?」
ドゴォオッ!!!
左慈の突然の介入に男は咄嗟に腕でその蹴撃を受け止めるも、咄嗟の行動であったため、男は蹴り飛ばされる。
そして左慈は一刀の横に立つ。
「左慈、助かった・・・」
「さっきも言ったはずだ、お前は俺が殺すとな・・・。勘違いするな」
何だこのツンデレは・・・。一刀は心の中で呟いた。
「何を笑っている・・・?」
「何でも無い・・・、さぁ行くぞ!」
「無論だ」
そして二人は男へと立ち向かって行く。外史の削除完了まで、あと残り僅かとなっていた・・・。
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メリークリスマス!!アンドレカンドレです。
きょうはクリスマスイブでこの日に投稿で来てよかった。
さていよいよ今回から第二十六章=最終章です。
後編のほうも大体が書き終わっているので、今週中には投稿できるかも・・・(予定では)。さて、物語はついにクライマックス!一刀君達は外史喰らいの野望を阻止する事が出来るのか!?
では、真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十六章~繰り返される突端と終端・前編~をどうぞ!!
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